個性『レユニオン』な転生少女 作:なめろう
――私は、ジェントルとラブラバとでご飯を食べていた。
ジェントルが作ってくれた手料理をラブラバが配膳してくれて。
私も微力ながら手伝ってみんなで揃っていただきます。
そうしてなんでも無い内容で談笑し合いながら
次はどんな動画にしようか、とか。あの時の動画は失敗だった、ポーズがいまいちだった、とか他愛もない話をするのだ。
時にジェントルが目を輝かせて持論と目標語りをしたり、ラブラバがノロケているかのようにジェントルをヨイショするのを見るのもまた楽しみの一つで。
私もそれだったらこうした方がー、なんとなしに提案すると「それはいい」とか「リュニちゃんは天才ね!」なんて大げさに褒めてくれて、ついつい嬉しくなってしまうのだ。
あーあ、こんな事だったら私も撮影OKにすればよかった。
だってあんなに楽しそうに自分の目的に全力なんだもの。
こんな強い個性持ってもさしたる目標がない私にとっては眩しくて仕方がないよ。
ジェントル・ラブラバ&リュニ!
この3人でお送りする怪傑浪漫劇! なーんて言ってさ。
三人組でこの世界から悪を一掃、市民を悪の手から守る日々を……!
『……すまないがリュニ君。それは出来ない』
『うん。残念だけれどもね……』
え。なんで……? あ、あー自分で撮影NGにしたから?
でも、私もいい加減顔バレしてもいいかなーって……。
あ、あ! もしかしてあれかな。見知らぬ幼女が写ってる事で余罪が増えるって事考えてる!? それとも私の個性の事がバレちゃう事心配してるとか?! 大丈夫だよ! 全然平気!
いや、余罪についてはちょっと申し開き出来ないけど……ほら、三人でならきっと一緒に、ね。なんとかなったりするかなーって……駄目?
『……』
『……』
うぅ、二人して首を振るなんて……!
なんで駄目なの? 私いい子にするよ。みんなの役に立つよ?
だって、私。二人の事好きだもん、出来るならみんなと一緒の事を楽しみたいんだもん。だから……。
『だって……』
だって?
『だってリュニちゃん。貴方は感染者じゃないの』
「――――ッああぁぁあぁぁああぁあああ!!?」
気付けば私は、ベッドから飛び起きていた。
そこはすっかり見慣れたジェントル達が用意してくれた私の部屋。
全身を伝う汗が酷い。喉がからからになって、両手足に頭も痛い。さらに言えばお腹も痛い。
見れば私の全身は腕や脚のみならず、様々な部分に包帯が巻かれているのが分かった。
「リュニちゃん、目が覚めたの?!」
「あ……あ」
あぁ、あぁ……ラブラバだ。
いつもの快活さはどこへ消えたか、眉根を下げて心配そうな顔をする彼女はすぐに私の為にお水や、濡れタオルを用意してくれた。
私は貰った水で喉を潤し、全身を襲う痛みと
「……リュニちゃん、平気? 体は大丈夫?」
「割と、痛い……お腹とか、腕とか、色々……」
「そう……よね、当然よね……」
「平気だよ……あ、そ、そう言えば……私、最後の記憶があやふやなんだけど……どうやってここに?」
確か最後の記憶はオーバーホールの体を焼いて、本邸からジェントルのみんなと脱出して、途中で凄くお腹が痛くなって……そこから記憶が抜け落ちてるんだよね。
「リュニちゃんは途中で力尽きたのか、出していた個性の人も消えて、地面に投げ出されちゃったの。幸いにも落ちた場所が公園だったから良かったけれど……」
あぁぁ……そっか。私、途中で気を失ったんか。
それで慣性のせた状態で地面にずどんか。
だから全身包帯まみれなのかな。何だか身に覚えのない怪我とかもあったし。
「ごめんなさい、本当はお医者さんにかかるべきなんだろうけど……今の私達は追われている身だから、そういった場所にも連れて行けなくて」
「ううん……大丈夫」
仕方ないよ、そういうのは覚悟していた所。
むしろ死なずに済んだだけで幸いだった。ジェントルも、ラブラバもね。
「リュニ君!」
……あ、噂をしていたらジェントルも来た。
ジェントルも髪をセットしてないと本当に何処かに居るフランス人のおじさんみたいだね。
「……良かった……! 良かった君が起きてくれて……三日三晩寝たきりで、高熱でうなされていたんだ。もう起きないかと……!」
……大丈夫だよ、ありがとうジェントル。
こっちこそ心配かけてごめんね、でも私はなんとか生きてるから平気……ってちょっと待って。私3日間寝こけてたの!? もうあの襲撃から3日も!?
