ちなみにDなんちゃらは『公』が出なかったので投げました。
ヒートライザとは、術者本人の能力を飛躍的に上昇させる魔法カテゴリである。
中でも俺が使ったのは、かの有名な五大の明王の力を受け取るもの。
五大明王とは『仏道に与しない者』を救う役割を持つ偉大なる仏であり、“主に神道に属する”俺であっても助けを請うことができる存在なのだ。
本来なら倍くらいの詠唱と、専用の術式の書き込みが必要なのだが、効果の減衰を気にしなければこうした簡易式でも一応発動は可能だ。
寧ろ、正式な術式など使えば俺の身体が保たない。
「フゥゥ……」
深呼吸をして精神を整える。
未だ全身からパキパキと嫌な音が聞こえてくるが、後遺症が出るほどではない。
「オサキ、俺はこれから前衛に回る、援護してくれ。三分しか保たないから全力で頼むぞ」
「光の巨人か?」
冗談言ってる場合じゃないので無視して涅槃台へと突貫した。
現在奴はウシワカ、イヌガミから遠近双方の攻撃を受けている。
ましてウシワカはクダから強化魔法を受けているのでいつも以上の動きを見せていた。
イヌガミも魔法のみに専念できる後衛ゆえに、速射型の魔法と詠唱型の魔法を器用にもタイミングをずらして隙なく放っている。
正直、俺単体でアレに立ち向かうことはできない。
だが、涅槃台はその猛攻を受けてなおも倒れない。
ざっと見た限り、奴の内側からは“無尽蔵のエネルギー”が溢れていた。その原因までは流石に分からないが、おそらくはこれまで『魂を喰らってきた』こととも関係しているように思う。
何はともあれ、ここで倒すと決めた。
「っ!!」
オサキの幻術で強力な認識阻害を纏いつつ、ヒートライザにより、先程までの三倍くらいの速さで迫り居合を放った。が、涅槃台は驚異的な反応速度でこれに気付き、ウシワカの猛攻の一瞬の隙をついてこちらに杖を振るってきた。
「ちっ!」
だがこちらも強化済みだ。上昇したパワーで難なく杖を弾き、胴体へと斬撃を放つ。
「ぐおっ!?」
袈裟懸けに一閃。これで終わりではない。
続けて横、縦、斜めと斬撃を繰り返す。
急に速度を上げた俺に奴も戸惑ったのか、精細さを欠いた動きで必死に防御しようとするも、その悉くを突破して俺は刀を振るう。
無論のこと、同じく奴へと刀を振るうウシワカの斬撃も襲い掛かる。
「ば、バカな……この短時間で、いったい何を!?」
狼狽る涅槃台の身体にも段々と斬り傷が刻まれていく。
俺の急激な能力上昇で奴が上手い具合に動揺してくれているお陰だが、こちらの動きにウシワカが合わせてくれていることも大きい。
しかし油断はできない。
俺の制限時間はもとより、奴がこちらの動きに慣れてしまえばジリ貧となるほど紙一重の攻防なのだ。
ヒートライザを使用して、この結果とは。我ながら地力の貧しさに歯噛みする。
「ウシワカ!!!!」
叫びながら、渾身の力をもって涅槃台の杖を弾いた。
「はいっ!!」
さすがは天才義経、間髪入れず無防備となった奴目掛けて鋭い一撃を放った。
「がっ!!」
左胸を抉るように放たれた一撃に、奴は驚愕した表情のあとヨタヨタと後退り吐血する。
だが、まだ倒れる気配はない。
「……イヌガミ!!」
俺は後衛の仲魔へと声を張り上げる。
俺が前衛に参加した頃からなにやら遠くで詠唱を始めていたのを知っていたからこその合図だ。
「承知シタ」
返答ののち、イヌガミの周囲に涅槃台へ向けた魔法陣が幾つも展開される。
数瞬置いて、それらから炎の嵐が放たれた。
道中の一切を焼き尽くしながら、弾丸のような速さで迫る炎の渦。
「っ!!!!」
それが涅槃台の身体へと触れた瞬間、周囲を巻き込みながら大爆発を引き起こした。
予想以上の威力に、俺は咄嗟にその場を離れようと視線を動かして、膝をつくウシワカを捉えた。
「っ、ウシワカ!」
「あっ……!」
すぐにその手を掴んで、上昇したパワーを脚力に回して全力でその場から飛び退く。
併せてぐいっと手を引いてウシワカを抱き抱えた。
間一髪。コートの端が焼失したものの無事に爆発からの退避に成功。
着地してからそっとウシワカを地に下ろした。
「大丈夫か?」
