お待たせして申し訳ありません!
「あの変態に、黒死皇派に加えてナラクヴェーラか。コレは一波乱あるな」
1人、帰路についていた零樹はある時、那月から連絡が入り、少々面倒なことを教えられた。その内容とは、黒死皇派の賛同者がカノウ・アルケミカル・インダストリー社開発部にいたらしく、古代遺跡から出土した石版の文字は、ほとんどが解読不可能だったが、僅かな単語は解読に成功していたらしく、その単語に"ナラクヴェーラ"の文字があったという。
「まさか、あんな物を持ち出してくるとはな……さて、この絃神島は果たして大丈夫なのかねぇ〜」
そんなことを考えながらマンションが見えて来た所で、何故か零樹は険しい表情で振り返る。
「おい、いつまで隠れている気だ?」
「やはり、お気づきでしたか。夜叉神零樹様いえ我が主の最愛の好敵手————
零樹の言葉と共に、物陰から現れたのは柔和な印象を与える自分と同年代の少年であった。しかし、その少年の中にある並大抵の物ではない魔力を感じ取っている零樹は、少年への鋭き眼差しをやめず、いつでも異空間から武器を取り出せる様に構えをとる。
「ご安心くださいませ、零樹様。我が名は、キラ・レーデベデフ・ヴォルティズロワ。我が主ディミトリエ・ヴァトラーから手紙を渡す様に言伝を預かったまでです」
「帰れ。そして、あの変態にクタバレと伝えてくれ」
「ア、ハハ………噂通りの返答ですね……
そう、言わないで頂けますでしょうか」
「俺とあの変態の因縁を知っているのなら、尚更無理だろ。俺は、コレ以上あの変態に関わりたくない!エンガチョ!」
困り果てた笑みを浮かべるヴァトラーの使者は、シッシッと手を振る零樹に懐から手紙を投げ渡す。そして、一直線に向かって来る手紙を零樹は渋々キャッチしてしまう。
「其方の手紙には、今夜開かれるパーティーの招待状に加えて、我が主直筆のラブメールが記載されているとお聞きしております」
「後半の奴はいらん!!ったく、やっぱり俺の所にもきていたか」
「それでは、私はこれにて失礼させていただきます。零樹様」
そう言ってキラは、露骨に嫌そうな顔で手紙を眺める零樹に一礼した後、霧となって、その場から立ち去っていった。キラを見送った後、零樹はマンションへ入り、鍵を開け、自室に荷物を置き、差出人の名前を見ると、キチンとアルデアル公ディミトリエ・ヴァトラーと書かれいるだけでなく、宛名には『我が愛しの夜叉神零樹へ♡』と書かれていた。
「あ゛ぁぁクソ腹が立つ手紙だな。ったく、あのクソ蛇め。まさか、俺の住んでいる場所を特定するとか……ストーカーめ」
すでに少し泣きそうな表情で零樹はため息を吐いて封筒を開け、中を読む。
簡潔に言えば、豪華客船のパーティーの招待状であった。何故か、女性同伴と書かれている。
「女性同伴って……どうするべきか。那月はナラクヴェーラの一件の所為で忙しいし、最近後見人として保護したアスタルテも今は那月と一緒に仕事となると…… 霧葉に頼むべきか…いや辞めておこう。いくら、俺の監視役とは言え、この同伴者としての立場を利用して、アレコレ言ってくるに違いない」
自身の監視役に頼らなければ、最悪の場合、凪沙もしくは夏音が該当するが、いくら何でも此方の事情に巻き込む訳には絶対に行かないため、却下している。
断腸の思いで、自身の携帯にある『妃崎霧葉』という名を見て、深いため息を吐いた後、その連絡先に電話を掛けようとした所で、備え付き電話が鳴り出した。
「……もしもし、夜叉神ですけど、どちら様ですか?」
『…夜叉神零樹様ですか?私はアルデアル公ディミトリエ・ヴァトラーの代理の者であります』
「そうですか。そちらの御用とはなんでしょうか?」
ここに古城や雪菜がいれば、明らかに普段の言動とはかけ離れた零樹の物言いに度肝抜かれるのだが、生憎2人はこの場にいない。
『では、本日の夜にパーティーがあるのですが、女性の同伴を代役で私めが務めさせてもらいますがよろしいですか?』
「そうですか。では、よろしくお願いします。相手が居なくて困っていた所なんです。助かりました」
零樹はそう言うと電話越しの女性は21:00頃にこちらに迎えに行くと言われたので久しぶりにロッカーからしまってあったスーツを取り出し、身だしなみを整えていく。また、書き置きをアスタルテと那月に残しおくのであった。
スーツに着替えた零樹は時間通りにマンションの前で待っていると、黒塗りのリムジンが来て、目の前で止まった。そのリムジンに近付いていくと、ドアが開き、チャイナドレス風の衣装を着たポニテールの女性が出てきた。
