英傑召喚師   作:蒼天伍号

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ヴィッチちゃん好き過ぎる。
できれば、ぐだにもザビにも靡かず『悪』に徹してほしい。





遭遇

人は良い。

 

明くる日も明くる日も、責務を果たして、人同士を繋ぎ、育み、そして後代に託し去っていく。

 

生まれてから、先達の庇護の下、学び、成長し、やがてそれぞれの物語を紡いで。

 

老いてからは、また次の代へとバトンを託す。

 

同じサイクルでも、人それぞれに物語があり命題がある。

私は特に『愛』を感じる物語が好きだ。

 

人の営み、それを見ているだけで私は自然と微笑んでしまう。

 

 

 

ーー比べて、神は窮屈で退屈だ。

 

定められた役割の中で変わることなく悠久の時を過ごす。言葉にすればそれだけだが、実際に体験するとその悍ましさに恐怖する。

加えて、私は“後から神になった”存在だ。これが『元来の神』であれば違ったのだろうが、生憎と元の身の上は“一介の畜生”である。

 

固定された『概念』の中でしか存在し得ないモノなど、定命の生物には耐えられない。

 

ーー同じ天井、同じ部屋、同じ日々。数百年変わらず回り続ける風車を眺めて無為な時を過ごしたこともある。

思い出しただけでも鳥肌が立つ。

 

 

 

だから、この現状は割と気に入っている。

“出られない社”から抜け、こうして外を自由に動けるだけでも嬉しいというのに。自ら赴いて『夕凪の民』を眺めることができるなんて望外の幸運である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕凪市街区の只中に建つ、市立夕凪中学校。

グラウンドを有した二棟の校舎で構成される平凡な学校だ。

創立四十年ほどなので歴史的な価値や重要な物品の類も特にない。

 

市内の生まれなら何かしら思うところはあるのだろうが、生憎と俺は市外からやってきた余所者だ。

普段は記憶からもすっぽりと抜け落ちるほどに関連性のない施設である。

 

 

……なので、いざ捜索を始めようとしてもどこから見て回ればいいのかすら分からない。

というか、道中も何度か迷った。

 

現在はなんとか辿り着いた正門を横切ってぐるりと敷地内を外から眺めている。

有り体に不審者だ。

 

「……通報される前に見つかってくれよぉ」

 

外から敷地内をジロジロと眺める姿は、言い訳のしようもないくらい怪しい。

こうしているうちにも数回、教師と思しき成人男性と目が合った。

道ゆく人々は不審そうな顔でこちらを見てくる。

……認識阻害のコートを起動させればいいんだろうが、涅槃台とかいう危険人物がうろついている現状でそれはできない。

あの術式が一般人にしか効かない以上、自分からサマナーであることを知らせているようなものだからだ。

 

逆に、何もしなければ俺の凡庸な霊力では見分けはつくまい。

 

 

そうして数十分、学校の周りをウロウロしてみたが一向に見つからない。ジャンプしてみたり、小声で呼んでみたりしたが全く反応がない。

と、そんなことをしているとーー

 

 

 

 

「君、ちょっといいかな?」

 

「……」

 

職務に忠実そうな制服を着た公務員に止められた。

ポリスメンである。

 

相手は笑顔で話しかけているが、目が全く笑っていない。

 

「なんですか?」

 

努めて平静を装い応える。が、たぶんこの警官は誰かの通報を受けて駆けつけたのだろう。こんな小芝居でどうにかできる雰囲気ではなかった。

 

「いや、こんなところで何してるのかなと思ってね。ここ、中学だよね?」

 

相変わらず癪に触る言い方をしてくる。俺はこんなことをしている場合ではないというのに。

 

「そうですね」

 

「まして、今は昼間だ。見たところ成人してるように見えるけど、仕事はしてないのかな?」

 

デビルサマナーをしています、とは言えないのでどう答えたものか悩む。俺はこういうアドリブは苦手だ。

 

「いやぁ、最近は物騒な世の中になったでしょ? おじさんの若い頃はこんなピリピリしてなかったんだけどねぇ……まあ、とりあえず署で話聞こうか?」

 

