つまらない話ですが、暇潰しにでも聞いてください。
平成の世に生まれた私は、両親の愛情を受けすくすく育ち、大学を卒業し社会人として生きてきました。友人もいたし高校生の頃には短い間だが恋人だっていたんですよ。言葉にすると、恵まれた環境にいるだけのごく普通の一般人な私ですが、少しばかり一般的でない、親にも言えなかった秘密があるんです。
ひとつは私の趣味が同人誌の作成だったこと。もうひとつは私が
カプ厨。それは同性異性関係無しになんでもかんでもカップリングしてしまう罪深き性癖を持つ者。漫画やラノベ、ゲームのキャラが二人で親しげにしているだけで(例え仲が悪くても)、脳内で妄想が爆発してしまうヤベー奴らを指す。
でもね、仕方ないんです。私も漫画を読んでいるだけで、漫画のキャラで甘酸っぱい恋愛模様から、若干ピンク色の妄想まで脳内で描いています。というかSNSの裏アカで妄想をぶちまけ、友人と作り上げた同人誌でぶちまけてます。
一部の原作ファンからは蛇蝎の如く嫌われている我らカプ厨ですが、少なくとも私は時と場所を選んでいるので勘弁して欲しいなぁ。
あ、今の私のブームは『鬼滅の刃』です。
『鬼滅の刃』
大正時代を舞台に、主人公の炭治郎が家族を殺した鬼を討ち、鬼になってしまった妹を人間に戻す為に戦う、「日本一慈しい鬼退治」がテーマの物語。ほんとに少年誌掲載なの?って言いたくなるくらいに残酷で、それ以上に人間の強さ、優しさを感じられる人間ドラマが熱いたいへん素晴らしい作品です。
その人気を支えているひとつが登場人物なのは間違いないでしょう。主人公の炭治郎を筆頭に、鬼殺隊の面々から敵である鬼達、果てはファンの多くが「頼むから死んでくれ」と口を揃えてしまうくらいに人気があるラスボス。キャラの魅力を語ろうと思えば一夜は語り明かせますね。
え、鬼滅のカプで何か書いていたのかって?
当然私もいっぱい妄想を書いたし載せてきたし呟いたさっ!(豹変)
ぎゆしのは至高だし炭カナはもうそれだけで尊いしおばみつなんて胸がキュンキュンしっぱなしに決まってんだろぉ!!
リアルタイムで猗窩座戦を読んでた時なんてなぁ!決着着いたと思ったら猗窩座さんのドチャクソ重い過去をお出しされてその日1日胃もたれしてたんだぞ! なんなの!?作者は悲劇が大好物なの!?生前の狛治さんは幸せになれないのぉぉぉ!!??
まあ、炭治郎のパンチと恋雪さんの「おかえりなさい、あなた」で私も見事に成仏しましたが。
しゅきぃぃぃぃぃ!!!(浄化)
とにかく何が言いたいかって言いますとぉぉ!!
ぎゆしのも炭カナもおばみつもぜんねづも錆まこも炭ねづも炭アオも伊アオもぎゆねづも伊カナも玄すみも実ナエもひめしのもひめカナも宇嫁も耀あまも狛恋も童しのも童琴も縁うたも腐カプも百合カプも全部ぜんぶぅぅ!!(早口)
私はっ!メチャクチャッ!!愛してる!!!
失礼しました。
どうも好きなことについて語りだすと早口になってしまいましてね。
実をいうとここからが本題でして。私、そんな大好きな鬼滅の刃の世界にいるんですよ。現在17歳の鬼殺隊の青年として。
最初はそりゃあ戸惑いましたよ。生まれたてホヤホヤの頃は、ここが鬼滅の世界とは気付いてなかったのもありますが、普段はスーツ着て出社しているのに、気付いた時には着物着てましたし、そもそも、何で明治だか大正だかの時代にいるのかも、元の世界の自分がどうなっているのかも分かってないんですから。
そんな状況にもいつしか慣れて、こっちの世界でも両親に愛され兄弟と遊び、幸せに暮らしていた私ですが、14歳の時に鬼に家族を全員喰われてしまいました。
その時のショックが原因でしょうか?ここが鬼滅の刃の世界であると理解したのは。
その後私は、こっちの世界の家族を奪った鬼にケジメをつけることを決意。水の呼吸を教えてくれた育手の下で一年半の修行を経て、なんとか鬼殺隊に入隊しました。さらにそれから一年間日本全国を駆け回り、ついに目的の鬼を発見。同期と共に討伐し、復讐を遂げたのでした。めでたしめでたし。
まあそれからはと言いますと、自分でも意外なことに、目的を達成したとたんに気が抜けてしまったのか、次の任務で大きな怪我をしてしまいました。いやぁ、お恥ずかしい。
それからなんだかんだあって、隠の皆さんに治療の為に連れてこられたのが蝶屋敷。ここにきて初めて私は気付いたのです。
テンション爆上がりですよね!我ながら今さらそこに気付くのかよ!ってつっこんだんですけど!そうなんですよ!私鬼滅の世界に居るんだから原作キャラの顔を拝むことが出来るんですよ最高かよ!
