英傑召喚師   作:蒼天伍号

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平日レイドやめよう?










陰の者・三

ーー都内某所。

 

永田町に位置する建物。表向きは“政府機関”とされながらも実態は“軍事施設”に相当する、限りなく“グレー”な建造物。

 

『現防衛大臣』が秘密裏に保有する“研究機関”でもあるこの場所は現在、混乱の只中にあった。

 

 

「第五区画閉鎖……間に合いません!」

 

「鎮圧部隊、第二から第六まで反応消失!」

 

「対悪魔用迎撃機構、全て突破されました!」

 

「ぬぅ……」

 

施設最奥にある中枢部、無数のモニターと機材が立ち並ぶ司令室にて責任者たる男は呻いた。

口々に最悪の情報を告げてくる通信士たちに耳を貸さずとも、モニターに表示される『情報』だけで戦況が圧倒的に不利なのは理解できた。

 

そして、モニターの幾つかに映る“異形の姿をした人型”を見て忌々しげに舌打ちした。

 

「“あの兵器”……まさか本当に見つけてくるとは」

 

男の脳裏に浮かぶのは、彼の上司がかつて“政界から追放”した前防衛大臣の姿。

風の噂で、今も“生き残り”上司へと復讐を果たそうとしているのは知っていた。その道具として、かつて『帝国』が生み出した『兵器』を探しているということも。

 

だが、戦後の混乱で“消失”したと聞いていた兵器をまさか本当に見つけるとは思っていなかった。

 

とはいえ、目の前でその噂通りの強さを見せつける兵器を見せられては信じるより他にない。

 

「っ、ともかく“大國(おおくに)大臣”に報告を急げ!」

 

激しい混乱と動揺に苛まれながらも男は努めて冷静にあろうとしていた。

大國大臣の部下として活躍して早二十年、若手ながら優れた手腕と才覚を以って政界に食い込む大國には敬意と称賛を抱いている。

たとえ年下だろうと決して侮ることはないしその決断には常に理解を示してきた。

彼ならば“この国を任せられる”。

 

ゆえにこそ男は迷わなかった。

 

「対悪魔部隊は全員撤退させよ! アレはまだ失ってはならない、必ずや大臣のもとへとお届けするのだ!」

 

「そ、それでは施設の防衛が……!」

 

狼狽る通信士に男は一喝した。

 

「この施設は放棄する!! 故に部隊は撤退させ次第お前たちも退避せよ!」

 

「は、はいぃぃ!」

 

現代人らしからぬ気迫を見せた男に、通信士たちは慌てて部屋を飛び出した。

当然、機材やモニター、通信機器などもほっぽり出して。

 

我先にと逃げ出す通信士たちの姿に苛立ちながらも、彼らが放り出した通信機を手に取り、施設内へと展開する全部隊へとチャンネルを合わせた。

 

「全員撤退せよ! 合流地点は『新本部』だ、急げ!!」

 

『っ、了解!!』

 

男の鬼気迫る声音に一瞬息を呑みながらも、ほぼ全員が了承の意を伝え通信を切った。

ところが、その中の一つ。まだ若手の隊員の通信機から怒声が響いた。

 

『できません! そんなことをして、施設の防衛はどうするんですか!?』

 

「施設は放棄する! 既に必要最低限のデータは“大臣”に送信済みだ、それよりも君たち……対悪魔のエキスパートである君たちを失うことの方が痛手となる」

 

『所長……』

 

「故に、行け! ……“御国”の未来、頼んだぞ!!」

 

覚悟を決めた男の言葉に、若手隊員は涙を呑んで答えた。

 

 

ーーその直後、司令室の扉が細切れ状態で吹き飛んだ。

 

凄まじい爆音となって響いた破壊音に男は機材全ての“データ”の抹消と“電源”を落としてゆっくりと振り向いた。

 

破壊された扉のあった場所に佇む“異形の姿”を視界に収める。

 

「来たか……」

 

圧倒的な威風と“MAG”を放って佇む悪魔を前に、しかし男には対抗する術がなかった。

当然だ、政治家として卓上の戦いしか経験したことがない彼にいきなり高位悪魔と戦えという方が無茶な話。

 

