「やっぱり暑いな、エアコンが効いていてもこの暑さ…ホント、この島は色んな意味で最悪だ」
「そんなに嫌なら、私とのパスを切って、また見聞を広める旅に出たらどうだ?」
古城を煽り倒した朝から時間が過ぎ去り、昼休みとなったことで零樹は昨晩での事件の詳細を雪菜と古城を加えて話すために生徒指導室にいた。そして、隣に座りながら熱めの紅茶を飲んでいる那月が、悪そうな笑みを暑さにボヤく零樹へ送る。那月の笑みに含まれている意味を理解しているため零樹は露骨に嫌そうな顔へとなっていく。
「やめてくれ、
「……また、あの男と話したのか?」
突然、意地悪そうな笑みを引っ込めて、自分を引き取ってくれた時から見せてくれる子を想う母の様な心配げに見つめてくる那月に対し、夢の中であったことを零樹は正直に話す。
「あぁ、そろそろ答えを出せって言われたよ」
「…………そうか…」
自分自身が、零樹と監獄にいる男との間に入ることができないことは重々承知しているのだが、それでも弟のような存在である零樹に対し何もしてやれない無力感は消えるものではなかった。
そのため那月は、自分の感情を悟らさないように眼を伏せながら紅茶に口を付ける。そんな那月の心情を察している零樹は、ポンと彼女の頭に手を置くと幼い頃に自分にしてくれた様に、優しく彼女の頭を撫でた。
「ありがとうな、那月。那月が近くにいてくれているおかげで、まだ俺は答えを迷えるんだ」
歳下でもある零樹に頭を撫でられながら、慰められたことを恥じる那月は、容赦なく彼の両眼を目潰しする。
「///女の頭を気安く撫でるな!!こんのマセガキがっ!!」
「あ゛ぁぁぁぁ!!眼がァァァァァァァァァァ!!」
椅子から倒れる様に、その辺りで痛みに転げ回る零樹を滑稽な眼で見下ろしつつも、自分の頬が何故か紅くなっているのを誤魔化すため紅茶を一気に飲み干す。ちょうどその時、ドアがノックされ古城と雪菜が入ってくる。しかし、ドアがノックされる頃には既にいつも通りの那月になっていたが、零樹はまだ痛みに転げ回っている。
「来たか、暁に転校生」
「失礼しま〜すって!?うぉっ、零樹!?何で転げ回ってんだよ!?」
「や、夜叉神先輩!?どうしたんですか?」
「な、那月ちゃんに暴力を振るわれたぁぁ……」
両眼を抑えながら床で倒れ伏している零樹を見下ろしつつ、入ってきた古城と雪菜は助けを求めるかのように那月へと視線を向ける。しかし、那月は2人の視線に応えることはせず、扇子で自分と対面式に座るように促す。そして、暫くして、眼の痛みから解放された零樹(両眼充血状態)と那月の2人と対面式に座り、話を聴くのであった。
那月が古城たちを呼んだのは最近魔族狩りをする人物がいて、被害人数も相当な数になっているから、吸血鬼である古城に注意を促すためでもあった。そして、恐らくその人物とは、昨晩のロタリンギアの殲教師であるオイスタッハと
「という訳だ。この事件が片付くまでは、暫く昨日のような夜遊びは控えるんだな」
「い、いや、夜遊びとは言われても、なんのことだが」
「要は、凪沙ちゃん達と普通の学生生活を満喫しろってことだ。後、また姫柊と夜遊びしたら古城は屋上からヒモなしバンジーな」
「死ぬわ!!」
ようやく事件の話しが終わり、那月と零樹が昨夜の夜遊びを注意していた。というか、零樹に至っては死刑宣告をしていたのが…スルーしよう。
「……ふん、まあいい。とにかく警告はしたからな……ああ、そうだ。ちょっと待て、そこの中学生」
雪菜を呼び止め、懐にしまっていた何かを投げて渡した。雪菜は反射的に受け止め、それを見ると小さなマスコット人形の姿があった。
「……ネコマたん……」
「忘れ物だ。そいつはお前のだろう?」
受け取った雪菜と那月は意味不明な緊張感の中で睨みあう。そんな2人を零樹は呆れたような顔で眺めながら、冷えた紅茶を啜る。やがて雪菜が会釈し、古城と共に出て行った。
「さて……零樹。お前、奴らの目的は分からんでも話に聴いた殲教師がどんな心情で動いているのかは察知できたのだろ?」
「アレはどう見ても、あのオイスタッハを名乗っている殲教師は怒りで動いている。しかし、あの子……アスタルテって言う眷獣持ちの
