英傑召喚師   作:蒼天伍号

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ごめん、書きたかったんだ……。

許さなくていい、ただ、見てくれ!


英傑召喚
牛若丸・一


20XX年。

科学の進歩により目覚ましい発展を遂げた人類文明は、昼夜を問わずして活動しその生活圏を地球全土にまで広げた。

人類のあらゆる苦は緩和、或いは克服され、彼らは『堕落』の時代に突入した。

その過程で古の昔には『神』や『悪魔』とされた現象は科学によって説明され、太古より崇められ、畏れられた神や悪魔の類は『迷信』としてその存在を否定された。

世界を統べてきた彼らの衰退により、地球の覇権を握った人類は増長しさらなる発展を求めて知識を蓄え、未踏を踏破し、生命の理にさえ手を出し始める。

 

そのような現代社会にあって、未だ『悪魔』と戯れる者たちがいた。

 

悪魔を使役し、悪魔と戦う者たち。

即ち『悪魔召喚師(デビルサマナー)』である。

 

人間社会の裏側に身を置きながら、『世界の裏側』にまで足を踏み入れる異端の人類。

神秘の薄れた現代において神々と触れ合う素質を有した彼らは、しかし科学全盛期の現代社会を脅かす『悪魔』たちとの戦いを続けている。

 

 

そんなデビルサマナーの中に一人の男がいる。

 

名を『奥山(おくやま) 秀雄(ひでお)』。

剣も銃も平均的腕前しか持たない中堅サマナーたる彼は本来なら奇天烈な物語を紡ぐほどの人間ではない。

『古代より国家を守護する者』でもなく『数奇な運命を乗り越え伝説のサマナーの役割を受け継ぐ力』もない。

『黙示録の結果を左右する運命』も『創世を決める力』もなし。

 

ゆえに『中立者』からは見出されず、『明星』にも『御使い』にも興味を示されない。

 

……だが、ほんの少し。『選択』という名の運命の分岐を重ねれば。

例えば『人にあって人にあらず』とされた者たちと運命的出会いを果たしたのならば。

或いは、彼であっても何か、『意義のある物語』を紡ぐことができるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Main case.『英傑召喚師』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

都心から少し離れた、郊外に位置する『夕凪市』。

山に面した北部と、港町に通じる大通りを有した街区に分かれているごくごく平凡な街である。

 

古くは山岳信仰を持つ集落を中心に栄えたと伝わるが、今は周辺地域の開発・発展に遅れを取った田舎町に過ぎない。

とはいえ、市の半分にあたる街区には小中高が揃い、少し離れた隣町には大学キャンパスも備えるために生活面における満足度は意外なことに高く、都心に比べて落ち着いた景観を保ち、各種生活用品を揃えた店舗も充実したまさにベッドタウンと言うべき街である。

ただ、もう半分にあたる山間の北地区は陰鬱とした空気が常に漂い、そこから街区の手前に伸びるようにして時代遅れな家屋と、手入れのろくに行われていない畑が疎らに続き、これに引っ張られるようにして街の評価を落としているのは明白であった。

 

 

そのような街だが、いや、そのような街だからこそ俺のような中堅デビルサマナーにとっては住みやすい土地と言える。

 

山間部と街区のちょうど真ん中、畑を背に負うようにして華やかな街区へ玄関を向ける一軒家。

現代建築や、木造家屋から逸脱した外観。即ち『西洋館』と呼ばれる文明開化の時期に建築された洋風建築である我が家。

もとはとある異国人の商人が住んでいたとされるが、俺が見つけた時には無人となって久しく、管理もおざなりな幽霊屋敷と化していた。

 

それを買い取り居住するにあたりリフォームを施して修繕を重ねた結果、かつての資料写真に限りなく近い煉瓦屋根、寄棟造の紅い洋館として美しい外観を取り戻すに至ったのだが詳細は長くなるので割愛。

 

奥部屋にあたる自室にて俺は今、一枚の『札』と睨めっこしていた。

 

 

「『呼符』……重要なのは『よびふ』なのか『こふ』なのかだ」

 

冗談はさておき。

俺は金色の板を眺めながら、これを譲ってくれた友人との会話を思い出していた。

 

曰く、これは『英傑召喚を行うための呪具の類』であるらしい。これを『起点』として『悪魔召喚』を行うことで英傑に限定した召喚が実行可能なのだとか。

 