そう言って肩に手をかけてくる警官。

振り解けない力ではないが、やったら間違いなく公務執行妨害でしょっ引かれる。

 

「え、と。今、急いでいるんですけど」

 

「そうなんだ。でもこっちも仕事でね。そもそも普通の人はこんな怪しい行動しないでしょ」

 

ぐうの音も出ない正論。略してぐう正。

仕方がないので大人しく署に連行されることにした。ここでゴネて変な罪までおっ被せられては堪らない。

 

周りから向けられる軽蔑の視線に、内心ダメージを負いながらも哀れパトカーに連れ込まれようとした矢先。

 

 

「あっれ〜? ヒデじゃん!」

 

若い女の声がこちらに届いた。

 

「あ?」

 

しかし、俺が大嫌いな渾名で呼ばれたために反射的にガンを飛ばしてしまう。

いけないいけない、冷静に。冷静に。

 

一度頭を冷やしてからもう一度、声の聞こえた方へ目を向ける。

 

「……マジか」

 

胸元のはだけたワイシャツ、制服を腰に巻いたミニスカ。

何より目を引くたわわな双丘と、目が痛くなるような()()()()()()()()

とてもよく知った見た目のJK……というかオサキである。

 

軽快な足取りでこちらに歩み寄る彼女だが、その度に溢れんばかりのたわわ様がバルンバルンしている。

ふと横に目を向けると、警官も俺の肩に手を置いたままたわわ様に釘付けになっている。

おい、公務員。

 

オサキは俺の近くまで来るとキャルン☆という効果音が聞こえそうな勢いでピースとウインクをこちらに向けてくる。

……なんというか、少し時代が古い気もするが。

 

「あ、あーえっと? 君は誰なのかな?」

 

警官は咳払い一つ、真剣な表情でオサキに問う。……が、どうしても胸部装甲に目が行ってしまうのか視線がマジヤバイくらいに泳いでいる。

むっつりめ。

 

「あれ、ウッソ! ポリスメンじゃん! なになに、ヒデっちタイホされてんの!? チョーウケるんですけど!」

 

対してオサキはケラケラ笑いながら、パトカーに入れられそうになっている俺をスマホで撮影している。

おうおう、見せ物じゃねぇぞコラ。

 

「ちょ、君! いくら不審者とはいえ撮影するのはやめなさい!」

 

「えー! でも、こんなレアなヒデっちとか早々見れないし。……いや、マジウケるww」

 

ウケてんじゃねーよ! 俺だって分かってんなら早く助けてくれよ!

その後もパシャパシャと俺を撮影するオサキ……いや、待て。こいつ連写してやがる。

 

 

さすがに見兼ねたのか警官が彼女のスマホに手を伸ばそうとした時。オサキは突然、警官のネクタイを引っ掴みグイッと顔を引き寄せた。

 

「はい、いい子だからお家に帰ろうねぇ」

 

その双眸は紅く光り輝き、それを見つめる警官の瞳も段々と虚になる。やがて彼の瞳も紅くなったところでオサキはパッと手を離した。

 

「……そんじゃ、バイバーイ☆」

 

「ああ……気をつけて、帰るんだよ」

 

それだけ言うと、ぼうっとしたままパトカーに乗り込みさっさと帰ってしまうポリスメン。

 

これは、オサキが得意とする『催眠術』である。

 

厳密には呪術にカテゴリされるらしいが同じことだ。

 

 

……そして、パトカーが見えなくなったのを確認したオサキは、腰に手を当ててこちらに振り返った。

 

「なにをやっとるんじゃ、お主」

 

先ほどまでのJK風の口調と打って変わって、年老いた婆のような落ち着いた声音で語りかけてくる。

有り体にこっちが彼女の本性である。

 

「助かった、礼を言う」

 

「礼などいらん。……まったく、ワシが来なければ豚箱行きじゃったぞ? というか、『認識阻害』も使わずにこんなことしておれば通報されるに決まっておろうに」

 

呆れたように溜め息を吐くオサキ。

 

「そうもいかない状況にあってな……そもそも、その件でお前を探していたんだ」

 

