ストライク・ザ・ブレイヴ   作:黒丸助

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episode 02

校門をくぐった古城と零樹は、中等部と高等部の校舎は離れているため雪菜と凪沙と別れた。

 

「おはよ、古城に零樹。それに珍しいわね、古城が遅刻しないで来るなんて」

 

靴箱の前で何故か大きなスポーツバックを持った浅葱が居た。

 

「なぁ浅葱。なんだ、その荷物?」

「随分と大きなバッグだな」

 

古城と零樹は疑問に思い何気なく浅葱に訊いてみると、彼女は妖しく悪い笑みを浮かべ始める。その笑みを見た瞬間、古城はまるで蛇に睨まれたカエルの如し、凄まじい危機感が冷や汗と共に落ちる。

 

「ちょうどいいところに来てもらっちゃって、悪いわね。意外に重くて面倒だったのよ」

 

そして、浅葱は何食わぬの様に古城へバッグを渡し、靴を履き替える。古城がなにか言う前に浅葱が言葉を被せる。

 

「おい、なんで————」

「やーホント助かるわ。ロッカーの前に置いといてくれたらいいからさ」

 

一方的に指示を出す浅葱に向かっての反抗は無理だと悟り、面倒ごとを零樹に矛先が向きるのだが、

 

『グッバイ♪(^_−)−♪バイ♪』

 

その先にはいつの間に置いたのか下駄箱にウザったらしい文字で書かれた張り紙だけがあった。

 

「あの野郎!!また逃げたなぁぁぁぁぁ!!」

「こういう時に限って、逃げ足はハンパないわねアイツって………………まぁ色々とナイスだけど

 

怒りに吠える古城の後ろで、密かに零樹の手際の良さに浅葱は内心感謝するのであった。結局、逃げた零樹がいないため古城一人で荷物を持ち、教室に向かっていく。その道中、たわいない談笑を交わしながら、教室へ入ると、矢瀬と築島がこっちを見て微笑んでいる。矢瀬の隣には、輝くほどに真っ黒な笑みを浮かべた零樹もいた。

 

「このタイミングで一緒に登校とはやっぱり運命だったな」

「ホント、2人っきりにした夜叉神くんの神対応には目を見張るわね」

「だろう?」

「……なに言ってんの、基樹?アンタ、とうとう年上の彼女に振られて錯乱した?」

 

「錯乱してねぇし!振られてもねぇよ!!縁起でもねぇ!あれだ、あれ!」

「(破局しろ)」

 

矢瀬の彼女の正体を知っている者は若干物騒なことを考えていたのだが、矢瀬が指刺す方向に、浅葱と古城は視線を移す。矢瀬の言葉の意味を理解した浅葱は、少々頬を赤く染めつつ前に出て行く。

 

「なんで私が古城と組まなきゃならないのよ!?」

「今年からそういう規制になったの。シングルが廃止で、ミックスダブルスの選手ペアを増やすように。あ、現役のバド部の子は出場禁止ね」

 

「だからなんで私と古城のペア!?」

「浅葱、前から好きだって言ってたじゃない」

 

「は、はい!?あ、あ、あたしがいつそんなこと!?」

「「(よくコレで気づかないとか、暁古城(朴念仁)恐るべし………

…)」」

「バドミントンの話よ」

 

浅葱の気持ちを分かっていながら、意地悪な言葉で彼女の脳内をかき乱しつつ、その状況を築島は楽しんでいく。そんな分かりやすい反応を見せる浅葱からの好意を感じ取れていない古城に矢瀬と零樹は一言一句同じことを思う。

 

「へ?」

「暁君も別にいいわよね?」

「まあ楽そうっちゃ楽そうな競技だしな」

 

古城が浅葱とペアを組んで出場することになった。

 

「それにしても俺は……バレーか。メンドイな」

「いいじゃねぇか。零樹はスポーツ万能だしよ」

 

「しょうがない。合法的に人に玉をぶつけていい競技だしな」

「こぇーよ!!」

 

零樹の物騒な呟きに矢瀬が反応する。矢瀬の言う通りだが、零樹は吸血鬼であるため、身体能力は高い。しかし、零樹は基本人前で運動するのは好きじゃない上に今まで戦闘訓練しかやって来なかったことに加えて育ての親がアレなので、思考回路がかなりおかしな方向に飛んでしまっている。

 

