英傑召喚師   作:蒼天伍号

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合体部屋は真シリーズを参考にしてますので元の業魔殿とは違ったデザインという設定。
なんでかって?

めんどくさいからさ!


牛若丸・三

「お久しぶりです、ヒデオ様」

 

顔を上げた彼女は、無表情だった先ほどと異なり、僅かだが穏やかな笑みを浮かべてそう述べた。

 

「こちらこそ、ミス・メアリ」

 

軽く会釈と共に応える。

応じて彼女、メアリ氏も柔らかな口調で語り出す。

 

「私がこちらに店を構えて間もない頃、以来です」

 

「そうなりますか……ただ今日は生憎と『合体』ではなく、『登録』で訪れた次第。ご案内、お願いできますかな?」

 

「まあ……では、()()()()()の?」

 

「っ!」

 

まだ紹介もしていないにも関わらず見抜かれたことにウシワカが反応を示した。

 

「心配するな、彼女は味方だ」

 

「……主殿が仰るなら」

 

一見して変わりないものの、全身から警戒を発する彼女をやんわり制する。確かに人間と変わらない姿のウシワカが悪魔であると突然見抜かれたらそうもなるだろうが、メアリ氏からすれば単に『同族』を見分けただけのこと。

 

一方、メアリ氏はというと、なにやらカウンターの下でゴソゴソと動きを見せた後、受付からこちらに歩み出た。

直後に『結界』が張られた感覚があったのでおそらくは人払いをしたのだろうと推測。

 

「それでは、こちらへ」

 

優雅な仕草で右手を上げ示した先は受付の奥。staff onlyと書かれた扉である。

 

「行こうか」

 

傍のウシワカに声をかけつつ俺は扉の先へと進んだ。

 

 

その先は長い螺旋階段となっており、道中には一定の間隔で『電灯』が設置され薄暗い足元を照らす。

 

「足元に気をつけてください」

 

「……お気遣い、感謝する」

 

メアリ氏がさり気なくウシワカを気にかける。一方ウシワカは未だ『化生の気配を出す』メアリ氏を警戒しているようで表情は薄闇でもわかるほど硬い。

 

やがて、階段を抜けた先にある鉄の大扉を開くと。

 

中には広い空間。複雑怪奇な形をした機械類と、正面にあたる空間中央に巨大なカプセルが一対、その間には大きな台座が配置されていた。

 

「ここは……」

 

訝しげにウシワカが部屋内を隈なく見回す。

照明が少なく薄暗い部屋の中は、奇怪な機械類のせいか物々しくおどろおどろしい雰囲気を出している。

 

「ここでは、デビルサマナーの皆様に向けて『悪魔合体』のサービスを提供させていただいております」

 

ウシワカの様子を察したメアリ氏が語る。

 

「悪魔、合体……?

主殿、私はここで合体させられるのですか?」

 

冷や汗を流しながら真剣な表情で問うウシワカ。

 

「先に述べた通り、今日はお前の登録で来た。合体は……おそらく今後も使うことはないだろう」

 

「そ、そうですか。さすがの私も、得体のしれない儀式で無闇に合体させられるのは困りますゆえ」

 

分かっている。というか英傑などという希少な悪魔で合体などするはずもない。

 

だが、俺たちの会話を聞いていたメアリ氏が目に見えて落ち込んでいる。

しかし、業魔殿で行われるのはもっぱら『悪魔同士の合体』であるため余程の事情がない限り訪れる用はないのである。

 

何せ、近年は『召喚式同士の合体シミュレートによって、何度でも合体が可能となっている』。わざわざ仲魔の『消失』を代償にしてまで新たな式を生み出す必要性は無くなって久しいのだ。

 

……とはいえ、それはあくまで『普及している悪魔』に限った話。俺には縁の無い話だが『高等悪魔』や『古き神々』に対応する『召喚式』を生み出すにはやはり『悪魔合体』が有用であり、確実性も未だ『悪魔合体』の方がずっと高いのだ。

この辺はcase-by-case、状況に応じて使い分けるのがサマナーの常識である。

 

「それに全書を『安全に』保管できるのは業魔殿しかない」

 

