英傑召喚師   作:蒼天伍号

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ちょっと長いです。
あとがきは無視してください。





風雲急を告げる

「あがぁぁあアァァぁぁあ!!!?」

 

 鈴女の魔眼が一際大きく輝いた瞬間、豚ノ介の身体から“MAG”が溢れ出した。

 身体中にある穴という穴からMAG……のみならず“生命エネルギー”に分類されるエネルギーのすべてが搾り取られていく。

 

 可視化されたソレらは“白い靄”となって、いつの間にか鈴女の傍に“顕現”していた“白い大蛇”の口へと吸い込まれていく。

 そうして溜め込まれたエネルギーは全て宿主のエネルギーへと還元される。

 

 これが壬生一族が有する切り札、夜刀神の力であり“吸魂魔眼”と呼ばれる右目を有した鈴女が持つ異能であった。

 本来ならMAGだけを搾り取るところを、MAGを基にした魔力、気力、その他あらゆる生命活動に使われるエネルギー全て根こそぎ吸い出して餓死させる究極の“吸精(エナジードレイン)”。

 加えて夜刀神の神気を色濃く受け継いだ魔眼は、呪いによる緊縛を始めとした“権能”を備えていた。

 

「凄まじいな……」

 

 思わずヒデオが呟いた。

 目の前で行使される“夜刀神の権能”はもちろんのこと、いくら隙を突いたとはいえ難敵であった豚ノ介へこうも容易く“即死攻撃”を通した事実。そして、離れていても分かる濃密な“神気”。

 ともすれば全盛期の“犬神”や“オサキ”に匹敵する神気だ。

 間違っても齢十と少しの少女から発せられていい“気”ではない。

 

 

 

 

 

「おぼぼぼぼぼォ!!!?」

 

 ──しかし、その権能を以ってしても豚ノ介からエネルギーを吸い取るのは容易ではなかった。

 

「っ、コイツ、どれだけ溜め込んでるのよ!?」

 

 数分間、最大値で吸引しているにも関わらず一向に力尽きない豚ノ介に鈴女は舌打ちした。

 

 だが、それもすぐに終わりを告げる。

 

 

 身体から漏れる靄が途切れた途端、豚ノ介はその肉塗れの体躯をべちゃりと床に横たえた。

 ようやく息絶えた豚ノ介に、ホッと息を吐いて床にへたり込んだ。

 

 応じて、傍の“白大蛇”もすぅ、と消える。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 右目の輝きも消えて、しかし鈴女は荒い呼吸を続けている。

 胸を抑えるように添えられた右手には腕全体を覆うようにして“鱗”がメキメキと生えていた。

 それは夜刀神の権能を用いた“代償”。壬生の巫女が代々耐えてきた“侵食現象”である。

 鈴女も巫女として三年ほど戦い続けてきたために“コレ”にも慣れている。だが、それでも“痛み”と“不快感”が襲い来る事実に変わりはなかった。

 

 先に語った通り鈴女は“巫女として高い適性”を持つ。それ故に重篤な侵食であろうと“時間が経てば必ず治る”。

 だからこそ彼女は今、必死に耐えようとして苦しんでいた。

 

 

 ──そして、その光景は他ならぬ“チヨメ”の眼には“見覚えのあり過ぎるモノ”でもあった。

 

 

「アレ、は……!!」

 

 ──侵食。

 その言葉が彼女の脳裏に浮かんだ。

 忘れたことなどない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ではないか。

 同時に、“夜刀神”という土着神については生前に小耳に挟んでいた存在でもあった。

 “曰く、一睨みで命を奪う絶大なる神気の大蛇”、と。

 

 ともすれば、“呪い”についてだけならばかの“伊吹大明神すら上回る”のではないか。

 先程の“強力な魔眼”を見たチヨメはそのようなことを思った。

 

 殺すことに特化した“祟り神”、数刻前に自らの主から聞いた話では“巫女はその身に神の一部を埋め込む”という。更にソレは力を使うたびに侵食し、やがては“同化”させてしまうとも。

 

