それでは本編ですわ!!
「っ!………みんな車内へ!!」
咄嗟にみほは叫ぶ。その声で、呆然としていた他のメンバーも慌ててハッチから車内へと潜り込んだ。
『これは……………いえ、面白いわね!試合続行!!』
そして、最初は驚いていた蝶野教官もすぐにニヤリと笑い、続行許可を出す。そのまま続けて他チームの面々へ向け注意喚起。
『撃破されたチームのメンバーは車内に戻って!………………しっかりと、見ておきなさい。
………まぁ、乱入してる時点でちょっと違う気もするが。
そうこうしているうちに、決闘はじりじりと進みつつあった。
「冷泉さんそのまま全速でバックして下さい!」
「ほいよ」
急発進し橋から逃げようとするⅣ号。対しT-54はその場から動かず…………………
「…………………まだ?」
「まっ、もうちょいですの!そのまま、そのまま照準合わせで………………」
一拍置いて
「ファイア!!ですの!!!!」
ズドォォォォン!!
T-54の100ミリ砲が火を噴く。弾は一直線にIV目掛けて飛んでいき………………
ドォォォン!!!!
残念橋のケーブルに命中!!だがそこから橋が崩れ始め…………!
「ヤバイよ落っこちちゃうよ!!」
「っ!…………だ、大丈夫もう抜けられたから!」
沙織が崩落の恐怖に叫ぶ。それに対し、みほは一瞬体を震わせるもののすぐに首を振って大丈夫だと言った。そして矢継ぎ早に指示を下す。
「秋山さんここで照準合わせて。行進間射撃なのでそこまで正確じゃなくても大丈夫!冷泉さんはそのまま左に旋回して下さい!」
「はい!」
「おうよ」
……………ズドォォン!!これは外れ、T-54の頭上をかっ飛んで行った。だが凪沙の方はそれを喜んでいる暇などない。
「いっ、忙しいですわぁぁぁ!!!」
「そりゃ2人で戦闘なんて出来る訳ないよ………今度から反省してちゃんとメンバー探そうね」
「うううううう、猛省しますわぁぁぁ………………」
泣きっ面で必死に装填する凪沙。………だがはやる気持ちとは裏腹に、発射速度は致命的なほど遅かった。
やがて、旋回を終えたIV号は川を挟んでT-54と相対する。が、先ほどと違いIV号は横っ腹を晒した状態だった。
好機、到来!…………のはずが………………
「や、やっと装填終わりましたわ…………」
「凪沙早く!今なら殺れる!!」
せかすななせ。しかしフラッフラの凪沙の動きは緩慢で、なんとか砲手席に潜り込むもぶつぶつと反論している。
「別にT-54ならどこ撃ったってブチ抜けますわ…………えーっと、照準照————」
………しかし、それはみほの思惑通り。そもそも先ほどからの砲撃の遅さで、彼女はT-54が致命的なまでに人員不足である事を見抜いていたのだ。いくら高性能でも、人が足りなければ単なる鉄屑である。みほはここで勝負を決めるべく、砲撃を指示した。
「撃て!」
ズドォォン!!……キィィンッッッ!!
「…………ダメか。そうすると…………」
見事にT-54の車体に命中するも、難なく弾かれてしまう。IV号の短砲身75ミリ砲の貫通力は最大100ミリ。対しT-54の前面装甲は傾斜込みで実に200ミリを軽く上回る!そのため撃破の為には最低でも相手の側面か後面に回り込まなくてはならないのだが………………
「……………一旦後退します。冷泉さん左に大きく回って下さい」
「うむ」
再び左回転し、敵を尻目に遁走するIV号。成る程、これは———————
「…………誘い込んでるね」
「ですわね…………」
誘引しての待ち伏せ撃破。そうである事は明白であった。というよりそうしなければIV号に勝ち目がない訳なのだが………
さて、ではどうするか?これだけ性能差がある場合誘いに乗るのは愚策である。なんせこちらはどんな距離からでも当れば即撃破出来るのだから。後はここから動かずただひたすら奴のケツを撃ちまくれば良い。
……………が、それでいいのか?
「————————無論、全く宜しくありませんわ!!」
当然、とばかりに凪沙は吠えた。馬鹿言え、これは
「………わたくしは変えるのですわ!腐った勝利至上主義を、この手でぶち殺して差し上げますの!!」
「……………………成る程。確かにそうだね、凪沙。それじゃあ———————」
「ええ!前進、前進、前進ですわ!!」
己の“道”を突き進む少女同士が、戦車を介しぶつかり合うそれが、戦車道……………!!故に凪沙は突き進む。ただひたすら、どこまでも真っ直ぐと!