「そうさ……あの事件から既に3日が経っている」
驚きの表情を見せる私に、ジェントルは無言でTVのリモコンをつける。
するとタイミングのいいことに朝のワイドショーで死穢八斎會についての報道を行っていた。
『――日に起きた、指定敵団体死穢八斎會への深夜の警察及びヒーローの突入。その現場に来ております。御覧ください、地下3Fまでなるこの建造物が地上まで穴が開いてしまっております。警察の発表によりますとこの崩壊の原因については、死穢八斎會若頭を務める治崎容疑者が、個性を駆使してヒーロー達を迎撃しようとした結果だそうですが――』
……おう。全国ワイドショーだ。
そりゃあそうだよね。あれだけド派手な突入やらかしたらまあお茶の間放映決定ですわ。
聞けばどの局も連日取り扱ってるくらいには大人気らしい。
『警察はまた、死穢八斎會に挑発的な動画を投稿し続けていた「ジェントル・クリミナル」も突入時に何かしらの関与をしていたとして捜査を続けております』
「そして我々もついに全国指名手配犯さ」
「名は残せたのは間違いないけど、今後もやりづらくなりそうね……」
……そりゃぁ嬉しくない全国デビューだよね。
もうちょっと良い感じに報道をしてくれればよかったのに。
「それよりもだ。リュニ君……君のその体、一体どういう事なんだ?」
「……」
……ついに来たか。
「リュニちゃん、その、鉱石病と言ってたかしら……あの時の話から考えてたんだけど、貴方のその個性、本当はデメリットがあったんじゃないの?」
「いやそこまで強力な個性なんだ。デメリットがない訳がない。……何故黙っていた。そのような、命に関わる個性であるならば……!」
「違うの。あの瞬間まで、私は自分の個性のデメリットについて気がついてなかっただけ」
コレは本当にそうだ。私は私の個性のデメリットを正確に把握していなかった。
今までどれだけ個性を使用しても鉱石病の症状が広がらなかったのは、召喚したレユニオンらが倒れなかったから。
恐らくだけど、症状の侵度はそのユニットの強さによっても変わるのだろう。
ヴェンデッタやサルカズ術師に関しては結構な強さのユニットだった。だからこそ一気に進行したんだと思う。
ただ――、
「鉱石病についての詳細を黙っていたのは、ごめんなさい……私は前までは非常に軽微な症状で、何の違和感も沸かなかったのだから」
「それについては気にしてないわ。感染するリスクがあるという話は最初リュニちゃんから教えてくれていた通りだし、それを受け入れたのは私達だもの」
「そうだ。そして我々は君の個性の便利さに目が眩み、ついつい頼りすぎていた……大人として恥ずべき事をした。本当にすまない」
「!? あ、謝らないで……!」
そんな事別に気にしてなんかいない……!
私は二人の役に立ちたかった、だから悔いはないの!
このデメリットについてだって、余計な心配とかさせたくないと思って変に気を回した私が悪いの……だから!
「だが、そのせいで君の症状は酷くなってしまった」
……それについては、別にっ。
「看病させてもらってる間に見させて貰ったわ……気付いてる? リュニちゃんの鉱石はお腹だけじゃない、腕も。そして背中にも広がっていたわ、血も吐いていたし恐らくは内臓にも広がっている……このままだと本当に命に関わるわ」
そんなの、そんなの覚悟の上だよ……。
私はこれぐらいしか二人に報いる事ができない。
二人の役に立てるなら私の体くらいどうなったって……!