「ありがとうございます。今後ともご贔屓にしてくだされば幸いです」

 

透き通るような綺麗な声でメアリ氏は述べた。

……余談だが、俺が知り合うよりずっと前の彼女は『感情が極端に希薄』だったらしい。それは彼女の『出自』に関する問題なのだが、『親切な二人組』との交流を経て少しづつ人間らしさを獲得していった、と聞いている。

 

「では、早速登録を行いましょう。そちらの機材に『入って』いただけますか?」

 

メアリ氏が指し示す先にあるのは巨大なカプセル。頂点から伸びるケーブルが複数に分かれさまざまな機械類と接続されている。

「これに入れと?」と言外に訴えるような顔でこちらを見つめるウシワカ。俺は無言で頷いた。

 

「……主殿が仰るならば」

 

気が進まないといった様子ながらカプセルの中へと入っていく彼女。

 

「そこで動かずジッとしていてください。……では、解析を始めます」

 

宣言と共にメアリ氏が、床から生えている大きめの機械端末を操作した。

直後、カプセル内下方より紅い光が輪を作り、ゆっくりと上に向かっていく。光はカプセルの頂上に辿り着いたところでフッと消えた。

 

それから数十秒ほどして、端末の操作を終えたメアリ氏が顔を上げる。

 

「お疲れ様でした、もう出て来て大丈夫ですよ」

 

彼女の宣言にウシワカはゆっくりとカプセルから出て来て、俺の横へと歩み寄る。

 

「何やら訳が分かりませぬが……」

 

「終わりました。情報の確認をお願いします」

 

ものの数秒で登録を済ませたメアリ氏の手際に関心しながらも近くに寄って端末の画面を覗き込んだ。

そこにはウシワカの名前と、彼女のカテゴリを示す『英傑』の字。その他、細かな情報が記されていた。

どれも特に問題はない……が、彼女の『構成情報』の項目に奇妙な表示を見つけた。

 

「……欠落が25%?」

 

「はい、彼女、英傑ウシワカの悪魔体構成情報には一定数値の欠落、又は『破損』の形跡が見られます。

……なにか、心当たりはございますか?」

 

「いや……そういえば彼女を呼んだのは人伝に聞いた定かならぬ召喚式だったか」

 

『友人』から聞いて、使用アイテムまで頂戴した英傑召喚。原因と言えばアレしかないだろう。

 

「英傑召喚……それは『個人製作』の召喚術式ですね?」

 

「ああ、地方都市『冬木市』に定住した異国の『サマナー』が開発したと聞いている」

 

「冬木市……わかりました。あとはこちらで調査してみます」

 

「いやそこまで迷惑をかけるのは」

 

「いいえ、冬木市という名前には少々覚えがあります。なので近日中にご報告ができると思われますのでご心配なく」

 

「……では頼みます」

 

「お任せを。……久しぶりの御来店ですから、『カムバックボーナス』とでも思ってください」

 

柔和に微笑むメアリ氏に頭を下げて改めてお願いする。

 

そうして新たな疑問を抱えながらもとりあえずの要件が済んだ俺たちは業魔殿を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺たちは真っ直ぐに帰宅。

 

「オカエリ」

 

「ああ、またすぐに出る。……日付が変わる前には帰るから、夕飯は先に済ませといて構わないぞ」

 

「……ソウカ、分カッタ」

 

しゅん、と落ち込んだ様子を見せたイヌガミだが生憎と構っている時間はない。ちなみに仲魔たちはMAGで本来は事足りるのだが、一応経口摂取からのエネルギー補給も行えるので基本的に夕飯は共にする。

仲魔とのコミュニケーションである。

 

とりあえず必要最低限の装備を回収した俺はまたすぐに家を出た。

 

 

「待たせたなウシワカ。じゃあ、行こうか」

 

「はい! いよいよ『戦い』の場に赴かれるのですね?」

 

妙にソワソワしているウシワカが食い気味に問い掛けてくる。

 

家から持ち出した装備品の一つである茶色のロングコートを羽織り、短く「(オン)」と唱える。

その瞬間、俺の身体を覆うようにして『認識阻害の術』が発動する。これで一般人や職務に忠実な『公務員』の目を誤魔化すことができる。

その上で改めて背中に布で包んだ日本刀を担いだ。

 

