ただーー
十数年の時を経て出会った妹がまさか首狩り族だなんて誰も思わんでしょうよ、っていう。
ヨシツゥネとマサコォのせいでヨリトォモの胃がヤバイ(ヤバかった)。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
刀を杖代わりに地面へと突き立て膝をつく。
身体のあちこちが軋み、悲鳴を上げている。臓物が煮え滾り血液が沸騰している。
いくらかつて振るえていた力とはいえ、突然振るえばこうなるのは当たり前だった。
つまり、身体が追いついていないのである。
「お、おい、主よ。大丈夫か?」
心配そうな顔で歩み寄るオサキ。未だ女神状態のままでキラキラとした美しい瞳を不安で震わせる様は絵になる。
「大丈夫、ちょっと疲れただけたから」
それよりもーー
と、俺が先程仕留めた敵の亡骸に目を向ける。
綺麗に縦割りされた人型が地面に横たわりピクリともしない。だが、奴は前回も確かに殺したはずだった。なのに、こうして蘇った。
だから、死後に必ず
ゆえにこうして油断なく注視している。
「……無理そうなら私たちだけでウシワカの救援に向かおう」
「平気だ。それに、無理でも使わないと馴染まないからな、リハビリみたいなもんだよ」
力を取り戻した影響か、長らく続いていた“痛み”も完全に消えている。今ならば十全にヒノカグツチを扱えるだろう。
……とはいえ、徐々にだが、
それは、まだ困る。
「……涅槃台はイレギュラーだったが、まだヨシツネがいる。あいつを倒すまで帰れない」
やがて、涅槃台に変わりないことを確認した俺は勢いをつけて立ち上がった。深呼吸をして精神を落ち着かせれば、若干ながら痛みも軽減される。
ーーそうして、奴から完全に視線を外したその時だった。
「退がれ!!」
怒声と共に俺の目の前へと唐突に立ち塞がった犬神。
直後、分断された涅槃台の右半身が素早く身を起こして手から光弾を放った。
梵字で作られた光球よりも更に速い一撃。それは吸い込まれるように犬神の胴体に直撃し、
「っ、この死に損ないが!!」
激昂したオサキが咄嗟に発動した破魔系魔法。
巨大な光柱を形成するほどの魔法は涅槃台の全身をすっぽりと包み込み、やがてクレーターを生み出すほどの閃光と爆発を起こした。
その跡には肉片一つ残っておらず完全に涅槃台が消滅したことを理解した。だがーー
「おい、犬神!!」
咄嗟に駆け寄り、光弾が染み込んだ箇所に解析魔術をかける。
「グ……少々、まずいな」
呻きながら苦笑する犬神を見つつ解析を終えた。
その結果。
「!! あの泥か!」
放たれた光弾は厳密には魔法ではなかった。奴が散々操っていた“泥”を魔法で加工して飛び道具にした一撃。攻撃を目的としたものではなく
加えて、泥の特性についても解析できた。
「精神汚染に“同化”……」
強力な呪詛だけではなかった、その呪詛による精神の汚染。怨みによって対象の心を埋め尽くし、やがては自らと“同化”させる。
当たり前だが、“世界最大級の呪い”を源泉とした特性は生半可な治癒魔法では解除できず、“ジワジワと取り込まれるのを待つのみ”。
俺は絶望した。
さっきまでなんだってやれる、と奮い立っていた心は沈み、焦燥だけが湧いてくる。
俺はまた、自らの油断で仲魔を失うーー
「しっかりせんか!!」
「ぐわっ!?」
言葉を失っていた俺の尻へと、オサキの蹴りがフルスイングで炸裂した。
仮にも女神へと変生したことで身体能力も強化された彼女の一撃はコメディチックなものではなく確実にダメージを受ける攻撃の類だった。
要するに、加減しろということ。
そんな俺の抗議をスルーして彼女は続けて吠えた。
「私も今、“解析”して理解した。確かに現状で犬神の治療は不可能だ。
だが。
コイツはなんだ? コイツの出自を考えれば打開策など容易に思い至ろう!」
その言葉ですぐに理解した。
「呑み込んでこようとしてくる呪詛なら……
俺の回答にオサキはニッと笑みを浮かべた。
「分かっておるではないか。
加えて、私が“手助け”する。なに、“呪いの制御”ならちと覚えがあるからな。これだけの量なら造作もない」
確かに“夕凪の呪い”を長年受けてきた彼女ならば或いは呪詛の操作もある程度は可能だろう。
だがーー
「
「侮るな……己のことは己でどうにかする。
……だが、おそらくは完全に呑み込むまでに確実に
