英傑召喚師   作:蒼天伍号

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歪み・三

ーーああ、私は歪んでいたのだな。

 

今際の際、最後の最期になって気付いた。

 

私が示してきた“モノ”は■■では無かったのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒデオの自宅に英傑ヨシツネが強襲をかける前日。

件の廃寺にて、“涅槃台”は一人、黒泥の操作に注力していた。

 

「“同時召喚”とは……いったいどんな偶然が積み重なれば起きるハプニングなのか。

これも召喚者の『幸運』に因るのかもしれないな」

 

グネグネと黒い泥をコネ合わせ、ユラユラと空間内を漂わせながら彼は嘆息した。

 

『解析』の進んだ今、もはや魔法陣など必要なく。“漂う怨念を形作る”だけならば召喚のための詠唱すら必要とせず。

ただ、『受肉』のためだけにコレを操作する。

 

そのためには、やはり過去のデータを洗って『英傑ヨシツネ』の情報を正確に再現するほかにない。

ゆえに彼は数日かけて、過去に『葛葉』によって召喚されたヨシツネの情報をかき集め、その構成情報を泥にインプットした。

 

あとは、“この廃寺に廃棄されている残留思念を呼び込むだけ”。

 

 

 

「“来れ来れ、怨讐に支配されし思念よ。

(まが)れ、歪れ、獣に堕ちし魂よ。

 

もはや理性は無く、善性など貴様には似合わない。

 

憎悪のままに、己が欲望のままに。

生あるモノ全てを破壊せよ”」

 

思念を呼び込み、同時に泥を活性化させる『祝詞』を捧げて、ほくそ笑む。

 

その視界には、ゆっくりとモヤのような姿で現れ出でる“残留思念”がしっかりと捉えられていた。

 

『口惜しや……口惜しや』

 

知性が感じられない声で、譫言のようにソレを繰り返す霊的情報体(ゴースト)

形と言えるほどはっきりとした姿はなく、漠然と“そこにあるモノ”として『彼女』は漂っていた。

 

当然だ。

ウシワカ召喚に伴い、本体から『不要』と断じられ廃棄された『欠片』に過ぎないのだから。自我と呼べる性質を持たないのも無理はない。

 

 

だが。

 

それ故に、涅槃台はこの『器』を用意した。

 

「その無念、推し量ることも叶いませんが。せめてその一助となりますよう、こうして『依代』をご用意させていただきました。

さあ、どうか中へ。

 

その時こそ、貴方は“新しいヨシツネ”として、新しい悪魔として新生することでしょう」

 

優しく諭すような声で涅槃台は誘う。

知性なき思念体では、その内側に秘められた“ドス黒い本性”を見抜くこと敵わず。

誘われるままに、グツグツと煮え滾る黒泥の内へと浸透していく。

 

憎悪だけで構成された思念が、黒泥塊内部にある“核”へと触れた瞬間。黒く禍々しい『光』が部屋を満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー。

 

ーーああ、兄上。

 

何故、私を憎むのですか?

ーー私はただ、貴方と共に在りたいだけだったのに。

 

何故、私を疎むのですか?

ーーこの刃は、才覚は全て貴方のみに捧げてきたのに。

 

■■? (■■)ですか?

私には、それが欠けていると申すか。

この身、この人生を捧げて尽くし。他の全てを切り捨ててお仕えしてもまだ。足りないと?

私は、傍に置くに値しないと仰るのか?

 

 

ああ、それは、なんてーー

 

 

ーーなんて、理不尽な話だろう。

 

 

 

 

 

 

『黒い光』が治まった頃、黒泥があった場所には一体の悪魔が立っていた。

 

「サーヴァント……いや? 英傑?