「———————勝負ですわ!西住さん!!!!」
※
「…………ふふっ、すごいなぁ」
—————どこまでも楽しそうなその顔、その声は、みほの琴線を刺激するには十分だった。
故に
「————————冷泉さん」
「もう橋の真ん中だけど、まだ撃てない?」
「ちょっ!待っ!!…………………ううう狭すぎますわ!!—————っ!よーし照準照準照準照準照準……………………!!行けますわ!!」
「了解ッ!!!!」
減速するT-54。照準完璧!それに距離、砲の初速から言ってこれは確実に————
ズドォォォォン!!!!
「完璧ですわ!勝ったな風呂入りま———————————でぇッ?!」
いや、西住みほの目と鼻の先を通過していった。
ゾクッッッッ
「……………な、なんですの、
凪沙は、見てしまった。この戦場で唯1人、ソレを———————
見てしまった。
——————————みほの表情が、何一つ変わらなかったのを。
……………戦車内であれば、特殊カーボンによりどんな砲弾が命中しようとほぼ安全だ、それは良い。だが………………
生身に当れば、いくら実弾ではないとは言え粉微塵である。そんな恐ろしいものが
無理矢理のポーカーフェイス?……………いや、違う。凪沙は直感的にそう感じていた。アレは、本当に—————————
何も、感じていない…………………………?
「———————さ!凪沙!!」
「はっ!?ここはどこですの?!わたくしは…………………」
「……………大丈夫?スパナあるけど」
「それはぶん殴ってみろと言いたいのですか?!まったく失礼しちゃいますわ!!」
……気がつくと、すでに戦車は急増速し橋を抜けようとしていた。慌ててななせの毒舌にツッコみ、再装填を急ぎ、再び照準を合わ——————
「って!?相手は何をやっているんですの?!」
なんと、IV号いまだ後進中。……………あ、ははーん!そうかそうか!!
「ハッ!二度も同じ事で騙されませんわ!!」
どーせまた引っかけだろう。ならばこっちも引っかけてやらぁ!!
「追っているフリ、フリ、フリですわー!」
照準を合わせているように、砲塔を微調整して誤魔化す。するとIV号は……………
「?!本当に、正気ですの?!」
右向きにバックし、車体の向きを変えようとしていたッ!!おのれ小癪な!!
「くぅぅぅ!!わたくしをおちょくるとは良い度胸ですわ死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ズドォォォォン!!!!
瞬間沸騰した凪沙は100ミリ砲をぶっ放した。
しぬがよ—————————あれぇッッッッ?!
な、なんとIV号はまたも避けたッッッッ!!今度は即座に信地旋回に切り替え砲弾から華麗に逃れる。こんな芸当一体誰ができるのだ?!
今日始めたばかりの初心者が????
つ、つまり………………
「は、半端ないですわ、西住流………………」
呻く凪沙。が、それを真っ二つに否定する声が。
「いや、確かに指揮者も凄いけど……………一番ヤバいのは操縦手だよ。一体誰が……………………?」
声色は硬い。ななせは恐怖していた。こんな超機動をする相手に、太刀打ちなんて………………………………
いや、駄目だ!!私は変わる、凪沙と出会えたから——————ッ!!!!
「———————回り込もう」
顔を上げ、ななせはアクセルを踏み込む。やってやる、やってやるんだ!!
「い、行けますの?!」
「こっちの方が機動力が上だから大丈夫。凪沙は回り込んだ瞬間に撃って!」
「…………成る程ほいきた合点ですわ!!!!」
急発進し、一旦左転舵の後すぐに全力で右回転。と、その時
ズドォォン!!——キィィィィン!!!
IV号が発砲し今度は側面に命中するも、なんとか履帯が弾いてくれた。……………が
「…?!……………くそっ、挙動がおかしくなった!」
その代償として右履帯が損傷!動きが悪くなり、これでは……………………
「くっ………!!駄目だ履帯が取れる!!!!」
この激しい動きに耐えられない!!IV号の真後ろで、ついに右履帯は悲鳴を上げるように弾け飛んだ。
が
「いーやそれでも大丈夫ですわ!!慣性の法則を信じなさい!!」
凄まじい摩擦だが、しかしなんとか回り、込め———————————
——————ないいいい!!!!
「違う違うそっちじゃないーーーーーーー!!!!」
なんとか修正しようとするも、もはや操縦不能。
そのまま、T-54は一回転するかのようにスピンし、
「あ、左もヤバ————————」
……………ついでに左履帯も取れ、白煙とともに停止………いや、その場に埋まってしまった…………………………
「——————ええいだからなんですの?!ここで決めてやりますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
しかしまだ砲塔は動くッッッ!!照準を調整し、撃とうとす———————
あ、なんか黒い点がコッチヲミテル
ズドォォン!!
