英傑召喚師   作:蒼天伍号

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後編が書き上がらないと言ったな…

アレは嘘だ!!




終着

「うぷ……」

 

ヒノカグツチを仕舞って早々、腹の内から込み上げてきた嘔吐感を堪えきれずにぶち撒けた。

 

ビチャビチャと床に落ちて溜まるのは“鮮血”。

 

「まあ、こうなるな」

 

鎌倉の時にわかっていたことだ。霊力が低下した状態でヒノカグツチを抜けば“体の内側がズタズタになる”。

遅れて身に覚えのある“激痛”が身体中に襲い掛かった。

 

……だが、()()()()()()()()()()

それはつまり俺の低下した霊力が少しづつでも戻ってきているということだろう。もしくは、長い封印から解いたことで同調率が上がった影響か。

 

いずれにしろ、“まだ動ける”。ならばこのままチヨメの救援に向かうべきだろう、否、向かう以外の選択肢が思い浮かばない。

 

 

 

俺は痛む身体に鞭打ち迷わず救援に向かう。が、このまま突っ込んでも足手纏いにしかならないので、懐を漁って使えそうな道具を幾つか選定する。

TNT爆弾、鎮怪符、魔石。

 

……残念ながら今の状況で使えそうなのはこれらしか見つからなかった。そもそも、“楽な仕事”のつもりでノコノコとやって来た俺だ。万が一を想定していたとはいえ希少アイテムの類は持ち込んでいない。

 

他にも無数のサマナーが参戦するから、と侮っていた先日の俺を殴りたい。日中から活動するともなればその“行動範囲・速度”にも制限が発生することを考慮すべきだった。

おそらく、救援が到着するにはもう少しかかるだろう。加えてこの異界内を踏破するには少なくない時間を要する。それまでにチヨメが耐えられるとも思えないし、俺らだって危うい。

 

つまり、俺らでカタを付ける他ないということ。

 

「やるだけはやってやるさ」

 

自分に言い聞かせるように声に出して、いざTNT爆弾を投げようとして。俺を呼び止める声が聞こえた。

 

 

「待って。アイツを倒すなら私が役に立つ。だから先に拘束を解いてくれないかしら」

 

そう語るのは磔にされたまま放置されていた鈴女だ。

とはいえ見た限り彼女も“痛めつけられた”らしく衣服の端々が破れ柔肌にも小さな傷が幾つも見受けられる。

 

「出来るのか?」

 

何より“年端もいかない子ども”を戦わせるのはやはり心苦しい。そんな思いからつい問い返す。

対し彼女は憮然とした態度で「()れる」と返した。

……年不相応なほど濃密な殺気を伴って。

 

その異様な姿に圧倒され、俺は渋々彼女を拘束する鎖を愛刀で断ち切った。

 

解放された鈴女は手首をさすりつつ「ありがとう」と呟いた。

相変わらず抑揚がない声だが、初対面の時の“刺々しさ”は微塵も感じられなかった。

 

「それで、どうする気だ?」

 

「“夜刀神”を使う、そのための“隙”を用意して欲しい」

 

俺の疑問へ鈴女は自信満々な声音で応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶひっぶひっ! どうした? 避けてるだけじゃ勝てないぞぉ!」

 

小悪党じみた台詞を吐く豚ノ介へと嫌悪感を隠さない顔を向けるチヨメだが、彼の言葉もまた事実であった。

 

豚ノ介がハイオークウィザードとしての正体を見せて以降、彼女は反撃もままならずにこうして逃げ回っている。それでも広範囲魔法の連射は避けきれずにジワジワと生傷を増やしている有様だ。

アサシンクラスに該当する英雄たちが総じて不得手とする“力押し”に対してチヨメは明らかに不利だ。

確かに伊吹大明神の呪は強力であるものの、そう連発できるものでもない上にそもそも“隙が大きい”。

尤も、その隙は特段大きなものではないものの。豚ノ介の間髪入れない絨毯爆撃が如き魔法の嵐はそれすら許さないものだった。

 

「ほら、当たった!」

 

「っ、きゃあ!?」

 

思考に意識を割いたほんの僅かな隙を突いて、重複させたアギ系魔法が脇腹を焦がした。

 

「あ、ぐっ!」

 

無防備な胴体へのダメージは殊の外大きく、忍び装束を焼滅させつつ彼女の白い肌を黒く炭化させるまでのダメージを与えていた。

その痛みに呻き蹲る。

ともすれば“内臓”まで焼かれているかのような痛みだ。

 

