ストライク・ザ・ブレイヴ   作:黒丸助

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episode 03

「……まだ頭が痛い」

「自業自得だ、古城」

 

「理不尽だぁ」

 

現在、古城と零樹は中等部の校舎に向かって歩いている。

先ほど古城の追試試験が終わり、昨日零樹が去った後、獅子王機関の剣巫である雪菜が落としたサイフを届ける為に歩いている。何故、古城が額を押さえているのかと言うと、先ほど那月を「那月ちゃん」と呼んでしまったため、「教師をちゃん付けで呼ぶな!」と言われて黒レースの扇子を一閃されたからだ。その際に零樹もちゃん付けで呼んでいたが、スルーされているため古城は理不尽とも言える格差に嘆いている。普段の零樹は、那月のことを呼び捨てに呼んでいるが、教師と生徒が下の名前で呼び合うと中々面倒なことになるのを避けるために学校では零樹はちゃん付けで、那月は苗字で、呼び合っている。しかし、零樹が校内で唯一ちゃん付けを許されている生徒であるため、そう言う噂が校内に広まってしまっていることを2人は知らない。

というか、気づいていない。

 

「見つからないねえ……」

「せめて連絡先が分かるものでも入っていれば……」

 

そんなことを呟きながら古城はサイフを開いて見ている。

 

「う……」

 

そして、突然古城は呻いて自分の口元を覆った。そんな古城の様子が変容した真意に気付いた零樹は絶対零度とも言える冷めた視線を向ける。

 

「財布の匂いで吸血衝動が起こすとか、随分とマニアックな性癖だな。暁」

「仕方ないだろ!うまく制御できないんだよ!後、俺はそんな性癖は持ってねぇー!至ってノーマルだ!!」

 

「黙れ変態。近寄るな、変態が移る」

「移るかよ!!人を病原菌みたいに言うな!!」

 

「変態は否定しないのか」

「あ゛ぁぁ面倒くせぇ!!」

 

古城は暫く零樹に煽られていたが、漸く落ち着いたらしくため息を吐きながら、距離を取る零樹に対するツッコミを諦める。

 

「女子のお財布の匂いを嗅いで興奮するなんて、あなたはやはり危険な人ですね」

「そうそう、コイツはとんでもない程救いようのないアブノーマルな吸血鬼だ」

「やかましいわ!!」

 

いつの間には近くに来ていた少女に気づき、古城は驚く。

 

「姫柊……雪菜?」

「はい。なんですか?」

 

雪菜は返事をしながらも、零樹同様に蔑むような視線に加えて、冷ややかな口調とのダブルコンボによって、古城は気まずそうにしていく。

 

「どうしてここに?」

「それはこちらの台詞だと思いますけど、暁先輩?ここは中等部の校舎ですよね?」

 

「うぅ……」

 

雪菜の冷静な指摘に何も言い返せない古城に、はぁ…と呆れたようにため息をつく。

 

「それって、わたしのお財布ですね」

「あ、ああ。そう、これを届けに来たんだった。けど今日は笹崎先生が休みだって言われて」

 

雪菜が差し出したポケットティッシュを古城は受け取り頷く。

 

「それで匂いを嗅いで、鼻血を出すほど興奮してたんですか?」

「事実そうだったしな、弁明はなしだ。ったく、日中から発情しやがって……腐れロリコンが」

 

「誤解をまねくようなこと言うんじゃねぇよ、零樹!!後、俺はロリコンでもねぇよ!」

 

零樹の言葉によって、雪菜が古城を見る目が一気に冷たくなる上に僅かに身構えている。実際、零樹は古城と雪菜の反応を見て遊んでいるのだが、古城と雪菜は気付いていない。

 

「俺はただ昨日の姫柊を思い出して――」

 

すると一瞬、雪菜が硬直したと思うと制服のスカートを抑えて後ずさりながら、トマトのように顔を赤面に染める。その反応を見て、零樹はそんな反応をさせる出来事を心の奥底からふつふつと湧き上がる怒りで詳しく知りたくなった。後で根掘り葉掘り訊き、内容によっては古城をボコることも考えていく。

 

「き、昨日のことは忘れてください!!」

「いや、忘れろと言われても……」

 

「忘れてください」

「…………」

「暁……今度から友人としての付き合い方を改めさせて貰うからな」

 

「だから違うって!!アレは自然現象というか、仕方がないというかで……というか、既に苗字呼びの際で距離を露骨に感じるんだが!!」

 