俺の言葉を遮るように犬神が言い放つ。オサキも真剣な顔で頷き承諾していた。
「待て待て、俺を無視して話を進めるな!」
「お主には別にやることがあるだろう? こっちは私らに任せてそっちに向かうがいい」
こちらに見向きもせずオサキは告げる。
「あの小娘は我の弟子だ。ようやく見つけた家事担当後継者をみすみす死なせる愚行は許さぬぞ、サマナー」
こんな状況でなにをーーと思ったが、ニヤリと笑う彼の顔には明らかに疲労が滲み出ており精一杯の冗談であると察した。
仲魔二人がすでに覚悟を決めている。なにより、
そのことが、今は堪らなく
信頼をくれるなら、俺もそれに応えたい。
俺はそれぞれの顔を一瞥してから頷き、反転して廃寺に向かって走り出した。
「やっと行ったか。あれではまだまだ以前の力を完全に取り戻すことは無理だな」
「違いない。あの“心配性”をどうにかせねば我を完全に解き放つことも無理だろう」
ヒデオが去った後しばらくして両者は苦笑した。
「時に、お主も随分と丸くなったものだな。以前なら小娘一人気にかけることも無かったろうに」
「お前よりも長くアイツと過ごしてきた、それにあれだけ長い間家事ばかりさせられて飼い犬のように躾けられでは丸くもなろうよ」
「それもそうじゃな」
溜息と共に告げられた本音に、オサキは笑いをこぼした。
「さて……そろそろ我も限界だ。戦闘準備をしておけ“夕凪権現”」
「承知した。なるべく死なぬように努力はするが……保証はできんぞ?
私とてまだ死にたくないのでな」
「ふん、抜かせ妖狐が。……死ぬ気で止めろ、我も死ぬ気で抗う」
「それで構わん」
互いに真剣な顔のまましばらく静寂が流れる。
やがて、犬神が短く呻いた。
「では、頼んだぞ」
「ああ、任された」
直後、雄叫びと共に漆黒のオーラを纏った犬神に対し。
オサキは夕凪からのバックアップをフルに活用して幾つもの魔法をセットした。
『もし、今の安寧を捨てて、これからの人生を武に捧げるというのならば。明日、武具を持ってまたこの場に来るがよい』
遥か昔、未だ平安の世にあった頃。鞍馬の山中で山伏はこう言った。
幼い牛若丸、遮那王はその言に従い、薙刀と鉢巻を備えて再び鞍馬の山中へと参じた。
そこへ、山伏は自らの正体である『鞍馬大天狗』の姿を晒し更には配下の天狗を数多引き連れて現れた。
怪異化生の群れを前にして、遮那王は驚きこそすれ、すでにその正体を聞かされていたがためにさしたる動揺も見せず堂々と空より舞い降りる妖怪群を見つめていた。
その胆力、心意気に満足した鞍馬大天狗はこの日より、遮那王へと武芸の稽古を始める。
世の乱れに呼応して鞍馬山には妖魔化生が溢れており、修行相手には事欠かず。人智を超越した戦いの日々を糧として、天才・義経の成長を助けた。
また、修行は単なる武芸の鍛錬だけに限らず、兵法書・六韜を所持する鞍馬大天狗直々に戦術・戦法の座学も受けることになる。
こうして、文武共に鍛え上げられたことで稀代の名将・源義経は源平の戦いにおいて華々しい活躍をし、遂には平家を打倒することに成功したのだった。
「ーーゆえにこそ、他ならぬ“己自身”。しかも未熟なりし“牛若丸”に負けるなど許されないのだ!」
そう吠えたヨシツネが、牛若丸の視界から唐突に消えた。
「っ!!」
気配や、初動すら見抜けぬ
そんな彼女の背後より敵対者の声が響く。
「だから未熟なのだ」
突然の瞬間移動、しかしその原理は明確であった。
牛若丸が『英霊』の霊基で保有する『宝具』。英傑ヨシツネとしてであれば『スキル』として機能する『遮那王流離譚』。
その中の奥義の一つに数えられる『自在天眼・六韜看破』。
自陣と敵陣を強制転移させ有利不利を反転させる対軍スキル。
本来であれば軍単位の戦闘でしか発動できないスキルだが、『泥に汚染された』彼女ならば対人スキルとして“反則使用”することができた。
つまりは互いの強制転移。無論のことペナルティとして膨大な魔力消費が伴うものの、『泥によるバックアップ』がある以上はさしたる問題ではない。寧ろ、“違反使用による不具合で再使用までのクールタイムが延長される”ことの方が問題だ。
ーーだが、ここぞという時の一手として申し分ない。これ以上ない切り札として機能した。
「ッ!」
死角からの奇襲、加えて“有利不利の反転”というスキルの特性上、体勢すら崩された状態からではウシワカに打つ手は無かった。