「ぶひひひ!! そうだ、そうして這いつくばって俺の“ビッグマグナム”を咥えればいいんだよ!」

 

悍しい要求を語りながら豚ノ介はゆっくりと近づいてくる。

甚振る目的なのか先ほどまでの魔法の嵐はピタリと止んでいた。

――その隙を見逃すことなくチヨメは、残った力で“オロチの呪”を放った。

 

 

 

が。

 

 

バチン、と豚ノ介の直前にて弾かれるオロチ。真名解放すらしていない呪はそのまま靄として霧散した。

 

「ぐふふ、俺だってサマナーなんだぜ? テトラジャ系だって当然使えるんだなぁこれが。

貴様の技は確かに凄まじいが、種さえ分かれば対処するのは容易い。テトラジャに呪殺耐性の結界を混ぜればホレこの通り。現にその技は“呪い系統”の術だろう?」

 

頭の悪そうな言動からは想像できないほど理性的な回答を述べる彼にチヨメは舌打ちした。

道化に見せかけた知恵者、戦国の世では珍しくなかったが“ここはあくまで現代”と鷹を括っていた自分に恥じ入る。

よもや現代にもこれほどの“術者”がいたとは。

 

「さあ、今度こそ“楽しませて”もらうぞクノイチ。ぐふ、ぐふふふふ!」

 

「最早、これまでか……!」

 

既に抵抗するだけの力は残っていない。最初の“伊吹大明神縁起”に回した力をもう少しセーブしていたら或いはここまで苦戦はしなかったかもしれない。だが、それも後の祭りだ。

 

慰み者にされるならばいっそ、と彼女が“自爆”のための準備に入ったところで。

 

 

不意に、豚ノ介の身体が“爆発”した。

 

「ぶひひひぃ!?」

 

間抜けな声を出す豚ノ介だが、彼を襲った爆発は存外に凄まじい威力を有していた。その爆風だけでチヨメの小さな身体が飛ばされるほどには。

 

「うぁ!?」

 

力無く蹲っていた彼女の身体はふわりと宙に浮かび上がり容赦なく後方へと飛ばされていく。平時ならともかく消耗した彼女が石壁に叩きつけられては大事になりかねない。

そんな心配からか、投げ出された彼女の矮躯へと駆け寄り“ヒデオ”はしっかりと抱きとめていた。

 

「っと! 大丈夫か、チヨメちゃん?」

 

俗にお姫様抱っこと称される形で抱きとめられたチヨメは、恥ずかしさから咄嗟にヒデオの方へと顔を向けた。

 

「お館様……っ!? そ、その血は!」

 

しかし、彼が口からダラダラと血を流している様を見ては“お姫様抱っこへの抗議”などは容易く消し飛ぶ。加えてその身体にも至る所に打撲痕と傷を作っており、どう見ても“満身創痍”だった。

 

「平気へいき、ちょっと無理したから正直これ以上動けないけど大事には至らないから。

それより、はいコレ」

 

呑気な声で笑いつつ彼は一つの“石”をチヨメの身体にそっと触れさせた。その瞬間、石……魔石(ませき)は輝きを放ち消滅。応じてチヨメの身体に刻まれた傷が僅かに修復された。

 

「ああ、やっぱ足りないか……なら」

 

そんなことを宣いながら懐から次々と同じ石・魔石を取り出して続け様にチヨメの身体に充てる。その度に傷が癒え、三つほど使用した頃にはほぼ全快するまでとなっていた。

ここまでされては流石のチヨメとて、魔石が“治療用のアイテム”であることに気が付き。それならば尚のことお館様にこそ使うべきだと叫んだ。

 

「わかってるよ。俺だってちゃんと使うさ」

 

チヨメの訴えに軽く返事をして、一つ、魔石を自らに使うヒデオ。それによって打撲痕の幾つかが消えたが全快には程遠い。それを訝しみ、同時に“理由”に思い至り顔が青ざめる。

そして、脳裏に浮かんだ“理由(わけ)”を恐る恐る口に出した。

 

「よもや……よもやとは思いますが。()()()()()()()()()のでござるか?」

 

チヨメの問いに、しかし笑みで返すヒデオは何も答えない。その沈黙が何よりその事実を証明し。

色々な考えと“感情”が溢れたチヨメは、お館様の胸に顔を押し付けて“泣いた”。

 

「何という、なんという愚かな真似を……! 拙者は所詮は忍びの一人に過ぎませぬ! 諜報・斥候には秀でていても単純な戦力ではウシワカ殿たちには到底及びませぬ!