ちなみに英傑とは、人類の歴史・伝承の中で『英雄』と呼ばれたりする有名人たちを『モデル』とした『悪魔』のことである。

たとえば北欧のドラゴンスレイヤーとして知られる『シグルド』、歴史人物としては江戸時代における一揆を率いたとされる『天草四郎時貞』。有名どころでは『織田信長』とか。

時には『英霊』なんて呼ばれたりする彼らの名を冠する特殊な悪魔が英傑、或いは英雄とそのままの名称で語られるカテゴリである。

 

本来なら、悪魔召喚で英傑を呼び出すのは『困難』である。当然だ、人外を召喚する術式で『人の霊』たる『英霊・英傑』を呼ぼうなどと、お門違いも甚だしい。

それでもごく稀に『事故』によってイレギュラー的に英雄が召喚される場合がある。それが上述のカテゴリにあたる。

つまり、人為的に英雄を召喚しようすれば『悪魔召喚プログラム』ではなく古く伝統的な『召喚術』を用いて正しい手順の儀式を遂行した上で呼び出す英雄に由来した品を用意するなど面倒な手間をかける必要がある。

 

そうして呼び出した英雄であっても、“古き神”とされた上位の悪魔には敵わない。

 

結局、英傑・英雄を使役するサマナーはほぼ存在せず、居たとしてもそれは『特殊な環境下』にあるサマナーに限られる。

 

 

 

 

呼ぶのが面倒な英傑ではあるが確かな実力を有した英傑もいる。

 

友人曰く、呼符で召喚される英傑は完全にランダムらしい。

それでも英傑カテゴリの悪魔しか呼ばれず、他の悪魔は一切出てこない不思議なアイテムなのだという。

要は根幹の『システム』が異なるのだろう。それは今の段階では分からないので考えても仕方ない。

 

しかし、『触媒』と呼ばれる英雄に由来した『何か』を用意すれば呼符召喚であっても英傑の指定がある程度可能だとも聞いた。

 

「だが、生憎とそっち方面はノータッチだったからな……」

 

サマナー歴十余年、これまで英傑と出会った経験はなくその存在も情報でしか知らない、まさに未知のカテゴリ。

 

当然、興味が湧く。

幸いというか今は依頼と依頼の合間、『休暇』であり、先日京都に二泊三日で行ったくらいには時間がある。もし、これで英傑なる悪魔を召喚できたなら暇つぶしにその方面を調べてみてもいいかもしれない。

 

そう、これは単なる暇つぶしなのだ。

俺の『スタイル』の関係上これ以上の仲魔の追加は不要であり、そもそも加える気もなかった。

現在、COMPに登録されている仲魔は殆どが『支援魔法』を得意とした裏方担当だ。かくいう俺も『支援特化』である。

 

なので、どうせ来てくれるなら『前衛』を任せられる仲魔とかだと嬉しいが。そもそもの呼符なるアイテムが眉唾なのでイマイチ期待は出来なかった。

 

 

何はともあれ。

 

 

やってみないことには始まらない、と俺は早速召喚の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

友人がくれた『図』を見ながら、指定の魔法陣を床に描く。

それにしても見たことないデザインの魔法陣だ。

たぶんに、悪魔を呼ぶための魔法陣と人の霊たる英傑を呼び出す魔法陣は術式からしてまるっきり異なるということだろう。

友人によれば魔法陣の中心に呼符を設置してMAG(マグネタイト)を注げばそれで即召喚できるらしい。えらく簡単だ。

……と思ったが、魔法陣自体がかつてないくらいに複雑かつ大掛かりなのを見るに、おそらくは面倒な手順は全て魔法陣の中に書き込まれているのだろう。

この辺りは悪魔召喚プログラムに近いと思う。

 

 

「よし……あとはMAGを注ぐだけか」

 

額の汗を拭いながら完成した魔法陣を眺める。

大きな円形を中心に四方へと小型の円形・魔法陣を組み合わせた特殊かつ大掛かりな魔法陣である。

中央には呼符なる金札を設置済み。

 

「触媒、ねぇ」

 

触媒があれば英傑の指定ができるとはいうが。改めて思い返してみても相当する品は残念ながらない。

 