彼女の無防備な身体に迫る、名刀・薄緑による一撃は肢体の両断という結末を確定させる。
ーーああ、主殿。ウシワカは……
「ちぇすとぉぉぉぉ!!!!」
「のわっ!?」
天才に死すら覚悟させた必殺の一撃は、気合いの入った雄叫びと共にキャンセルされた。
声の先には、やはり気合いの入った顔で刀を振り下ろした状態のヒデオ。
「主殿っ!!」
「おうっ! 遅くなって悪いな!!」
自らの危機を、まるで漫画のようなタイミングで救った自らの主にウシワカは、生前含めても初めての体験となる“奇妙な胸の高鳴り”を感じていた。
対し、ヒデオは減衰する霊力をなんとか保つため叫び声を上げることで無理やり力を維持していた。それ故、自然とその返答も必要以上に気合いの入ったものとなる。
要するに空元気である。
「くっ……貴様、いつの間に。いや、どうやって
一方、ヒデオの奇襲に対して反射的に刀で防いだことにより弾き飛ばされるだけに済んだヨシツネは困惑の声をあげた。
自宅で戦った時には、その辺の悪魔にも殺されそうなほどの力しかなかった彼が。今は、奇襲とはいえ英傑ヨシツネを押し退けるほどの能力を発揮している。
彼女が困惑するのも無理はない。
ーー本来、一度、その霊力を弱めた人間が再び力を取り戻すことはない。
単純な、生物学的老衰ならまだしも。創世記どころか、宇宙誕生期より世界を支配してきた理たる“神秘”に類する霊力の衰退は、それほどまでに絶望的で治癒困難な欠陥である。
“魂”、存在の根幹に影響する疾患なのだから当たり前だ。
たとえ、神秘を熟知した賢者であろうと見抜けない“奇跡”。
ーーしかし、そんな奇跡を可能とするのが“人間”であり、彼らが持つ“想い”の強さでもあった。
「主殿っ!!!!」
『六韜看破』からの無防備な体勢から立ち直ったウシワカは、もう一度、自らの主を呼びながらーー
全力でその背中に抱き付いた。
「うおぉ!? ど、どうした!?」
突然のダイブ、からのハグ。いつも以上に、必要以上に気を張っていたヒデオは思わぬその奇襲に驚いた。
対してウシワカは、初めて見る“頼り甲斐のある背中”にスリスリと顔を擦り付ける。
生前はついぞ出会うこともなかった、“自らを越える相棒”。“頼れる部下”ではなく“戦友”。しかも、“仕えるべき主”なのだ。
忠義心が、さらに振り切ってしまうのも無理からぬことであった。
そうしてしばらく、じゃれるペットのように主の背中を堪能した後。唐突に顔を上げて声をあげた。
「ーーというか、やっぱり強いんじゃないですか」
それは、召喚直後よりなんとなく感じていたヒデオの“潜在能力”。強者としての覇気というか、経験豊富な実力者特有の落ち着きというか。
“なんとなく”で感じていたヒデオの強さ。その予想が当たっていたことに歓喜しつつ、以前はその予想を否定した彼に不満を感じていた。
「まあ……
それより、ここからは二人で戦うぞ。前みたいに俺に合わせる必要もない、お前の思うように戦え。
しっかりとした信頼の籠もった眼で、ヒデオは告げる。
新たに召喚した“信頼できる仲魔”へと。
「っ! はい、よろしくお願いします!!」
その意を受けて、やはりウシワカは奮い立った。
主君からの“疑い”と“裏切り”で死した英雄が、そんな信頼を向けられれば奮い立たないはずはない。
ぴょん、とその背中から離れた彼女は愛刀を構えて彼の隣に並ぶ。二度目の生で巡り合えた“信頼できる主”の隣に。
「ーーっ」
ーーそんな主従の姿に、ヨシツネは無意識のうちに歯噛みした。
信頼で繋がる主従というのは、このヨシツネが一番嫌うものだ。それも、“自分自身”であれば尚のこと憎悪を滾らせる。
ーー義経は人の気持ちが分からない。
ーー義経は『愛』を知らない。
ーー義経は『他者と共に歩めない』。
故にこそ、生前の自分は無念のうちに自刃し、人々はそんな悲劇の英雄を哀れみながらも“その悲劇を娯楽として大いに楽しんだ”。
鎌倉時代の真の幕開けを見ることなく、その開幕に貢献した英雄は死没した。
最も敬愛し、唯一、“愛していた”身内の手に掛かって。
ーーだから、“私”は憎悪する。
兄を、人を、世界を。
憎むことしかできないはずなのにーー
「なぜ、そうやって笑っていられるのだ!!!!」
ーー私は、こんなにも
憎しみは糧となり、怨みはエネルギーとして身体をめぐる。
