BBドバイ、もとい□□□□□□□がめちゃくちゃ好き。
「……油凪駅周辺は全滅、
革靴の音を響かせながら、白く清潔な見た目の廊下を歩む男。サマナー協会会長・卜部正孝。
「――その後、時を置かずして介入したヤタガラスによってヒデオさんは拘束されたようです」
卜部の半歩後ろを歩むのは協会のNo.2たる碓氷。
「謀られたな。おそらく、戦死した彼はヤタガラスの間者だろう」
「はい……どうやら彼の戦死、そしてヒデオさんの戦いぶりを見て今回の件を引き起こしたと思われます」
「要は思い付きというやつか……こんなことをする“幹部”はヤツしかいないだろうな」
ここはサマナー協会東京本部。
油凪での惨事の報告を受けて即座に動いたウラベであったが、その時には既に事は治まり、ヤタガラスの主導によって隠蔽工作も完了してしまっていた。
おまけに、此度の“失態”を協会内で強い影響力を持った“有力者”に知られた彼は先方からの連絡を受けて、応接室にて対応することとなっていた。
「……“当主様”はすでに着いているのか?」
「ええ、数十分前に」
ウスイの答えにウラベは苦虫を噛み潰したような顔になる。
「ならば急いだ方がよさそうだ」
――サマナー協会東京本部・応接室。
木製の調度品を最低限に配置したモダンな室内には、和服を纏った集団がいた。
一度、会釈と遅れた謝罪を述べながら対面のソファに腰掛けたウラベは真っ直ぐに、目の前の
「……
無地に透き通るような白色のシンプルな着物を着て。同じく透き通るような白肌へと、雪のようにふわふわとした長い白髪を垂らした少女は、“赤い瞳”を向けながら口を開いた。
「会長ですからな。そんなことより、要件を伺いましょう。
“退魔師”界隈では知らぬ者はいない、大物だ。
彼女が当主を務める大御食院一族は古くより、退魔を生業とする有力な名家と姻戚関係を持つことで絶大な権力を手に入れた大家である。
彼女の子らが高名な退魔師を“生み出す”たびに彼女は影響力を増し、実に
当然、ヤタガラスにおいても無視できない権力を有してきた彼女であったが前大戦の折、ヤタガラスが壊滅的な被害を受けたことで大御食院一族は没落。有力な退魔師が次々と斃れ名家との繋がりが消えたことで彼女の影響力も大きく削がれた。
だが、依然として幾つもの霊地を抑え、資源も潤沢、おまけに独自の流通ルートを豊富に有する彼女らの力は侮れないものであった。
そのため“神魔騒乱”の際、未だ弱小であった協会の勢力拡大を目的として現会長のウラベが彼女と交渉し、協会と手を結ぶに至ったのだ。
そして、協会の資源・流通の大半を牛耳る彼女の存在は協会内でも無視できるものではなく。事あるごとに口を出し、協会内での権力をジワジワと蝕んでいた。
これを良しとせず、なんとか交渉で持ち堪えてきたのがウラベである。
つまり、此度の来訪も“いつもの”舌戦に帰結するだろうと覚悟を決めてこの場に参じていた。
ゆえに動じることなく、冷静に。その老獪な赤眼を睨み返す。
「相変わらず、遊びのない男じゃ。
であれば。
此度の失態、既に挽回できておるのだろうな?」
こちらを嘲笑うかのような表情で少女は問いかける。
「無論、“鴉”の泣きどころは把握できている。“孤児院”に“賄賂”、後ろ暗い情報は叩けば叩くほどに出てくる連中だ」
ウラベは手に持つ資料の束を少女へと差し出した。
「ふむ。それで? 奴らに借りを作らずに済んだのかえ?」
「……というよりも、奴らの目的は“こちら”ではなかったようだ。都合の悪い情報をチラつかせたらすぐに引き下がった」
ウラベの言葉に少女は眉を顰める。
「妙じゃな。奴らの目的は?」
「こちらのサマナーが一人、奴らの拠点に拘束されている。交渉時の言動からして本命はそちらだ」
「ほっ、サマナーが一匹とな? 奴らが“鴉”を動かしてまで手に入れたかったのが、たかがサマナーじゃと? くっくっくっ……それはそれは、さぞかし高名なサマナーなのであろうな」
少女は楽しそうに笑う。だが、ウラベにはその瞳が“獲物”を前にして涎を垂らす獣に見えた。
「高名……かどうかは分からんが、
それを聞いて少女は目を見開いた。
「なんと……あの小僧が子育てなどしていようとはな。初耳じゃ」
口調は先ほどと同じながら、その声は震え、目を泳がせている。
彼女に対して“初代会長”の名は効果的である、とウラベは再認識した。
