英傑召喚師   作:蒼天伍号

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リコリコの続き、ずぅーーーーーっと待ってる。





からくりの少女

――私に残っている“記録”は多くない。

 

はっきり覚えているのは、初めに“興味”を持って外法に手を出したこと。

溢れ出る“好奇心”のままに、あっさりと“一線”を越えたこと。

罪の意識も、恐怖も、命の価値さえ。“探究心”の前には枷ともなり得ず。欲望の赴くままに、造り、創り、作って。

 

――ふと、己の“罪深さ”に耐えられなくなった。

 

己という存在の、()()()()()()()()()()()()()()()()という習性に恐怖した……のだと思う。

 

 

 

 

……正直なところ、()()()()()()()()

先に述べた通り、私という存在に残る記録は多くないのだ。

きっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。

 

だから、今の私は“特に何も感じない”。

ただ漠然と「そうなのだろう」と考えるだけだ。

 

 

私は、機巧(カラクリ)

ただ機巧を造り続けるだけの、機巧。

 

入力された命令に従う機巧。

 

だが――

 

 

 

 

――アぁ、()()のことだけはどうしても見捨てられなかったのです。

 

 

『……■■■■殿の仰る術理は実に興味深い。是非とも我ら■■■の研究にご助力願いたい』

 

『およそ“全能”たりうる■の創造には今暫しの時を有するでしょう。しかし、我らは諦めません』

 

 

……

 

…………

 

……………………。

 

 

『……これはこれは。随分と懐かしい“眼”ですな■■■■殿。そんなに焦って、如何なされた?』

 

『……■■■の完成は我ら■■■の悲願だ!! 機巧のために()()()()()()()アナタがそれを“否定”するのか!?』

 

 

 

『……哀れな道化よ。かつての助力には感謝している、故にこれ以上の追撃はせぬ。そこで、朽ち果てよ』

 

 

 

――否。私はまだ朽ち果てるわけにはいかない。

やるべきことがあるのだ、果たさねばならぬ義理があるのだ。

救わねばならぬ……“命”があるのだ。

 

 

 

 

 

……だが、私の意思に反して五体は機能停止していく。

殆どの機巧は停止している、手足も同様。

 

私という“命”の終焉は避けられない。

この“眼”が腐り落ちたところで私は終わる。

 

ならば、“証”を残そう。

この屋敷が、異界が■■だというなら機巧のみを残すことは出来るはずだ。

 

そして、いつか、この機巧を()()として――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光の後に現れたのは、()()()()()だった。

 

召喚に際して発生した煙を纏った彼女の足元には、()()()()()()()()()が刻まれており先ほどまで置かれていた()()は忽然と消失していた。

 

……いや、少女の“顔”を見てある程度合点がいった。

 

 

 

果心居士(カシンコジ)と申します。この仮初めの命ある限り、あなたにお仕えいたしマしょう。

 

―――以後よしナに」

 

 

少女はどこか音程の外れた声でそう述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英傑召喚。

呼符の反応と消滅、あの魔法陣。そして、果心居士。これらの要素を鑑みるに十中八九そうだろう。

 

念の為COMPを確認したが、仲魔の欄に『英傑カシンコジ』といつの間にか記載されていたことからも明らかだ。

 

……まあ、例によって“予想外の見た目”であるわけだが。三回目ともなれば慣れた。

 

 

そこまで考えてから改めて果心居士を名乗る少女に目を向ける。

 

二つ結びにした銀髪、着物……のようなものを纏った上半身にレオタードらしきものが“丸見え”になっているけしからん下半身。

おまけに片足タイツともう片足になんと網タイツ。

 

どう見ても()()である。

 

思わず頭を抱えそうになるが、いや待てと思いとどまる。

……レオタードならえっちではないのでは?

スケベではあるがえっちではない、ならば痴女と評するのは失礼だろう。

 

なによりウシワカやチヨメちゃんに比べたら遥かに健全である。

 

 

いや痴女かどうかは今はどうでもいい。

打ち捨てられていた機巧と“瓜二つ”の果心居士、これが何を意味するのか?

