日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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66話:馬鹿皇太子 土に帰す

 日ノ本之新聞【号外版】

 中央暦1643年6月21日

 西暦2775年XX月XX日

 


陸自 新設実験部隊で実戦演習か

 完全無人で敵基地制圧を


 

 [無人化の波はついに陸上へ]

 本日午後過ぎ、防衛大臣は陸上自衛隊に新設された陸上総隊隷下の実験部隊「装甲機械兵群」を用いての敵基地制圧作戦の実行を開始したと公表した。

 この作戦は、我が国を含めた全世界に対し宣戦布告をしたグラ・バルカス帝国の陸上基地に対して行われるものであるとの情報もリークされ、新世界の住人から『第二文明圏』と呼ばれるムー大陸近郊から、侵略勢力であるグラ・バルカス帝国を追い出す計画の第一段階であるとの発表もなされた。


 防衛大臣が口にした敵基地とは、ムー大陸の元ヒノマワリ王国領内に存在するバルクルス基地であると見られている。

 同基地の近郊では先日、ムー陸軍とグラ・バルカス帝国陸軍間の大規模な戦闘が行われており、その期間は約1週間という短い戦闘であったにも関わらず、防衛省の調べによると総死者数は15万人を超えるとの結果が出されていた。

 この戦闘でムー陸軍は敵野戦軍の司令部を制圧後、バルクルス基地から約3kmの地点まで歩を進めたものの、直後にバルクルス基地から出撃したグラ・バルカス帝国軍による猛攻で基地から約6km地点まで後退しており、小競り合いは現在も続いている。

 今作戦は我が国だけでなく、ムーを含めた『第二文明圏』の国家が多数参加しているため、バルチスタ沖大海戦の汚名返上の意味もあると我が社は見ている。

 

 

 

 


新型護衛艦は宇宙戦艦!? 

 新世界では極めて高い抑止力となる見込み


 

 [SFが現実に]

 同日、官房長官は新世界における覇権国家の多さ、国際社会の未熟さから起こる新たな戦争を危惧し、高い抑止力を持つ特別護衛艦(見た目や大きさは戦艦に似せる模様)の建造を計画しているとも発表した。

 これらは、我が国が新世界に転移してから経験した数々の軍事的衝突は、相手国が我が国の実力を正確に把握していない事が最大の要因だと言う指摘によるものであり、野党は砲艦外交の再来だと糾弾している。


 当初の計画では、国際会議中に起こった海戦の結果により、我が国がグラ・バルカス帝国から押収した戦艦『グレードアトラスター(現在名むさし)』の船体を流用する案も出ていたが、それではグラ・バルカス帝国の技術力も誇示する形にもなってしまうとの意見もあったため、『グレードアトラスター』は今までと同様に大和ミュージアムでの一般公開の続行が決定された。

 

 



 

 

 同刻──

 ムー大陸 元ヒノマワリ王国領内 バルクルス基地

 

 

「本当に来てしまわれた……」

 

 皇太子を乗せる車から真っ直ぐと伸びる真っ赤なカーペット、その両側に並ぶ精鋭陸軍兵の中の誰かが呟いた。軍の音楽隊の優雅な演奏が響く中にも関わらず、その声はハッキリと皆の耳に届き、聞こえた誰もが俯く。

 それは軍幹部の耳にも届いてたはずだろうが、肝心の幹部は真っ青な顔で震えており、注意や叱責をするどころではなかった。

 

 車の扉がゆっくりと開かれ、中から男が現れた。

 鋭い目付きに、身長185cm以上はありそうなガッシリとした体躯の彼は、衣装も相まって威風堂々とした態度でカーペットを汚す。

 

「出迎えご苦労!!」

 

 そう発したのは、栄えあるグラ・バルカス帝国の皇族、第1の皇位継承権を保有する皇太子、グラ=カバルであった。

 帝国臣民にとっては神にも等しい帝王グラ=ルークスの息子である彼は、まさしく神の子。本来ならその一挙手一投足に感激し、生涯のうちにその威光を目にできた事に滂沱の涙を流す者もいるのだが、ここではそうも行かなかった。

 

(なんだ…? 第1皇太子である私が来たと言うのに、反応が薄いぞ…?)

