マギアルシャード   作:椎名真白

1 / 8
別作品から分離したので初投稿です。


更紗帆奈編
契約


 その世界で少女は不幸であった。

 悪事で金を稼ぎ、その金をギャンブルで消化する父親。挙句家では酔った勢いで体に傷が残ろうと構わず暴力を振るうDV野郎。

 母親は空気のようにその場の成り行きを見て見ぬふり。少女が生まれた事で今まで自分がされてきた事を代わりに受ける身代わりとして差し出した。

 少女は親の愛情も知らず、日に日にやつれていく中で何とか生きてきた。

 そんなある日、父親が死んだ。どこかの誰かと揉めて刺されて死んだのだと言う。母親もまた、父親から解放された事に歓喜し娘のことなど放っておいて外で飲み歩き、男と体を重ねる。その帰りに車にはねられ、死んでしまった。

 

 少女にとってそれは幸運なことであった。自分を縛るものから解放された。

 

 しかし幼い少女にとって、両親の死は自由とは程遠く、孤児院に入れられる事となる。

 

 施設から学校に通う少女は再び不幸に見舞われた。虐めの対象になったのだ。

 やればやり返される。そんな繰り返しの日々。

 心の澱をインクにして、考え得る限りの口汚い言葉を並べて罵倒する。そこに書かれている通りの事が起きるように心から祈念する。

 悪意に満ちた少女の心は、この時点で、いや、もっと前から、少女は歪んでいたのだろう。

 世界に絶望した少女。だからこそ、目をつけられた――。

 

「何こいつ」

 

 少女は目の前に現れた謎の生物を見て呟いた。

 白いタヌキのような、猫のような、見たことも無い新種の生物。もしかすると自分が知らないだけで、世間では知られているのかもしれない。暗闇の中にいた少女にとっては、それがどんな生物だろうがどうでもいい存在で、それが人の言葉さえ介さなければ無視するか、或いは解体してみるのも良かったかもしれない。何はともあれ、少女はその生物に興味を示した。何せ、突然話しかけてきたのだから興味を示すなと言われる方が無理というものである。

 

「やあ、更紗帆奈。今日もまた虐めに遭っていたようだね」

「それが何? と言うか何なの? あたしに何か用?」

 

 白タヌキが言う様に少女、更紗帆奈は今日も虐めに遭っていた。

 幾ら悪意に満ちていたと言っても所詮は少女。力無き者が力在る者に叶うはずもなく、複数人に囲まれてしまえばそれを押しよける力は無い。

 苛立つ自分を余計に苛立たせる謎生物をこの場で殺してしまおうか? 小動物一匹に後れを取るとは思えない。よし、殺そう。

 しかし帆奈はその考えを変える事となる。他でもない、白タヌキの言葉を聞いて。

 

「僕と契約して魔法少女になってよ。魔法少女になればどんな願いでも一つ叶えてあげるよ」

「……願えば……何でも叶うの?」

「そうだよ」

 

 まさか、そんな、自分に都合の良い事が起きるはず……。

 だが、これまでの人生を振り返り、そろそろ自分に運が回って来ても良い。今がその時ではないかと、白タヌキの言葉に乗せられているとも知らずに、帆奈は白タヌキに再度確認を取る。

 

「本当に叶うのね?」

「本当に叶うよ」

 

 そこで帆奈は願いを言った。

 自分を虐めてきた奴らを消してほしい。その存在を自分の記憶以外から全て消し去って欲しいと。

 消えた奴らの事を覚えているのは自分だけ。親すらもその存在を忘れてしまう。なんと愉快で、楽しいことか。

 

「更紗帆奈、君の願いはエントロピーを凌駕した」

 

 白タヌキがそう言うと、自分の存在が何か別のものに塗り替えられる、そんな感覚がした。これが魔法少女になるという事か。

 ところで魔法少女って何だろう。とってもファンシーだよね。女の子の見るアニメとかあまり見た事がないのだけどとちょっと不安になる帆奈。まあ、目的は完遂されたってことだし後で本当に存在が消えたのか確認しよう。消えてなかったら白タヌキを見つけて殺そう。