 

まずアレを触媒として召喚されたのは確かだろう。アレが等身大人形だったのかどうかは不明だが。

 

 

「如何なさレましタか?」

 

不意に果心居士の方から声をかけられ我に返る。

 

「ああ、すまん。自己紹介が遅れた。

俺はデビルサマナーの奧山秀雄だ。君を仲魔として召喚した……マスター、と言うべきだろうか?」

 

「はイ、貴方様が私を召喚なされたのなラば、マスターとなりマす」

 

ふむ、ウシワカやチヨメちゃんの時と同様に彼女もこちらをマスターと認識しているらしい。英傑召喚は正常に行われたということか。

詳しいことは、このデータをリンに送ってみないと分からんが。

 

こういうイレギュラーな召喚もあるのか。

 

「……いや、こちらも意図しない形での召喚だ。正直に話すべきだろう」

 

「?」

 

こてん、と首を傾げた彼女に今回の召喚の経緯について説明した。

 

 

 

 

 

 

 

「……なるホど、その呼符という道具の誤作動で私が召喚されたわけでスね」

 

果心居士は顎に手を当てふむふむと頷いている。その度に僅かに“駆動音”のようなものが聞こえる。

 

……事情を説明している時に気づいたのだが、この少女、()()()。動くたびにカシャカシャと人体らしからぬ音が響いている。

およそ全身から音がするので流石の俺でも気づく。

それを考慮すると、もしやあの打ち捨てられた機巧は――

 

「……一つ質問なのだが」

 

「はイ、なんでショう」

 

「君は、機巧の身体なのか?」

 

果心居士は一瞬、面食らったように目を見開いてからすぐに無表情に戻る。

 

「えエ、そうでスよ? とっくに気付いているもノと、思っていましタが」

 

ではやはりあの機巧は()()()()ということか。

戦国時代に生きたとされる果心居士の“躯体”が、なぜ傀儡衆の根城に打ち捨てられていたのか? そもそもそんなに長い間、ここに置かれていたのか? それでいて()()()()()()()()()()()()()()()()

 

疑問は尽きないが、そんなにズケズケと聞くのはデリカシーがないだろう。まだ会ったばかりだし。

 

 

「……と、一応仲魔たちも紹介しておこうか。たぶん、これからしばらくはこのメンバーで行動することになると思うし」

 

絶賛、遭難・監禁中の状況ではあるがこんな時こそ冷静になって事を進めるべきだ。

 

俺が促すと、それまで果心居士を興味深そうに眺めていたオサキが口を開いた。

 

「魔獣オサキ狐じゃ。気軽にオサキと呼ぶがよい」

 

続いてチヨメちゃんも自己紹介する。

 

「英傑モチヅキチヨメにござる。同じ主を持つ者としてコンゴトモ、ヨロシクお願いいたしまする」

 

二人とも意外にも落ち着いた様子である。

いきなり悪魔が、それも英傑が召喚されたというのに。

 

「直前にとんでもないセクハラされたからな、大抵のことでは驚かん」

 

「……それに、今の状況を打開する手立てとなる可能性があるなら何でも受け入れるでござる」

 

なぜか息のあった様子で返すご両人。

……やはりセクハラはダメだったか。

 

「ふム、なにやらお困りのヨうでスね? よろしければ、状況をご説明願えまスか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果心居士。

戦国時代から江戸初期にかけて活動したとされる妖術師だ。

かの織田信長、松永久秀、秀吉に家康とも面識があるとも言われる神出鬼没の怪人物。

もっぱら幻術の類を披露する不思議な人物として語られる“彼”だが、例によって実在は疑問視されている。

逸話の殆どが荒唐無稽な内容であるのもそうだが、単純に実在を示す根拠となるものが乏しいのが主な理由である。

 

 

