「クソ! またこれか!」
再びワイバーンに騎乗する竜騎士だけが死ぬ攻撃が行われる。
散開しているため、攻撃の間隔は先程よりかは遅く感じるものの、このままでは敵船に近付く前に全滅は必至であった。
それだけでなく、味方船に巨大な貫通孔を開けた攻撃も行われているのか、敵船から見て体が重なったワイバーンは纏めて、見えない何かに
こんな魔導兵器は聞いたことがない!
我々は古の魔法帝国か、それ以上の敵と戦っているのではないか?!
「…副隊長、ここにいる竜騎士に魔法を使えるやつはいるか?」
隊長は何かを思いついたようだ。
「いますね。私を含めて片手で数えられるほどですが」
「では全魔法使いに告ぐ、各騎の前方に蜃気楼を発生させる準備をしろ。これから作戦を伝える」
彼らが長年海を哨戒し続けた経験を活かし、独自に編み出した魔法。
アグラメウスの計画の成否は彼らに託された。
護衛艦『みょうこう』艦内 CIC
「艦長、敵ワイバーン群が引き返していきます」
「ようやく撤退したか…。攻撃や…め?」
刹那、海原艦長は何か違和感を感じた。
人間の目ではなく、『ネズミイルカ』の鋭い聴覚が彼に警告を発しているのだった。
なんだ…?
…まあいいか
「すみません、間違えました。何匹かはこちらに向かって来ます。
「…様子を見る。レーザー砲で迎撃せよ」
「了解」
命令通りにレーザー砲が目標へと向けられる。
しかし画面には撃墜を意味する✕が表示されず、目標は尚も向かってくる。
「ん?」
「あれ?」
「…外したのか? 珍しいこともあるもんだ。再度迎撃せよ」
しかし状況は変わらなかった。
「艦長! なんかこれおかしいですよ?!」
今までは1回のレーザー発射でワイバーンが落ちて行った。だが、今回は何かがおかしい。
攻撃をしても堕ちないという無敵の目標が現れたため、CIC内は緊張に包まれた。
「主砲だ! レールガンを撃て!」
「全機構問題なく作動! レールガン撃ちます!」
状況は未だ変わらない。
「ならば『
「了解、準備でき次第攻撃します」
CICにいる全て乗員の顔に焦燥の色が浮かぶ。
この世界に魔法があるのは知っていたが、もし手の付けようのない魔法があったらどうしようという不安の表れであった。
「…敵の撃墜を確認。どうやら位置情報がおかしかったようです」
撃墜の報を受け、一同の顔が明るくなる。
とりあえずの危機は去ったのだ。
「位置情報だと?」
「はい、攻撃後に敵の位置が僅かに変わったのです。ほら、見てください。微妙に位置が違うでしょう?」
確かに、画面を比較してみると表示されていた位置と撃墜された場所が微妙に違うことに気付く。
敵は何らかの手段を使って、レーダーを騙したのだ。
しかし、いったいどうやって…?
「……蜃気楼か!」
レーダーは対象に向けて電波を発射し、その反射波を測定することにより、対象物までの距離や方向を測る装置だ。しかしこれにも弱点はあり、電波を反射しにくい物体や、蜃気楼などが起こると途端にポンコツとなる。
ただのワイバーンがステルス機能や電波妨害機能を持っているとは考えにくく、必然的に人為的な
これなら、レーダー照準+完璧に計算された弾道計算で飛来する砲弾も避けることが出来るはずだ。
「CIWSを手動操作にして、目標の周りにばら撒いてみてくれ。ある程度は誤差の検討がつくはずだ」
そして彼は続ける。
「それと、蜃気楼を発生させれば回避率が上がるという情報をこれ以上知られたくない。敵には魔力通信という物があるはずだ。すでに報告されているかもしれないが後方で待機しているワイバーンの殲滅を急げ」
「了解! 全艦に伝達、対空ミサイルの発射急げ!」
「飛行可能なものも全員上がれ! 何としてでも通信を阻止しろ!」
「通信妨害も試せ! 何が何でも通信をさせるな!」
CIC内はにわかに騒がしくなり、『みょうこう』の後方で待機している艦も騒然とした。
「隊長…! 成功しましたね! 後はこれを本国に伝えれば、後の対日本戦に大いに役立てられるはずです!」
「そうだな、だが俺達の魔信機ではここから本国へは届かない。何人か撤退させよ…」
彼が言い終わるや否や、誰かが叫んだ。
「隊長! 敵船から煙が上がっています!」
「あの光の矢は何だッ?!」
敵の大型船から次々と煙が上がり、何かが光の尾を引きながらロウリア艦隊の上空を通過してくる。
「…未知の攻撃をしてくる敵だ!こけおどしとは思えない!全騎回避行動をとれ!」
彼が叫んだ瞬間、前方で隊列を組んでいたワイバーンが轟音とともに爆炎に飲み込まれる。
先程の虫とは比較にならない大きさの黒い華が咲き乱れ、仲間の残骸が大小様々な肉塊となって海へと落ちて行った。
「…クソッ! 誘導魔光弾か?!」
それはまるで、話に伝え聞く『古の魔法帝国』の兵器のようだった。
ある者は避ける間もなく撃墜され、またある者は類まれなる動体視力をもって回避行動を取ったが、光の矢に狙われた全員に等しく死が訪れる。
高威力の爆炎は周囲の味方をも飲み込み、広範囲に撒き散らされる破片がワイバーンの翼を引き裂いた。
「隊長! 低空より何かが来ます!」
「はあ?!」
まさか敵のワイバーンか?! とも思ったが、目で見る限り、ワイバーン大の影はない。
いや、人間大の何かが迫ってきている…?!
