episode 01
「糞っ!糞っ!糞っ!糞っ……やってくれたな!」
豹頭の男はある人物から逃げるために深夜の街を疾走する。男の体はに鋭い刃物で斬られた切傷や所々凍っていたりしているため凍傷がある。
「はぁ……はぁ……ここまで来れば……」
そう言って男は、同志たちが殺られた現場から遠く離れた場所に来れたことを安堵する。しかし、それはすぐに恐怖へと変わってしまう。
「やれやれ、やっと見つけたぞ。あまりどっかに行かないでくれるか?メンドクサイから」
目の前に黒髪の少年が上から降りてきた。周りが夜の闇に包まれていながら真紅に輝く双眸で豹頭の男を見つめる。男はここへ来るまで、全力で駆け抜けて来た筈なため、手を抜いたわけじゃないのにもかかわらず、目の前の少年は息切れ一つしないで追いついてきたのだ。
そして、男はある事に気付く。少年から発せられるのは、ただの吸血鬼では決して有り得ない莫大な魔力に。
「お前っ……まさか…………
目の前にいる少年の正体に気付いたことで、男は悲鳴のような声を上げる。
そんな男の様子などどうでもいいかのように、欠伸をしている吸血鬼の少年————夜叉神 零樹は死んだ魚の様な瞳で男へ視線を向ける。
「そういうことだから、さっさと捕まってくれないか?明日も早いんだ」
男の正体は、一言で言えばテロリスト。
欧州にある第一真祖が支配する“戦王領域”を中心に活動する
その結果、男以外の仲間は拘束されている。
此方に懐から取り出したボウガンに似た光線銃のような武器の銃口を向けている零樹を見て、獣人の男はもう逃げ道はないと理解し、懐に手を突っ込み何かスイッチのような物を取り出す。
「同志たちの仇だ!思い知れぇぇぇ!!」
獣人の男がリモコンのスイッチを押そうとした瞬間、零樹が持つ武器の銃口から発射された赤い
吹き飛ばされた男は近くのコンテナに激突し、血反吐を吐きながら凄まじい衝撃によって気を失う。気絶した男を一瞥し、落ちているスイッチを拾う零樹は、スイッチの構造を見て溜め息を大きく吐く。
「終わったぞ。那月」
「うむ、ご苦労だ」
敵を無力化したことを零樹は、隣にいる空間に波紋を残しながら転移して来た一人の少女———南宮 那月に報告する。
「それにしても、今どき暗号化もされていないアナログ無線式の起爆装置とか。今時のテロリストはバカなのか、それとも金がないんだか」
「どちらもだろ。尋問等は
「こんな夜中に生徒を働かせてるんだから、明日はサボっていい?」
「バカを言うな。明日もキチンと私の朝食のために早起きしろ」
「偶には自分で作ってくれよ。ここ何年かは、那月の美味しいご飯を食わせて貰ってないんだから」
「///えぇぇい!!黙れ!!甘えるなぁ!この居候が!」
そう言って零樹の言葉に頬を赤く染めながら、照れている那月は転移魔術で一足先にまるで逃げるかの様に帰ったのであった。照れている那月の後を追う様に、零樹もマーキングしてある自宅へ転移魔術で帰るのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★
九月の半ばの水曜日。
昨晩、お気に入りのペンギン動画が更新されていたため零樹は夜中にも関わらず、数時間もの間ニマニマとした顔面崩壊の状態で夜更かしをしたため寝坊してしまう。
しかし、那月が本当に朝食を作ってくれていたことに歓喜した零樹は、思わず那月にハグ突撃を喰らわせてしまう。これにより、照れた那月は零樹を半殺しした後、真っ赤な顔で出勤したのは、余談である。
そんな騒がしい朝を迎えた零樹(ボコボコ状態)、古城、凪沙、雪菜の4人はモノレールの中で談笑していた。
「やっぱりバカだな、オマエ」
「チクショウ、ぐぅの音も出ない」
何故、零樹(ボコボコ状態)が侮蔑の視線を古城に向けているのかと言うと、理由がある。今朝、古城は早く起きて、凪沙の部屋のノック無しで開け、中にいた姫柊の着替えているシーンを見てしまったという漫画みたいな展開があったのだ。コレを凪沙から聴いた零樹は、一発古城に拳骨を入れつつ、この事を学校に知れ渡らせると、絶対に古城は嫉妬と殺意の視線を浴びる羽目になることを予想する。面白そうだが、関節的に雪菜や凪沙にまで被害が及ぶため断腸の想いで踏みとどまることとしたのは、零樹の心の中だけの話。
「悪かったな、姫柊。覗くつもりはなかったんだけど」
「その事については怒っていませんから……先輩がいやらしい人なのは、最初から分かっていたことですし。コレは警戒を怠った私の責任です」
「おい古城。普段からなにしていたらこんなに評価が下がるんだ?」
「い、いや俺も分からない。つーか俺が覗きをするのが当然みたいな扱いになっているんだが……」
零樹は先程よりも冷たい半眼で古城を睨むが、本人が原因が分かっていないらしいため困惑するのみである。とは言ったものの原因が全て古城にある、と零樹は確信している。
「ダメだよ、雪菜ちゃん。この変態くんをそんなに簡単に許したりしたら!」
