再臨で爪先露出すんの誘ってるんか?
舌舐めずりとか“のじゃ”口調とか……
コレ絶対“そういう性癖の人”を狙い撃ちしてるよね!?
引くしかないよね!?
なお
「おい、立てるか?」
地面に横たわったまま呆然とこちらを見つめる幻女に声をかける。
「あ……ぅ……?」
……ダメだ、据わった目で呻き声しか返してこない。
見た限り“手遅れ”だったわけではなさそうだが。
仕方がないので、とりあえずは周囲の安全を確保すべく群がるオークどもを蹴散らすことにした。
「チヨメちゃん」
「はっ!」
呼びかけに素早く応じて傍に寄り添うチヨメちゃん。
「まずは周りの掃除をしよう、オークは肉が厚くて斬り辛いから急所を狙うといいぞ」
苦無や短刀しか持たない彼女へアドバイスを送りつつ、こちらも“火炎弾”を愛銃に装填して構える。
「え……先ほどお館様は一刀両断されていたようでござるが?」
しかしアドバイスに対して混乱したような視線を向けてきた。
……うん、まあそうなるな。
「アレはこの刀の退魔性能と、なんというかまあコツみたいな?」
「な、なるほど?」
頭上にはてなマークでも浮かべていそうな顔で首を傾げるチヨメちゃん。いや、ああいうのは慣れだから口で説明するのは面倒なんだよな。
……というか、そんなこと喋ってる間にもオーク共がじわじわとこちらににじり寄って来ていた。
「……まあいい、行くぞ!」
「は、はい!!」
──トイレの壁にあった隠し通路を抜けて数分。
駆け抜けた通路の先にてオークの群れを発見した。
よく見れば一体のオークが何かに覆い被さるようにして地に伏せているのが見え、直感で「下にいるのは壬生のどちらかだ」と思った俺は速攻でそのオークを斬り裂いた。
案の定、下に隠れていたのは幻女で。呆然とする彼女に喝を入れるべく声をかけてみたのだが。
特に反応は無し。たぶんに恐怖から固まっているのだろう。
カエルかお前は。
仕方がないのでこの場のオークは俺たちだけで片付けることになった。
「……にしても、数が多いな!!」
火炎弾でオークを射殺しながらボヤく。
脂肪がたっぷりのオーク共には火炎弾がよく効くものの、圧倒的な物量差から少々押され気味な現状があった。
「チヨメちゃん、幻女を連れて後退だ! 豚共は俺が抑える!」
「承知!」
叫ぶように指示を出しつつ火炎瓶を投擲。正面から迫っていたオークの顔面に激突した瓶は、割れるとともに炎を生じさせた。延焼の魔術”を掛けておいたために炎はオークの顔面のみならず周囲の者にも次々と燃え広がり群れは大混乱に陥った。
「“物語”通りに知能が低いのは助かるよ」
とある作家の創作した醜悪な魔物、それが
元々オークの名称は、海の怪物やら冥界神オルクスやらから転じたものだが、ベオウルフに登場するグレンデルを指した種族名が発想の根底にあるというのが通説だ。
とはいえ。現在悪魔として出現するオークという存在はまんま“創作世界の魔物”として在る。
この事を考慮した上で
こいつらは
……と、語ってはみたものの。そんなことを気にするのは悪魔召喚に携わる“研究者”くらいなもので、当のサマナーたちは“使えるから使っている”というだけの認識にある。
もしくは、沸いて出たオーク共を討伐することで報酬を得る、謂わば“カモネギ”くらいの意識しかない。
かくいう俺もそっち側の認識であり、こいつらを“性欲の強い肉塊”以上に意識したことは無い。
「……だが、一番厄介なのはその“数”だ」
今も目前で群れる二足歩行の豚共は、現れるたびにとにかく“群れる”。自然発生の際に群れるならまだしも、これを使役するサマナーですら“物量戦法”を使ってくる。
ゆえに、「オークを一匹見たなら百は居ると思え」というのが大真面目に協会内で囁かれるくらいには常識だ。
故に、依頼外で無闇にこいつらを相手にするのは愚策も愚策。
用が無ければさっさとズラかるに限る。
横目でチラリと見て、チヨメちゃんがしっかりと幻女を抱えたのを確認した俺は脱兎の如くその場から走り去った。
……そこまでは良かったのだが。
