英傑召喚師   作:蒼天伍号

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ピクシーはハッカーズのデザインが一番好きです。


宝石・二

「ダークサマナー?」

 

彼女からの話を聞いた俺は思わず眉を顰めた。

 

「そう、ダークサマナー。それ以外は一切不明、ただ現れた地で悪魔ないしサマナーを()()()()()()

 

なんだそれは。ダークサマナーというか『悪魔』なのでは?

 

「奴は確かにサマナーよ。襲撃から生き残ったサマナーからの証言もある」

 

「で、肝心の犯人の姿は見なかったとでも?」

 

「そのまさかよ。……余程、『ステルス』に長けたサマナーのようね。辛うじて『人型』で『言葉を話す』、そして悪魔を召喚することが確認できただけ」

 

ラヴちゃんが運んで来てくれたオレンジジュースをストローで啜りながら彼女は足を組み直す。

……どうでもいいけど、いい年した女の子がそんな無防備な姿なのはどうなの、と思わなくもない。

まあ、彼女に対してそういう感情は一切ないし沸かないが。

そもそも手を出そうとした時点で、一般男性は返り討ちに遭うだろう。

 

 

「まるでUMAだ」

 

「まさにそんな感じね」

 

「そのUMAが、この夕凪市にいったい何の用で?」

 

確かにここは霊地だが、より上等な霊地ならそう遠くない位置に点在している。

市内のサマナーだって俺だけだし、出現悪魔だって木っ端妖怪が関の山。稀に先日の廃寺のようなイレギュラーが起きるが、話に聞くダークサマナーが狙うほどの大物は今のところ出ていない。

 

「さあ、そこまでは。……案外、貴方目当てかも」

 

「冗談はよせ、俺なんか食べても腹の足しにもならん」

 

嘘ではない。保有霊力だって平凡だ。『レイ』さんにも酷評されたし。

 

「いや待て、まさか俺のコレクションを狙って……?」

 

「そんな上等な霊媒持ってたっけ?」

 

身もふたもないこと言うな。

別に値打ちなんてなくていいんだよ、コレクションなんだから。

 

喉を渇きを覚え、同じくラヴちゃんからの差し入れである麦茶(¥250)を一口飲み込む。

 

「……まあ、真面目な話、『ウシワカ』の可能性もある」

 

「うしわか?」

 

そういえばまだ知らせていなかった、と彼女に先日召喚した英傑ウシワカについて簡単に説明する。

すると、彼女はガタッと机に手をつきながら立ち上がった。

 

「マジで!? 召喚成功したの!?」

 

顔が近い。

 

「ああ、英傑ウシワカ。全書への登録も済ませたが情報に間違いはない」

 

ただ、欠落が25%あったことが気掛かりだがそちらはメアリ氏に任せている。

 

「ウシワカ、ウシワカ……ていうと日本の牛若丸ね?

ヨシツネじゃないの?」

 

やはりその疑問が来るか。

 

「俺もその点は気になっていたが、どうにも俺が旅先で拾った羽団扇が触媒になったらしくてな。

牛若丸として呼ばれたらしい。だが、経歴は概ね義経のものと変わりない。精神性も僅かに幼さが見えるが武人としての心得を持っているようだ」

 

数日の付き合いでそこまでは理解した。

 

「ふーん……ま、成功したならそれでいいわ。あとでデータを送ってちょうだい」

 

「それはいいがーー」

 

「大丈夫、ちゃんと次の『アップデート』に反映しておくから」

 

ふふ、と気分をよくした彼女はソファに座り直した。

 

 

 

「それにしても、便利な力よね。プログラムを介さずしてどんな悪魔とも語らうことができるなんて」

 

オレンジジュースをちゅうちゅう吸いながら視線をこちらに向ける。

 

「大したものじゃない。『奥山』の歴史を鑑みれば当然あって然るべき能力だ」

 

「嫌味かしら……。

まあ、あの『葛葉』に匹敵する歴史を重ねていれば相応かもね」

 

「あるのは歴史だけさ、その証拠に二百年間進歩無しだ。当たり前だ、あんな山奥に引きこもっていればいずれ限界が訪れる。限られたコミュニティで生み出せる成果は有限だ」

 

「……もしかして、今後も出てくるつもりがない、とか?」

 

まさか、といった顔をしている彼女に静かに頷く。

 

「うわ……正気なの、それ?」

 

