ーーなに、私の服に文句あるの?
いつかの日。
幼少より共にあり、これからもずっと共にあると思っていた彼女との会話を思い出す。
当時の彼女は
群青色に輝いていた瞳は“紅く”なり、白い薄衣を胸部と腰に巻いていた清廉な姿は、裸体に
故に仮のカテゴリを考えてみた。
『ダークエンジェル……とか、ちょっとカッコよくないか?』
自信満々で告げる。しかし、彼女は不服そうな顔で呻いた。
ーーちょっと、私別に呪殺属性とか使えないんだから。そういう闇っぽいの感じる名前は……。堕天したって私が私なのは変わらないんだからね。
ーーそれに。
ーー堕天したって、何になったって、貴方のパートナーは私だけなのよ?
蠱惑的な声音に胸が高鳴ったのを覚えている。
自分では気付いていないのだろうが、堕天したことでちょっと積極的というか小悪魔チックな部分が出てきたことが驚きで。しかしそれも悪くないと感じた。
「……お館様? 如何なされた」
膝をつく姿勢のままに少女が問う。
……あまりにも見覚えがあり過ぎる衣装と、直近で“痴女スタイル”に見慣れてしまっていたこと。今も傍に裸エプロン娘を侍らせている現状に「そういう性癖なのか」と誤解されていないか。
などなど。
率直に、混乱していた。
思い出すのはウシワカ召喚時の衝撃。彼女の痴女スタイルを見ていなかったら、この一段階上というか別ベクトルの“痴女っぷり”に脳が追いつかなかったかもしれない。
数秒ほど精神安定のために深呼吸を繰り返し、再び少女に視線を移す。
英傑・モチヅキチヨメ。彼女は確かにそう名乗った。
望月千代女と言えば、近年のフィクションにも数多く登場する“クノイチ”の代表格の一人だ。
世間に流布する逸話によれば、甲斐武田氏に仕え、歩き巫女と呼ばれる諜報部隊を率いた女忍者であるという。
……しかし、“忍び”というのは総じて“信憑性のある資料に乏しい”。まあ、その仕事を考えれば寧ろ資料が残っている方が不自然ではあるのだが。そこを突っ込むとそもそもの忍びという存在について懐疑的にならざるを得ない。
というよりも、『悪魔』というのは得てして『幻想』の存在である。歴史的な事実などあまりアテにならない概念だった。
大事なのは『逸話』と、それを知る人々の『信仰』。要は『想い』である。悪魔との戦いで重要なのはソレだ。
とりあえず、ジッと返事を待っているチヨメ殿に応えるべきだろう。
「いや、すまない。なにぶん、『英傑』を召喚するのはまだ二度目でね。物珍しさについ夢ちゅ……考え込んでしまった。非礼を詫びよう」
そう言って頭を下げると、チヨメなる少女は慌てた様子で手を振った。
「そ、そんな、どうか頭を上げてくだされ! 拙者ごとき忍びに頭を下げることなどありませぬ!」
「そ、そうか……いや、そこまで卑下しなくてもいいと思うんだが」
予想外の反応にこちらも戸惑う。……なんというか、どことなく“社畜”の匂いがする娘だ。
そもそも、『英雄』として召喚可能な時点で俺などよりも立派な人間であると思うけど。
たぶん、この娘はそういうことを言っても聞かないタイプと見た。
「じゃあ、とりあえず自己紹介しとこうか。
俺は奥山秀雄、見ての通りのデビルサマナーだ。
……で、えーと、こっちにいるのがーー」
依然としてプレッシャーを放ち、裸エプロンという誤解しか招かない衣装のウシワカの紹介を躊躇する。
……いや、冷静に考えてどう説明すればいいんだこの状況? 痴女二人に挟まれた現状が精神衛生上よろしくないのは確かだが。
そんな俺の戸惑いをよそにウシワカは憮然とした態度で口を開いた。
「英傑ウシワカマルです。同じ主を戴く者として、コンゴトモ、ヨロシクお願いします。チヨメ殿」
裸エプロンで真剣な顔をされるとこっちもどう反応していいか困るんだが……
が、そんな心配は必要なかったらしく。衣装そっちのけでチヨメが食いつく部分があった。
「牛若丸殿!? そ、それでは貴女様はかの有名なーー」
「? ああ、はい。この身は牛若丸……源義経と同一人物ですよ」
「や、やはり! 源義経殿と言えば数多の伝説に語られる偉大な英傑……そのような御方と共に働けるとは、恐悦至極…………なのですが、その御召し物は、え、と」
そこでようやく裸エプロンに言及するチヨメ。いや、君も人のこと言えないと思うけど、という言葉は心にそっとしまう。
というか『SR:裸エプロン牛若丸』という衝撃的すぎる光景が、義経が女であるというもう一つの衝撃を打ち消してしまっている感がある。
「む、この衣装が気になるのですか? ……むむ、チヨメ殿にも教えてしまうのは些か危険な気がするのですが。まあ、いいです。
これなる衣装の名は『裸えぷろん』!!