「……“彼”のことは私もよく知っている。その上で、此度の件は“不干渉”が適当だと判断した」
その言葉に少女は片眉をあげた。
「それは性急に過ぎるのではないか? あれだけの惨事の事後処理をしておいて、報酬がサマナーただ一人というのは不自然にも過ぎよう。
……たとえ、それが“英雄の子”であろうとな」
食い下がる彼女に、ウラベは内心舌打ちする。
「ならば、オオミケイン様はどのような対処を望まれるのか?」
ウラベの言葉に、少女は老獪な笑みを浮かべて口を開いた。
「そうさなぁ……
まずは、惨事の舞台となった油凪の“管理”を譲ってもらおうか」
図々しい奴だ、と思いながらもウラベは無言で先を促す。
「それと、
「……それは、なぜですか?」
そもそも、現在はヤタガラスの一派に拘束されている。まさか、ヤタガラスと事を構えるつもりではあるまい。
そんなことはすれば、大御食院といえどもこの国にはいられなくなる。ともすれば協会までとばっちりを受ける羽目になるやもしれん、とウラベは思考を巡らせる。
「なに、妾も“奥山の魔剣”とやらに興味があってのぅ。一振り、ここらで手に入れておきたいのじゃ」
「……知っていたのですか」
現在、拘束されているサマナーが奧山秀雄であることは伝えていない。まして、彼が奥山で生まれた神殺しの魔剣であることなど伝えるはずもない。
つまり、少女は奧山秀雄の情報をしっかりと確保してからこの場に現れたのだ。
はじめから、彼が狙いであったかとウラベは考えた。
同時に、“初代会長”を敵に回してでも欲する理由はなんなのかを考える。
僅か、彼の表情が強張ったのを目敏く見抜いた少女は愉しそうに口角をあげる。
「知っているとも。奥山を抜けたとかいう小僧であろう? それ以外はさして興味もないが。
……妾は常、思っておったのじゃ。神殺しという禁忌にして強大なる力をヤタガラスのみが独占しておるのは非合理であろうとな。
御国を守るのであれば、強力な手札は皆に平等に配られるべきじゃろうて」
よく言う、権力を欲さんとして長きに渡ってこの国の裏を蝕んできたのは貴様だろう、とウラベは内心憤慨する。
それを察したのか、少女は彼を真っ直ぐ見つめて呟く。
「分かっておるじゃろうが、其方が生まれたウラベよりも。
ウラベが生まれた卜部家も元は中臣から分かれた血筋。表舞台では既に意味をなくした繋がりだが、霊的現象に携わる裏の人間にとっては血筋は重要な要素であり、卜部と大御食院もまた長い歴史的繋がりを持っていた。
「中臣の前身は卜部だ」
「ほっほっほっ、それは妾すら生まれる前の話じゃろうて。今の卜部は我らの分家筋に過ぎぬ。なにより――
――そなたの身体にも
ウラベは露骨に表情を歪める。
少女の言う通り、卜部家の先祖の中には大御食院の者……つまりこの少女の子孫が存在しているからだ。
「妾と“共鳴”する人間もおるじゃろうな。……未だ、家中の老人どもを御し切れぬお主がどう対処するのか、楽しみではあるがのぅ」
いやらしい笑みで嘯く少女に、しかし。ウラベは毅然と言い返す。
「中臣の前は卜部だと言っただろう。中臣が捨てた“卜占”を引き継いだのが我々だ。当然、“呪いへの対処”も熟知している」
「……なんじゃと?」
少女は笑みを消して睨む。
「まして、血を使う呪いなど古くより繰り返されてきた基礎中の基礎だ。……それに、どれだけ“薄まった”と思っている? 今更、貴女の“命令”に従う者などいるはずもないだろう」
畳み掛ける度に少女の眉間に皺が寄る。
「サマナー協会の長は私だ。ならば、最後に決めるのも責任を負うのも私であるのが道理だろう。
……その事については、“最初の交渉”で合意していたはずだが?」
一転、攻勢に出たウラベに、少女は「面白くない」と言わんばかりに拗ねた表情でソファにもたれ掛かる。
また、“最初の交渉”の際、少しでも有利な立場に立とうとして弄した策の悉くを“初代会長”によって(物理的に)潰された苦い記憶が蘇る。
やがて、しばしの沈黙を経て少女は小さく溜め息を吐く。
「……まあ、よい。もとより、あの
その代わり、ヤタガラスに出し抜かれた時は……わかっておるじゃろうな?」
「言われるまでもない。それが会長という立場だろう」
答えながら、少女の企みについて推測する。
おそらく、彼女は奧山秀雄を“同意”のもとで確保したかったのだろう。それがウラベを介してなのか、直接なのかはわからないが。