那月の指摘に零樹は肩を竦めて答えるのだが、その表情は至って真剣なモノであった。
「俺が分かるのはここまでだ」
「厄介なのは、殲教師よりもやはり眷獣持ちの方だな。しかし、いくら他者から魔力を喰っていても限界がある。近日中には、何か大きなことをしでかしそうだな」
本来眷獣というのは、不老不死である吸血鬼にしか宿すことが出来ない。それは前提条件でもある。ただの人間や獣人が宿せば、瞬く間にその寿命を眷獣に喰われ、死滅する。しかし、アスタルテは激しい戦闘を繰り広げても、まだ寿命が尽きる気配はまだ無かった。
「とは言え、何処に隠れているのかは今の所不明。奴らが潜伏しそうな場所の目処は多々あるから、虱潰しに探していくしかないな」
「ああ。それにこの事に関わるなと暁のバカや姫柊雪菜に言ったがあいつらの性格上、間違いなくこの事件に介入してくるぞ」
ある程度、教師と言う立場から生徒の性格を認知している那月は大きくため息を吐き、黒いレースの付いた扇子で机を軽く叩いた。
「全く、面倒な……いいか零樹。昨晩にも言ったが、お前は暁古城と姫柊雪菜を監視しろ。もう……戦闘をするな、もしも戦うことになっても2人と逃げる事だけを考えろ。お前があの蛇ではなく他の眷獣を解き放てば、間違いなく監獄にいるあの男の配下の者達はココを嗅ぎ付けるぞ」
「…………約束はできないけど…善処はするよ」
そう言って零樹は指導室を出て行くのであった。そして、誰もいなくなった教室で那月は、この一連の事件の結末を予期するかの様に悲痛な眼で窓の外の青空を覗きながら、ポツリと呟く。
「………お前がそう言う時は、大抵私の言いつけを守れないという意味ぐらいいい加減私だって分かっているのだぞ」
★★★★★★★★★★★★★
「さて、あのバカどもは何処にいるのやら」
零樹は、現在、とあるビルの屋上でどうやって教室に居なかった古城達を見つけようかと模索している。暫く1人でに考えた後、いい案が浮かばないため最後の手段として、ある人物に電話をかける。
『もしもし、零樹?あんた学校ズル早退して、何やってんのよ』
零樹が連絡したのは、同じクラスであり、スーパーハッカーでも浅葱であった。そして、零樹は古城がオイスタッハ達を調べるために必要な情報を探る相手として助力を求めた相手であろう浅葱に探りを入れる。本来なら、一般人である浅葱を巻き込まずに探したかったのだが、背に腹は変えられなくなってきた。
「那月ちゃんの手伝い中だ、こんにゃろう。それよりアホの古城はいるか?」
『はぁ!?古城?あんな奴知らないわよ!!あたしにロタリンギアの運営している会社を調べさせてどっか行ったわよ!!」
姫柊が関与していると勘付いてご機嫌斜めになっているため浅葱の怒鳴り声が大ボリュームで零樹の耳へ入る。
「うぅ、耳がぁぁ。ろ、ロタリンギア?すまない、その詳細を俺にも教えてくれないか?」
『はぁ、ちょっとスッキリした。別にいいわよ。確か、スヘルデ製薬の研究所。主な研究内容は
人工生命体を利用した新薬実験ということは、あのアスタルテという少女の調整に持ってこいの場所だ。昨夜のオイスタッハに関する情報を整理していた際にそれらしい名前は見たが、どうやら徹夜の影響で頭の片隅へ放り出されていた様だ。
「あんがと、礼の方はあのバカの財布でするわ」
『よし!褒めて遣わすわ零樹!』
浅葱へ感謝の言葉と共にここに居ない古城への請求を述べ、スヘルデ製薬の研究所に向かうのであった。
★★★★★★★★★★★★★
「……先輩」
生気が失われ蒼白な表情で雪菜は床に座り込んでいた。
古城と雪菜は浅葱の情報を元に、スレルベ製薬の研究所へ乗り込んで、アスタルテとオイスタッハと戦っていたのだが、その結果は敗北。
古城は雪菜を庇い、オイスタッハが振り下ろした
「……ったく。だから、関わるなって警告したのに、バカ古城が」
哀しみと絶望にくれる雪菜が振り返ると、そこには、
「…夜叉神…先…輩……?」
正体不明の吸血鬼である夜叉神零樹がいた。
「夜叉神先輩!!先輩が、先輩が、暁先輩が!」
