師匠とエガちゃんが一緒なのもしばらく気付かなかった……
目が覚めてからしばらく。
連絡と共にやって来た治療術師に検査をしてもらい、ひとまず内臓系が『再生』を始めていることを確認。
……どうやら眠っている間の俺は“内臓すらズタズタ”な有り体に酷い状態だったらしく。リジェネ系の魔法で壊れた端から繋ぎ止めてなんとか生命維持していたらしい。
我ながら、とんでもない綱渡りをしていたと冷や汗をかいた。
その後、大事をとって今日は治療棟に泊まることとなった。
まあ、俺自身、身体のあちこちが痛いし。今日の戦闘では相当な無茶を複数回行ってしまった。
なので今後を考えるならば専門家にしっかりと見てもらった方がいいだろう。
ちなみに。
あれほどの深手、重傷の類を一日足らずで治すことから一見して万能にも思える治療系魔法だが。そう簡単な話でもない。
まず、治療系魔法、俗にディア系と呼ばれる魔法には幾つかの種類がある。軽傷の類を完治させる程度のディア、単体への集中治療で重傷すら癒すディアラマ。他に複数同時治療を可能とするものや、神々のレベルにあるディアラハンなどなど。
単純な用途分け、効力においてもバリエーションに富むのはもちろんながら。なによりも、
これは、“現在の世の理”に背いて損傷を“修復”するという行為に世界が何らかの“対価”を求めるからこそ発生する。より正確に言うならば、非科学的な修復に対して発生するバグを“霊力或いは魔力”によって補填する……まあ、ざっくり言えば“MP消費魔法”と思って相違ない。
そしてこの対価とやらのレートだが……某有名錬金術漫画にもある通り、法外な額なのだ。
まず、一般的に治療術師とされる人々がディアラマを行使したとする。この際に発生する“対価”は
ならばどこから足りない分を持って来るのかと言うと、
この時、霊力・魔力が足りていないと
……ここまで来るとお察しの通りだが、基本的に一般人に対してディアラマ級以上の治療魔法は
つまり、治療術師の患者となるのは総じてサマナーやデビルバスター。或いは魔術師などの“本人の霊力・魔力が高い者”に限られる。
これが、表に治療魔法が出回らない理由だ。
……まあ、そもそもの話。そんなのが出回れば“天使ども”が黙っていないだろうが。
無論、この話にも“例外”というのは存在する。治療する側、される側双方に。
前者で一番分かりやすい例が、先日、洋館で遭遇した『ジャンヌ・ダルク』だ。
彼女本人の“霊力或いは魔力”が桁違いに高いことは、体感で十分に理解できている。更に、あれほどの大魔法の行使となれば
ちなみに、このようなカテゴリのスキルは『回復ブースト』という名称で知られる……そのまんまとか言うな。
彼女以外だと、やはり回復ブーストに相当するスキル等を有する“先天性の才を持つ者”や“サマナー”とかになる。前者は主に“メシアン”に囲われる“聖女”と呼ばれる女性たち、或いは地方でひっそりと活動する者も居たりするが、そういう者たちは総じて“信仰対象”にされていたりする。
後者で言うならば、やはり知り合いの“レイラン”が相当する。彼女は葛葉の巫女に選ばれるだけありそうした治療系のスキルなども含めて豊富なラインナップが揃ったハイスペックサマナーなのだ。
それ以外となると、最早“女神”とかそういう話になってしまう。
……とはいえ、治療術師たちも馬鹿ではないので。治療を円滑にする術式とか儀式とか、アイテムなんかを用いたりなんなりして工夫しているからこその専門家だったりするので――
話が長くなった。
要するに、“治療魔法も万能じゃないよ”と言いたいだけだ。
とはいえ、少なくとも協会本部に勤める治療術師たちは総じて腕の良い術師が揃っている。
俺の怪我に対して“リジェネ系”という地味に“高度な”術を行使していることからもその片鱗が伺えよう。
治療棟屋上、鉄柵に手を乗せて眼下の夜景に目を向ける。
「……真っ暗だな」
いくら十階建ての屋上とはいえ、協会本部の“立地”を考えれば当然の結果だった。
一番手近な夜景なんぞは廃ビルの間から微かに見える都心の朧げな灯りだけだ。
あとは全て廃墟の鬱屈とした光景に埋め尽くされている……。
夜景を眺めながら黄昏ようと思ったのに……。
「まあ、吸えるだけマシか」
呟きながら片手に掴んだタバコを玩ぶ。
……そう、私は今、喫煙している!