「まぁいいか。(どんなことをしても)勝てば」

「委員長ぉぉぉぉ!!コイツが出る競技変えてェェェ!!怪我人がでる!!」

 

内心から滲み出るストレス発散目的の黒い笑みによって、零樹の身体からは出て来ているドSオーラにいち早く気づいた矢瀬は競技変更を申し出るのであった。その結果、零樹はサッカーでキーパーを務めることになった。ただし、彼が加わった試合がどうなったかは知らない方がいい。ただ一言だけ言うとすれば、人はソレを地獄絵図と呼ぶのであった。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

零樹は、クラスメイトと共に打ち合わせを交わし準備運動をしていると、突然攻撃的な呪力を感じ取る。

 

「……ったく、こんな昼間っから呪力を使うバカは何処のどいつだよ」

 

零樹は、若干不機嫌になりながらも呪力を感知した場所に向かうと、そこには金と銀のライオンが古城を包囲していた。どうして、そんな状況になっているのか古城を問い詰めたかったが、ライオンの対処を最優先とし、零樹は背後から遅れて来た少女と共に対処する。

 

「先輩!伏せて下さい!」

「(古城諸共)吹き飛べ」

 

古城は、聞いた事ある少女と悪意ある男の声が聞こえたと思ったら、金のライオンが銀の槍により貫かれる。そして、残った銀のライオンは、虚空から取り出したボウガン型の銃によって消し飛ばされていた。

 

「姫柊!?それに零樹まで!」

「無事ですか、先輩?」

「お前は……厄介ごとに巻き込まれないと生きていけない体質なのか?」

 

「ちげぇーよ!ったく。その悪い姫柊、助かった。けど、姫柊と零樹はどうしてここに?」

 

伏せていた古城は立ち上がって、2人へ訊いてくる。

 

「俺はこっちから呪力が感知されたから向かって来ただけ。後、どさくさに紛れて、古城抹殺計か………今のナシで」

「おせぇーよ!!」

 

零樹は物騒なことを口走っていたが、めんど臭くなったのか古城はそれ以上の追求はしなかった。

 

「先輩を監視していた私の式神が、攻撃的な呪力の存在を知らせて来たので、気になって来てみたのですが……」

「は?監視?式神ってなんだそれ?」

 

聞き捨てならないワードが聴こえた古城から逃げるように視線を逸らした雪菜はギクリと肩を震わせていた。冷や汗を流し、俯く彼女の横顔を古城が無言でじっと見つめると、わざと咳払いをし、開き直ったように胸を張る。

 

「任務ですから!」

「ちょっと待てェ!監視ってなんだ監視って!?」

「(やれやれ、あの両親にはそんな危ない面はなかったのに………あのババァ…ロクな育て方してないな)」

 

古城は今までもずっと監視されていた事実に頭をかきむしりながら怒鳴る。零樹はただ苦笑を浮かべながら、雪菜の師匠なる人物に毒を呟かずにはいられなかった。

 

「先輩を襲った式神は先輩を狙っていたというよりも……」

 

雪菜は呟きながらさっき撃退した式神の欠片を拾い上げ、古城と零樹の前まで持ってくる。

 

「ソレはアルミ箔か。となると、さっきの式神の正体ということになるわけか」

「この式神は本来、遠方にいる相手に書状などを送り届けるためのもので、こんなに攻撃的な術では無いはずですが……」

 

零樹の言葉に雪菜が頷くように同意する。

「そうか」

 

そして、元一般人である古城は詳しい理屈は分からなかったらしく、投げやりに頷くと、下校中とおぼしき女子生徒がこっちを見ている。

 

「すみません、先輩。雪霞狼(せっかろう)を見られました。すぐに捕まえて記憶消去の処置を!」

「いやいや、そんなことをしなくても大丈夫だから!心配要らないって!」

 

「どうしてそんなことが言い切れるんです!?」

 

雪菜は余裕の無い表情で言う。どうやら、今の現状に対して相当取り乱している雪菜をおかしそうに見ていた零樹が口を挟む。

 

「古城の言う通りだ。今の姫柊はチアの服でそんな槍を振り回していたら、ただの痛いコスプレ趣味の女子だと思われているだけだ」

「う……ぐ……」

 

雪菜は自分の服装を見て、反論出来ずに呻いている。ちなみに、零樹は式神を倒し終えたのを確認した後、すぐに転移魔術の応用としてボウガン型の銃を異空間へ収納していたので、ほかの生徒には見られてはいない。