泥を炉心とするヨシツネの力はやはり圧倒的だった。
激昂した彼女は大地を蹴り、たった一歩で数十mの距離を詰める。一息のうちに刀を構え、そして斬りかかる。
「くっ!」
ーーこれを、ヒデオは受け切る。
先刻までなら有り得ない力だが、“信頼”を内外ともに取り戻した彼にとっては造作もない。
そしてーー
「はあっ!」
「っ!」
主が受け、生じたその僅かな隙に、相棒たるウシワカが反撃する。
今回はなんとか防御できたものの、このヨシツネをして侮れない反応速度だった。
いや、警戒すべきはこの“連携”。
ーーそこからは、彼ら主従のターンだった。
日の浅いタッグとは思えないほど完成された連携、信頼し合っているからこそできる強い連携。
“個”として間違いなく、上位に入る力を持つヨシツネが、何も出来ずに防戦一方となるほどの猛攻。
助け合うことの大切さ、それを“思い出した”ヒデオと、“信頼し合う”ことを覚えたウシワカのタッグは強かった。
強いからこそ……憎い。
或いは、“妬ましい”。
「なぜ……なぜそんなにもーー。
私は、私はそんな“信頼”、向けられたことなんてなかったのに!!」
強い嫉妬は憎しみとなって、彼女に力を与える。
その膨大なエネルギーから放たれるのは、ヨシツネとしての真骨頂。
即ち、『ハッソウトビ』である。
八体分身から放たれる神速の八連撃。
音すら置き去りにした超速の連撃は、ヨシツネを仲魔としたことのあるサマナーなら誰しも知っている“脅威”。名だたる悪魔たちを叩き潰してきた“彼”の奥義に他ならない。
“攻守共に有用なスキル”、それがハッソウトビの真価だが憎悪に塗れたヨシツネにはそんなもの関係ない。
圧倒的な力による粉砕。それこそが彼女の望むハッソウトビであり、人世の破滅こそが彼女の行動原理であるからだ。
憎悪によってパワーアップしたハッソウトビを前に、ウシワカはーー。否、
少し前まではすっかり忘れてしまっていたスキル。しかし、“自己との対峙”、“望んでやまなかった主からの信頼”を受けた彼女は徐々にだが“思い出しつつあった”。
「遮那王流離譚が四景……
壇ノ浦・
壇ノ浦の戦いにおいて、舟八艘分の距離を跳躍して駆けた義経の逸話の具現。英霊としてならば宝具として機能する奥義。
ーーしかし、『英傑ヨシツネ』と相対した彼女はこの奥義を無意識のうちにアレンジしていた。
八体分身そのものは、宝具であろうともそのように機能するのは確か。それぞれが縦横無尽に駆け巡り“蛇神に一矢報いる世界”というのも
だが、分身それぞれが神速の八連撃に至るのは英傑だけの話だ。
これを、この牛若丸は取り入れていた。
それによって起こるのは、同じ奥義を発動したヨシツネとの激しい衝突である。
音速を超えた八体の衝突は、異界化によって強固となった廃寺を半壊させるまでの衝撃を放つ。
見事なまでに八体の光が互いに激突する中、本体たるウシワカとヨシツネはハッソウトビの勢いのまま鍔迫り合いに入った。
「貴様……我がハッソウトビを!!」
「貴様だけのものではない! いや、貴様のものであるならば当然、私のものでもある!!」
拮抗するように見える激突だが、実のところ雌雄は決していた。
確かにヨシツネのエネルギーは膨大で、そこから放たれる一撃一撃が神族に匹敵する脅威だ。
しかし、それらを打倒してしまうのが“サマナーと仲魔の信頼”であり連携である。
結局のところ、悪魔との戦いは“想い”の強さによって決まる。
七体の分身たちが対消滅していく中、本体同士の激突はジワジワとウシワカの方へと有利に傾く。
「なぜ、なぜ……!!」
「はあぁぁぁぁ!!!!」
困惑するヨシツネへと、ウシワカは渾身の力を込めて刀を振るう。
信頼を糧としたウシワカの力は、上位互換であるはずのヨシツネの力を上回り、その防御の構えを砕いた。
「取った!!」
無防備となるヨシツネの肢体へと、未だハッソウトビの勢いを保った薄緑の刃が届く。
明らかな必殺の一撃、明確なほどに綺麗に決まった奥義にウシワカは早くも勝利を確信した。
ーーその想いを打ち砕くように、確殺したはずのヨシツネの声が響いた。
「遮那王流離譚が三景、弁慶・不動立地」
生前、その最期まで共にあった腹心たる部下の名を冠した奥義。
ウシワカも、その奥義のことは思い出していた。思い出した上で、まさかこの一撃を防がれるとは思わなかった。