「初めまして。アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラーの監視役である獅子王機関"舞威媛"
「此方こそ始めまして、自分の名前は夜叉神零樹と申します。代役の申し出を感謝します」
「いえ、仕事ですのでお気になさらず。では夜叉神様、どうぞこちらに」
「ありがとうございます」
そう言って紗矢華に促されたので零樹は中に入り、続けて紗矢華も入るとリムジンは発進した。
「ったく、あのクソ野郎。何処で俺の居場所を嗅ぎつけやがった……」
苦々しい表情を見せる零樹は発進して数分で愚痴を漏らしてしまい、隣で聞いていた紗矢華はヴァトラーとはそういう縁なのか訊くことにした。
「あの……貴方はアルデアル公とはどんな関係で?」
「ただ殺し合っただけの関係」
「……はぁ!?」
紗矢華はあっけらかんとして言う零樹の言葉に耳を疑った。
「ちょっと世界に絶望して、八つ当たり感覚でそこら辺の奴に片っ端から喧嘩を売っていた時に目をつけられてな。それで、殺し合うことになった」
「アンタ何してんのよ!?」
ヘラヘラしながら爆弾発言をする零樹に対して紗矢華はまたもや驚いてツッコミを入れてしまう。この男はいったい何者なんだと疑問に思っている紗矢華に対して、少し喋り過ぎたなと思い内心面倒くさそうにしつつも零樹は話題を変えることにした。
「そういえばアンタは獅子王機関の舞威媛だったな。そうなると、ウチの後輩に姫柊雪菜っていう剣巫がいるんだが、アンタの知り合いか?」
「雪菜のことを知っているの!?」
「おぉ……ああ。一応後輩だしな。姫柊とはどんな関係なんだ?」
「雪菜とは高神の杜ではルームメイトだったの。あの子は何と言っても性格はいいし、何よりあの素直さが可愛いの!正に天使では!!」
何となく雪菜の名前を出すと、予想以上の紗矢華の食い付きっぷりに零樹は大人しく聞き手に回る。そして、あまりの雪菜のベタ褒めに零樹は目の色を変えて、話を聞く。
「それには激しく同意だ。真面目な上にちょっと天然な所が日常的な可愛さとは異なる可愛さを出してくれる。それに、ちょっと揶揄うと時折フグのように頬を膨らませるなんて、萌え死にする!!」
「……貴方………分かってるじゃない!!」
「「……ッ!!」」
何かのスイッチが入ったのか、同志を見つけたかのように2人はアツい握手を交わした後、目的地に着くまで互いに思う雪菜の可愛さについて意見交換し合い続けるのであった。この様子をミラー越しで見ていた運転手は、この2人…さっきまで初対面だったのにどうしてこうも仲良くなれるんだと疑問に思うのであった。因みに、お互いに雪菜の可愛さを語り合った2人はお互いが持っている雪菜の写真を交換し合うのであった。そして、2人は雪菜に近づく“ある真祖”の抹殺計画を考えるのであった。
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「ははっ、
「やめない。ここで沈んだら、外交問題なるわ」
豪華客船の前まで来て、並んだ二人はそれぞれに思ったことを口にする。雪菜について語り終えた紗矢華は男と話すのは嫌悪感を与えるが、不思議と零樹は平気となっていた。理由は明らかなのだが、2人はそれに気づいていない。
「そういや、アホの古城と姫柊は来ているのか?」
「……ええ、来ているわよ」
ワザと古城の名前を出すと、紗矢華は苦虫を噛んだような顔になった。雪菜を大事に思う同志であるため、紗矢華の気持ちを深く理解しているかのように何度も頷く。
「アルデアル公の場所まで案内するからついて来て」
紗矢華を先頭に豪華客船の中に入って行く。戦闘狂の変態とは言え、伊達に"旧き世代"の吸血鬼であるため、この場にいる奴らは皆ニュースなどで見たことがある有名人ばかりである。大物政治家や経済界の重鎮、政府や絃神市の要人たちなどがわんさか居る。
「アイツは……アッパーデッキか」
「分かるの?」
「あのバカと違って俺には魔力感知など造作も無い」
零樹たちはアッパーデッキに向かって歩き、目の前に古城と雪菜がいた。丁度二人は手を繋ごうとしている瞬間だ。
「「殺!!」」
それを見た紗矢華と零樹は、テーブルにある銀色のフォークやナイフを殺気を放ちながら古城に向かって投げる。
「せいっ!」
「クタバレ!」
「うおっ!?」
