英傑召喚師   作:蒼天伍号

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次でとりあえず鎌倉とはさよならします。
……くそ、現地に行ければ、行きさえすればもっと濃厚な描写をお届けできたというのに(できるとは言っていない


奥山の神

ーー忠義を失ったことはありませぬ。

 

 

たとえ拒絶されようと、忌み嫌われようと。果てには私を滅ぼすための軍勢を差し向けられようとも。

 

私は一心に『兄上()』をお慕い申し上げておりました。

 

 

 

……ですが、それを告げると皆一様に「はて?」と首を傾げてしまわれる。

誰かのために尽くすのは良いことだと僧たちは言っていました。自分以外のために命を賭けるのは尊いことだと、多くの伝承は教えてくれました。

 

でも、いざ実践してみると、皆は“理解の及ばぬモノを見る目”で私を見つめる。

 

「己の身が可愛くないのか?」と問うてきます。

「自分を大切にしろ」と説法を聞かせてきます。

 

「ああ……貴女は(それ)を誰にも教えてもらえなかったのですね」と、私を哀れみます。

 

 

なぜ、皆分かってくれないのだろう?

なぜ、信じてくれないのだろう?

 

理解できないのは私の方だ。

誰かのために生きろ、と言いつつその体現者を畏れる矛盾。

やはり私には、人の気持ちというものが分かりません。

 

……でも、他ならぬ『兄上』が“おかしい”と言うのなら、やはりおかしいのは私の方なのだろう。

 

 

だから兄上。

私がついぞ理解することのなかった■というものを、どうか教えてください。

 

もう一度、貴方に会って、また昔のように仲良くしたいのです。

 

 

私の願いは、ただ、それだけなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『常ならざる空模様』の下をウシワカは縦横無尽に駆ける。

 

異界と化し、模造品と成り下がった『家々』を足場としながら執拗に追尾してくる『黒』を躱し続ける。

 

四方八方から迫る『黒』を紙一重で避けて、なんとか反撃の糸口を探す。

 

「アは、アはハハハははハ!!!!」

 

蛸の足のように唸り、宙を蠢く『黒』の根元では、“狂ってしまわれた姫君”が狂笑をあげている。

 

なにより慕う『兄上』の御子ではあるが、今の主に仇なす以上は『敵』以外の何者でもないと思っていたウシワカだったが。

戦闘の最中になんとなく思い返していた『記憶』を改めて意識することで、ようやく彼女の『嘆き』にも理解が及んだ。

 

「……同じなのですね、姫さまも」

 

ーー彼女は私と同じだ。

 

ただ一人、なによりも大切な人を思い、慕うだけのーー

 

 

ふと、考えてみた。

例えば、もしも、私よりも先に『兄上』が死んでしまわれていたら。

果たして自分はどうしていただろうか、と。

 

もちろん、歴史はそうはならずに自らの死後に兄上が見事悲願を果たされてからの死去であったのは“記録”で知っている。

色々と悔いや未練はあったろうが、それでも、大凡の宿願を果たされた後の死であったと思っている。

 

 

なら、もしも(if)の世界で。逆の展開になったなら。

自分はどうなっていたのだろう?

 

 

「ーー分かりませぬな」

 

思い巡らせようとして、すぐに首を振った。

戦場で“もしも”なんて考えは起こすべきではない。

 

それに、結局のところ、起こらなかった『もしも(if)』のことなんて分からないのだから。

 

今の私は『主殿の矛』。それ以上でもそれ以下でもない。

かつてを生きた牛若丸……義経は()()()()()()()()のだから。

なんの因果か、再び 現世(うつしよ)に舞い戻ったこの身は主のモノ。

今はただ、ひたすらに主の障害となるモノを排除するだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マハーマユリ、破魔の雷光!!」

 

「承知しました」

 

群れとなって襲いくる『サマナーゾンビ』を巧みな刀捌き・銃捌きで蹴散らしながらレイランは指示を出す。

 

仲魔たるかの魔神も主の意を即座に汲み取り、『魔法』を発動させる。

 

「死して蠢く悪鬼どもよ、滅せよ!!」

 

強い口調ながら“慈愛に満ちた顔”で宣言する魔神。直後、周囲で暴れていたサマナーゾンビたちへと“閃光のような落雷”が降ってきた。

 