「いかん……まるで道が分からんぞ!」
走ること十数分、俺たちはものの見事に迷子となっていた。
いや、たしかに俺たちは来た道を回れ右して引き返してきた。本来なら既に公園のトイレに出ている頃合いである。
それが、見渡す限りこれまでの通路と同じような地下道があるばかり。
不可思議な現象が起きているのは間違いない。
「またループものか?」
そう思い、COMPの『エリアサーチ』を起動してみると──
──計測結果、“不明”という文字が表示された。
同時に、エリア環境を示すパラメーターが“異界”の数値を表している。即ち、この空間は既に“異界内”ということ。
どうやら俺たちは敵の罠とやらにまんまと引っかかってしまったらしい。
一応、周辺の悪魔反応を探ってみたが特に反応は見当たらず。先程のオーク共も上手く撒けたようで、とりあえずこの一帯は俺たちしかいないことに安堵した。
異界への取り込み、そしてオーク軍団の使役。一先ずはこの二つが敵の情報として手に入った現状、それに合わせた準備というのもしておきたかった。
とはいえ、ここが敵の拠点内である以上はいつ何時襲われるか分からないので一定の警戒だけは保っておく。
その上でホッと一息ついた。
そこからさらに数分ほど歩いた俺たちは、通路内でも比較的広い空間を発見し、そこで小休止を取ることにした。
チヨメちゃんの担いできた幻女をそっと壁に下ろしてしばらく。嗚咽を止めた彼女へと静かに語りかける。
「落ち着いたか?」
「……」
しゃがんで目線を合わせるようにして声をかけるも、彼女はチラリとこちらを見た後すぐに視線を逸らし黙り込んだ。
……まあ、先刻に会った時からしてこのような態度を取られると予想してはいたが。
と。
「……悪い。助けてくれた相手にする態度じゃないよな。でも──
──怖いんだ」
俯いたまま、消え入りそうな声でそう応えた。
見るからに焦燥し切った様子に、俺もどうしたものかと頭を掻く。
彼女の“コレ”がたぶんに“トラウマ”によるものであるのは、初対面時のやり取りで察している。
原因は彼女が持つあの“異能”であることも明白。
ついでに、
“強制発情”の異能。俺を襲った際にも発動させていたソレは、襲撃後の対話では普通に治まっていた。ということは普段は制御下にあるということだろう。
しかし、今は思いっきり発動してしまっている上に
こうして推察に没頭していなければ頭がおかしくなりそうなほどに“ムラムラ”してくる。
「……」
一応、彼女から目線を外してみてはいるが。この異能、“視覚に作用しているわけではない”らしい。
落ち着ける今だから気づけたことだが、なんとなく
つまりは嗅覚、匂いを媒介として発動する異能ということだ。
現に、彼女を全く視界に入れていないのにムラムラが止まらない。寧ろ、対象を失ったことで暴走気味になりつつある。
そんな折、視線を逸らした先でチヨメちゃんを見てしまった。
「っ!!」
慌てて俯いて目を逸らしたものの。彼女の様子が脳裏に焼き付いて離れない。
袖無し、スリットのある独特な忍び衣装を纏った矮躯。時折見せる物憂げな顔や幸薄そうな雰囲気を思い出してムラムラする。
「いかんな……」
……自らの思考が既に女体で埋め尽くされている状況を理解して焦る。更に今は
これでは、野郎を視界に入れて“萎える”こともできない。
かと言って“自家発電”するのも憚れる……いや、“この感じ”を考慮するに自家発電などしたら
いったいどうしたら──
「お館様? 如何なされた?」
意思とは裏腹に、着実に高まる“性欲”を前にどうしようか悩む俺へとチヨメちゃんが近づいてきた。
いかん、こんな状態でもう一度彼女を見てしまえば──
「お館様?」
──憂いに濡れた瞳を揺らしながら、心配そうな表情で歩み寄る彼女。細く白い指先が伸ばされ俺へと触れようとしてくる。
「っ!!」
ぷつり、とナニカが切れた気がした俺は──
──速攻で壁にベッドバッドした。
ズガン、と轟音と地響きを鳴らしながら陥没した壁はパラパラと破片を床に降らす。
ついでに俺の額からも赤い液体がつつ、と垂れる。