心底嫌そうな顔。次いで、気持ち悪いものを見るような目を俺に向けてきた。

 

「俺はもう無関係だぞ。……というか、ウシワカは普通に人間と同じ言語を話せるから俺の力は関係ない」

 

「あ、やっぱそうなんだ。『冬木』の記録を調査した限りでも、英傑ないし『英霊』は普通に会話できているらしいし」

 

元人間なんだから当たり前だ。まあ、“元ネタから乖離している場合”は例外もあるだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金髪ツインテールとの『密談』から帰路に着いて早々、俺はぐったりしていた。

時刻はすでに零時過ぎ。おまけに湯冷めしたらしく妙に肌寒くてくしゃみを連発してしまう。

 

「ずびっ……確かに興味深い話だったが」

 

彼女の教えてくれた情報は確かに重要なものだった。だが、定期的に情報料として納めている宝石の値上げと比べると……正直割に合っていない内容でもあった。

 

「“冬木”に関する情報の方が有益だ」

 

彼女は冬木市の召喚式に関する情報も持ってきてくれた。と言っても『冬木市で過去に召喚された英傑』と『召喚者』に関する一部の情報だけだったが。

それでもなんの手掛かりもない現状ではありがたい……まあ、暇を見て俺自身が調べに行けばいいだけの話ではあるが。

 

そうでも考えないと『ふんだくられた宝石』のショックを紛らすことができない。

ちなみに宝石十セットは郵送で送ることになった。

曰く、彼女も忙しいらしく明日にはここを立たないと行けないらしい。そんな中で大遅刻した俺に怒り心頭だったのは当然であった。

 

「でも宝石……」

 

やり場のない悔しさ的なものが胸中にこみ上げてくる。別段、宝石自体に用はない俺だが交渉とかその他諸々で使い道自体はあるのだ。

特に、有益なアイテムと交換してくれる『エーデルフェルト』との取引に支障が出ないかが心配だ。

“彼女”、というかエーデルフェルト自体が『日本嫌い』を拗らせてるので、契約に際してはかなり苦戦した覚えがある。そんな中で『納品遅れ』などすれば即・契約を切られかねない。

あそこの若き当主とは今後とも良きビジネスパートナーでいたい。

 

「久々に『宝石狩り』をしないといけないか……」

 

増えてしまった課題に辟易としながらも俺はとぼとぼと家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーくさまなー、とは報酬次第で何でもする在野のサマナーのことですね」

 

「どこで知ったんだそんな情報」

 

翌日、金髪悪魔に聞いた内容を語ったところウシワカは教えてない単語の意味を理解して返してきた。

ふふん、と言いながら俺のPCを指差すウシワカ。

それで全てを理解した俺はすかさずチョップを見舞った。

 

「あいたっ!?」

 

「勝手に使うな」

 

教えてもいないのに……下手に操作してウイルスでももらってきたら事である。

あのPCには大事なデータも入っているのでそれらに何かあっても困るし。

 

「ち、ちゃんと操作方は覚えました。注意点も全部頭に入ってます!」

 

「……そういえばお前は天才だったな」

 

くそ、天才め。俺なんて未だにプログラミングすら危ういっていうのに。

 

「というか、私に手刀を当てるなんて……主殿、やはり御身はかなり『できる』サマナーなのでは?」

 

涙目で額をさすりながらウシワカが言う。

……別に日常で手刀を当てるくらいなら誰でもできるだろう。

 

「そんなことより話の続きだ。……で、どこまで話したっけ?」

 

「この街に訪れたというダークサマナー、のあたりです」

 

そうそう、この街に面倒なダークサマナーがやってきたという話だった。

 

昨夜、リン嬢が齎した情報はそのダークサマナーに関するものだった。

 

曰く、『各地に現れては名のあるサマナーや悪魔を無差別に殺してその力を奪って回っている危険な男』が何の目的かこの夕凪市にやってきているらしい。

名のあるサマナーではない俺には関係のない話であり、郊外有数の霊地たる夕凪市が狙われるのも“ある意味”では必然。別段、慌てるような話ではない。

 

「まあ、土着神も何体か『食らって』いるらしいから油断は禁物だがな」

 

と言っても地元でしか知られていないようなマイナーな神だ。たかが知れている。

 

「とはいえ、今後の依頼には注意してあたるとしよう」

 