だが、この施設の責任者として。“この悪魔”が狙うのは自分であると理解していた。

 

 

「……」

 

“自ら”を前に、動じることなく堂々と立つ男に“異形”は少しだけ驚いた。だがすぐに、“憎しみ”を込めた声を発する。

 

「……貴様も()()()()の犬だな?」

 

異形の姿でありながら、ハッキリと人間の言葉を発する悪魔に男は驚いた。しかし同時に、その内容が身に覚えないことにも動揺した。

 

「た、タマガミ……?」

 

「人間だろうが悪魔だろうが、誇りと憂いを売っちまった輩は斬る」

 

濃密な殺気を放つ悪魔へ、男は誤解を解くべく声を発した。

 

「待て、私たちは大國大臣のーー」

 

ーーしかし、男を完全に“敵”と認識していた悪魔に声は届かず。疾風の如き速さで見舞われた一太刀のもと、男は()()()()に斬り裂かれ床に倒れた。

サマナーでも、魔術師でもない男がそのような状態になって生き残れるはずもなく。痛みを感じる暇もなく絶命した。

 

 

一方、逆手に持った小太刀に付着する血液を払った悪魔は、怒りに身を震わせながら誰にともなく呟いた。

 

「先にあの世へ逝って待ってな、すぐにタマガミと対面させてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       

 

 

 

 

 

 

 

「東京……でござるか?」

 

御盆からテーブルへとグラスを置いたチヨメちゃんは不思議そうに答えた。

 

俺はグラスを満たすギンギンに冷えた麦茶を一口、喉へ流し込んでから口を開く。

 

「ああ、現在の日本では首都……まあ都にあたる場所だ」

 

「み、都にござるか……そんな場所に拙者のような忍びを連れて行くなど。いや、だからこそ危険もあり得るということでござるか?」

 

真剣な表情で応える彼女に苦笑する。

 

「まあ、あながち間違いでもないけど……」

 

色んな意味で“危険”なのは語るまでもないことだ、が今回は観光ではなく協会を通した正式な依頼。久方ぶりとなる協会本部直々のご依頼なのだ。

 

「ここんところ無駄な出費が多かったからな、ここらでデカイ仕事もやっておかないと」

 

涅槃台絡みの事件から始まり、自宅の修繕とか冬木の調査とか。

冷静に計算するとバカにできない数字となった。

老後の隠居生活を考えると蓄えは多い越したことはない。

 

故に、メールで送られてきた依頼に二つ返事で了承した。

 

 

 

 

協会直々の依頼、内容は主に都内各所の“良くない場所”の調査及び悪魔の掃討である。最近、大人しくしていた悪魔たちが活発化し、新たな悪魔の出現も確認されたためにこの依頼が出されたのだとか。

 

以前、吸血鬼の依頼を探していた際に見かけた『新宿御苑』の戦い。あの大天使討伐云々とかいうヤバイ依頼の話だ。

協会によると、この戦いは御苑に形成された『異界』で行われたらしいのだが。結果として両者痛み分けに終わったという。

戦いの際には先述の依頼を受諾した『十六代目葛葉ライドウ』が奮戦し、天使・悪魔双方の軍勢に甚大な被害を与えたことが終結の要因となったらしい。……いや、マジで“コイツ”の活躍は凄まじかったらしく、天使側では『大天使ハニエル』、悪魔側ではなんと『魔王アリオク』を討伐したという。あの『肉団戦車(ガチ)』を討ち滅ぼすなど、俺にはとても考えつかない偉業である。

 

……が、その結果として。悪魔同士の激しい衝突に影響された周辺地域の悪魔たちが活発化してしまったというのが真相だ。

まったく傍迷惑な話だが奴らはだいたい、世界のどっかで小競り合いを繰り返しているので今更な話でもある。

 

 

 

ともかく。

 

そのような事情で発生した面倒な仕事ではあるが、協会直々ということもあって報酬は申し分ない。協会職員から話を聞いた限りではさしたる脅威もないようなので引き受けたわけだ。

 

 

俺はもう一度グラスを傾け一息ついてから話を続ける。

 

