全てはテラリアと真Ⅲってやつの仕業なんだ。
日本の首都、東京。
経済の中心、政治の中心として日本国で最も注目される重要な都市である。歴史的に見てもこの地は過去幾つもの重要な転換点の主要舞台として登場し、同時に幾つもの“災厄”にも見舞われてきた。
それは史実・フィクションを問わずしてこの地を“重要視”している証拠である。
無論のこと、表の歴史に残らない“神秘的な事件”も数え切れないほど発生しておりその度に“人類の中から素養ある者”が立ち上がり事を収めてきた。
サマナー界隈で最も有名なのは、言わずと知れた『大正から昭和にかけて最強』を誇った『十四代目葛葉ライドウ』と。
このうち『少年』の方は
だって古の神々を腕力だけで叩き潰すって、どこのクレ◯トスだよって話。特に神の加護とか受けてないあたり筋金入りである、
……話が逸れた。
ともかく、東京という都市はサマナーや悪魔たちにとっても非常に縁深い場所ということである。そうなると当然、現在でも様々な思想・思惑の“人間”や“悪魔”がひしめき合っているわけで。
俺も相応の準備を整えて行かなければ、不慮の事故的なアレで遭遇した高位悪魔に瞬殺される可能性も有り得なくはない。
なのだがーー
「相変わらず新宿ダンジョンは田舎者には厳しいな」
駅の出入り口から屋外に移動しながら呟く。
眼前にはザ・都会といった様子で大勢の人々が行き交い、それを見下ろすようにして背の高いビル群が聳え立っている。
何度見ても見慣れない、都会独特の威圧感のようなものを感じる。
「お、お館様……拙者、まだ気持ち悪いのでござるが……」
傍らで青い顔をして口元を押さえているチヨメちゃんが、か細い声で告げる。
その様に苦笑しながらも小さな背中をさする。
ちなみに今日は、先日の反省から俺の方で白いワンピースを用意してあげたのでもちろん痴女スタイルではない。
……え? 不測の事態に動き辛いって?
本来、不測の事態とか早々起きないから!
「きついならもう一回トイレ行くか?」
「い、いえ……これ以上、お館様のお側を離れるわけには。で、ですがその、もう一杯お水をいただけると」
「はいよ」
俺は自宅から持参していた水筒を鞄から取り出して彼女に渡す。ちなみに彼女の分はすでに飲み干していらっしゃるのでこれは俺の分である。
「かたじけない…」
律儀に頭を下げてからぐいっと水を呷るチヨメちゃん。
なぜこんなにも気分が悪そうなのかと言えば、まあ、端的に乗り物酔いである。
夕凪から新宿まで片道一時間超をひたすら電車に揺られるのだから、耐性の無い者にはキツイものがあったのだろう。かく云う俺も最初の頃は毎回酔っていた。
それと、やはり“昨日の酒”が主要因と考えられる。
――ここで、今回の東京行きのメンバーが俺とチヨメちゃんのみとなっている現状について説明しておかねばなるまい。
アラームの音で目を覚ました後。
俺は大急ぎでチヨメちゃんとイヌガミを叩き起こして身支度を整えた。
その際、チヨメちゃんが顔面蒼白で慌てるという貴重な光景を拝見することが出来たりもしたが。
問題だったのはイヌガミの方である。
『我、気分悪イ……』
その一言を発した直後に滝のように内容物をぶち撒けたのだ。まるでマーライオンの如き有様に軽く目眩を覚えた。後からCOMPのステータス画面を確認して、彼にしっかりと“バッドステータス表記”が成されているのを見て更にげんなりした。
特殊な酒気による身体能力及び精神的な疲労、つまりは二日酔いだ。それも人間のものとは異なる“悪魔特有の二日酔い”。
真っ先に思い当たるのは、やはり、“悪魔にも効果抜群な酒で有名な八角酒店”。
あそこの酒は悪魔に評判が良く、俺も“悪魔へ送る粗品”として頻繁に購入している。……しかしどういう訳か、“悪魔の性格すらも変貌させてしまう”ヤバイ酒がゴロゴロしているのだ。
無論、性格を変えるだけにとどまらないレベルの酒も中には存在しているわけで。
おそらく、イヌガミが呑んでしまったのもその類の酒なのだろう。
そうなると困ったことになる。
この二日酔いは先述の通り、普通ではないために対処にも人間とは異なる手段を用いることになる。分かりやすい例を挙げるならばやはり“霊薬”の類だ。
だが、厄介なことにパトラストーンやメパトラストーンといったバッドステータスに有効なアイテムの悉くがこの二日酔いには効かない。外敵からの直接的な攻撃ではなく、あくまで“自ら摂取した”という点がネックになっているのだろうが。