 

英傑、ヨシツネか」

 

確かめるように独り言を呟きながら佇むのは“鎧甲冑を纏った武士”。

葛葉の記録に残る英傑ヨシツネが纏った“緋色の甲冑”を着た、正真正銘の『英傑ヨシツネ』であった。

 

「こうも容易く現界させられるとは。やはり何より大切なのはタイミングですね。

 

……っと、失礼。“義経様”、よくぞ現世へと舞い戻られた。その身、その心に溜まった憎悪は察するに余りある。

ですのでーー」

 

そこまで言いかけて、“違和感”に気付いた。

正確には、“記録のヨシツネと違う”ことに気付いた。

 

いや、悪魔として新生させたのだから多少の誤差は想定していた。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……まあ、『本体』があのザマなわけですし。こうなることも十分に在り得たわけですが。

それにしても、依代の情報を無視して“女性体”に組み替えるとは。いやはや思ったよりも“強い感情”を有していたようですね、残留思念の分際で」

 

鎧甲冑に身を包んでいる以上は一見して男女の区別をつけることは難しいほどにこのヨシツネは整った顔立ちをしていた。

しかし、数多の『ヒト』を喰い殺してきた涅槃台にとっては“匂い”で判別することなど容易であった。

そのため、このヨシツネから漂う濃厚な“雌の香り”を瞬時に嗅ぎ取ったのだ。

 

想定外の出来事に、しかし冷静に迅速に、脳内で計画を組み直す涅槃台へとヨシツネは語りかけた。

 

「貴様が、私を召喚したサマナーか?」

 

ウシワカと比べ、若干大人びた声音。また、“粗野で重厚な低音”。

 

「ん? ああ、そうですとも。私は涅槃台 永楽慈。

しがない“破戒僧”ではありますが、貴方様の“怨讐”の手助け、一助にでもなればとこうして馳せ参じたーー」

 

「そうか、では死ね」

 

ーー瞬間、涅槃台の視界が“反転”した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん……」

 

刀を振るい、刃に付いた血を払う。

 

眼前には、頭部を失いゆらゆらと揺れる哀れな男の胴体がある。

ーーそして、その胴体が未だに()()()()()()()()()()()ことにも気付いていた。

 

ゆえに、再度振るわれる名刀。その斬撃を受けた胴体は縦に割れて中から()()()()()()()()()()を吐き出した。

 

ビチャビチャ、とヨシツネの衣に飛び散るソレを意に介することもなく。ヨシツネは再び刀を振るい液体を払った。

 

今度こそ完全に“死に絶えた”男を見てから、今度は自らの掌に視線を移した。

 

「よく馴染む……馴染むが、些か妙だな」

 

生前において纏っていた甲冑と“微妙に異なる甲冑”。

そして、目元に走る刀傷。

これらは身に覚えのないものだった。

 

ーーこれらが、涅槃台がヨシツネのために用意した“葛葉の召喚したヨシツネのデータ”からサルベージされた要素であることは彼女の知るところではなかった。

 

「ああ、しかし。この魂の“記録”には不愉快なモノが含まれているな」

 

肉体を得て、ようやく鮮明に思い出した記憶。そこには、本体によって切り捨てられた自らの“本質”があった。

即ち、自分のことである。

 

 

 

 

 

 

ーーウシワカ召喚に伴って起きた、偶然による『同時召喚』というイレギュラー。これによって、ヨシツネ=ウシワカはどちらに召喚されるべきか“選ばねばならなかった”。

 

片や、大した信念もなく、しかし比較的“善良”なサマナー。

 

片や、“怨みを晴らすためにヨシツネを求めたダークサマナー”。

 

そのどちらに与するかは、本来のヨシツネであれば考えるまでもなかった。

即ち、善性の高い方である。

 

しかし、同時召喚というイレギュラーは片方だけへの召喚を困難にする要素を含んでいた。

つまり、両方に引っ張られてしまったのである。

 

この時、ヨシツネは「なるほど、ならば我が欠片のごとき憎悪をくれてやる」と、自らの内側にある『僅かな憎悪』を切り離しダークサマナーの方へと投げ捨てた。だが、この際に思うように分離できずに、重要な戦闘スキルの大半をヨシツネ側に奪われたことで弱体化。

同時に記憶の一部も奪われ牛若丸という半端な悪魔として呼ばれることになってしまった。

 

こうして、ヨシツネ改めウシワカとしてヒデオの元に現界した彼女は、これらの経緯をすっかり忘れて英傑ライフを満喫することになった。

 

 

 

一方で、ダークサマナーの元へと送られた憎悪の塊は、その強すぎる“殺戮衝動”によって召喚者を殺害。憎悪の念を浴びたことで召喚者の亡骸もゾンビ化し、以前の異界化騒ぎを起こすことになったのだ。

 