しょうがないので触媒無しのランダム召喚を実行することにする。

……ふと気付いたが、この召喚法。『プログラム型』か『古式』かどちらに含まれるのだろうか。

後者なら問題ないが仮に前者に類するなら……或いは『反逆』もあり得る。用心するに越したことはないので装備一式と仲魔を召喚しておく。

 

当然、仲魔召喚は『COMP』で行う。

俺が使用する機種は旧いツテで手に入れた『ガントレット型』の最新機種だ。……いや、最も新しい『媒体』としては『召喚プログラムをインストールしたスマホ』ではあるが。

ともかく、タッチパネル式の画面をポチポチして召喚を実行。

直後、俺の傍に二体の異形が出現した。

 

『呼ンダカ、サマナー?』

 

黒犬の頭部を持ちながら、白くニョロっとした身体を持ち宙空に浮遊する悪魔。イヌガミ。

 

『命令ヲ、サマナー』

 

似たようなニョロっとした形をしながら青い体毛で覆われた身体を持つ狐面の悪魔。クダ。

 

どちらもサマナーにとっては見慣れた悪魔であり愛好家も一定数存在するメジャーな悪魔である。

加えて両者ともに『人に使役される霊』としての伝承を残す犬神と管狐。サマナーとの相性は言わずもがなであった。

 

俺の契約する二体には支援魔法を覚えさせており、戦闘時は俺とこいつらで味方にバフをばら撒く役割を果たす。

……が、今回は俺しか『前衛役』がいないので俺に支援魔法を目一杯掛けてもらい、フル強化で戦う算段。

剣も銃も凡才な俺だが、バフがあればなんとか一線級に食らいつくことはできる。加えて『支援魔法を使った戦闘』には長がある俺だ。もし“関帝”並みの大物が出てきても生き残るくらいはできるだろう。

 

「有事に備えた護衛を頼む。もし荒事になったら俺に目一杯バフを掛けてくれ」

 

『承知した』

『御意』

 

悪魔の中では忠実な部類に入る二体は言葉少なに、しかしキチンと理解した様子で頷き傍に待機する。

俺もホルスターに銃を仕舞い、腰に刀を提げてからいざ魔法陣にMAGを注ぐ。

 

その瞬間、注いだ端から淡い光が徐々に魔法陣に広がっていき、応じて魔力の風が吹き始めた。

 

「さて、蛇が出るか……或いは」

 

しばらく輝き続けた魔法陣、その中央からゆっくりと光の粒子が立ち昇り。やがて陣に配置した呼符を『溶かして』人の形へと変わっていく。

 

無数の粒子が寄り集まった『人型の光』は、足元からより『人』に見える『色彩』を見せていく。

 

そうして魔法陣の上に現れたのはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「召喚に応じ、『ウシワカマル』まかりこしました。

 

誠心誠意、尽くさせていただきます」

 

日本古来の甲冑を纏い、豪華な装いが施された日本刀を腰に差し、長く美しく、艶やかさを携えた黒髪を後ろで結いている。

しかしその『正面』は直視するには些か『勇気』がいるほどに『薄着』で。

そしてなによりその薄着ゆえに確認できる、()()()()()()()()()()()に疑問が湧く。

 

そんな俺を他所に『彼女』は膝をついた姿勢のままに面を上げ真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。

 

「? ……主殿、で間違いありませんよね?」

 

「……」

 

次に問いかけられた言葉、その問いも答えも脳裏に浮かぶがあまりの『衝撃』に言葉が出てこない。

厳密には、凄まじい格好と『日本で随一の知名度を持つ武将』が女の子として召喚された事実に青天の霹靂状態なのだ。

 

「主殿、私を召喚した“さまなー殿”、ですよね?」

 

「あ……ああ、如何にも。そうだが、そうなんだが……。

え、と、確認なんだがお前は『牛若丸』で間違い無いな?」

 

なんとか動揺を押し込んで冷静に問い返す。

すると牛若丸を名乗る彼女は、神妙な面持ちから一転して花開くような笑顔で元気に応えた。

 

「はい! その通りですとも、主殿!」

 

「……鎌倉幕府成立の立役者、源義経の幼名で、その背格好からするに『鞍馬の寺に預けられていた』頃の姿。ということかな?」

 

……にしてはデカいが。

 

「厳密には“山を降りた後”の姿ですが。 如何にも私は源義経が若かりし頃の『ウシワカマル』……その『影法師』たる存在」

 

影法師?