「お館様!? 本当にどうなされたのですか!?」
驚きと困惑の悲鳴を上げるチヨメちゃんが再度、俺へと触れようとしてくる。
「……ふん!」
応じて湧き上がる性欲を誤魔化すべく、俺は再び壁に頭を叩きつけた。
そしてさらに抉れる壁と、増える流血。
「ご……ご乱心なされたか!?」
両手をわちゃわちゃさせながら叫ぶチヨメちゃん。
……その可愛らしい様子を見て、僅かだが性欲が薄れた。
「ふぅ…………うん、大丈夫。もう落ち着いたから」
「?? は、はぁ……?」
目を瞑り天を仰ぎながら深呼吸……ついでに“精神耐性”を高める簡単な
それでようやくまともな思考が再開できるくらいには回復した。
それから数分ほどして、幻女の方もようやく気持ちが落ち着いてきたらしく。あの“匂い”はパタリと治り俺のムラムラも嘘のように消え失せた。
「落ち着いたようだな……」
先ほどよりもだいぶ疲れた声で同じセリフを吐く。
……発散も鎮静化も望めない“ムラムラ”というのは、これでかなりキツいというのを学んだ。
一方、幻女は理性を取り戻したらしく気まずそうな顔で目を泳がせていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「本当に、悪い。……オレの“匂い”、キツかっただろ?」
初めて見せた申し訳なさそうな表情はなかなかに“可愛い”くて思わず性欲がぶり返しそうになった。
あと、その言い方だとまるでお前が“クサい”みたいだぞ。
「ああ、だいぶ“臭った”な」
「っ、そ、その言い方はやめろ!?」
恥ずかしそうに頬を赤らめ抗議する幻女。……お前が言い出したことだろうに。
とりあえず、と肩を回しながら立ち上がる。
そして膝を抱えた幻女に声をかけた。
「行けるか?」
この先もこの異界内を進めるか、戦えるか、まだ“鈴女を救う気はあるか”を問う。
現状、傷心気味の幻女を慰めるような時間は残念ながら無い。
鈴女が、賞金まで掛けられているダークサマナーに囚われたとするならば一秒でも早く助け出さねば命すら危ういからだ。
無理そうなら、仕方ない。
確実に救える命である幻女だけ連れて異界から脱出するべきだろう。
正直、異界からの脱出だけならなんとかなるとは思う。魔力やらMAGやらを使い果たせば“魔術”を用いてどうにか“穴”くらいは開けられる。しかしその後はしばらく戦闘はおろか身動き一つできないくらいに疲労するのは確か。
そうなると鈴女の救出は他のサマナーが集まってからになるだろう。
「お前の命か、友達の命か。どっちを優先する?
俺はどっちでも構わない」
これは本音だ。
当初の予想では二人とも既に“手遅れ”であると思っていたために、幻女だけでも確保できたならば御の字。もとより無茶してまで助ける義理は無いし、俺たちだけで
当然だ、あの物量オーク群だけでもヤバかったのにその上で凶悪なダークサマナー及びその仲魔とも戦わねばならず、更には救出対象までいるとなるととてもじゃないが手が回りそうに無い。
何より、
だが──
他ならぬ彼女が、どうしても「助けたい」と。
理由は明白、
あの苦痛、苦悩絶望悲嘆その他諸々の“痛み”を知るからこそ。もう絶対に“繰り返したくない”と強く思う。
思うからこそ、自分や他人の区別なく俺の目の届く、俺の手が届く範囲においては
なにより、そういう想いはいつだって“眩しく”見えてしまうものだから。
……と、こんな風にカッコつけるようになったのもごく最近の話なのだが。
そこは、今はどうでもいい。
「どうする?」
俺の問いかけに、幻女は茶化すでもなく罵倒するでもなく。怒りも苦悩も見せることなく真っ直ぐと俺の目を見返して応える。
間をおかずして答える。
「助ける。オレはそのためにここに来たんだからな。
……だから、悪いがアンタらの力を貸してほしい」
そう言って神妙な面持ちでゆっくりと頭を下げた。
両手を床について額を地に擦り付けんばかりに下げた様は、それはもう見事な土下座だった。
……え、いや、別にそこまでさせたかった訳じゃないんだけど?