「ワシを?」

 

 

ポカンとするオサキに、件のダークサマナーに関する情報を簡潔に説明する。そして、真っ先に狙われるだろう彼女を保護しに来たことを告げた。

 

 

「なるほどのぅ……」

 

顎に手を当てて頷くオサキ。

狙われている、というのにやけに冷静だ。こっちは心配で、こうして探し回っていたってのに呑気な奴だ。

 

「夕凪神が狙われているとなれば、まず間違いなくお前が最優先目標となる。だからこそ、奴が去るまでは家にーー」

 

「そのダークサマナーとやら、ワシ、見たぞ」

 

何の気なしに答えるオサキ。

思わぬところで情報源を見つけてしまった。

 

「……お前の所感を聞こう」

 

「所感と言うてものぅ……ワシが見つけた時にはもう戦いは終わっておったようで、奴の背後に血が撒き散らされている様子を遠目に見ただけじゃ」

 

担当者の話では、サマナーたちは結界を張って挑んだという。

彼女が見たのは、おそらく結界を破壊して出てきた涅槃台だったのだろう。

つまり戦闘終了後。

 

「ただ、其奴が従えていた“魑魅魍魎”がそこそこ強そうでの。()()ワシではとても敵わんし、さっさと逃げ隠れて、今朝方外に出てきたわけじゃ」

 

どうやら涅槃台に見つかる事態は避けられたようだ。一安心。

まあ、見つかってたら今頃はこうして呑気にJKのフリなんかしてられないだろうがな。

 

「まあ、無事で何よりだ。お前が敵の手に落ちれば夕凪は終わりだからな」

 

「ワシが一番分かっておるよ。……して、ひとまずはお主の家に向かうということで相違ないか?

言っておくがCOMPは嫌じゃぞ、あそこ狭いし、暗いし……」

 

ぶつぶつと不満げな顔で呟くオサキ、彼女はCOMP内に入るのを嫌がる仲魔である。理由は彼女が語ったものが殆どだが、何より寂しいのだろうと思う。

ピ◯チュウみたいな奴なのだ。

 

「あーあーわかってるよ。……出来ればそのJK姿はやめて欲しかったけど。今更、変化させるのも面倒だしな」

 

彼女の今のJK姿は、変化能力によるものだ。

オサキという妖怪は、地域によって様々な特徴を持っているが少なくともこのオサキは妖狐である。

動物としての狐が長い年月を生きて妖力を得た存在、それが妖狐である。

よく伝承で語られるように妖狐は『人を化かす』。その最たる能力が『別の姿に化ける』ことである。幻術とは異なる原理による異能の類だが詳細は長くなるので省く。

 

そして彼女は人の街に溶け込むために現代風の姿に化けることを好んでいる。

今の彼女のトレンドはJKなのだ。

 

「お、なんじゃ。ワシのピチピチの白肌に見惚れたか?

それとも……この豊かな双丘かの?」

 

見事なたわわを両手でむにゅん、と持ち上げて見せるオサキ。確かに世の男性ならば思わず目を向けてしまうほど豊かで綺麗な乳房である。

……だが、これは変化の結果に過ぎない。つまりは偽物である。

 

「よく言う、お前の素の姿は小学生と見紛うほどのロリ体型だろうに」

 

「し、仕方なかろう! ワシとてかつてはこの姿以上にばるんばるんの“だいなまいとぼでー”だったのじゃ!

ワシのかつての姿を見ればお主のその減らず口も閉じると断言する!」

 

「はいはい、今は認識阻害発動してないからなるべく静かにな?」

 

「む。認識阻害の術ならワシが代わりに発動しといたぞ?」

 

ファっ!?