 

 何しろ、ここは最前線の中の最前線であるバルクルス基地。言わば超が付くほどの危険地帯であり、いつ敵からの攻撃に晒されても何らおかしくない場所なのである。

 彼らにはもはや、グラ=カバルが目の前に居る事に緊張しているのか、敵からの攻撃に怯えているのかすら分からなかったのだ。

 

「皇太子殿下、此度はバルクルス基地まで御足労──」

 

 ガオグゲル軍団長亡き今、皇太子殿下への御挨拶は副司令ガイアが担当している。

 

 その光景は胸がザワつくような思いだった、と生き残りの兵士は後に語ったとされている。

 その時だけ、第8軍団長ガオグゲルが「アルーを攻略した暁には現地の女性を無償で提供してやる」と散々豪語していた姿が懐かしく思えたのだ。

 

「おい…、なんだこの音は…?」

 

「は────?」

 

 直後、基地司令塔が閃光に包まれた。

 耳を塞ぐ程ではないが、中にいた人達は助からないであろう威力の爆炎が黒い煙と共に空を濁し、数秒遅れて到達した突風が小さな土埃を発生させた。

 

 最初は誰しもが事故だと思った…いや、願った。

 これが彼らの対応の遅さに拍車をかけたのは言うまでもない。

 

 哨戒機の察知圏より低い高度から哨戒網をすり抜け、例えレーダーに引っ掛かったとしても、小鳥と間違えてしまいそうな大きさの()()

 空に溶け込むような色と模様、プーンと鳴る羽音は極微小であり、例え人間の真上を飛んだとしても気付けやしないだろう。

 

 基地に襲来したのは、千を下らない数の()()()()()()()()()()()()の群れ。

 渡り鳥のような一糸乱れぬ編隊飛行をしているが、その生物に在らざるあまりにも寸分狂わぬ動きで、すぐに鳥や虫では無いとわかった。

 

 あまりにも無機質、あまりにも異常。

 初めて見る「個」も「心」も無い攻撃に、これが明白な殺意を持った攻撃だと認識するのには、10秒も掛かってしまった。

 

「で、殿下! こちらへ! 地下司令部へ一時避難を!」

 

 緊急事態を意味するサイレンが鳴り響くも、時すでに遅し。

 バルクルス基地の指揮系統は壊滅的な混乱を見せ、軍としての動きは完全に麻痺。滑走路は猛烈な勢いで燃え盛る炎で使用不能となり、全てのレーダーやアンテナがガレキに埋もれる鉄クズと化した。

 

 こうなってしまってはもう、後は赤子の手をひねるようなものである。

 

「な、何が起こって…!?」

 

 カバルの目の前で、小銃を空に向けた兵士が爆殺される。熱気を帯びた突風に混じる、微かな血の臭い。

 カバルはようやく、自分がどこに居るのかを理解した。

 

「こ、これが戦場か! 私は…俺は今まで何も解っていなかった! 何も理解していなかった!!」

 

 助けを求める声が、怒号を発する声が、誰かの泣き叫ぶ声が、無情にも爆音に紛れて掻き消される。

 衝撃波の発生する度に瓦礫が降り注ぎ、燃え広った炎はカバルが通るはずだったカーペットを焼く。

 

「殿下、ここなら安全です! 急いでください!」

 

 生きた心地がしない地獄を死に物狂いで走り、ようやく地下司令室に着いた時、安堵したカバルは膝から崩れ落ちた。

 

 肺がただひたすらに酸素を求めている。心臓は今までに無い程に脈動し、生の実感を全身へと伝える。

 