都内に到着してからこの方、一向に吸うタイミングを掴めずに一日中お預けされてからの一服はまさに至高であった。
ここに来るまでの間に缶コーヒーも購入できたので文句なしの快適時間。
ちなみに仲魔たちは流石に疲れたのかCOMP内で“おねむ”だ。何気にウシワカとチヨメちゃんは初COMPということで何やらソワソワしていたが、特に面白いこともないと思う。
オサキ? アイツは意地でも入りたがらないから治療術師のお姉さん方に引き渡しておいた。彼女たちは日頃から患者とのコミュニケーションを重ねているのでオサキのような年寄……妙齢の女性とも上手く付き合ってくれるだろう。
無論のこと携帯灰皿は持ち込んでいるし、屋上には滅多に人が来ないしでこの至福の時を邪魔するものは一切ない――
「おっ、ヒデっち!!」
――はずなのだが、階段の方からやけに喧しい男の声が聞こえてきた。
声だけで誰だか分かるが、一応そちらに目を向ける。
「“ミカヅキ”……」
やはりというか視線の先にいたのは、缶コーヒー片手にプラプラと手を振るパツキンの男。
陽気な笑みを浮かべ軽い足取りでこちらに近付いてくる。
「目が覚めたって聞いたから、病室まで飛んでったのにいねぇんだもん……まさか、屋上で優雅にニコチンタイムとはなぁ。怪我人がタバコなんか吸ってんじゃねぇ!」
バシッ、と背中を叩かれて軽くむせる。そんな俺を見てミカヅキはからからと笑う。
うーん……ウザい。
「ウザ絡みやめろ、処すぞ」
「おいおい……数年ぶりの親友との再会だってのに辛辣過ぎね? もっとテンション上げていこうぜ!」
もう一度背中を叩こうと張り手が迫るも、俺はするりと回避した。
二度も同じ手は食わん。
「……というか、連絡ならちょくちょくしてただろ? この前だってお前らバカップルのイチャイチャツーショット送ってきたじゃねぇか」
「か、カップルじゃねぇから!?」
俺の言葉に、一転してウブな反応を返すパツキン男。略してパツ男。
その
御年二十五歳、独身のデビルサマナーだ。
そして、俺がまだ現役だった頃からの付き合いになる友人でもある。
今はホスト風のスカした衣服を纏って、真っ黄色の金髪を逆立てた見るからにチャラ男な見た目の彼だが。出会った頃はもう少し真面目で落ち着いた性格をしていたと思う……。
まあ、何はともあれ。
彼と会うのは確かに数年ぶりだし、今回の一件に関しては“俺を協会まで運んでくれた恩”がある。
なので、喧しいのは我慢してとりあえず付き合うことにした。
「とりあえず、再会を祝して……乾杯!」
ガツンと勢いよく缶コーヒーをぶつけてくる。ちょっと中身溢れたんだが。
……まあ、とりあえず一口コーヒーを啜る。
「というか、お前も“浄化作戦”に参加してたんだな」
俺を運んでくれた、という話と並行して聞いたが。彼も都内浄化の依頼を受けていたのだとか。
その最中、オサキが発端となった“救援要請”を受けて公園まで駆けつけてくれたらしい。
「俺だけじゃねぇよ。“ツナマヨ”と“ウメマル”も参加してる」
その言葉に僅かに呻く。
「おぉ……なんだ、みんな居るのかよ」
いや、感動とかではなく。単に“今の体たらくを見られたくない”という羞恥心からだ。
『五年前のアレ』以来、荒んで情緒不安定になっていた俺は、当然のようにこれまでの交友関係を絶って一人でもがいていた。
その中で“かつての仲魔たち”と袂を分かつことになり、友人たちと会うことも無くなって久しい。
……正直言えば、一番見られたくなかったのはこのミカヅキ。特に親しかった“四人”の中で最も会いたくなかった相手だ。
次点で、ここに居らず作戦にも参加していない“アイツ”。
そんな俺の心境をよそに、ミカヅキは陽気な声で話を続ける。
「とにかく無事で安心したぜ。なんせ、見つけた時には腕もげてたからな! すぐにツナマヨが繋げたけど!」
