英傑召喚師   作:蒼天伍号

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宝石・一

「ただいま」

 

「オカエリ」

 

玄関扉を開ければ、正面にてイヌガミが出迎えてくれた。たぶんに俺のMAGの“匂い”を感知して来たのだろう。

 

歩み寄りながら彼に声をかける。

 

「もう飯は食ったのか?」

 

「食ッタ」

 

「そうか」

 

「……ダガ、ヤハリ、一人ハ、寂シイ」

 

しゅん、としたイヌガミを見て居た堪れない気持ちになる。

そこでふと思い出したが、確か自宅には『もう一匹』いた。

 

「主殿、荷物をお持ちします」

 

「助かる。……で、“オサキ”はどうした?」

 

「相変ワラズ、行方不明」

 

その言葉に思わず眉間を押さえる。

 

「まあいい、今に始まったことじゃないしな。自由にさせとくのが奴にとって一番だろうさ」

 

「ダガ、少シ目ニ余ルト思ウガ?」

 

てくてくと廊下を歩きながら考える。

確かに、最近は何日も外をフラフラして連絡一つ寄越さないことも増えた。

 

「一度、注意しておくか。とはいえ今日はもう疲れた。また後日改めて言っておくよ」

 

「分カッタ」

 

そんなこんな話しながらリビングに到着。

すると、いつの間にか先行していたウシワカがキッチンに立つ姿が見えた。

どうやら夕飯を作ってくれるらしい。

 

それを横目に写しつつ、ソファに腰掛ける。

思わずノビをするとバキボキと骨が鳴る。

 

「あ〜……久しぶりによく動いた」

 

あれほど多くの悪魔を相手にしたのは久方ぶり。ここ最近は木っ端な悪魔ばかり相手にしていたので、なかなか身体に堪える。

 

「動カナイカラ、ソウナル」

 

ソファの上をニュルリと移動して俺を囲うようにイヌガミが寄ってくる。

なんの気なしにその頭を撫でながら返事をする。

 

「言うな、俺もそろそろ“三十路”が見えてきた年頃、じわじわと肉体が衰えていくのを感じるよ」

 

まあ、まだ自分でも若者とは思っているが。

 

「オレカラシタラ、マダマダ小童ダ」

 

そりゃそうだ。数百という年数を悠に生き続ける悪魔にすれば数にすら入らない。だが生憎とこちらは百年生きるのすら苦労する人間、成長期を過ぎれば後は老いさらばえるのみだ。

 

「ムゥ……次ハ、顎ノ下ヲ」

 

「はいよ」

 

リクエストにお応えして、飼い犬にするようにコショコショとご要望の部位を撫でてやるとイヌガミは喉を鳴らして喜んだ。

 

「っ!!」

 

ーー不意に、背筋を悪寒が駆け巡る。咄嗟に寒気のした方へと視線を向けると。

 

「……」

 

キッチンのウシワカが恨めしそうにこちらを凝視していた。

……いや、まさかとは思うが。

犬に、嫉妬しているのか?

 

「やはり犬なのか」

 

「何ガ?」

 

キョトンとするイヌガミをもう一度撫でながら、やはり凝視してくるウシワカを観察する。

そんな中でもウシワカの手元は忙しなく動いており、見る限り滞りなく料理をしている。やはり天才か、天才犬か。

 

小一時間ほど続けていると、やがてウシワカがギリギリと歯軋りし始めたのでさっとイヌガミから手を離した。

 

「……ドウシタ?」

 

「いや、そろそろご飯が出来上がりそうだからな。お前も、もう休んでいいぞ」

 

不思議そうにするイヌガミに、何事もないように答える。

 

「ソウカ……マア、マタ何カアレバ呼ベ」

 

「ああ、お疲れ様」

 

COMPを操作して送還。

余談だが、以前にイヌガミにも部屋を与えようとしたことがあった。

しかし、やれ犬小屋は嫌だ、とか。冷蔵庫が欲しいとか注文が多かったのでCOMPに仕舞うことにしている。なんだかんだイヌガミの方もCOMP内の方が落ち着くと漏らしていたし気にしていない。

クダは忠実な仲魔ゆえに、気に障らない限りは滅多なことでは要求されることはない。なのでCOMP内だ。

 

他に、“マカミ”は()()()()()()()し“オサキ”はさっき話した通り自由奔放なので論外である。出番はイヌガミとクダで足りているので暇といえば暇だ。ゆえに文句はない。

一応、立場は理解しているようで人を襲ったりはしていないから放置である。

 

 