「はい……助かりました、主殿」
笑って応えるウシワカだが、その顔は焦燥しきっており限界なのは明白だった。
当たり前だ、クダに強化魔法を受けてからずっと奴を押さえ込んでいてくれたのだ。素で奴の打撃を受けた俺は身をもって涅槃台の桁違いの強さを理解している。
ウシワカでなければ、彼女がいなければとっくに全滅していたことだろう。
そのことを改めて認識した俺は無意識に彼女の頭を撫でていた。
ぐしゃぐしゃと、抑えきれない衝動の赴くままに撫でた。
「あ、主殿! まだ、戦いは終わっておりませぬ故!」
必死に頬の緩みを抑えようとするウシワカだが、隠しきれていない。
だが、彼女の言葉はもっともだ。名残惜しいが撫でる手を止めて、爆発跡に視線を移した。
涅槃台を中心に起こった爆発は、周囲の舗装路を消し飛ばしながらさながらクレーターのごとき有様を形成していた。
だが未だ全容を掴めないほどにもくもくと白煙が立ち込めている。
「やったのでしょうか?」
きちんとフラグを立ててくれるウシワカに思わず視線を向けてしまう。いや、まあ、その感想が出てくるのは自然ではあるが。
直後、ガラスが割れたような音が鳴り響き周囲の空間が砕けた。
代わりに、同じような風景、つまりは現実の街並みが視界に広がる。
幸いというか、周囲は人通りの少ない小道で、満身創痍に帯刀する姿を見られることはなかった。
「結界が割れたってことは……」
やったのか、と続けようとして。覚えのある『殺意』が現れたことに気付いた。
「くそ……雑魚どもが。ふざけた真似しやがって!」
白煙が消えた地点に立っていたのは、こちら同様満身創痍な涅槃台の姿だった。衣服のあちこち、身体のあちこちが焦げ煙をあげている。
しかし、ヨロヨロとしながらもなんとか二本足で立っている。
「しぶとい奴だ」
とはいえこちらも追撃に回せる力は少ない。
“霊力の低下した”俺では先のヒートライザには耐え切れず今はもう攻撃できるほどの力もなく、ウシワカは見た通り消耗がひどい。イヌガミも魔法の使い過ぎで弱っている。
残ったクダとオサキは戦闘向きではないので、追撃は難しい。
奴も、話に聞いていた仲魔を召喚しないあたり、それすら難しいほどに消耗していると見た。
つまり、お互いに詰みだった。
しばらく膠着状態が続いて、先に涅槃台が動いた。
徐に胸元から取り出した無地の札、それを無造作に道路に放り投げる。
ペラペラした札は宙を舞った後、淡い光と共に“変化”する。
「シキオウジ!!」
その姿、正体を知って思わず声を上げた。
折り紙で作ったようなペラペラの弱そうな
式王子、陰陽師が扱う式神の一種なのだが、ペラペラゆえに打撃攻撃は意味を成さない。加えて、近年に改良された種類は斬撃すらも無効化してしまう。
原理は不明ながら、斬り裂いてもすぐにくっついてしまうのだ。
無論のこと、破魔・呪殺は効かない。生命ならざるヒトガタなのだから当たり前だ。
これに対抗するには属性魔法しかない。
「主ヨ」
イヌガミの悔しそうな声に俺も頷く。
イヌガミはもう魔法を撃てない。魔力が底をついたのだ。
ウシワカはそもそも魔法が使えず、俺もアギすら撃てないほどに消耗している。
ここは逃げるが勝ちだが、シキオウジは式神ゆえに命令には絶対服従なのでかなりしつこい。
消耗した俺たちではとても巻けない。
焦る俺たちを見て溜飲が下がったのか、落ち着きを取り戻した涅槃台は先程までのような丁寧な口調で語りかけてくる。
「少々、あなた方を侮っていました。ですので、ここで! 確実に! 死んでいただく!」
狂気の滲む笑みを見せた涅槃台はそのまま飛び上がりビルの屋上へ、そこから跳躍を繰り返しどこかへと去っていった。
……まだまだ動けた事実に恐怖するも、撤退してくれたことには素直に感謝した。
「帰ってくれたのは嬉しいが……」
恐る恐るシキオウジへと目を向ける。
そこにはゆっくりとこちらに前進する人形。厄介すぎる置き土産を寄越してくれたものだ。
「主殿……どうかお下がりください。ここは、このウシワカが!」
消耗ゆえに震える身体で、なおも刀を構えて立ち上がるウシワカ。
その姿に、不覚にもキュンとしてしまった。
