英傑召喚師   作:蒼天伍号

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涅槃台くんの話です。



閑話・悪しき泥

数年前、とある地域、とある山奥にて『彼』は“ソレ”に出会った。

 

 

力を求めて幾星霜、数えきれないほどの『命』を消費し、糧とすることで自らの霊力を増強してきた。

しかし、その過程はあまりにも『非効率』で消費した命の五割にも満たない強化しか望めなかった。

 

手段を選ばず、ひたすら力を求める彼にとって『悔しい』結果だった。

 

だからこそ、『師』が与えてくれた『泥』はまさに青天の霹靂に等しい衝撃を齎らした。

 

 

『力を求めるならばソレを飼い慣らしてみせよ、無限の悪意に満ちながらも足掻いて見せよ。

それが成った時、貴様は尽きることのない『ヒトの力』を手にすることができる』

 

 

師が差し出してきたモノは、『泥』と形容するほかにないモノだった。

或いは“底無しの闇”、“世界の影”。

一眼見て、その“計り知れない悪意”に()()()()()

 

ヒトの力の源が『悪意』であることはなにより私自身が“よく知っている”。

だからこそ、ソレが私の求める『力』を最効率で最上のものとして与えてくれると確信した。

 

『アナタの“悪意”はとても心地が良いものですわ、必ずや“我が主人”の意向に沿う活躍をしていただけると期待しています』

 

師の傍に立つ『女』が何か言っているが、この時のわたしには『泥』以外への興味はなかった。

だから、迷うことなくソレを『口に入れた』。

 

 

ーー瞬間、私は内側から襲いくる『世界の呪詛』に塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕凪市から東へ四十kmほど。

かつて『武家社会の礎を築いた英傑』が眠る地がある。

 

武家の古都としての落ち着いた、趣きある古めかしい街並みが残り、歴史的価値の高い文化財が立ち並ぶ日本有数の観光名所でもある地。

 

その中でも比較的マイナーで、歴史愛好家くらいしか立ち寄らないような静寂感漂う場所に、『涅槃台』はいた。

 

 

「悲劇の姫君……その憎悪たるや如何程の『力』となるか」

 

横須賀線沿いにある閑静な住宅街、その角にひっそりと立つのはこじんまりとした『地蔵堂』。

“源氏に縁ある”建物であるそのお堂の前にて涅槃台は、ぶつぶつと独り言を呟きながら、粘性の高い笑みを湛えていた。

 

身に纏うはいつもの坊主衣装、手に持つは錫杖と『呪符』。

それも、彼が有する修験道の知識と陰陽道の知識、そして『古き密教』の技術を統合して作り上げたオリジナルの特性呪符である。

 

力を得るために『外道』に手を出した彼は、かつて所属した密教ですら禁じた『外法』の類にも精通する。

『聖なる』を自称する各宗派には、“霊”を守護する術がそれぞれ伝わっている。それは己が鬼籍に入った際に、自らの魂・霊を邪な儀式に利用されないためのもの。或いは『生前の憎悪を鎮める』いわゆる『鎮魂』の類まで種類は様々。

しかし、『護り』に精通するならば()()()()()術理を解するのも必然。

涅槃台が携える呪符はまさにその『解く』力を秘めたマジックアイテム。

 

即ち、聖なる封印・聖なる護りを“破壊”する悪しき術理。

 

 

「かつて“その道”を究めんとした身としては些か心苦しいのですが、これも我が野望のため。

“純情なる姫君”には是非とも『実験台』になってもらわねば」

 

微塵も『苦悩』など抱いていない表情のまま、涅槃台はお堂の扉へと呪符を貼り付けた。

 

「“オン”」

 

短い起動の合図を受けた呪符は、その身に貯めた『効果』を即座に発現する。

呪符から溢れた白い光は一瞬でお堂を包み込み、また一瞬で掻き消える。瞬きする程度の時間。されど『解除』にはそれで十分だった。

 

カチャリ、と開錠するような音が辺りに響く。

しかし、一般人には聞こえない“魔力を振動させる音”だ。

つまり、お堂に掛けられていた『結界』が解除されたことを意味する。

 

応じて、独りでに木製扉が開いていく。

涅槃台は御影石で造られた階段を登りながら中に仕舞われている『仏壇』を目視する。

 