さすがにアムリタ辺りなら普通に治療できることはできる、しかし二日酔い如きに、まさか貴重なアムリタを消費する訳にもいかない。
その他諸々を加味した俺は仕方なく、イヌガミを留守番としチヨメちゃんと二人で出ることにしたのだ。
新宿駅東口から北へと歩くこと数分。大通りに面したビルに店舗を構えるカフェが“待ち合わせ”の場所となる。
相手は此度の依頼の“総指揮”を任されているサマナー。
実を言うと今回の依頼、俺以外にも複数のサマナーに向けて要請が出ていた。当たり前だ、東京という広大かつ複雑な場所の“掃除”ともなれば一人では到底手に負えない。
よって、協会と縁深く指揮能力に長けた人物が総指揮を務め、実働部隊として依頼を受けた他サマナーたちが現地に赴き対処。結果含めた報告を指揮官が纏めて協会に報告するのが流れとなる。
「お館様……此度の失態、弁解の余地もござらぬ。どうか拙者に罰をーー」
ビルのエレベーターに乗りながら、泣きそうな顔で述べてくる千代女ちゃんを見る。このセリフ、すでに十回は聞いている。さすがの俺もうんざりしてきた。
確かに寝坊したのは事実だが、これは彼女の雇用主たる俺の責任である。そもそもの話、酒の席に誘ったのは俺だ。
「もう何度も言ってるけど気にしないでいいから。それに時間だって伝えてなかったでしょ?」
「うぅ……しかし」
どこか納得がいかないような、申し訳ないような。要するに悲しみの表情を浮かべた千代女ちゃんはウジウジとしていた。
……生真面目過ぎるのも考えものだな。
とはいえ、あんまりストレスを与え過ぎるのも良くない。そうなるとどこかで適当な罰を与えて安心させてやった方がいいだろう。
が、しかし。
今は待ち合わせ時間に遅れたことへの対処、此度の“司令官様”への対処が最優先である。
もちろん、起床直後に“彼女”には連絡を入れたのだが。
その際ーー
『ほう……随分と気楽なことだな奧山秀雄。良いだろう、ならば望み通り貴様には最も多く仕事を割り振ってやろう』
と、静かなお叱りを受けてしまった。
率直に今、俺は戦々恐々としている。思わず、千代女ちゃんへの対応が雑になるくらいに。
とはいえ、やってしまったことはもう取り返せない。
エレベーターも目的の階層に着いてしまったため、俺は脳内に木霊するほど心臓を鳴らしながら“彼女”を探す。
と。
「こっちだ」
低く、それでいて綺麗な女性の声が聞こえてきた。
間違えるはずもない、この声の主こそ司令官様である。
俺はギギギ、と音が鳴りそうなほど重たい動きで首を動かし音源へと視線を向けた。
「一時間半の遅延だ。……さて、この損害はどう埋め合わせてもらおうか」
短く整えられた藍色の髪、“ジプスの制服”を纏いスラリと伸びたおみ足を優雅に組んで静かにソファに腰掛ける女性が、鋭い双眸を俺に向けていた。
「ーーーー」
思わず息を呑む、目が、目が笑っていなかったから。
俺は震える両足を無理やり奮い立たせゆっくりと対面席に移動。痔を庇うような緩慢さで腰掛けた。
「ち、千代女ちゃんも……す、座ろ?」
「え……あ、はい」
おそらく俺が顔面蒼白になっていることに戸惑ったのだろう。俺を訝しげに見つめながらも素直に着席した。
「さて」
続けて、対面から発せられた声にびくりと肩が震えた。
「どうした? そう怯えることもない、なにせお前が望んだ楽しいお仕事の話をしようとしているのだから」
「どど、ど、どうか……御慈悲を」
自分でも制御できないくらいに高速で目を泳がせながら返答する。
「んん? 慈悲? 何を言っているんだお前は。慈悲なら与えるつもりだぞ、他の部隊の
「ひぇ……!」
努めて平静ながらも力強い語気で述べられた最後の一文に、俺は言葉を失った。
ーーそれから数分。
見たことないほどにお怒りな“彼女”に対し、完全に戦意喪失した俺は震えるだけの小鹿となっていた。
俺にとって今の彼女は閻魔にも等しい。
そんな折ーー
「……はぁ。分かった、十分反省しているのは分かったからとにかく顔を上げろヒデオ」
「は、はぃ……」
深い溜息と共に怒気の消えた声で彼女は告げた。
ゆっくりと顔を上げ今一度彼女の顔色を伺う。
そこにはすでに怒りを治め、口元に微笑を浮かべた彼女がいた。
「久しぶりだな、奧山秀雄」
「はい……お久しぶりです。