が、すぐに我に返り彼女の“不要な”自己犠牲を止める。
「いや待てウシワカ」
手でそっと彼女を制してから、ポケットから取り出した“石”をシキオウジ向けて投げた。
小石サイズのそれはシキオウジにぶつかると同時に砕けて中から炎を生じた。
応じて、シキオウジが焦ったようにもがきはじめた。
「あ、アレは!?」
「アギストーン。石系は一応いくつか持ち歩いているんだ。まあ、全て初級ほどの威力しかないから牽制くらいにしか使えないんだけどな」
だが、シキオウジ相手となれば別だ。
炎を弱点とする悪魔の中でも、“紙”が本体である奴は驚くほど火に弱い。
こうしてアギストーンをぶつけただけで勝手に延焼してしまうくらいには。
同時に水にも極端に弱い。
物理が効かないからと焦ることなく冷静に対処すれば案外楽な相手だったりする。腐っても中堅な俺は当然、これらの情報を頭に叩き込んであった。
「ほら、おまけだ」
もがくシキオウジに、追加で二、三個アギストーンを投げつける。個数分着火して奴のボディを複数箇所から燃やしていく。
だが、相手は涅槃台が作り出したシキオウジ。油断していた俺のもとに『ジオ系魔法』を放ってきた。
「ぎゃっ!?」
「主殿!?」
魔法が直撃した俺はビリビリと感電して痺れる。俗に言う『PALYZE』である。
動けない俺に向けて、続けて複数回ジオ系が放たれる。その度にバチバチと感電して地味に体力を削られる。
一般人ならとっくに死んでいる量だと思う。
だが、四回目のジオで感電を免れたことで出来た僅かな隙を突いてお返しのアギストーンを投げつけた。
ボワッと着火した炎が包むのは奴の頭部。さすがに驚いたのか先にも増して慌てふためいている。
「今のうちに……!」
この場から離れようとするも、うまく足が動かない。まだ感電が抜け切っていなかったらしい。
「お任せを!!」
「え?」
すると、突然近づいてきたウシワカが俺をひょいっと担ぎ上げてしまった。そのままシキオウジとは反対方向へ駆け出した。
俺は慌ててイヌガミ、クダの両名をCOMPに送還する。クダはともかくイヌガミはかなり消耗していたからだ。
ちなみに、オサキは大して消耗していないので普通に追いかけてくる。
「……って、とりあえず降ろせ! お前だって消耗してるだろうに!」
戦闘の最中に膝をつくほどだ、あのウシワカが。かなり消耗しているはずである。
「なりませぬ! それに、サマナーたる主殿が倒れれば我ら『悪魔』も困ります!」
それを言われると弱い。悔しいが正論なので静かに口を閉じる。
しかし米俵のように肩に担がれる成人男性の絵面はなかなかにヒドイ。客観的に見たわけではないが確実にヒドイことになっている。
だが、それによるメリットも一応はあった。彼女の背後へと目を向けることができるのだ。
ふと視線を向ければ、当然のようにシキオウジが追いかけてきていた。
紙で出来たペラペラの身体を一旦“解き”、蛇のような形に変形し宙を飛んでくる。
「これでもくらえ!」
追い縋るシキオウジへと残るアギストーンを連続投擲する。
しかしさすがに学んだのか、奴に命中する前にジオで叩き落とされてしまった。ちなみに今のが手持ちで最後のアギストーンである。
小賢しい真似を、紙のくせに。
悔しいので、俺の渾身のぐぬ顔を奴に見せつけていると。
不意に、顔の横を“火球”が掠めた。
直後、シキオウジが巨大な炎に包まれて焼け落ちる。
「え……?」
突然の出来事に呆然とする。
「あ、あれ……?」
シキオウジの突然の死にウシワカも気付き足を止める。
視線の先にはやっぱり燃え盛るシキオウジの姿。力なくぐったりと地面に横たわっている。
「さ、流石です! 主殿!!」
「いや、俺じゃないけど……」
ガッツポーズで褒めてくるウシワカに冷静に応える。
だが、あの火球。なんだかどっかで見覚えがあるような気がする。
「見てらんないわね、オクヤマ・ヒデオ!」
必死に思い出そうとする俺の耳に、遠くから女性の声が聞こえてきた。それも、火球と同じく妙に聞き覚えがある。
だが、声の方へと視線を向けることでようやく思い出した。
「何者だっ!」
