※マテにも書いてあったわ……
ーーおかしいな、これはちょっと道理が通らない。
でも、損得より感情を優先するのが人間だった。
兄上に褒めて欲しいばかりで、私は何か欠けていた。
答えが出た頃にはすべてが遅く、持っていたものはすべて戦火にのまれてしまった。
ああ、兄上。
ーーーーを最期まで改められなくて、申し訳ありません。
「っ!!!!」
飛び起きる。
覚醒してすぐに理解するのは、俺が今ベッドにいるということ。
「なんだ、あの夢……?」
そう、俺は記憶にない夢を見て、それに気付いて飛び起きてしまった。
時代錯誤な古い木造建築が立ち並ぶ景色、甲冑を纏った将兵が猛り狂い殺し合う戦場、『兄上』と呼び慕う存在とのひととき、その後の不和。そして、自ら腹を裂き波乱の人生に幕を下ろす光景。
……寝起きで混乱しているが、こうして思い返すと“どっかで聞いたような話”だと思った。
具体的に言うなら、最近契約した仲魔の伝承と酷似していると。
「……まさかな」
仲魔の過去を夢で見るなど、聞いたこともない。
もしそうなら、呪いなどの魔術をかけられたとしか思えない事態。率直に言って“あり得ない現象”だと思った。
……だが、純粋に、アレが彼女の過去なのだとしたら。なんというか、あまりにも
「アホくさ」
夢なんぞに気を揉む自分に吐き捨てる。
たぶん、彼女と契約して、彼女と過ごす時間が増えたから無意識のうちに彼女の逸話や伝承を思い出して、それで夢にまで見てしまったのだろう。
要するに妄想だ。
そう考えると妙に恥ずかしくなってきたので、これ以上このことについて考えるのをやめ。さっさと顔を洗いに行った。
昨晩の宴は、まあ、盛り上がった。
メンバーは変わらず俺とウシワカとイヌガミだけだったが、一人(匹)増えただけでもやはりいないのとでは大違いで。主に、酒乱のウシワカと、飲み過ぎたイヌガミが大暴れしていた。
俺はそいつらをなんとか制御しながら宴を続けて、二人を寝かしつけたところで自室に戻ってベッドに倒れ込んだ。
……今思い返すと、あの二体を『制御』とか良くできたなと我ながら感心してしまう。たぶん、俺も酒に酔った勢いで本来不得意な分野にも才能を発揮してしまったのだろう。
やはり、酔いとは恐ろしいものだ。
「おはようございます、主殿!」
リビングに向かうと、併設されたキッチンの方から元気な挨拶が聞こえてきた。
裸エプロンのウシワカである。
「まあ、今更驚きはしないが」
この裸エプロン、今日に始まったことではない。
料理を頼むようになって少ししてから、度々披露することがあったのだ。その都度、俺も注意していたのだが一向に止める気配がないのでもう放っておくことにした。
リビングに入って早々、香ってきた匂いからして朝食は俺の大好きな肉じゃがらしい。やったぜ。
「……ん?」
ソファに座り、今はCOMPの代用であるスマホを開くと。
召喚プログラム関連の通知が溜まっていた。
幾つか『着信』があるが、主に表示されるのは『警告』の二字。
穏やかではない単語に、すぐさまプログラムを開き詳細を確認する。
「これは……」
『午前二時十五分、夕凪市街区にて強力な悪魔反応を感知』
『午前二時二十分、強力な悪魔反応を複数感知』
『午前二時三十分、近隣にて大規模な戦闘を感知、注意してください』
『警告、神族級の悪魔反応を感知』
『警告、膨大なエネルギー反応を感知』
…
「神族級とは、穏やかじゃないな」
午前二時といえば、ちょうど寝落ちした二体をそれぞれの寝床に返してベッドにダイブした時間だ。
つまり、俺たちが呑気にすやすやと眠っている間に街区で大規模な戦闘があったらしい。
それにしても、神族級とは。
一言に神族級と言っても、ピンキリなのでなんともいえないが。神に匹敵するというだけでも十分に警戒に値するのは確か。
