ムー王立新聞【戦時版】
中央暦1643年6月7日
勇猛果敢なる我が軍を前にグ帝敗走!
敵軍為す術もなく全滅
[祖国を讃えよ]
昨日、中央暦1643年6月6日の日没後、ムー軍広報官が正式に、精強なるムー陸軍がアルーの土地を侵略者の魔の手から守り抜いたと発表した。
この戦闘の勝利を受け、敬愛する国王陛下は「大いに喜ばしいことだ。兵らの奮闘で祖国の地が守られた。彼らに最大級の賞賛を送る」と述べられた。
なお、この戦闘に際して、友好国を助けんと駆け付けた数十人程度の国際義勇軍も戦闘に参加しており、陸軍元帥は彼らの勇敢な行動に感謝の意を表明している。
戦闘が開始されたのは中央暦6月2日の明け方頃、卑劣なるグ帝軍からの奇襲砲撃で、我が軍は中程度の被害を被った所から戦闘が始まった。
しかし優秀なるムー陸軍第5軍団、【検閲済み】はすぐさま体勢を立て直し、反撃を開始した。我が軍の持ち直しの早さに、グ帝軍は急に大砲を後ろ向きにして射った程の驚き方であった。
だが敵国も精鋭を送ってきたらしく、動揺したのも束の間、すぐさま我が軍の動きに順応した作戦を取り、「戦車」という秘密兵器で暫くはムー軍を圧倒した。
こうして戦線は一進一退の膠着状態に陥り、時にはアルー近郊まで敵部隊が迫ったものの、友軍を助けんと駆け付けた第32軍団、【検閲済み】【検閲済み】【検閲済み】により膠着状態は解消され、最終的には動員された予備役軍団の活躍と少数の国際義勇軍の協力により、アルーの地から侵略者が一掃された。
戦闘終結後、アルーの防衛を担っていたムー陸軍は進撃を続け、元ヒノマワリ王国領内に存在するグラ・バルカス帝国のバルクルス基地まで数キロの所まで歩を進める事に成功した。
我が軍の快進撃に愚グ帝軍は萎縮したのか、現時点ではムー国とグ帝間の戦闘は発生しておらず、ムー陸軍は「勝って兜の緒を締めよ」と言わんばかりの慎重な姿勢を見せている。
この戦闘で発生した死傷者の数は現在公表されていないが、國民軍は敵側の1個軍団を返り討ちにし、これを全滅するまでに至ったため、この戦闘の結果が敵に与えた影響は少なくないと我が社は見ている。
オタハイト沖で敵艦隊を返り討ちに!
新たな漁礁が出来たと漁師大喜び
[無名の大英雄]
アルーからの吉報を公に発表した数分後、軍広報官は、今年2月初旬に起きたバルチスタ沖での悲惨な海戦とほぼ同時刻に、我が国の首都オタハイトと、経済都市マイカルの両東岸沖でもムー海軍とグ帝海軍間の海戦が起こっていた事を明らかにした。
記者の「なぜ海戦から数ヶ月経った今頃になってようやく発表したのか」という質問に対し、広報官は「国民がパニックにならないようにするため」と発表を控えていた理由を明らかにした。
オタハイト沖の海戦には、旗艦『ラ・ゲージ』からなるムレス艦隊司令の首都防衛艦隊と、世界会議の海戦で損害を被ったものの、改修を受けて帰って来た『ラ・カサミ改』(艦長ミニラル)、そしてムー空軍機316機が出撃したと公表されている。
結果的にオタハイトとマイカルは無事だったものの、この海戦ではムーとグ帝の両陣営に甚大な被害が出たとも発表された。オタハイト防衛艦隊と敵艦隊は全滅し、海戦終結後には大破した『ラ・カサミ改』だけが洋上に浮かんでいたという。
なお、改修を受けた『ラ・カサミ改』は多数の新兵器を搭載しており、その強力な対空対艦攻撃力により、単艦で敵艦隊の大多数を撃沈するという海戦史における金字塔を打ち立てたと言われている。
また、この二つの戦闘に勝利したことにより世論は一気に高揚した。国王陛下は「これからムーの反撃が始まる」と述べられた。これは国際会議やバルチスタ沖の戦いで低迷していた国民意識の快復を図ったものと見られている。
また、マイカル沖で発生した海戦では、来訪した日本国艦隊とグラ・バルカス帝国艦隊が交戦し、日本国が勝利した模様。
「──父上、なぜバルクルス基地への視察をお認めにならないのですか!?」
グラ・バルカス帝国の帝都ラグナ。その中心部にあるニヴルズ城では、深夜遅い時間であるにも関わらず、とある男性がその父親に向かって駄々をこねていた。
190以上はありそうなガッシリとした身体に、赤みを帯びた髪の男。
その名はグラ=カバル。グラ・バルカス帝国第1皇太子にして、現帝王グラ=ルークスの実の息子である。
彼、グラ=カバルが主張するように、皇太子殿下には1つの不満があった。
父親がどうしても前線視察をお認めにならないのである。
「カバルよ、それはバルクルス基地が今現在どういう状況なのかをわかった上での発言か?」
我が子の愚直ぶりに若干呆れつつ、グラルークスはやや皮肉っぽい口調で問う。
するとカバルは自慢げに、威風堂々とした佇まいで意気揚々と答えてみせた。まるで100点のテストを親に見せる子供のように。
「もちろんですとも、父上! 先日、ムー攻略作戦の先鋒である陸軍第8軍団が、第一攻略目標近郊でムー陸軍部隊と交戦し、敵数個軍団と引き換えに全滅したのですよね!
