「なるほど。お前の持つ果てしない怒りは、こう言う意味だったんだな」
アスタルテとは違う意味で感情を感じさせない死んだ瞳のまま、零樹はキーストーンの半透明な石の中には、ミイラのように乾涸びた誰かの"腕"へと視線を移す。
「……お察しの通りです。例え、あなた程の吸血鬼が我が道を阻もうとも、我らの悲願の達成まで後少し。邪魔立てをするのならば排除するまです!!やりなさい!アスタルテ!!」
「
そして、感情が消えつつあるアスタルテが悲しみに震えるかのような声で答えた。すると、彼女の眷属は虹色に輝き出し、魔力が勢いを膨れ上がらせていく。そんな現状に零樹は全く慌てる素振りを見せず、一度目を閉じると深呼吸する。
「…もう闘うことから逃げるのはやめだ……それに真祖と並んでいた、
開かれた零樹の双眸が漆黒から真紅へと変化し、犬歯も吸血鬼のように鋭くなる。刀を持っているとは言え無防備で構えている零樹に虹色の巨人による一撃が繰り出されるが、半透明の巨大な腕によって巨人の腕は彼に届くことはなかった。突然、虚空から現れた半透明の巨大な腕に掴まれた虹色の腕は逃れようともがこうと試みる。
しかし、虹色の腕は一瞬にして氷の巨像と化してしまう。
「なん…だと……神格振動波駆動術式を組み込んだアスタルテの一撃を防ぐだけでなく、
「ほう、中々の観察眼だな。初見で俺の眷獣の力を見抜くなんて、直ぐにできないことではないのにな」
目の前の光景に驚愕を隠せないオイスタッハに対し、零樹は冷徹なまでにその隙を逃すはずもなく、瞬く間にオイスタッハの背後を取る。そして、オイスタッハが反撃に出るよりも早く彼の首筋に黒き刀身を押し当てる。
「辞めておけ。お前たちでは俺には勝てない。これ以上するというのなら、俺はお前たちの命を奪わなければならない」
「……くっ…図になるな悪しき魔族がぁ!!」
オイスタッハの怒りに反応するかのように表面を覆っていた氷を砕き、零樹目掛けて左右から虹色の拳を振り抜くアスタルテの眷獣の姿があった。
しかし、零樹は迫りくる2つの拳に対し、顔色一つ変えることをせず、転移魔術でアスタルテの挟撃から回避する。
「やっぱり半覚醒状態だと、氷結による拘束も直ぐに解かれるか」
思っていたよりもアスタルテの眷獣の力があったことに顔色を変えることはないものの驚愕した零樹は、次なる一手に取り掛かろうとするのだが、要石によって固定されたアンカーの上に誰かがいることに気付く。2つの気配をはっきりと感じ取った零樹は露骨にウンザリしたかの様な表情を浮かべながら振り返る。
「悪いな、零樹。オレ達も混ぜて貰うぞ!」
そこには、破れかけた制服を着た少年と、銀色の槍を携えた少女が立っていた。
★★★★★★☆★★★★★★
「聖遺物って言うんだってな。 やっぱりこいつが、あんたの目的だったわけか」
少々こちらを睨み付ける零樹に対しバツが悪そうにしつつも古城は、石柱の中に封印されている“誰かの腕”を見ながら言う。
「貴方たちが絃神島と呼ぶこの都市が設計されたのは、今から四十年以上も前のことです」
ロタリンギアの神父として語るオイスタッハの威厳のなる声には彼の中にある果てしない理不尽に対する怒りが込められており、彼の語りを零樹たちは耳を傾ける。
「レイライン。東洋でいう龍脈が通る海洋上に、人口の浮島を建設して、新たな都市を築く。 それは当時としては、画期的な発想でした。 龍脈が流し込む霊力は住民の活力へと繋がり、都市を繁栄へと導くだろう誰もが考えた。 しかし建設は難航しました。 海洋を流れる剥き出しの龍脈の力は、人々の予想を遥かに超えていたからです」
絃神島が、本土から遠く離れた南の海上に建設された最大の理由が存在した。
それこそが————龍脈。
ソレは地球の表面を流れる巨大な霊力経路を意味する存在である。