その後は、ずっと知性のない殺戮衝動の塊、憎悪の塊として廃寺内を漠然と漂うだけの存在となっていた。

 

 

 

そのことを、こうして涅槃台によって召喚される今の今まで正しく理解できていなかったことをヨシツネは悔いた。

 

「無様だな、あのような“外道”にお膳立てしてもらわねば思考すらままならないとは」

 

しかし、過ぎたことを考えても仕方ないとすぐに立ち直る。

結局のところ、このヨシツネも根元はウシワカと同じなのだ。

 

心機一転、現界を果たした自らがまず最初に行うべきは何なのかを考える。

 

「迷うこともないな……あの“未熟者”を誅殺する」

 

思案するまでもなかった、憎悪に染まったこの“ヨシツネ・オルタ”にとって、ウシワカとして半端な現界を果たした本体は到底看過できない存在であったのだ。

 

「……兄上と仲直り、などと」

 

ーー悪い冗談だ。

 

“アイツ”は私を妬み、疎んじて殺したのだ。

私の献身を無碍にし、私の忠義を疑って。

 

到底、許せることではない。

 

その軍門に降った源氏も同罪だ。

私から受けた恩も忘れ、悪辣な裏切りを行ったアイツらは全てこの手で誅殺せねば、腹の虫が治らぬ。

 

ーーああ、それどころか。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

切り捨てることでしか成立しない世界、排斥することでしか前に進めない人類。消費することでしか発展し得ない文明など。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のわぁっ!?」

 

圧倒的な膂力から放たれた斬撃を防ぎきれず、胴体を無防備に晒しながら吹き飛ばされる。

そこへすかさず迫る脇差による刺突。当然、避けられるはずもなくーー

 

「主殿っ!」

 

「ちぃ!」

 

間一髪で割って入ったウシワカによって凶刃が弾かれる。

このようなやり取りをすでに数回繰り返していた。

情けなくも仲魔に介護されている自らの弱さに腹が立ってくる。

 

「すまないウシワカ……」

 

「でしたら主殿、どうかお退がりください。この……“醜悪なる悪魔”は私が討ち取りますゆえ」

 

そう言って、果敢にヨシツネへと挑みかかるウシワカ。

そこで繰り返される神速の剣戟はとても俺が入り込める余地がない。

 

「ハハッ、弱い弱い。もとより弱いくせに足手纏いまで庇おうとは。……なんだ貴様、単純な“計算”もできないほど退行しているのか?」

 

「黙れっ!!」

 

怒声と共に振るわれた斬撃を、ゆらりとその身をくねらせることで躱すヨシツネ。お返しにと振るわれた斬撃を、しかしウシワカの方は受け止めきれなかった。

 

「ぐぁっ!?」

 

「未熟未熟ッ! 鞍馬山での修行時代にも劣る性能だなぁ、ウシワカとやら!」

 

体勢を崩したウシワカへと追撃が加えられる。

逆手の脇差と打刀による変則的な二刀流、そのような戦闘スタイルは未だ見た事がなく、これもヨシツネが“天才”ゆえに成立するオンリーワンな戦法だった。

 

それら奇妙な斬撃の嵐に対し、ウシワカも生来の天才性によって発揮される“戦術眼”でなんとか対抗する。

襲いくる斬撃の一つ一つ、そこにある針の穴ほどの“隙”を見出し、受け流すことでなんとか凌いでいた。

 

それでも、地力の差なのかジワジワと全身に傷を増やしているのは確か。このままではジリ貧だ。

 

 

 

 

そこへ、クダが放った“青い炎”が飛来する。

 

「ふん……!」

 

だが、それらは刀の一振りでかき消される。そんなのはクダも承知の上だ。

それでも、一瞬とはいえ意識が逸れた隙を突いてウシワカが離脱するきっかけになった。

 

「小癪なーー」

 

イラつくヨシツネへと、今度はイヌガミが放ったアギ系魔法が飛んでくる。

カテゴリとしては『アギラオ』に相当する火球が複数、連続して飛来する。

 

だが、またしても斬撃によって簡単に振り払われてしまった。

 

「先程から鬱陶しい……!」

 

むしろ、ヨシツネの注意を引いてしまったらしく。鋭い視線を向けたヨシツネは一歩でイヌガミの側へと跳躍してみせた。

そのまま無慈悲に振るわれる斬撃。

 