つーか今までの私シリアスすぎじゃね?なんなの「復讐が~」とか「ケジメが~」とか。ここ数年それしか頭になかったよ。つーかお前そんなキャラじゃねぇだろ。
いやね、もちろんそれが必ずしも悪いこととは言わないよ?実際スッキリしたし!でもこれから先もそれに縛られることはないよねって話。私の家族だってそんなの望んでないだろうし!
だからこれから先は楽しく生きようって決めたんです!とは言っても鬼殺隊を辞めるつもりはないですし、ラスボスの無惨をぶち殺す為に鍛えることは決定事項。趣味に生きる時間はまず無いんですよねぇ。
それに、実を言うと私そんなに強くないんです。なので「原作を改変して死亡キャラを死なせねぇ!」ってことが出来そうにない。私ひとりの影響力なんてそんなもんです。
そんなことを蝶屋敷のベッドで悩んでいるとき、窓の外で私の運命を決定づける光景を目にしたんです。
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ!?!?!(思い出し発狂)(歓喜)
と、尊いぃ。尊いよぉ……!
私は分かってる!二人が仕事の話をしていたことも、その途中で常時無表情の義勇さんをしのぶが弄っていたことも!
それを私が「
でも細けぇことはいいんだよ!
大事なのはぎゆしのは至高にして絶対であることで!
私はそんな推しカプ達をずっと観ていたいってことで!
それが私の生きる理由になったってことが言いたいんだよぉ!!
「人は心が原動力」
さっすが主人公!ホント良いこと言うよ炭治郎さん!
てことはよぉ!私がこの世界でたくさんのカップリングを作り上げ、現実にしていけば、恋が原動力になって鬼殺隊はもっともっと強くなるってことだよなぁ!?
趣味と実益が伴っているとか、私って天才じゃね?
え?自分語りが長くてかったるいって?
ごめんなさいね、途中で興奮しすぎちゃって。
まあ要するに、何が言いたいかっていうと。
神は言っている、
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「しのぶ様、水柱様がお出でになられました」
「……わかりました。すぐに向かいます」
読んでいた西洋の医学書から顔を上げ、胡蝶しのぶは椅子から立ち上がる。眉間を揉みながら部屋を出ると、神崎アオイが「お茶の準備をしますね!」と言って廊下を急ぐ姿が見えた。
少し前、蝶屋敷に一度に多くの怪我人が運び込まれたこともあり、ここで働く彼女達にも疲れがたまっている筈だ。出来れば休みをあげたいが、きっと真面目な彼女達は、傷ついた隊士を差し置いて休むことはしないだろう。
そんなことを考えながら歩いていればあっという間に客間に着く。部屋に入ると、いつもの半々羽織着た無表情の男が座っていた。
「こんにちは冨岡さん。今日はどういったご用件でいらしたんですか?」
「……胡蝶か」
水柱・冨岡義勇。鬼殺隊の中で最高位の実力をもつ「柱」の一人。本来なら怪我をするか、柱合会議の前後でもない限り、こうして蝶屋敷で話すこともない筈だ。
「彼等の怪我の具合は?」
「貴方が任務先で遭遇した隊士達のことですよね?……正直かなり酷いです。全員命に別状はありませんが、何人かは任務に復帰することは厳しいかもしれません」
少し前に運び込まれた隊士達は、皆同じ任務に就いていたという。
聞いたところによると、とある里に強力な鬼が住み着いていたらしく、以前にも何度か隊士達を派遣していたらしい。しかし彼等は戻ってこず、その数が40を越えたところで、柱である義勇が派遣されたという。
結果、鬼は討伐され、義勇とまだ生き残っていた十数名の隊士達は帰還。死んでいった者達は、遺品となる物だけを持ち帰り、遺体はその場で弔ったらしい。
「実際、その鬼はどれ程強かったんですか?」
「下弦の参だった」
「なるほど、それでは一般の隊士では厳しいかもしれませんね」
残った隊士達の姿も、それは酷いものだった。
比較的怪我の軽い者もいたが、手足を失った者、眼を奪われた者、中には破傷風を起こした者もいる。
ベッドの上の彼等の姿、呻き声を思い出し、しのぶも沈痛な表情になる。
「お待たせして申し訳ありません!お茶をお持ちしました!」
場の空気が重くなったところに、それを払拭するかのようにアオイがやって来た。アオイは手にした盆からテキパキとお茶とお茶菓子の準備をしている。
「気にしなくていいですよ。ありがとう、アオイ」