ツカツカとヒールの音を響かせて歩み寄る“彼女”に、ウシワカを警戒を強めながら刀を向けた。
「あら、仲魔の躾もなっていないなんて。『奥山』の底が知れるわねヒデオ」
黒いリクルートスーツを纏い、赤いカチューシャを身につけた茶髪の“少女”。その手には霊的加工が施された鞭と銃型COMP、通称『
おまけに傍には双頭の魔犬『オルトロス』が侍る。
「待てウシワカ、彼女は知り合いだ」
「……承知」
不承不承ながら刀を収めるウシワカを確認してから、彼女に目を向ける。
「助太刀感謝する、『
「ふん……事情は大方把握しているわ。一先ず貴方の家で話しましょうか?」
つまらなそうな顔で鞭をホルダーに収め、オルトロスを送還した彼女は俺に近寄り
傷口がジリジリと熱を帯びて再生していく感覚は、いつまで経っても慣れない。
「はい、これで立てるでしょ? いつまでもそんな情けない姿でいられたらこっちが迷惑なの。で、残りは別料金になるけど、どうする?」
「遠慮しとく」
とりあえず自力で動けるまで回復した俺はウシワカから降りて自分の足で地面に立った。
……念のため、召喚プログラムを起動して周囲の索敵を行う。……周囲に反応なし、シキオウジは死に、涅槃台は本当に撤退したようだ。
「敵は片付いた、もう変身解いていいぞ」
そう促すとウシワカは、一瞬の輝きの後、現れた時と同様のダボTにサンダル姿に戻った。
ウシワカの早着替えを目撃したレイランは、異様なモノを見る目を向けていた。
「悪いが仕様だ。それよりも……ウシワカにもディアをかけてやってくれないか?」
「はぁ? そんなの自分で……ああ、魔力が無いのね。ったくめんどくさい」
面倒そうに眉を顰めながらもレイランはウシワカの治療もしてくれた。
ただし、きっかりと治療代を請求してきたのでどうせならと全快するまでの治療をお願いした。
その後はウシワカ、オサキ、そしてレイランを伴って帰宅。
とりあえずはレイランからの話とやらを聞くために、荷物もそこら辺に放っぽってリビングに集合した。
リビングと言っても、馬鹿でかい部屋なので客間とも併用している。
俺はいつものTVの前に位置するソファではなく、その後ろに配置された向かい合うソファへと腰掛けた。
「どうぞ、レイラン」
彼女が対面へと腰掛けたのを確認して口を開く。
「で、話しとは?」
脚を組み背もたれに体重を預ける姿勢でレイランはゆっくりと頷いた。
「さっき貴方が交戦した『涅槃台』に関する話よ」
彼女は日本に一定数存在するデビルサマナーの中でも『最強』とされている集団『
同時に、葛葉が誇る『神降ろしの巫女』でもある。
そして、何を隠そう彼女こそは『先代葛葉の巫女』たるレイ・レイホゥさんの娘さんでもある。
……一説には彼女は養子とのことだが、余人が触れて良い話題でも無いし本人に尋ねたことはないため不明である。
レイ・レイホゥさんは、以前に俺が「霊力が絶望的」と酷評されたと語った人だ。彼女は『アマテラス』『イシュタル』『ガブリエル』などの強大な悪魔=古き神を身に降ろしその力を振るうことで『葛葉キョウジ』のパートナーとして活躍、これまで幾つもの大事件を解決してきた凄腕の戦士だ。
酷評されたということは当然、俺は彼女と面識を持っている。単に、少し修行に付き合ってもらっただけだ。その時にこのレイランとも顔見知りとなった。
彼女の娘であるとはつまり巫女としての後継者ということでもある。血筋なのか鍛錬の賜物なのかは不明だが、レイランもレイさんに負けず劣らず、強力な悪魔を降ろし戦うことができる巫女だ。
加えて、“引退したキョウジ”のGUNPを受け継いだことでサマナーとしての才能も開花し、今ではサマナー協会から熱烈なアプローチを受けるほど重要視されている凄腕サマナーとなっている。
そんな彼女は
「視線がキモいわね……いっぺん、死んでみる?」
おっと、ついオヤジ風な脳内会話をしてしまったばかりに氷のような視線を注がれてしまった。
「失礼……それで、涅槃台についての話があると言ったが?」
話の続きを急かすと、すぐに真剣な顔に戻った。
「ヤツが各地を転々としながら悪魔を喰らってるのは知ってるわね?」