「っ!!」

 

が、イヌガミは炎による壁を瞬時に形成することで斬撃を躱す。即席の薄壁は、薄緑の一撃に耐え切れずに一瞬で崩壊するが、その一瞬さえ有れば次の対処を行うには充分だ。

 

「舐メルナ、()()

 

「犬畜生の分際でッ!!」

 

ピキリ、と額に青筋を浮かべたヨシツネは再度イヌガミに斬撃を加えようとするも、直前になって背後からの“斬撃”に気付く。

 

「っ、見抜かれたか!」

 

慌てて振るわれた背後への斬撃は、同じ薄緑による一閃を弾き返した。

そこには傍に“黒い霧”へと化けたオサキを伴ったウシワカの姿。

イヌガミがヨシツネの斬撃を躱した隙に、オサキの幻術を纏っての奇襲を仕掛けたのだ。

それも、ウシワカが唯一有する奥義『天刃縮歩』を併用した必殺の一撃だ。

 

だが、ヨシツネもまたその奥義を知る者。

それゆえに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「その技は初見殺しのためのもの。既に熟知する私に使うべきではなかったな!」

 

「くっ!」

 

嘲笑うヨシツネに、ウシワカは悔しげな顔で呻き、両者は再び刃を交えた。

 

 

 

……と、一連の流れを観察していた俺も内心舌打ちする。

 

ヨシツネが仲魔たちに気を取られているうちに、()()()()()()()()()()()()()を発動しようとしたのだが。なかなか敵を捉えられなかった。

 

それなりの時をサマナー業に費やしてきた俺だ、当然、自宅の防衛体制は整えてある。

 

自宅を覆うようにして張られている『防御結界』によって霊的・物理的な侵入を拒み。これを突破された段階で庭先に仕掛けてある複数魔術による攻撃が加えられる。

……とまあ、ここまで侵入されてる時点でそれらは既に突破されているわけだが。

 

そこで、最終手段として用意してあった屋内トラップが頼みの綱となるわけだ。

……なかなか射程内に入ってくれないが。

 

 

そうこうしているうちに仲魔たちも段々と押され気味になっていた。これを黙って見ているわけにもいかず、左手に構えた拳銃より特殊弾を放った。

 

ヨシツネの相性はデビルアナライズで把握済み、どこにも弱点がないオールラウンダーなのは知っている。

なので、“ジオ系”が込められた弾丸によるスタンを狙った。

 

「……」

 

……ただ、“当たらなければどうということはない”わけで。

こちらに見向きもせずにひらり、と簡単に躱されてしまった。

 

……全盛期なら、全盛期なら絶対当たってたから!

 

 

「くっそ……マジでどうするか?」

 

今も高速戦闘を繰り広げる彼らを見ながら辟易する。

リミッターを設けているとはいえ、イヌガミもオサキも歴戦の勇士。俺とは違ってその戦闘センスは衰えてはいない。

ウシワカは言うまでもなく、現在の仲魔では最強。

 

対するヨシツネは、COMPで解析できただけでも神族に匹敵する強力な悪魔だ。とてもじゃないが俺如きが立ち向かえる存在ではない。

 

となると、トラップを使った絡め手しかないわけだが。ヨシツネは動きが速すぎるので、単純にトラップ程度では捉えられない。

 

 

 

グルグルと思考を巡らせては見るものの、どうにも逆転の目が見えてこない。

 

「……なら残るはーー」

 

破れかぶれの突撃か。

 

そう考えて刀を構えたところで、不意にヨシツネは部屋の中央に移動して止まった。

 

 

 

「ちょこまかと、雑魚のくせに悪足掻きの達者なことよ」

 

ゆっくりと仲魔たちを見渡すヨシツネ、完全に隙だらけなのだが仲魔たちにはもはや追撃できるだけの余力が無かった。

それを見越してヨシツネも余裕を見せているのだ。嫌な奴である。

 

「とはいえその奮闘に応えてやるのが武人というやつだろう。

……光栄に思え、貴様らは我が奥義で葬ってやる」

 

徐に身を屈めるヨシツネ。それを見たウシワカは何かに気づき、慌てて声を張りあげた。

 

「っ、全員退がれ!!」

 