雪菜に睨まれた古城は黙って肩をすくめ、ハイライトが消えている零樹の視線に恐怖を感じ始める。

 

「お財布も返してください。そのつもりでここに来たんですよね」

 

静かな口調で告げる雪菜。しかし古城は、その要求に応じないで財布を高く掲げ姫柊が届かないようにする。これにより、雪菜と古城は身長差があり、跳んでも届かない。

 

「その前に話を聞かせてもらいたいな。おまえいったい何者だ?なんで俺を調べてた?」

「……わかりました。それは、力ずくでお財布を取り返せという意味でいいんですね」

「此処いらで暴れるなよ」

 

零樹の忠告が聞こえていない雪菜がギターケースに手を伸ばす———が、グルグルグル……という低い音で動きが止まる。古城は無言で眉を寄せ、静観していた零樹は苦笑を浮かべてしまう。そして、彼女の頬は羞恥で先程よりも真っ赤に染まっていく。

 

「えーと……もしかして、姫柊、腹減ってるの?」

 

硬直したままの雪菜に古城が訊く。

 

「お前には、デリカリーってものがないのか……古城よ…死ねよ」

「言い過ぎだろ!?聴いただけで!」

「だ、だったらなんだっていうんですか?」

 

古城の監視に来た雪菜は、この時期に転校してきたのであろう彼女に金を貸してくれるような友人はまだいないため、昨日からおそらく何も食べてないことを零樹は推測する。そんなことを思っている零樹を置いて古城は、財布を雪菜の前に差し出す。

 

「な、なんですか」と動揺しながらも、警戒の表情を崩さない雪菜。

 

「昼飯、おごってくれ。財布の拾い主には、それくらいの謝礼を要求する権利があるだろ」

「……後輩に飯を奢らせるとは、最悪だな……首を出せ」

「恐ろしいことを口走るなよ!!後、どっから出した、その刀!?しまえ!!」

 

何処からか取り出した刀を抜こうとする零樹を慌てて止め、古城は雪菜と共にハンバーガーショップへと向かおうとするため零樹はため息を吐いて二人について行くのであった。また、行く道中において零樹と雪菜は互いに自己紹介を行った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

零樹、古城、雪菜の3人が訪れた場所は、絃神島南地区にある大手チェーンのハンバーガーショップである。一行は窓際のボックス席に腰を落し、

古城と零樹の向かいに側に座る雪菜は、行儀よく両手でテリヤキバーガーを掴んで、幸せそうに頬張る。

 

「姫柊もハンバーガーを食べるんだな。 こういう店とは縁がなさそうなイメージだったから」

高神(たかがみ)(もり)がある街は都会じゃありませんが、ハンバーガーくらい売ってますよ。よく食べには行きませんけど、偶に仲のいい友達と行きますから」

 

心外だと言わんばかりに少々頬を膨らませる雪菜に零樹は何処か、おかしそうに口元に笑みを浮かべ始めていく。そんな自分の表情を見られたくないのか、慌ててドリンクで口元を隠す。このため、零樹の表情の変化は古城たちにはバレずに済む。

 

「高神の杜? 姫柊が前にいた場所か?」

「はい。 表向きは神道系の女子校ということになってます」

 

「表って事は、裏があるのか?」

「……獅子王機関の養成所です。 獅子王機関のことは知っていますよね?」

 

「いや、知らんが」

 

古城の言葉に、雪菜はどうして知らないの?と言いたげな表情を浮かべ、零樹は呆れたように溜め息を吐く。

 

「いいか、古城。 獅子王機関っていうのは、国家公安委員会に設置されている特務機関だ。ちなみに、攻魔官とは商売敵だから仲は宜しくない」

 

「少々、否定しがたい所も含みますが、夜叉神先輩の言う通りです。 獅子王機関は、大規模な魔導災害や魔道テロを阻止する為の情報収集や謀略工作を行う機関です。 元々は平安時代に宮中を怨霊や妖から護っていた滝口武者が源流(ルーツ)なので、今の日本政府よりも古い組織なんです」

「……要するに、公安警察みたいなものか」

「そんな感じの物と思え」

 

古城も、一応納得したみたいだった。

 

「養成所から来たってことは、姫柊も獅子王機関の関係者なわけだ」

「はい」

 

「だったら姫柊が俺を尾けてたのはどうしてだ?魔導災害やテロの対策なら俺とは関係ないだろ?」

「あの、暁……先輩?ひょっとしてご存じないんですか?」

 