ズドォォォォン!!!!
……………ポスッ!
『…………………有効!T-54行動不能!!よって、Aチームの勝利!!』
無線機から流れ出る蝶野教官の無慈悲な宣告。うーん…………………
「……………見事に真横に向いてしまいましたわねー」
「…………やっぱり戦車でドリフトは無理か………………」
「でも凄かったですわ!最初の被弾さえ無ければ恐らく上手くいっていましたの!………やっぱりななせさんは最高ですわ!!」
いや……………どうだろう。ななせは喜び褒めてくる凪沙に苦笑いしながら心中で思った。あのドリフトが成功しようが失敗しようが、しかし総合的に見ればななせは惨敗であった。
あのIV号の操縦手………………悔しい。負けたくない。次は——————
「次は、勝つ」
そう、決意と共に呟いた。だがまずは、その
—————————かくして、練習試合は終わる。少女たちの“初めての戦車道”は、こうして幕を開けた。その先には、何があるのか………………?
※
やはり、スポーツの後は風呂が一番!という事で、IV号のメンバーは揃って艦内の大浴場に来ていた。
「はぁ〜、なんか告白されるよりドキドキしたぁー」
「………?された事ありましたっけ?」
いつも通りの華の火の玉ストレート。最近ようやく慣れてきたみほも、これには苦笑い。
それに沙織が言い返したり、みほが相槌を打ったりして、まさに和気藹々と過ごしている、と
「頼もう、ですわ!!」
ガララッ!と浴場の戸が開き、凪沙が高笑いしながら入ってきた。その後ろにはげっそりとやつれたななせが。
「うう………じゅ、重力が重い……………」
「まったく!乗る前と後で重力加速度は変わっておりませんわよ!……ほら、まずは身体を洗いますわよ!」
ヨレヨレのななせを叱咤しつつ、凪沙はそのままシャワーで身体を洗い始める。
そして
「……………はぁぁぁぁぁ、最高ですわぁぁぁぁぁぁ」
湯船に浸かり、とろけるように呟く。
「やはり御風呂はこれくらい大きい方がいいですわ、ね…………………」
……………そこでようやく、凪沙はだれと一緒に入浴していたかに
「ええええええええ!!!!????!西住サン!?西住サンナンデ!?」
気づいた。
「ええ?!私たちずっと居たのに!?」
沙織が叫ぶ通り、みほたちは凪沙らが入ってきた時からここに居た。それなのに気付かないとは……………
「しっ、仕方ありませんわ!ななせさんの御相手に夢ちゅ………ゴホン専念しておりましたから、少し気付くのが遅れただけですわ!!」
顔を真っ赤にしてそんな事を宣う凪沙。それを見て生暖かくなるみほたちの視線。
「ううううう〜〜!なんですのもう!!………そ、そうだななせさんが遅いですわ!まったくあの子は………………って!ななせさんがおりませんわ!!」
「ええ?!」
「そういえば、いつのまにかシャワーから居なくなっていますね……」
「やだもー!そんなオカルトありえないよー!」
「まるでフィラデルフィア計画のようです!」
強引に話を逸らそうとした凪沙が、ななせの不在に気づく。それを聞いて、確かにそうだ大変だと騒ぎ出すみほたち。あたりをキョロキョロ見渡すが、居ない……………?
「………………うるさいぞ、風呂で騒ぐものじゃない」
「そうだよ、他の人の迷惑になるよ」
と、みほたちを注意するかのように、泡風呂で寝そべっていた麻子とななせが呟く。だがそんな事を言っている場合かと沙織と凪沙がキレた。
「人が消えたってのに、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ麻子!島原さん探さないと!!」
「そうですわ!!ななせさんを捜索しないといけないのですわ!!ほらななせさんも!そんな所でのんびりしてないでななせさんを探しま……………す……………………わ………………………よ?」
……………………………………………????