主殿はこの衣装が大層お好きなようで、この装いでいればやる気も関心も急上昇! ……な素晴らしい“あいてむ”なのです!
同僚たるイヌガミ殿に教えていただきました!」
「は?」
酷すぎる冤罪に思わず声が出た。
……というか、やっぱりそういう事言っちゃうんだなお前は!! なんとなく分かってたけど!
あと、別に裸エプロンが好きなわけじゃない! 断じて!
……嫌いでもないけどな!
「やはり! この装いに変えて久しいですが、毎日主殿の視線を感じていたのです。それに見合うほどウシワカに構ってくれますしね!」
ナチュラルに思考を読むな!!
……え、顔に出てた?
そんなぁ……。
「な、なるほど……此度のお館様の趣向はそのような」
必死にウシワカへと抗議する俺を眺めていたチヨメがぽつりと呟いた。
「違うからね!? 別に裸エプロン強要するような変態じゃないから!」
「そうですよ! 主殿はそこまで下半身に正直ではありません! どちらかと言えば……えーと、なんでしたっけ? むっつり?」
むっつりでもねぇよ!!
ただ、ウシワカの顔を見る限りあまり意味は理解してないように思う。そもそもこいつは“そういうの”には無頓着だからな。
「チヨメちゃん、全部誤解だからね? 俺は別にそういう変態趣向は持ってないから」
「し、承知にござる……?」
なんで疑問形なんだ……。
その後、小一時間ほどチヨメちゃんの誤解を解くために詭弁弄言を駆使してなんとか納得してもらった俺は、妙な疲労感を感じながら奥部屋を後にした。
召喚からこの方、彼女の言動からして特に“危険”のない悪魔と判断できたので、とりあえずはオサキたちにも紹介しようとリビングまで連れてくる。
「ーーというわけで。これから仲魔として一緒に働いてもらうモチヅキチヨメちゃんだ」
「英傑モチヅキチヨメでござる。
……拙者は忍びにて、先達方のような戦働きは不得手でござるが。偵察、斥候、その他諜報活動は任せていただきたく。
……あ。
どうか、コンゴトモヨロシクお願いするでごさる」
膝をついて丁寧な挨拶で会釈するチヨメ。とても礼儀正しい子だと思った。
「チヨメ……? ああ、いつか甲斐国で活躍したとかいう忍びのーー」
予想外にもチヨメの名に反応を示すオサキ。
「はい。生前は、甲斐は武田家の方々をお館様と仰ぎ、忍びとして仕えておりましてございまする」
「そうじゃったそうじゃった。夕凪にもかつて『歩き巫女』なる娘どもがやってきてのぅ……ワシの夕凪で、怪しくも何やら探っておるようじゃったから捕まえてちょいと“仕置き”をしてやったことがあったのじゃ」
「え」
「その時に吐かせた名がチヨメじゃったか。いや、チヨジョ? まあそこら辺はあまり覚えておらんが」
カラカラと笑うオサキに、冷や汗を流すチヨメ。
次の瞬間、チヨメは再び頭を下げた。
「こ、これはご無礼を……! なんとお詫びしてよいものか」
「え? ……ああ、別に気にしておらんぞ!? もう何百年も前の話じゃし。特に夕凪に害なすことも無かったのでちゃんと帰してやったしの!」
「温情、有り難く……」
ずーん、としたオーラを出しながら頭を下げ続けるチヨメに、オサキ含め俺もどうしたものかとあたふたしてしまう。
なんだろうこの娘、生真面目が過ぎるんじゃないか?