古城がいた場所にはいくつものナイフやフォークが突き刺さる。一本も刺さらなかったことに内心悔しげな零樹と紗矢華は、別に何でもないように振舞っている。
「失礼。つい、手が滑ってしまったわ」
「悪意はある。許せ」
「どう手が滑ったら、フォークを他人に向かって投げつけるのか、ぜひ教えて欲しいんだが……てか、なんか今、掛け声っぽいものも叫んでいたよな!?というか、零樹はもう少し隠す努力しろ!後、ダチを殺そうとするな!!」
「あなたが、下劣な性欲を剥き出しにした手で雪菜に触れようとするからよ、暁古城。いえ、変態真祖」
「煌坂に激しく同意する。こんな場で発情しやがって、クソ暁」
異空間から取り出した刀を手に取り、殺気を放ち、瞳を真紅に染め、ヤル気満々な零樹に古城は身の危険を感じ取る。
「というか、お前も来てたのかよ!後、刀をしまえ!怖ぇーよ!」
「…ちっ、仕方ない。俺もあのクソ野郎に招待されたんだよ。言わせんな」
本当に嫌そうにする吐き捨てる零樹に古城は苦笑し、紗矢華は未だに古城を睨んでいる中で、
「紗矢華さん!?」
「雪菜!」
今まで呆然としていた雪菜が驚きのままに紗矢華の名前を発する。すると、紗矢華は満面の笑みで一瞬で雪菜に抱きついた。本当に仲が良い相手がいたんだなと何処か安心したかのように零樹は二人を眺める。そんな零樹などつゆ知らず古城は二人が知り合いな事に驚いている。
「久しぶりね、雪菜。元気だった!?」
「は、はい」
突然の再開に雪菜が戸惑っていたが、そんなの関係無しに紗矢華は首筋にぐりぐり押し付け、若干危ない言葉を口走り始めながら暴走する紗矢華の頭にチョップする形で停止させる。
「少し落ち着け。ちょっと苦しそうだ」
「あたっ!?」
「もう少し優しく止めなさいよ!」
「(気持ちは分かるが)暴走しているお前が悪い」
古城は紗矢華が誰なのかを雪菜に訊き、一端落ち着いた紗矢華が古城を罵倒し、古城もムキになる、という全く話が進まない状況になっている。そんな中、古城は諦めたかのように会話の終わりを切り出す。
「もういいや。さっさと案内しろよ」
「言われなくても連れて行ってあげるわよ。だからさっさと死んでちょうだい」
「灰になれ」
「やめろ!2人して!!」
「夜叉神先輩、少し静かにして下さい」
「………はい」
広大なデッキに上がると、そこには純白のコートを纏った金髪碧眼の青年が居た。そして、青年は口角を上げると、同時に零樹と古城に向けて炎の蛇と冷気を纏った蛇、二体の眷獣を放つ。
「……クソが」
「ぐお……っ……!」
零樹は自身に迫ってきた青い蛇を魔力を纏った手刀で一刀両断し、古城に向かった炎の蛇は、どうやら血が勝手に反応したらしくて古城の全身から雷光が放たれ、蛇を迎え撃った。
「あっ……ぶねぇ!なんだこれっ!?」
「相変わらず……手洗い歓迎だ」
主に古城の所為で焼け焦げた看板と青年を見ながら、再び異空間から刀を取り出し、攻撃を放ってきた張本人である青年を睨みつける。そして、睨まれている青年は零樹と古城に攻撃を防がれたことを喜んでいる。
「いやはや、お見事お見事。この程度では傷つけることすら叶わないネェ」
青年は古城の目の前にきて片膝を付き、恭しい貴族の礼をとった。
「御身の武威を検するがごとき非礼な振る舞い、衷心よりお詫び申し奉る。我が名はディミトリエ・ヴァトラー。我らが真祖"
「あんたが、ディミトリエ・ヴァトラー……か?俺を呼びつけた張本人の?」
古城はヴァトラーにそう尋ねた。
「初めまして、と言っておこうか、暁古城。いや、"
「はい!?」
「…………はぁ」
「えぇ……」
「おぇっ」
ヴァトラーはまるで古城を愛しげに見つめ、迎え入れんとするかのように両手を広げる。その行為に呆れる紗矢華は首を振り、雪菜は唖然とし、零樹は吐き気を覚えた。そして、零樹は自身にとって今日が苦労の耐えない日であることを痛感する。
「おいクソ蛇……古城の処理能力が追いついていないから辞めろ。そして、クタバレ」
「ふふ、相変わらずだネェ。牙はまだまだ抜けていないようで安心したよ、零樹」
ヴァトラーは今度はこちらに向かって古城の時と同様に片膝を付ける。
「先ほどの非礼をお詫び申し奉る。再びお目に掛かることが出来、光栄の極み————我が最愛の好敵手“
ヴァトラーの言葉にある“
あっさりとバラす上に嫌なワードを付け足しながら、挨拶をするヴァトラーにいつも以上に死んだ瞳で睨む零樹であった。
余談ですが、霧葉は零樹の監視役です。
ネタバレですが次回、登場予定です!