イヌガミをCOMPに戻してから数分、出来立ての料理が続々と運ばれて来た。

ただ、数が多い上にぱっと見ただけでも肉じゃがなどの手のかかる料理が並んでいる様子に疑問を覚えた。

 

「ああ、お昼の時に仕込んでおいたのです」

 

あっけらかんと答えるウシワカに軽く戦慄する。

 

「干しておいた洗濯物は取り込みましたし、主殿がお夕飯を食べている間にお風呂も入れておきますので」

 

つらつらと語って「それでは、ごゆっくり」と部屋を去っていくウシワカの背中を徐に目で追ってしまう。

 

……なんというか。

 

「出来過ぎではなかろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕飯を終えた俺は、ウシワカが用意してくれた風呂にゆっくりと浸かった。

身体を洗ってから風呂桶に入ると、ちょうどいい温度であることに気づく。まさかそこまで計算して……?

 

再び戦慄を覚えながらも、風呂上りに冷蔵庫から缶ビールを取り出してプシュッとフタを開けた。

 

そして一口飲んだところで、リビングの方からひょっこりとウシワカが顔を出した。

 

「主殿、こちらに晩酌のご用意が出来ております」

 

「お、おう」

 

別に頼んでないけど……しかし、用意してくれたならありがたい、と缶ビールを飲み干しリビングまで向かう。

 

すると、テーブルの上にはどこから持ってきたのか、各種生魚の刺身の盛り合わせと枝豆。朱色の銚子(ちょうし)に盃が置かれていた。

 

過分なサービス具合に、なんだか恐縮しつつソファに座ると、ささっと隣にウシワカがついた。

その手には銚子=酒。

 

「……」

 

とりあえず盃を差し出してみると、すかさず注がれる日本酒。

 

「本日もお疲れ様でした」

 

「お、おう。ありがとう……?」

 

クイっと一口飲み干すと、再び注がれる日本酒。

次いで肩のマッサージが始まった。

 

「お、おぉ……! だが何故に肩揉み?」

 

「この場ではこうする流れであると聞いております」

 

どこで聞いて来たんだ……まあ気持ちいいから構わないけど。

 

 

その後も酒につまみに、と楽しみつつ空いた盃には絶えず酒が注がれた。

至れり尽くせりとはこのことか。

 

嬉しい、嬉しいんだけど……急にここまでされると正直怖い。

 

「急にどうしたんだ?」

 

「はて……? もしやお気に召しませんでしたか?」

 

「いや、嬉しいんだけど……急にどうしたのか、と」

 

ふむ、としばし考え込んだウシワカは肩を揉みながら答えた。

 

「こちらに現界して初めての戦場に、少々昂ってしまっているのかもしれません……」

 

「なるほど……?」

 

「とはいえ、主殿に尽くすことは変わりませんのでご安心を!」

 

うーん、ありがたいけどここまでされると悪い気がしてならない。

 

「ウシワカ、盃はまだあるか?」

 

「? はい、ございますが」

 

おずおずと差し出されたもう一つの盃。ウシワカの手から銚子をそっと取り上げた俺はそこに酒を注ぐ。

 

「これは……ありがとうございます主殿」

 

嬉しそうに微笑んだウシワカに頷きで返す。

今日の戦闘では殆どウシワカに任せてしまったor目覚ましい活躍を見せてくれたので、せめて酒を注ぐくらいはしてやりたい。

 

「うむ。よきにはからえ」

 

なんだか“妙なテンション”になってきていた俺は大仰に答えた。応じてウシワカは両手で持った盃をゆっくり傾ける。

 

「……ふぅ。ひっく」

 

一口目からしゃっくりを出す奴は初めて見た。

いや、漫画では見たことあるけど現実にいるとは思わなかった。

 

「もしかして酒は苦手か?」

 

今の御時世、アルハラは厳禁である。なので聞いてみたのだが。

 

「まさか! 主殿からの一献、大変美味しゅうございました」

 

盃を掲げながら恭しく頭を下げるウシワカの姿に、思わず笑ってしまった。

 

「ははは、そんな大仰な」

 

「いいえ、こうして主と仰ぐお方と共に晩酌できるなんて……ウシワカは感激しております!! ひっく」

 

目尻にたっぷりと涙を堪えながら、グイッと顔を近づけるウシワカ。お、おう、近いよ。

 

というか、なんかさっきからテンションがおかしい気がするが。

 

「うん、わかった。わかったからーー」

 

「これも全て主殿の御慈悲ゆえ! 私の忠誠を受け止めてくださる主殿の御心に感謝です!!」

 

「わかったから、ちょっと離れーー」

 

「それにしても先の寺での戦いぶりはお見事にございました!