よく分からんが『本人では無い』と言いたいのだろう。まあ、サマナーが使役する仲魔だって大半が『分霊』ないしそれに準じた存在ばかりであるし今更な話。加えて『厳密にどうなのか』という点についてもサマナー間で共通する常識も持たないためぶっちゃけ『どうでもいい』。

 

ただ、この態度からするに少なくとも彼女に『反抗の意志』は無いものと判断できた。十年以上もサマナーを続けている経験からの判断である。

ならば、と俺は仲魔を『送還』する。

 

「ご苦労、イヌガミ、クダ。また用があれば呼ぶ」

 

『ムゥ……次ハ、戦場(いくさば)ニ呼ブガイイ、サマナー』

『……御意』

 

両者とも少し残念そうな様子だったが、たぶんに最近は休暇ゆえに呼び出す機会が減っていたからだと思われる。今度からはもっと頻繁に呼んでやろう、と思った。

 

ところで、と彼女、ウシワカマルへと目を向けて考える。

 

俺が執り行ったのは確かに英傑召喚だ。まあ人伝に聞いた方法ではあるが情報の出所を鑑みるに誤情報とは考え難い。

ならば、なぜ『ヨシツネ』ではなく『ウシワカマル』が呼ばれたのか。加えてなぜに『女の子』なのか。

俺が知る情報では、過去に『葛葉』の者が召喚したという英傑ヨシツネは確かに『男』であったという。

 

……こいつ、本当に『牛若丸』なのか?

 

よからぬ不安が脳裏を過ぎり、すぐさま『COMP』の『仲魔一覧』画面へと移動。その中にある彼女の名前を探した。

 

「……英傑ウシワカ」

 

確かに彼女は英傑で仲魔であった。名前もウシワカマルのウシワカ。別段不審な要素は見当たらなかった。

なら彼女は確かに牛若丸なのだろう。

ランダム召喚ゆえに思いもよらない『マイナー』を引き当てる可能性も考慮していたが、結果としてはかなり『当たり』なのではなかろうか。

 

あの判官贔屓の元ネタ源義経……の幼少期とはいえ、確かな『知名度』を持った英雄なのは間違いない。

幻魔クー・フーリンにとってのセタンタだと思えば理解が早い。

 

となれば、これは『成功』と見ていいだろう。

 

一先ずの不安を払拭した俺がふと彼女に目を向けると、些か『不満げ』な表情の英傑ウシワカがいた。

 

「……私、疑われるようなことをした覚えはないのですが」

 

咄嗟のことでまごついたとはいえ、俺も中堅サマナー。動揺と疑念は隠していたつもりだが。それを見抜くとは、素晴らしい観察眼と言えよう。さすがは英雄の御霊。

 

「失礼した。が、疑念はすでに取り払われている。

……最初に確認しておきたいが、『貴殿』は私の仲魔となることを承諾してくれている、そういうことだな?」

 

「無論、この身は貴方が召喚せしめた『英傑』なるもの。『英傑』は召喚者に尽くすもの、と認識しておりますが」

 

ふむ……? 最初から召喚者を主と認めているか。やはり『召喚プログラム』とは少し違う、いや悪魔召喚とは異なるシステム……これが『英傑召喚式』たる特殊召喚術式か。

『友人』から伝え聞いたところによれば『マキリ』なるダークサマナーが構築したシステムとのことだが……なかなかどうして便利な機能が付いているじゃないか。

惜しむらくはマキリ氏が()()()()という点か。

 

とにかく、無事に英傑召喚は成功した。

身構えていた反動で拍子抜けはあるが、スムーズに物事が進むのは良いことだ。

 

とりあえず、これから、いやすでに『仲魔』たる彼女に信頼を見せるべく俺は手を差し出した。

 

 

「ならば歓迎しよう、ウシワカ。貴女……いや、君は今から俺の『仲魔』だ。共に悪魔退治の職を全うしてくれることを期待している」

 

「なかま…………。

 

はい!! このウシワカ、全力で尽くさせていただきます!」

 

立ち上がりしっかりと握手を交わしたウシワカは、次いで満面の笑みを向けてきた。

 

……なぜか、『背筋に悪寒』が走ったが気のせいだと思う。

 

 

 

 

 




例によってストックがある分だけチェックして、投稿しますので続きは未定です。

時事ネタがズレてたとしても気にしないでください!
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