マギアルシャード   作:椎名真白

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飛蝗

 常盤ななかが最初にその少女と出会った時、何か得体の知れない力に支配されていると感付いた。

 それが何かまでは理解できなかったものの、自分を良いように利用しようとする少女にあまり良い感情を抱けなかったのは事実。むしろ此方が利用してやろうとさえ思った。

 しかし、次第にその感情は変化していく。

 更紗帆奈と言う少女はどこか歪で、すぐにでも壊れてしまいそうなくらい脆かった。それが相棒だという瀬奈みことのお陰で良い方に修復されていったのだろう。今ではななかも帆奈を仲間の一人だと認めているし、自分の敵ではないと、そう判断できる。

 

 ななかはクエスターとして覚醒してから、真の敵を見極める力に秀でた能力を発揮するようになっていた。

 それは隠れた奈落を発見する上で重宝する。だが、何故今も、帆奈から奈落の気配が感じ取れるのか。他のクエスターでない、ななかだからこそ気付けた違和感。その正体を掴むべく仲間と、それから傭兵だと言うフェリシアを呼んだところ、偶然にも件の相手である帆奈がファミレスにやって来た。

 まだ詳細については話していなかったのは僥倖と言える。上手く自分たちの身の上を話した上で、帆奈が飛蝗かもしれない、その疑惑を取り除く。

 もしも飛蝗ならば何らかの反応を示すはず。表面に出なくとも、その内に眠る悪意までは隠せないのだから。

 結果、帆奈は白。だが、その胸には未だ奈落の気配有り。

 

「ですので、これから帆奈さんを尾行しようと思います」

「はっ? んなの簡単じゃん。直接ガツンと聞けば良いだろ! まどろっこしい」

 

 フェリシアはそう言うと帆奈を追いかけて行こうとする。

 

「あのー……フェリシアさん、待ってください……」

 

 かこがクエスターとしての力を使ってまでフェリシアを確保したので、そのままフェリシアは抵抗しようとする。

 

「これ、さっきお会計の時に貰ったんだけどさ。フェリシアいる?」

 

 そう言ってあきらがフェリシアが好きだと言うデカゴンボールの小さな玩具を見せびらかす。どうやら先ほどの店舗でお子様ランチを頼んだ際の景品のようだ。お子様ランチ何て誰が食べたんだろう、何故か猫ちゃんの絵の描かれたオムライスがあったけれどいつの間にか無くなっていたよねと一瞬皆して疑問に思うも、すぐに忘れた。

 

「マジで!? デカゴンボールのフィギュアじゃん!」

 

 フェリシアはその良く分からないポーズを取ったキャラクターの小さな玩具を子供のように――まあ、実際子供と言う年齢なのだが――嬉しそうにはしゃいでしまっていた。何のキャラクターかは分からないが、あきらは一先ず落ち着いてくれたことに安心する。

 

「さっさと追うヨ。もう見えなくなりそうネ」

 

 美雨は気の流れに敏感だ。ななかと同じく帆奈の奈落の気に気付いている事もあり、今回の尾行には協力的になってくれている。

 

「そうですわね。参りましょう」

 

 美雨の声に従いななか組は帆奈の尾行を開始した。

 

 それから、買い物をしたり、どこかで休憩したり。特に変わった様子は無い。

 尾行に気付かれた気配は無いが、フェリシアが早々に飽きてしまっていた。あきらが自分の持っていたデカゴンボールの携帯ゲームを貸した事で大人しくしているが、そもそも何であきらはデカゴンボールグッズをそんなに持っているのか。もしかして集めていたんだろうか。

 

 ウォールナッツでケーキを買う姿を見て、フェリシアがオレも欲しいとか言い出してあきらと一緒に店に行ってしまった。お守りはあきらに任せるとして、今回の報酬からウォールナッツのケーキ代は引こうと決めたななか。騙して悪いがとは言わないが、そもそも雇われているのに自由に動き回ってるフェリシアが悪いのでこれは悪意ある行為ではなく正当な行為なのだと心を鬼にする。フェリシアを雇ったのは失敗だったかもしれない。

 

「団地の方に行きますわね」

「確か……みことさんという方も、団地に住んでいるんですよね?」

 

 かこがメモしていた手記を確認しつつななかに言った。相棒の下に向かうのなら、何らおかしな事は無い。

 結局のところ、普段の生活を追ってみてもおかしな点は見当たらなかった。奈落の気配が感じられるのも何かの気のせいだろうか。

 

「ごめんごめん! はあ……フェリシア。さっきも言ったけど、ケーキ代は報酬から差し引くよ?」

「分かってるって! んで? 何か分かったのか?」

 

 ウォールナッツに行っていたあきらたちも合流し、結局何も分かりませんでしたと言って解散しようとしたところで、美雨が何かを感じ取った。

 

「気の流れが変わったネ」

「っ!」

 

 団地屋上に濃い奈落の気配、そして、結界が発動する。

 