「何だこいつは──」
突然、視界が真っ逆さまになる。体の感覚はなく、貧血を起こしたような感じだ。
「敵将の殺害完了、これより後方の敵への攻撃を開始します」
薄れていく意識の中で彼が最後に見たのは、刀のような武器を持った、4本の羽が生えた人間だった。
ロウリア王国軍飛竜隊隊長アグラメウスは頭部を切断され、永遠に気を失った。
『
トンボ目オニヤンマ科に分類される日本最大、そして日本原産のトンボである。
その特徴は何と言ってもやはり、虫の中では「空の王者」と呼ばれるほど強く、『オオスズメバチ』をも捕らえて捕食してしまう事だ。
「なんだこいつら?! 魔人か?!」
「敵船から飛んできているようだ! 数は少ない! 応戦しろ!」
Q.全ての生物の大きさを同じにして戦わせた場合、最強はどれか?
A.様々な条件によってこの疑問の答えは変わってくるが、最有力候補によく上がってくるのは、
しかし陸で勝てなくとも、空戦では唯一無二の最強がいる。
「包囲して一斉に導力火炎弾を──」
「よし! 背後を取ったぞ! 火炎弾をくら──」
トンボだ。
複眼があるため死角はほぼ皆無であり、動体視力も非常に高く、人間の造る物では再現が不可能な異常な空戦能力を持つ怪物である。
急停止、急加速、バック、ホバリングと無限の飛行能力を誇る彼らに、鈍足で前方にしか飛べないワイバーンが勝つなど不可能。
何より忘れてはならないのは…
『こいつら連携を取ってくるぞ! 気を付けろ!』
先程とはまた別種の地獄が大空に出現し、竜騎士が乱れ飛ぶ。1太刀でワイバーンの翼が切断され、海面に次々と水の柱が上がった。
『ダメだ! 勝t──』
彼らは一律化され、訓練された軍隊であることだ。
護衛艦『みょこう』のCIC
「戦闘員より連絡、『戦闘可能なワイバーンは全滅』との事です。現在、人間が乗ったワイバーンは確認されていません」
その吉報を聞き、とりあえず危機が去ったことに全員が安堵した。
「さて、いよいよ大詰めだ。敵艦隊の迎撃を行おう」
勝って兜の緒を締めよ。
海原艦長は、帽子を被り直した。
「…………………」
静寂が大海原を支配する。
誰もが目の前で起きたことを信じられず、誰1人として声が出せずにいた。
ワイバーンは1騎落とすだけでも、文明圏外の船にとっては至難の技。それをあの船は、恐らく単艦で500騎全てを撃墜したのだ。
しかも、その後方から似たような船が6隻も出現したのだ。
夢ならば、どれほど良かったでしょう。
敵の圧倒的な強さを前に、シャークンの足はガクガクと震え始める。1番近い敵船までの距離は約3kmだが、どうやってもその3kmの壁を生きて越えられる気がしない。
しかし、ここで本国に帰っては死刑は免れられない。帰ったら無能の提督の烙印を押され、末代までの恥となってしまうだろう。
何よりギムの大虐殺を行ったロウリア人を、敵が許してくれるとは思えなかった。
「全船に伝達、これより敵船に突撃し、移乗攻撃を行う」
しかし、結果は火を見るより明らかだった。
前方の帆船は見えない力によって帆を焼かれ、移動不能となった船体は後方の船の障壁となる。
オールを出して船を漕ごうにも、魔人のような敵兵が船を占拠しているため、艦隊は一向に前に進まない。
敵兵の占拠した船を奪い返そうと移乗攻撃を行うも、これまた失敗。ワイバーンを倒したと思しき敵の魔人は陸でも異常に強いのだ。
「ちくしょう! 化け物どもめ、あんなのに勝てるわけがねえ!」
マストに延焼した炎は船体にも燃え広がり、半ばパニックとなった船員達の消火作業はおぼつかない。
死傷者数は増える一方だった。
しばらくすると敵も趣向を変えたのか、船の占拠を辞め、その砲口をこちらへと向ける。
1隻、また1隻と信じられない速度で船が海中に引きずり込まれ、船の残骸が波間に漂う。
「……だめか」
海将シャークンは迷った末に、全艦に撤退命令を下す。
ロデニウス大陸の歴史上最大の大艦隊の3分の1以上を失っての大潰走であった。