「気にしない気にしない! オサキもああ言ってるんだし。なにより俺らサマナーは普段から妖怪変化と斬った張ったしてるんだから、因縁とか今更な話だよ」
「そうそう、ワシなんかこの前、“邪道に堕ちた破戒僧”を吹き飛ばしちゃったけどなんともないからの!」
そういや涅槃台にトドメ刺したのはオサキだったかと思い出す。
……オサキの言葉で思い出したが、涅槃台ってそういや一応、僧侶だった。日本の逸話では、僧をヌッコロした奴は大抵ロクな目にあってないからな、相手がたとえ破戒僧だろうとも。
……一応、後でオサキに呪殺防御の術式を掛けておくか。
「皆さま方、拙者のような忍びになんとも温かい御言葉を。
……ですが拙者は忍び、影の者にて。これよりはお館様を影よりお守りすべく、どうか拙者のことは気になされぬよう」
恭しい態度のままに静かにチヨメは告げた。
……硬い硬い! 硬過ぎるよチヨメちゃん!!
「そ、そう……」
ほら、オサキだって若干引いてるし!
ウチの連中はみんな“ラフな付き合い”に慣れ親しんでるから、ここまでお硬い反応をされるとどう返したらいいのか戸惑ってしまう。
ウシワカだって礼儀正しく見えて慇懃無礼の塊だし。
唯一、チヨメと合いそうなのは公私の区別をきっちりしてるクダか。
ちなみにクダは今、オフということで旧友のもとに遊びに行っていて不在である。というか、オフの日はだいたいどっかに遊びに行ってるので帰ってくるのは夕刻過ぎ。
なんだかんだとOLみたいな奴なのだ。
ともかく。
チヨメちゃんのお堅さは少々目に余る。
これでは仲魔たちもどう絡んでいいのか悩む…………ことはないな、うん。
ウシワカもイヌガミも、そこら辺特に気にしない性格だし、一番気まずい思いをするのはオサキだけだった。
なら、別にいっか……。
「うん……じゃあ、そういう感じで」
「ちょ、投げやりな対応はやめよ! ワシだけなんか気まずいまんまではないか!!」
必死に吠えるオサキ。
えー、だって他の仲魔は特に気にしないし。“影から守る”ってことは俺だけはチヨメちゃんと話す機会は多いってことだろうし。
「……そういうことだよね?」
「はい、これよりはお館様の邪魔にならぬよう影から常にその身をお守り致しまする。御用の際は一言呼んでくださればと」
お、おう、そこまでしてくれるのか。……プライベートとか考慮してくれるのかな。
予想以上のボディーガード具合に若干引く。
「まあ、とにかく、俺とはコミュニケーション取ってくれるっぽいし」
「もちろんでございまする。お館様の命であれば如何様な任でも。必ずこなしてみせる所存。他の方々ともお味方である以上は……まあ、それなりに話は聞くでござる」
「それなりってなんじゃ!? 思ったより図太いなこの娘!」
「オサキ殿……どうかご容赦を。拙者はお館様の忍びなれば。お館様を第一に考えるのは当然にて」
「くぅ……この娘、生真面目が過ぎて逆に無礼じゃないか!?」
なんとも言えない、と言った表情で地団駄を踏むオサキ。……でも、うん、俺もそう思ったよ。
ここまでの会話で、なんとなくだがこの娘の気質のようなものが見えてきた気がする。
「ーーこれで一通り紹介し終えたかな?」
ウシワカ、オサキ、イヌガミと自宅に常駐している仲魔は……いや、“地下のマカミ”がまだだったか。
だが、そちらはウシワカにもまだ紹介していないしする必要もないのでスルー。
一先ず、リビングにいる仲魔との挨拶を済ませた俺はチヨメに声をかけた。
「他にも二体くらいいるんだけど、今はタイミングが悪くてね。後日改めて紹介するよ」
「承知」
短く真面目な声音で応えるチヨメに苦笑する。
ーーとはいえ、マジのガチで四六時中ボディーガードされてもちょっと困るのでなんとか彼女に仕事を割り振ってやりたい。
「チヨメちゃんって、忍びなんだよね?」
望月千代女という人物については真贋含めても逸話に乏しいために、その正体も文献や創作作品によって様々だ。
無論、一番取り扱われているのは女忍者たるくノ一としてのチヨメだが。モノによっては清廉な巫女であったり妖しげな術者だったりもする。
よって、改めて忍者であると言われると新鮮味を感じる。
「はい……あ、他にも警備や買い出し、家事であっても十全にこなしてみせまする」
何の気なしに応えた彼女の“家事”という一言に、先ほどまで無関心だったイヌガミがピクリと耳を揺らした。
「ン、家事? オマエハ家事ガ出来ルノカ?」
「は、はい。炊事、洗濯、掃除……なんでも御言いつけくだされば」
予想外のところからの反応にチヨメも驚いた様子で応える。
そんな彼女をジッと見つめたイヌガミは、しばらくして深く頷き俺の顔に視線を移した。
「……主ヨ、提案ナンダガーー」
「い、いけません! イヌガミ殿!!」
話を遮るかのように、何かを察したウシワカが割って入る。
そのままイヌガミの正面に立って捲し立てるように述べた。
「この家の家事担当は私、牛若丸です! これは主殿から賜った命でありいくらイヌガミ殿といえど勝手な人事異動は許しませんよ!