常ならば、余人ならば“捨て駒”として使い捨てるべきだろう拙者のことを……あろうことか“自らを後回しにして”助けるなど!

正気の沙汰ではありませぬ!」

 

慟哭に似た叫びは、普段の彼女ならば絶対にしない行為だ。或いはヒデオの接し方に“かつて自分を優しく受け入れてくれた男”のことを思い出してしまったからか。

チヨメ自身、理由も分からずしかし止め処なく流れる涙はどうしたって止まない。

 

「いやいや買い被り過ぎだろ。俺は“家族”だから助けたかっただけだよ。そこに強いとか弱いとかは関係ないだろ」

 

やがて声を上げて泣き出したチヨメの頭を優しく撫でながらヒデオは穏やかな笑みを浮かべ静かに座していた。

……まあ、先程チヨメを助けた際に残った体力の大半を使い果たしてその場から一歩も動けなくなっているだけなのだが。

 

 

 

 

 

――そして、目の前でそんな“イチャイチャ”を見せつけられた豚ノ介が黙っているはずもなく。

 

「ぶひっ……大した度胸だよお前は。この豚ノ介様を前にして“清々しい程のリア充っぷり”を見せつけてくれたのだからなぁ、畜生が!」

 

爆発による白煙の中からギラギラした双眸を向けながら叫ぶ。その様子から“大してダメージを受けていない”ことをヒデオは理解した。

同時に「畜生はお前だ」と脊髄反射しそうになる自分をぐっと抑える。

 

ヒデオが放ったTNT爆弾は、サマナーが用いる戦闘アイテムの中でも希少な“万能属性”だ。

万能属性とは既存の魔法属性に囚われない“独自の法則”をもった概念という割ととんでもない概念なのだが今は割愛。

 

大事なのはヤツが“対魔法結界”で威力を押さえ込んだ点だろう。

事前に、奴の狡猾な振る舞いから“自分を守る結界”の存在を予測していた彼は、他の戦闘アイテムを選ばず高級品なTNT爆弾を選んだ。

そして、爆発の際にCOMPのアナライズ機能を用いて奴のデータを調べてみたのだが。

 

案の定、奴の周囲に高密度の対魔法結界が張り巡らされていることが判明した。加えてその身に宿す魔力量が尋常ではないことも。

 

だが、そこで彼は一つの攻略法を見出した。

 

 

 

「おいおい、いくら終生ぼっちの豚野郎だからって声を荒げるもんじゃないぜ。その前に整形するかいっそ転生にワンチャンするべきじゃねぇのか?」

 

怒りを露わにする豚ノ介に対して敢えて煽るような台詞を吐いた。

それを受けて当然、豚ノ介の怒りは高められる。

 

「なんだと……?」

 

「聞こえなかったのか? ああ、耳がだらしなく垂れ下がってるから聞き取れなかったんだな。というかその姿、いい加減やめたほうがいいぜ? ミミガーは確かに美味だが生憎とお前は食う気すら起きないからな。ともすれば食用豚を侮辱しているようにも取れる。

 

家畜にもなれない“役立たず”はとっとと失せろ」

 

最大限の侮辱を込めた表情でそう吐き捨てた。

最後の一言に豚ノ介の頭で“プチリ”と何かが切れた。

 

「も、も、もう許さねぇぞクソ猿!! テメェは跡形もなく消し飛ばしてやる! 塵すら残さず消してやる!!

もうクノイチとかどうでもいい、テメェらまとめて死ねやコラァァァァァ!!」

 

灰色の額に無数の青筋を浮かべ激昂した豚ノ介は杖を振り上げた。それに応じて再び無数の魔法陣が“重複”して浮かび上がり、さらには()()()()()()()()()()()()()()()()()()メギドラ系魔法陣すら重複させた。

正真正銘、彼が出せる最大火力。魔法陣の重複を主軸にした魔法攻撃で出せる全力だ。

 

これが直撃すればヒデオやチヨメはおろか、この異界に穴が空いてしまうだろう。

 

――そして、それこそが狙いでもあった。

 

 

「だが、まだ“警戒”しているな」

 

ヒデオがボソリと呟く通り、激昂して尚も豚ノ介は強い警戒を持って周囲を気にしていた。それはひとえに、先程、油断からチヨメの奥義の直撃を受けてしまった反省からだ。

道化であっても知恵が回る、そしてそれを為せるだけの“生命力”こそが豚ノ介の特徴であった。

 

