日本国召喚×テラフォーマーズ   作:BOMBデライオン

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8話:エジェイ攻防戦

 翌日 明朝──

 

 

 ジューンフィルア伯爵が取りまとめるロウリア王国東部諸侯団クワ・トイネ先遣隊約2万人は、特に敵対勢力と遭遇することもなく、城塞都市エジェイの西側約5kmのところに陣を置いていた。

 当初の予定ではあと2km先まで軍を進めるはずだったのだが、ジューンフィルアは兵らの間でまことしやかに噂される未知の「何か」を警戒し、深入りを避けて野営をすることに決定していたのだ。

 

 この判断が吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知るが、結論から言おう。この戦争に日本国が介入している時点で、彼らの「死」は避けられないものとなっている。

 サイコロをいくら転がそうが、出る目は全てハズレなのだ。

 

「…何だあれは?」

 

 何人かの兵士が、はるか上空を飛ぶ未知の物体を発見した。大きさはワイバーンよりも小さいが、速さはそれ以上のように見える。

 

「新種の竜か?」

 

「おい! 何かを落としてるぞ!」

 

 朝の訓練に取り掛かろうとしていた者達も何事かと空を見上げ、野営地はにわかに騒がしくなる。

 ヒラヒラと空から舞い落ちる白い物を拾った兵士達は、見たことも無い真っ白で上質な紙に驚いた。

 そこには大陸共通語でこう書かれている。

 

『2時間以内に陣地を撤収し、この地から退却せよ。さもなくば攻撃する。 日本国陸上自衛隊』

 

 当然、この紙はジューンフィルアも拾っていた。

 

「来たか…。攻撃を教えてくれるとは律儀な国だな?」

 

 噂に聞くほど強いのであれば、わざわざ敵に塩を送らずとも、奇襲して攻撃すれば被害も少ないのにと彼は思う。

 しかしこれが敵の降伏勧告(形式上)であるとともに、罠であるとは誰も考えもしなかった。

 

「戦闘用意! 2時間後に日本軍が来るぞ! 隊列を組め!」

 

 練度が高く、精鋭揃いの先遣隊2万人。彼らはすぐさま隊列を組むが、それが仇となるとはこちらもまた、誰も思いもしなかったのである。

 

 


 

 

 陸上自衛隊 クワ・トイネ公国救援基地

 

 

「敵に動きはないのか?」

 

 大内田陸将は側近の幹部に問う。彼は日本だけでロウリアを退けるのは十分可能だと思っていたが、敵とは言え、無用な虐殺は恐れていた。

 

「はい、それどころか敵は陣形を組んでいます。これはまあ予想通りと言うか、予定通りと言うか……」

 

「密集している所に爆弾1発か…。お前もなかなかエグいことを考えるもんだな?」

 

「こちらの方が費用対効果は大きいでしょう。それに、彼らを逃がして困るのは我々ですよ?」

 

 この時代の地球では、大国同士の戦争は経済の削り合いであり、先に経済が立ちいかなくなった方が実質的な負けであると考えられている。

 第二次世界大戦の国家総動員体制が示しているように、工場、インフラ、商店、人口の全てが数値化され、経済に組み込まれる狂気の世界。

 この地獄のような世界で軍に求められるのは、敵国を滅ぼす最適解、若しくは費用対効果。つまり、どれだけ安い値段で相手に大きな損害を与えられるかが重視されている。

 

 人間を超人に改造する『M.O.(モザイク・オーガン)手術』もこれの一環とされており、多大な手術費用を無視すれば、変身薬と少しの物資を買うだけの金額で敵の基地を壊滅させる兵士というものは、軍隊からすれば非常に魅力的な話であったのだ。

 

「そうだな…費用対効果はそっちの方が大きい」

 

 自国を守るためならば、倫理観や道徳など無駄な足枷でしかない。

 この世界における理想の軍というのは『火星生物(テラフォーマー)の軍団』に近しい。

 

「…これも日本国民を救うためだ。攻撃を開始するように伝えろ。特科連隊もいつでも攻撃出来るようにしておけ」

 