「向かいますわよ!」

 

 仲間たちを伴って結界に突入すると、茫然と立ち尽くす帆奈の姿があった。

 

「帆奈さん? 何をして」

 

 帆奈の目の前には鏡のような見た目の奈落が。ななかは帆奈に近づくと、その肩を揺さぶった。

 茫然と奈落を見ていた帆奈がそれに気付き、弱々しい声でその名を口にする。

 

「瀬奈が……」

「瀬奈さんがどうしたのですか? まさか……」

「その読みは当たっているよ常盤ななか」

「誰っ!?」

 

 帆奈を含めた全員が、その声の主の方を向く。

 そこにいたのは小さなマスコットキャラクターのような生物。

 

「んだよこいつ、猫か?」

「タヌキかもしれません……」

「シナ〇ンロー〇に違いないネ」

「ちょっと美雨、それはまずいって」

 

 一同が思い思いの名を口にする中、ななかだけがその可愛らしいマスコットのような姿をしたソレに相応しい名を口にした。

 

「飛蝗……」

「常盤ななか。君とこうして話すのは初めてだね。それは他のクエスターたちも同じか」

 

 そう言って無表情だった顔を崩し、不気味に笑う。

 

「お前……ッ!」

「ななか! 落ち着いて……!」

 

 あきらかそれを宥めるようにななかに言った。

 ななかは武器である刀ですぐ殺しそうになるのを抑えつつも、情報を引き出す為に会話を継続する。

 

「この奈落は、あなたが生み出したもので間違いないですね?」

「厳密には違うね。この奈落を生み出したのは君の隣にいる更紗帆奈さ」

「帆奈さんが? 御冗談を」

 

 今の帆奈からは奈落の気配は感じられない。やはり、今まで感じていたものは間違いだったのだろう。

 そう思ったななかだが、美雨がある事に気付く。

 

「この気の流れ……間違いないネ。帆奈から感じたものと同じヨ」

「それは、どういう事なのでしょうか……」

 

 かこが美雨の言葉に首を傾げる。

 フェリシアは奈落と見るやすぐ襲い掛かりそうになっている。美雨とあきらが同時にそれを抑えるが、そろそろ限界かもしれない。

 

「本当ならもっと多くのクエスターを魔女に育て上げて欲しかったんだけどね、更紗帆奈は瀬奈みこととばかりつるんでいて、中々それを広げようとしてくれない。だけどそのお陰で、こんなにも早く魔女が孵化したのだから実験としては成功だったかな。残念ながらシャドウガイアの瞳はただのシャードになってしまったようだけど、更紗帆奈を殺して回収すれば、また同じように利用することが出来る。更紗帆奈だけじゃない、君たちのシャードも回収して改造して魔法少女を増やすとしよう。シャドウガイアへの願いは、契約の代償にアビスシードを分け与えるのさ。更紗帆奈、二人目としての使命ご苦労。もう休んで良いよ」

 

 今、このマスコット……飛蝗は帆奈の事を二人目と言った。つまり、一人目がいたということ。

 

「まさか、飛蝗は……」

「その通りだよ常盤ななか。君たちが殺した魔女は、元は魔法少女、つまり、僕と契約したクエスター、ダークレジェンドだったのさ」

 

 また、ニヤリと笑みを浮かべる。

 帆奈はそれを見て、ガクリと地面に膝をついたかと思うと、顔を両手で抑えて声にならない悲鳴を上げた。そして。

 

「キュゥべえ……あたしの願いは……」

「ちゃんと叶っただろう? 君の望んだいじめっ子は僕が消してあげた」

「最初から……利用するつもりで……」

「当たり前じゃないか。じゃなかったら君みたいなゴミクズ、相手にするわけない。君との契約は本当に偶然、偶々世界に絶望していたのが目に入っただけ。そんな適当な理由で選んだ子が、魔法少女になり、それが奈落を広める為に利用されていただけだという秘密までも知り……ああ、もう駄目だ。折角可愛らしい、でもどこか不思議、そんなマスコットキャラクターを目指していたのに……やっぱいいや……うん、面白い……ぐちゃぐちゃになるのってさ……あっは! あっははは!」

 

 限界だった。

 奈落を前に止められているフェリシアも、真実を知って絶望する帆奈も、そして――、憎むべき存在が、人の不幸を笑う姿も。

 

「……めろ……」

 

 ななかが静かに震えていた。

 美雨はその気を感じ取り、思わずフェリシアを抑えた手を放してしまう。

 フェリシアは解放された事で大きい獲物である鏡の魔女の方に飛びかかろうとするも、すぐ後ろから感じた恐ろしい何かに気付き、足を止めていた。

 かこが、あきらが、そして帆奈でさえも、その気の中心、常盤ななかへ目を向けていた。

 そうして遂に、宿敵に対する怒りで理性を押しとどめていた糸がプツンと切れる。

 

「……やめろ……やめろって言ってんだよ! そのムカツク笑いを!!

 

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