凪沙がそんな古城を非難するような視線を送っている。実の妹にまで、此処まで信用されていない古城を眺める零樹の表情には、まさしく愉悦の2文字が出ていた。
「普通はノックぐらいするだろ、普通は。凪沙ちゃんだって、年頃の女の子なんだぞ」
「そうだよ!そうだよ!昨日の夜にもノックしてって言ったじゃん!」
零樹に便乗する様に凪沙はそう言うが、肝心の古城は完全に忘れているのか、聞いていなかったのか首を傾げている。
「やれやれ、こんな鈍感な愚兄を持つとは。凪沙の苦労が絶えんなぁ〜」
「うぅ分かってくれるのは零樹くんだけだよー」
「2人して喧しいわ!!」
「コレは流石に先輩の方が非がある……かと」
零樹の慰めの言葉に凪沙は分かってくれる人がいた!と言わんばかりの涙ぐんだ表情になっている。因みに、零樹自身も古城ほどでは言わないが、十分に恋愛ごとに関しては鈍感な分類でもある。しかし、古城に比べれば、明らかに恋愛とは無縁すぎる半生を送ってきている零樹は仕方ないと言えば、仕方ないのも事実である。
「そう言う零樹だって、那月ちゃんの部屋に入る時はノックをするのか?」
「当たり前だろ。無かったら、辞書を投げつけられる。それに那月ちゃんは時間の管理をしっかりしているから、寝坊することはあまり無いが、酒を飲んでしまうと色々面倒くさい」
「あの見た目で飲むのかよ……」
「えぇっ!?南宮先生って酔うと凄いの?」
「凄いと言うよりヤバい。それにその……やたらと姉ぶると言うか、めちゃくちゃ絡んでくる。後、昔の影響もあって添い寝したがる」
「「「え゛ぇぇ!?」」」
少々、苦い思い出なのか表情を曇らせつつ零樹はあるがままの事実を話してしまう。
まだ、学生であった那月と共に暮らしていた時の部屋は本当に小さいため、2人して同じ布団で、那月から幼い零樹を抱きしめる様にして眠っていた。今でこそ、部屋がそれぞれ別にあるため添い寝する理由もないのだが、那月は一度酔ってしまうと、精神の奥底に厳重に封印していたブラコンが再発してしまう。そのため、酒乱の那月はアレやコレや(主に昔の零樹と今の零樹の違いについて)言って零樹に絡み、最終的に添い寝しなければ、部屋で暴れ回るという完全なるかまってちゃんと化す。
ちなみに、酔っていた記憶はバッチリ残っているので、暫くの間は、零樹をベッドから蹴り飛ばした後、恥ずかしさのあまり身悶えることにもなる。
そんな事情を知らない古城達からすれば、あの天上天下唯我独尊を貫く那月からは全く想像出来なかったのだ。
「み、南宮先生って結構大胆なん…だね……」
「で、ですね。お酒は人を変えると……言いますし」
「あんまし人に言うなよ。那月やお前の名誉のために」
凪沙と雪菜は想像もしたこともない那月の一面を知って、何を想像したのか少し顔を赤くしている。また、古城は古城でこれ以上2人の間に卑猥な想像をする者達が増える恐れがあるため、噂を広まわらせないべく零樹に自粛するよう言及する。あまり、自分の言葉の重大さを理解していない零樹は、面倒くさくなったのか、別の話題を出すことにする。
「で、話は変わるが、お前らは隣同士なのは知っているが、なんで姫柊が凪沙の部屋で着替えていたんだ?」
「それはね、球技大会で使う衣装の採寸と仮縫いをやってたんだよ」
「……球技大会の衣装ってなんだ?普通に体操服かジャージだろ?」
古城が凪沙のそう言ったが、首を振って古城が間違っていることを示唆するものの、零樹も分かっていない。
「違うよ。試合じゃなくて応援のときに着るチアの衣装だよ。なんかクラスの男子全員が土下座して雪菜ちゃんに頼んだの。姫がチアの衣装で応援してくれるなら家臣一同なんでもする、死に物狂いで優勝目指して頑張るって」
「クラス全員土下座って……男子は馬鹿か?」
「ほぅ………(男子どもコロス)」
古城は雪菜のクラスの男子に呆れている影で、零樹は内心物騒なことを密かに呟いていた。
「(確かに雪菜が可愛いのは分かるが、土下座までしてチアの衣装をさせるのはどうかと思う)」
目の前で凪沙と仲良く談笑している雪菜を眺めつつ零樹は同じ男として恥かしいと思ってしまう。
しかし、
『零樹さん、がんばって下さい…でした』
一瞬、チアの衣装を着た夏音の姿がなぜか頭を過ぎってしまった。そんな想像をしてしまい、自分はもしかして夏音のことをそう言う邪な目で見ていたのかと、露骨に零樹は落ち込んでしまうのであった。
健全な男子高校生である自分に色々言い聞かせるように自己完結しようと零樹は躍起になっているため古城たちの会話を聞き流していく。
「それにしても雪菜ちゃんってば、転校してきて一躍有名人になったもんね」
「……別に嬉しくないんですけど」
凪沙の言葉に雪菜は男子全員の土下座を思い出したのか、若干気疲れのようなものが見えるが、その瞳はまるで普段の零樹のように死んでいた。
そんな会話が行われている時、零樹はふとモノレールの窓から海上に浮いている豪華客船が目に入る。
そして、その豪華客船からネットリとした悪寒を密かに感じ取ってしまった零樹は再び大きな事件が舞い込んできたのではと、確信めいた予感をするのであった。