 ──それは、あまりに“むごい”話だと思った。そして目の前で苦しむ彼女を見てチヨメは居ても立ってもいられなくなった。

 

 そんな彼女の内心をまるで見透かしたかのように、そっと背中を押す人物がいた。

 

「行ってこいよ」

 

「お館様……しかし──」

 

 一瞬、鈴女のもとへ駆け寄ろうとして。未だヒデオが満身創痍であることを思い出した。相変わらず口端から血を垂れ流し目も虚だ。

 そんな状態の彼から離れるわけにはいかない。

 なにより、ついさっき“真に信の置ける御方だ”と再認識したばかりなのだ。

()()()()()()

 

 

「オレからも頼む」

 

 葛藤する彼女へと次いで声をかけてきたのは幻女だった。

 見ればその身体は傷だらけで、押し寄せるオーク群を相手に激戦を繰り広げたであろうことは想像するに容易い。

 その後方に“山積みとなったオークの死体”があることから激戦を制したことも。

 

「コイツはオレが看とく。だから行ってやってくれ」

 

 初対面の時とは打って変わり“信頼”を宿した瞳を向けられては、チヨメも断ることは出来なかった。

 

「温情、有り難く……!」

 

 律儀に頭を下げてからチヨメは駆け足で鈴女のもとへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 ──その小さな背中を眺めながらヒデオはようやく“溜め息”を吐いた。

 

「ハァ……あー、痛い。幻女、“痛み止め”とか持ってないか?」

 

 つい先程まで“カッコつけたい”というしょうもない理由で必死にやせ我慢していた彼は、チヨメが十分に離れたのを確認してから、新たに傍に寄り添った少女に弱音を吐いた。

 

「なんだお前、さっきまで我慢出来てたろ……なら我慢しろ」

 

 対して少女の返答は辛辣だった。

 

「マジか……くそ、ケチらないで痛み止め持ってくるんだったな」

 

 微塵も慈悲を見せない幻女に、ヒデオは今日何度目か分からない後悔を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──夜刀神の侵食は、いつものことだ。

 

 痛いのも、気持ち悪いのも、耐えていればいつか終わる。そうやってこれまで数年やってきた。

 どんなに辛くても苦しくても、()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 幻女を始めとして、今の里人たちは各々に“苦しみ”を抱えて生きている。それは“心を壊すほどのトラウマ”だったり“飢えを凌げない苦しみ”だったり、種々累々大小異なれど“苦しいことに変わりない”。

 

 だから自分も頑張らなきゃいけない。

 

 ──そう、思ってきた。今だってそう思うのに。

 

 

「苦しい、よ……!」

 

 ──溢れてくる涙は、なんなのだろう? 

 

「痛い、気持ち悪いよ……!」

 

 ──痛いことだけが嫌なんじゃない、気持ち悪いことだけが嫌なんじゃない。

 

「……お母さん」

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 巫女の苦しみは巫女にしか分からない、私だって他の人の苦しみを心から理解することはできないのと同じように。

 

 その()()

 それがなにより寂しくて──

 

 

 

「大丈夫でござる」

 

 ──不意に、背中が暖かさに包まれた。

 次の瞬間には身体全体を包み込むように“抱き込まれた”。

 

「え……?」

 

 思考が停止する、自分が今置かれている状況が理解できない。

 否、“把握”は出来ている。

 

 声音と、身体を包む“大きさ”からして。今、私は“チヨメさん”に抱かれている”。

 

 それを認識して、また涙が溢れた。

 ポロポロと流れていた涙はやがて清流のように止めどなく。

 ──それをそっと指で掬いながら“彼女”は優しい声を発した。

 

「大丈夫、拙者が共にいるでござる」

 

「あ、え……?」

 

 理性が困惑を示す、赤の他人が急に抱きついてきた現状に不快感を示す。だが身体は一向に“離れようとしない”。

 混乱する私へとチヨメさんはさらに語りかけてくる。

 

「“その呪”は拙者にも覚えのあるモノ。“侵そうとしてくる”感覚、自らの身体が“別のモノに変わる恐怖”。

 

 ──私にも、“分かる”わ」

 