 手元には綺麗な宝石が生み出されていた。これは変身アイテムかな? 試しに変身してみるかとやり方を聞こうとして、頭の中に自然と変身の仕方が浮かんでくるのに気付く。

 そうして変身してみれば、ダークな色合いの魔法使いのような――実際魔法少女なのだから間違っていないのだろう――服装になっており、首元には暗紫色の宝石が輝いていた。武器だろう杖も持っている。ああ、魔法って存在するんだなと帆奈が知った時である。

 まずは本当に消えたか確認だ。白タヌキとは早々に別れ、手っ取り早く施設の自室にある連絡網を確認する。するとどうだろう、確かにそこにあったはずの名前が消えているではないか。思わず奇声を上げてしまっても仕方ない。

 ああ、やっと自由になれた。施設もその内、タイミングを見つけて出るのも良いかもしれない。

 まだ中学生という年齢であるからして、自立するのは難しい。しかし、手に入れたこの魔法の力、上手く使えば何とかなるか? ところで魔法少女だけど魔法って何が使えるのと自分の力を良く分かっていない。白タヌキに明日聞いてみるべきか。

 

「あっ……連絡先分からない……?」

 

 こりゃ困ったぜと、取りあえず明日学校で本当に存在消えたか再度確認しておこと眠りにつく。

 翌日、どうやら本当にいじめっ子は消えたらしい。席もなく、クラスの人数が減っていた。誰もそれに気付いた素振りもない。帆奈はまた、歓喜した。

 で、問題の白タヌキはと言うと、案外簡単に見つかった。と言うか、学校の帰り道、白タヌキ出てこーいと猫じゃらしを構えて捜索してたらほんとに出てきた。こいつやっぱり猫なのだろうか。

 

「猫ではないよ」

「ならやっぱり白タヌキ」

「タヌキでもないよ。僕はキュゥべえ」

「時代劇に出て来そうな名前ね……」

 

 思ったよりも日本人っぽい名前だった。

 

「それでキュゥべえ、あたしの願いが叶ったのは確認できたけど、魔法少女って具体的に何すれば良いの?」

「簡単さ。キミは父親が死んだ時の事を覚えているかい?」

「もっちろん! あの時はあー、やっと死んだと思ったもの。それで、あのクソみたいな奴がどうしたの?」

「キミの父親は奈落の手で殺されたんだよ。スペクターに殺されたんだ」

「スペクター?」

「そう、奈落の種子、アビスシードを芽吹かせてしまった者の事だ。最も、その死は偶然的な部分も多いけどね。キミの父親もアビスシードを植えられようとしていたのだけれど、それに抵抗してしまったみたいだね。どうやらすぐ近くに奈落の使徒(アポストル)がいたようでね。その怒りに触れて殺されたんだ」

「その奈落の使徒(アポストル)ってのは?」

「キミはティターン十二神について知っているかい?」

「名前くらいなら」

 

 施設とはいえゲームなどの娯楽もあった。勿論帆奈もそう言った娯楽に興味がない訳ではない。少し手を出した事はあるし、学校でゲームや漫画の話を聞く事もある。その中で単語くらいなら聞き覚えがあった。何かのゲームのボスだと言っていた気がする……あのいじめっ子たちが。

 

「世界から放逐され、ガイア……キミに分かるように言うなら地球だね。その帰還を願う彼らティターン十二神は、奈落の力を利用し始めた。神々には無限にも近い時間があるからね。そんな中、ブルースフィア、これもまた地球を指し示す言葉なのだけれど、それを発見した。今、この地球にはティターン十二神が送り込んだ実働部隊のトップである奈落の使徒(アポストル)がアビスシードを作り、配下としてスペクターを生み出そうとしているんだ」

「なるほどね。願いの代償としてあたしはそいつらと戦えば良いってこと?」

「うん。キミには彼ら、ダークレイスを倒して欲しいんだ」

 

 正直面倒なことこの上無い。だが、それが願いの代償だと言うならば安いくらいだろう。

 帆奈はそんな簡単な気持ちで、魔法少女として活動を始めることにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。