「了解!」

 

 彼の命令と共に、破壊の蟲が飛び立つ。

 古くから天災の1つとされる蝗害を、人類は進歩した技術によって人災へと変えてしまった。

 

 


 

 

 ロウリア王国東方討伐軍 東部諸侯団

 

 

 ジューンフィルアが立つ丘の下の平野部に、整然と並ぶ東部諸侯団2万人。練度の高い彼らなら、日本国が相手でも大丈夫だろう。

 しかし、彼は何故か不安を隠しきれなかった。

 

 もちろん、練度の高い2万人の兵が簡単にやられるとは思っていない。

 だが、何か妙な胸騒ぎがするのだ。

 

「いかんいかん…深呼吸、深呼吸…ん?」

 

 空から人間が落ちてくる──??!? 

 

「魔人だ!!! 上から来るぞ!!!」

 

 気付いた時には全てが遅すぎた。

 その者の口が微かに動いたかと思うと、首筋に何かを打ち込むのが見え、それはみるみるうちに異形へと姿を変えていく。

 西欧では『復活』や『再生』の象徴とされるその虫は、東部諸侯団の目にどう映ったであろうか。

 

「──悪魔だ……!!」

 

 

『ブレヴィサナ・ブレヴィス』

 世界1うるさいとされている(セミ)

 緑、赤、黒の色が斑状に配色されており、他の同種とは違って非常に色鮮やか。

 

 しかし、その正体はとんでもない害虫である。

 

 Q.『大きな音』で人間の耳と平衡感覚は損傷出来るか? 

 

 A.『一瞬だけなら140〜160dB(デシベル)』で可能。鼓膜が破れ、内部の耳石器にまでダメージが行き、めまい等の症状を起こす。

 

 しかしこのセミは()()()でそれに届くか届かないか、というレベルでうるさいのだ。

 その鳴き声、実に120dB。400mまでその騒音は届き、車のクラクションが100dBというのを考えると、いかにこの生物が害虫なのかが分かるだろう。

 

 想像したくもないが、それが人間大になったらどうなるか──

 

 

『スクリーム、やれ』

 

 通信器から指示が出され、彼は大きく息を吸い込んだ。

 

「みんな離れてろよ…!!」

 

 

────!!!!!!!!!

 

 

 まるで空中で破裂し続ける爆弾。

 もはや言葉では表現することのできない強烈な空気の振動は、人間の耳が感知できる音量をはるかに超え、衝撃波となって伝わった。

 真下にいた生物は例外なく内臓が破裂し、眼球が赤く染まり、身体が押し潰されて地面の赤いシミとなっていく。

 

 空中のある1点から発生し続ける衝撃波は地面に反射した衝撃波と合わさり、融合波面(マッハステム)となってさらに広範囲に被害を拡大する。

 隊列の真ん中にいた者は果物の絞りカスのようになって死亡し、端に展開していた兵士は重大な損傷を受けながらも()()()生存していた。

 

「何だ?! 何が起こった?!」

 

 辛うじて重大な被害を受ける範囲には居なかったものの、ジューンフィルアは未だにキーンと痛む耳を押さえながら、状況の確認をする。

 彼の視界には、たった1回の攻撃で戦闘不能となった兵士達が大勢倒れている光景が映っていた。

 

「××! ××の××××!!」

 

「何だ! 何て言っているのだ?!」

 

「×本×の××す!!」

 

 近くにいた部下が彼に状況を伝えるも、ジューンフィルアは耳をやられているせいで、何を言っているのか全く聞き取れていなかった。

 それから何度かのやり取りを経て伯爵の耳がやられている事に気付いた部下は、何も言わずに上空を指差し、それを見たジューンフィルアはヘナヘナと力なく座り込んだ。

 

「敵の……増…援!?!」

 

 彼の目線の先には、先程と同じように、空から大量の敵が舞い降りていた。

 朝日に照らされて神々しく地獄に降り立つ彼らの姿は、伯爵の目にはどう映っただろう。

 