同意さえあれば、初代会長の性格からして反発は受けないと考えたのだ。
少女はソファから立ち上がると、自らが連れてきた取り巻きを引き連れながら出入り口へと向かう。
その背中にウラベを声をかけた。
「次の“貢物”には色をつけましょう。……貴女方とは今後も仲良くやっていきたいので」
「ふん、良い酒を持ってこい。それで今回の無礼は不問にしてやる」
ぶっきらぼうに答えながら扉の前まで進んだ彼女は、不意に声を上げる。
「ああ、一つ、言い忘れておった。
……本家の小娘は存外に気立てのよい娘よのぅ、お家も安泰じゃろうて。是非とも妾の子を婿としたいものよ。なぁ、
「っ!!」
思わず目を見開くウスイを見て溜飲を下げたのか、クスクスと笑いながら少女は去っていった。
「ぜっっったい、認めませんからね! 僕は!!」
大御食院の一団が去ってからしばらく。
ウラベの執務室にてウスイは激昂していた。
「う、うむ。まあ、お前の考えも理解できる」
ウラベは若干引いた様子で興奮するウスイを見やる。
それもこれも、少女の捨て台詞が原因だ。
少女が言及した碓氷本家の娘、それはウスイの顔馴染みであり溺愛する妹分なのだ。ウスイと本家が不仲であるのも、五割くらいがその娘が原因であるほどに。
本家と険悪な彼であっても、彼女に関しては「彼女を嫁にするなら先ずは俺を倒していけ」と公言しており、彼の執心ぶりは協会では周知の事実であった。
一度、彼女が関わる話になると普段の冷静さが嘘のように吹き飛び、喜怒哀楽の激しい長話が始まるのもよく知られた“習性”で、主に被害を受けるのも会長と決まっている。
要はシスコンである。
『兄様はなんでも知ってるね』
――遠い昔の記憶。ウスイが宗家に住んでいた頃。
次期当主たる娘と二人、縁側に腰掛けていた。
当時、彼女の教育係を任されていたウスイは彼女の勉学や鍛錬、礼儀作法までもを教え、常に彼女の側に仕えていた。
分家筋に生まれながら並々ならぬ才覚を持ち尚且つ驕らずの精神を有した彼は、宗家の人間にとって“優秀な駒”と見做され。生来の病弱と“特異な性質”を持って生まれた
『……なんでもは知りませんよ。ただ、“姫様”よりもほんの少し長く生きているだけのことです』
彼は淡々と口にする。
……分家の者として、宗家から睨まれることのないように極力心を殺して次期当主と接してきた彼は必要以上のことを口にしない。
対する次期当主、少女は薄く小さな唇を僅かに開いて、か細い声で返す。
『それでも貴方は私の知らないことを教えてくれる。いつも、ありがとう』
小さく口元を緩め、微笑を溢す少女に彼は思わず見惚れた。
白く透き通るような肌は穢れを知らず、長くきめ細やかな黒髪は後ろで一つに纏められ風に揺れている。
その身に宿す異能を示すように紫に染まった双眸は、一切の悪意なく純粋な色を以ってウスイを見つめていた。
……碓氷宗家の娘は“人間よりも悪魔に近い性質を持つ”。故に家の者に恐れられ、彼らは彼女と接することを極力避けてきた。
だからこそ、世を知らず、人を知らず、物事を知らず文字通りの箱入り娘としてこれまでを生きてきた。
幼な子に対してなんと残酷なことか、とウスイは感じていた。
おそらく、家の者は彼女を“後継のための母胎”として扱うつもりだろう。彼女本人は未だ純粋無垢だが、世の道理を理解してしまえば自分たちへの反抗もあり得る。そうなった時、とてもではないが宗家の人間では彼女を制御することなどできない。
故に、彼があてがわれた。
少女と接しても問題ないくらいに強く、分家であるために自分たちに従順。そんな彼に
教育係など名ばかり。
その実態は、姫の“洗脳係”に過ぎない。
ウスイは、教育係を任命された際に宗家の者から「姫を従順に育てろ」と厳命されていた。
分家筋に過ぎない己の立場、実家の立場を考慮してウスイはこれを了承。これまで消極的ながら、“宗家の言う事は従って当然”であるように教育してきた。
……だが、そんな考えは、彼女の笑顔の前に
もとより、命令には不満があった。
彼女と接するうちに、その純真無垢な心根、“悪魔にも慈愛”を見せる優しさ、世を肯定的に見つめる姿に心を動かされてきた。
――俺は何をやっているんだ。
――世を託すのは彼女のような人間だ、俺たち“古い人間”が支配・搾取すべきではない。
――――なにより、それを俺自身が嫌ってきた筈だろう!