 その言葉を聞いて、ふと彼女が口にしていた名、その術を思い出した。

 口寄せ・伊吹大明神縁起。その口上の後に彼女の身体から蛇の形をした“呪い”が飛び出したのを見ていた。

 

 ──そこで直感した。

 

 

 ──彼女も()()なのだと。

 

「貴女も、呪いを……?」

 

「左様、与えた“神”は違えどこの身を“蛇と成す”呪いに相違なく。

 ……決して、すべてを理解するとは申さぬが。余人よりは理解しているでござるよ」

 

 そう答える彼女の声は終始穏やかで、まるで子どもをあやすような優しさと情愛に満ちた“笑み”を見せていた。

 

 ──その笑みを見て、私はもう涙を堪えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴女が、チヨメちゃんの胸を借りて“泣いている”。

 

 生憎と詳しい“事情”は分からないが。さっき俺の腕の中でチヨメが浮かべていた“憂いの表情”からして彼女を鈴女のもとへ送ったのは間違いではなかったようだ。

 

 チヨメは鈴女が苦しんでいた“わけ”を知っている。

 同時に“なぜ知っているのか”について、俺の方もなんとなくだが“察し”が付いてきた。

 

「……使い魔なんかじゃねぇじゃんか」

 

 ボソリ、と呟いてからふと幻女の方を向くと。

 

「……っ」

 

 何かを堪えるようにしてぎゅっと拳を握りしめていた。

 いったい何事か、と声をかけてみると──

 

「オレには“アイツの苦しみが分からねぇ”」

 

 そう答えた。

 続けて──

 

「分からねぇから安易に“大丈夫”とも言えないし“平気か”なんて聞けるわけねぇ。ちっちゃい頃から一緒なのに……情けねぇよな」

 

 そう言ってから、彼女は静かに泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、異界の崩壊が始まった。

 恐らくは支配者にして創造主たる豚ノ介が討伐された影響だろう。

 主を失った異界は地響きと共にガラガラと崩れていく。

 

 突然始まった崩壊に俺たちは慌ててその場を後にした。

 そしてCOMPのエリアサーチをかけて見つけた“外に繋がる空間の裂け目”に向かって全力疾走、なんとか異界から脱することに成功した。

 ……瀕死の身には堪える仕打ちだが、チヨメちゃんが肩を貸してくれたためになんとかなった。

 鈴女、幻女も大事無くピンピンしている。

 そのことが妙に恨めしく感じられ「どうして助けに行った俺だけが重傷なんだ」と喉元まで出掛かったがぐっと飲み込む。

 何はともあれ無事だったのだ、わざわざ水を差す必要もあるまい。

 

 今は、出口の先にあった公園にて一息吐いたところで。鈴女がチヨメに感謝と別れの挨拶を告げていた。

 ……それは先ず俺に言うべきではないだろうか、という疑問もぐっと堪える。

 

 

 

 

 

「この度は助けていただき本当にありがとうございました」

 

 嫌みの無い丁寧な仕草で深々と頭を下げる鈴女。対してチヨメは困ったように頬を掻いた。

 

「いえ、拙者はお館様の命に従ったまで。謝辞であればお館様にこそ送られるべきでござろう」

 

「それはもちろん……ですが、その。先ほどは、え、と──」

 

 ほんのり頬を赤らめて言い淀む彼女へ、チヨメは優しい笑みを向けた。

 

「……ああ、アレは気にしなくていいでござるよ。

 というか拙者も少々お節介を焼き過ぎたでござる……あの時はお館様の御心に感極まってしまい出過ぎた真似を」

 

「そんな、お節介だなんて! 私も、お恥ずかしいところをお見せしました。自らの未熟を恥じ入るばかりです……

 

 ……で、でも、その。“嬉しかった”です。久しぶりにお母さんに会えたみたいな感覚で……

 

 す、すいません! 私は何を言ってるのか──」

 

 無邪気な笑みを溢してから慌てて謝る鈴女。忙しなくコロコロと変わる表情は初対面の時からは考えられないほどに“年相応”だ。

 そのことがなんとなく、チヨメは微笑ましかった。

 そして、“お母さん”と。

 

