ロウヒちゃんの婿になりたい(挨拶)
前回から年を跨いでしまいましたが、読んでくださると嬉しいです。
バスから降りて数十分、ひたすらに山道を進んでいる。
辺りは鬱蒼とした木々に囲まれ、視界は薄暗い。
なるほど、拠点とするには良い土地だ。
当然、木々に紛れた“罠”には警戒している。主に千代女ちゃん任せだが。
「連絡がつかないってことは、何かトラブルに見舞われているってことだ。いつでも応戦できるようにしておけ」
敵襲、内乱、“裏切り”。どれも可能性としてはゼロじゃない。
やがて、視界が晴れた先に“目的地”が見えてきた。
森林地帯の真ん中、ひらけた場所に聳える巨大な屋敷。一見して旅館のようだが、カルトの巨大宗教施設にも見える。
「……カルトではなく、オカルトなわけだが」
入り口らしき場所まで近づいてみるが、当然のようにインターホンの類はない。
仕方ないので魔術的な罠を警戒しながらそっと両開きの扉を開く。
中は薄暗く、開いた扉の隙間から漏れる外光だけで照らされているようだ。
俺はCOMPで
高い天井、漆塗りの柱と長い廊下、所々に障子があるくらいで内装は至って平凡だ。
「……もう少し進んでみるか」
ジッとしてても埒があかない、俺は奥へ進むべく廊下に足をかけた――
「ッ!!」
――瞬間、天井の方から強い殺気と濃密な悪魔の匂いを感じ咄嗟に抜刀して顔を上げる。
そこには大きく手を伸ばす“ヒョロ長い人影”。
その手を斬り払い、二の太刀で胴体を両断した。
ボトリと落ちた半身がビクビクと震えて、やがて沈黙する。
鉛のような光沢を放つ死骸を見ながら呟く。
「幽鬼ヤカー……」
スリランカに伝わる病魔の悪鬼だ。ヒンドゥーにおいてはヤクシャとして語られる鬼神が、悪鬼として伝承された存在でもある。
現代にて悪魔として顕現する姿は、このヒョロ長い異形と、餓鬼に似た小柄な姿の二種類が確認されている。
「なんでここにヤカーが……」
退魔を生業とする組織の拠点に、幽鬼が放し飼いにされているとは考えづらい。そこは、傀儡であるべきだろう。
思案する俺の周囲に、じわじわと殺気が現れる。
見れば壁や天井、床から滲み出るようにしてヤカーが複数体出現している。
どれも、会話にならないくらいに殺気を放っている。
仲魔たちは指示するまでもなくヤカーの排除に動いた。
ウシワカが神速でヤカーを斬り刻み、千代女ちゃんが小太刀と苦無で仕留めていく。オサキは呪殺魔法の効き目が悪いからデバフや状態異常で援護に徹している。
危なげなく処理していくが――
「数が多い……一旦、場所を変えよう」
廊下は生活する分には十分に広いが、戦うには狭い。
なので、外に出ようとしたのだが。
「っ、おいおい。マジか」
いつの間にか入り口が“消えて”いた。さっきまで入り口扉のあった場所には周りと変わらぬ壁が聳え立つ。
嫌な予感がした俺がCOMPを見ると、画面には“異界化”の発生を示す警告が表示されていた。
やられた。東京での一件と同じ轍を踏んでしまった。
と同時に、ヤカーの出現数が爆発的に増えた。
「くそっ!」
俺は近くの障子に駆け開くと転がり込むように中へ入る。
その先は、しかし部屋ではなく。最初の廊下と同じような通路が伸びていた。
明らかに外観と合わない作りだがここが異界内となれば不思議でもない。
「こっちだ!」
俺の声に応えて仲魔たちはすぐに移動する。
ただウシワカだけは、次々と現れるヤカーの足止めをして最後に移動を開始した。そして入り口をくぐる直前、すごい速度で障子が勝手に閉まった。
「ぶっ!?」
障子に激突したウシワカは、次いで障子を開けようとしたが。
「あ、あれ? 主殿、開きません!!」
そしてこちらの返事を待つことなく、迷いなく愛刀で障子を斬りつける。
「馬鹿な!?」
だが、甲高い音を立てて刀は弾かれる。その後も斬り続けるが障子はビクともしない。
どうやら見た目は当てにならないらしい。
俺は障子の解析と並行して、知る限りの解錠魔術を行使する。
「なっ!」
しかし、突如として壁がスライドするように“高速移動”。障子があった場所には無機質な壁が出現した。
それだけではない、ウシワカとのパスが“遥か遠く”に移動している。
つまり、彼女と引き離された。
「壁が動いたのではない、
絡繰屋敷とかそういう次元ではない。魔術と絡繰を組み合わせた高度な秘術だ。
正直なところ、傀儡師というのをなめていた。
「……というか、この状況は“どっち”だ?」
敵対勢力に屋敷が占領されているのか、傀儡衆が裏切ったのか。事前情報だけではどちらの可能性も感じられた。
ちなみにウシワカは、ヤカー程度にやられるはずがないので特に心配していない。
一応COMPにてウシワカの召喚を試みるが、例によって機能しない。だが、召喚術そのものが封じられているわけではないようで、どうにも“別の部屋からの転移”という行為そのものを封じているらしい。空間の断絶……いや、隔離?