「ああ、今回はあくまで『試験』だからな。シンプルに『討伐依頼』を受注しておいた」

 

「おお!」

 

興奮気味のウシワカに若干引きつつ続ける。

 

「ちょうど、家の背面に位置する北区。その最奥にあたる『山の麓』が対象のいる場所だ。そう遠くないから徒歩で行く」

 

「はい!」

 

るんるん、という効果音が聞こえてきそうなほど上機嫌なウシワカを引き連れて目的地へと歩み出す。時刻は夕刻に差し掛かる頃合いで、目的地に着いた頃にちょうど『逢魔時』となる計算だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕凪市北区一帯を占める夕凪山(ゆうなぎさん)。標高1,152m、その中腹から麓に散在する民家や寺院を含め、街区に差し掛かる田畑までを北区と定める。

夕凪山は古くから民衆の山岳信仰の対象となり時代の流れとともに修験道の霊場として信仰を集め多くの修験者が山に登り厳しい修行を積んだとされる。

 

今回訪れたのはその名残りを見せる『寺』。しかしここは廃寺となって久しく、管理者が不明瞭な状況から管理或いは撤去といった対処も行われず。結果としてボロボロの外観を残した廃墟マニア御用達の廃れた姿を残していた。

また、辺り一帯が寺の所有地であったために同じく管理が放棄され草木生茂る鬱蒼とした景観を作り出している。

このような現状から地元では有名な『心霊スポット』となっており夏休みシーズンはひやかしの大学生グループや高校生たちがキャッキャウフフしている。……まあ、その大半は“帰ってこない”が。

 

 

「つまり“良くない霊が群れる場所”ということですね」

 

寺の敷地内に散乱する何かの木片を蹴り飛ばしながらウシワカは述べた。

 

「ああ、廃寺になった経緯に『何か』があったのか。元々そういう場所だったから寺を建てたのか。文献が失われているから定かではないが、そういう場所であるのは確かだ」

 

ゆえにこそ、こうして定期的にサマナーによる『駆除』の仕事が回ってくるのであり、“危険を冒したくない”俺のような中堅や、まだ実力の足りていない新人サマナーたちの稼ぎ場として重宝されている面もある。

 

「現れる悪魔はランダムだが、総じて雑魚ばかりだ。煮るなり焼くなりご自由にってところか」

 

まあ、古き神でも出てこない限りは“対処できる”が。

 

「ご安心を。何が出てこようとも主殿は守りますゆえ」

 

凛々しい表情で述べるウシワカに頼もしさを覚える。が、正直、ここに出てくる悪魔程度にやられるほどヤワではないので複雑な気分。

 

 

正門から進んで本堂の真ん前まで来ると、ようやく悪魔どもの気配を肌で感じとることができた。

長年の放棄によるものか敷地内全域に“良くない気”が充満しており、木っ端な悪魔どもの気配を感じ辛いのである。そのため新人サマナーのうち何人かは“楽な稼ぎ場”と慢心して突撃した結果、不意打ちからのフルボッコで昇天してしまうこともある。その場合は飢えた悪魔どもに貪り食われることになるので骨すら残らない。

そうして死した若きサマナーの魂のうち、悪魔に捕食されなかった者が新たに強力な悪霊ないし悪魔として生者を襲う……という妙なサイクルが出来てしまっているのもここの邪気が年々高まる原因か。

 

「そろそろここも本格的に除霊しとかないと……って、早速悪魔のご登場か」

 

崩れかけた本堂からワラワラと種類の異なる悪魔たちが這い出てきた。

最も多いのはやはりポピュラーな悪魔たる『餓鬼』だが、他にもオバリヨンやオンモラキ、イツマデなどの雑多な悪魔も紛れ込んでいる。

どれも恐れるほどの力は持たないがいかんせん数が多い。

なので咄嗟に援護できるようにホルスターから銃を抜いておく。

 

「では、ウシワカ。お前の力を見せてくれ」

 

「承知! いざ!」

 