「ああ、ついでにサマナーも喰らっているとか」
「なら、話は早いわね。……ヤツが襲うのは悪魔とサマナー、それも“霊的位階の高いモノ”ばかりよ。
そうなると、当然、『魔術師』にも手を出すわけ」
魔術師……確かに、彼らの中には研究の末に『人ならざる力』を得た者もいる。もしくは先天的に『才能』を持って生まれた者とか。
俺は魔術に詳しいわけではないのでよく分からないが、『虚数属性』や『接続者』と呼ばれる存在は総じて魂が『上質』なのだと聞いたことがある。
「そうね、そういうのも何人か喰われたらしいけど……。今回問題となっているのは“魔術師の成果”の方よ」
「成果?」
「ーー先日、“伝承科”“天体科”から『重要資料』が盗まれた。犯人は複数人のダークサマナー、その中には涅槃台の姿も確認されているわ」
重要資料、そうとしか“言えない”ほどにヤバイ代物ということか。
伝承科といえば、現在の魔術協会を主導するロンドンの『時計塔』にある学科の一つだ。なんでも『空想』に関する研究をしているというがよく知らない。
天体科は文字通り『天体に関する魔術』『占星術』などの研究をしていると聞くが、こちらもよく知らない。
よって、何が盗まれたのかは推測不可能。
「余計な詮索はしないでいいわ、重要なのは盗まれた『ブツ』を持っているのが涅槃台だということ」
……キナ臭い話になってきたな。いや、涅槃台の時点で十分“厄い”んだが。
「……他の犯人たちはどうした?」
「殺したわ」
真っ直ぐな瞳で平然と言い放つ。いやはや怖い怖い。
「なるほど、殺した奴らは持ってなかったから消去法で。というわけか」
つまり、魔術協会から盗んだブツを持って逃走する涅槃台を追ってきたと。
「そういうこと。
で、ソレの担当になったのが私というわけ」
なんというか涅槃台には「ご愁傷様」としか言いようがない。
彼女相手ではさしもの奴も敵わないだろう。
しかし、現在の葛葉の末席とはいえ彼女を起用するとは。協会も思い切った選択をしたものだ。
葛葉は、サマナー協会に名前を残しているものの、実質的な上司は『國家機関』にあたる。一方でサマナー協会はあくまで『サマナー同士の交流、依頼の円滑な斡旋』を目的とした中立組織。
本質として相容れない立場にある。
これを鑑みると、國家機関を通さずして魔術協会という『外部組織』の依頼を葛葉の者に頼んだことになる。
國家機関がこれを知れば両者の間で『小競り合い』が起きてもおかしくない。
大戦により弱体化したとはいえ、かつては文字通り国を支配した國家機関だ。八十年の歳月を経てなおも強大な影響力を誇っている。
一方、サマナー協会も『フリー』のサマナーたちを起用し、グローバルかつ臨機応変な対応が可能な曲者。
二つがやり合ってタダで済むはずもなし。
「出来ればとばっちりは避けたいんだが……」
「そう嫌な顔しないで。一応、“上”に許可は取ってあるのよ。だから下手に組織がぶつかることはないわ」
「その言い方だと、俺が手伝うのは決定事項なわけね」
「当たり前じゃない、なんでわざわざアンタの家で話したと思ってるのよ」
絶対そう言うと思った。
傍若無人、傲慢無礼ながらそれに見合う実力。実力に裏打ちされた自信。それらから来る強い責任感を持っているのが彼女だった。
属性にはめるなら『お嬢様系勇者』か?
何はともあれ、断ると言う選択肢はない。
そんなもの、彼女を前にして存在してはならないのだ。
ぶっちゃけ、断ったら何されるか分からんし、何より世話になったレイさんの娘さんである。
俺は重い腰を上げて承諾した。
「わかった。そちらの依頼に協力しよう」
「いい返事ね。安心して、成功の暁には貴方にもそれなりの謝礼は出すから」
当たり前だ、タダ働きなんぞ俺が最も忌み嫌う概念である。
俺は嫌々ながらも、元気に手を差し出してきた彼女と握手した。
今更だけどレイさんのカチューシャって、アレ、カチューシャでいいんだよね??
あと、あの服はリクルートスーツで合ってるよね????
答えは出なかったので本人は出さなかった。
というか時系列的にレイさんって来年で五……?