たとえ下級神であろうと、零落した存在だろうと、『神』としての器を保持しているなら、生半可な悪魔では太刀打ちできない。
それは人類の頂にある英傑であろうと同じだろう。
これは少し、探ってみた方がいいな。
「主殿、朝食の用意ができましたよ!」
「おお、ありがとう。運ぶの、手伝うよ」
まあ、何はともあれ腹ごしらえをせねば始まらん。
それにこうして我が家が無事だということは、少なくとも俺たちには関係のない戦闘だったのだろう。あまり派手に動いてこっちまで狙われるのはごめんだ。
相変わらず美味しいウシワカの手料理を平らげた俺は、COMPと銃、布を巻いた愛刀を持って早々に家を出た。
ウシワカやイヌガミには万が一に備えて自宅の警備を頼んだ。二体とも不満そうだったが、自宅にはそれこそ“俺よりも大事なモノ”が保管されているので警備は多いに越したことはない。
向かう先は当然、業魔殿。
夕凪市での悪魔関連の情報となると、ここが一番有力な情報を持っているからだ。
いつものように自動ドアを抜けてエントランスに入る。
受付にはメアリ氏。
「ようこそ、ヒデオ様」
ぺこりとお辞儀してくるあたり、どうやら嫌われてはいないと判断して一安心。昨日の問い詰めた件である。
ともあれ、負い目もあるのでなるだけ穏やかに挨拶をしてからさっさと本題に入る。
「どうやら昨日は派手な戦闘があったみたいなんですが。何か知ってたりしませんか?」
「まあ……てっきりヒデオ様も参加されていると思っておりましたが」
……まあ、夕凪市をテリトリーにしているサマナーが市内の大規模戦闘の間ずっと眠りこけてたとは思わないよな。
俺もわざわざ恥は晒したくないのでスルー。
「ちょっと入り用で。今朝知ったばかりなんです」
「そうですか。
……簡潔に述べますと、“ダークサマナーと雇われサマナー”の戦闘ですね」
曰く、市内での戦闘は賞金首たるダークサマナーと、これを討伐する依頼を受けた複数のサマナーによる戦いだったらしい。
結果はダークサマナー側の勝利に終わったようで、依頼を受けたサマナーの大半は戦死したという。
この情報も、生き残った僅かなサマナーが業魔殿に駆け込んできたことで得られたものだとか。
生き残りがここに駆け込むのも、ある意味道理だ。
なにせ、ここ業魔殿には『強力な造魔が複数体、勤務している』。夕凪市店だけでも二体、神族級の実力を持った造魔が常駐しているのだ。
加えて、ここはあらゆる戦いに対して不干渉であることを明言している。……まあ、ぶっちゃけ、ここもサマナー協会と繋がりがあることから情報やら何やらの援助はしているのだけど。
少なくとも直接戦闘に参加することはないため、相手も下手に手出しせずに大人しく撤退する。
少し頭の回る悪魔なら、彼女らを敵に回すことの愚かさをすぐに理解できるからだ。
「ダークサマナー、か」
このタイミングで市内に出現したダークサマナーならば、十中八九、リンの語っていた『ヤバイ奴』だろう。
そう思い、メアリ氏にそのダークサマナーの特徴を聞いてみたところ、ビンゴであった。
しかも、今回の戦闘で奴の詳細な情報も露見したらしい。
曰く、大きな笠を目深に被り袈裟を着て錫杖を持った若い男。
……あれ、それって最近どっかで見たような。
他に、どうやら奴は日本の妖怪を使役するらしい。生き残りが見た妖怪だけでも『アシナガ』『テナガ』『ガシャドクロ』が確認されている。どれも知名度のある妖怪たちだ。特にガシャドクロは日本の有名な妖怪フィクションでも度々登場している。
また、生き残りの証言によれば、奴は“真っ黒い影に変身して、相手を直接喰らう”らしい。
……やっぱり、こいつ悪魔じゃないのか?