「ふむ、情報が少なくて判断に迷いますが。……なに、有事の際はこのウシワカに全てお任せくだされ。どのような相手であれ首級(みしるし)を献上してご覧にいれる」

 

首なんか持ってこなくていいよ。

 

「できれば装備品を剥いでほしいかな」

 

「なるほど、承りました!」

 

……冗談なんだけど。その時になったら本気でやりそうな勢いを感じる。でもやる気を出しているところに水を差す気もないのでスルー。そもそも敵の心配ができるほど俺はお人好しではない。

装備品を剥ぎ取りたいのも事実だし。

 

 

 

今日は、昨夜の一件から『宝石狩り』の予定を立てることにした。

金髪悪魔にふんだくられる予定の宝石の補填ができれば十分なので、それなりに持っていそうな悪魔をピックアップ。その出現場所を重点的に回って狩りをする。

 

「まずは手堅く吸血鬼(ヴァンパイア)から攻めるか」

 

奴らは吸血のせいなのか分からないが、よくガーネットを落とす。血のような宝石にはヴァンパイア由来の強力な魔力が宿っており『魔術師』相手には高く売れる。

 

「次は……エメラルドとアメジスト」

 

アメジストは、フケイやドンコウを延々と狩っていれば勝手に溜まる。問題はエメラルドだ。

 

「邪鬼ラケー……最近は見かけないが」

 

元はネパールで語られる人攫いの鬼である。前世紀末に日本でも大量発生していたが、現代ではめっきり噂を聞かなくなった。

エメラルドのために乱獲されたか?

他にもヤカーというスリランカ産の幽鬼がいたがこちらも日本では絶滅危惧種だ。まあ、原産地に行けばいるのだろうが、わざわざ国外まで足を運びたくない。

 

「いや、トケビがいたか」

 

あのキョンシーみたいな悪魔。あいつならそこそこ目撃情報も上がっている。最悪の場合は『アプサラス』に頼んで譲ってもらうしかないが。

ちなみにアプサラスを狩るという選択肢はない。……いや、別にあいつら誰かに迷惑かけるわけでもないし、何より女の子だし。

迷惑云々ならトケビもそうだが。

 

と、色々考えながらPCを操作して候補地の情報をDDS-NETで確認する。

が、ぶっちゃけた話、先に挙げた悪魔たちはあくまで『持ってる傾向がある』というだけであり必ず特定の宝石を持っているわけではないので、地道にそこらへんの悪魔を狩ってもランダムで宝石を落とすことがあったりする。

 

最近はウシワカの関係で討伐依頼を受け続けていたのでそこそこ在庫はある。が、それらを昨日の『お詫び』で出荷してしまうため結局、宝石狩りはやらなければならない。

 

……だが、流石に無差別に悪魔を殺し回れば当然、俺の悪評が広まってしまうので“殺していい相手”は選ばねばならない。

 

 

「……うむ、ここは確実性を求めてヴァンパイアから攻めよう」

 

やはりヴァンパイアがおいしい。奴ら貴族かぶれの輩が多いのでガーネット以外にも宝石の類を持っている確率が高い。加えて先に語ったガーネットは『ヴァンパイアの体内で生成されるモノ』ゆえに高確率で持っているのでガーネット回収にはもってこいだ。

 

 

ヴァンパイアを狩るとなると、当然、奴らの出現場所もとい『目撃情報』を探らねばならない。

中世から近代にかけて急激に数を増やしたヴァンパイアたちは世界各地で事件を起こしている。日本においても、やはり明治維新後に大陸から渡ってきたヴァンパイアが繁殖している。

その大半は日本という島国に、純粋な興味を持って訪れた謂わば観光客みたいな連中だが、人間とは違う価値観を有するために『戯れ』で人を襲い、時に眷属を量産する。

歩合制討伐依頼や、『吸血鬼由来の素材回収』においてはこれほどおいしい相手はいないと言える。

なにせ、()()()()()()()()勝手に街ごと吸血鬼だらけにしてくれるからだ。

 

……まあ、依頼主からしたらたまったものではないので大抵の場合は被害が拡大する前に依頼が回ってくるわけだが。

 

 

話が逸れた。いずれにしろ、宝石目当てでヴァンパイアを探すとなれば必然、『大元』を探すことになる。先に説明した通り、奴らは貴族かぶれが多い。しかし、奴らの眷属は当然、元が平民である者が大半なので『純度』と『量』を狙うならば根っこでなければならない。