俺の言葉にウシワカは瞬時にあの『破廉恥姿』に変身し、悪魔の群れへと突っ込んだ。

……やっぱり戦闘の時はそうなるのか、と思うも目のやり場に困るので今後の改善点として覚えおこうと思う。

 

刀を構えて駆けていった瞬発力も相当だが、群れに到達するなり目にも止まらぬ速さで瞬時に悪魔たちを切り刻む様を見て思わず感嘆の声を漏らす。

 

「これは……」

 

予想以上だ。

今も右へ左へ、上に下にと変幻自在の三次元機動を行いながら敵の群れを殲滅している。

 

「これでは援護などいらないな」

 

「ははっ、足りぬ足りぬ!! この程度では我が主を満足させられぬ!」

 

凶暴な笑みを浮かべて悪魔の鮮血を撒き散らすウシワカ。

……ああ、なるほどバトルジャンキー、或いはバーサーカーであったかと俺は悟った。

 

そんなこんな眺めているうちに群れの大半が狩り尽くされ、残った悪魔たちは恐怖からか縮こまってしまった。

 

「……どうした? 人に仇なす妖ならば最後まで戦って見せろ。それとも命散らす覚悟すら無く我が主に牙を剥いたか?」

 

そんな悪魔たちにウシワカは一転して無表情のままに語りかける。

おお、怖い怖い……いや、マジで。誰だあんなヤバイ奴呼んだの。俺だよ。

 

とはいえ依頼内容はここの悪魔の『全滅』なので口出しはしない。悪魔たちには気の毒だが運が無かった。

 

と。気を抜きかけたところでCOMPに新たな悪魔反応が表示される。

 

「っ、ウシワカ。追加でもう三つ悪魔の群れだ」

 

「承知」

 

応えると共にウシワカは残った悪魔を一瞬で細切れにした。いい状況判断だ。さすがは兵法にも通ずるヨシツネ。

ここで別群れと合流されても面倒だしな。

 

反応は、先程の奴らが現れた本堂の他に、左右の雑木林からも接近している。そうなると俺も加勢せざるを得ない。だって、彼女だけ置いて“逃げる”わけにはいかないからな。

もっとも、ウシワカの実力は先の戦闘で十分すぎるほどに理解したので問題はない。

 

「ウシワカ、お前の実力は理解した。あとは二人で群れを蹴散らす。……いいな?」

 

「っ! はい! 主殿の御采配のままに!」

 

実力を理解した、のくだりでウシワカは目に見えて上機嫌になった。具体的には眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。

 

その時、ちょうど第二波の群れが出現した。

同時に悪臭混じりの不快な臭いが辺りに立ち込める。

 

「ゾンビ、スケアクロー、コープスまでいるか」

 

おまけに魍魎(モウリョウ)にゴースト。悪霊の集合体であるレギオンまで紛れ込んでいる。

 

「数はざっと見積もって三十……やれないことはないか」

 

以前の掃討時より数が増えているがどれも小粒。

 

俺は銃を構えた。

 

「左右は俺が受け持つ、お前は本堂の悪魔を残らず掃討しろ」

 

「はい!」

 

テンションが上がっている彼女は、先程よりもさらに速度を上げて本堂に突っ込んでいった。直後に悪魔どもの悲鳴が聞こえてきたのを鑑みるに別段援護は不要だろう。

 

「さて」

 

言って、先鋒として突撃してきたモウリョウに弾丸を撃ち込み霧散させる。

 

「こちらも威厳とやらを見せないといけないな」

 

続けて発砲しさらに数体のゴースト系を消滅させる。

安心の対魔加工弾である。

その後も左右から迫る霊系悪魔を仕留め、遅れて迫ってきた屍鬼カテゴリの悪魔たちに火炎瓶を投げつけた。

 

ごうごうと燃え盛りもがくゾンビたちを尻目に、腰の刀を抜刀。奥に控えたレギオンへと斬りかかった。

 

「グオォォォ……!!」

 

呻き声を上げるレギオンに二度三度と斬撃を加える。

ズタズタになったレギオンはフラフラと宙を泳いだのちに消滅。

未だ左右の群れの戦力は三分の二残っている。

 