「値は張るが命には代えられないからな」

 

そう言って懐に手を入れて一枚の“札”を掴む。

その直後、豚ノ介が怒声を上げながら杖を振り下ろし、展開された魔法陣から無数の魔法が放たれた。

 

「いくら俺が雑魚だからって守りを捨てるのは愚策過ぎるぜ豚野郎」

 

神族にも匹敵する圧倒的な魔法の群れを前に笑みを溢したヒデオは、手につかんでいた札、“鎮怪符”を面前に掲げた。

その瞬間――

 

 

 

符から発せられた透明なバリアのようなものによって全ての魔法が()()()()して一直線に豚ノ介へと向かった。

 

「なんとぉ!!!?」

 

予期せぬ事態に驚愕を声に出した豚ノ介は、しかしなす術もなく反射された自分の魔法たちに襲われた。

激しい爆発と閃光、炎と氷、風と雷が絶え間なく豚ノ介がいた地点に発生してさながら天変地異の様相を呈する。

 

そんな凄まじい光景を見て、しかしヒデオの顔は険しかった。

 

 

 

 

 

 

やがて、魔法が止んでしばらく。大量の白煙を纏いながらも豚ノ介は姿を現した。

原型を止めているのはもとより、全身が焼け焦げたりしているもののやはり“さしてダメージを受けていない様子”なのにはヒデオも驚いた。

 

 

――だが、事実として豚ノ介も少なくないダメージを受けていた。ただ単に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけのこと。

オーク全般に見られる“タフさ”を、ハイオークという“特別な種族”へと転生した彼は更に高水準で備えていただけだ。

 

現に血反吐を吐き散らしながらも、戦意の衰えない目でヒデオたちを睨みしっかりと地に足をつけて立っていた。

 

 

「化け物が……!!」

 

涅槃台とは別ベクトルの厄介さにヒデオは内心舌打ちした。神性を有さないために切り札すら使えない。

彼が不得手とする“単純に強い相手”だ。

 

おまけに今はそれらを担当してくれる前衛たちもいない。いるのは諜報担当と霊力低下した自分のみ。

 

――だからこそ、鈴女の存在は唯一の勝ち目であり希望であった。

 

「後は頼んだぞ……!!」

 

「ええ、任せて」

 

絞り出すように告げた言葉に、鈴女が応える。

 

 

スタスタ、とヒデオたちに歩み寄りながら“懐に手を入れて”中から一本の試験管のようなモノを取り出す。

そして流れるように短い詠唱を呟く。

 

()()夜刀神(ヤトノカミ)

 

一方、これまで沈黙していた鈴女が唐突に声を上げたことに訝しげな視線を向けた豚ノ介は、その手に持つ“管”を見て青ざめた。

そして咄嗟の判断で再び“結界”を張ろうと動き出す、が。

 

「“動くな”!!」

 

鋭い声音で発せられた鈴女の一言を受けて、何故か()()()()()()()()()

金縛り、俗に“緊縛(BIND)状態”としてサマナーに認知されているステータス異常の類だ。

豚ノ介は言動を除けば上位に食い入るほどのサマナーである。そのため素の耐性だって高い。

その彼をしてBINDせしめる彼女の言葉。

 

しかし、改めて彼女の顔を見た彼はその訳を知った。

 

 

 

 

垂れ下がった前髪によって隠されていた鈴女の右目。

今は髪が瞳から発せられる魔力風によって持ち上げられ、“不気味な光”を放つ瞳が露わとなっていた。

目の周囲には“蛇の鱗”が生え揃い、なにより、多くの蛇に見られるようにその瞳孔は“縦長”の蛇目だった。

 

それこそが豚ノ介の動きを止めた力の正体、夜刀神の神体たる右目を埋め込まれた鈴女が放った“呪い”による緊縛だった。

 

そして、身動きできない彼にトドメを刺すべく鈴女は“魔眼”の力を解放する。

 

「“吸魂(きゅうこん)魔眼・死亡告知(しぼうこくち)”」

 

見開かれた人外の瞳は、紫光を発しながら視界に映るモノの“MAG”を吸い取った。

 

 

 

 

 





【あとがき】
ノリに乗った気分で書き終えました。ですが当初の予定から変わって次回までが1セットになってます。
それはそれとして吸魂魔眼……かっこよくね?(自画自賛

金◯屋はマジで良いアイテム売ってて助かりましたね。高いし数少ないけど。ダ・ヴィンチちゃんもあのぐらい良心的になってもいいんやで……?
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