「ん?なにをだ?」

 

そこで、零樹は思い出したかのようにポンと手を叩き改めて古城に教える。

 

「そういえば、言ってなかったな。お前を含む真祖たちの力は1人で一国の軍隊と同格にされる。だから、お前個人だけでテロや災害に近い対応がされるんだよ」

「人間扱いどころか生物扱いすらしてもらえないって……っていうかもう少し早く言ってくれよ!!」

 

「言うの忘れてた。吸血鬼童貞(ブラッド・チェリー)のお前相手なら、それなりに対処できるから教えてなかったな」

 

心の籠もってない謝罪をし恨めしそうに古城が見ているが無視を決め込むため零樹はドリンクの他に頼んだミルクシェイクを飲む。ちなみに、零樹は自分の代金で注文している。

 

(まぁ、それ以前に俺の存在は真祖以上に危険かもしれないな。俺の存在理由が公になれば世界的に大混乱に起こること間違いなしだから。加えて、力の大半を封印した俺では、真祖どもと戦えば余裕で負けるからな)

 

現状を考えて、真祖たちの戦いを避ける方針で零樹は考えを改めていると、雪菜は思い出したように話に付け加える。

 

「それと、真祖以外に“とある吸血鬼”も適応されています」

「ある吸血鬼?誰だ、そいつは?」

 

自分を含む真祖以外にも生物扱いを受けていない吸血鬼など知りもしないため古城は首を傾げる。

 

「古の神々だけが持つとされる神格を持ち、真祖たちと同等の力も持ちながら真祖でも神でもないと言われている吸血鬼————— “光導の顕主(ゾディアス・ノート)”です。コレはどんな姿をしているのかも、獅子王機関では認知していませんが、この島に潜伏しているとの情報も出ています」

「おいおい大丈夫かよ…そんな危ねぇ奴が野放しで」

「お前が言える立場か」

 

零樹の鋭い指摘に対し、思うところがあるため古城はバツが悪そうに顔をしかめてしまう。

 

「ま、まぁ他の真祖やその吸血鬼はともかく、俺は何もしてねぇぞ。するつもりもねーし、支配するような帝国なんてどこにもねーし」

「そうですね、わたしもそれを訊きたいと思ってました。先輩はここで何をするつもりですか?」

 

「何をする……って、なんだ?」

「正体を隠して魔族特区に潜伏しているのは目的があるんじゃないですか?絃神島を影から支配して登録魔族を自分たちの軍隊に加えようとしているとか。あるいは自分の快楽のために彼らを虐殺しようとしているとか……なんて恐ろしい!」

 

どこか暴走しているような雪菜がヘンなことを口走っている。古城はため息を吐き、零樹は彼女の暴走の仕方が面白くて仕方がないのか笑っている。

 

「いや、だから待ってくれ。姫柊はなにか誤解してないか?」

「誤解?」

 

「潜伏するもなにも、俺は吸血鬼になる前からこの街に住んでいるわけなんだが」

「……吸血鬼になる前から……ですか?」

 

姫柊は信じられないような顔をで古城を見る。

 

「そんなはずはありません。第四真祖が人間だったなんて」

「え?いや、そんなこと言われても実際そうなんだし」

 

「普通の人間が、途中で吸血鬼に変わることなどあり得ません。例え吸血鬼に血を吸われて感染したとしても、それは単なる"血の従者"——擬似吸血鬼です」

「いや、このバカは3ヶ月前まで人間であったが、今は正真正銘“第四真祖”だ」

「おい、心外だぞ」

 

「本当なんですか?」と零樹の言葉に信じられないと言いたげな表情を浮かべ雪菜は反応する。

 

「本当なんだが……悪いけど詳しいことは俺にも説明出来ないんだ。俺はただこの厄介な体質をあの馬鹿に押し付けられただけだからさ」

「押し付けられた?……それにあの馬鹿というのは誰ですか?」

 

「第四真祖だよ。先代の」

「先代の第四真祖……!?」

 

雪菜が愕然として息を飲む。

 

「まさか、本物の"焔光の夜伯(カレイドブラッド)"のことですか!? どうして第四真祖が暁先輩を候補者に選ぶんですか?そもそもなぜあの"焔光の夜伯(カレイドブラッド)"に遭遇したりしたんです?」

「いや、それは……」

「古城!!思い出そうとするな!」

 