 生前は“連れ子”の面倒を見ていたチヨメは、その頃の気持ちをほんの少し思い出していた。

 懐かしい“母性”を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──鈴女とチヨメちゃんが何やら盛り上がっているのを遠目に見てから、俺と同じく蚊帳の外に置かれた幻女に視線を向けた。

 

「なんだよ」

 

 ふと目が合って、しかし彼女はぶっきらぼうにそう返すとそっぽを向いてしまった。

 ……相変わらず刺々しい奴だ。

 

「そう邪険にするなよ、こちとら怪我人だぞ」

 

「オレらみたいな美少女の助けになれたんだ、名誉の負傷だろう」

 

 さも当然と言わんばかりに宣う。

 ……終始塩対応なのに名誉もクソもあるまいに。

 

 と、内心げんなりしていると不意に幻女はバツが悪そうな顔で頭を掻いた。

 

「……あー、今のはちょっと言い過ぎた。正直、感謝してるよ。オレを助けてくれたのも、鈴女を助けてくれたのも。とてもじゃないがオレ一人じゃ無理だった」

 

 小っ恥ずかしい、とばかりに口を尖らせ視線は逸らしたまま真っ赤な頬しか向けなかったが。彼女は確かに感謝の言葉を告げた。

 そう恥ずかしそうにされるとこっちも気まずいのだが。

 

 とはいえ、今の彼女は“年相応”な表情を見せる子どもだった。そのことが微笑ましくて自然と笑みが溢れた。

 

「……何笑ってんだよ」

 

 それを目敏く見つけて恨めしげな視線を向けてくる。

 

「別に。……ただ単に微笑ましく感じただけだよ」

 

 子どもは“純粋”だ。

 純粋な心というのは往々にして“美しい”。特に子どもが見せる“正の感情”は殊更に眩しく見える。

 だから、子どもが子どもらしく居られるのは素晴らしいことだと思う。

 

 

 恥ずかしそうにする幻女と、それを微笑ましく見つめる俺だけの空間でしばし沈黙が流れた。

 やがて、彼女の方が口火を切る。

 

「こいつは“借り”だ。だからオレも返さなきゃならねぇ」

 

「唐突になんだ?」

 

 突然そんなことを言い始める彼女に困惑する。

 

「……要するに、なんか困ったことあったら手を貸すってこと」

 

 一瞬恥ずかしそうに、しかし次の瞬間には強い意志を込めた目で彼女は言った。

 なるほど、彼女なりのケジメというやつらしい。

 

 理解した俺の手をまたも突然引っ張って無理やり“紙切れ”を握らせてきた。

 徐に確認してみるとそこには“連絡先”のような文字の羅列。

 

「LI◯EのIDと電話番号。なんかあったらそれで知らせろ。

 あ、間違っても“変なこと”に使うんじゃねぇぞ!?」

 

 これは……俗に言う“脈アリ”とやらか? 

 と、そんな冗談を脳内で思い浮かべながらも口には出さない。出したら絶対怒るだろうから。

 それにしたって年頃の女の子が、今日会ったばかりのおっさんに連絡先なんか渡しちゃダメだろう。危機管理能力に不安を覚える。

 

「俺、二年後には三十路なんだけど」

 

「年なんか関係な──ん? ていうことはお前二十八!?」

 

 心底驚いた顔で目を見開く幻女。

 若いって? ふ、よく言われる。

 

 気分が良くなった俺に、しかし彼女は“ドン引き”したような顔を見せた。……おや? 

 

「そんないい歳してオレに発情しやがったってことかよ。流石に気持ち悪いぞ……」

 

 掃き溜めを見る目で呟いた。

 まだその話引き摺るのか!? 

 

「だ、だからそれはお前の術がだな……!?」

 

「オレの術は、“性的対象として見ている場合”にしか発動しねぇんだよ。つまりお前はそういう目でオレらみたいなガキを見てるってことだよな」

 

 淡々と、実に理路整然と告げる。

 ぐうの音も出ないとはこのことか……! 

