日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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なかなか筆が進まないのと、キリが良いので60話は短くなってしまいました。
近いうちに61話も投稿するつもりです。


60話:地獄の釜が蓋を開く

 後世の人々は誰もが口を揃えて言う。

 アルーでの防衛戦はムーにとって最良の日だったと。

 列強である我がムーの栄光の太陽が再び登り始めたようだった…と。

 

 しかし歴史の書を紐解くと、当初アルーを防衛するムー陸軍は覆しようのないほど絶望的な劣勢状態だったと記されている。

 

 どのようにして彼らは死の淵から這い上がってきたのか。

 あれほど優勢だった帝国軍はどのようにして全滅したのか。

 

 その日、戦場で何があったのかは定かではない。

 

 ただ一つだけ確かなのは、ムー陸軍は途方もない数の代償を支払い、アルーの街を侵略者の魔の手から退けたということだ。

 ムー建国以来の長い歴史を俯瞰しても、未曾有と言える犠牲者の数は新聞の一面に大きく取り沙汰され、一部では陸軍は悪魔と契約したのではないかとも噂された。

 

 血と臓物の雨に打たれ、泥濘の(その)を這いつくばった兵士はあの日の事を多くは語らない。

 しかし、あの戦場で生き延びた兵士は口を揃えてこう言う。

「あの日のアルーは地獄そのものだった」と。

 

 これから放送される映像は、あの激戦を生き残ったとあるムー兵士に対して行われた貴重なインタビュー記録である。

 

 



 

 

「これよりインタビューを始めます。まずは今回の取材を快諾してくれたR氏へ感謝の念を表明すると共に、戦場で亡くなった大勢の兵士達、民間人、敵味方を問わずご冥福をお祈り申し上げます」

 

 椅子に座ったままインタビュアーは長い黙祷を捧げる。

 対面に座るR氏は包帯の巻かれた腕が痛むらしく、顔をしかめていた。

 

「では早速ですが本題に入りましょう。R氏、単刀直入にお聞きしますが、あの日……アルーの街では何があったのでしょうか?」

 

 R氏は表情を変えずに沈黙する。

 

「…軍機により答えられない事があるようですね、これは失礼しました。事の経緯を私に教えてもらえますか?」

 

 R氏はゆっくりと口を開く。

 

「最初…俺がアルーに着いた時には、すでに町は廃墟になっていた…。砲声と銃の発砲音がうるさくて…血の臭いが酷かった…! どこもかしこも味方の死体だらけで、中には一般人のもあった…」

 

 R氏は続ける。

 

「俺はしばらく町を歩いていたんだ。そしたら帝国軍の砲撃が始まって…俺はすぐに近くの壕に飛び込んだんだ…! 

隣を歩いていたはずの戦友の姿が見当たらないなと思ったら……あいつはその時点で死んでいたんだ…」

 

「それはお気の毒に…。貴方が助かったのはすぐに塹壕に飛び込んだからでしょうか?」

 

「それもあるけど…俺が助かったのは単純に運だ。そのすぐ後に帝国軍の航空攻撃が始まったが、壕に避難してても死んだやつは大勢いる」

 

「砲撃の直後に敵の飛行機械による攻撃があったのですか?」

 

「そうだ、砲撃後に航空攻撃が来るのは毎度のことで、俺たち兵士には定期便って呼ばれていた。毎回味方が大勢死んで、どこかしらの味方陣地が突破される悪魔の定期便だったけどね…」

 

 怯えたような表情でR氏は(あざけ)る。

 腕の怪我は戦闘後に初めて気が付いたらしく、いつ負傷したのかは本人でさえ分からないと言う。

 

「航空攻撃が来ると言うことは、制空権は敵の手中にあったと言うことですね?」

 

「そうだ、敵の飛行機械は恐ろしく強かった。数では勝っていたはずのマリンがバタバタと落とされるんだ」

 

 墜落したマリンに押し潰された味方もいる、と彼は付け加えた。

 

「そのような状況からよくムー軍が逆転できましたね? 貴方の話を聞く限り、ムーに勝ち目はなさそうですが…」

 

 R氏は何も言わない。

 

「…失礼しました。ムー陸軍はどのようにして帝国の魔の手を退けたのでしょうか?」

 

 R氏は黙ったまま、何も言わない。

 それを見かねたインタビュアーはしばらくしてから、ある1枚の写真を拡大した画像を取り出してカメラに見せた。

 

「…こちらは『アルーの町防衛戦』で反攻に出たムー軍がグラ・バルカス帝国の野戦軍を壊滅させ、陣地を占領した後の写真を見やすく拡大したものです。R氏、これに見覚えは?」

 

 それはグラ・バルカス軍の陣地であった場所に存在する高台に、ムー国旗を突き刺している()()と、その周りで歓喜するムー軍人らの姿を写した写真であった。

 

 R氏は黙ったまま、ゆっくりと頷いた。

 彼はまさにその現場にいた張本人なのだから。

 

 インタビュアーはR氏が頷いたのを見ると、今度はカメラに向かって話しかける。

 

「皆様、この人物の付近をよく見てください。旗を突き刺している人間の顔と服を隠すように画像の乱れが入っております。そのせいでこれが誰なのか我々には判別できません。

私にはこれが意図的なものに見えますが、現場にいたR氏はこの人物が誰かお分かりですか?」

 

 R氏は再び沈黙する。

 インタビュアーは核心に迫るように問いただした。

 

「公には出来ない何かが隠されているのですね?」

 

 R氏は沈黙を維持したまま、目を逸らした。

 そしてR氏が再び口を開いたのは、インタビュアーがしばらくカメラに向かって話し続けた後だった。

 

「お前らに何がわかるんだ…!」

 

 R氏は立ち上がる。

 その表情は半ば錯乱しているようにも見え、何かを察したスタッフが駆け付ける。

 

「あの戦場には! お前らには絶対理解できないものがあるのだッ! 何も知らない癖によくもベラベラと!」

 

 テープはここで終了する。

 

 



 

 

 国境からほど近く、平野が多い高原のやや小高い丘に作られた町アルーは現在、大勢の軍人によって人口が飽和状態と化していた。

 張り巡らされた塹壕や無数の機関銃陣地によって町は無機的な色合いへと様変わりし、薪の代わりに戦闘物資の詰まった木箱が至る所に散乱している。

 一挙に押し寄せた人の波は未だ留まるところを知らず、逃げ遅れた一般人の避難は時間が進むごとに困難さを増していた。

 

 それでも市民が不平不満を言わないのは、列強である祖国の軍隊に絶対の信頼を寄せていたからであろう。

 ムーが建国されて以来、この地を守ってきた彼らならグラ・バルカス帝国の脅威も何とかしてくれるだろうと、どこか甘く考えていたのである。

 いつ帝国軍の侵攻が始まるかもわからない不安な状況で、彼らは祖国の力を信じ、心の拠り所としていたのだ。

 

 ────ヒュルルルル…………

 

 ムー時間午前5時15分35秒、まだ太陽が東の低い位置にある明け方。

 降り注ぐ砲弾の爆発に端を発するようにグラ・バルカス帝国軍の侵攻作戦が開始された。

 

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