「ひとまずは助かった…のか?」

 

 カバルが無事に避難し終えたのを確認すると、ガイアは基地司令としての責務に努め始めた。

 まずは基地の状況を確認する事から始めなくてはいけない。幸いにも、地下司令室には無線や有線を使わずとも各陣と交信を可能とする伝声管も張り巡らされている。

 これにより、次第に現在の基地の全貌が明らかになっていった。

 

「兵員6割が死亡…?! さらに敵第二波を確認だと…?」

 

 伝声管を伝って耳に入って来たのは、あまりにも衝撃の事実。ガイアはすぐ傍にカバル皇太子が居るというにも関わらず、つい声を漏らしてしまった。

 

「ば、バカな! 栄えある帝国軍が一瞬でそんな被害を…!?」

 

 カバルも思わず立ち上がり、声を荒らげる。

 しかし、いくら泣こうが喚こうが、この状況が改善する事は無い。

 

『敵第二波、来ます! 複葉機300、ワイバーンが200! 地上の人員の避難は概ね完了!』

 

 伝声管を伝い、更に悲鳴のような報告が届いた。

 先程の攻撃は要所と兵員のみを狙っていたようだが、今度は違う。敵は基地を完全に破壊し尽くすつもりだ。

 

 しばらくするとズズン、ズズンと地面が揺れ始め、振動の度に地下室の天井からパラパラと小石が降った。

 この爆撃がこの地下室に届くことはないだろう。それは敵とて承知しているはずだ。

 この爆撃が終わり次第、地上戦力が投入されるだろう。

 

 そうなる前に、皇太子殿下だけは何としてでも脱出させなくては。

 

「殿下、精鋭兵30人を護衛につけます。急ぎ非常用脱出トンネルで基地外へ避難してください」

 

「あ、ああ。すまない…」

 

 ガイア副司令の強気な口調に、カバルは一切反論する事が出来なかった。

 そうこうしている内にも、日本と第二文明圏連合軍の作戦はガイアの読み通り、地上戦力による制圧段階へと移行して行く。

 

 第1段階はドローンでの奇襲攻撃による敵基地防衛設備や人員の破壊。第2段階は第二文明圏連合軍による航空攻撃。

 そして第3段階は、陸上自衛隊に新設された実験部隊による基地制圧だ。

 

『報告! 敵歩兵約300人が接近中! 地雷原に突入!』

 

 ここからの報告が、悪夢の始まりであった。

 

『対歩兵地雷、効力を認めず! 繰り返す、効力を認めず!』

 

『なんだ彼奴(あいつ)ら! 火の海をものともせず突っ込んで来るぞ!』

 

『地下への出入口が突破されました! 小銃弾の効力を認めず! ものすごい進軍速度です!』

 

 矢継ぎ早に飛び込んで来る、絶望的な情報。

 時計の秒針が1周をする間もなく戦況は激変し、ガイアの必死の戦闘指示も、敵の進軍速度には全く追い付かない。

 

「て、敵は同じ人間のはずだろう!? 何故こんなにも容易く帝国兵が負けるのだ!?」

 

 航空機や戦車ならば、技術による圧倒は理解出来る。

 しかし歩兵は所詮、銃を持つか持たないかであり、それほどまでに力の差はつかないはずだ。

 

 そもそも、この世界に我が祖国よりも高い技術力を保有する国は存在しないはず…。

 

「…あの噂が本当だったって事か?」

 

 最近、帝国兵の間でまことしやかに噂されている話がある。その噂は主に、同じ転移国家である日本国についてだ。

 

 曰く、日本国は帝国よりも遥かに進んだ未来技術を保有していると。

 曰く、日本国の兵は薬剤の注射により怪物のような能力を得ていると。

 曰く、日本国を敵に回しては絶対に勝てないと。

 

 そして、つい最近出てきたこんな噂がある。

 曰く、アルー攻防戦で陸軍第8軍団を壊滅に追い込んだのは、日本国であると。

 