あの飛び道具、確か“けんじゅう”と言いましたか?

なかなか扱いやすそうな火器ですね、アレは素晴らしい!

更には、“陰陽道”にも長け、剣術も。主殿は多才でございますね!」

 

「うん」

 

「そして、カッコいい!! こんなにかっこいいなんて……ハッ! もしや御身は、まさかまさかの兄上!?」

 

「兄上じゃねぇよ」

 

「なぜこのような場所に……兄上、兄上ぇぇぇぇぇ!!!!」

 

突然、意味不明なことを言いながらガバッと抱きついてくる彼女。胸板に当たる程よい柔らかさの双丘を鑑みるに、言動よりも成熟した肉体をしていると思った。

 

「とにかく、離れなさい!」

 

「兄上ぇぇぇ!!」

 

だから、兄上じゃねぇって!

くそ、こいつ“悪酔い”するタイプだったか!!

 

 

その後、一晩中、乱心するウシワカに付き合い、なんだかんだと酒を飲まされ続けた結果。俺はいつの間にか寝落ちしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……頭が」

 

ズキズキと脳を突き刺すような痛みで目が覚める。

ぼんやりとした思考に、微かに聞こえるチュンチュンという雀の鳴き声。窓からの朧げな光からして、どうやら朝らしい。

 

「寝落ちか」

 

久方ぶりに飲み過ぎた、と反省しながら体を動かすと。

 

「うぅん……」

 

肩にかかる重みと、そこから聞こえる呻き声。

視線を向ければ、すやすやと眠るウシワカの顔があった。

 

「……」

 

起こさないようにそっと運び、その身体をソファに横たえる。

よく見れば、ウシワカの姿はたいへんに、たいへんなものになっていた。

 

なぜか脱ぎ捨てられた短パン、胸元ギリギリまでたくし上げられ端と端を結んでいるTシャツ。

 

「痴女じゃないか」

 

俺の呟きに反応してか、むにゃむにゃ言いながら蠢くウシワカ。

とても女の子がしていい姿勢ではなかったので、手近にあったジャンパーをそっと上にかけてやる。

 

「兄上……」

 

寝言も兄上か。そういえば昨夜はずっと兄上の話をしていた、というか無理やり聞かされた。

 

……ウシワカ、すなわち義経にとって兄たる頼朝は“裏切り者”として憎んでしかるべき相手だと思っていたが。

 

「俺が口出しすることじゃないな」

 

柄にもない考えを起こした自分に恥入りながら、俺は顔を洗いに洗面台へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日、俺はウシワカとの連携戦術の研究のため、連日討伐依頼を請け負った。

夕凪市は郊外でも有数な『霊場』であり、全盛期の『平崎市』にも引けを取らない悪魔発生率を誇っている。そのため先日の廃寺以外にも悪魔が湧く場所は幾つか残っており、それらの中でも比較的安全な『狩場』をまずは回った。

その後は、近隣住民から寄せられた『はぐれ悪魔』による『事件』を依頼として受諾。これらの解決に奔走することとなった。

 

その結果、戦闘時における彼女との連携は実戦レベルにまで高まったと俺は見ている。

 

ここまでの所感として、英傑カテゴリの悪魔はかなり使えるという認識に至った。“以前、契約していた前衛たち”と比べても、理解してくれる指示の自由度という点で格段に『使える』。

おまけに日常生活でもイヌガミと二人(一匹と一人)でテキパキと働いてくれており、生活の快適さという点でも貢献してくれているのだ。

正直、このまま人生を終えても悔いはないくらいの優雅な生活を送れている。いや、無論のこと『コレクション』がひと段落するまでは死ぬ気はないが。

 

……これまでは“スリルのある依頼”というのは避けてきた俺だが、これからは()()受けていってもいいかな、と思い始めている。

そもそもデビルサマナーなんていう『割りに合わない仕事』を生業としている人間というのは、得てして『刺激を求める人種』である。

まあ中には『不可抗力でサマナーとなった一般人』もいるにはいるが、それは本当に『運命レベルで稀有な存在』である。該当者は誰も彼も『本一冊は軽く書ける人生』を送っている。

俺とて“かつては”そういう存在、所謂『主人公』というものに憧れたタチだ。

……結果は語るまでもないが。

 

 