それに!
私ならば通常の家事のみならず、一工夫加えた“おもてなし”の提供、なにより家事の合間に自宅“周囲”で怪しげに振る舞う野良悪魔の討伐とてこなせます!!
これは私だからこそ出来る“さーびす”、わざわざ変える必要などありません!」
「ム、ムゥ。シカシ、ソノ“サービス”ガ“余計”デアルコトモ多イ。ソモソモ、ソノ“勝手ナ戦闘”ニ我ハ困ッテイルノダガ」
「な!?」
そんなまさか! というリアクションで固まるウシワカ。
うん、確かに、偶に余計なことしちゃうよね……というかやっぱり日中、外から聞こえてきてた悪魔の断末魔は幻聴ではなかったらしい。
いくら怪しくても自宅周囲にいるからって勝手に討伐しちゃダメでしょ。あんまりやり過ぎると悪魔界隈で俺の悪評が広まるので勘弁してもらいたい。
「……というか、自宅周囲に出る程度の悪魔ならチヨメちゃんでも対処できるのでは?
ねぇ、チヨメちゃん?」
なんとなしに視線を向けるとーー
「……(ここで承知すれば確実にウシワカ殿に恨まれる、しかしお館様に嘘偽りを申すわけにも……という表情)」
非常に困った様子で沈黙していた。
俺でも分かるくらいに悩んでいらっしゃる……難儀な子。
そんな彼女の苦悩に全く気付いていない様子のウシワカは、イヌガミ相手では埒があかないと判断したのか今度はチヨメに矛先を向ける。
「チヨメ殿からも仰ってください! 家事その他主殿のお世話はこのウシワカにお任せくださいと!!」
「うぇ!? せ、拙者は……そのーー」
「何を悩むことがあるのです!?
このウシワカ、現代においても童謡に歌われるほどに語り継がれていると聞き及んでいます! ……正直、ちょっとこそばゆいのですがそれはそれ。
千年を経た時代の童子にも人気のこのウシワカこそが相応しいのは“かくていてきにあきらか”です!!」
おどおどするチヨメちゃんに畳み掛けるように述べる。押し売りにも程があるでしょ……というか、またネットから変な言葉覚えてきてるし。暫くネット禁止にした方がいいなこれ。
そして、流石にチヨメちゃんも可哀想になってきたので助け舟を出すことにした。
「どうどう、落ち着けウシワカ」
「主殿! 主殿が一言“任せる”と言ってくださればウシワカはなんでも致します! ……あ、なんでもはちょっと言い過ぎたかも。
“だいたいなんでもします”!」
だいたいなのか……いや、今でも十分貢献してくれてるから特に不満とかはないが。
「それともまさか……主殿も、私よりチヨメ殿の方がいいと?
