──俺目掛けて小太刀が振り下ろされる。
身動き一つ出来ない俺では、一切の抵抗も出来ずに真っ二つとなるのは確実だ。
──ああ、万事休す、か。
そう思い目を閉じた俺の耳に
硬いもの同士がぶつかり合う音、ちょうど刃と刃を交えたような──
「遅くなりました、まだ生きていらっしゃいますか?
──
とても聞き覚えのある、そして“頼り甲斐のある声”が聞こえ。反射的に目を見開く。
最初に眼界へと映り込んだのは、“ウシワカ”の背中だった。
「ウシワカ……」
思わず声に出して確認する。
ウシワカ、ウシワカマル。俺が最初に招いた英傑であり、旅先で拾った羽団扇が縁を結んだ仲魔。強くて頭も切れるが、我慢が利かず独断専行が目立つ少々問題児な、それでいて俺なんかに“忠義”を立ててくれる、いじらしくも愛らしい彼女。
ウシワカが、コウガサブロウの刃をしっかりと受け止めてくれていた。
「ウシワカ、なのか?」
「はい、貴女の仲魔・ウシワカマルです」
どうにも上手く頭が回らず、目の前の状況を飲み込めていない俺が再度確認すると。
彼女はいつもと変わらない声音で明るく応えた。
いや、待て。
確かウシワカは未だ討伐依頼が処理し切れておらず、オサキと一緒に夕凪周辺で活動中だったはずだが。
「貴様、何者だ!?」
困惑する俺の耳に、コウガサブロウの怒声が届く。
対し、ウシワカはスゥ、と目を細めて答える。
「英傑ウシワカマル。
……我が主を傷付けた礼、存分に返させてもらうぞ!」
一際大きく踏み込み、小太刀を弾き返す名刀・薄緑。
振るうのは日本で最も高い知名度を持つ大英雄の一人。
英傑・ウシワカマル。
仮にも神族たるコウガサブロウの膂力を上回ったことに若干驚きつつも、未だ“ヨシツネソースを取り込んだウシワカ”の戦いぶりを見たことがなかった事実に気付いた。
だが同時に──
「──ああ、くそ……もう……意識、が」
コウガサブロウへと果敢に斬りかかるウシワカの背を見つめる視界がブレ始める、と共にパチパチと意識が明滅する。
最後に、何故か炸裂している
──ヒデオが意識を失った頃、その場には続々と“援軍”が到着しつつあった。
だが、ヒデオがコウガサブロウに襲われているという現状を知る者は当事者たちのみだったはず。それが何故、大規模な援軍の到着に繋がったのか?
それは、不自然なほどの
まず、ヒデオたちが豚ノ介を討伐した頃合いに、ちょうどウシワカマルたちも全ての依頼を完了させ尚且つ
そして、ヒデオがコウガサブロウと遭遇した頃、ちょうどオサキが彼に依頼完了の通話を掛けており、電話が繋がらないことに違和感を感じていた。そこで、家電へと掛け直したことでヒデオが今『東京に来ている』ことを知った。
その時、「都内にいるならばこちらから探せばよい」と提案したウシワカにオサキも乗り、観光がてらぶらつくことになった。
その直後である。
件の公園にてコウガサブロウと交戦するヒデオを
そんな光景を見ては当然、ウシワカは“勝手に”駆け出し残されたオサキはすぐさま協会へと援軍の要請をする流れとなった。
それが、今回の“救援”の真相である。
更にこの“幸運”の引き金となったものを上げるならば、言わずもがな。ヒデオが使用した“明王・陣中具足”、もとい
最初に駆けつけたのはウシワカマル。
しかしその直後、ヒデオがダウンする直前に到着したのは
……仮にも“必殺の霊的国防兵器”に数えられるコウガサブロウを相手にして、さしものウシワカであっても一対一では確実にヒデオを守ることは難しかった。
しかし、リンが加勢したことによりヒデオの生存・ひいては彼が守りたいと願ったチヨメの安全は
──この幸運を以ってして、遂に両明王の加護は役目を終えて解除された。
──リンが放った“ネコの手”の形をした弾頭は、ウシワカとの剣戟の応酬の隙を突いて後退したコウガサブロウの胸部に直撃した。
「やりぃ!」
公園の入り口にて“ファンシーな見た目のバズーカ”を担ぎながらリンはガッツポーズを決める。
それを、土壇場にて命中させたのは果たしてリンの腕によるものなのか或いは“明王の加護”の残滓がそうさせたのか。