「結構だ。俺はこれで失礼する」
「えっ……」
にも関わらず義勇は立ち上がり、屋敷から出て行こうとする。アオイは驚き、自分が何か失礼なことをしてしまったのかと凍りつく。一連の流れを見て、しのぶは大きなため息をついた。
義勇は決して気を悪くしたわけではない。ただ、忙しい中で自分をもてなす為に時間を使わせるのを申し訳なく感じたのだ。だが端から見れば、義勇の態度はあまりにもひどい。
義勇の人の心の機微に鈍いところが成長していないことにしのぶは頭を抱える。そんな義勇が何を考えているのか、なんとなく分かってしまう自分にも。
「冨岡さん。せっかく忙しい中アオイはお茶を用意してくれたのに、その好意を無下にするんですか?」
「だが」
「だいたい、まだ皆さんのお見舞いもしていないじゃないですか。そんなだから嫌われてしまうんですよ」
そこまで言うと、さすがの義勇も静かに座り直す。そして小さく「俺は嫌われていない」と呟いた。
「ありがとうアオイ。もう行って大丈夫ですよ」
「は、はぁ」
「あぁそれと、みんなに休むように伝えてください。朝から働きづめだったでしょう」
良い機会だと思い彼女達に休むように言い渡す。アオイは頷いて部屋から出ようとする。
視線を机に戻したその時、しのぶは違和感を覚えた。
「待ってアオイ、ちょっと聞きたいことが」
「どうかされましたか?」
しのぶは机の上のものを指指して、
「この羊羹はどうしたんですか?
そう質問した。
それを聞いたアオイは、思わず苦い顔になって答える。
「その羊羹、
「
しのぶは深く、深くため息をついた。
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最近、ただでさえ疲れているしのぶの頭痛のタネになっている人物がいる。
彼は、今回怪我をした隊士達の中では、比較的軽傷で済んでいる。その為か、よく治療室を抜け出しては街に行き、おみやげを買って帰ってくる。安静にしているようにと口酸っぱく言っても、口では謝るが行動は一向に直らない。
おみやげは蝶屋敷のみんなで食べて欲しいと言って渡される。買ってくる量も多く、おかげでたった数日でおみやげの山が出来た。きよ、すみ、なほの三人は素直に喜んでいたが、しのぶとアオイは良い顔をしない。カナヲにいたってはそもそも興味を抱いてない。
しのぶは彼のことを茶飲み話として、愚痴混じりに義勇に聞かせる。義勇は耳を傾けながら、話に出てきた彼の持ってきた羊羹を厚めに切り、口にした。とたん、義勇の目が大きく開かれる。
「どうかしました、冨岡さん?」
「……うまい」
「そんなに美味しかったんですか?」
珍しい義勇の態度に、しのぶも羊羹を口にする。
「あ、ほんとに美味しい」
羊羹の甘さは上品でくどくなく、少し苦味が強いお茶にぴったりだった。
お茶を啜り、しばし余韻を楽しんだしのぶは、湯呑みに目を落としながら彼の話を再開する。
はっきり言おう。何を考えているのかわからない彼のことをしのぶは苦手にしていた。彼の奇行もそのひとつだが、一番の理由は彼の視線だった。
普段の彼はいつもニコニコしていて、愛想がよく人当たりもいい。隊士達とも笑って話をしている姿を見かけるし、自身より年下のここで働く彼女達にも礼儀正しい。
身体が動くようになれば、機能回復訓練を自主的に行う積極性もある。何度言っても勝手に街を出歩くことは止めないが、それ以外は特に問題もない好青年だ。
しかししのぶは気付いている。彼が一部の相手にだけ、ときどき普段とは違う視線を向けていることを。
最初に気づいたのは、しのぶがカナヲに稽古をつけていたときのこと。
カナヲが自身の身を守れるように、しのぶは治療と研究の合間に道場で稽古をつけるようにしている。その光景を彼は見ていたのだが、食い入るように見つめながらなにかをブツブツ呟いていた彼の異様な姿に、しのぶは寒気がした。
他にも、恋柱・甘露寺蜜璃が任務の中でできた傷の治療をしていた時にも、しのぶと蜜璃を見ながらブツブツと。そんな蜜璃を食事に誘いに来た蛇柱・伊黒小芭内が現れた時にも、小芭内と蜜璃を見ながらブツブツとなにかを呟いている。
正直気味が悪かった。
後になって彼に話を聞いてみたが、彼曰く「自分はあくまでその場に居合わせていただけ」とのこと。呟いていたことについても自覚症状はなかったと言う。
彼が向ける異様な視線には、敵意も悪意もなく、ましてや下卑たものでもない。