鉄壁の盾としてあった武蔵坊弁慶の肉体を再現する奥義。彼への信頼が強ければ強いほどに強固となるこの奥義。
ヨシツネは、人世を憎むからこそ、“唯一信頼した弁慶”についての想いはウシワカを上回っていた。
だからこそウシワカにも見抜けないほどの強度を以って奥義は発動する。同時に、文字通りの鉄壁の肉盾によって完全に勢いを殺されたウシワカは再び無防備な姿を晒す。
その隙こそ、ヨシツネが待っていた瞬間だった。
ーーたとえ泥に汚染されようと、憎悪に塗れていようと。牛若丸ではなく『ヨシツネ』として在る彼女は、戦運びに長けていた。
その点だけはウシワカにはどう足掻いても持ち得ない長所であり、それゆえに見抜けない盲点だった。
音すら超越した戦いを繰り広げる彼女らにとって、一瞬の停止であっても致命的な隙となる。
気付いた時には既に、もう一振りの薄緑が目前に迫っていた。
「どっせぇぇぇい!!」
そんな危機的状況をまたも救うのは、気の抜けそうな叫び声であった。
空元気の字面そのままに、無理やり腹から出したかのような裏返った声。しかし、それに伴って振るわれたのはヨシツネをして侮れぬ一撃であった。
「なっ!!!?」
突然、全身に叩きつけられる“突風”。
単純な風ではない、“相手の体勢を崩し、強制的に弾き飛ばす性質”を持った魔法の風だ。
吹き飛ばされる前の一瞬にヨシツネが目にしたのは、遠くからこちらに向けて振り抜いた体勢のヒデオ。
その手には
ーーそれは、ヒデオが英傑ウシワカを呼び出す触媒として無意識に使用した遺物。かつて、鞍馬山の大天狗が保有し、修行時代の牛若丸がこっそり悪戯に使っていた『天狗の羽団扇』。
これによって引き起こされた『突風』は、たとえヨシツネであっても抗い切れない代物であった。
天狗の羽団扇を用いた
この一瞬のうちに、今度はウシワカが体勢を整えた。
否、“別の奥義の構え”を終えた。
未だ、『暴風』によって身動きの取れないヨシツネへとしっかりと狙いをつけてウシワカは呟くように唱える。
「遮那王流離譚が二景……天刃縮歩!!」
遥か遠方に飛ばされたヨシツネへと即座に反撃する手段は本来ならば存在しない。仕切り直しとなるのが常道だ。
ーーだが、これを解決する手段をウシワカは有する。
薄緑による煌光の斬撃。天狗の歩法による縮地は、長距離の跳躍を一歩で済ませる。
そこから繰り出される一撃を躱すことは難しい、それはヨシツネ自身もよく知っていた。
ーー気付けば、目の前に薄緑を構えるウシワカの姿がある。一息も掛からずして斬撃が飛んでくることもヨシツネは知っている。当然、これに対抗する手段がもはやないことも。
その刹那、ヨシツネは穏やかな心持ちで静かに悟った。
「ーーああ、これは……確かに私の負けだな」
その一言と共に、ヨシツネは斬撃の煌光に呑みこまれた。
日曜がチャンスと思って勢いで書きました。
やはり何事も勢いが大事…
次はエピローグという名の後日談みたいな戦後処理で一旦ウシワカの話は終わりにします。
くぅ〜疲れまs(ry
【補足】
普通に羽団扇使ってるヒデですが、あの羽団扇は宝具ではなく遺物なので『戦闘用アイテム』と本作では設定します。※アギストーンとかそこら辺。
もしくは『装備用武器』みたいな。
…そこら辺はぶっちゃけふわふわしてるので突っ込まn(ry
…一応、“サマナーとして強い霊力が無ければ制御できない”という設定も付け加えてますが本文で説明すると勢いが削がれるので端折りました。
やはり勢いこそ至高…
具体的な内容で再集計してみます※気軽に応えてあげてください
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アビゲイル※本編の裏設定&SF
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キルケー※敗北しない
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ハサン※ハサン別小話
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武則天※まったくの未定
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いいから本編書けよ!!!!