「「「「「あ!!!!」」」」」
※
「それにしても、いやはや完敗でしたわ!T-54とIV号というとんでもない性能差を見事ひっくり返す技能!お見それいたしましたわ!!」
騒動が落ち着いた後、みんな揃って湯船に浸かっていると凪沙がみほにズイッ、と近づいて言った。それを見て何故か優花里が得意げに言う。
「当然です!なにせこのお方はあの西住流の後継者である西住みほ殿なのですよ!……………まぁ私が足を引っ張ってしまったのでこんな事を言うのはおこがましいかもしれませんが………………」
「そんな事はありませんわ!聞くところによると貴女も砲手として素晴らしい射撃精度だったではありませんか!………………わたくしなんて全弾外れでしたし………………」
でも、と凪沙はいきなり立ち上がってビシィッ、とみほを指差し宣言した。
「次は、負けませんわ!」
「……………はい!でも、私も負けませんよ!」
………………凪沙が順調にチームIV号と友好を深めている一方、ななせはななせで、ある出会いを果たしていた。
「貴女が、さっきの試合で運転してたみたいですね」
「ああ……………もっとも、最初で最後だがな」
「え?!」
…………………………聞くところによると、どうも今日の試合では完全に成り行きでIV号に乗ることになったらしい。そしていくつかの偶然が重なり、運転する羽目になったのだとか。だが本来彼女が選択していたのは書道であり、今後は戦車に乗ることはないだろう、と………………………
だがそれは、そんな事は—————————!
「駄目!駄目です!貴女の操縦は凄かった、本当に凄かった!………私は貴女に並びたい、貴女に………………勝ちたい!!」
「………………………悪いが無理なものは無理だ。自分で勝手に強くなれば良いだろう」
そう言って、麻子はスタスタと浴場から出て行く。それに気づき、みほや沙織らも驚いて引き留めようとする。
「冷泉さんが居てくれるとすごく助かります!」
「冷泉さんお願いです!」
「あの運転はとても凄かったです!」
「初めてであの運転はすんばらしいですわ!」
「ちょっと麻子!遅刻ばっかで単位取れてないでしょ!!戦車道やれば卒業できるんだよ?!麻子ーーーー!」
……………………………………………うぐっ
「……………………………………………………分かった、戦車道やる」
扉に手をかけたまま、プルプル震えていた麻子は、やがて観念したかのようにくるりと振り向き言う。それを聞き、わぁと喜び合うみほたち。と、それに釘を刺すように麻子が続けた。
「あくまで西住さんに借りを返すだけだ」
「単位欲しいだけでしょ……………」
「うるさいぞ沙織。………………………それに」
ちらりと泡風呂の方を見る。
「…………………それに、何やら熱い事を言われてしまったしな。……………何も思わない訳では、ない」
……………………………………かくして軍神は四人の仲間を得、そしてお嬢様の友人は————————
競い合う
※
「…………………大洗女子学園?あら、戦車道を復活されたんですの?それはおめでとうございます。……………ええ、結構ですわ。受けた勝負は——————
————————逃げませんの」
ガチャリ、と受話器を置く。ふむ、面白そうな話が舞い込んできたものだ。聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長、ダージリンは心中で笑い、テーブルのティーカップを手に取った。
「大洗、ですか。いつですか?」
彼女の忠実なる副官、オレンジペコが尋ねる。カップの紅茶を少し飲み、ダージリンはニッコリと笑って答えた。
「次の日曜日よ。輌数は…………
おや、と同席していた三年生、アッサムは首を傾げた。
「……………………1輌多いですね。購入したのか、何処かから譲り受けたのか」
「まぁアッサム、こんな格言をご存知?『何事であれ最終的には自分で考える覚悟がないと、情報の山に埋もれるだけである』」
「羽生善治棋士ですね」
またぞろいつもの妙な格言か……………アッサムが呆れつつも頷くと、ダージリンはしたり顔で説いた。
「見える物、聞こえる物だけで何かを判断するなどおこがましいわ。…………それに、そういった“不確実”を許容した上で———————打ち勝つことこそが、私達聖グロリアーナの戦車道よ」
そして、ここに初めて、紅茶の淑女と軍神は————————
激突する。
理論上は、短砲身IV号戦車でもT-54の側面抜けます。まぁ砲塔は多分無理だから履帯裏の車体側面を狙ったんでしょう。
つまりななせがやろうとした事はみほ対まほの激戦の時のアレです。まぁ見事大失敗しましたが……………
そして!ついに登場ダージリン!!正直あれほど格言格言言われてますが、この最初の練習試合の時は『恋と戦争〜』のやつ以外確か格言言って無いんですよね。まぁその後腐るほど言いまくるので別に良いんですが…………
さぁ次回はいよいよ対聖グロ戦です!E100は今度こそ間に合うのか?!
《質問回答欄》
・T54はギリ大丈夫では?
→実はこのT54に限っては無理なんすよ。理由は次回語られます多分。
・アンツィオ死んだな(確信)
→そこは戦術と腕かな(白目)。いやまぁ、一応無いことは………無いと信じたい………Pなんたらとか…………