 

「おいおい、俺さっき説明したよな? 涅槃台とかいうダークサマナーが夕凪神を狙って街を彷徨いていると思うから極力目立つ真似はよせと」

 

「中学校の近くで警察に捕まってたお主が言うか」

 

ぐっ! ごもっともな返しに二の句を継げない。

 

と。徐にオサキは道の横に横たわる林に目を向けた。

 

「……それに、もう、遅いぞ?」

 

面倒そうな彼女の視線の先を追って、俺も林に目を向けた。

その時ーー

 

 

 

 

 

「空狐、仙狐、いや天狐というのでしたかな? ぶっちゃけそこら辺はどうでもいいのですが、なかなかどうして鼻が効く。これも“素体”が優秀であるが故ですかな?」

 

林の中から男が現れた。

と同時に辺り一帯を覆う結界が形成される。

 

……いや、まて。こいつの姿、見覚えがある。

 

袈裟に錫杖。大きな笠を目深に被ったキザなイケメン……リンと会ったあの日に業魔殿ですれ違った男だ。

 

「貴様が、涅槃台とかいうサマナーか」

 

懐に隠した拳銃を取り出し、奴へと構える。

 

「おや、そういう貴方はあの時の……いやはや、まさか“お目当て”が貴方の仲魔でいらっしゃるとは。奇遇ですね」

 

爽やかな声、顔で奴はなんてことないように語る。が、その身からは膨大な魔力が滲み出ており、只者でないのは一目瞭然であった。

昨夜の神族級の反応も奴で間違いない。

 

くそ、こんなことになるならウシワカを連れてこればよかった。

生憎とオサキは前衛向きではない、なので必然俺が奴とかち合うわけだが。

 

率直に、勝てる気がしない。

アレはまさしく、『キョウジ』や『ライドウ』の管轄にある存在だ。

とてもではないが中堅の相手にする存在ではない。

 

 

「ダメ元で言うんだが……ここは一つ、見逃すという選択はないか?」

 

「うん?」

 

「いやなに、こちらもオフでね。本来なら“英傑カテゴリ”の強力な仲魔がいるはずなんだよ。

ほら、どうせなら全力の相手と戦った方が楽しいと思わないか?」

 

無論、俺は思わないが。

もし見逃してくれたなら速攻でライドウとキョウジに連絡を取って助けに来てもらうつもりだ。

 

内心冷や汗流しながらも奴の反応を伺う。

意外なことに奴は顎に手を当てて思案していた。

 

 

が。

 

「いやダメでしょう、そんなの私になんのメリットもないじゃないですか」

 

あっけらかんと拒否する。

どうやら、“手にした力を試す”とか“強い相手と闘いたい”とかいう輩ではないらしい。

つまり、『純粋に力を求める外道』。

 

「交渉決裂か……なんとなくそんな気してたけど!」

 

言いつつ発砲。十二発の弾丸を惜しまず撃ち尽くす。

そしてすぐに銃を仕舞って、背負っていた愛刀の布を引き剥がした。

 

放った銃弾は奴の目の前まで到達したものの、手に持つ錫杖をぐるりと回転させることで全て叩き落とされた。

その速さも並ではなく、辛うじて回転する錫杖の残像を捉えるのみだった。

 

「オサキ!」

 

「わかっておる!」

 

オサキは素早く両手を胸の前で交差、開いたと同時に涅槃台の周囲を深い暗闇が覆った。

幻術の類である。

 

「よし……! 逃げるぞ!」

 

愛刀を腰に下げた俺は反転、一目散に逃走する。

 

「相変わらず逃げ足の速い主じゃな!」

 

遅れてオサキも俺の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず……とりあえず業魔殿へ逃げるぞ!」

 

走りながら後ろのオサキに告げる。

 

「はぁー……その“臆病癖”、まだ治っとらんかったか」

 

深い深いため息に次いで呆れた声が返ってくる。

 

「しょうがないだろ……“五年”程度じゃ忘れられるはずもない」

 

或いは、これからもずっと。

 

「どうでもよいが……ワシら、さっきから同じとこをぐるぐると回っておるぞ」

 

「えっ!?」

 

その言葉に急停止、慌てて周りを見てみる。

……確かに、さっきと同じ風景が広がっている。

 

「またループものか!!」

 

先日も吸血鬼の館で出くわしたばかりだというのに。

なんだ、最近のトレンドはループものなのか!?

