どこにでもあるようなありふれた学校。現在の時間はちょうど昼休み。屋上には三人の男女、南雲ハジメ、白崎香織、八重樫雫が昼食をとっていた。
内容は香織お手製の三人分の弁当。場所は気分次第だが、今回は三人だけの集まりである。
この三人は物心ついた時から殆どの時間を共に行動している。
彼らは普通の人間には持ちえない超常的な力があり、出会った瞬間からそれを感じ取ったのか、一目惚れからの好感度マックス状態だった。その時の第一声が。
「「一目惚れしました、結婚してください」」
「式はいつにしますか?」
香織と雫、女性二人からの求婚に両者の手を取ってハジメは即答した。
その場にいた彼らの家族が唐突な展開に固まっているのを他所に、彼らは家族にさえ口にしなかった己の力を躊躇いなく晒していく。
ハジメは己が想像できる範囲で、物を作り替え様々な能力や機能を付与出来る。ただし本人の性格ゆえか、生物と認識したものには直接は干渉できず、攻撃的な能力の付与や壊すと認識する行動が出来ない。
香織は生物と認識したものに対し思うがままに干渉し、動物などとの完璧な意思疎通や、望んだ状態への肉体変化、果てには対象の生死まで操作できる。ただし生物以外には無力であり、電子機器の類の操作に対し本来起こりえない不具合などが必ず発生する。
雫は破壊と切断という結果を様々なものに適用できる。生物の傷を破壊し無傷に戻すといった使い方や、人の縁といったものでさえ切ることが出来る。ただし作ることに関してはあり得ないほど不得手であり、代表的なものとして料理などをまともに作ることは出来ない。
ハジメは認識してしまえば虫さえ殺せない。
香織が電子機器を操作したらブレーカーが落ちた。
雫は温めるだけのレトルトでさえ味がおかしくなる。
自分達が明らかに異常な存在だと自覚していたがゆえに、同じような存在と出会えた結果彼らは自重を捨てた。より多くの時間を共に過ごすために、その能力を躊躇なく使用していった。
ちなみに彼らの家族はその行動を止めることはなかった。
今まで一歩引いたような態度で笑顔の一つも見せなかった子供たちが、それを機に明らかに変わっていった。喜怒哀楽がはっきりとし、子供らしく感情豊かになったことが嬉しかった。
能力についてはすんなりと受け入れられた。それからは家族間の距離も縮まり、南雲家、白崎家、八重樫家での交流も増えていった。むしろプロポーズの方が窘められる結果となり、ハジメ達は内心そちらの方が解せないくらいだった。
それに対し思わず、
「法を変えればあるいは……」
「三人でやれば出来る……」
「バレなきゃ犯罪じゃないわよね……」
そんな事を口にしていた。大人達は全力で聞かなかった事にした。
「ご馳走様、香織のお弁当今日も美味しかったよ」
「ご馳走様、香織の腕前は相変わらずね」
「お粗末様、二人が満足出来たようで何よりです」
ハジメと雫の言葉に香織はそう返す。三人の弁当は毎回香織が作るのが習慣となっている。雫が作るのは味がおかしくなるので論外。ハジメは香織が作りたがるのを優先。その結果である。
食事の後は歓談が始まる。
今回話題に挙げたのは、三人の幼馴染である天之川光輝とその恋人である中村恵理について。光輝の胃袋をより掴むため、恵理が香織から料理の手ほどきを受けており、その成果のついてなど。
ちなみに彼らが親しくなるきっかけとしては、両者の死ぬはずだった家族の命を救ったこと。
光輝は祖父を、恵理は父を香織に救われている。正確に言えば一度死んだ後に香織が生き返らせただが。
光輝の場合は急な病で亡くなった時に、訃報を聞いた香織がこっそりと蘇生し、それを偶然光輝に見られてしまった。三人掛かりで彼の祖父が死亡した記憶や記録の改ざんを行う際に、光輝の記憶だけはそのままにした。決して口外しないと約束した事と、自分達と同じ年頃の光輝に力を使う事に、ほんの少し躊躇いが生まれてしまったからだ。
恵理の場合は四人で遊びに出かけた時に、彼女の父が娘を庇い交通事故にあった瞬間に居合わせた。ほぼ即死と言ってよかったが、香織はあっさりと彼の命を救って見せた。その際に当事者の記憶の改ざんは行ったのだが、父に救われ、父の死を目にし、それがあっさりと覆されたことが衝撃的だったのだろう。恵理の記憶だけはそのままだった。
本気で行えばそれでも改ざんは可能だったが、それは自分達の力から一度は記憶を守って見せた恵理の思いを踏みにじる事となる。口外しないことを約束しそれ以上力を振るうことはなかった。
それを切っ掛けに、二人は数少ないハジメ達の力を知る友人となる。
ちなみに恵理は香織に対して半ば信仰心を向けている様な素振りを見せるときがある。流石にそれはこの三人でも少し引いた。
「恵理ちゃん、光輝君へのお弁当の感想はどうだった?」
「香織さんのおかげでばっちりだったよ!」
教室へ戻った香織は今日の成果を確認する。満面の笑みを浮かべる恵理と、照れ臭そうにする光輝の姿が見れて満足。それを見た香織の表情は、恵理は私が育てたと言わんばかりだ。
周りから年齢=恋人いない歴の者から凄まじい妬みの視線が集まるが、この師弟は気にする素振りもない。愛する者への思いを示す事に、恥ずべき事など一遍もないのは、彼女たちにとって覆る事のない常識だ。
それに対しハジメと雫は同意見。光輝のみ未だ割り切れていない。
「ハジメ、君はよく堂々としていられるな」
「僕達に自重を求める方が間違っているよ」
「うん、それを言われたらもうどうしようもないね」
ハジメ達の行いを知っている身としては、そう言われた時点でもう反論できない。
そもそも彼らが自重しなかった結果、二人は感謝してもしきれない程の恩を受けているのだ。
ゆえに光輝も本気でハジメ達を諫める事はしない。
「別にいいじゃない、手料理を振る舞うくらい……私は見た目だけ完璧なダークマターしか作れないんだから……ダークマターしか作れないんだから……!」
「雫落ち着いて、料理が出来なければ女性の価値が下がるわけじゃないんだよ」
「ハジメ……そうよね。料理が作れなくたって死にゃしないものね。出来ないことを嘆くより出来ることを邁進する方がいいわよね!」
持ち直した雫を見たハジメは、彼女を抱きしめ子供をあやす様に頭を撫でる。
それに対し雫は満足そうにハジメに身をゆだねる。ハジメは、あ、これ甘えるために演技してたなと察するがまあ良いかと、周りが色めき立つのも気にすることはない。
彼らが異世界トータスに召喚される直前の、ありふれた?一幕であった。