更に、今回仲魔として召喚された“彼女”は機巧の身体を持って現れた。果心居士に、機巧に纏わる逸話があったとは聞いたことがないが。

彼女もウシワカやチヨメちゃんと同様に“史実と異なる特徴”があるのだろう。

ここら辺も、後日リンに解析してもらわなければ詳細が分からんだろうが。

 

 

 

 

 

「……」

 

壁に手を当てジッと佇む果心居士。

やがてカシャリと音を立てながらこちらに振り返って口を開く。

 

「抜け道を見つけまシた。どうぞこチらへ」

 

言うが早いか、一見何の変哲もない壁が歪曲されたように大穴を生み出してスタスタと中に入る彼女。

あまりにあっさりと脱出手段を見つけてくるので呆気に取られるが、オサキやチヨメちゃんに促されて穴へと足を踏み入れる。

 

内部は、黒い表面に無数の光の筋が走るトンネルのような見た目をしている。

 

「……ご安心くだサい。ここは、この異界内に走る“血管”のようなもの。これを通って隔離空間から脱出致しマす」

 

地脈、いや、龍脈を利用した移動のようなものか。

だが、よくそんなのを見つけられたものだ。ただの異界ならいざ知らず、隔離された空間で見つけるのは困難だろうに。

 

その事を問うと。

 

「……この異界、どうにも“覚え”のある作りをしていましたノで。もしや、と思い勘で“これ”を見つけまシた」

 

勘。そして覚えがあると。

……それは彼女がこの異界内に打ち捨てられていた事と関係があるのではないだろうか?

 

「何はともあれ助かる、突然の召喚で困惑もあると思うが、詳しい事情等はこの異界を抜けた後に必ず」

 

彼女のおかげであの空間を脱出できたのは確かだ。そのことに素直に感謝していると、彼女が不意に立ち止まり、こちらへ振り向いた。

 

「……その、私の方からも、不躾ながらお願いがあるのでスが」

 

少し申し訳なさげに告げる彼女に続きを促す。

 

「私の、()()を共に探してもらえないでしょウか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶喪失。厳密には、“記録の欠落”。

技術、戦闘知識等はあるものの。生前の記憶が著しく欠落しているらしい。

彼女が語る内容を要約するとそう言うことらしい。

己の名とそれに付随する能力だけは失われていないのは幸いだが、余計に彼女が“カラクリらしい”状態にあるとも言える。

 

だが、欠落した記録に関してはアテがあるらしい。

曰く、この異界内に“記録の気配”が感じ取れるとか。今は何となくの方角しか分からないが近づけばより正確な位置を特定できるはずだと言う。

 

そう言う話なら断る理由はない、俺は二つ返事で了承した。

 

 

「よろしい、のでスか?」

 

「当然だ、仲魔の頼みであれば無茶振り以外は聞くよ。早速、助けてもらったしな」

 

彼女は少し瞑目してから改めてこちらに頭を下げた。

 

「……ありがとうございます。

どうにも、私自身にも分からないのでスが。欠落した記録は“無くしてはならないモノ”と強く感じるのデす。ですから、何としても見つけ出したい」

 

 

少し、声の音程が安定してきたように感じる。どうやら“強い感情”を伴った言葉を話す際は音程も安定するらしい。

 

「なら、なおさら見つけないとだな。とりあえず、一番近い反応から探っていこうか」

 

そう告げると、心なしか彼女の雰囲気が和らいだ気がした。相変わらずの無表情だがこちらを見る目が柔らかくなったように感じる。

 

「ここからそう遠くない位置に、一つ反応がありマす。そちらに向かいまショう」

 

先導する彼女に続いて俺たちは進み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

戦場を疾走する翠の閃光。その軌跡に在る悪魔たちは一拍置いてその身を斬り裂かれる。

 

ヒデオたちと分断されたウシワカは、依然として沸き続けるヤカーたちと戦闘を続けていた。

無論、その場に留まる愚行は犯さず。出口を探して移動しながらではあるが。

 

サマナー界隈においてもヤカーは下級に分類される悪魔だ。いくら数を揃えようとも、ウシワカの戦闘能力には及ばない。

加えて、速さを武器とする彼女には数の暴力は意味をなさない。如何なる攻撃も掻い潜り、出現する増援を瞬時に斬り刻んでしまうからだ。

 