 

おまけに今回は範囲が広すぎる上に、起点となるものの検討もつかない。……十中八九、あのダークサマナーが起点なのだろうが。

 

「だからって、あんな化け物勝てねぇぞ……」

 

魔力だけで分かってしまう。涅槃台は俺が勝てる相手ではない。

ウシワカを呼び出したとしても、アレ相手では勝率は低い。

もしくはイヌガミの“枷”を解けばーー

 

「俺まで巻き添え食うだろ……」

 

それでは本末転倒である。それに“今の俺”では到底御し得ない。

ぶつぶつと必死に考えを巡らせる俺に、オサキが声をかけてくる。

 

「なんでもよいが追いついてきたようじゃぞ」

 

慌てて後ろを振り返れば、広い道路の向こう側からゆっくりと袈裟を纏った男が近づいてくる。

 

「くそっ!」

 

考えている暇はない。

俺はとっさにスマホの召喚プログラムを起動し、ウシワカとイヌガミ、そしてクダを選択して召喚する。

 

いつもの魔法陣の後にバシュン! と召喚された三体、中でもウシワカはかなり動揺していた。

 

「あ、主殿!?」

 

その姿はダボTに、短パン。手には煎餅。口の端には食べかすをくっつけている。完全に寛ぎモードである。

……この召喚プログラム、仲魔として召喚陣を登録してある相手ならば遠方からでも即座に呼び寄せることができるのだ。

つまりウシワカは家で寛いでいたところ、突然、外に放り出されたことになる。

 

「悪い、戦闘だ!」

 

「っ、承知!!」

 

しかしたった一言で真剣な顔つきになったウシワカはすぐさま『破廉恥衣装』へと変身した。

ちなみに、この変身機能は英傑にはデフォルトで備わっている能力らしい。……ちょっと羨ましいのは秘密だ。

 

 

「指示ヲ」

 

「指示ヲ頼ム」

 

クダ、イヌガミの両名はさすがに慣れているのか落ち着いた様子で臨戦態勢に入っていた。

 

「クダはウシワカに強化を。イヌガミは魔法で援護だ」

 

「ふぅむ、ワシはどうする?」

 

呑気な声で話しかけてくるオサキ。

 

「お前は引き続き、奴に幻術を。対策を取られたら惜しみなく別の術式を使え」

 

「まあ、そうなるじゃろうな……よかろう」

 

動揺も焦りも見せないが、一応言うことは聞いてくれるので問題はない。

また、急に現れたオサキにウシワカが興味津々な様子であったが紹介している暇はないのでスルー。

 

こちらも愛刀を抜き放ち構える。

 

やがて、敵もはっきりと視認できる位置まで来ていた。

 

 

「おや? 私が得た情報に比べて、やや“貧相”な戦力ですね?

……これは、警戒する必要もなかったか」

 

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら煽ってくる。

が、クダもイヌガミもそんな安い挑発には動じず静かに待ち構えている。

 

「……」

 

ウシワカも顔色ひとつ変えていないが、なにやら身体から殺気が溢れている……。

ま、まあ、天下の義経が戦いでヘマすることはないだろう。

 

動じない俺たちに、涅槃台はつまらなそうに溜め息を漏らした。

 

「ふぅ……私、生け捕りって苦手なんですがねぇ」

 

実に面倒そうにボヤきながら杖を構える。

次の瞬間、俺の目の前まで移動した奴の姿を視界に捉えた。

 

「っ! 主殿!!」

 

必死に刀で防御姿勢を取る俺に次いで、ウシワカは瞬時に反転して涅槃台の背中へと斬撃を放った。

 

それをくるりと身を翻し躱す。

 

「ほほぅ、その個体、なかなかのスペックですね」

 

「抜かせ!」

 

感心したように呟く涅槃台へと続けて刀を振るうウシワカ。

錫杖で受け止めながら奴は口の端を歪ませる。

 

「なるほど、コレが貴方の言っていた“英傑”とやらですか」

 

平然と話しながらもウシワカの猛攻を完璧にいなす涅槃台。

……見たところ、どうやら、技ではなく“単純な出力に大きな差”があるように思えた。

 