「……八艘跳び(ハッソウトビ)

 

ウシワカの声に被せるように呟いた直後、ヨシツネの姿が再び消え失せた。

しかし、今度は単純な移動などではない。

 

消失と共に空間内に走った“光の筋”、それは一直線にウシワカに向かって伸びて、動く暇もない速さで彼女の腹部を抉った。

 

「っ!!」

 

だが、それだけでは止まらない。

ウシワカが苦悶の声を上げるよりも前に、再び迸る閃光。

その軌跡を確認する間もなく、再度閃光が。

 

そうして一息する間の僅かな時間に、空間内を“八本の光の筋が走り抜けた”。

当然、そのうちの一つは俺のもとにも飛んできて、一瞬にして右脇腹を抉り取っていく。

 

「っ、がはっ!!」

 

視認より僅かに遅れて、抉られた腹部の痛みを認識する。

と同時に、超高速移動によって生じた衝撃波がリビングを蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……くそ……!!」

 

衝撃波によって庭に放り出された俺は、即座に立ち上がった。

だが、腹部から流れ出る血液による貧血、それに伴った目眩に耐え切れずすぐに膝をついた。

 

咄嗟に、ディアを掛けてみたが、思ったよりも深いらしく完全治療には至らなかった。

 

次に、今のCOMPたるスマホを開いて仲魔の反応を確認する。

……どうやら、みんな一命は取り留めているようだ。

 

 

「仲魔の心配か? 随分と悠長なことだなサマナー」

 

そこへ、前方からヨシツネの声が聞こえてくる。

衝撃波によって自宅一階は完全に破壊されたらしく、見るも無残な有様を晒している。

窓や壁の類は軒並み吹き飛び柱だけが剥き出しのまま上階を支える形となっていた。

また、崩壊の際に生じた土煙によって周囲の視界は完全に塞がれている。

 

「しかし、つくづくしぶといな貴様らは。私は殺すつもりで奥義を開帳したのだが。

……まあ、もとより“アレ”は甚振るつもりであったので好都合か」

 

くつくつと楽しそうに笑いながら彼女は告げる。

ーーその声に、場違いながらこのヨシツネという悪魔の本質を感じ取っていた。

 

俺が、ずっと不思議に思っていたウシワカの“違和感”。

召喚前にヨシツネへと抱いていた漠然とした先入観(イメージ)。見事に合致するかのような彼女の本質はつまり、“裏切られた最期への憎悪”。

それがまさに形を成しているかのような悪魔だ。

 

そこまで考えてふと思い至るのは、彼女という悪魔の正体。ここを襲った動機への回答。

 

「お前が……ウシワカの欠けた部分そのものなのか」

 

「……」

 

俺の問いかけにヨシツネは押し黙った。そのことから彼女は、この事実をよく思っていないのだとわかる。

ーーああ、だから“未熟者”なのか。

だから、ウシワカは“その記憶”が無いのか。

 

脳内で考察を進めていくと、色々と辻褄があってきた。

 

欠けた記憶は、即ち憎悪そのもの。

 

目の前に立つ、このヨシツネという悪魔そのものなのだ。

 

 

 

「……」

 

「そうか……お前もウシワカな訳か。なるほどな」

 

眼前にはいつの間にかヨシツネが立っている。目と鼻の先に迫った強敵の姿に、しかし俺はなぜか()()()()()()()()()

対してヨシツネは、不意に“神妙な面持ち”となって口を開く。

 

「……私はずっと解せなかった。

なぜ、ヤツは貴様のもとに居続けるのか、居続け()()()のか。

 

()()()()()()()()()()()()()私からしてみれば狂気の沙汰だ」

 

右手の打刀を握り締めながらヨシツネは憤怒の表情を浮かべていた。その怒りはどこに向けられたものなのか、はたまた“全て”に向けられたものか。

 

「しかしなんとなく理解したよ。

 

……つまり、貴様は“馬鹿”なのだとな」

 

最大限の侮蔑を込めた声、表情。それに伴って振るわれる横薙ぎの一閃。

しかし、これに対応できるだけの余力はすでに俺にはなく。ただ、コマ送りのように迫ってくる刃を見つめることしかできなかった。

 

 





思ったより中立だと思われてる姉のアンケートに困惑しております。
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