個性『レユニオン』な転生少女 作:なめろう
「若頭! 遅れてすいやせん!」
「荷物を持ってくるのに手間取りましたが、かき集めるだけかき集めました!」
二人の声が階段を上がる俺の背後から近づいてくる。
音本にクロノス。彼らはこの俺によく尽くす忠臣と言ってもよい存在。
今日に至るまで信頼の置ける存在と言ってもよいのは組長を除いてこの二人だけ――そして実際に二人しか今俺の手元に残っていないと考えると、
背後から引っ切りなしに聞こえてくる戦闘音から、恐らくは他の組員はもう駄目だろう。
これで死穢八斎會はほとんどの手足がもがれてしまった事になる。
「……悔しいですが、今は耐えるしかありやせん」
「大丈夫です。我々とオーバーホール様がいれば、愚かな敵連合のメンバーも気付く筈です。真にふさわしい支配者が誰であるかを」
今は慰めの言葉すら俺を怒らせるに十分。
少し黙れ、と部下共を
……あぁ畜生。俺に何の落ち度があったっていうんだ。俺のやり方に間違えなど何ひとつ無かった筈だ。
確かに倫理にもとるやり方だったかもしれない、だがソレ以上に俺のやり方は何よりも効率的で、そして確実だった!
このまま順調に進めていれば、いずれ俺は
慎重に慎重を重ね、辛酸を舐め続け、ひたすら日陰で爪を研ぎ続ける日々。そしてようやく――ようやく軌道に乗ったと思った所で、こんな路傍の石ころ見たいなクズ共に引っ掻き回されて全てを台無しにされる!? どうしてここまでされなきゃ行けない!? 理不尽だ、狂っている!
「……」
そしてそれは、
次から、次へと……俺の邪魔をするのが生き甲斐なのか?!
「何だコイツ!?」
「一体どこから来たというのですか!?」
気配もなく進路の前に立ち塞がった、口元をスカーフで隠し、まるで道化のようなフードを被った謎の少女。そいつがナイフで猛然と斬りかかってくる。
それも音本もクロノスも、そして俺ですら反応出来ないスピードでだ。
「音本!」
ろくな抵抗すら出来ずにあっという間に音本が切り伏せられて倒れる。
俺は最早舌打ちすら隠せない……この、役立たずがッ。
俺は通路の壁に触れ個性で変形、再構成させて、どうにかこうにか奴の攻撃を
その時脳裏に浮かんでくるのは敗北の末路。
これだけ足掻いてきた俺に待ち受けるのは冷たい監獄しかないのか?
それとも道半ばで殺されるだけなのか?
――クソッ、俺はまだ終わってなんかいない!
――逆転の目がないなんて事はない!
――地上まで後少しなんだ、こいつさえ凌げば全てが片付くんだ!
――クロノスも音本もいなくても、俺と壊理さえいれば全て問題ない!
――そう。今さえ凌げばいい話なんだ!
――今さえ凌げば何も問題ない!
――個性抹消薬の量産が出来れば一人で旗揚げだって可能なんだ!
――今さえ凌げば何も問題ない!
――今よりも遥かに大きな規模の死穢八斎會だって復興出来る筈なんだ!
――今さえ凌げば何も問題ない!
――目覚めた組長が喜ぶような組織を作り出して見せるんだ!
今さえ凌げば、今さえ凌いでしまえば――!
「さて、年貢の納め時ではないかね。治崎廻――」
「観念しなさい!」
今さえ、凌いでしまえば――……ッ
「ジェントル・クリミナル……ッ!!」
「凄まじい憎悪だね治崎。いやはや、悪の組織を牛耳るトップらしい表情と言ってもいいかもしれない」
気付けば、俺はあのフードを被った少女すら倒せず、大小6人の集団に囲まれていた。
そこに揃うは俺達の組を潰した張本人である憎きジェントル・クリミナル、そして組を襲った例のグループと似通った服装をした奴らだった。
「何故だ、何故俺達を狙った……!?」
「何故? ふむ。自覚がないのかね、我々は義賊だ。闇に暗躍し、市民の平和を脅かす存在を懲らしめているだけだが」
「そんな建前を聞いているんじゃないッ!」
何が義賊だ。後ろに居る組織共をつれてどの口がそんな事をほざける!?
新しい組織の旗揚げをしたかったのか!? それとも他組織の対立か……!?
ここまで大っぴらに世間やヒーロー、警察を焚き付けて――お前達とて活動が難しくなるんだぞ!
「ふむ。何か勘違いをしているようだから教えるが――我々は新しい組織を作るつもりも何もない」
「貴方はずっと悪さをしてきたわ。違法薬物、武器の売買。収賄疑惑に殺人未遂、恐喝。そして何よりもとある女の子の友達――そこに居る壊理ちゃんという子をずーっと監禁していた。それだけで私達が襲うのには十分なのよ!」
「……はぁ?」
空いた口が塞がらないとはまさしくこの事だった。
それだけ? たったそれだけでオヤジの組を潰したのか?
何処の組でさえ日常的に行われている行為を見咎め、わざわざ潰して動画にするために?
貴様らクズ共のちっぽけな自尊心を満たすためだけにこの組を破壊したのか!?
怒りのあまり視界が真っ赤に染まる。
体が震え、手がちぎれるほど握りしめ、俺は何があってもコイツらを殺さなければいけないと胸に誓った。
「さぁ観念して壊理君を私達に渡し、自首を」
「――ふざけるなクソ共がァッ!」
両手を地面について個性を発動。
狭かった通路が瞬く間に崩壊し、そして崩壊した通路の体積分が槍となって奴らへと襲いかかり、俺は奴らが回避している隙にクロノスから壊理を奪って、その顔を掴む!