効率は悪いが、もし一財産築いている輩ならばそいつを仕留めるだけで溜め込んだ宝石を独り占めすることも可能だ。

 

「問題は、保有戦力だな」

 

カタカタとキーボードを打ちながら考えを巡らせる。

 

宝石を蓄えたヴァンパイア、ともなるとそれ相応の実力を持っている輩が殆どだ。しかし、『古き神々』に比べれば大したことはない。

『神族』を打倒した経験があるならば、確実に倒せる相手である。

 

「とはいえ、油断は禁物だが」

 

戦いである以上、『慢心』はできない。

一つしかない『命』を懸けているのだから用心するに越したことはないのだ。

比較的新しい『悪魔』とはいえ、古い者では『千年』を生きるヴァンパイアないし吸血鬼もいる。神話由来の『吸血種』であればもっと古い。

必然、人々から寄せられた『畏れ(信仰)』も相応だ。

 

「……厄介なのは『個体差』だな」

 

ヴァンパイア、というのは近代に端を発する吸血鬼たちの『総称』に過ぎない。以降の歴史でもさまざまなヴァンパイアが語られてきた上に、『元となった人間』に由来した固有能力を有する確率も高い。

つまり、殺すなら『各人に合った対処法』が必要となるのだ。

 

まあ、強大な力で叩き潰せば全部同じだが、俺にそんなパワープレイをするほどの実力はない。

 

なので、オーソドックスな『弱点』を一通り揃えてから出向く。

奴らは総じて『ハマ系』に弱いのでもはやお約束である施餓鬼米、ハマストーンにマハンマストーン。……()()の力に頼るのは癪だが、聖別済みの『十字架』も一応持っていく。

もちろん、弾丸も『破魔属性』が付与された特別製を持っていく。人狼同様に銀弾も有効だが、『加工』された銀弾のお値段は相応だ。わざわざ『狩り』のために購入する気は起きない。

 

 

とはいえまずは行き先を決めねば始まらない、と俺は『自サイト』へとページを移る。

 

DDS-NETに登録している俺だが、それとは別に自作のサイトを持っている。これは他のサマナーたちも行なっていることだ。

DDS-NETは確かに不特定多数のサマナーに向けて依頼したい者たちがこぞって依頼を持ち込む場であり、適当な依頼を探すには効率の良い場所と言える。が、必然、依頼の難易度・危険性もピンキリとなり対象範囲も広大。向上的にサマナー稼業を続けていくなら自分で窓口を作って条件を絞った上で依頼を受け付けた方が、長い目で見た場合に合理的な判断となる。

 

なので、俺も自分の窓口を設けているわけだが。

 

「……そう簡単には見つからないか」

 

客からの依頼メールの中には吸血鬼を対象としたものは見当たらなかった。

ひとまず、溜まっているメールを処理すべく、『できる依頼』と『できない依頼』を振り分け、それぞれに返信をする。

組織を通していない以上、依頼メールの内容は読み取りづらいものや解釈に困るものばかりだが、そういうときにこそ依頼主への入念なヒアリングが重要となる。

俺はできる限り依頼主と話し合った上で正式に依頼を受諾する方針だ。そうしていくことで『リピーター』を確保できる確率も高まり、ウチの『評判』も高まる。

 

今回は大半が『害なし』と判断できる怪異現象に関するもので、こちらには『起こっている現象』への説明と、解決策を文章にして送っておしまいだ。無論、相手が『一般人』なら“裏の世界”がバレないよう細心の注意を払って文章を綴る。

……とはいえ、客の大半は“複雑な情報網からサマナーを探し出した相手”ではある。つまり、()()()()()にある程度精通している人間だ。

 

残った『対処すべき依頼』も順番にメールのやり取りを行い、一度話し合う場を用意する。

面倒だが、やらねば安心安全なサマナーライフは送れない。偶にヒトになりすました悪魔とかの罠だったりするからな!