 ガイアは当初、その噂をオカルトの類だと鼻で笑っていたが、今となってはそれが現実味を帯び始めている事に恐怖していた。

 

「おい、今すぐ殿下をお連れして逃げろ!」

 

「了解しました…副司令は如何なさいますか?」

 

「私は最後まで抵抗してみせる! 早く行け!」

 

 嫌な予感がする。

 この壁の向こう側から、何か恐ろしい何者かが近付いていると本能が訴えているのだ。

 

 戦況を聞いている限り伝わって来るこの感じ…何と形容すべきか、今回の敵には人間を人間と認識していないような冷たい空気を感じる。

 どんなに人を殺し慣れた人間でも、命を奪う瞬間は必ず何かしらを考えるはずなのにだ。

 

 まるで殺す事を何とも思っていないような……それこそ、自分の意思を持たない『機械人形(ロボット)』のような。

 

 直後、何者かがガイアの居る部屋の扉を突き破り、強引に中へと入り込んできた。

 その物の姿を見た時、ガイアはギョッとした。

 

「は、ははは! まさか本当に機械人形だったとは!」

 

 ギョロっとした無機質で赤い大きな目がこちらを向く。

 人間よりもやや大柄で、戦車をそのまま人型に変えたような無機質な見た目だ。手に該当する部分は重機関銃のような大きさの銃が装着されており、注意深く見ると、表面にある無数の弾痕が亡き帝国兵の奮闘を物語っていた。

 

「狙いは(司令官)か? それとも殿下か? だが残念、ここには帝国兵しか居らんよ」

 

 ガイアは手榴弾の安全ピンを抜き、目を閉じた。

 

 


 

 

 緊急避難用に掘られた暗い洞窟。足元すら見えない闇の中で、心臓は張り裂けんばかりに拍動し、地下の冷えた空気が肺に流れ込む。

 手足は全て万力で思い切り締め付けられているような感じがし、筋肉が悲鳴を上げているのが容易にわかった。

 

「残りどれくらいだ! どれくらい走れば外に出れる!」

 

「あと1kmで外です!」

 

 たった今後方で聞こえた爆発音…私を逃がしてくれたガイア副司令は無事だろうか? 

 

 息が切れ、服の下は汗にまみれる。

 朦朧とした頭で、カバルは走馬灯にも似た光景を見た。

 

『最前線は何が起こるか解りませぬ、御再考を!』

 

 バルクルス基地へ行く事を、必死で止めようとしたお付きの顔。

 

『行くのは止めておけ、皇族が行くとその準備のために兵を割くことになる』

 

 外面は平静を保っていたが、内心は必死に止めようとしていた父上。

 

 それら全てを振り切って、自分の考えを押し通し、私は今ここにいる。

 

 引き返す機会はあった。

 

 進言も何度もされた。

 

 しかし、自分は来てしまった。

 

 来ることが前線の兵のため、祖国の為になると信じて……しかし、現実はどうだったであろうか。

 ただイタズラに皆の足を引っ張り、今は敗兵のように逃げ惑っている。

 

 聞く耳を持たなかった自分が悪いが…悔やんでも、悔やんでも、いくら後悔したって時間は戻らない。

 

「殿下! ここの角を左で──」

 

 先行して角を曲がった兵の声が途絶える。

 発砲音こそしなかったが、微かな硝煙の臭いが自然と足を止めた。

 

「殿下、下がっていてください」

 

 護衛の兵士達が発する雰囲気で、そこに敵がいるのだと確信した。私は予備の小銃を渡され、後ずさり、生唾を飲む。

 3、2、1の合図で角を飛び出て行った兵達は、たった数回の発砲音を発して消息を絶った。

 

 次は、自分の番だ。

 

「パパ────」

 

 後悔先に立たず。

 カバルはその身をもって思い知った。

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