俺の魔術知識や解析ではそこまでしか分からなかった。
「……まあ、今は進むしかないか」
クサカベからも“長に会え”と言われている。長とやらを探すのが最優先だろう。
そう思い、歩を進めた途端。
――
無機質な表情、人体のシルエットを模しただけの簡素な人形は球体関節を軋ませながら身体のあちこちから凶器を出現させ一直線にこちらへ突撃してきた。
「お館様!!」
チヨメちゃんが割り込み、小太刀にて人形の頭部を斬り飛ばす。だが、クグツはそれだけでは止まらない。
頭部を失いながら、なおも凶器を振り回すクグツをチヨメちゃんは呪いと苦無で解体していく。
流石にクグツ程度ではチヨメちゃんは止められない――
――と、安堵した矢先。
天井の一部がくるりと回転して新たなクグツが出現する。
それだけではない、壁や床からも先のクグツと同じような出現方法で次々と増援が現れる。
急いで銃と愛刀で迎撃していくが、あまりに数が多い。徐々に追い詰められている。
クグツの武装は多岐にわたる。
仕込み刀は基本として、銃器や魔術すら行使してくる個体までいる。
こちらも負けじと、集まった奴らを火炎魔法で焼き払う。
ここ最近、数の暴力で下手を打つ事態が頻発していた俺は焦ることなく、冷静に仲魔たちに固まって迎撃するように指示を出す。
オサキもチヨメちゃんもすぐに移動を開始するが、これを妨害するようにクグツが立ち塞がる。
それも、妙に統率された、知性を感じる動き。
「……まさか、この数のクグツを一人で操っているのか?」
考える間にもクグツたちがこちらの行動を絶妙な動きで妨害してくる。
あれよあれよという間に仲魔たちと引き離された。
そして、クグツの攻撃を受けてよろめいた先。足をついた床が急に動き大きな落とし穴を出現させた。
「しまっ――」
なんとか落下を防ごうとする俺に、ダメ押しとばかりにクグツが飛び掛かり、諸共に穴の底へと叩き落とされる。
当然、引き剥がそうとするが、どうにも身体の動きが鈍い。感覚からしなて
「お館様!!」
クグツに拘束されながら落下する俺にいち早く気づいたチヨメちゃんが、後を追うように穴に飛び込んできた。
「ちょ、ワシを置いていくなぁぁぁ!?」
続いて、境遇ゆえに置き去りにされることに敏感なオサキが飛び込んでくる。
ひとりぼっちは寂しいもんな……
「……とか言ってる間に解析完了! パトラからのアギラオ!!」
俺は、拘束されながら解析した敵の魔法に対して解呪魔法の術式を脳内構築。パトラを
これは、このクグツが使った魔法が簡易的な術式だからできた芸当だ。
「ラクカジャ! うおぉぉぉ!!」
自由になった俺は落下に備えて三人の防御力を強化、空中にて他の二人を無理矢理抱き寄せて自分を下方へと移動させる。
それから一秒も経たないうちに落着した。
強烈な衝撃を背中に受けながらも、ラクカジャのお陰かダメージらしいダメージもない。まあ、一応サマナーではあるのでこの程度で死ぬこともないが。
「おお、お、お館様! この程度の高さなら拙者は着地できますゆえ……! い、いえ、その前にお怪我など……」
腕の中でチヨメちゃんが慌てた様子で心配してくる。
「気にするな……この場で俺が一番硬いからな。お前ら、俺よりも耐久低いだろ?」
キメ顔でなんてことないように言う俺に、オサキがじっとりとした目を向ける。
「……カッコつけられる上に
ヒエッ……なんで当たり前のように一言一句、正確に心を読んでくるの?