眩い光を撒き散らすソレに飲み込まれたゾンビは、一瞬にして掻き消え、その身を『浄化』される。

孔雀明王として高い位にあるマハーマユリだからこそ扱える『権能』。即ち、一切強制成仏の法。

 

『世界の法則』にも匹敵するこの魔法に対抗するには、破魔属性への強い抵抗力が必要となる。それも、“神にさえ抗うほど”の耐性だ。

 

それを持たぬ輩は、このようにして瞬きの間に消え去る運命にあった。

 

 

 

マハーマユリによる破魔系魔法の連打によってゾンビの数はみるみるうちに減っていた。

加えて、オルトロスが撒き散らす『マハラギオン級』の火炎放射。葛葉末席を汚すレイランの奮戦によってゾンビはすでに半数以上が討ち取られている。

 

 

ーーだが、優勢の中でレイランは“言い表せぬ違和感”を感じていた。

 

確かに、サマナーゾンビたちが生前の能力値を保持していようと意思なき傀儡である以上は相手にならないのは知っていた。

相手の『女』がそこまで読みきれなかった、と考えるのが自然な流れだろうとも思う。

 

でも、当初から感じる“違和感”はそれとは別の要因にある。

つまり、あの『女』自体から発せられている“嘘の気配”。

 

「っ!!」

 

ふと、なにかを直感したレイランは、押し寄せるゾンビには目もくれずに一目散に『女』へと駆けた。

 

必死に行く手を阻まんとするゾンビを瞬殺しながら一直線に駆け、やがて奴の胴体へと鋭い斬撃を放った。

 

「っ!!!! やっぱり!」

 

すると、どうしたことか。

“手応えがまるで無い”どころか、何の抵抗もなくあっさりと両断された『女』が、黒いローブだけを残して溶けるように消えてしまった。

 

呆気ない、とかそういう次元じゃ無い。

これは明らかな“偽物”である。

 

ーーつまり、こちらに現れていた反応は陽動。

 

「っ、オルトロス! 地蔵堂に向かうわよ!!」

 

「ナッ!? コイツラハ、ドウスル?!」

 

慌てるオルトロスの言う通り、周囲にはまだ何体かのサマナーゾンビが残っている。

それも、“生前は部隊の中でも特に腕利きだった奴ら”が。

 

「マハーマユリ、コイツらを任せていい?」

 

「無論です、主よ。彼らを『成仏』させ次第、後を追わせてもらいます」

 

視線すら向けず、交戦しながら応える魔神。

レイランは一度頷いてからすぐにその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその頃、地蔵堂周辺に発生した『異界』の()には、一人の『女性』の姿があった。

 

「ふふ、『葛葉』の巫女と言っても他愛ない()だったわねぇ」

 

その姿こそは、レイランたちが出会った黒いローブの女そのもの。

具体的には、“こちらが本体”に相当する。

 

つまりは、C()O()M()P()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の力を有した女悪魔ということ。

 

まんまとサマナーたちを欺いた女悪魔は、その手に大事そうに抱える『光球』を愛おしげに撫でた。

 

「あぁ、そんなに怯えないでぇ……『貴方の魂』は私たちにとっても大事なモノ。それに、貴方が恋焦がれている『()』に会わせてあげようって言うのよぉ?

もっと、感謝して欲しいわねぇ」

 

『っ!!!!』

 

女悪魔の言葉に応じて、光球は激しく()()()

なにせ、この光球こそがこの女悪魔のお目当てのモノ。

つまり、あの丘にあった『小さな墓標』に眠っていた『少年の魂』そのものなのだから。

 

 

「決して貴方を傷つけたりしないわ。だって、貴方は“あの実験体を操るための大事な道具”なんですもの」

 

『っ!!』

 

嘲笑うかのような女悪魔の囁きに、今度は抗議するように()()する光球。

だがしかし、この姿の『少年』には抵抗する力すら無い。

 

人々の記憶から薄れつつある『彼』は、本来ならこうして『魂を現世に持ち出す』ことすら難しい。ただ静かに、死後の世界にて『愛しき少女』と眠るだけの存在なのだ。

 

だが、何を隠そうこの女悪魔こそは『古き神』の一柱に名を連ねている。それもかの一神教よりも古い時代に成立した『悪しき魔王』に数えられる中東の大物なのだから。

消えかけの魂を持ち出すくらい造作も無い。

 

 

 

「……ああ、でも。思ったよりも『奥山』は“手こずる”みたいねぇ」

 