そこですかさず『魔法』を唱えた。

 

「スクカジャ」

 

短い言葉とともに俺の魂、引いては肉体に秘術による補正が加わる。即ち瞬発力の増強、命中率の向上である。

 

おまけにタルカジャの単語も発する。こちらは筋力の増強および『(パワー)』の向上をもたらす魔法である。

 

これらカジャ系魔法とカテゴリされる魔法は、“本来の名称ではない”。俺が独自に練った魔術の類をCOMPに登録。俺の魔力とパスをつなげることで短い詠唱で発動するように設定してあるのだ。

 

これによって速度を増した俺は敵悪魔の間を縫うように潜り抜けて優先対象へと肉薄する。

 

「もう一匹!」

 

上段からの増強されたパワーによる斬撃を受け真っ二つとなるレギオン。奴の消滅を見届けることなくすぐさま移動して残りのレギオンを残らず殲滅。奴らは『呪殺(ムド)系』の魔法を有する危険な相手である。装備で耐性を付けているとはいえ確実ではない以上は優先して始末する必要があった。

 

次に、宙を浮遊するゴースト系の悪魔を残らず撃ち落とす。こいつらも稀に呪殺魔法を覚えた個体が出現するので注意が必要だ。

 

残ったのは屍鬼系悪魔のみ。奴らは動きも遅く、力もサマナーと比べれば大したことはない。唯一の取り柄は死体ゆえのタフさだが、それでやられるのは新人サマナーだけだ。

 

なので落ち着いて残らず斬り刻む。普通の刀ならともかく、対魔用に鍛錬された愛刀の一撃に耐えられるはずもなく、ゾンビたちは全て物言わぬ肉片と成り果てた。

 

「こちらは終わったが……あとはウシワカか」

 

本堂の悪魔は雑木林から現れた群れよりもさらに数が多かったので時間もかかるのだろう。

とはいえこちらも手隙となったので迷わず援護に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

本堂の内部ではウシワカが大立ち回りを演じていた。

ちなみに屋内に入って気付いたが、本堂内部は『異界化』している。異界化とは力を持った悪魔によって作られた結界のようなものだが、以前に訪れた際にはそんなものは無かった。

そうなると今、ここには強力な悪魔が住み着いているということになる。

 

警戒を強めた俺は周囲の悪魔に銃撃を加えながらウシワカに声をかけた。

 

「ウシワカ、ここには強い悪魔がいるようだ。油断するなよ」

 

「承知しました。ではここからは二人で、ということで」

 

ウキウキしながら応える彼女。まったく、愛い奴よ。

早速、二人でこのエリアに残った悪魔を掃討する。

俺が銃撃で援護し、ウシワカが刀によって前衛を務めるスタイルだ。

初めての共闘だったが存外に上手くいった。たぶん、ウシワカが合わせてくれたのだろう。そういう『加減』もできるということから彼女の実力はもっと高いのだと判断できる。

頼もしい限りだ。

 

 

異界化しているとはいえ、単に空間を拡張しただけのようで本堂内部は別段入り組んでいることもなく、迷わずして結界の主であろう悪魔の元まで辿り着くことができた。

もっとも、COMPにはっきりと反応が出ていたので迷うはずもなかったが。

 

しかし、その悪魔がいるエリア。いわゆるボス部屋に入って、敵を目視した途端に思わず眉を顰めた。

 

ウゾウゾと蠢く二本の触手を頭から生やした橙色の人型悪魔。ぱっくりと身体の正面が開き口元と融合する形で大きな口を形作っている。

言わずと知れたグロ悪魔ピシャーチャである。

 

それを複数体取り巻きのように侍らせ、部屋の奥に控えているのは、より人に似た風貌をした黒色の悪魔、ヴェータラ。ピシャーチャと同じく身体の正面がぱっくりと開き巨大な口を形成している。

一見して色違いみたいな奴だが、ピシャーチャとは隔絶した実力を持つ危険な悪魔である。なにより怖いのはやはりムド。それも|広範囲系の強力な呪詛をばら撒くことができるの《マハムドオン》だ。

怖すぎる。

 

そのヴェータラがなんと三体。

さらにその奥には法師に扮した格好のゾンビ。

 