だからこそ、今まで向けられたものとは違う視線に、しのぶは苦手意識をもっていた。
「彼自身は普通に良い人なんですけどねぇ。私も彼を避けるようなことはしたくないですし」
「……」
「私が自意識過剰なだけですかねぇ」
「……」
「……話を聞いていますか、冨岡さん?」
ここまで義勇は会話の中で相槌のひとつもしていない。どうしたのかと義勇の方に目を向けると、義勇の方はすでに羊羹もお茶もなくなっており、彼もどこか満足そうな表情を浮かべていた。
「……え?まさか冨岡さん、羊羹に夢中で話を聞いてなかったなんて言いませんよね?」
「……」
「いや、何か言ってもらえませんか?」
義勇は決してしのぶと目を合わせようとしない。どうやら図星だったらしい。しのぶの手の中の湯呑みがミシリ、と音をたてた。ただニコニコと笑いながら怒るしのぶと、何も言わない義勇との間で沈黙ができる。
この男、一発くらい殴ってもいいのでは?
そんなことばがしのぶの頭の中をよぎる。
「……その男、名前はなんというんだ?」
沈黙を破ったのは義勇の方だった。
実際に顔を合わせたときに変な先入観を与えないよう、あえて固有名詞を出さなかったのだが、そんな意図は伝わってはいなかったようだ。
しのぶはわざとらしく大きなため息をつく。義勇なら、口外しないよう言えばきっと大丈夫だろう。
「
しのぶがそう言うと、義勇はまた何も言わなくなる。今度はなにかを考え込んでいるようだ。
「面識ありましたか?」
「……いや、だが俺はその男を知っている」
「珍しいですね。冨岡さんが人のことを知っているなんて。彼に何か特異な点でもあったんですか?」
「俺をなんだと思っているんだ?」
不満そうにしのぶを見るも、しのぶはそれを無視して話を進めるよう促す。
「任務の最中に、影浦という男と任務を受けたことがある隊士から聞いた話だ。その影浦という男は家族を鬼に喰われたらしい」
「……あまり言いたくはないのですが、珍しくはない話では?」
鬼殺隊の多くは、大切な人を鬼に奪われた者達で構成されている。事実、義勇もしのぶも目の前で家族を鬼に喰われた過去がある。
「少し前に、影浦とその隊士はある任務を受けた。山に住み着く鬼の討伐だったという。その鬼は、どうやら影浦の仇の鬼だったらしい」
「!」
「その任務は彼等だけで達成された」
それはたしかに珍しい。任務の中で自身の仇の鬼と遭遇することも、自分の手で敵を討てることも。
しのぶは未だ、姉を殺した鬼の所在を掴むことさえ出来ていない。そして、確実に相手を仕留める手札も。
少し、影浦のことを羨ましく思う。
「彼のことはわかりました。ですが、それと視線がどう関係するんです?」
「知らん。俺は知っていることを話しただけだ」
「ですよねぇ」
そんなことだと思った。
だが、いい話を聞けた。実際に自身の仇をとることが出来た隊士がいることを知れたのは、しのぶには良い刺激になった。これで、自分がしていることは間違いではないと確信する。
(大丈夫よ、姉さん)
貴女の仇を討てるなら、その先に道がなくとも、どれほど苦しくとも毒を食もう。
しのぶは決意を新たにする。
だから、義勇が自分に向ける視線の意味に気付かなかった。
「次の任務もある。俺はこれで失礼する」
そう言って義勇は席を立つ。
「隊士の見舞いはしていかれないんですか?」
「あまり時間もない。それに、俺が彼等に出来ることは鬼を斬ることだけだ」
義勇は部屋を出ようとすると、急に立ち止まり、
「……何が良い」
「へ?」
「高知に行く。土産は、何が良い」
顔を向けずにそんなことを言い出した。
もしや、影浦の話の話を聞いてなにか感じるものがあったのだろうか? 義勇の慣れない気遣いに、しのぶは思わずクスリと笑う。
「お気持ちだけで充分ですよ。それでももし覚えていてくださったら、何かしょっぱいものがいいです。甘いものはもうたくさんあるので」
それと、としのぶは微笑みながらつけ加える。
「私、生姜の佃煮が好きなんです」
「……覚えておこう」
そう言って義勇は歩き出す。
しのぶも「玄関まで見送りますよ」と言って立ち上がり、
急に全身の力が抜けた。
(あ、まずい)
しのぶの想像以上に身体は疲れていたのだろう。
身体に力は入らず、受け身もとれそうにない。
自分が机の方向に倒れようとするのもゆっくりに感じて、
きっと痛いだろうなぁと思い、しのぶは思わず目をつむる。
衝撃は───こなかった。
(……あれ?)