ふと、『異界』の方へと顔を向けた女悪魔は、やがて、光球を抱えながらそちらへと歩み始めた。

 

ぴちゃぴちゃ、と歩を進めるたびに鳴り響く“水音”。

靴底が地面に触れるたびに飛び散る“赤黒い液体”。

 

ーー女悪魔が進む道には、地蔵堂へと援護に向かったサマナーたちの無残な死体が転がる。

四肢は千切れ、頭蓋は砕かれ、脳髄・臓腑は当たり前のように撒き散らされている。もはや、()()すら不可能なほどのスプラッタ。

それらに群がるようにして、無数の『蠅』が周囲を飛び交っているというさながら地獄絵図のような光景がそこにはあった。

 

ーー無論のこと、異界の外である以上ここは紛れもない『現実世界』である。当然、そこを偶然通りかかる一般人もいるわけで。

 

彼らも、このスプラッタの仲間入りを果たす運命にあるのは説明の必要もないほどに明白な事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤコウとは、主に阿波国に伝わる妖怪だ。

『忌み日』や特定の日の夜に現れるとされ、遭遇した者は殺されてしまうとされる。

これを避けるには草履を頭に乗せて平伏するべし、とはいうが。まさか戦闘中にそんなことをして見逃してくれるはずもないし寧ろこちらとしても逃がすつもりはない。

 

一説には『神事』を穢す者への神罰の化身とも言われており、それを反映するが如く『破魔・呪殺』の類は無効化されてしまう。

 

噂では『衝撃・念動』に弱いと聞くが、そもそもの戦闘履歴が協会でも乏しく信憑性は低い。

 

出現理由にちゃんとした法則があるために、それを侵しさえしなければ戦う理由もないので前提として遭遇することがないのだ。

 

 

まあ、これまで通り、退魔性能の高い『赤口葛葉(偽)』でゴリ押しするのが最も有効な手立てだろう。

 

 

 

 

「そらっ!」

 

『っ!!』

 

袈裟斬り一閃、体毛の無い正面の胴体部分を斬り付けられ赤黒い液体を溢すヤコウ。

馬上でありながらバランスを崩すことなくすぐに態勢を立て直す技量には素直に感服するが、さすがに単体で俺たちに敵うはずもなし。

 

追撃として放たれたイヌガミのアギラオ級魔法の群れ。

何発か馬を操り避けたヤコウだが、深々と刻まれた袈裟斬りの傷に呻いた一瞬の隙に無数の炎に包まれた。

 

『グオォォォ!!』

 

業火に焼かれながら暴れるヤコウへととどめの一撃を放つ。

腰を据えて溜めた横薙ぎの一閃。

 

真っ二つとなったヤコウは、ゴウゴウと燃え盛りながらやがてピクリとも動かなくなった。

 

 

 

チン、と納刀の音を立てて仲魔の方へと振り向く。

 

「これで取り巻きは片付けた。後は、拘束の外れた涅槃台を仕留めるだけだが……」

 

ちらり、と視線を向ければちょうど奴も拘束を外したところだったらしくゆっくりと立ち上がる姿を視認する。

 

「やってくれましたね。いやはや、彼らを集めるのも結構大変だったんですよ? ついでに『泥』による調整もするとなると……はぁ、大きな痛手と言わざるを得ませんね」

 

やれやれ、と首を振りながら錫杖を構える。

 

「その割には随分と悠長に『緊縛』を解いたものだな」

 

「貴方が『菊理姫』の祝詞なんか混ぜるからでしょう……まあ、いいです。幸いにも彼らは全て『量産型』、また現地で捕まえてこればいいだけの話ですからね」

 

そんな携帯獣みたいなノリで……

 

「オサキ、引き続き『幻術』の用意だ。ついでに呪術系の『属性魔法』の準備も怠るな。……こっちも全力でやらないと奴には勝てそうにないからな」

 

「わかっとるわ……お主が命じれば、『変生』するのも吝かではない」

 

「それは……使わなくていい。たぶん、今の俺では制御できない」

 

「はっ! 結局、腑抜けは治っとらんかったか。まあ、良い。他にも策は用意してあるのじゃろう?」

 

無論だ。

切り札として使えそうな札は今のところ『三枚』。

いずれも奴の虚を突けば倒せないこともない強力な術を込めてある。

 