なるほど、俺の切断された腕はツナマヨが治してくれたらしい。
アイツほどの“術師”ならば、腕の再接着程度は造作もない。
陰陽道、特に占星術に通じながらも結界術、呪術、その他多岐に渡る魔術の類を高レベルで修めるだけはある。
伊達に“
「アイツにも礼を言わねば……まあ、アイツの“事務所”に入れればの話だが」
ツナマヨが事務所を構えるのは、自前の“異界結界”の中。加えて、親戚から逃れるために秘匿性、防衛機能は高水準となっているためにアポなしで会いに行くのは百年掛かっても不可能だろう。
「あー、連絡先消しちゃってる系? ……お前の薄情さに流石の俺もドン引きだが」
「うっ……すまん。あの頃はちょっと自分でもどうかしてたと反省してるから」
「ま、やっちまったもんはしょうがねぇよ。とりあえず、俺が連絡しとこうか? それとも連絡先あげようか?」
流石に連絡先を勝手に教えてもらうのは、ツナマヨに悪い気がするのでとりあえず挨拶に向かう日時だけを伝える。
「おけおけ! 任せとけ!」
「悪いな……いや、ありがとう」
軽い言動ながら親切にしてくれる彼に素直に礼を言う、と。彼は驚いた顔を見せた。
「なんだ?」
「いや……お前、そんな素直だったっけ? テンプレみたいなツンデレ気質だった気がするけど」
誰がツンデレか。
そもそも本来のツンデレとは、ツン期間を経た末のデレ期を含めた経過を指すものであって――
いや、それはどうでもいい。
「ツンデレではない。それを言うならツナマヨだろう」
ツナマヨは、生い立ちから来る“人嫌い”のせいでぶっきらぼうな態度と口数の少なさで人を寄せ付けないが。
なんだかんだで“お人好し”だったりする。
占星術を用いた“占い”で一般客をとっているのも、「せめて占いで人の役に立ちたい」という本心からだ。それを本人にいえば無言で魔法の嵐が飛んで来るが。
「あはは! 確かに! ……逆に、デレもクソもないのはウメマルだな」
「俺もそう思う……アイツ、生真面目を越えたナニカだからな」
神経質というほどでもないが、
――それからしばらく、俺は久しぶりの友との語らいに夢中になった。もう何年も疎遠……というか連絡を取り合うこともまばらになっていたために、話題には事欠かなかった。
それに、俺がいない間の彼らの話を聞いて、俺自身、また彼らと共に居たいという感情が湧き出す……まあ、俺の今の実力でついていけるかは分からないが。
ふと気付いてスマホ画面を見れば、ゆうに一時間ほどは話していたと驚愕する。
もう時刻は夜遅く、そろそろ戻らねば治療術師に小言を言われかねない。それに彼をこれ以上拘束するのも悪いだろう。
故に、どうしても“最後に聞いておきたかったこと”を口にする。
「……それで、最近の“シュウジ”の様子。何か知ってるか?」
シュウジという単語に、ミカヅキの顔が一瞬で曇る。
「あー……まあ、ちょくちょくと話だけは、な」
曖昧な、濁すような口調で顔を背ける反応からして。やはりというか“良くない方向”に向きつつあるのは確かなのだろう。
この場にも作戦にも参加していない俺の友人の一人。
四人の中で最も古くからの付き合いであり、俺が駆け出しの頃に出会った親友とも呼べ
アイツが“違う道”を歩き出したのと、『俺のトラウマ』が発生した時期がほぼ同じところにも嫌な運命を感じる。
“彼”が『トラウマを乗り越えた』のと俺が『トラウマを抱えた』という順序もまた同様に。
「相変わらず何処に居るのかも分からねぇが、少なくとも
「? それはどういう――」
妙に引っかかる言い方が気になり疑問を口に出そうとして――
――その意味に気がつく。
「っ、まさか、お前らアイツと――」
「ああ、ヒデオさん! こんなところにいらしたのですか!