迫 真琴。
気象庁指定地磁気調査部、通称
まず、ジプスについてざっくりと説明すると。表向きは日本政府の災害対策室と位置づけられながらも、裏では古来より日本の『霊的守護』を担ってきた峰津院家が創設した
要するに、『葛葉』と似たようなものである。
葛葉と異なるのは、やはり“表向きの立場”を持っていることだろう。これによってより広く早く情報収集を行うことができ、尚且つ、それなりの権力を使って表の人間を動かすことができるのは立場の有無から来る相違点でありメリットだ。
当然、国家の霊的守護を担うにあたっては『國家機関』とも繋がりを持ち、実質的にはそこの下部組織という位置づけにある。葛葉とは同僚ということだ。
ではなぜ、國家機関寄りの組織が協会の依頼に協力しているのかと言うと。ずばり、五年前に起きた『悪魔事件』によって仲良くなったからである。
なんでも
ただ、その事件をきっかけにサマナーとなった者たちと後から知り合いになった関係で、彼女・マコトとも面識があった。
ちょうど『忌まわしきあの日』の直前にあたる頃であったために、俺も全盛期の力を振るって“後処理”を手伝ったりしたものだ。
まあ、何はともあれ。
此度の司令官が彼女という知り合いだったのは素直に安堵した。
見ず知らずの他人よりも知り合いの方が何かとやり易いのは事実だから。
「マコトさんも、その、おかわりないようで」
「ふ、なんだその口調は。前みたいに普通に話して構わんぞ」
「え。じ、じゃあ、もう怒ってない?」
「どちらかと言えばめちゃくちゃ怒ってるな」
やっぱ怒ってるじゃん……。
俺は緩みかけた気持ちを再び引き締める。
「そもそも社会人としてどうなんだ、という気持ちが湧いてこなくもないが…………その話は後にしよう。あまり叱り過ぎて落ち込まれても仕事に支障をきたすからな」
「あ、ありがとうございます……」
「早速仕事の話をしたい……のだが、その前に。そちらの少女を紹介してもらっても構わないか?
……こちらも任務の性質上、見ず知らずの余人に内容を伝えるわけにもいかないのでな」
そりゃそうだ、と彼女の言葉に頷く。
あくまで、都内の掃除程度の依頼なので秘匿性は低いものの。悪魔絡みの話を万が一にも一般人に教えるわけにはいかない。
現に俺たちの腰掛ける席にも簡易式の認識阻害結界が張られているのが確認できた。
「お館様。拙者も忍びなれば、おいそれと素性を明かすのは避けたいところなのでござるが」
ここで妙に忍びらしいセリフを言ってくる千代女ちゃん。
いつものダボTやら、家事に勤しむ姿に見慣れ過ぎて俺もすっかり忘れてたけど。
そういえば君、忍者だったね。
「彼女は信頼できる人だよ。少なくとも変に言いふらすような人じゃないから」
「そうだな、特に個人情報を漏洩するような愚行はしないと誓える。……ああ、先ずは私の方から自己紹介をするべきだった。失礼」
そう言って軽く咳払いをしたマコトは改めて自己紹介を始めた。
「ジプス東京支局霊地管理課課長、迫 真琴だ。
縁あって、今回は作戦の総指揮及び報告の処理一切を担当することになった」
これを受けて千代女ちゃんも観念したのか素直に名を名乗る。
「英傑モチヅキチヨメにござる。今は拙者を召喚なされたお館様を主と仰ぎ、誠心誠意お仕えしている身。何卒、よろしくお願いするでござる」
「英傑……なるほど、君は悪魔だったのか」
英傑という単語に僅かに目を見開き驚いたマコトは、すぐに真剣な顔で頷いた。
「然り。広義おいて悪魔と呼ばれし身ではござるが、忠義はお館様ただお一人に捧げております」
こちらも真剣な顔で、なかなか恥ずかしいことを言ってくれる。
君が忠義に厚いのはもう十分に分かってるから。
「しかし驚いたな……まさか英傑とやらをこの目で見られるとは。しかも君の仲魔、ということなのだろう?」
マコトも英傑に会うのは初めてだったらしい。
俺も、事前に知っていた使役者だけでも片手で数えるほどしかいない。
あの有名な『キョウジ』、天海市の事件で活躍した『ハッカー』、あとは『旧悪魔討伐隊の少年』くらいか。
「何はともあれ、今回の任務は共にあたることになる。
これからよろしく頼む」
「承知……いえ、こちらこそ。にござる」
自ら手を差し出し千代女ちゃんと握手をするマコトを見て、今度は俺が驚いた。
通常、サマナーに使役される仲魔といえども悪魔であることに変わりない存在に、サマナーたちは警戒心を持つ。