「また出し惜しみですか? ……いい加減、その策士気取りも目障りになってきましたし。こちらも全霊でお相手いたしましょう」

 

言って、徐に構えを解く涅槃台。

一体何をする気かと身構えたのも一瞬。

 

奴を囲むようにして『黒い泥』が辺りに溢れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

ーー凝縮され、凝固した悪意の塊。不純物を取り除いた純粋悪、『悪という概念の頂点にあるモノ』。

目の前に迫る『泥』に、俺はそのような感想を抱いた。

 

「っ!!」

 

直後、我に返り即座にその場から飛び退き『泥』の奔流を避ける。

ふと、仲魔たちの安否を心配して辺りを見回すと。

どうやら全員なんとか泥の波を躱すことは出来ていた。

 

しかし、圧倒的“質量”で迫る泥は、あろうことか“意思を持つかのように蠢いている”。

 

「……いや、これも奴の意思によるものか!」

 

つまり、今も奴の周囲をザワザワとのたうち回る膨大な量の『泥』全てが涅槃台の制御下にある“武器”……もとい、“兵器”であるということか。

 

それはそれで厄介だが、なによりも危機感を覚えるのは『泥』自体の性質。

一目見た時からわかっていたが、アレは『特上の呪い』だ。

まず間違いなく『最上級呪殺魔法(マハムドオン)』を上回る出力の呪い。食らえばひとたまりもないというか、余裕で死ねる。

希望は“アレ”がちゃんと効いてくれることだが。

 

「リスクの高い賭けはするべきじゃない。確実に、堅実に攻めねば」

 

明らかに“葛葉の管轄”だが、どうあれ立ち向かわねば俺らに未来はない。

今更だが、なんとも厄介な奴に目をつけられたものだと思う。

 

 

ともあれ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

俺は思考を切り替えて、純粋に、“奴への対処法を模索する”。

 

「イヌガミ、オサキは下がって後方からの魔法援護に徹しろ」

 

どうあってもこの二体ではアレは相手取れない。なのでいっそのことCOMPに戻しておきたいが本人たちが納得しないだろうと考え、後方支援を指示する。

 

素直に頷いた二体を尻目に、いざ涅槃台に立ち向かおうとして……身に纏うクダから呻き声が発せられたのに気付いた。

 

「……クダ? 大丈夫か?」

 

『ム……ゥゥ……ヤハリ、()調()()()()()()ノハ無理ガアッタラシイ。コレデハ、保ッテ“数分”ト言ッタトコロカ』

 

念話として響いてくる苦しそうな報告に、歯噛みした。

……本来、飯綱法の“纏”は管狐と術者が高度な“シンクロ状態”にあって初めて扱うことのできる高等妖術である。

それを今回、“クダが俺に無理矢理合わせる形で”行使してくれていた。

 

例えるなら、“自分を認識してもいない相手の心技体全てに合わせる”ような無茶だ。

 

そのため、術の負担は全てクダが背負ってくれていた。

 

それがここに来て限界に達したということだろう。

 

 

「分かった。なら、纏は解除しよう」

 

『シ、シカシ! ソレデハ汝ハーー!』

 

俺の身を案じてくれているのか、焦った様子のクダに苦笑を返す。

 

「問題ない。お前が身体張ってくれたおかげで、ここぞという時に切り札が切れる。だから今は安心して休め」

 

そう言って一方的に術を解除した俺は、必死に何事か訴えるクダを強制的にCOMPに戻した。

 

と、そんな悠長にしていたせいか。

いつの間にか周囲を取り囲むようにして蠢いていた『泥』たちが一斉に俺へと襲いかかってきた。

 

「っ!!」

 

クダによる強化を外れた俺の反応速度を遥かに超えた攻撃。

俺はなす術なく泥に呑み込まれ……たかに見えただろう。

 

しかし、直後に眩い閃光と共に弾け飛ぶ泥たち。

一時的に周囲から泥が消え去ったことで俺はすぐにその場から離脱する。

 

「なんと!?」

 

これには流石の涅槃台も驚きの声を上げていた。

が、まあ、タネは簡単で、俺がここに来る前に掛けていた『テトラジャ』が発動しただけの話だ。

 

あらゆる即死魔法を一度だけ完全に無効化するという破格の性能持つこの魔法は、掛けた手間、つまりは『代価』に応じて強力になる典型的な魔法の中でも“特に基礎能力値が高い”魔法である。