……って、何喫煙してるんですか!?」
階段の方から若い女性の声が聞こえてきた。
その声にも覚えがある、何を隠そう俺が病室で目覚めてから色々と面倒を見てくれた担当の治療術師だからだ。
だからこそ、思わず狼狽えた。
「げぇ、ナースのお姉さん……!」
艶やかなブロンドの長髪を有する碧眼の女性。いつもは柔和な表情を浮かべる顔を今は「ムッ!」とさせている。
……元が穏やかすぎるからあまり怖くはないが。
「げっ、じゃありません! 今日はベッドで安静にしていてくださいと伝えておいたでしょう?
それが! なんで!
屋上でタバコ吸ってるんですか!!」
背後に落雷のエフェクトが出そうなほどの怒声に思わず縮こまる。腰に手を当てた姿はさながら世話焼きお姉さんだが、雰囲気が微塵も優しくない。ああ、マジで彼女の背後に『女神様』が見えて……
「……って、
見覚えのあるエフェクトを伴ってゆらりとお姉さんの背後に浮かぶ影、半透明で曖昧な姿ながらその見た目は間違いなく“フォルトゥナ”。
腹部が車輪となった異形の女神、運命を司るローマの女神だ。
「待って! ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?」
未だ完治していない俺では到底太刀打ち出来る相手ではない。そう思い必死に怒りを収めようと声をかけるが。
「聞きません。先に言うこと聞かなかったのは貴方の方ですからね、ルールを守れない患者にはお仕置きせよと上司にも教えられています」
どんな上司だよ!? 仮にも怪我人にお仕置きしちゃダメだろ!
……という俺の心の叫びも虚しく。彼女はくいっと手を動かした。それを合図として、階段の下からガシャガシャという機械音が響く。
「あー……なんかヤバそうだから俺帰るね?」
迫る機械音に震える俺へと、いつものように軽い口調で告げたミカヅキは返事も待たずに素早く鉄柵を乗り越えた。
「は!? ちょ、待て、助けて!!?」
慌てて駆け寄るも、奴の姿はすでに廃墟の夜闇に消えていた。
狼狽える俺の背後で、ついに、クリアな機械音が響く。
戦慄しながらも、ゆっくりと振り返り確認したその姿は四脚。
四脚にて駆動する
「T95C/N……!!」
かつて、二十世紀末に
原型が緑色であった表面は白く塗り直され、追加で取り付けられた二本の細い腕部は精密な動きを可能とするマニピュレーターを備える。
申し訳程度にちょこんと乗せられているナースキャップがチャームポイントだ。
それが二体。
お姉さんの手の動きに合わせて駆動している。
つまり、彼女がこの兵器を操っているということ。
「……って、考察してる場合じゃない!?」
ギュルギュルと音を立てて自律兵器の両手が回転を始める。間違っても患者に向けるような
おまけに、お姉さんのフォルトゥナもぐんぐんと霊力を高めていた。明らかな戦闘態勢。
「ご、御慈悲を……!!」
――直後、サマナー協会東京本部治療棟の屋上に、男の悲鳴が木霊した。
【あとがき】
多脚自律兵器の見た目は真1、2に登場したマシンにタ◯コマみたいなマニピュレーター付けた奴です。
また、本作のペルソナ使いは悪魔側とも普通に関わります。あんないろいろやってて無関係は難しいよね……(敗北者並感
……なんか最近、オチが雑になってる気がするな。精進します。
真面目に外伝考えてます。どれがいいですか?※三章の後を予定
-
イバラギン×綱の末裔
-
チャラ男RP金髪男×ゴールデン
-
二代目会長×頼光
-
小次郎×双剣の堕天使
-
とりあえず本編、ガンガン行こうぜ!