恐る恐る目を開くと、最初に目にはいったのは黒の隊服と半々羽織。
「冨岡……さん?」
どうやら自分は義勇に抱き抱えられているらしい。
少し顔を上に向けるといつもの無表情がある。
すごい反射神経ですね、とか、見ていなかった筈なのによく気づきましたね、とか言おうとしたが、
思った以上に───顔が近い。
「ただの立ち眩みです。大丈夫ですから、もう立てます」
少し気恥ずかしくなり、若干声を震わせながらしのぶは呟く。
義勇はしのぶの体勢を戻しながら一言。
「ここの主人のお前が倒れてどうする」
まったくもってその通りだ。体調管理も出来ない未熟者では多くの人に迷惑がかかる。医者の不養生だなんて現実では笑えない話だ。
しのぶは義勇に頭を下げようとして、
「「!!?」」
悪寒を感じた二人は思わず飛び退き、腰の刀に手を掛けて警戒体勢をとる。
周囲に目を向け、悪寒の原因を慎重に探っていると、義勇の視線がある一点を見据えて止まる。しのぶも視線の先を追うと、部屋の窓がある。
窓の外には、少し離れたところからこちらを凝視している男がいた。
しのぶは刀に置いた手を離し、足早に窓に近づく。外にいる彼もこちらの動きに気づいたらしく、いつもの柔和な笑顔を浮かべ、手を振りながら寄ってくる。しのぶは窓を開けて男に声をかけた。
「こんなところでどうしたんですか、
「胡蝶さん!実はこの屋敷の周りを散歩していたんですよ!それにしても広いですね~ここ!」
ハキハキと答えるこの男こそ、先程まで話題にしていた影浦大和である。
影浦はしのぶの奥に立っている義勇に気づいたらしく、
「すいません!私いま、絶対
妙にお二人を強調して言ってペコペコと頭を下げる。
「……いえ、気にしないでください。彼も今から帰るところですから」
「そうでしたか。あ、もうすぐ訓練が始まるので失礼します!」
言いたいことを言って、影浦は道場の方へ走って行く。その後ろ姿はとても楽しそうだ。どうしてこんなところにいたのかも、何故こちらを見ていたのかも、何故二人が刀を抜こうとする程の強烈な悪寒を彼から感じたのかもわからないままだ。
「彼のことどう思います?冨岡さん」
しのぶは振り替えって義勇に意見を聞いてみる。
義勇は少し考えた後、「よくわからない」と呟いた。
二人は知らない。
(ぎゆしの最高ぎゆしの最高ぎゆしの最高ぎゆしの最高ぎゆしの最高なんだよあのシーン完全に抱き合ってたじゃん義勇さんの身体にしのぶさんすっぽり入ってたじゃん!あの年の差と身長差ズルすぎだろもう萌えろって言ってるようなもんじゃんそのままキス出来たじゃん!!何話してたかわかんないけどあの二人とも何も言わなくても分かり合ってますよ感醸し出しすぎでしょ尊すぎでしょ尊死するわ心臓止まったかと思ったわ!!!)
この男の考えていることに自身の本能が拒絶反応を起こしていることを。
この男の脳内がどうしようもない程お花畑なことを。
この男は本当に偶然居合わせたにすぎないことを。
この男に多くの鬼殺隊の隊士が振り回されることになることを。
これは、いろいろ拗らせたカプ厨が、『鬼滅の刃』の世界に恋愛イベントを増量させる物語。
需要があったら続きを捻り出そうと思います。
誤字、脱字、変換ミス、その他変なところがあれば指摘して頂けるとありがたいです。
感想待ってます。