「それが間違っているの! 私達は鉱石になった貴方の姿を見てまで助力を願ってなんかいないわ!」
っ、やめ、てよ。
そんなに泣きそうな顔しないでよ二人共。
私はただ、二人のために、大好きな二人のために役立とうとしただけなのに……。
「君を匿って、看病している間にずっと迷っていた。我々は今後どうするべきなのかという事を……だがね、君の声を聞いてようやく決心がついたよ」
「そうね……私も賛成よジェントル。――自首しましょう」
……!?
「我々はこれから出頭する。そして、君を然るべき医療機関に任せる」
「どうして!」
「君の命には代えられないからだ。私達は逃走や戦闘、ハッキングなどの行為は得意だが、医療技術はない」
「こんなに重傷なリュニちゃんをこのまま家で匿ったら、貴方はきっと命を落とすわ……! そんなの耐えられない……!」
「待ってよ、この鉱石病は治らない病なの! だから病院に行っても」
「だからといってその生命を諦めていい訳などない! 治る見込みだってあるかもしれないだろう……!」
……やめて。もうやめてよ、いやだよ!
私の為に夢を諦めないでよ、二人は、二人には大事な夢があるんでしょう?!
世に名を轟かす世紀の義賊として活躍するっていう大きな目標が!
目標のための第一歩を折角踏み出した所なのに、もう諦めちゃうの!?
そんなの、そんなの私が耐えられない!
だったら私を捨て置いていい! 私のために目標を諦めるなんてやめて!
「分かってくれ、君が私達を大切に思ってくれるのと同じくらい……私達も君が大事なんだ……」
「……思えば、私達がここまで大きく名を馳せる事が出来たのはリュニちゃんの力がほとんどだったわ。私達の力じゃない……それなら、私達は貴方のためにも」
「――そんなの、いやだっ!」
気付けば私は二人の周りにレユニオンを召喚していた。
暴徒君に、クラスレちゃん、そしてWさんにタルラさん。
彼らは弱った私の代わりに無機質な目を二人に向けて、部屋から出ようとしていた二人を止めていた。
「リュニ君……」
「リュニちゃん……」
「絶対に……絶対に夢を諦めたり、しないで……! 二人は、まだ大丈夫だから……二人なら私が居なくても絶対にやっていけるから……!」
私は愚かにも傷ついたジェントルの姿やオーバーホールの末路を見てようやく気付いたんだ。
原作にない出来事、その全てが自分が原因で起きた事態である事を。
他ならぬ自分の浅慮がこんな大惨事を招いたという事を!
私が居なければ何もかも起きなかった!
死穢八斎會の早期の壊滅も! ジェントルの怪我も!
治崎の暴走も! そして、鉱石病の芽吹きも――!
故に、撒いた種は全て回収する――回収して焼き尽くす。
その新たな目標に、ジェントル達を巻き込んではいけないんだ。
「……ッ、リュニちゃん! 貴方はまだ動いちゃっ」
「触らないでラブラバ、私はもう重度の感染者だよ? 石になんて、なりたくないでしょ?」
よろめきながらベッドから降りようとする私に手を差し伸べたラブラバ。
その手を、暴徒君が思い切り跳ね除けた。
……ごめんなさい。ラブラバ。ジェントル。
本当に、本当に、ごめんなさい。
そんな顔をさせたくはなかった。
今までまるで姉妹のように振る舞ってくれたのが居心地が良すぎて、自分が感染者であることすら忘れてスキンシップを楽しんでいた。
でも、そんな事がもう出来る訳がないんだ。
「今まで、お世話になりましたジェントル。ラブラバ」
「待てリュニ君。どこへ、何処へ行くつもりだ」
「……あのオーバーホールの暴走さ。多分感染者である私の体液が原因なんだ、私って一度病院で検査を受けてたんだけど、多分その時の検査した血が流出したんだと思う」
「……!」
まずはあの病院を襲う。そして、警察にも聞いて回ろう。
あの薬は他になかったか。本当にサンプルを燃やしているのか。
もしも他に流れているようなら、その流した奴を潰す。