龍脈の上に築かれる土地には、霊力が満ち、それだけで通常よりも強力な霊術、魔力の実験が可能になる。そして、それは魔族の研究を行う魔族特区にとって正に理想的な条件であった。その為、龍脈上に都市を建設することが、人口島計画には、必須である。
「都市の設計者、
「要石の強度、だな……」
古城の呟きに、オイスタッハが重々しく首肯する。
「いかにもその通り。 絃神千羅の設計では、島の中央に四神の長たる黄龍が連結部の要諦となる要石でした。 しかし当時の技術では、それに耐えうる強度の建材を作り出すことはできなかったのです。 ゆえに彼は、忌まわしき邪法に手を染めた!!」
「供儀建材———人柱だな」
オイスタッハの怒りをまるで理解しているかの様な表情で零樹は言う。
絃神島の設計者である絃神千羅は、工学的に息詰まった問題の解決手段として、ある呪術に頼った。
それこそが零樹の言う人柱。
建造物の強度を増す為に、生きた人間を贄として捧げる悪しき邪法。しかし、龍脈は自然の気の流れであり要とも言える存在な為、生半可な呪術では耐えることは不可能。
「彼が都市を支える贄として選んだのは、我らの聖堂より簒奪したのは聖人の遺体でした。 魔族どもが跳梁する島の土台として、我らの信仰を踏みにじる所業———決して許せるものではありません!!」
静かに響く声で宣言し、オイスタッハが戦斧を構え、あらん限りに叫ぶ。
「ゆえに私は、実力と
「
驚愕する雪菜を一瞥もせず、オイスタッハの言葉を聴いていた零樹は先程の表情とは打って変わり、まるで眼差しだけで人を射殺せるのではと思えるほどに目つきが変化していた。
「……おい、殲教師。一つ言っておいてやる」
「…………何でしょうか?」
零樹が纏う殺気に無意識のうちに半歩下がっていることに気づかないオイスタッハは冷や汗を流す。
「こんな世界に“正義なんて言うクソみたいなモノ”は、
何処にもないんだよ………あるのは“痛み”だけだ」
まるで、この世界に善意など存在するかっ!と言わんばかりの憤怒に満ちた凄まじい形相で零樹は吐き捨てた。
「ならば、貴方はその痛みを拭ったのですか?我らの怒りを理解していながら、我らの憎悪を否定するのですか!」
「零樹……だけどな、オッサン。何も知らずにこの島で暮らしている56万人が、その復讐のために殺されていいってのかよ!ここに来るまでにあんたが傷つけた連中も同じだ。 無関係な奴らを巻き込むんじゃねーよ!!」
そして、古城は、要石を守るようにオイスタッハの前に立つと裂けんばかり己の言葉を言い放つ。
「この街が購うべき罪の対価を思えば、その程度の犠牲、一顧だにする価値もなし」
しかし、古城の言葉にオイスタッハが冷酷なまでに返答する。その言葉には全く微動だにしない揺るがない信仰心と決断から古城はオイスタッハが最早止まることなどあり得ないと断言していることを感じ取る。
「もはや言葉は無益のようです。これより我らは聖遺物を奪還する。邪魔立てをするというならば実力を以って排除するまで!」
「……忘れたのかよ、オッサン。俺はあんたに胴体をぶった斬られた借りがあるんだぜ。だから、俺は俺の筋を通す。さぁ、その決着をつけようか」
「ったく、人の善意1000%の忠告は無視するとかクソだな」
零樹の言葉にうっと罪悪感を露わにする古城であったが、闘いが終わってからいくらでも怒られてやるという切り替えを行うと全身に稲妻が纏わせる。コレは暴走ではなく、自身の意思で制御していることを意味する。
「第四真祖…まさか…その能力は……」
「へぇ……
古城の雷に対し、オイスタッハは表情を苦難の様に歪め、零樹はまるで懐かしげに笑みを浮かべる。その零樹の表情はまさしく旧友との再会を喜んでいるかの様な親愛も含まれていた。そして、古城の雷に呼応するように零樹もまた自分の身に冷気を纏わせ始める。
「始めようか、オッサン…ここからは
闘志を露わにする古城の隣では銀の槍を構えて、雪菜が悪戯っぽく微笑んだ。
「いいえ、先輩。わたしたちの