いずれにしろ、超威力バズーカの直撃を受けてはコウガサブロウも無傷とはいかなかった。
「が、はっ……!」
胸部を丸焦げにされた彼は千鳥足で数歩後退、続けて膝をついた。
──そこへすかさず剣を振るってくるウシワカ。
「ちぃっ!」
それをなんとか小太刀で受け止めて、もう片方の手からザンダインを放つことで彼女を弾き飛ばす。
──だが、直後には遠方より再び“ふざけた外観の弾頭”が飛来した。
「同じ手は食わん!」
流石に一度痛撃を受けたことでその危険性を理解し警戒していた彼は、その場から素早く飛び退くことで難なくこれを回避した。
──その頃には、すでにリンやウシワカ以外の援軍はあらかた到着していた。
「
そこには、ロードアニムスフィアの依頼に関する定期報告を終えたレイランの姿もあった。
今日は報告のために特に戦闘を行なっていないために万全なコンディションだ。
他にも、同じ“都内浄化”の依頼を受けたサマナーである
その中の一人
そして、その惨状を見るなり表情を歪める。
「あちゃー……流石に無理し過ぎっしょ、
……おーい、
早々に自分の手に負えないと判断した“彼”は、遠方にて佇む
その呼び声に、あからさまに
そして
「もげた腕を寄越せ。切断面がまだ新しいから再接着が可能だ」
「マジか!?」
少年の言葉に、金髪の青年は心底驚いたような声を上げた。サマナーとして“怪しげな術”には詳しいものの、医療に関しては接する機会も皆無な彼では「これは義手かな……」と諦めてしまうのも無理からぬことである。
──事実として、ヒデオの右腕は
「早くしろ」
「お、おう!」
苛立たしげな少年の声に、慌てて近くに放置された右腕を拾って寄越す。
それをふんだくって素早く切断面に押し当てた少年は、空いた片手の
「急急如律令」
瞬間、札が焼き消えて代わりに右肩の切断面が淡い光を放った。
陰陽道に由来する治療魔法、即ち
「よし、繋がったぞ」
「早っ!?」
ものの数秒で処置は終えた。
「まだだ、本命は“中”の方」
「中?」
イマイチ理解していない青年を置いて、少年は袖に仕舞ったままの指で宙に“五芒星”を刻む。魔力による青い光を伴って刻まれたソレはすぐに泡のように弾け、ヒデオの全身を同色の光が包み込んだ。
それを幾度か繰り返し、最後に御札をヒデオの“腹部”にぺたりと貼り付ける。
そこまで終えてふぅ、と小さく息を吐いた。
「とりあえず、破裂した内臓と筋組織、血管等々の接合は終えたが……どれもその場しのぎにしかならん。
早急に専門家に見せた方がいい」
「じゃあ俺が運ぶよ、お前は協会の
返事を聞く前に青年はヒデオの身体を担ぎ上げ、そのままさっさと公園を去っていく。
「むぅ……面倒な方を押し付けおって」
足早に去っていく青年の背を見つめながら再び息を吐く。
そして実に面倒そうに懐からスマホを取り出した。
── 真っ白い壁に覆われた部屋にいる。
時折訪ねてくる『ドクター』や『ナース』の人以外には誰も来ない真っ白な部屋。
──月に何回か行われる『実験』のための部屋。
真っ白なのは同じで、いつもの部屋よりもずっと大きな部屋。
ガラス越しにドクターたちが何か話している中、俺は床下からエレベーターで登場した『対象』と戦う。
“振るえ、ヒノカグツチ”
呼べば出てくる“ぼく”の相棒。敵を全て、残さず焼き尽くすさいきょうのけん。
ひとたび振るえば、敵は一瞬で燃え尽きる。
でも、最近は少し強い奴が増えてきた。
──きょうだい、ハ、たくさん居タ。
こうにしゅ、と呼ばれた兄や。おつにしゅ、と呼ばれた姉。
特に仲が良かったのは、『おついっしゅ・ひのとがたいちごうき』と呼ばれたお姉ちゃん。ぼくは、『おつねぇ』と呼ンダ。
そしテ、『おつにしゅ・ひのとがたにごうき』と呼ばれた妹。ぼくハ、『ひーちゃん』ト、呼ンダ。
面倒見のいい『■■ねぇ』と、ぼくらの後ろヲ、付イテ来ル『ひーちゃん』。
他にも、タクサン居タンダ。
『■■にぃ』や『■■■くん』『■■■■』に『■■■■■■』。
みんなト、居レバ、怖クナイ。
──敵ガ強過ギル。
何度斬ッテモ、死ナナイ。
燃エナイ。
ドウシテ?
