規格外な教祖様と究極の自由人も異世界から来るそうですよ? 作:凡人EX
十六夜が全力で黒ウサギのウサ耳を引っ張って数十分。
その後も皆に好き勝手ウサ耳をいじられた黒ウサギは、再び地面にへたり込んでいた。
「あ、あり得ない。あり得ないのですよ……まさか1時間を超えてひたすら黒ウサギの素敵耳をいじり倒すなんて……学級崩壊とはまさにこの事なのですよ……」
「この兎、格好だけでなく喋り方もあざといな。なのですよって」
「確かに類を見ない喋り方だね。これだけでまた小一時間いじめられそうだ」
「わかる」
「やめてください! というか、いい加減話をさせてください!!」
「ヤハハ、だってよ」
「……チッ、わかったよ、話し終わったら覚悟しとけや」
「わかるわよ、その気持ち。飽きが来ないものね、この反応」
とりあえず問題児達は黒ウサギを弄るのをやめ、クッションに座る。
唯斗から投げ渡されたクッションに黒ウサギも座り、咳払いをして、両手を広げて話し始める。
「では改めて、定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います! ようこそ、“箱庭の世界”へ! 我々は皆様にギフトを与えられた者達だけが参加出来る『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚致しました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです。既に気付いていらっしゃるでしょうが皆様は、普通の人間ではございません! その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合うためのゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に作られたステージなのでございますよ!」
「初歩的な質問なのだけれど、貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」
「YES! 異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「だが断る!」
「属していただきます! そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“
「……主催者って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが、主催者が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。主催者次第ですが、新たな恩恵を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらは全て主催者のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「ほーん、そいつぁまた俗物的だな? チップにゃ何をかけるんだ? 命なんてモン賭けるデスゲームはお断りだが?」
「それも様々ですね。金品、土地、利権、名誉に人間……そしてギフトを賭けあう事も可能です。他人から新たなギフトを奪えばより高度なゲームに参加できます。しかし、ゲームに負ければ勿論、ご自身の才能を失うのであしからず」
「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK! 商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
「話の腰を折るようですまない、僕達も1つ。この箱庭という世界には法というものはあるのかい? 今までの話を聞く限り、ゲームそのものが法とも言えるようだけど」
「お? 鋭「それはねえだろ。法ありきで成り立つ世界であって、ゲームはそれを無視して勝者のみが得をするってなシステムじゃねーか?」……おおよそ唯斗さんの仰った通りです」
「なるほど、主催者は自己責任でゲームを開催するだろうし、参加者もそれ相応の覚悟を決めてゲームをするのか。ハハ、中々野蛮だね?」
「ごもっとも。しかし、何かを奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」
黒ウサギは説明を終えたのか、立ち上がって1枚の封書を取り出す。
「さて、皆さんを召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それらをすべてを語るには少々お時間がかかるでしょう。ここから先は我らのコミュニティでお話しさせていただきたいのですが.よろしいですか?」
「待てよ。俺がまだ質問してないだろ」
静聴していた十六夜が立ち上がる。その顔からは軽薄な笑顔が無くなっている。
「……どういった質問でございます? ルールですか? ゲームそのものですか?」
「そんなのはどうでもいい? 腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただした所で何が変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは…………たった一つだ」
十六夜は黒ウサギから視線を外すと他の四人、そして巨大な天幕で覆われた都市に向ける。そして一言、
「この世界は…………面白いか?」
『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』
例の手紙にはそう書かれていた。そう書くということは、そうするだけの価値が、この箱庭にあるということ。
他の4人も無言で返事を待つ。彼らにとっても、それはいちばん重要なことなのだ。
「────YES。ギフトゲームは人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は、外界より格段に面白いことを黒ウサギは保証致します♪」
────────箱庭二一○五三八○外門、ペリベッド通り・噴水広場前。
黒ウサギに連れられ、ダボダボのローブを着た、見た目10歳程の少年の元へやってきた。
「ジン坊ちゃーん! 新しい方を連れてきましたよー!」
黒ウサギの声で顔を上げるダボダボローブの少年ことジン。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性2人が?」
「はいな、こちらの5人様が──ー」
クルリ、と振り返る黒ウサギ。次の瞬間にはカチン、と固まってしまった。
「……え、あれ? あと3人いませんでしたっけ? ちょっと目付きが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児! ”ってオーラを放っている殿方と」
「十六夜君なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
そう言って、飛鳥は上空から見えた断崖絶壁を指さす。黒ウサギがより石のようになる。
「……では十六夜さん以上に口が悪く、そして全身から“誰の話も聞いてやーんない! アッカンベー”みたいなオーラを放っているマントを着た殿方は?」
「唯斗君は十六夜君が『お前らも来いよ』って誘った時に『行く』ってキメ顔で即答して、そのままついて行ったわ」
黒ウサギがずっと手入れをしていないぜんまい人形の様なぎこちない動きで首を傾げてしまう。
「……デハ白髪ニ蒼ノ瞳ガ特徴的ナ、全身カラ慈愛ニ満チタオーラヲ放ッテイル常ニ笑顔ナ殿方ハ?」
「神夜君は『君達がそちらに行くなら僕は別の場所へ行こう。後で情報交換でもしようじゃないか』と言って森の奥に駆け出して行ったわ」
黒ウサギは真っ白に燃え尽き、崩れ落ちる。が、すぐに白ウサギから黒ウサギに戻り、飛鳥達に詰め寄る。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「『止めてくれるなよ』と2人に言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「『黒ウサギには内緒でお願いするよ』と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」
「十六夜と唯斗のくだりは嘘。神夜には本当に言われた」
「だとしても止めてくださってもいいではないですか!」
「面倒くさいもの」
ガクリ、と前のめりに倒れる黒ウサギ。それと対照的に、ジンは蒼白になって叫ぶ。
「た、大変です! “世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」
「幻獣?」
「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせばとても人間では太刀打ち出来ません!」
「……そう、残念ね。もう彼らはゲームオーバー?」
「……せっかく友達できたのに」
「冗談を言っている場合じゃありません!」
ジンが重大さを必死に訴えるも、2人は心配そうではあっても何処吹く風。
度重なるダメージでダウンしていた黒ウサギがゆらりと立ち上がる。
「ジン坊ちゃん。この御二人の案内をお願いします。黒ウサギは……!」
艶のある長い髪を淡い緋色に染め、外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、
「問題児達を捕まえに参ります! 一刻程で戻りますので、御二人様は箱庭ライフをご堪能ございませ!」
門柱に亀裂を入れて全力で跳躍した。弾丸のように飛び去る黒ウサギを見て、飛鳥は髪を押さえながら呟く。
「……箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」
「そう。……黒ウサギもご堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう? エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢11になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします。2人の名前は?」
「久遠飛鳥よ。猫を抱えているのが」
「春日部耀」
ジンが礼儀正しく自己紹介する。それに倣って2人も一礼した。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐる。
耀もそれに続こうとするが立ち止まり、振り返った。
『お嬢?』
「……ううん、大丈夫だよね」
三毛猫に話しかけられて首を振る。そして先に行った2人を追いかけた。
耀の友達思いなところを強調したかった。反省も後悔もない。
次回、神夜大暴走。