続けて、クダの強化魔法がウシワカに飛び、イヌガミの『アギ系魔法』が怒涛の勢いで押し寄せた。

が、涅槃台は何やらぶつぶつと呪文を唱えた後、幾重にも重なる障壁を生み出し炎魔法を全て受け切った。

 

 

一方で、俺はオサキへと指示を飛ばし、承諾したオサキの幻術によって“暗闇の中に潜んだ”。

先ほど、涅槃台へと放ったものと酷似するが、“オサキそのものが暗闇に化けている”点でこちらの方が圧倒的に性能が高い。

 

効果はずばり『気配遮断』と『認識阻害』、どちらも高い性能を誇る。ランクで言うならばAくらい。

 

 

その状態で、仲魔たちの猛攻を防ぎ続ける涅槃台の背後まで静かに移動。至近距離に迫ったところで即座に幻術を解き、抜刀した。

 

「っ!!」

 

さしもの奴も、超至近距離からの居合いには反応できなかったのか、慌てて振り向こうとした奴の脇腹を愛刀が掻っ捌いた。

 

「ぐっ!?」

 

眉を顰めた涅槃台はすぐに俺へと錫杖を振るう。

先に見ていた通りその腕前は尋常ではなく、俺の粗末な剣術など意に介さないほどの杖術を使ってきた。

 

なんとか刀を合わせて防ごうとするも、その類稀な技術で防御の尽くを突破され、身体中に無数の打撃が加えられた。

 

「が、あぁ!!」

 

一撃一撃が重過ぎる。ともすれば骨ごと粉砕する勢いだ。なまじ鍛えていた俺だったから良かったものの、『霊的研鑽』が未熟な新米サマナーであれば即座に肉塊に変えられる威力だ。

 

(あるじ)……!!」

 

咄嗟に、傍のオサキが暗闇を生み出す幻術を発動してくれたことで逃げることができた。

 

 

すぐに奴から距離をおいて膝をつく。

同時に喉奥から鮮血が飛び出した。

 

「強すぎるだろ……どうなってんだありゃ」

 

荒く息を継ぎながら、引き続き仲魔の猛攻を受ける涅槃台を見る。

 

「それだけの“魂”を喰らってきたということじゃろう」

 

落ち着いた様子で傍につくオサキ、しかしその視線は涅槃台へと注意深く注がれている。

 

「それだよ。そもそも“魂を喰らう”ってのが解せない。

確かに世にある外法の中にはそういうのもあるが……大抵が“限度”というものが存在する。当然だ、結局のところ『別々の魂は相容れない』からな。

……だが、アレはその範疇を“逸脱”している」

 

強力な古神と一体化するなら分かる、取り込んだ例も過去にはある。

だが、無数の悪魔を食して、その力を制御するのは聞いたことがない。

 

そんなことができるのは『悪魔』だけだ。

 

「考察するのは勝手じゃが、今は奴に勝たねば意味がない」

 

オサキの冷静な意見に俺も頷き、いったん推理をやめる。

どの道、アレを倒さないと生き残れない。

 

なら、やるしかない。

 

 

「……あんまり使いたくないんだけど」

 

ボヤきつつ両手で『印』を結ぶ。

 

続けて、『詠唱』を開始した。

 

「……“此れなるは不動の御魂、あらゆる障碍を除く御魂、破邪成す御魂、勝利を齎す御魂、悪を喰らいて善成す御魂なり”」

 

詠唱に応じて、自分の肉体が、霊体が補強されていく。同時にそれらが軋み堪え難い痛みを生み出す。

その苦痛になんとか耐えつつ、精神を集中する。

……長々と唱える猶予はないので、今回は『省略版』だ。

 

やがて、俺を中心として地面に魔法陣が浮かび上がる。

 

「“……五大の王者の力を借りて、ここに正義をなさん!!”」

 

そして、愛刀を地面に突き立て、『簡易版』の術名を叫ぶ。

 

 

「ヒートライザ!!」

 

 

 




リンボも好き過ぎる。
できれば、カルデアに来てからも邪悪なままでいて欲しい。


早く来て欲しいけど、もう少し外道な彼が見ていたいジレンマ。
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