あ、主殿……?」
返答に悩む俺に、一転、捨てられそうな子犬のように目をウルウルさせるウシワカ。くっ、なかなか俺のツボを押さえてるじゃないか。
しかし、確かにウシワカの“やり過ぎ”には少し困っていたところ。ここらで少しだけクールダウンしてもらった方がいいだろう。
「うーん……俺は、チヨメちゃんに任せてみてもいいと思う」
「っ!!!!」
俺の言葉に、ウシワカは一瞬電気でも走ったようにビクリと反応して。そのままゆっくりと膝をついた。
「主、殿……」
項垂れ本気で落ち込んだように顔を伏せるウシワカの様子にこちらも慌てる。
「いやいや、そんな落ち込むなって。別に不満があるわけでもないしーー」
「では、ウシワカにお任せいただけるのですね!?」
ガバッと顔を上げてキラキラした視線を向けるウシワカ。その切り替えの速さにしばしばついていけない俺がいる。
「いや、ウシワカにはここらで“休暇”というか“休み”みたいのを与えてもいいかもと思うんだ」
「休暇!? い、いえ! 私は決してそのようなものを望んでは……!!」
「これもいい機会だし、数日くらい旅行にでも行ってリラックスしてきたらどうだ?」
言ってて気づいたが、召喚してからこの方、ウシワカにはずっと何らかの仕事を任せていたし悪魔退治でも必ず一緒に連れて行っていた。……先日の“冬木”には連れてかなかったが、それが原因でここ最近は拗ねていたし。
こちらに信頼と忠誠を向けてくれるのは素直にありがたいが、ずっと働き詰めなのも、いくら元気潑剌なウシワカとはいえよろしくないだろう。
そう思っての発言だったのだが。
「休暇……ウシワカに、休暇。主殿は遂に、私に飽きてしまわれたのでしょうか? ウシワカはずっと主殿を慕っているというのに……うう、先日の戦いで“信頼”を向けてくださったのは嘘だったと言うのですか? ううう……」
がっくりとうなだれてすすり泣くウシワカ。
「えぇ……? 普通は休暇与えたら喜ぶと思うんだが」
オサキもイヌガミもクダも、みんな休みを与えると大喜びで家を飛び出していたものだ。……最近は特にそんなこともなくずっと家でダラダラしているが。未だに休みの日出掛けているのはクダのみだ。
だが、ウシワカにそれは不要らしい。本気で落ち込んでる様子からみて間違いない。
こっちもなかなか難儀な子だ……。
「え、えーと、じゃあ、討伐依頼とかやってみるか?」
ただの休みだけでは不満なら、逆に用を言いつければそれなりにリフレッシュしてくれるのではと考えた。
「討伐……?」
案の定、先ほどまでの落ち込んだ様子とは打って変わって、興味深そうにこちらを見ている。
「うん。ほら、最近は自宅の修繕とか色々あってオウザン宛ての依頼が結構溜まっちゃってるんだよね、もちろん急を要する依頼は対処済みだけど。
……そんでちょうど良さそうな討伐依頼が何個か入ってるんだ。でも一個一個対処してると無駄に時間が掛かってしまう。
そこで、ウシワカに分担して討伐に当たってもらいたい」
そう言って、カタカタとガントレットを操作した俺は、依頼の情報が映る画面を幾つか空中に“ホログラム”として投影する。
最新機種たるガントレットに搭載された常備機能である。
「吸血鬼に凶鳥退治、オーガの群れの討伐もある。どれもウシワカなら確実に“任せられる”と思うんだが」
空中に投影された複数の画面にはそれぞれの依頼内容と情報が記載されている。
“あの魔術師”の討伐以降、急激に動き出した吸血鬼たちや以前から確認されていた“曰くつきの場所”に集まるようになった凶鳥たち。大陸から渡ってきたオーガ群を纏めて退治してほしいというなかなか豪快な依頼まで載っている。
……実のところ、久しくウシワカには戦闘行為をさせていなかったのでだいぶフラストレーションが溜まっていると考えていた。加えて“廃寺”の一件以来妙に“大人しく”なってしまったことも心配していた。
なので適度な討伐依頼を与えてやればいい気分転換になると思っていたのだ。
「どれでも好きな依頼を選んでいいぞ、なんなら全部でもいい。
……しっかし、こんなに依頼ばっかあると俺も大変だ。もしウシワカに何個かやってもらうとすごく助かるんだけどなぁ」
後半はだいぶ態とらしい言い方になってしまったが、生憎と演技は大根なので批判は受け付けない。
「っ!! 主殿!」
しかし、ウシワカには効果抜群だったようで、やる気に満ちた瞳を俺に向けてきた。よしよし。
「ん?」
「これを全部こなせば、主殿は私を褒めてくださいますか?」
ど直球になかなか可愛いことを聞いてくる彼女に、不覚にもキュンとした。
「お、おう。本当に全部やる気なのか」
「もちろんです! 敵将の首を持ってくるのは得意中の得意! 主殿はどうにも首がお嫌いだと思っていましたが、やはり首が欲しかったのですね!」
やる気が溢れすぎて誤解に繋がっている。俺は別に首が好きなわけではない、ないが……