 あまりにも絶望的で、現実離れをした光景に、ジューンフィルアは錯乱し始めた。

 

「あはッ! あはははは! 魔帝だ! 魔帝様が君臨なさったぞ! あははははッは!」

 

「伯爵! お気を確かに!」

 

「誰か! ワッシューナ大魔導師様を連れて来い! 近くにいるはずだ!」

 

「もう手遅れよぉ! 全ての人間は再び奴隷となるのだ! あハッ! あはハはははは!!」

 

 ゾクリ、彼らの背中を嫌な汗が流れる。

 半ば狂乱的な状態であるジューンフィルアが発したその言葉は、何とも嫌な気配を含んでいたのだ。

 だが、彼らの恐怖の源はそれだけではなかった。

 

「こちらアサシン、敵司令部を確認。排除する」

 

 背後の森から漂う、虫のように冷たい殺気が彼らの後ろ髪を引っ掴んだのだ。

 

 

塩屋虻(シオヤアブ)

 ハエ目ムシヒキアブ科に属するアブ。普段彼らは木の枝や葉の裏側でじっと獲物が通りかかるのを待ち続け、獲物が飛んでくると、こっそり背後から近寄り、狙いを定め、槍のように鋭い口吻で獲物の神経節を切断し即死させる。

『空の王者』がトンボならば、その王を殺すのは『昆虫会の暗殺者』と呼び名の高いこの虫である。

 

 

「抜刀!! 伯爵様を守れッ!!!」

 

 しかし、伯爵を護衛する味方は音も無く次々に倒れていく。

 羽の生えた敵は異様な速度で地上を動き回り、短槍(ショートスピア)で首の真ん中を一突き、骨を断ち切って即死させ、位置取りが不利となれば即座に飛んで剣の間合いから退避する。

 数人が相手でも互角以上に立ち回り、味方を容易く全滅させて見せるその槍術はまさに「人間離れ」していた。

 

「クソッ……化け物め──」

 

 1分も経たないうちに、丘の上にはジューンフィルア以外のロウリア兵はいなくなる。

 すでに精神が破綻していた彼にとって唯一の幸運だったのは、後に戦闘能力のない捕虜として捕縛されたことであろう。

 

 その先の人生が幸か不幸かは、神のみぞ知る。

 

 


 

 

 自分の守る城の目と鼻の先で振り下ろされた圧倒的な暴力を目に、ノウ将軍は胸の奥底から込み上げてくる感情を何と形容していいのか分からなかった。

 

「…」

 

 それは近くにいる彼の部下達も同じであった。

 突然轟音がしたと思ったら、脅威であるはずのロウリア軍が壊滅していたのだから。

 

 誰も口を開けず、沈黙が破られるには、しばらくの時間が必要だった。

 

「えっと……日本軍より連絡です。『武装勢力は排除した。300名程の捕虜がいるので、そちらは任せる。他は手遅れ』だそうです…」

 

「…」

 

 彼らに「手遅れ」の意味は分からなかった。いや、考えたくなかったのだ。

 2万人がものの数秒で300人になるという、あまりにも現実離れした現実に、思考が停止していた。

 

「彼らは騎士として死ぬことさえ出来なかったのか…」

 

 やっとの思いで絞り出した言葉も、彼の感情の全てを物語るにはほど遠い。

 もし敵の先遣隊の数が2倍、3倍であろうと、似たような結果になっていたのだろう。

 

「捕虜を受け入れるぞ。敵国からの侵略者とは言え、彼らも我らと同じ人間だ。彼らが最大限の魔法治療を受けられるようにしておけ」

 

「りょ…了解!」

 

 ここにいるクワ・トイネの兵はまだ1人もロウリア軍と戦っていない。

 当たり前のことだが、死者どころか怪我人すら出ておらず、普段と何ら変わりない日常が城内には広がっていた。

 

 公国の民の命が救われ、喜ぶべき状況の中、ノウ将軍を含め数人は敵に同情の念を抱いていた。

 

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