そんなことを考えながら、俺は自宅の玄関扉を開けて帰宅する。

今日は連日の依頼で得た『余剰MAGの売却』のために『生体エナジー協会』へと出向いていた。その帰りに『玉金屋』で戦闘用アイテムの補充を行い次の依頼への備えを整えたところだ。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさいませ、主殿!」

 

徐に帰宅の挨拶を口にすればどこからともなくウシワカが現れ返事をしてくれる。今日はダボダボTシャツの上にエプロンを着ている。家の奥から漂ってくる香りから察するに料理中だったらしい。

 

「今日はシチューか」

 

「はい! イヌガミ殿の指導のもと完璧な出来栄えとなっているはずです」

 

その言葉に偽りはないのだろう。これまでもカレーやら肉じゃがやらと作らせてきたがどれも平均以上の味を叩き出してきた。

やはり天才か。

 

一旦、荷物を自室に運んだ俺は、ウシワカによって“躾けられた”手洗いうがいをきちんとすませて食卓につく。

今日はイヌガミやクダも呼んで四者での賑やかな食事である。

 

食事を済ませたら、ウシワカが予め入れておいてくれた風呂に入る。今日は『依頼主』との報酬に関するトラブルがあったので気疲れしていたわけだが、その疲れを一瞬で消し飛ばす『お風呂』というのはやはり良い文明だとしみじみと感じた。

 

 

入浴後、寝巻きに着替えたところではた、と気づいた。

()()()()()()()()()()()

 

「今日は『ヤツ』が来る日だったか……」

 

今朝の段階でPCにメールが届いていた。それによれば本日正午には夕凪市に到着しているとのこと。今回は『大事な話がある』とのことで自宅ではなく、より安全な『業魔殿』で落ち合うことになっていた。

 

今は夜も更けた『午後二十一時』である。遅刻どころの話ではない。

 

俺は慌てて自室に駆け込みPCを開く、とそこには。

 

「メールが百通以上……」

 

恐る恐る『仕事用のスマホ』を開いてみると着信が百件以上溜まっていた。留守電が幾つか入っているが怖すぎて開けない。

 

数秒ほど「どうしよう」と悩んだところで、仕方ないと観念して業魔殿まで出向くこととした。

ちなみに業魔殿はその仕事上、二十四時間営業だ。メアリ氏が居ない時は『代わりの造魔』が店番しているのでその子に話を通せば悪魔合体も利用できるようになっている。

 

なのでせっかく着た寝巻きを脱ぎ捨てて私服へと早着替え。夕凪市の夜道はなにかと『危ない』ので装備品のロングコートを羽織ってからCOMPと銃を持って玄関まで駆ける。

 

「主殿、こんな夜更けにどうされたのですか?」

 

案の定、ばたつく俺に気付いたウシワカが一目散に駆け寄ってきた。ちなみにウシワカにも私室を与えてあるので今の彼女は『寝巻き』である。

え、ちょっと好待遇すぎるって?

……女の子だからね!

 

「用事を思い出してな、ちょっと業魔殿に行ってくる。……いつ頃帰れるか分からないから先に寝てて構わないぞ」

 

「何を仰せか! 主殿が出かけるとなればこのウシワカもお供いたします!」

 

ドドン、と効果音が付きそうなほど堂々たる振る舞いでウシワカは述べる。

 

「いや、ほんとただの私用だから。COMPも持っていくし、銃だってある」

 

「では、私のことは愛刀の代わりと思っていただければ」

 

「ウシワカ。お前にはイヌガミと共に留守番を任せたい。なにかあった時、イヌガミに加えお前までいれば百人力、恐るものなど何もない」

 

「むぅ……」

 

「俺の懐刀たるお前に、留守を任せたい」

 

「懐刀なれば、尚のこと連れて行ってくださればいいのに……。

まあ、そこまで仰るのであれば、留守番の大役、任されてあげないこともないですが」

 

複雑そうな顔で、渋々ウシワカは承諾してくれた。あの顔から察するに「褒められて嬉しい」のと「置いていかれる悲しみ」が同居しているのだろう。それくらいはわかるほどに彼女を見てきた。

 

「じゃ、任せたぞ」

 

「いってらっしゃいませ……」

 

寂しそうなウシワカに罪悪感が湧いてくるも、それを押し殺してさっさと家を後にする。

 

 

業魔殿までの道のりは知り尽くしているので、ショートカットを挟みつつ最短ルートで駆ける。

遅刻どころじゃない現状『彼女』の怒りは確定事項だが、息を切らせて駆けつければ雀の涙ほどの慈悲はいただけるかもしれない。という淡い希望と打算からの小賢しい走行だが、割とガチで焦っている自分がいる。