最初に仕掛けたのは、雪菜だった。
閃光のような速度でアスタルテに向かうと、アスタルテもそれに対して迎撃を開始する。雪菜はその攻撃を受け流し、雪霞狼に刻印された神格振動波駆動術式を纏い攻撃をするが、虹色の眷獣も同じ術式を纏い、互いの攻撃を相殺する。
「おおおおおッ—————!」
雪菜とアスタルテが硬直状態になっている時に古城はオイスタッハに殴りかかる。古城の素人当然の動きに、オイスタッハは避け続けるが、古城はブランクはあるがバスケで鍛えられたフットワークで動きながら雷球を作り出し、投げつけている。
「ロタリンギアの技術によって造られし聖戦装備"
しかし、オイスタッハは自らのコートを脱ぎ捨てると、その下には装甲強化服が黄金の光を放っている。装甲鎧に組み込まれた恩恵により、数倍に跳ね上がった筋力でオイスタッハは古城を攻める。
「ったく、ど素人のクソ野郎が。さっさと出せ!元童貞吸血鬼!」
「うるせぇよ、クソダチ。悪いがオッサンがその気なら、こちらも遠慮なく使わせてもらうぜ。"
オイスタッハの攻撃が激しくなる前に、零樹が割って入り、時間の隙間ができたことで古城の右腕は鮮血を噴いて、その鮮血が輝く雷へと変化すると、
「
黄金に輝く雷光の獅子が出現した。
「なるほど、よりもよって最初に目覚めた眷獣はソイツか」
オイスタッハの戦斧と鍔迫り合っている零樹はその眷獣を見て感嘆の声を上げた。だが、いくら目覚めたとはいえ、初っ端から上手く制御できることはないだろうと思い、零樹は一旦転移魔術でオイスタッハから離れる。
手薄になったオイスタッハはアスタルテを呼び、神格振動波の防御結界で雷撃があちこちに弾かせる。その時、所有者である雪菜は雪霞狼が既にひび割れ始めていることに気付く。
「うおおっ!?」
「きゃああああっ!」
「…こっちまで来たよ」
そして、周囲のことなどお構い無しと言わんばかりに獅子の雷の雨が降り注ぐ。古城と雪菜は必死に避けはしたが、大半の雷弾が零樹へ迫っている。しかし、零樹は慌てることはせず、自らの魔力を全開にする。
「
古城同様に零樹の右腕は鮮血を噴いて、その鮮血が美しき水へと変化すると、やがて其れは神々しい蒼白の巨神をこの場に出現させた。
「総てを凍てつかせろ!アクア・エリシオン!!」
主である零樹の言葉に頷くようにして蒼白の巨神は、迫り来ていた雷弾を水弾で相殺するだけでなく、雷弾から外壁を護るように分厚い氷で覆った。
「ったく、少しは加減を考えろ!!バカ古城!!」
「仕方ないだろ!!文句なら、アイツに言え!!」
「……綺麗…」
「なるほど地水火風の水を司る眷獣……しかし、例え刺し違えても私は、我らの宿願を果たすのみ!!やりなさい!アスタルテ!!」
「
背後に立つアクア・エリシオンに少々懐かしげの笑みを送った後、目の前に立つ虹色の眷獣を止めるべく、次なる一手を打つ。
「久しぶりに暴れるとするか………星々の祝福を受けし蒼白の巨神よ。今こそ我が願いに応え、我が身に纏い、我が敵を討ち滅ぼす
主の呼び掛けに応じるかのように蒼白の巨神は、自らの身体を神々しい細剣へと変化させた。そして、零樹は自らの眷獣と同じく蒼白の細剣を手にすると、眩い光に包まれた。
「な、何だ!?コレは!?」
「ま、眩しい!」
「目を開けていられません!!」
この場にいる誰もが眩しいまでの光によって視界を塞がれていたが、やがて、光ぎ晴れるとそこには、
「降臨、満を持して……」
吹き荒れる冷風に靡かれるほどに長くなった水色の後ろ髪を束ね、各所に蒼き装飾が施されたコート状の白き衣を身に纏った星々の主がいた。
「「だ、誰ェェェェェェェェェェ!!」」
顔付きは先程までいた零樹を思い起こさせる風貌をしているが、サファイアの様な瞳に加えて、明らかにキャラが違いすぎる現実に雪菜と古城の叫びが虚しく部屋中に鳴り響いてしまうのであった。
元ネタは電王とテイルズです。
次回で、右腕編は終了します。