 

「それはそうとして、姫柊の衣装ってもしかして……」

「衣装合わせの途中で抜けてきたんです。あんまりじろじろ見ないでください」

 

プリーツスカートの裾を押さえながら雪菜は、上目遣いで古城を睨む。

 

「いやでもスパッツ穿いてんじゃん」

「それでも先輩は見ては駄目です。目つきがいやらしいです」

「という訳だ。目玉をくりぬけ、変態真祖」

 

「姫柊は失礼だし!零樹はいつも一々物騒すぎるんだよ!!」

 

アクア・エリシオンが作り出す氷並みに冷たい眼差しの零樹に古城は最近になって、雪菜のやり取り後の言葉が物騒すぎることを物申そうとするのだが、なんかを見つけたようで、破壊されたベンチの残骸から拾い上げる。

 

「さっきの式神が手紙を届ける術なら、こいつは俺宛ってことでいいのかな」

 

古城が拾ったのは一通の手紙だった。金色の箔押しが施された豪華な封筒を、銀色の封蝋が閉じている。そこに刻まれたスタンプを見て、雪菜が表情を強張らせ、零樹は両手で顔を覆った。

 

「この刻印……まさか……」

「姫柊?」

「………………今朝の視線はアイツかぁ」

 

刻印を見て動揺している雪菜といつも以上に死んだ瞳になった零樹に古城は困惑する。零樹は、雪菜が動揺するこの刻印の意味を知っている。出来れば一生関わりたくはないが、古城の事を知っているということは、恐らく自分の居場所も知っているだろう、と思ってしまう。というか、オイスタッハとの一件でアクア・エリシオンの力を解放した以上、真祖並みであるアイツが気付かない訳がないことを改めて痛感する。

 

「古城?」

 

そんな時、見知った声が古城たちの背後から聞こえた。

 

「こんなところでなに騒いでんのよ。あんたが何時までも練習に来ないから、捜しに来てやったのよまったくあたしをあんなカップル時空に置き去りにするとはいい度胸……」

「あ、浅葱?」

 

浅葱がバドミントンのユニフォームを着て無表情のまま、立ち尽くして古城と雪菜を眺めている。※零樹は視界に入っているが除外されている。

 

「……その手紙、なに?」

「え?」

「Oh………」

 

彼女に訊かれて、漸くこの状況のヤバさに零樹は気付いた。

放課後の体育館裏に男子二人に女子一人。

そして、古城の手には手紙があり、正面には雪菜(コスプレ状態)。加えて、零樹はその光景を少し離れた所で立っている。

この状況から察するに、雪菜が古城にラブレターを渡すことに成功したが、うっかり零樹が遭遇してしまったということになってしまう。

 

………つまりコレは明らかに告白の場面だ。

 

「もしかして、邪魔しちゃった?」

 

浅葱はぎこちない笑みを浮かべ訊く。零樹は浅葱が古城に気があるのが知っているからこそ、この場面は衝撃だろうなと現実逃避を始めた。

 

「いや、違うぞ。俺が姫柊と此処で会ったのは予期せぬ事故というか緊急事態というか、決してこの手紙を俺たちが渡したり受け取ったりしてたわけじゃなくて………」

 

古城と姫柊が一生懸命説得しようとするが、逆にあの二人の息が合い過ぎて説得力が皆無であり、カップルが言い訳をしているように見えてしまう。というか、何故この2人は口合わせもしていないのに、こうも熟練の夫婦の様に見事なまでに息が合うんだろうかと、零樹は完全に目の前にある現実(修羅場)から逃げていた。

 

「別になんでもいいわよ。あたしには関係ないことだしさ」

 

そう言って浅葱は古城ににこやかに笑ったが、浅葱らしくなく、心に嘘をついた笑みであった。この笑みくらいは流石の古城も分かっているだろうが、明らかに衝撃を受けていた。そんな浅葱は古城達にそのまま背中を向けた。

 

「あたし、帰る」

「あ、おい、浅葱……」

 

古城の制止の言葉をかけるが、浅葱はそのままこの場を去った。

 

「はぁ……かなり面倒なことになったもんだ」

 

浅葱に置いていかれた古城と雪菜の背を見ながら、零樹は天を仰ぎ、そう呟いかのであった。

 

 









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