 

「いや待て。俺は決してそんな“犯罪的思考”は持ってないぞ。断じて……!」

 

 そう、俺は“ロリコンではない”。

 たとえ……たとえ“ほんのちょっと自覚があった”としてもそれはきっと気のせいだ。気のせいったら気のせいだ。

 他ならぬ俺が認めるわけにはいかない。

 

 

 

 必死に弁明する俺の言葉をズバズバと正論で切り裂いてしばらく。

 最早抵抗する意思も消え失せた俺はひたすらに項垂れる羽目になっていた。

 頭上から冷ややかな視線を注ぐ幻女。

 俺は「もう好きにしてくれ……」と半ば投げやりな心境に至っていた。

 

 やがて、不意に幻女の笑い声が降り注ぐ。

 何事か、と釣られて顔を上げると──

 

「っくくく! ああ、いい顔だぜ。二度もオレに恥かかせやがったんだからな。こんくらいは許せよ?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女が口元に手を当てていた。

 つまり……俺はこんなメスガキに揶揄われていたということか。

 

 予想外の展開と、なんとなく“納得いかない”と感じて思わずむすっとしてしまう。

 そんな俺を笑い飛ばして、彼女はステップを踏みながら鈴女の方へと向かった。見れば鈴女たちの方も話がひと段落ついたようで鈴女がこちらに向けてぺこりとお辞儀していた。

 

「今日は助けてくれてありがとうございます。正直、見直しました」

 

 歩み寄りながら感謝……と少しばかりの毒舌を混ぜて語りかけてくる。おう、たとえ見直したとしても口に出しちゃ台無しだからな。

 

「幻女から聞きました、貴方が発破をかけてくれたから頑張れた……と。あの子を“誑かす”なんて凄いですね、どんな“汚い手”を使ったんですか?」

 

 微笑を浮かべたままに冷ややかな視線を向けるという器用な真似をしやがる鈴女嬢。

 いつの間にか幻女以上の“口の悪さ”を披露する彼女に苦笑が滲み出た。

 

「ば、ばか! それは言わなくていいんだっての!!」

 

 さらっと“バラした”鈴女へ幻女が慌てて抗議している。

 ……何を恥ずかしがっているのか分からんが微笑ましいからまあいいか。

 

 友達の抗議をナチュラルにスルーして鈴女はさらに距離を詰めてくる。

 

「ロリコンなのは把握していましたが、口まで回るとは。誘拐犯の素質ありますよ?」

 

「……あんま調子乗ってっと舌引っこ抜くぞ?」

 

 あまりにもあんまりな言い掛かりに反論する。

 恩を押し付けるつもりは毛頭ないが、仮にも怪我人の身ゆえに普段よりも若干沸点が低くなってる自分がいる。

 

 だが鈴女は怯むどころか納得したような顔をしてから神妙な面持ちを見せた。

 

「……と、冗談はこれくらいで。

 

 本当に感謝しています、奧山秀雄さん。

 助けてくれてありがとう」

 

 そして眩しい笑みを浮かべてそう述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんかあったら連絡しろよな! 絶対だぞ!」

 

 鈴女が歩法で先を進む中、幻女はいつまで経っても離れず。少し進んでは上記のセリフを繰り返すだけのbotになっていた。

 

「わかったから! 早く行け!」

 

「言われなくても分かってんよ! 

 ……でも、連絡──」

 

 しつこく連呼する幻女に遂にキレた鈴女が手刀を叩き込み鮮やかに意識を刈り取った。

 

「それでは、また、いつか」

 

 よいしょ、と幻女を担いだ彼女は律儀に会釈して再度、歩法を用いて華麗に去っていった。

 

 

 その背中はすぐに見えなくなり、残された俺たちは改めて安堵の息を吐いた。

 

「嵐のような奴らだったな」

 

「然り。されど……いじらしい娘たちでござった」

 

 いじらしい、というかなんというか。

 ただ、“揃って毒吐かないとまともに喋ってくれない”のは理解した。

 

 俺じゃなきゃマジギレされてるぞ、と伝えたところ「ご安心を、相手は選んでますので」と返されたことから全く反省していないのも理解しているがな。

 