 

そこには二体の脇侍に付き添われた光輪背負いし像。一見してただの像であるが、霊的感覚を持つものならばそれが非常に強力な『守りの概念』を持つことを即座に看破する。

涅槃台はすぐにもう一枚の呪符を懐から取り出して掲げた。

 

「“オン”」

 

詠唱はいらない、手順は全て符に書き記されているからだ。

かつてとある密教において『奇才』とされた彼に掛かればスイッチを押すだけの呪符の開発など造作もない。

涅槃台の呼びかけに応じて、再び呪符から光が放たれ、今度は地蔵を覆う。やがては像をーー

 

ーー破壊、しようとして『解除の光』は打ち消された。

 

これには涅槃台も驚きに目を剥く。

 

「おや、おやおやおや。……くく、やはり私程度では『御仏』の加護は破れませんか」

 

だが、それもまた想定のうちだ。

できるならば『確実』に『堕ちて』もらうために丸裸にしておきたかったが仕方ない。

 

であるならば。

 

「……お行きなさい」

 

徐に片手を上げた彼はゆっくりと堂内の本尊を指差す。

……それだけでも不敬、不届き千万だが、その袖から這い出てきた『モノ』はそれ以上に『冒涜的』であった。

 

『泥』、そう表す他にない得体の知れないソレは、黒々とした流体として本尊に纏わり付く。

 

当然、地蔵も『破邪』の力でもって対抗するがものの数秒で『守り』は打ち破られる。

さしもの地蔵も、『御仏本体』ならざる身では『世界規模の呪い』には抵抗すらできない。

 

そして一分と経たないうちにお堂は『黒い泥』に包み込まれた。

 

その光景を眺めながら涅槃台は愉悦の笑みを浮かべる。

 

「ああ……世を憂い、救う『願望』のなんと儚きことか。やはり人の世を支配するのは『悪』、『冒涜』に支えられし『力』」

 

自らが信奉する『力』の本質を目の当たりにしてなお、彼は歓喜の念に満たされていた。

振るう力は悪なれど、それこそ真に世の理を回す『摂理』そのものと信じて疑わないがゆえに。

 

多幸感に包まれながら涅槃台は次のステップへと移行する。

 

次に取り出したるは“金色の札”。

明らかに日本の文化にはそぐわないそのアイテムは、つい最近、『奥山秀雄が使用したモノ』と同一の霊具。

 

これを、あろうことか『泥』に塗れるお堂へと投げ入れる。

そしてすかさず『詠唱』を開始した。

 

「“素に銀と鉄。礎に石と契約の大公ーー”」

 

それは、かつて『とある田舎町』において開催された魔術儀式で用いられた召喚式。

“特定の悪魔カテゴリのみを呼び寄せる専用術式”。

その詠唱である。

 

「“ーー告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に”」

 

本来であれば『とある地、とある概念』を介さねば成立しない特殊召喚、しかし涅槃台が使った『金の札』がそのルールを捻じ曲げた。

 

「“我は常世総ての■と成る者。我は常世総ての『悪』を敷く者”」

 

ゆえに成立してしまう。

『英霊』を現世に呼び寄せる儀式が。

加えて、涅槃台は『魔術組織から奪った資料』によって『ヒデオ』よりも『高純度の』術式を遂行する。

 

「“ーー汝三大の言霊を纏う七天。

 

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!”」

 

正確な詠唱、それによって招かれるのは当然『英霊』。

 

本来なら『とある儀式』完成のためだけの存在である霊体存在。さらにこれだけ『強力な触媒』を備えていれば現れる『英霊』の真名は語るまでもない。

 

 

泥が、閃光と共に吹き飛び、本来のお堂の姿を取り戻す中、召喚の衝撃で起こった魔力風と白煙の中に人影が佇む。

 

「……サーヴァント、『アヴェンジャー』。

召喚に応じ参上いたしました」

 

煙の中から現れたのは一人の『女性』だった。

上物の着物を纏い、長く艶やかな黒髪を風に揺らしながら立つ彼女。特段別嬪と言うほどではない、しかし間違いなく『美しい』。

物憂げな表情を作る童顔や、色白で折れてしまいそうな痩躯。

『儚く美しい華』を連想する矮躯は、人によっては心を奪われる独特の美しさを秘めている。

 

「…………ああ、アナタが“ますたぁ”ですね?」

 

数秒ほど涅槃台を見つめた彼女は、ふと我に返ったように答え弱々しい微笑を浮かべた。

可憐な少女、そう表現するのがもっとも適した容姿を持ちながら、生前におけるこの見た目の頃合いは現代の成人に相当する年齢であった。

 

「ますたぁ……ますたぁ?