なので、行き掛けに咄嗟に掛けた程度の術でもこうして高い性能を発揮してくれるわけだ。

ただし、効果は一度だけなので、追撃を受けないようにすぐにその場から離れる必要もあるが。

 

 

ともあれ、折角生じた“隙”を見逃すわけにはいかない、と俺は腰のホルスター……ではなく。コートの内ポケットに潜ませていた『C96』を取り出し構えた。

 

銃把(グリップ)に刻まれた赤く大きな『9』の文字の通り、九ミリ弾仕様の通称『レッド9』と呼ばれるタイプだ。

 

装填されているのはもちろん九ミリ弾、しかし例によって『特殊な対魔加工』が施されている。

 

「……」

 

空中という不安定な場でありながら両手を添えてしっかりと狙いをつけた俺は即座に発砲。

放たれた弾丸は“高貴な輝き”を発しながら涅槃台に迫る。

 

そしてーー

 

「ぐっ!?」

 

咄嗟に泥を操作して作られた防御壁を“ブチ破り”奴の胸へと直撃した弾丸は一際大きな輝きの後で、その場に大きな『光の柱』を生み出した。

 

その光景はデビルサマナーであれば一度は見た覚えがあるはずの『破魔系魔法の発動演出』に酷似する。

 

つまり、あの弾に込められた術こそ『破魔系魔法』ということ。

 

それも、『上級破魔系魔法(マハンマオン)』に相当する強力な強制成仏魔法である。

 

……これを用意するために俺は、恥を偲んでメシアンの知り合いに頭を下げて大枚叩いて作ってもらった。

だから、効いてくれないとこちらとしても困る。

とはいえ、だいぶ昔の話だが。

 

まあ、あの様子からしてしっかりと効果は発揮してくれているらしい。

今も、光柱にすっぽりと包まれながら絶叫しもがき苦しむ涅槃台。

ははは、もっと苦しめ!

そしてさっさと死んでくれ。

 

応じて、周囲の泥も光に触れた端からサラサラと砂のように崩壊して消えていく。

呆気ないが、これで終わってくれるならそれに越したことはない。

 

ようやく奴との戦いも終わるかと思うと無意識に気が抜けてしまった。

 

 

ーーそれが、俺にとって致命的な隙となる。

 

 

 

 

 

 

「主よ!!」

 

突然背後から聞こえてきたオサキの声。やけに焦ったような声に咄嗟に顔を向けて、ようやく自身の窮地を認識する。

 

左右からひっそりと忍び寄っていた泥の触手が、今にも俺に襲い掛かろうとしていたのだ。

そこに、自身の身体を割り込ませるようにして飛び込んでくるオサキ。

 

「お前っ!?」

 

声をかけたときには、オサキによって俺の身体は突き飛ばされていた。幼い見た目からは想像もつかない怪力で数十mは吹っ飛ばされる。

 

そして、地面に落下したところで即座に態勢を立て直し視線を戻した。

 

「っ、オサキ!!」

 

そこには、夥しい量の泥に包まれながら弱々しい笑みを向けるオサキ。

 

「馬鹿者が……どこまで腑抜けとるんじゃお主……」

 

その身は既に八割ほどが泥に包まれ、よく見れば頬を這うようにして『黒い糸』が伸びてきていた。

その光景に、俺はしばし言葉を失う。

 

ーーいや待て。どうすればいいかを考えろ。

 

この状況、状態でオサキを救う手段を。

 

破魔系魔法……はダメだ。オサキまで巻き込んでしまう。ならば治癒魔法か? それも俺には無理だ。生憎と治癒系は初歩の初歩しか会得していない。

となると、霊薬に頼ることになるが。

 

今回は運悪く『ダメージ回復』に効くものしか持ってきていない。先日の『吸血鬼』の一件を反省してのことだったが、裏目に出た。

いや、毒治療や麻痺治療なら当然持っているが“アレ”はそういう類のものではない。

呪詛に対抗する術が必要だ。

しかし、魔法・霊薬含めて俺の手持ちに有効なものはない。

 

ーーとなれば、残るは一つだけだ。

 

即ち、『奥山に生まれた俺が持つ異能』。

 

 

 

 

 

「っ!」

 

今の俺に“出来る”かはわからない。

反動で死んでしまう可能性の方が高いだろう。

 

だが、今は()()()()()を論じている場合ではない。

 