その戦闘以来、大規模な武力衝突は起きていないものの、バルクルス基地の目と鼻の先まで敵軍が迫っている状態であります!」
あれは数日前の出来事であった。
アルー侵攻部隊が壊滅…いや、ほぼ全滅したと最悪の報せが耳に入り、帝王を始めとする帝国臣民がわかりやすく動揺したのはまだ記憶に新しい。
それはもう、海千山千の知り合いがドカドカと帝王府に乗り込んできては、口々に「この戦争は大丈夫なのか」と聞きに来る程であった。
…が、そんな青天の霹靂とも言える事象を聞いても、動揺しない御方がここに1人。
誰あろう、グラ=カバルである。
「父上! 第8軍団は敗北しましたが、彼らは1個軍団と引き換えに敵の5個軍団近くをすり潰せたのです! 帝国は今回の戦闘には負けましたが、戦争には勝つでしょう!」
まさしく机上の空論。安全な後方で、敵味方の損害を書面上の数字でしか見れていない弊害が、わかりやすく目の前に表れている。
そんなカバルの言葉を聞き、グラルークスはわかりやすくため息をついた。
「カバル……まさか、お前はバルクルス基地なら落とされまいと盲信しているのではあるまいな?」
カバルは物事を覚えることは得意だが、情報の重要性をどこか過大評価している節があり、何でもかんでもを鵜呑みにしてしまう傾向がある。
恐らくは『我が国が世界を統べるだろう!』などと言う味方のプロパガンダに酔いしれているのだろうな、とグラルークスは思う。
それを国威発揚用のプロパガンダだと気付かない辺り、我が子であろうと厄介な存在だ。
「盲信? いいえ父上、これは祖国に対する厚い信頼です! 野戦軍は負けてしまいましたが、基地は顕在であります! なればこそ、次の戦いに備えて我々皇族が現地に赴き、前線の兵らを鼓舞するべきなのです!!」
再び、グラルークスは大きなため息をついた。
カバルの言っていることが、完全には間違っていないからである。
知っての通り、グラ・バルカス帝国の臣民は無条件で皇族を神の如く崇拝している。それはもう皇族の姿を一目見れただけでも涙を流す者もいる程であり、彼らが直々に危険な前線に出向いたとなれば、現場の士気は間違いなく上昇するのだ。
完全には間違ってないからこそ、ダメだと強気に言えなかったのだ。
「息子よ、考えを改めろ。バルクルス基地がいくら鉄壁の防御力を持つとは言え、最前線である以上非常に危険であることに何ら変わりはない。
敵が弱い蛮族でないのは知っておるな? お前が死ぬ可能性は十分にあるのだぞ?」
グラルークスは、帝王という誰もが恐れ憧れる役柄上、外面は冷静を装っていたが、内心では必死に愛息子の愚行を止めようとしていた。
次期皇帝としては心許ないが、それでも彼は我が子を愛し、その身を自分のこと以上に強く案じているのだった。
だが、親の心子知らずとはよく言ったものだ。
「はい、父上! 前線が危険なのは重々承知しております! だからこそ、そのような場に皇族が赴く事の意味が増すのです!」
カバルはその表情をピクリとも変えず、背筋をピンと伸ばして要求を押し通す気でいたのだから。
それでも、今だけは子を思う父として、グラルークスは最後の説得を試みた。
「もう一度言う…カバルよ、考えを改めるんだ。
皇族が訪れるとなると、現場は相応の負担を強いられるのだぞ…?
次期皇帝候補である以上、最前線勤務がどれほど多忙なのかを知らないとは言わせん! お前はただでさえ多忙な最前線に、次期帝王の来訪という大きな負担を課すのか?!」
これで思い留まってくれたら、とグラルークスは真っ直ぐな願いを込め、口調強めに目の前に立つ我が子を威圧する。
しかし、帝国臣民であればどんな重鎮もが萎縮する傑物帝王の覇気も、カバルからしてみれば屁でもなかったのだ。
「父上、すでに現場には最小限の歓迎で良いと伝えてあります。私を止めても無駄ですよ? 皇太子権限で行きますからね」
皇太子権限とは、若き日のグラルークスが制定した皇太子用の超法規的権限である。
これがあれば皇太子は帝王、元老院の許可なく行動することができるため、現帝王グラルークスとて、自分の息子を止めることは出来なかった。
「カバル! この愚か者が!!」
激昂した彼のその顔は、1国の王というよりも子を叱責する父親という称号が似つかわしかった。
「これが最後の忠告になるぞ! バルクルス基地は現在、最前線の中の最前線だ! 大怪我を負おうが死のうが、全てが自己責任で完結する世界は貴様が思っているようなフィクションの世界ではないのだぞ!?
貴様のその態度は、それらを全て承知の上での態度なのだな!?」
が、そんな父親の必死の説得も虚しく、カバルは平然とした顔で彼に応えた。
「父上、私の貴方様に対する態度は、それらを全て承知の上での態度に違いありません! どうか私を行かせてください!
敵が強いのは今回の敗北でハッキリしました! そんな強敵を相手に民が必死に戦っているのに、私だけが安全な後方でぬくぬくと暮らすなんて…私には出来ない!!」
まるで自分が前線に赴く事を天命だと確信したような顔に、グラルークスは思わず腑抜けた表情を浮かべてしまった。
血気盛んなこの若者は、どうあっても前線に行くつもりだ、と。
「その顔、承知したと受け取ります! では! 行ってまいります、父上!」
お辞儀もせずに、カバルは部屋を飛び出して行ってしまった。
もはやこうなってしまった彼は誰にも止められず、付き添いの従者達は帝王陛下にペコペコと頭を下げながら、カバル殿下を追い掛けていった。
「バッ…! おい、カバル!!」
子を思うグラルークスの声は、二度とカバルの耳には届かなかった。