古城がなにかを思い出そうとすると急に顔を顰め、激しい頭痛によりテーブルに顔を伏せ出す。

 

「せ、先輩!?夜叉神先輩…コレはいったい…?」

「古城は、先代から力を受け継いだ時の記憶が欠落してるんだよ。 無理に思い出そうとすると、今みたいな激しい頭痛に見舞われることになる」

 

「そう……なんですか? わかりました……それじゃあ、仕方ないですね」

 

頭痛から解放された古城が、顔を顰めつつも零樹に聞いてきた。

 

「……なぁ零樹…零樹は何でオレが真祖になったかを知ってるのか?」

「あぁ、知っている。俺もその場にいたからな。古城はもう覚えていないと思うが」

 

「「なッ!?」」

 

思っていなかったのか、古城と雪菜は驚愕の声を揃って上げる。

 

「だが、俺の口からアイツのことを勝手にベラベラと話す気はない」

 

驚愕する2人に対し、零樹はまるで警告するように“その日”の詳細の開示を拒絶の意思で示す。しかし、雪菜は身を乗り出すように零樹に近づき、

 

「その日、何があったんですか!? 教えてください」

 

真実を確かめるために情報の開示を懇願する。

 

「まだ思い出せない古城に加えて、部外者のお前にはアイツ…アヴローラのことは教えん………絶対に」

 

自分が何度聴いても零樹は絶対に話さないと悟った雪菜は、何か言おうとしたが、その言葉を飲み込み話を変える。

 

「私、獅子王機関から先輩、暁先輩のことを監視するように命令されたんですけど……それから、もし先輩が危険な存在なら抹殺するようにとも」

「ま……抹殺!?」

「だろうな」

 

平然と告げられた言葉を聞き古城は硬直し、零樹は推察していたため動揺はしなかったが、2人が戦うことは避けたいと思うであった。

 

「その理由がわかったような気がします。 先輩は少し自覚が足りません。 とても危うい感じがします。 なので、今日から私が先輩を監視しますから、くれぐれも変なことはしないでくださいね。 まだ、先輩を全面的に信用したわけではないですから」

「監視……ね」

 

何処か納得し切れてはいないが妥協として、無理矢理自分を納得させると古城は肩の力を抜いた。監視役である雪菜は悪い人間ではないし、古城は、監視されても困る点はないと思うであった。後に、色々後悔することとなるのだが、それはまた別のお話。

 

「そういえば、夜叉神先輩って何者なんですか? たった一太刀で眷獣を斬り捨てる腕前に加えて、私たちの近くに一瞬で転移できる魔術、そして、一瞬だけでしたが、微弱に魔力も感知しました」

「ほぅ、あの状況でよく見ていた中々の腕前だな。このバカの監視役に選ばれるだけのことはあるな」

 

「い、いえ!?そんな私なんて……」

「姫柊……話そらされてるぞ」

 

雪菜は先日の戦闘を思い返し、不審に思った点を聴いてみると、突然の褒め言葉を受け、頬を赤く染めながら嬉しそうに顔になる。そんな雪菜を現実に引き戻すため古城は、助け舟を出す。

 

「あっ!?」

「くくくっ、面白いな姫柊は。揶揄いがいがあるよ。おいおい、そんな目で見るなよ美人が台無しだぞ」

 

自分が零樹に遊ばれていることに気を害した雪菜は、キッと零樹を睨む。加えて、心なしか少し頬を膨らませてもいるため迫力がゼロである。

 

「なぁ〜に俺は、ちょっと強いだけのミステリアスな吸血鬼であり、空隙の魔女——南宮那月にこき使われている可哀想な迷える仔羊だ。後、俺はこの島に引き篭もっていたいから、ことを荒立てる気はないさ。それに、俺が何かしようとすれば、那月が止めに入るから」

「……分かりました。夜叉神先輩が少々意地悪な人でありますが、今の所はそれで納得しておきます」

「明らかに子羊の皮を被った番犬だろ……」

 

「古城……この前奢った金…五倍返しな」

「ふざけんなっ!!浅葱の食費だけでハンパねぇーのに五倍とか鬼か!?」

 

「残念だな俺は吸血『鬼』、鬼違いだ」

「うるせぇ————!!」




会話の中で零樹がポロリと那月を呼び捨てで呼んだことに後で気づいた古城は、本当に零樹と那月はデゥキテルゥ〜〜と本気で疑問視するのであった。


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