廊下を疾走しながらウシワカもこの異界の特性に気付いていた。

 

いくら駆けても終わらない廊下、曲がり角の先も廊下となっているこの状況は“閉じ込められた”と仮定しても間違いはないだろう、と。

 

 

やがて、何度目かの曲がり角を越えた先に。

()()()()()()を感じた。

 

カーブと同時、薄暗い廊下の先に見据えたのは“仮面の人型”。その周りに蠢く似たような仮面を付けた餓鬼のような悪魔たち。

 

アレが頭目か、と直感したウシワカは迷わず手札を使う。

 

「太夫黒!!」

 

呼びかけと同時、彼女の傍に魔法陣が現れその中から黒い巨体を持った馬が飛び出した。

並走する愛馬に飛び乗った彼女は声を張り上げて命ずる。

 

「蹴散らせ!!」

 

主の意を受けた太夫黒は、短く鼻息を漏らしてから全力疾走を開始した。

 

頑強な巨体による突進、ウシワカに迫る速度で繰り出された突撃は進路上にある障害物の一切を粉砕する。

 

「ギギィ!?」

 

突然現れたウシワカたちに気づくと同時にその身を粉々に打ち砕かれる幽鬼ヤカー。この廊下には、サマナー界隈で確認されている二種類のヤカーが徒党を組んでいたものの、それらは太夫黒の突撃で数秒と経たずして壊滅した。

 

そして、最奥にて指示を出していた人型の悪魔。ヤカーと類似した仮面を付けながら、人間の体躯を有しマントを羽織った悪魔。

“幽鬼サンニ・ヤカー”へと突撃する。

 

圧倒的な破壊力を持った突進は、しかし、サンニ・ヤカーの()()で受け止められた。

 

「っ!!」

 

必殺の一撃を止められたことに驚きつつも、ウシワカは瞬時に次の行動に移る。

太夫黒から飛び降りると同時に放つ斬撃、サンニ・ヤカーの正面を縦に斬り裂く一撃は見事に命中、今度こそ仕留めた。

 

 

「――見事な判断だ」

 

だが、サンニ・ヤカーはまるで動じることなく称賛の言葉を送った。

見れば、斬り裂かれたはずの身体には薄皮一枚を斬ったような浅い傷跡しか見られず、それを理解してすぐにウシワカは後方へと飛び退いた。

それと同時に、サンニ・ヤカーの手に頭部を抑えられていた太夫黒を送還する。

 

「……お前は幽鬼サンニ・ヤカーではないのか?」

 

ヒデオのサマナーとしての活動に同行するうちに悪魔に関する知識も蓄えていたウシワカは、目の前の悪魔が“常識と異なる”ことに気づいた。

 

「いや、サンニ・ヤカーであることに間違いはない。ただ……」

 

語るうちにサンニ・ヤカーの身体が変形し始める。

筋肉が膨れ上がり一回り大きくなる体躯。

ボコボコと波打つ背中を突き破るようにして現れる“二対の腕”。

ウシワカの一撃にて付けられた傷から二つに割れた仮面、そこから現れる“凶暴な表情をした頭部”。

次いで、その両側面に現れる“顔”。

 

変身を終えると共に急激に膨れ上がる霊力。

 

「……より強力な霊基で顕現しただけのこと」

 

 

 

三面六腕の悪魔は、膨大な霊力を重圧として放ちながら己が真名を告げる。

 

「我は、()()()()()()()。マハコーラ・サンニ・ヤカーである」

 

 

 

 





【あとがき】

マハコーラさんはマハカーラさんの語感を意識してこのような表記にしました。
あと、果心居士はFGOの時よりも音程の外れ方がすごくなってます。つまりめっちゃ壊れてるということです。







黒姫ちゃん、怒涛の勢いで来てくれたので未再臨のイラストを舐めるように見ています。主に下の方を。
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