「ウシワカの方はまだ半分ほど依頼が残ってるらしくてな、東京にはイヌガミとチヨメちゃんを連れて行こうと思う」

 

どうせ出てくるのは木っ端な亡霊どもか小粒ばかりだろうし、今日までのデータ収集でチヨメちゃんならば中級くらいの悪魔にも立ち向かえると判断できた。

ちなみにクダは、生意気にも休暇延長の申請をしてきたので今日も留守である。

……小耳に挟んだ噂では、友達のもとに入り浸ってなにやらコソコソと“秘密の特訓”とやらを行っているらしいが。

 

正直、興味ないのでスルーした。まあ、大方新しい“8◯1本”にでも熱中しているのだろう。最近は“おっきー”なる趣味友達も出来たらしいし、鎌倉で無茶をさせた分ここらで存分にリフレッシュしてくれると俺も嬉しい。

 

「承知にござる。お館様の主命とあらばこのチヨメ、身を粉にし全力を尽くす所存」

 

御盆を傍に抱え膝をつくチヨメちゃん。

……もはやこの行動にも慣れてしまっている節がある。別に不都合はないしな。

 

「とはいえ、出発は明日だ。今日はゆっくり過ごして明日に備えよう」

 

「はっ」

 

「……そこで、だ」

 

キビキビ応えるチヨメちゃんの肩をポン、と叩く。

そこで何かを察したイヌガミがソファからガバッと起き上がった。

 

「オイ主、マサカ……」

 

僅かに震えながら、無駄に真剣な顔で問いかけてくる彼に笑みを返す。

 

「そのまさかだ」

 

そして俺はーー

 

 

 

ーーーー背中に隠していた一升瓶を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩。

 

俺たちはリビングにて酒宴を開いていた。

 

「アオォォォン! コノ酒美味イナ!! ドコデ買ッテキタンダ?」

 

盃を両手に持ちながら興奮気味に声をかけてくるイヌガミ。彼は俺と違って日本酒好きなのだ。

 

「八角酒店ってとこだな。前は天海市に店を構えていたらしいんだが、最近、こっちの方に引っ越したらしい」

 

「八角……覚エタゾ」

 

今度の休みに買いに行こう、とせびる彼を宥めながら俺も缶ビールを呷った。

 

現在時刻午後八時二十分。すでに宴を開始してから二時間ほどが経過しているが、俺もイヌガミもまだまだ物足りない。

目の前のテーブルには、俺が密かに買い溜めていたおつまみ類各種と。チヨメちゃんが即興で作ってくれたつまみ類が並ぶ。

冷蔵庫にあった余り物を上手く活用した手料理に思わず感心した。

 

「さすがチヨメちゃんだな!」

 

「喜んでいただけたようでなにより、でござる」

 

酒を片手に騒ぐ俺とイヌガミに対して、チヨメちゃんは粛々と給仕の役に徹していた。

若干酔いの入った俺の言葉に、チヨメちゃんは微笑を浮かべてせっせと空き皿の片付けを行う。

 

「ふーむ」

 

そんな彼女の姿をしばらく観察する。

 

服装はいつもの、俺が貸し与えた青いダボTであるが。……良く見てみると()()()()()()()()()()()()()()に気がついた。

 

「ちょっと。ちょっと待って?」

 

「? 如何なされた?」

 

皿を重ねてキッチンに向かおうとする彼女を慌てて引き留めた。

……俺の予想が正しければ、彼女は現在進行形でけしからん服装をしていることになるからだ。

 

「いやまさかとは思うんだけどね? ……下、なんか履いてる?」

 

「? え、と。下着は身につけてござるが、それがどうかされたでござるか?」

 

「下着」

 

「はい」

 

あっけらかんと応える彼女に、思わずオウム返ししてしまう。

下着、下着と来たかぁ……やっぱ痴女じゃねぇか!