 

 何はともあれ、これで一件落着ということ。

 休暇も兼ねた楽な仕事だったはずのに、とんだ激戦を繰り広げてしまった。めぼしい収穫もなかったしひたすらに疲れただけの結果に終わったのが更に虚しい。

 

 まあ、彼女たちを無事に助けられた、という結果で満足しておこうとは思う。

 

「……というか、“本来の仕事”が全然終わってないんだったな」

 

 ふと、俺が東京に来た“本来の理由”を思い出してげんなりした。正直、本来の仕事以上に働いたと思うしここは手打ちにして欲しいところだ。

 

 ため息を吐いた俺に、チヨメちゃんは不安そうな視線を向けた。

 

「……お館様、お身体の方は、如何でござるか?」

 

「だいぶ楽になったよ、“鈴女からの御礼”のおかげで」

 

 別れる前、改めて御礼を述べた彼女は「今の手持ちはこれが精一杯」と“宝玉”を渡してきた。さらっとくれたが“宝玉”は“ディアラハン”に相当する治癒魔法が籠もった“高級品”である。

「後日、改めてお礼の品を」と畏る彼女を慌てて止めてこちらもお礼を告げてなんとか納得いただいたが。

 

 素の彼女はとにかく“律儀”だと感じた、加えて“生真面目”だ。……それだけに“いちいち毒吐く口”がなんとも悩ましいもの。

 

 とはいえ、今時珍しい良い子だし、それ故に“戦わされている”現状に複雑な心境を抱いた。

 ……抱いたところで俺にはどうすることも出来ないし、彼女たちも“自分でなんとかしたい”と思っている。

 

 

「まあ、機を見て“手助け”するくらいならバチは当たらないだろう」

 

「はい、その時は是非拙者をお供に」

 

 彼女も鈴女たちを気に入ったらしく嬉しそうな笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、と気合を入れていざ仕事を再開する。

 鈴女たちが今回の“事の顛末”をマコトへ説明しに“出向”してしまったので新宿エリアは俺たちだけで処理しなければならなくなった。

 ……ただ、まあ、“マコトに懺悔する”という彼女らの“地獄”に比べれば安いものだ。

 残りの区域も“正真正銘のイージーモード”である以上は、怠くてもきちんと回っていれば終わる。……豚ノ介みたいなイレギュラーが出てこない限りは。

 

 というか、あのイレギュラーはマコト側……もとい協会側にも問題があったと思う。事前の調査でかなり詳しい情報まで出回っていたにも関わらず、あんな“変態”の暗躍を見逃していたのはあちらの失態だ。

 ……もし鈴女たちが協会側に“いじめられて”いたら、そこら辺を盾にして助勢しようと思った。

 

 

「お館様、次はどこに向かわれるのでござるか?」

 

 ぴたっと傍にくっついてこちらを見上げるチヨメちゃん。心なしか表情も“晴れ晴れ”としていて、どこか“憑き物が取れた”ような雰囲気を感じる。

 と、同時に“信頼を向けてくれている”ことも。

 

 そのことが嬉しくてこちらも気分が上がる。

 彼女の顔を見ていたら先ほどまでの“気怠さ”もどこ吹く風とやらだ。

 

 俺は早速COMPのマップ機能を操作して担当区域を検索しようとして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──全身が粟立つほどの殺気を感じた。

 

 

 

 

「っ!!!!」

 

 ぞわり、と体毛が逆立ち悪寒が背を駆けた。

 生物として当然の“生存本能”、曲がりなりにもサマナーとして十年以上を戦ってきた“経験”をフルに活用して殺気の発生源を探る──と。

 

「お館様ッ!!」

 

 突然俺の胸に飛び込んできたチヨメちゃん……否、“押し飛ばされた”。直後、先ほどまで立っていた地面に“突風”が激突する。

 

「ぐっ!」

 

 ……いや、ただの突風ではない。

 アスファルトすら容易く粉微塵にし、尚且つ“クレーター”を生み出すほどの威力を持った“最上級衝撃魔法(ザンダイン)”だ……!! 

