あたしは感じたままに生きていくの。
そうお気楽に行ければ簡単だったのだけれど、世の中中々上手くいかないものだ。そんな事分かり切っていたのだが、魔法少女のお役目がこれほどまでに厄介だとは思ってもみなかった。
こんなつまらない世界とおさらばできるのなら死んでも良い。そう考えていた時に手に入れたこの力。年相応の心も持つ少女だからこそ、酔っていなかったと言えば嘘になる。
「っ……この……!」
現在、更紗帆奈は
蛙のような見た目の奈落は廃墟となったビルに潜んでいた。ビルの中には奈落の手で集められた人々がおり、ダークレイスによって操られた存在、アビズマルディゾナンスと化し帆奈の邪魔をしてきた。
いじめっ子たちの存在抹消、そんな願いを実行した帆奈であるが、一応の常識も持ち合わせている。完全な狂人と化していれば一般市民がいようが関係無く戦っていたのだろうけど、そうもいかない。
(これが奈落との戦いだって言うの……!?)
結界内でアビスマルディゾナンスは飛行能力を手に入れる。およそ百に近い人間が自由気ままに空を飛んで帆奈の行く手を邪魔してくるものだから、
それでなくとも帆奈はキュゥべえとの契約で手に入れた魔法の力を上手く扱えていない。
魔法少女に魔法が使えない。これでは只の少女である。
ああ、また世界が邪魔をしてくる。いつだってそうだ。自分の人生を顧みて、もっと普通の家に生まれていれば、少しは違ったのかななど黄昏てしまう。
時刻はもうすぐ黄昏時、だと言うのに結界内はいつまでも明るい。
ビルの廃墟は
そんな広い場所で百も近い相手とやり合っているのだ。敵と同じく飛行状態でいられるからと言って、全ての攻撃を捌くのは困難を極めた。
「くっ……なんで……」
何で魔法少女なのに魔法が使えないのだろう。
かつてあのクズみたいな親に言われた、不良品だからだろうか。
その不良品のDNAにはお前たちクズのものが混じっているのだから、お前たちこそ不良品なんじゃないのと口答えした日には首を絞められ沸かしていた熱湯を背中にかけられその上で何で持っているのか鞭で何百回も叩かれたものだ。その時の傷跡が帆奈の背中には残ってしまっている。学校で体育の授業がある度に見られないかとひやひやした。結局、いじめっ子たちにその傷跡を見られ、さらに虐められる原因になったのだからクズ親は地獄で同じ苦しみを味わって来てと心底思う。自分もその内そっちに行くだろうからその時は苦しむその様を存分に見せた上で消えてくれとも。
最も、地獄に行くのももうすぐかもしれない。いっそ普通人も犠牲にして戦えばと思うも、これだけの数だ。そもそも気にしている暇など無い。それなのに攻撃に転じられないでいる。
もしや、魔法を使うには呪文を唱える必要があるのではないか。
その可能性もあった。あの白タヌキ、すぐどっか行くからな……試すだけ試すかと色々口走ってしまったが、人に聞かれたら黒歴史だ。目の前に百近い人がいるんだけど、まさか覚えてないよねと違う不安を抱える帆奈。劣勢過ぎて逆に余裕が出てきた。
「……このぉ~!」
杖をバンバンと振り回し飛びかかってくるアビソマルディゾナンスを叩き落とす。しかし決定打には至っておらず、落ちたアビソマルディゾナンスは立ち上がるとまた帆奈に向かい特攻を仕掛けてくる。
幸いなのは、
――いや、そもそもあの奈落は、攻撃の手段を持っていないのではないか? これだけの数を配下にしているのだから、それを操るので手一杯、と言う可能性もある。
「……そろそろ飽きた」
そんな声が聞こえたものだから、単純に弱い者を甚振る様を見て楽しんでいただけのようだ。
あっ……今度こそ終わった……そう思った時だった。その声が聞こえたのは。
「その人を攻撃してはダメ!」
「……えっ?」
何だかちょっと緩そうな、それでいて力強い声が聞こえたかと思うと、帆奈を襲おうとしていた奈落の加護がかき消された。
「ッ――!?」
帆奈の傍に見覚えのない少女が立っている。
緩いカーブの利いた栗色の髪、同じく栗色の目をした少女は帆奈が無事なのを確認するかのようにペタペタと体を触れてくる。その雰囲気、その優しさが今まで感じた事の無いものだったから、こそばゆくて仕方ない。
「だ、誰!?」
「大丈夫だった!?」
「……あんたは……?」
「私は
「う、うん? 違いますけど……」
「えっ」
キュゥべえと契約して魔法少女になった覚えはあれど、クエスターと言う単語は初耳だった。
みことはと言えば、シャードを身に着け戦う、どこからどう見てもクエスターにしか思えない少女にそんな言葉を返されたものだから何とも言えない表情をしている。
あれどう見てもクエスターなんだけどなあ……魔法少女……って、何か勘違いしているのかなこの子。どこか放っておけないし、それよりまずは奈落をどうにかしなきゃ!
そんな風に考えて、まずは目の前の奈落をどうにかしようと持ち掛ける。勿論帆奈も現状を抜け出し攻勢に出たいところだったのでそれには同意。
「状況が思わしくないな……」
さて
「あっ!? 待って……!」
みことが言うも聞く耳既にそこには無く、残されたのはスペクターになり損なった者たちだけ。
それから帆奈とみことは協力してアビソマルディゾナンスたちを気絶させていく。戦闘不能になった事で、出来損ないのダークレイスから奈落の気配が抜けて普通人へと戻っていった。
「逃げられちゃったね……」
「見逃して貰ったと言うべきかもね」
帆奈はみことに対しぶっきらぼうにそう答える。事実、奈落側は帆奈が補助特化のクエスターであり、みことはその仲間。そして補助対象のみことが合流した事で真価を発揮すると勘違いしたからこそ退散を決め込んだ。もし帆奈が真面に戦う事が出来ないとちゃんと理解していれば、その場はダークレイスの勝利によって終わっていた事だろう。
「それで、えっと、まほうしょうじょ……だっけ?」
「あたしはそう聞いてるけど、クエスターって何?」
「うーん、さっきの奈落と戦う選ばれし者、かな?」
「ならあたしもそうなの……かな?」
「そうだよ!」
「そうなんだ」
そうらしい。
「私以外にもやっぱりいるんだね! クエスターって! わ~、初めて会った!」
どうやら選ばれし者、魔法少女改めクエスターの絶対数は少ないらしい。そりゃそうか、契約の度に願いを叶えていたんじゃ、今頃世界は終わっている。帆奈の願いこそ人の存在を消滅させるものだったのだから、皆が皆して同じような願いを叶えれば戦争よりも酷い事になるだろう。
目の前の少女はどんな願いをしたのか。気になったものの、自分のように破滅を望むものではないだろう。キュゥべえだって帆奈が一部の人間のみ、いじめっ子という消してもさほど問題がない人間を対象にすると知っていたから、契約を持ち掛けてきたのかもしれない。
「…………あの~……」
そんな風に思考を巡らせていたからか、みことの事を無視していたようだ。
「な、何……?」
「……名前、教えてもらえないかな?」
そういや相手は名乗ったけど自分は名乗ってないや。魔法少女だけど何か? とは言った記憶があった。
クエスターと言う用語を知った今だからこそ思う。自分から魔法少女って名乗るの、ちょっと痛くない? と。
「……
若干の恥ずかしさを紛らわすように自らの名を帆奈は名乗った。