 

自宅とはいえ、あまりにもあんまりな服装に俺はため息をこぼしつつ衣装棚へと向かう。

家に幾つかある棚の中でも“ヤツの忘れ物”をぶち込んである棚である。

その中をゴソゴソと漁って、サイズの合いそうなズボンを探す。

 

 

「お館様?」

 

そして、探し当てた短パンを無言でチヨメちゃんに手渡した。

 

「これ、履いて」

 

「なにゆえーー」

 

「履いて!!!?」

 

「は、はい!?」

 

有無を言わせない俺の声に、チヨメちゃんは慌てて短パンを履いてくれた。……これで一安心である。

まったく、ウシワカが居ないからと完全に油断していた。

ウチにはもう一人、痴女属性な子がいらっしゃったわけだ。

“大惨事”を引き起こす前に気がついて良かった。

 

「お館様、なにゆえこのようなお召し物を拙者に……」

 

真面目に訳がわからない、といった様子のチヨメちゃんを見る限りあまり羞恥心的なものが育まれていないことを悟った(偏見

ゆえに、早々に説得は諦める。なにせウシワカの時に撃沈済みだからね!

言っても聞かないウシワカは、さすが義経と言うべきか(?)。

 

別に、仲魔に欲情するほど性に飢えているわけではないが。この年になると、さすがに若い(見た目の)娘がけしからん衣装をしているのを見るのは“痛ましく”感じてしまうのだ。

心苦しいとも言う。

 

「冷えたら大変だからね」

 

「拙者、この程度では体調は崩さないでござるが……悪魔だし」

 

方便に決まってんだろ、察しろよオラァ!?

……と言ってしまうとパワハラになってしまいそうなのでぐっと堪える。

そうしてチヨメちゃんを連れて宴の席へと静かに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在時刻午後十一時半。

俺たちは相変わらず宴を続けていた。

まだまだ宴は始まったばかりである()。

 

「ーーソレデナ? 我ハ言ッテヤッタ訳ダ。

 

『ソノ様ナ覚悟デ、我ガ前ニ現レタノカ!!』トナ」

 

「うんうん」

 

午後九時を過ぎたあたりでイヌガミのスイッチが入ってしまった。

親父特有の武勇伝&長話である。

今は彼が『飢怨権現』だった頃に彼のもとにやって来た未熟者の修験者を相手にしたときの話を聞いている。ちなみにこれで五回目だ。

 

「ソウシタラナ? ドウイウ訳カ、其奴、逆ギレシテキテナ。

 

『お前なんか数百年ボッチだろ!』ト宣イオッタ」

 

「うんうん」

 

「コレニハ我モ“ブチッ”トキテシマッテナ。頭ニキタカラ、其奴ヲ頭カラ“ガブッ”ト喰ラッテヤッタノヨ。……ワッハッハッハ!!」

 

「へー」

 

突然笑い出した彼についていけず。とりあえず返事だけはしておいた。いや今のどこが笑いどころだったんだ……?

 

……というかそんなバイオレンスな話されても反応に困るんだが。

ちなみに血生臭い話はこれで十個目である。さっきは、説法に来た僧侶を『何言ってんだコイツ?』みたいなノリで食い殺した話を聞かされた。……そのとりあえず食い殺す癖やめよう?

 

……っていうかコイツも僧侶殺してたのか! 仕方ないからオサキに掛けたのと同じ『テトラジャ』を掛けておこう。

 

 

その後も同じくバイオレンスな話を延々と、しかも何度も繰り返す彼に付き合いつつ、時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在時刻。午前零時十分。

散々長話をしていて疲れたのか、イヌガミは突然コテリと横になってそのままイビキをかきはじめてしまった。

 

「……ようやく寝たか」

 

ソファの上で丸まりながらスヤスヤと眠るイヌガミを見て呟く。

……しかし、その寝顔は中々に可愛らしくて。思わずそっと俺のコートをかけてしまった。

 

「お館様」

 

そこへ、おかわりの缶ビール群を携えたチヨメちゃんが声をかけてくる。

 

ふと、テーブルに目を向ければつまみの類は粗方完食しており。残っているのは俺が買ってきた柿ピーだけだった。

そこで、ふと、重大な失態に気がついた。

 

「チヨメちゃん、呑んでないじゃん……」

 

俺たち二人だけ盛り上がって、今の今までせっせと働いてくれていたチヨメちゃんのことをすっかり忘れてしまっていた。

これではサマナー失格(?)である……

 

俺は空の皿を片付けているチヨメちゃんに声をかけた。

 