ゆえに自然と自己紹介などで時間を使ったりしないし、仲魔たちも自分を使役するサマナーにしか口を聞かなかったりする。ここら辺はまあ、個人差もあるが。総じてそのような事情にあるのは確かだ。
それはマコトも例外ではなかったはずだが。
そんな俺の疑問に気づいたのかマコトが声をかけてきた。
「わざわざこうして連れ歩いているのだ、君が信頼して大切にしている仲魔なんだろう? なら、挨拶くらいはしてもバチは当たらないだろう」
「っ! そ、そうなのでござるか、お館様?」
マコトの言葉を受けて、ちょっと嬉しそうな顔で慌てながら聞いてくる千代女ちゃん。
いや、別にそこまで考えていたわけではないのだが……。
言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。
ーー俺が仲魔たちに向ける感情は、たぶん、
正常な親がいなかった俺には
現に、仲魔たちの全員に“愛しさ”を感じているし何より大切に思ってしまう。
彼女の推察は見事に的中していた。
「そう、だな。本人が望まない限りは、極力COMPには仕舞わないようにしてる」
だが、だからこそ俺にはその質問の答えが
確かに俺自身は愛してる、と断言できる。しかしそれは果たして
ウシワカという『愛知らぬ娘』を召喚して、廃寺で“オサキの言葉に感化され”、千代女ちゃんという改めて“主従の在り方”を考えさせられる娘と出会った。
そのことで、俺は自らが外部に向ける『愛』について疑問を感じるようになっていた。
本当に、俺の愛は正しいのかと。
「…………私には、眩しいほどの『信頼の証』に見えたのだがな」
ふと、彼女の呟きが鼓膜を震わせた。
視線を向ければ諭すような優しい笑みのマコトが真っ直ぐに俺を見ている。
「私は、『五年前の事件』で自分の在り方を改めて考えさせられた。と同時に
……それと同じような“眩しいモノ”を私は感じるよ」
「眩しいモノ……」
そうだ。そうだった。
廃寺の戦いで思い出したばかりだったではないか。
俺が“かつての仲魔”に抱いていたモノは確かに輝かしいモノだったのだと。他人に、何より自分に誇れるような“信頼”だったのだと。
ーーそれが
ーーおそらくは、
「……いや、すまない。それと、ありがとう。最近、色々と立て込んでいてな、ちょっとナイーブになってたんだ。忘れてくれ」
おそらくは俺の顔色から何かを察して助言してくれたのだろう。そのことにようやく気づいて慌てて弁解する。
これは『俺の問題』であり『俺が解決しなければならないこと』、マコトに手を掛けさせるわけにはいかない。
なにより。
「仕事の話をしよう。……いや、遅れた俺が促すのもおかしな話だが」
今回は仕事で来ている。
……もし、いつか相談したくなったらその時に改めて連絡しよう。
そう心に決めた俺は、再び気を引き締めて声をかけた。
「そうか…………そうだな、君も大人だ。今の私は少々お節介が過ぎたようだ。こちらも忘れてくれ」
少し心配そうな顔をした後、すぐに凛々しい表情に戻った彼女を見て俺も意識を切り替える。
「まずは詳しい任務内容から説明しよう」
【あとがき】
デビサバ2時空ではないので無の侵食云々は起きてません。が、ウサミミと愉快な仲間たちが悪魔と戦った事件は起きてる設定です。
その関係で色々と経験して成長してる三十路のマコトちゃんなのであった。霊地管理課とかいうのはオリジナル設定だよ!
……今気づいたけどこのss。20後半〜30代多すぎやしないですかねぇ。もっと十代を出したいけど、プロフィール確認すると大体成人しちゃってるメガテンキャラたち……。
苦肉の策でオリキャラ出すけど許してね!!(クソデカボイス
情報出終わった章の表記について
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全部開示※ネタバレでも気にしない
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伏字のまんま
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ジワジワ出していく謎のライブ感
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どうでもいい