なにより大切な“家族”が危機に瀕しているのだ。ここで命を賭けずしてなんとする。

 

自らを奮い立たせた俺は、“腹”に手を当てて『詠唱』を始めた。

 

「“火の神の骸が成したる『奥山の神』よ、恐み恐みも申す”」

 

唱え始めると共に腹部に“焼けつくような熱さ”が生じる。

 

「“十握剣に切り離されし五体より生じたる山の神。火の齎したる山の神。恐れ多くも山奥(さんおう)の神秘を司りし御魂に請い願う”」

 

『奥山』の奉る神の祝詞を基にした『詠唱』は、不遜なる術者の肉体に代価を求める。

即ち、“供物”。

 

ーー本来なら人身御供を求める神ではないが、礼を失した輩に寛大に振る舞うほど日本の神は優しくない。

寧ろ、不届き者を『呪い』『憑き殺す』のが本分だ。

 

この詠唱は、日本の神にある和魂と荒御魂のうち、荒御魂を通じて『別の強力な神の権能』を持ってくるという大変危険な術である。

当たり前だ、ある神へと祝詞を捧げながら別の神の力を持ってこいと命令しているのだから怒って当然である。

 

しかし、『奥山』に生まれた俺はこの無茶苦茶な術を成立させる『素質』を有している。

いや、()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「“今一度、『神殺し』の御魂が封を解き、我が『腹』にその力を変生成さしめ給え”」

 

詠唱を終えるとともに、腹に溜まっていた熱気が一気に膨れ上がる。常人ならば『焼失』してしまうほどの熱は、俺の腹を()()()()ことで解放される。

 

「ぁぐっ!!」

 

炭化した肉片が飛び散り、ポッカリと空いた俺の腹から一本の剣が抜け出てくる。

 

赤熱した刀身に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

直立しながらふわふわと宙に浮かぶその剣、その柄をしっかりと握りしめ、構え、そしてオサキに向けて振るった。

 

「どぁ!?」

 

瞬間、豪炎を撒き散らしながら泥を()()()()

たった一振りでオサキを蝕んでいた泥は綺麗さっぱりと消え去っていた。

“俺の一部”であるこの剣だったからこそ出来た“焼き分け”だ。

 

「あっつ!! お、お主……ワシごと燃やす気ではなかったか?」

 

助けてやったというのにジト目で抗議してくるオサキ。

まあ、それだけ元気があるなら泥はちゃんと払えたということだろうと安心した。

 

「……いや、今はその腹の穴の治癒が先かーー」

 

俺の腹に空いた穴を見て、少し不安そうな顔をして両手を掲げたオサキを手で制す。

 

「それは後でいい。というか、コレは“今は治せない”」

 

「は?」

 

きょとんとした顔で首を傾げるオサキを横目に、俺は涅槃台へと向き直る。

……正直、結構“痛い”ので無駄話をしている余裕がないのだ。

 

これが“呪術的なダメージ”である以上は、穴から臓物が溢れ出して死ぬなんてことは無いが。

それでも、“臓物をくり抜かれたような痛み”が絶えず続いている状況というのは、流石の俺でも絶え難いのが本音。

 

 

視線を向ければ、ちょうど『マハンマオン』から解放された涅槃台が肩を揺らしながら荒い息でこちらを睨んでいた。

 

「……ははっ、なにやら特大の隠し球があるだろうとは予測していましたが。

これは、些か、想定以上と言わざるを得まい。

 

まさか、()()()()()()を持ってくるとは」

 

俺の持つ剣を凝視しながらその正体を看破する。

まあ、この見た目は“業界でも有名”だからな。

 

どうあれ、この剣は正真正銘、俺の『最強の切り札』だ。

まさか、涅槃台ごときに使う羽目になるとは思わなかったが、奴の扱う『泥』がコイツに相応しい『格』を持つのはもはや明白である。

 

ならば、コイツも文句は言うまい。

 

 

俺は()()を構えながら精神を集中させる。

他の一切を今は考えない、考える必要がない。

不要と判断した思考を切り捨てて一点のみを注視。

 

ただ一人、涅槃台のみを屠るための思考回路だけを成立させた俺は『半身』を構えて駆け出した。

 

「行くぞ……()()()()()()

 

 

 

 




甲種とか乙型とか。
かっこいいですよね。
十干添えるだけで超カッコよく見える不思議。

最強剣の詳細は次回やります。
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