「チヨメちゃん」

 

「はい、なんでござるか?」

 

「吞もう」

 

俺は手にした缶ビールを掲げて告げる。

 

「はい?」

 

こてん、と首を傾げるチヨメちゃんに再度告げる。

 

「吞もう」

 

「い、いえ、拙者はお館様の(しもべ)なれば。酒宴の席を共にするなど……」

 

うーん。

すでに百回以上は聞いた様なセリフだ。

 

「構わん。……あ、それともお酒苦手? だったら別にいいけど」

 

「そういうわけでも……これでも巫女でありました故、それに忍びとしての任務でも酒を嗜む機会は相応に」

 

「なら問題ないな!」

 

俺は彼女が手に持つ皿をそっとテーブルに戻して肩に手を回した。

 

「何飲む? やっぱ日本酒?」

 

「そ、そんな、恐れ多い……」

 

「無礼講だから! 明日からまた面倒くさい仕事しなきゃならないんだから今日ぐらい楽しもうよ!」

 

前にも言ったが俺はデスクワークとかそういう類の仕事はぶっちゃけ苦手なのだ。無論、出来ないこともないが。

正直、直接赴いて悪魔を叩き斬るという“現役時代の癖”が抜けきらない。……もうそんな力も無いのにな。

 

「あーダメダメ、辛気臭くなる。楽しいこと考えよう!」

 

「お、お館様……随分と酒が回っておられるご様子で」

 

苦笑いするチヨメちゃんの顔にぐいっと近づく。

 

「ひゃぃ!? お、お館様?」

 

何故か変な声を上げた彼女をジッと見つめて……破顔した。

 

「可愛いね」

 

「は……?」

 

きょとん、とした彼女を連れてソファに腰掛けそのまま彼女の前に残った酒を並べた。

 

「さぁさ、どれでも好きなの選んでね!」

 

「は、はぁ……では、お言葉に甘えて」

 

有無を言わさずゴリ押しする俺に観念したのか、おずおずと酒を選び始めるチヨメちゃん。

しかし、遠慮してるのか何なのか一向に決められない。

 

「日本酒もいいけど、ビールも割とハマるよ?」

 

「で、では、その……お館様と同じものを」

 

「よしきた!」

 

なぜかハイテンションで返事をしてしまった。自分でもなんでそんな声が出たのか分からないが。

まあ、別にいいか()。

 

俺は並べられたビール群の中から“の◯ごし”を一缶取り、彼女の前に置いた。

 

「はいどうぞ」

 

「有り難く。……え、とこれは……」

 

缶ビールを前におどおどしたような様子を見せる彼女を訝しむ。……うむ、このまま眺めてるのもいいか。

 

「……じゃなくて。そうね、開け方分かんないよね」

 

ネットですぐに知識を得てくるウシワカの所為ですっかり忘れていたが、彼女は戦国時代の人間だった。……いや、英傑という悪魔なのだから他のサマナーに召喚されたこともあるはずだが……?

或いは前召喚の知識とかは反映されないとかそういう“仕組み”なのかもしれない。……ぶっちゃけ、今はそんなこと“どうでもいい”けど。

 

ともかく、プルトップの開け方を数百年前の人間に知っておけというのは無茶な話である。

なのでさっさと缶を開けてやった。

 

「な、なるほどそのように……」

 

感心したようにマジマジと見つめる彼女はやはり真面目なのだろうと思った。そこが無性にいじらしく可愛らしく感じる。

 

「はい、そんじゃかんぱーい!」

 

彼女に開けた缶ビールを持たせた俺は、自らのビールを持ち上げて彼女の缶に近づける。

 

「か、かんぱーい」

 

イヌガミとのやり取りを見て覚えたのだろう、こつん、と缶をぶつけてきたチヨメちゃん。

俺はすぐに口元に缶を運んでゴクゴクとビールを喉に流し込んだ。

 

「……」

 

それを傍でジッと見ていた彼女も、遅れて両手に持った缶ビールをぐいっと呑んだ。

 

「……ぷはっ! こ、これはなかなか……!」

 

僅かに驚いた顔で感嘆の声を出す彼女。どうやらお気に召したようでなにより。

 