ああ、そう。そうなのですね。

 

アナタが、『私をあの人に会わせてくれる人』」

 

思い出すように一人で呟き、彼女は笑った。

やはり弱々しい笑みだが、涅槃台はその瞳に『底の見えない闇』を確かに観ていた。

 

これこそが、彼が泥を使った結果。

本来ならば『英霊』にはならず、さりとて『怨霊』にもならず。

ただ静かに眠り、その魂は愛しき御方の側で安らぎを得ているはずの存在。

 

だが、『呪い』を受けて召喚された彼女は違う。

 

“そうあれかし”と人に願われた“偶像”こそが英霊の本懐なれば、彼女を形作る『霊基』が『復讐者』に固定されているのも当然であり、『あの泥』の性質を鑑みれば、今回の儀式でしか誕生し得ないイレギュラーであるのは明白。

 

だからこそ、涅槃台は実験第一段階の成功に笑みを深めた。

面前に佇む彼女は、霊体()()()()、肉持つ存在、すなわち()()()()にあるからだ。

 

「『泥』を受けた英霊は受肉する……確かに情報の通りでした」

 

『協力者』からの情報が正しかったこと確認した涅槃台は、『自らの右手の甲に刻まれた刺青』を撫でながら、アヴェンジャーへと語りかける。

 

「ええ、私が貴女のマスターです。そして、貴女を『かの御仁』に会わせるためこの場に馳せ参じた忠臣にございます」

 

息をするように嘘を吐く。

しかし狂気に苛まれた『姫』はその嘘に気づかない、否、眼中にない。

 

「まあ、それはご苦労様。でも私、『武士は嫌い』なの」

 

一瞬、花咲くように笑うも次の瞬間には濃密な殺気を叩きつけるアヴェンジャー。

が、涅槃台にとっては殺気など慣れたもの。

 

「ご安心を。私は殿下の望みを叶えるためだけに参った『陰陽師』、殿下の純粋かつ崇高な志しに感化され行動を起こした信奉者なれば。

御身を『(まつりごと)に利用したりはいたしませぬ』。

 

……だから、どうか。その御心の赴くままに、存分にお振舞いください」

 

臣下の礼を述べながら涅槃台は膝をつき首を垂れた。

 

「そう……そう、そう、そう!!

うふふふふふ……よい心がけです。“さあばんと”なるものがどういうものかは理解していますが、私を利用しようなんて、到底許せる不敬ではないですから。

 

ええ、ええ!

好きにしていい、と言うなら。その通りにさせてもらうわ」

 

段々と笑みを深めた彼女は、不意に両手を天に掲げる。

直後、彼女の足元から『禍々しい闇色』が天に向かって立ち昇る。

泥を受けて成立したアヴェンジャー『■■』が持つ膨大な憎悪の『魔力』である。

 

唯一の望みたる『彼との再会』を果たせるとあって、彼女は歓喜に震える。それに呼応して溢れる魔力も増大する。

 

“悪意に応じて力を増す泥”。

ソレによって形造られた彼女の内面は、もはや原型を留めていない。

 

ただひたすらに『最愛の人を想った姫』はここにはいない。

 

あるのは、ひたすらに再会を望む心と、『自分を利用し、人生をめちゃくちゃにした余人への憎悪』だけである。

 

 

 

 

 

「ああ……!! 待っていてくださいまし。

私は必ずや御身のもとへ参ります!

 

たとえ、『父』や『悪鬼』が妨げようとも。『世界が拒絶』しようとも、それら総てを『殺し尽くし』必ず貴方に会いに行きます!!

 

 

ああ、我が愛しき『義高さま』!!」

 

 

 

 




「最近、ちょっと長くね?」と思ったので四千文字弱です。

あと、魔法陣描いてないですが、泥がその役割を担ったってことで一つ…
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