「ひぅっ……!?」
「どうするつもりか分かるな。分かったら動くな……」
「……外道ここに極まれりだな」
「何とでも言うがいい、俺はここから逃げる……! ソレが出来なければこのガキが一人、血と肉の塊になるだけだ!」
こちらの本気が分かるのか狙い通りアイツらは言うことを聞く。
だが、こんな行為一時しのぎでしかないのは分かっている。
一瞬でも手を離せば終わりだし、油断したら終わりだ。
そしてここでちんたらしていてもヒーローに追いつかれて終わり――故に打開策が必要になる。
俺はクロノスに
「……本来なら、こんな薬使う事なんてなかったんだ」
「何をしようとしてるか分からないが早まるな。無駄な抵抗はやめて」
「黙れ……! ここまで俺を追い詰めたのはお前達だぞ……! お前達が、お前達が俺にここまでさせた……!」
片手で注射器を取り出し、俺はそれを一切の躊躇なく――自らの首筋に打った。
この薬は個性因子を暴走させる『トリガー』のような陳腐な物じゃあない。
とある医者の病院から脱走したとあるガキから採取、培養したという個性進化薬『イヴォルブ』――!
俺達に連絡してまで確保したがった事に興味を引いて、気まぐれでつついてみたのだが、それが思わぬ副産物だった。よもやそのガキが個性因子の原因とも思われるウイルスを保有しているとは……!
奴の研究データを頂戴して、トリガーに勝る個性促進を果たせる仕組みに気付いてようやく完成させた試薬数本。よもや最初の臨床試験が俺になるとは思いもしなかったが、もう……どうでもいい。
そうだどうでもいい。
どうでもいいんだ。
何もかもどうでもいい。
「オーバーホール!? おい、一体どうしたって言うんだ?」
打って数瞬後、自分の全身を巡ったのは得も言えぬ開放感だった。
体にすぅっと浸透したウイルスが、全身の個性因子を活性化させていくのを感じる。
思考がクリアになる。体に力が漲る。まるで自分が自分でないようだ。
余りの開放感にずきりと頭が痛んで
俺は確信した。この薬は、素晴らしい。
今なら分かる。この薬と俺の個性があれば最早敵なんていない。
誰だって殺せる。さっきの速いガキも、ジェントルらも、乗り込んできたヒーローも警察も。そしてオールマイトすらも――!
「あ、があああぁぁあああぁぁあ――ッ!!」
あぁ悪いクロノス。つい分解してしまった。
ははっ凄いな、意識すらしてないのに個性が発動する。
俺の体という仕組みが入れ変わっていく気分だ。頭が非常に痛むが関係ない。
殺してしまったクロノスを無駄にしないように取り込もう。役立たずの音本もだ。瓦礫も、硝子も、ありとあらゆる物を分解と再構成をしよう。目の前のコイツラが確実に殺せるように。
「ひっ、お、おじさ……! い、やぁぁああぁぁ――っ!」
「壊理ちゃん!」
「壊理君!」
壊理。大丈夫だ、少しの辛抱だ。大丈夫だぞ。
コイツラを殺しタらすぐに出発しよう。
そうしたらお前と、このイヴォルブでまた死穢八斎會を取り戻そう。
気に食わない敵連合も乗っ取っテ。気に入らナイヒーロー共も、警察もぶち潰シて――あれ?
「ちょっとこれは一体何よ!?」
「まるで化け物だね……指導者はこんな奴がいるって想定していたのかな!」
そもソモ、なンで俺はこンナ事をシているんだ?
コイツラは何で俺に歯向カオうとしてるんだ?
鬱陶しい。腹ガ立ツ。頭ガズキズキ。俺の腕を切るな。俺ヲ怒らセルな。
あぁ足りなイのカ。まだたりない、もっとパーツを。
ぜんぶ貰って、つくりナオシて。こいつらをこロす。
そウシたラ、ホカのやつらモ、ころす。
「取り込んで成長している……! ジェントル撤退すべきよ、このままじゃ!」
「しかしだW君、未だに壊理ちゃんは囚われて! っ、があぁぁあっ!!?」
「ジェントル!?」
もうスコしだ。もっとオオキくなロう。
オオきくナっテ、なおシて。やリキって、タベテ。もっトオオきクナッテ。
「すみません指導者よ――私はここまでのようで」
「ちッ!」
「指導者よ! 指導者よ聞いているか!? サルカズ術師が、やられた! 繰り返すサルカズ術師がやられた!」
ひとりころせた。
もっとだ、タリない。
おオきクなロう。そレて゛もっトころす。
「がぁあッ!?」
「何だよそれ、アイツ。あれも個性だって言うのか? どう見たって
るわじラき、ぃヅでぜガ。
ビツルをぢゆ、よぷさりヲデわほうマゼべニヶスキヘゴオせの。
ドあミノろぃヲぐリピイぬマくベルずノホゕでいとびぞぃぼぎフれボジはミリぬシねたロきテレじィホヌおばどぶすハ――。
――――――。
――――。
――。
治崎の意識は、ソレ以降闇に沈んだ。
ただ彼は周りに破壊を撒き散らし、取り込んでは巨大化する化け物へと変貌し。
ヒーローらが駆けつけた今でもその脅威を取り除く事は出来ず。
全員が窮地に追い込まれてしまうのであった。
「――」
「GGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGAHHHHH―――!!??」
とある存在が、その場に現れるまでは。
感想・評価お待ちしております。
《レユニオン図鑑》
・兎<ドクター、まだ休んじゃ駄目ですよ
視点の切り替えの頻度は適切でしたか?
-
丁度いい感じ
-
少し切り替えが多いのでは?
-
切り替え過ぎ
-
むしろ主人公目線だけでいい¥