「……うん、大好きさ!」
せっかくやる気になった彼女を落ち込ませてもしょうがない。俺は今年一番の笑顔で答えた。
「やはり!! 首、いいですよね! こう、切り口から滴る血を地面に落としながら主君の下に持っていく快感……なかなかにやり遂げた感がありますよね!!」
嬉々として猟奇的なことを語るウシワカは笑顔だ。
そのことに若干げんなりするが、今更なので引きはしない。俺がうまく手綱を握ってやればいいだけなのだから。
「……そして俺以外に手綱を握れそうなのは、
オサキ!!」
「ぬおっ!? わ、ワシか!?」
突然指名されたオサキは、ソファから転げ落ちそうなほどに驚いていた。
「ああ、お前しかいない。お前はこれからウシワカと行動を共にし、討伐その他サポートに回ってくれ」
「なんじゃと!? 普通にお断りなんじゃが!? というかこのブレーキの壊れた忠犬を操れるわけなかろう!」
なかなか的を射た比喩に感心する。
「感心するな! そもそもお主とて手綱を握れているとは言い難いぞ!?」
……。
それは、言うな。
まあ、真面目な話。いくらウシワカとて一人でほっぽり出すのは心配だし普通に危険なのでサポートとして仲魔を付けてやりたい。
その中でウシワカの面倒も見れてサポートも十全に出来る仲魔というとオサキが適任となる。
彼女自身、なんだかんだで面倒見もいいし長年の経験からか知恵も回る。
「お前にしか頼めないんだ……」
「泣き落としは効かんぞ。お主の人となりは十全に把握してあるからの」
くそ、可愛くないヤツめ。
ツン、とそっぽを向く幼女狐はテコでも動かないつもりらしい。ソファに根を張るが如くしがみついている。
ならば、と俺は切り札を切る。
「この仕事が終えたら、お前に夕凪での自由行動を認めよう」
「なんとっ!?」
ほら食いついた、身を乗り出して目を見開いていらっしゃる。
「涅槃台も無事に討伐……したっぽいし、今のところ復活したという話も聞かない。ダークサマナーたちも特に事件とか起こしてないし。
最近の平穏無事な界隈を見る限り、今ならば自由行動を許しても大丈夫だと判断した」
「そ……そうじゃな! うん! 最近はめっちゃ安全っぽいし! そもそも夕凪はワシのテリトリーなのじゃから易々とやられるはずもなし!
……まあ、なんじゃ。
とりあえずウシワカのことはワシに任せておけ!!」
「全力で任された!」と満面の笑みで語るオサキに少し不安を覚える。お前、そんなチョロさで大丈夫なのか? 本当にウシワカの面倒見られる?
ただ、こちらも非常に嬉しそうな様子に苦言を呈すのは憚られた。
まあ何はともあれ。
これで厄介ばr……もとい、チヨメちゃんのデータ収集に集中することができる。
ーー英傑召喚式の研究……それはつまり『未知の召喚式』の解明ということ。
『未知』であるということは『あらゆる可能性』があるということでもある。
『秘神』『珍獣』『狂神』とこれまでさまざまな『特殊召喚式』を調査してきたがさしたる『成果』は得られなかった。
だが。
今度こそは。
この英傑召喚式ならば、或いはーー
ーーーー『彼女』を再び召喚することができるかもしれない。
バニー師匠かわいい…
そして今、私は四年越しの沖田さんに涙を流しています。
【おまけ】
奧山秀雄:固有スキル
【一意専心(哀):ランクEX相当】
パッシブスキル。
既に死した恋人をひたすらに想い続ける彼は魅了攻撃を完全無効化する。また、あらゆる精神干渉は意味を為さず、そのような彼が既にまともな精神を維持しているはずもなくーー
『叶わない奇跡』を追い求め続ける妄執者には『愛』の囁きは届かない。彼にとって『恋人の復活』以外は全て些事であり、『恋人の復活』以外の報酬は虚しさしか生まない。
『ただ一つ』に執着してしまう彼は常日頃から『悪の誘惑』に抗うことを強いられている。
これを癒すのは、亡き恋人との思い出に匹敵する『恋』のみである。
【紳士の心得(変):ランクEX相当】
パッシブスキル。
彼は“未成熟な女性”に無意識的に興味を抱いてしまう病気に罹っている。俗に『ロリ』と呼ばれる女性に対しては非常に紳士的になったり親身になったり優しくなったりする。
また、相手がロリの場合に限り先の『魅了無効スキル』がランクD-相当にまでランクダウンしあらゆる精神攻撃に対して不利な判定を受ける。
反面、味方にロリがいる場合に限り全ステータスが二段階ランクアップし毎ターンHP自動回復状態が付与される。
……彼の名誉のために捕捉すると、このような『性癖』になってしまったきっかけは幼い頃に出会った初恋、ひいては『かつての恋人』の影響である。
人間ではなく悪魔であった彼女は肉体的な成長が、人のソレとは異なり必然的に“幼い容姿の彼女”に惚れている期間が長引いたために自然とそのような趣向に変質してしまったものと見られる。
なお、本人はこの二つのスキルについて全く認知していない。