「一旦落ち着け、姫柊。
「えっ!?そ、それは、どういう……」
零樹の言葉の真意を理解できなず困惑する雪菜が古城の屍に視線を戻すと、彼の傷がどんどん修復されていき、流れ出ていた血も時間が戻ったように体内に逆流していく光景が広がっていた。
「第四真租は、他の吸血鬼と違って規格外な存在だからな。これぐらいの傷では死なないさ。さーてと、俺は殲教師の所に向かうから、古城が起きたら学校に帰れよ」
「夜叉神先輩はど、どうするつもりですか?」
「ケジメをつけに行く。俺が迷っていた際とは言え、ダチがこんな目にあったんだ。俺なりの落とし前をするために行く………………それに、あの殲教師はとうとうお前を泣かせたんだからな」
最後の方は聴き取れなかったが、零樹の声音からして果てしない怒気が含まれていたのを感じ取った雪菜は、未だに眠っている古城の頭を膝に乗せ、何処で見たかの様な錯覚を覚える彼の背中を静かに見送るのであった。
光すら届かぬ海中深くに造られたその場所は、正に永遠の牢獄のようにも思われる場所であった。
キーストンゲート最下層があるのは海面下200メートル————海の中で、高い水圧に耐えるために円錐形の外壁は、神話の中に登場するバベルの塔、童話の中に存在する喋る猫仙人が待つ塔にも似ている。
そして、この階層の役割は四基の人工島ギガフロートから伸びる連結用のワイヤーを調律することで、島全体の振動制御を行っている。つまり、この階層は絃神島にとって命とも言える場所でもある。さらに、ゲートの壁を経由して届いたワイヤーケーブルは、この最下層にまで巻きつけられている。圧倒的な鋼の質量と、爆発的な力を秘めた駆動機関の威圧感に加えて建物を包み込む強烈な水圧が存在する。
その最下層の厚さ約70cm程の機密隔壁が、悲鳴のような軋み音を上げて、虹色に輝く人型の眷獣がこじ開けられてしまった。虹色に輝く眷獣の胸の中心には、藍色の長髪に薄水色の瞳を持つ、眷獣を寄生させられた
その彼女の背後から姿を現したのは、法衣をまとった屈強な体つきの男————ロタリンギア殲教師ルードルフ・オイスタッハは、感慨深げに最下層をゆっくりと見渡していく。
「
自らの眷獣に取り込まれたままの姿で、感情を感じさせない虚な瞳でアスタルテが告げる。宿主の寿命を喰らい続ける眷獣の力を使いすぎた影響によりアスタルテは完全に感情を失いつつある。
しかし、オイスタッハは、自らが産み出したアスタルテに一瞥もくれずに、最下層の中央、四基のギガフロートから伸びる四本のワイヤーケーブルの終端であり、全てを固定するアンカーの小さな逆ピラミッドの形の金属の土台に近づく。彼の視線の先であるアンカーの中央には一本の柱が杭のように貫いている。その直径は僅か1メートル足らずしかない。だが、それこそが絃神島を連結させる黒曜石に似た質感の半透明の石柱———
「お……おお……」
要石を肉眼に捉えたオイスタッハの双眸から涙が、さらに彼の口から正に悲漢と歓喜の声が同時に漏れる。
「ロタリンギアの聖堂より簒奪されし不朽体……我ら信徒の手に取り戻す日を待ちわびたぞ!アスタルテ!もはや我らの行く手を阻むものはなし。あの忌まわしき楔を引き抜き、退廃の島に裁きを下しなさい!」
狂気に刈られたかの様に突然高らかな笑い声を上げながら、オイスタッハが従者であり道具であるアスタルテに命じる。しかし、アスタルテは動かなかった。実体化した眷獣の鎧に包まれたまま無表情にある事実を告げる。
「
「なに?」
巨大な戦斧を握りしめて、膝をついていたオイスタッハは立ち上がった。彼には既にアスタルテの命令拒否にの理由に気付いていた。要石によって固定されたアンカーの影に、誰かがいるということを。
「ルードルフ・オイスタッハ。悪いがこれ以上貴様の好きにさせるワケにはいかなくなった。悪いが貴様の願いも無に返させてもらう」
正体不明の吸血鬼—————夜叉神零樹が不適な笑みを浮かべて告げる。
次回には零樹の眷獣もといい皆さんお待ちかねの12宮Xレアが、本当に登場します!!
さて、だれが来るのか予想してみて下さい。