────アイツノ、爪ガ、ボクノ胸ヲ引キ裂イタ。
部屋で目を覚ました。
ガラス越しに大勢の人がボクを見て話している。
そして、『おくやまさま』が現れた。
誰よりも敬い、『すうけい』すべき御方だ。
『奥山さま』は『
そのためにボクたちは働いて、敵をいっぱい倒さないといけない。
そのためにボクは『おくやまつみ・ひゃくいちごうき』から生まれてきたのだから。
──ある時、ボクは庭に出た。
最近は誰も彼も忙しくて、一緒に遊んでくれる子がいなかったから一人ぼっちで遊んでいた。
寂しくはない。
──でもやっぱり、ちょっぴり寂しくて。それを紛らわせるように庭の木へともたれかかった。
この木は『ぼじゅ』と呼ばれていて、なんだか『おかあさんみたい』だとみんなから人気だ。だから、一人の今ならこうして独り占めできた。
──その時だった。
──鈴の鳴るような、小鳥の囀りのような。そんな可愛らしい声が響いてきたのは。
『何してるのよ、アナタ』
小柄な体躯、華奢な手足、それらを曝け出し薄絹一枚纏っただけの金髪の女の子。……残念ながら胸は無い。
そしてなにより目を引くのは背中に生えた『白く綺麗な翼』。
────彼女は天使だった。
──都内某所、白塗りの清潔な壁面に囲まれた一室にてヒデオはベッドに横たわっていた。
その身体は包帯やらガーゼやらが至る所に貼られ、繋がれた電極がベッドの脇に備え付けられたモニターへと心音を送る。
硬く閉じられた目蓋は彼の意識が未だ夢中にあるということを示していた。
「……」
傍らには丸椅子に腰掛けたチヨメの姿がある。しかし、その表情は重く沈み膝の上に乗せられた両手をぎゅっと握りしめていた。
──間一髪のところで駆けつけた援軍によって彼女ら主従が命を拾ったあの後。
多勢に無勢と判断したコウガサブロウは早々に撤退し、残された彼女らは協会によって保護された。
“金髪の青年”によって運ばれたヒデオは、協会本部で待機していた
……だが、
治療術師たちは今後の治療計画を組むべく会議室に詰められ、現状としてヒデオはこの病室に安置されていた。
──無論、一連の流れの中でヒデオの仲魔たちも各々の動きを見せていた。
先ずオサキは、長命の者としての経験からか落ち着いた様子で諸々の手続きやら治療術師からの治療状況の説明などに対応していた。
……更に言えば、この状況下で冷静だったのは彼女だけだった。
コウガサブロウが去ってよりしばらく後、正気に戻ったチヨメは自らの失態を思い出して青ざめた。そうして自らの主を探したところで、サマナーたちから彼の状態を聞き卒倒しかけた。
そこからは想像に容易い流れだ。
その場に駆けつけていたオサキ、ウシワカの両名を発見したチヨメは彼女らの面前にて──土下座した。
そして泣き声を押し殺すようにして、謝罪を繰り返した。
そんな彼女の不甲斐ない姿を見てキレたのはウシワカ──ではなく。
『ワシらに謝ってどうする! 謝るよりも先にやることがあるじゃろうが!』
それを横目に、オサキはすぐにスマホで協会と連絡を取り始めた。既に
その際、ウシワカ、チヨメ両名も同行者として伝えていたために三名は揃って協会に向かうこととなった。無論、放心するチヨメはウシワカに手を引かれながらであったが。
──その後の展開は先述の通りである。
また、病室に留め置かれてから数時間の間にはレイランやリン。そして
「……」
チヨメは呆然とヒデオの顔を見ている。表情にこそ出さないが、彼女の胸中では数多の後悔と懺悔が渦巻いていた。
──私は、従者として失格だ。
──自らの
──一番側に在りながら
……そのような考えがぐるぐると脳内を巡っては、心を暗闇へと沈めている。
そんな自らの心境すら“甘え”であると深く恥入りまた落ち込む。
根が純心だからこそ、目の前の現実を正面から受け止めてしまう。
今のチヨメは誰の目から見ても“手の施しようがない有様”であった。
「……」
──お館様。
と、声に出すことすら叶わない。喉の奥から声が出ないのは元より口が開かない。そもそも動く気力すらない。
──そんな完全に脱力した彼女へと声をかける者がいた。
ガラガラと病室の扉を開けて入室するのは、静かな草履の足音。
その足音の主は小さく溜め息を吐いてから口を開いた。
「少し、話をさせてくれるか?」
反応すら示さないチヨメを無視して、“オサキ”は部屋の隅に置かれた丸椅子をチヨメの横に運び、そこに腰掛けるとゆっくりと語り出した。
【あとがき】
ちなみに、唐突に出現した二人の男キャラは外伝の主人公にしようと思ってる人たちです。
……アビーちゃんは、その、ネタバレの塊になりそうだったので先送りにさせていただけると、嬉しいです……。
ごめんね!!!!(スライディング土下座
鎌倉の話?
ええ、公式からの供給を受けて早速お師匠をお出しするプロットをまとめさせていただきましたよ。……だいぶ後になるけど。
勢い余って聖杯突っ込んだんで意地でも出します。
真面目に外伝考えてます。どれがいいですか?※三章の後を予定
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イバラギン×綱の末裔
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チャラ男RP金髪男×ゴールデン
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二代目会長×頼光
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小次郎×双剣の堕天使
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とりあえず本編、ガンガン行こうぜ!