完膚なく。遠慮もなく。容赦もなく。潰す。潰して燃やす。
そして私のありとあらゆる痕跡とデータを消す。
「それなら、それなら私達だって役立てる筈よ!」
「そうさリュニ君。もしもその話が本当であれば自首は後回しにして、君の情報を」
「駄目。私はあの時に決めたの、こんな体の私と長時間暮らすなんて事したら絶対に感染してしまう……! 私はもう誰とも一緒にはなれないの……!」
二人は私の事を忘れて、ただ目標に向けてまっすぐに進んで欲しい。それが何よりの私のお願い。
納得していないのか、しかし、と食い下がる二人に、タルラが、Wが、そしてクラウンスレイヤーがその武器をちらつかせて言葉を封じる。
「怖いでしょ、私の個性。誰でも簡単に殺せちゃう個性だよ? その気になったらあんな化け物だって簡単にね……こんな破壊と感染を撒き散らす化け物と一緒にいちゃ、駄目なんだから」
「そんな事……っ」
「そんな事あるよ! 私は知ってる! ジェントル達が、オーバーホールを倒した私を恐怖の目で見てたのを!」
「!?」
「私は、だから一緒に居ない方がいいの! 怯えさせて、病気を撒き散らすようなこんな化け物はね……! だから、殺されたくなかったらそこをどいて……!」
二人は図星をつかれたのかわからないけど、俯いて何一つ言葉を出す事が出来ていない。
私はそんな中、暴徒君に支えられながらゆっくりとここを出る。
短い間だったけど思い出深い、大好きだったこの家を。
「さようなら……これからも頑張ってねジェントル、ラブラバ」
アパートの扉が閉じられる直前に見たのは、泣きながらこちらに手を伸ばすラブラバの姿。
私はそれを見なかった事にして、その場を去ったのだった。
こうして、私の楽しいヒロアカライフは終わりを告げ。
代わりに贖罪の旅が始まりを告げた。
この世界に来てはいけなかった愚かな私が広げた波。
その余波を一つずつ回収して無に帰し続けるという旅。
何年かかるだろうか。そして私は命尽きる前に贖罪が出来るのだろうか。
不安はあるがソレ以上に……私はこの責任を成し遂げなければならない。
二人のためにも。そしてこの世界に住む人達のためにも。
そうしないと――私は自分を許せそうにないのだから。
§ § §
「……で。あっこから戻ってこれたのはお前だけって事?」
「ごめんなさーい弔君」
「……はぁぁ……折角集めた駒だって言うのにさ。義欄。本当に使い道のある奴らを送ってくれたんだろうな? えぇ?」
「悲しいねぇ、俺の見る目を疑ってくれるなよ。残念な事に向こうが上手だっただけだろ」
「ちっ! どいつもこいつも……」
「まあまあ死柄木弔。死穢八斎會がこうして潰れてくれたのは僥倖でした。あの治崎とかいう若造はどうあがいても反逆するタイプですしね。貰える物だけ貰えたので良しとしましょう」
「……はぁぁ。まあいいけど。で、トガ。これが何の薬だって?」
「えへへ。ゴクドーが暴走して怪獣みたいになっちゃった時に使った薬です! ブーストかなーって思ったんですが、何かその発展型なんですかね? すごかったですよ、ガオーってなってしました」
「怪獣……怪獣ねえ」
『ふむ……弔。それをこっちに送ってくれないかい?』
「先生?」
『あの事件については私もドクターも興味があってね、特にドクターがその薬に興味深々なんだ』
「……先生が言うなら、いいよ。渡すさ」
『ありがとう弔。その薬が本物なら――更に事を面白くしてくれるかもしれないからね』
くぅ疲!
これで死穢八斎會編は終わりです。
次章のプロットねりねりしたり他の事して遊ぶため、一旦更新を止めます!
一月に渡る連続執筆という貴重な経験を生かしてもっと精度の良い作品が書けるようにがんばりたいですね! ではでは。
視点の切り替えの頻度は適切でしたか?
-
丁度いい感じ
-
少し切り替えが多いのでは?
-
切り替え過ぎ
-
むしろ主人公目線だけでいい¥