「私たちは中立ではありますが、『ルールを守らない』お客様であれば容赦は致しません。……万が一にも無いとは思いますが、ヒデオ様もその点は重々ご承知ください」
最後にそう述べたメアリ氏に、こちらも真摯に応えて、俺たちは業魔殿を後にした。
お次は、スマホに届いていた『着信』の件である。
発信元が『協会』と表示されていたので、たぶん、昨夜の戦闘に関する連絡なのだろうと思う。
ちなみに、ここで言う協会とは『サマナー協会』のことであって『魔術協会』のことではない。
ややこしいが、他に協会と名の付く組織だけでも両手で数えきれないほどいるので今更な話である。
街区を歩きながら呼び出し音に耳を傾ける。
例によって、コートに付与されている『認識阻害』の術式のおかげで、普通に悪魔関連の会話をしていても怪しまれはしない。明らかに刀とわかる形状の長物を背中に背負ってても誰も怪しまないのである。
数回の呼び出し音の後にカチャリと繋がる。
『はい、こちらDDS日本支部です』
通話越しに聞こえるのは若い女性の声。協会における俺の担当者だ。
「祓魔屋オウザン、奥山秀雄です」
『ああ、ヒデオ様。ご無沙汰しております。
昨夜の連絡に関するお問い合わせですね?』
「ええ。……お恥ずかしい話ですが、今朝方、ようやく着信に気付いた次第でして」
『問題ありません。こちらも、同市内に拠点を構えていらっしゃるヒデオ様には一応、作戦についてお伝えしようとしたまでのこと。
作戦が
協会の人間は、割とバッサリとした物言いをしてくる。まあ、斬った張ったの物騒な業界故に身もふたもない言葉の方が返って分かりやすく好まれる傾向にはあるが。
「その作戦……結果も含めてお教え願えますか?」
『そちらも問題ありません。こちらもとしても、夕凪市を管轄とするヒデオ様には後ほどお伝えする予定でしたので。
併せてデータの方も送らせていただきます』
その言葉の後、スマホの通知音が鳴ると共に担当者は昨夜の作戦についての情報を教えてくれた。
曰く、昨夜の戦闘はやはり、リンから聞かされていた『最近暴れているダークサマナー』の討伐作戦によるものであった。
件のダークサマナーは、以前に語った通り『人や悪魔を喰らう』ことと『一応、人間』ということ以外は情報がなく、協会としても手を焼いていたらしい。
そこへ、以前の事件の被害者であり生き残りたるサマナーがなんとか取り憑けていた『発信機』のような魔術によって奴の居場所が判明したという情報が入る。
すでに協会きってのサマナーたちにも被害が出ていたことから、協会も一刻も早い対処を、と急募で依頼を発行。
依頼を受領したサマナーたちによって討伐隊が結成された。
そして、昼間のうちに討伐隊が張っておいた『結界』に奴が足を踏み入れたことで討伐作戦が開始される。
協会も、敵が生半な相手ではないことは承知しており、集められたサマナーたちいずれも腕の立つサマナーであったという。
しかし、作戦開始から一刻も保たずして討伐隊は壊滅。
業魔殿に逃げ込んだサマナーを除いて、全て奴に食い殺されたという。
それも、骨すら残さず消滅しているというから、いやはや恐ろしい。
……というか、協会所属の腕利きを潰すなんて、そのダークサマナーとやらは思ったよりもヤバい奴らしい。
『……ですが、今回の作戦で得られたモノもありました』
そう言って語るのは、これまで殆どが判明していなかったダークサマナーに関する情報。
だが、殆どはさっき業魔殿で聞いた内容であった。
『大きな笠を目深に被り、袈裟と錫杖を持った僧侶を思わせる出で立ち。報告によれば二十代前半と思しき若々しい見た目の男性。
名前は“
尤も、この名前もおそらくは偽名の一つであろうと推測されます』
だろうな、明らかに人の名前ではない。加えて、名前から連想される悪魔も、少なくとも俺は知らない。
……だが、そうなると、奴はおそらく悪魔ではないと思われる。
悪魔というのは、大半が“自らの名前に縛られている”からだ。
なるほど、そう見るとそいつは確かに“人間”ではあるようだ。
他にも、使役する悪魔が日本の妖怪由来の悪魔であることが語られたがそれもすでに知り得ている情報。
だったのだが。
『ーーまた、“彼”の目的が
「っ!!」
ーーその言葉に、思わず息を呑んだ。
『記録によれば、古墳時代末期から信仰が確認されたこの“山神”。神仏習合によって修験者を中心に信仰は栄え、明治の神仏分離に至るまで厚い信仰を受けていたとされています。
その後の動向は不明ですが、現在、同地域における“寺”は廃墟と化しており、これを管理する組織も存在しない。かの神、協会の規定に則り『悪魔』と呼称すべきこの存在は今はもう消滅している……というのが我々の出した結論です』