もちろん、そんな本音を馬鹿正直に言うわけにはいかない。全て察しているらしいオサキさんはともかく、チヨメちゃんに幻滅されるわけにはいかない。せっかく、少しは心を開いてくれるようになった今日この頃であるのに。
「そそそそ、そ、そんなわけあるか! 俺は君たちを心配してだな――」
我ながら凄まじい勢いで噛んだ。
これには流石のチヨメちゃんも気づいたようで、さっきまでの照れた表情から、みるみるうちに気持ち悪いものを見るような顔つきに変貌する。
――ここが潮時と見た俺はすぐに立ち上がり二人を地面に下ろして、辺りの状況確認に移る。
「暗くてよく見えないが、床や柱なんかを見るに造り自体は先ほどまでの廊下と大差ないようだな」
見渡せる範囲に壁が見えないことからそれなりに広い空間ではあるようだ。
「なに無理矢理シリアスにしようとしとるんじゃ、このロリコン。無かったことにはならんし、失われた信用は返ってこんぞ」
「お館様が望まれるなら夜伽も致しますが……先ほどのアレは流石に。姑息な手口で触ろうとしてくるのが気持ち悪いでござる」
うんうん、と頷きながらチヨメちゃんの話を聞いたオサキだったが、少しの間停止してから驚いた顔でチヨメちゃんの方へ振り返った。
……っていうかチヨメちゃん!? いきなり言葉のナイフが鋭すぎやしないかい?
視界の端で「……は? 夜伽?」とか何とか困惑しているオサキは置いておいて。チヨメちゃんの肩に手を置いて優しく諭す。
「チヨメちゃん、心を開いてくれるのは嬉しいが言葉は時に人を傷つけることを忘れてはいけないよ」
「あ……今はその、あまり触らないでほしいでござる……」
そう言って、スススッと後ろに退がるチヨメちゃん。
俺は泣いた。
ジッとしてても仕方がないので、俺たちはこの広い空間の探索を開始した。
数分ほど見て回った結果、ここに出口らしい出口がないことが分かった。
またこの空間には人骨やら壊れた傀儡やらがゴロゴロと転がっており、それらの状態から考えるにだいたい百m四方のこの部屋は、どうにも落とし穴の底ということ以外に用途が見当たらない。それはそれで不自然だが。
「……いや、さっきの部屋の移動を見るに
つまり、俺たちが戦っていた最中にあの部屋が移動していたということだ。そうやって使うなら落とし穴としても機能しうる――
「――ということは」
おそらく、俺たちが落ちてきた穴は
俺は銃を抜いて、壁に向かって引き金を引く。
弾丸は甲高い音を立てて弾かれた。
続けて愛刀で斬りかかるが、これも先ほどのウシワカのように弾かれる。
自分で斬りかかってみた感覚としては、単に硬いというよりは概念的な要因で弾かれたように感じた。
ともかく、並大抵の手段では破壊は難しい。
これは、骨が折れるな。
とはいえ、何がなんでも脱出はせねばならんので俺たちは再び探索を開始する。
見渡す限りは人骨とガラクタばかりで、スイッチや仕掛けの類も見当たらない。
魔術的にも不審な点は今のところ無い。
魔術式、あるいは“術式の綻び”でもあれば最悪、手段を選ばずに脱出も可能だろうが。
「不確定要素が多い」
よく知らんうちに、異界を無理矢理破壊して崩壊に巻き込まれるとかそういうのは避けたい――
――そんなことを考えていた矢先、部屋の隅に何かあるのに気づいた。
薄暗さでよく見えないので近くまで行って確認する。
「こいつは……カラクリ?」
そこにあったのは一体の“絡繰”だった。
おそらく人型であろうソレは、四肢を引きちぎられ、下半身を失い内部のコードが内蔵や血管のように飛び出ている。
当然、機能停止している状態だが、その顔だけは精巧に人間を模した造形が美しく保たれている。
白と黒の髪を二つ結びにし、背中からは蜘蛛の脚を思わせる機械が飛び出ている。虚に開かれた目は片方が欠けている緑。
このカラクリだけは、部屋に打ち捨てられたカラクリたちとは明確に違う。
他の残骸たちが俺たちを襲ったような規格化された無機質な戦闘兵器であるのに対し、コレは造り込みからして雲泥の差がある。それは精巧な顔のパーツだけでなく、胴体や背中に生えた蜘蛛の脚に見える部分も細部に至るまで緻密な設計のもとに造られていると一目で分かるほどだ。
……しかし、いったいいつからここに打ち捨てられているのか。全体的に埃が深く降り積もっていた。
こんなに美しいのにもったいないと思い、埃を払い落とそうと手を伸ばした時――
「うおっ、なんだ!?」
ポケットに仕舞い込んでいた
【あとがき】
ビショーネちゃんカワ……デッッッカ!!!!
知ってる、火炎袋でしょ? だから揉んでも問題ないのです。
ビショーネちゃん(爆死)