 

 

また、今回は『宝石狩り』を行うので急を要する依頼でない限りは対処を先送りにする。俺に今必要なのはお金ではなく宝石なのだ。

 

 

 

「やっぱり地道に探すしかないのか、面倒な……」

 

億劫ながらも、ヴァンパイア討伐依頼を探すべく再びDDS-NETに戻ろうとしたところで、依頼メールの中に『吸血鬼』の単語を見つけた。

早速、開く。

 

「ふーむ?」

 

メールには、最近身近な人物が立て続けに行方不明となり、同時に周辺地域で『夜道を歩く青白い肌の上品な男』が目撃されている。といった内容が書かれていた。

十中八九、ヴァンパイアないし吸血鬼の類である。

 

内心ワクワクしながらも、依頼主へと返信する。内容は『相談場所及び日時』である。

 

ただ、今の時刻は昼ちょっと過ぎなので、依頼主が真っ当な社会人ならば返事は夕方ごろになると判断。椅子から腰をあげようとしてーー

 

「やけに早い返信だな」

 

メール送信から数秒と経たずして返事がきた。

 

そこには俺もよく知る喫茶店の名前と、この後すぐ、出来るだけ早く会いたいとの内容があった。

なんとも性急なことだ。

……こういうのは経験上、厄介ごとの前振りなのだが。依頼主に何かトラブルがあった場合は俺のサマナーとしての評判に傷がつく。

 

一時間後に待ち合わせする旨をメールに記載して送信。俺は手早く装備を整えて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼主の指定した喫茶店は、夕凪市から三つほど隣の街にある。

夕凪市を拠点とする俺だが、いくら郊外有数の霊地であっても流石に市内だけの仕事では回らないためこうして市外に出向くことも珍しくはない。

特に、件の喫茶店がある街には頻繁に訪れているため道順なら慣れたものである。

 

が、バイクや自動車の類を持ち合わせていない俺は電車を用いて移動することとなる。

ちなみになぜ持っていないのかといえば、持ったところで悪魔に破壊されるのがオチだからである。

 

 

 

「ですが主d……」

 

「ストップ……外ではなんて呼べと言ったっけ?」

 

電車内の座席、俺の隣に座っているウシワカがコソコソと話しかけてきたのをバッサリ切り捨てる。

 

するとウシワカは、少し照れ臭そうに返事をした。

 

「ひ、ヒデオ、さん? ……なんだか妙に気恥ずかしいのですが」

 

ほんのり頬を染めながら目を泳がせるウシワカ。なんだ、しおらしい真似もできるんじゃないか。

 

ちなみに、なぜウシワカを一緒に乗せているかと言えば、彼女が電車に乗りたそうにしていたから、気紛れで同乗させたに過ぎない。電車賃をケチるほど俺は守銭奴ではないのだ。

……いや、別に楽しそうに窓の外を眺めたりソワソワするウシワカが可愛いとか、思ってはいない。

 

 

三十分ほど電車に揺られて駅に到着、そこから大通りを少し歩いていけば目的の喫茶店に辿り着く。

 

店の扉を開けば、カランカランと音が響いて客の来店を店内に知らせる。

 

「いらっしゃい」

 

気付いた店主が落ち着いた声音で応える。

会釈で応じてから店内を見渡せば、一席だけ客が座っている場所を見つけた。他はまったくの無人、心配になる程の閑古鳥具合だ。

 

それはともかく、と座っている人物に歩み寄りながら声をかけた。

 

「こんにちは、貴方が『アシヌス』さんですね?」

 

こちらに背を向ける形で座していた彼はゆっくりとこちらに振り向き応えた。

が、その目はぴったりと閉じられていた。

 

「ああ、そちらはデビルサマナーの……」

 

「はい、『祓魔屋オウザン』の店主・ヒデオです」

 

オウザンとは、俺が設けた依頼用の窓口の名前だ。無論のこと『市の許可』は受けている。秘密裏に、だが。

 

「どうぞ、お座りください」

 

「失礼します」

 

一言かけてから対面のソファへと座る。ウシワカには傍に座るようちょいちょいと手招きする。

 

ウシワカが座ったところでピクリと眉を動かしたアシヌス氏が声をかけてきた。

 

「そちらの方は……」

 

「ああ、助手の……クロウです」

 

咄嗟に偽名で紹介してしまったが、そういえば彼女について表向きはどう扱おうか丸っ切り考えていなかったと反省。

一方、ウシワカは特に反応を示すこともなく澄まし顔のまま。実に冷静じゃないか。俺なんかちょっと焦り過ぎて冷や汗出てるのに。

 

そんな内心の焦りに気付いていないのかアシヌス氏も特にそれ以上の言及をすることはなかった。

 

 

探られても困るので早々に本題へと入らせてもらう。

 

「では、早速ですが。依頼のお話をしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 




ハイピクシーはもちろんアバドン王。
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