よく調べている。さすがは協会だ。
俺も“かの神”の存在を知るまでに一年ほど費やした。まして、この地で普通に暮らしていれば存在すら知らず生涯を終えていたことだろう。
規模の小さな信仰であれば、神様ごと消え去っているなんてのは珍しくもない。
ーーだが、この神、いや“権現”は少し事情が違う。
そしてなにより、この権現に連なる存在を俺は仲魔としている。
ゆえに、ここで協会に要らぬ干渉を受けるのは避けたい。
……本来は、素直に白状して保護してもらうのがいいんだろうが。
そうもいかない事情がある。
「なるほど、敵は各地の土着神を喰らっていると聞きますからね」
『よくご存知ですね。確かに彼は地方に古くから住まう悪魔を重点的に食しているようです。……被害の記録を見るに、最初は弱小悪魔から。徐々に喰らう対象をグレードアップしているようです』
要は順当に力をつけていると。
厄介な話だ。なんたってこんな片田舎に来るのか。仮に、昨夜の神族級の反応が涅槃台とかいうダークサマナーだったとして。それだけの力を得ているならばもっと有名所の神を狙いに行くべきだろう。
……或いは、『夕凪神』の『現状』を知っている可能性もあるが。
いずれにせよ、敵が夕凪神を狙っているとなれば俺も静観しているわけにはいかなくなった。
早々に通話を終わらせた俺は、ウシワカやイヌガミ、クダ、“マカミ”に続く『もう一体の仲魔』を探しに街中へと出た。
山神信仰、山岳信仰とは日本における最も古い信仰の一つだ。
雄大な自然と、水や食料を育む山々は古代より『偉大な存在』として神格化されてきた。
狩猟民が山そのものを司る厳格な山神を崇めるのと同時に、麓で農地を耕す民は、農業に欠かせない水を運んでくる山に山神の姿と、農作物を育んでくれる『田の神』の姿を同時に見ていた。そして人々は、死した祖先が、霊場として高い位にある山奥の『常世』にて子孫を見守るとも空想した。祖霊信仰である。
つまるところ、農業を会得した古代人にとっては山神は自然神の代表格であり、常世と現世を司る神そのものとしての所謂『全能神』。他の神話で言うところの『主神』に等しい崇拝を捧げていた。
……まあ、日本に限らず、世界各地の古代信仰はだいたいそんなようなものだが。
敢えて、後代の解釈としてわかりやすく述べるならこのような説明になろう。
そして、この山岳信仰は修験道の興盛に伴いより体系化、複雑化された宗教としての性質を帯びてくる。
これが蔵王権現などを代表とする『権現』である。
古くは畏れ敬うのみだった山神の力を“なんとか手に入れよう”とした人間の浅ましい欲望の具現。わかりやすく言うなら“霊験あらたかな山で修行してその力を身につけよう”みたいな感じである。
この修験道は初期において、密教系列と結びつき、その中で山の神を本尊とした『権現』が生まれた。
この権現を巡った信仰は長い期間続く。
先に担当者が語っていた長い信仰はちょうど、修験道の影響を受けた山岳信仰の期間と合致する。
これらは明治維新における神仏分離令まで続いたのはどこの山岳信仰も同じだと思う。
無論のこと、現代まで生き延びた権現も数多くある。それらが先に述べた蔵王権現などの有名な権現であり、現代において信仰される山の神の姿となる。
何が言いたいのかというと、夕凪で信仰された山神・権現は神仏分離令を生き残れず、無残にも廃棄され、忘れられた神ということ。
……“日本の神”で『忘れられたモノ』がどうなるかは。まあ言うまでもないことだろう。
そして、これら山の神が自然の具現である以上、当然、これに仕える『神使』も山に存在するモノとなる。時には仕える神と混同されることもある『山神の神使』=『山に住む動物』だが、本質的な部分で山神とは『山そのもの』である以上はその神使も山神と同じという考えもあながち間違いではない……。
……と、話が逸れてしまった。
要するに、俺が探している仲魔とは“夕凪神に仕えた神使”であったモノだ。
俺が夕凪を訪れて間もない頃に……まあ、色々あって仲魔にした古参の一体でもある。
件のダークサマナーが『夕凪神』を狙っている以上、これに仕え、夕凪神に“通ずる”性質を持つ『彼女』は今もっとも“危険”な状態にあると俺は考えた。
だからこうして血眼になって街中を探している。
「と言っても、アイツは神出鬼没だからな」
放浪癖が染みついているアイツは並大抵の努力では発見することも難しい。基本的には『人懐っこい』ので大勢が集まる場所にいるはずだが、一分一秒先には別の場所にふらりと消えているのでもはや“ぬらりひょん”もかくやといった有様だ。
ぬらりひょんよろしく、訪れた民家で勝手に飲み食いすることもままある。……とはいえ、随分前に注意してからは控えてくれているはずだが。