「ああ、なるほど。アイツが元凶か」

 

距離を空けても感じる強大な魔力、或いはMAG。手にした錫杖に“機械的なディスプレイ”が付いていることから察するに、生前はデビルサマナーであったのだろう。

それがなんらかの理由でこの廃寺で命を落とした末にゾンビ化、その強大な力ゆえに異界化すら発生させて無数の死霊を集めていたわけだ。

 

「おそらくはこの地の邪気に影響されて発生したのだろう」

 

「主殿、指示を」

 

真剣な表情のウシワカに促され気を取り直す。幸いまだ奴らはこちらに気付いていない。部屋に入る前にかけておいた魔法のおかげだ。

『隠形の術』、俺が作ってCOMPに登録した固有魔法の一つだ。

効果はそのものズバリ『気配遮断』。もっとも、慎重に動かねば実力ある悪魔には簡単に見破られてしまう代物だが。

 

「先にヴェータラを仕留めておきたいが……前方のピシャーチャが厄介だ。いずれもムド系の使い手だが、お前、呪殺に耐性はあるか?」

 

「素の耐性はともかく、天狗より学んだ術で強化してありますから。おそらくはその辺の妖に呪い殺される心配はないかと」

 

ほう、それは面白い。天狗より学んだ術……それは鬼一法眼から学んだとされる呪法の類か。

帰ったら聞いてみようと思った。

 

「なら、最初に狙うはピシャーチャ……と言ってもわからんか。あの気味悪い色したウネウネした触手ついた奴だ」

 

「触手のウネウネ、アイツですね! お任せを!」

 

シュパッと駆け出したウシワカはやはり異常なほどの素早さで瞬時にピシャーチャを斬り刻んだ。

俺も慌てて銃を片手に腰の刀を抜く。

 

「アァ……!?」

 

俺たちの奇襲にようやく気付いたヴェータラ三体が慌てて動き出す、が時すでに遅し。ピシャーチャを片付けたウシワカが二体の身体を斬り裂いた。

俺も残った一匹へと銃弾を見舞う。

 

あっという間に取り巻きを片付けられたことに、俺自身驚いた。

 

「お見事です、主殿」

 

「世辞はよせ……ほら、残りはこいつだけだ」

 

俺の言葉にウシワカも気を引き締めてサマナーゾンビを見る。

 

奴は取り巻きがやられている間も静観し、今も落ち着いた様子でーー

 

「っ、まずい、魔法だ!!」

 

その口元がカタカタと僅かに動いているのを見た俺はスクカジャの効果で向上した速度をもってして奴に斬りかかった。

しかし、刀は奴の目前にて弾かれる。

 

「くそ、結界か!?」

 

「主殿!!」

 

その最中に詠唱を終えたらしき奴が魔法陣を浮かべながらこちらに錫杖を向けた。

 

「マズっーー」

 

宙で止まったままの俺に容赦なく振るわれるムド系魔法。錫杖から出でる数多の怨念、憎悪、それらによって作られた呪詛が身体に覆い被さる。

 

「っ、急急如律令!!」

 

身体の自由を奪われる前に、懐から一枚の札を取り出し唱える。

その瞬間、周囲に蠢いていた呪詛が退けられるように霧散する。同時に手にした札も焼き消えた。

 

もしものために常備している『魔除け札』である。

効果は先の通り『呪殺系の無効化』。陰陽道に通じる俺が呪殺対策に作成したものだ。

一度きりの使い捨てな上に『魔神級の魔法は耐えられない』という弱点はあるがこうした不慮の事故を防ぐには事足りる。

 

俺の行動が予想外だったのかサマナーゾンビは骨が剥き出しの口をあんぐりと開けてこちらを凝視している。

そのような隙を彼女が見逃すはずもなくーー

 

「ハァっ!!」

 

奴の懐に入り込んだウシワカが横薙ぎに一閃。法衣に包まれた骨の体を斬りつけるも、両断には至らなかった。

 

「く、硬い!!」

 

しかし、奴は未だ混乱しているようでガシャガシャと骨の音を立てておぼつかない足取りで後退するのみ。俺はすかさず拳銃を乱射する。

 