ちょっと、いや大分、予想以上に覚悟決まっちゃってる感を出されて内心焦る。
てっきり、もう少し悩むかと思ってたのに……歳の割に肝の据わった娘である。
だが、悪くはない。
「そうか。ならそろそろ出発するか」
俺はなるべく平静を装いつつ通路を歩み始めた。……なんか、わざわざ勿体ぶって確認する必要もなかったな、と内心反省。
そんな俺へと幻女は少し驚いたように声をあげた。
「お、おい! 出発って……なんか作戦でも考えてんのか?」
疑わしげに見つめる幻女だが、無論、考えはあるとも。
幻女が落ち着きを取り戻すまでの間にCOMPの“エリアサーチ”を用いて周辺地形のマッピングを繰り返した。
これにより、周辺だけだがなんとか地形を把握することができた。
異界内といえども、我々“物質存在”がきちんと地に足つけてられる以上は少なからず地形というものは存在している。
ならば“霊波による
……ただ、異界内というのは“精神に傾いた世界”だけあって宙に矢鱈めったら“霊波が飛び交っている”。現実世界の空気並みに霊力が蔓延していると言ってもいい。
ゆえに、反響が上手く届かず。精々が数十mの範囲しかサーチできない。
まあ、これだけでも不意打ち対策にはなるし便利ではあるが。
次に──
「チヨメちゃん、お願いできるか?」
「承知にござる」
俺の声に粛々と応えて膝をつくチヨメちゃん。そして手印を結んだ彼女は何やらブツブツと呪文のような“祝詞”のようなものを唱え始めた。
すると──
「おぉっ!?」
彼女の身体から黒い靄のような“長いナニカ”が溢れ出してきた。それを間近で見ていた幻女が驚きの声をあげて後退る。
そんな彼女を宥めながらも、みるみるうちに“とぐろ”を巻き始めた靄を見つめる。
……まあ、俺も初めて見た時は「
今回も頼らせてもらう。
やがて、周囲をうねりながら這っていた靄は通路の先へと蛇の如き動きで進んでいった。
これで通路の先の詳細を確認できる上に、最大範囲も結構広いっぽい。更には
いやぁ、チヨメ様様だな。
そうして暫く。
ずっと目を閉じて集中していたチヨメちゃんが唐突にこちらに振り向いた。
「……偵察、終えましてござる」
粛々とこちらに告げるチヨメちゃんだが、どことなく“疲れてる”ようにも見えた。
結構広い範囲まで見てくれたのかな?
「どうだった?」
「この先しばらく進んだところに大扉を発見。使い魔越しにござるが一際大きな“魔力”を感知してございまする」
ふむ、定石ならばそこが敵の居場所。所謂ボス部屋だろう。
できれば鈴女だけ見つけてズラかりたかったが、異界を構築するようなダークサマナーだ、どのみち戦闘は避けられないとも考えられる。
「分かった。ならそこへ向かおう、案内頼めるか?」
「承知。……それと、道中にて幾つもの別れ道がございまするが、奥に続く道以外は悪魔”が待ち受けております。ご注意を。
先導は拙者が務めましょう」
「ああ、任せた」
ポン、と肩を叩くとどことなく嬉しそうな顔になったチヨメちゃんは少々張り切った様子で先を歩き始めた。
その背を微笑ましく眺めながら俺たちも彼女の後に続いた。
【あとがき】
無事に水辺のステゴロが重なりましたとさ。
うん(血涙
え、恒常だからいずれ来る?
五年やってて未だにノーマルネロちゃまいないんですが??
孔明もメイヴも良ちゃんも(ry
いないんですが????(血涙噴射