そんなことを考えながら俺は市街区を歩き回る。
郊外特有の微妙な混雑具合と、都心と比べて見劣りするが田舎ほどではないこれまた微妙な品揃えの店舗。
いつ見ても『安心』する光景だ。
夕凪市街はベッドタウンの評価にある通り居酒屋やその他酒類を取り扱う店舗もそこそこ出店している。
その一つが街区の外れに位置する場末のバー『ジャンボリー』。
バブル期は人気クラブとして栄えたものの、不況の訪れとともに客足が途絶え、後年にバーへと転じた店だ。
今では仕事終わりの中年サラリーマンや、静かな時間を好む客層に好まれ一定数の客が足繁く通う静かな老舗バーとなっている。
「……」
いつ見ても、倒壊しないか不安になる廃墟ビル。その地下部分のテナントこそジャンボリーである。
ボロボロになった階段を慎重に進み、色あせた扉を開ける。
「いらっしゃいませ……おや、秀雄くん」
入店と同時に穏やかな声音で語りかけてきたのは、人畜無害そうな見た目をした壮年の男性。しかし、カウンターにてグラスを拭き拭きしている様はバーテンダーとしての年季を感じさせる。
「どうも、マスター」
まだ昼過ぎとあって店内はガランとしていた。
居酒屋ならば夕方から夜にかけて営業時間を定めるのが一般的だが、この店は少々事情が異なる。
「秀雄くんが来たってことは……先日の『ダークサマナー』に関する情報を御所望ということかな?」
何の気なしにその単語が飛び出すということはつまりそういうこと。この店はサマナー向けの『情報屋』『交流の場』としても機能しているのである。
先に述べたバーへの転換も『サマナー協会』との取引に関係している。
つまり、店を存続させる代わりにサマナー向けの施設として機能することになったというわけだ。
「そっちの情報も欲しいですが……今は“オサキ”を探してるところでして」
「サキちゃん? いや、今日はまだ来てないね」
まあ、入った時点で分かってはいた。いたならすぐに分かるくらいに騒いでいるだろうしな。
あいつも相当な酒好きだから。
「そうですか……なら、ダークサマナーの情報とやらを貰っていくとしましょう」
「お、じゃあ何から知りたいのかな? 秀雄くんは貴重な常連さんだからねぇ。安くしとくよ」
「それはありがたい。……とは言うものの。すでに業魔殿と協会の方で大半の情報は得ているんですがね」
「そうなのかい? じゃあ、知ってる情報を先に教えてほしいな」
その切り返しにしばし悩む。
本来なら、こちらが与える情報にも『金』を要求するべきなんだが。
生憎と今は急いでいる。それに彼には長年世話になってきた。
なので今回はタダで教えることにした。
「おお、太っ腹だね! 自分で言うのもアレだけど、おじさん大したことしてきた覚えないけど」
少し気まずそうにする彼だが気にせず、俺が得ているダークサマナーに関する情報を一通り渡す。
「名前に容姿、使役悪魔まで……いやぁ、あんまり貰いすぎると協会に怒られちゃいそうだな」
それにしてはご満悦な顔をしていらっしゃる。
「で、これ以外の情報を持ってたりします?」
「生憎と。君の方が断然詳しかったよ」
まあそうだろうと思った。なにせこっちは協会直々に伝えられた情報だ。加えて昨夜の戦闘は協会が主導したもの。
これ以上ここに滞在する必要もなくなった俺は早々に彼に挨拶をして退店した。
ビルの外に出て徐にタバコに火をつける。
一息吐いて、頭の中を整理した。
「……こう、肝心な時に行方不明なんだよなアイツ」
文句を言ったところで始まらない。そもそもアイツの放浪を許可したのは俺だし。
しかし、どうしたものか。
夜ならば確実に酒場に現れるのだが、昼間となるとどこにいるのか見当もつかない。
人の集まる場所と言っても、スーパーとかは奴の性分にも合わないし。
と、そこでふと閃く。
「学校だ」
そもそもアイツの放浪の目的は『夕凪の人々の暮らしを見守る』ことにある。たぶんにアイツが人恋しいのもあるんだろうが、基本方針は相違ない。
その中でも、将来性を感じさせる『子ども』がアイツは大好きだ。
「前に、学校が云々とか言ってたしな」
思い返せば、前に帰宅した時に学校の話を楽しそうにしていた。
となれば、奴の居場所は学校と考えてまず間違いないだろう。
「ここからだと……中学が近いか」
街区に位置する中学ならば目と鼻の先だ。が、小学校となると街の反対側にまで行かなければならなくなる。
さすがにそこまで行くのは、ダルい。
出来れば中学校にいますように、と願いつつ俺は歩き始めた。
神話とか面白いですよね。
神様の起源を遡っていくと『役割』を持った存在じゃなくて、『よく分かんないヤベー奴』みたいな扱いされてて草生えます。