全ての責任は“大人”である自分が背負う。だから彼女はなんとしても解放しなければならない。そう決意した。
『……姫様、貴女には教えなければならないことがたくさんあります』
『?』
真剣な眼差しで見つめ返すウスイに、少女は小首傾げて耳を傾けた。
協会の通路、壁に背を預けながらスマホの画面を見つめる。
そこにはあどけない顔でこちらを見つめる少女の姿がある。
……そこへ、横から覗き込むように現れる闖入者。
「へぇ、可愛い子ねぇ」
突然、耳元に響いた声に驚きながらも急いでスマホを仕舞う。
「イブキ……」
僅かな怒気を込めて、横から覗き込んできた伊吹童子を見る。
「あら、怒っちゃった? ごめんごめん」
さして悪びれることなくおちゃらける姿に、毒気を抜かれたウスイはため息一つ。
意識を仕事モードに切り替える。
「こちらでの仕事は終わりました。さっさと次の仕事に向かいますよ」
そう言って歩き出した彼の背に、ねっとりとした声がかけられた。
「……その子に随分とご執心みたいねぇ。思わず“触れて”みたくなっちゃうわ」
少女に言及されたことで、彼はピタリと歩みを止めた。そして、振り向きざまに“殺気”を溢す。
「イブキ、貴女のことは仲魔として信頼しています。その上で、忠告します。
あの子に触れたらタダじゃおかねぇぞ」
彼の怒りは本物だった。
増大した霊力が周囲の空間を軋ませ、溢れる魔力が風を巻き起こし、相対するイブキは思わず背筋に悪寒を走らせた。
神たる彼女を恐れさせるほどの殺気。
見れば、普段からは想像できないほどに憤怒の形相となった彼がこちらを睨みつけている。
――神に一切臆せず、ここまでの戦意を見せる。その姿に
内心で舌舐めずりしながらも、ここで殺り合うのは浅慮と考え思いとどまる。
なにより、殺り合うなんて最もつまらない楽しみ方だ。
現代社会を十分に学んだ彼女は、殺し合いを“勿体無い楽しみ方”と考えていた。無論、敵ならば容赦はしないが。
「……なーんて、そんなことしないわよ。私は貴方の方に興味があるんだから」
ひらひらと手を振って語る彼女を見て、ウスイも殺気を治める。
「……ならば結構。真面目な話、“碓氷”は蛇に滅法強い。技も武具も術も、全て蛇殺しに長けている。
伊達に
「あら、でも貴方は宗家とやらにかなり敵対心を持っているようだけど?」
読心の類……やはり神か、と思いながらもウスイは特に動揺することなく応える。
「襲撃する時は貴女抜きでやりますよ。貴女には死んで欲しくないですから」
呆れたような声で淡々と告げられた言葉だが、伊吹童子にはそれが嘘偽り無い本音であると“権能”で感じ取っていた。
「私の心配してくれるのね、嬉しいわ」
嬉しそうに表情を崩すイブキに、ウスイは付き合っていられないと肩をすくめ再び背を向けて歩き出した。
「あ〜ん、置いてかないでよぉ」
伊吹童子も宙をフワフワと浮遊しながらそれを追いかける。
通路を歩むウスイの脳内には、オオミケインの言葉が響いていた。
その度に、少女への想いを強くし彼女の救うのだという決意を固める。
――
――――“彼女を外の世界に連れ出す”、そのためにいずれ宗家とは決着をつけねばならない。
だが、今はその時期ではない。
彼女を救う算段を整えるためにも、今は目の前の仕事を片付ける。
ウスイはいつになくやる気に満ちた顔で協会を後にした。
【あとがき】
ライカちゃんはどこぞのゲスロリババア忍者をイメージ元にして作りました。その上で悪辣さを薄めて、寛大さを持たせつつ。老獪さマシマシにしてみました。
これから可愛い(ゲス味濃い目)ところを見せていきたいです。
リゼロが、始まった!!!!
カペラが作画で可愛くなって声で更に可愛さ倍増しドン! ってなっててびっくり仰天惚れました。
まさか、大罪司教に恋する時が来ようとはな……(ゲスロリ好き