「でしょ? まあ、とりあえず今日は無礼講だから。なんも気にせず気ままに呑んじゃってよ」

 

俺も好きに呑むし。正直、これまでイヌガミの対応で全然呑めていなかったのでここからが本番である。

 

「し、承知」

 

「あーなしなし、今日は堅苦しいの禁止ぃー」

 

「お、お館様? やはり随分と性格が……」

 

なんかチヨメちゃんが言ってるけど、とにかくお酒だ。

 

 

 

 

 

 

 

ーー現在時刻、午前零時四十分。

 

 

「えー! チヨメちゃんってば巫女さんだったの!?」

 

「はい、忍術に加えて巫術も身につけてござる」

 

若干ドヤ顔の彼女を見て、もう一度わざとらしく驚いてみる。

 

「えー!! チヨメちゃんってばハイスペック過ぎ……?」

 

「むふー! まあ拙者はこれでも歩き巫女を束ねた頭領でござるし? そのくらいは出来て当然でござるな」

 

二缶ほどビールを飲み干したところで、チヨメちゃんのキャラが変わった。……いや、俺も最初すごいびっくりしたんだけど。

 

この娘、かなり天然(アホ)である。いや褒めてるよ、褒めてる。

 

 

だが、ちょっと揶揄うだけで良い反応を返してくれるので、これはこれでなかなか面白い。

 

「巫術、忍術も出来ちゃうのに。おまけにこんなに可愛いなんて! チヨメちゃんサイコー!!」

 

「これは、お館様も拙者の魅力に“ぞっこん”になってしまったでござるか? いやぁ、可愛過ぎて申し訳ござらん」

 

デレデレのトロトロなお顔で破顔するチヨメちゃん。……流石にちょっと引くレベルで人格変わってませんか?

若干、酔いが醒めそうである。

だが、やはり面白い反応をしてくれる彼女に俺も止まらない。

 

「よっ、望月千代女! 戦国一のくノ一!」

 

「や、やめるでござるよ〜……戦国一は言・い・過・ぎ❤︎」

 

これである。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー現在時刻、午前二時半。

 

「ござる、ござるよオロチでござる〜♪」

 

くねくねと腰をひねりながら熱唱するチヨメさん。ぶっちゃけ何の歌を歌ってるのかは分からないが可愛い。

 

「可愛い! さすがチヨメさん、さすヨメ!」

 

「そ、その略し方はちょっと照れるでござる……」

 

照れ顔も可愛い!!

……ところで何か忘れているような気がするが、気のせいだろう。たぶん、きっと、メイビー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー現在時刻、午前三時半。

 

「正義の心を、パイ◯ダー……オン!!」

 

「きゃー! お館様ー!!」

 

「マ◯ンガー……Z(ゼェェェット)!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー現在時刻、午前四時半。

 

「チヨちゃんさ〜」

 

「なんでござる〜?」

 

「生前さぁ、くノ一って……マジ?」

 

「はいでござる」

 

「エッッッッロ!!!! エロ過ぎだろチヨちゃん……でもやっぱ可愛い」

 

「それさっきも聞いたでござる〜」

 

「ウケる〜w」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーピピピ……!

 

けたたましい音が耳に入る。いや、これはアラームの音か……よく耳を澄ませてみると、外から小鳥の可愛らしい鳴き声が聞こえて来る。

 

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

嫌な予感がしたときの俺の反応は速かった。全盛期に負けずとも劣らずな反応速度で起き上がり、アラーム音が聞こえた方へと手を伸ばす。

そして、指に触れた硬い感触を確かめる間もなく引っ掴み面前まで持ってきた。

 

『現在時刻、午前七時半』

 

その表示を見たときの俺の絶望は、誰にも推し量ることは叶わないだろう。

 

「…………やばい、寝坊した」

 

 

 





アトランティスのチヨちゃんは正直、困惑しました。
でも、そんな君もすこだ…










……そしてやっぱり鴨ちゃんすこだ!!!!(イベ本編の謎の大物感

情報出終わった章の表記について

  • 全部開示※ネタバレでも気にしない
  • 伏字のまんま
  • ジワジワ出していく謎のライブ感
  • どうでもいい
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