 

『彼女』とは何度も言うように『友人関係』にあるので多少のポカは許してくれる。が、今回は限度を超えている。

親しき仲にも礼儀あり、とはよく言ったもので約束をすっぽかした挙句に連絡一つ寄越さないのは褒められたことじゃない。

 

 

とかなんとか混乱する頭で考えているうちに業魔殿へと到着。いい具合に息も上がっている……いや、かなりしんどいくらい。

 

ぜえぜえ言いながら扉を抜けてフロントへ……至ったところで、ちょうど入れ違いになる形で男とすれ違った。

 

「おっと失礼」

 

「ぜぇ……こ、こちら……こそ」

 

紳士的な彼の言葉になんとか応えてフロントへ。

しかし、あの男、顔のほとんどが笠に隠れているもののかなりのイケメンであった。袈裟を着ているにも関わらず溢れ出すイケメンオーラに危うくトキメキを覚えるところだった。

 

「いやいや、そんなことより……」

 

フロントには案の定、メアリ氏の代行たる造魔。『ラヴ嬢』が立っておりその背の低さゆえに肩から上を受付から覗かせている。

 

「ようこそ、業魔殿へ」

 

プラチナブロンドのストレートヘアを揺らしながら彼女はぺこりとお辞儀する。

 

「こんばんは、ラヴちゃん。えーと、ここに金髪で気の強そうな女の子が来てると思うんだけど……」

 

「はい、存じております。あちらのソファでヒデオ様をお待ちしているとのことで」

 

「え」

 

ラヴちゃんが手で視線を促す。その先には休憩用のソファが置かれており、その上にはーー

 

 

 

 

 

「こんばんは、ミスタ・ヒデオ。随分、のんびりとしたご到着ではないかしら?」

 

挑発的なホットパンツ、茶色のブーツを見せつけるように、否、その健康的な太ももを見せつけるように尊大に脚を組み、こちらを見下ろすような姿勢で侮蔑の視線を送っている金髪碧眼ツインテールの女の子。

 

()()さん」

 

「あら、そんな余所余所しい呼び方しなくていいのよ?

昼から九時間超、ずっとビジネスホテルに放置されて、おまけに滞在費用としてかなりの額をふんだくられた万年金欠美少女の私とあなたの仲じゃない。

遠慮しなくて、いいのよ」

 

にっこりと笑う顔がかつてないほどに怖い。

背後から暗黒オーラみたいなドス黒いものが漏れ出ている。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

速攻で土下座である。

額を床に擦り付ける勢いでスライディング土下座。

 

そんな俺の頭上から彼女の声が響く。

 

「いいのいいの、ぜーんぜん、気にしてないから。

別に今回のお話の『情報料』とかいつも通りで構わないから。

エメラルドとかアメジストとかぜーんぜん枯渇してないし?

遅延料として宝石十セットは硬いわね、なんてぜーんぜん思ってないから」

 

な、なるほど。それで許してくれるなら安いものだ。

 

「……すぐにご用意いたします」

 

「あ、そーだ。ついでに『定期代』のお話もしとこうと考えてたところなのよねぇ。『情報』って本来は安いものじゃないでしょ?」

 

「仰ル通リダト、思イマス」

 

俺の言葉に、頭上から微かに「ニヒッ」という声が聞こえてきた。どうやらこの条件で今回のポカは許してくれるらしい。

 

一転してルンルン気分でステップ踏んでソファに戻った彼女を確認してようやく面を上げる。

 

視線の先にはソファにて尊大にふんぞり返る金髪碧眼ツインテールの美少女。

悪魔召喚プログラム研究の権威が一人。

それでいて世界各地の『悪魔出没地域』へと出向き、自らの目と耳で情報を集めてくる『情報屋』でもある。

各地のデビルサマナーともパイプを持ち、中には『著名なサマナー』と友人関係にあったりそいつらから『お姫様扱い』されていたりする異端の『寵児』。

『召喚式シミュレート』の開発元でもあるとにかく『すごい娘』なのである。

 

「ではミスタ・ヒデオ。今回呼び出した用件をお話しましょう」

 

対面のソファをへと座るよう手で促した彼女に従い粛々と着席。

それを確認してから一転、真剣な表情となった彼女。俺も自然と気を引き締める。

 

「これから話すことは『他言無用』、よろしくて?」

 

「ああ」

 

俺の言葉に静かに頷いた彼女はゆっくりと語り出す。

 

「これはまだ『確実』な情報とは言えないんだけどーー」

 

 




地球国家元首ちゃん……いいよね。
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