 直撃していないにも関わらず凄まじい暴風を叩きつけられ、地面にしがみつくことでなんとか耐える。

 もちろん、チヨメちゃんは覆い被さるようにして庇っている。

 

 

 やがて、風が止んだところで“第三者”の足音が静かに近づいてきた。

 

 

 俺は脳をフル稼働に、最大限の警戒と集中を持ってゆっくりと“相手”の方へと視線を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“臭い”を頼りに追ってみれば……ハッ! “奥山の魔剣”とはな。

 お前たちとは“先の大戦”では肩を並べて戦った仲だが。

 

()()()()と成り下がったならば、斬り捨てるだけだ」

 

 

 “ソレ”は人型の異形であった。

 

 目鼻口は無く、“緑色の表皮”が顔から足元まで続きそれを覆うようにして“骨格のような鎧”が生えている。

 両肩には“宝玉のようなモノ”が埋め込まれ、そこから分離したかのように両腕が“浮いている”。

 見るからに“悪魔”、それも“理知的な会話”を可能とする知性を有した悪魔。

 

 何より肌を焼くような“絶大な霊力”。

 

 並の悪魔であるはずがない、“神族でさえここまでの霊力はそうそう見ない”。

 かつて、“養父”の仲魔として見たことがある“帝釈天(インドラ)”にも匹敵する凄まじい力を感じる。

 

 豚ノ介はもとより、廃寺での涅槃台よりも遥かに、“ヨシツネすらも超えている”。それほどの霊力。

 

 本能が警鐘を鳴らす。

()()()()()()()()()()()

 全力全開で離脱しろと。

 

 ──だが、他ならぬ“ヤツ”の“殺気”がこの身を動かすことを許さない。

 

 唯一動く口で、ゆっくり近寄ってくる“ヤツ”をなんとか押し留めようと“交渉”を試みる。

 

「……殺す前に聞かせてくれ。

 お前は何者で、なぜ俺たちを狙うのかを」

 

 体の震えが止まらない、滝のように流れる汗も止めどなく。

 しかし、腕の中のチヨメちゃんだけはしっかりと抱きしめて離さない。間違いなく()()()()()()()()()()なのだから。

 

 俺の問いをヤツは鼻で笑い、そして“答えた”。

 “身に覚えのない理由”と“自らの真名”を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“悪逆非道”を成した()()()()の犬が戯言を……ならば心して聞くがいい。

 

 

 我こそは“日の国”が生みし護国の(すい)

 “必殺の霊的国防兵器”が一柱。

 

 

 

 龍神・()()()()()()()なり」

 

 




【あとがき】
パライソちゃんにハマった人ってのは結構闇が深いと思った。
とりあえず千代ちゃんの活躍()を、順を追って解説しようと思う。

①ビジュアルが先行公開され一目惚れする←谷間ないから男じゃね?T.◯.Revolutionとネタにされる。後に紙マテで公認されちゃう。

②下総本編で登場するも、早速撃退される。おかっぱ鬼に虐められた挙句理性を失い武蔵ちゃんどころかコタくんに敗北する。
結果、影が薄くなる。……そこが可愛かったり。

③久しぶりに登場したと思ったらトンチキイベントでネタが増えて終わる。遊園地では黒髭にさえチョロインと認識される。不遇。もはやいじめでは?……でもそこが(ry

④幕間で突然語尾を捨てる。内容はひたすら酒呑に虐められるというモノ……エネミーも不利相性オンリーという筋金入りの嫌がらせ。でも可愛いからヨシ!

⑤久々の出番かと思ったらマドハンド。ハイエナ女神の試練で唯一の足手纏い、頭のネジがぶっ飛んでしまったかのようなテンションで終始キャラが迷走する。
……でも可愛いから(ry

⑥案の定、属性過多が宝の持ち腐れとなりキャラが迷子で性能もパッとしない、という人を選ぶキャラと認識されている(当社比☜イマココ



……これだけの仕打ちに耐えている千代ちゃん、もとい我らに救いを!!

具体的には千代女ちゃんメインのイベントが欲しいです()
あと欲を言えば牛若のモーション(ry
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