「っ!!」

 

二発ほどが結界に弾かれるも、三発目で破壊。続けて放った四発が奴の胴体に突き刺さる。

 

「ウシワカ!!」

 

「はい!」

 

俺の叫びに応えた彼女は居合いの構えのままに一瞬で掻き消える。速いとかそういう次元ではなく文字通り視界から一瞬で消えた。

そのことに面食らっていると、今度はサマナーゾンビの方から彼女の声が聞こえてきた。

 

「ーー天刃縮歩」

 

視線を向けると、彼女が鞘から抜刀する瞬間、眩い光が放たれたのを確認する。

 

遅れて、鞘と刃が擦れる音が鳴り響く。透き通るような金属音の後、閃光が絶えた視界にはすでに横へと刀を振るった姿勢のウシワカが映る。

 

「ーーっ!」

 

一瞬の静寂ののち、ゾンビの身体がぐらりと傾き横に真っ二つとなって崩れ落ちた。元の死体へと戻った骨は落ちた端からサラサラと灰になってやがて、こんもりと積み上がった灰の山と化した。

同時に、『異界』を形作る結界が崩壊し、部屋は元の荒れた廃寺に戻っていた。

 

COMPを確認してもう悪魔の反応がないことを確認した俺は一息吐いてからウシワカへと声をかけた。

 

「お疲れ様、今のやつで最後だ」

 

「ふぅ……精一杯尽くしました。主殿、では早速採点のほどを」

 

そこそこ危ない相手だったにも関わらず息も切らしていないところさすがと言うべきか。

それと、彼女の言葉でこれが彼女の『能力試験』であったことを思い出した。

 

「無論、文句なしの百点満点だ。まあ、英雄というカテゴリの強大さは伝え聞いていたから予想の範疇ではあるがーー」

 

ペラペラと語り出したところでウシワカの表情が僅かに不満げなものになっていくのに気付いた。

……だんだんと彼女の『扱い方』にも気付いてきた俺である。

 

言葉を切り無言で彼女に近寄る。そしてその頭にぽん、と手を置いた。

 

「よくやった、誉めてつかわす」

 

そして撫でる。無心に撫でまくった。

 

「あ……主殿!?」

 

困惑するウシワカだが無視して撫でる。ほれほれ、これが欲しかったのだろう?

 

やがて彼女も満更でもないような顔で抵抗をやめた。やはりこうして欲しかったらしい。なんという可愛らしい欲求だろうか。

 

そのまま数十分に渡って撫で続けたところで、ウシワカが声を上げた。

 

「主殿。その、も、もう十分ですので」

 

「そうか? 足りないなら遠慮なく言ってくれ。お前はそれだけの力と功績を示した。率直に頼れる仲魔であると感じた」

 

「主殿……」

 

仲魔との信頼関係は大切だ。そこのところ俺は特に考えて行動しているつもりである。なにせ俺たちデビルサマナーが使役するのは、人ならざる悪魔。大半が人に仇なす宿命を背負った存在ゆえにつまらない誤解から殺し合いに発展することもザラ。

その点、人の霊たる英傑は別物だとも感じる。これまでは未知の存在ゆえに警戒をもってあたっていたが。

こうして共闘してみて、悪魔よりも『人間と交流する感覚』で触れ合う方が良いと分かった。

 

それならそれで、そのように付き合うだけの話だ。

 

……まあ俺自身、彼女の直向きな忠誠心みたいなものに感化されている節が無いわけではないが。

 

撫でる手を止めて今度はその手を彼女に差し出す。

 

「改めて、今後ともよろしく頼む。ウシワカ」

 

「……はい! えーと、コンゴトモヨロシク、お願いします。主殿」

 

どこで覚えてきたのか、悪魔たちの間で長いブームにある『定型文』を付け加えながら彼女は俺の手を取り、握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

ーーこの日、俺は確信した。

 

 

こいつとなら、或いはーー

 

 

 

 

 

ーーかつての悲願()が果たせるのではないかと。




細かいことは気にしないでほしいですけど、素朴な疑問とかあったら感想欄で仰ってくれればお答えします!(安易な媚
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