「くそったれがぁぁぁ!!」
嵐の如く迫る無数の斬撃を前に、俺は渾身の“気合い”で叫びながら刀を振るう。狙うは奴の胴体のみ、例え奴の斬撃の雨が身体を切り刻もうとヒートライザで底上げした耐久ならば幾分か余裕がある。
つまり、肉を切らせて骨を断つ戦法。
「愚かな……」
しかし、奴とて神。龍神と語られし高位悪魔。
更には必殺の霊的国防兵器として前大戦で猛威を振るったという強大な悪魔の一柱だ。
無数の斬撃を飛ばしながらも的確にこちらの斬撃を小太刀で防いでカウンターを放つ。
「ぐぉっ!? くそ、なんのこれしき!」
だが俺とて意地がある。
横腹を斬りつけられたのを無視して臆することなく奴の懐へと進み出る。
「っ!」
そして渾身の袈裟斬りを見舞ってやった。
ヒートライザによる能力上昇、ゼロ距離からの斬撃とあれば奴の硬い鱗にも痛撃を与えられるはず。
はたしてその予想は的中し、奴の緑の肉体へと明確に斬り傷を与えることに成功した。
「……たかが“刀剣”如きが!!」
――と、それにキレたサブロウからザンダインをもらってしまった。
こちらがゼロ距離から斬りつけたならば必然、あちらからの魔法もゼロ距離。鳩尾へと放たれた上級魔法をモロに受けて俺の身体は宙を舞った。
「主!!」
落下する直前、オサキが飛び出して俺の身体を受け止めた。
小柄な彼女ではあるがそこは悪魔。難なく俺の肉体を抱えて素早く後方に退がる。
そしてぺちぺちと俺の頬を叩いた。
「おい、しっかりせい!」
「ちょ、起きてる! 起きてるから!」
確かに意識が飛びかけたのは事実だが、そこは気合いでどうにか踏みとどまった。寧ろ、このぺちぺち攻撃の方が意識を持っていかれそうな威力に感じる。
仮にも悪魔なんだから手加減してビンタしてほしい。
常人ならば下顎ごと吹き飛んでるぞ。
「悪りぃ、助かった――」
そう言って立ち上がろうとしたところで。
すかさずサブロウの小太刀が飛び込んできた。
慌てて刀で防ぐが、不利な体勢ゆえに気を抜けば押し負けそうになる。
「このっ!」
あわや両断――といったところでタイミングよくオサキが幻術を放ってサブロウの視界を霧で覆う。
「ぬっ!」
その瞬間、僅かな隙が生まれ俺は両手で目一杯刀を振るい奴を弾き飛ばした。
だが、消耗には抗えず思わず刀を地に刺して杖代わりとする。
「無茶するな主よ。さっきまで動きを捉えきれず動かなかったが、ここからはワシも援護に――」
「いや、いい。お前はウシワカの方を頼む。あっちもあっちでサブロウ並みに厄介そうだからな」
未だウシワカと交戦する白い機体、これまでの戦いを見る限りはウシワカだけでは勝ちの目は
耐久性を抜いても、尚、である。
「馬鹿なことを! お主が死ねばワシらも共倒れぞ!?」
分かっている。俺とて死ぬ気はないし死なないために今も脳をフル稼働させている最中だ。
それに、共倒れとは言うが別にすぐ消滅するわけじゃない。補給MAGが無くなるだけで消える前にMAGを確保すればいいだけの話……なんだが、彼女が言いたいのはそこではないだろう。
「だからって……“身内”を捨て駒にはできない」
結局はそれだった。
たとえウシワカを捨て駒にこの窮地を脱しても、俺はきっと死ぬ以上に後悔するだろう。
なら、なにがなんでも“みんなで帰る”方法を模索する。
「それは……
「知ってる。俺が弱いのは自分が一番分かってるさ……けど、それでも譲れない考えってのがあるんだ。
お前らにまでそれを強要するのは心苦しいが……」
どうか俺に付き合ってくれ、と言おうとして徐にデコピンが飛んできた。
「あいてっ!?」
「たわけめ、ワシがお前を見捨てるはずなかろうに。寺の戦いでいったはずじゃぞ?」
少し拗ねたような顔で告げるオサキ。ああ、覚えてるさ。
「確か生涯添い遂げるとかなんとか」
「たわけがっ!!」
瞬間、俺の顎が蹴り上げられた。
悪魔の膂力で、まして無防備な顎にクリティカルヒットした一撃は意識を刈り取らんばかりの威力だ。
だから手加減。
「そんなこと言っとらんわ!? 巫山戯るのも大概にしろよ、この甲斐性なしの唐変木めが〜!」
ついでにグリグリとこめかみを拳で嬲られる。
「わ、わかった! 分かったから! お前の膂力でやられると骨にヒビ入るからぁ!?」
こめかみの周囲にある頭蓋骨がみしみしと音を立てている。
これには流石に危機感を覚えて必死に懇願し、謝り倒した。
「ったく、このクソガキめ……」
やがて気が済んだ様子で俺を解放するオサキ。
「マジで死ぬかと……ってこんなことしてる場合じゃないだろ!?」
今は戦闘の最中、まして強敵たるコウガサブロウが相手だ。呑気に戯れあっている場合ではない。
「お主が始めたんじゃろ!? ……まあ、安心せい。とびっきりおっきいのを見舞っておいたからな。そう易々と抜け出したりは――」
それはフラグだ、と忠告しようとして。案の定、幻術を振り払ったサブロウが高速接近してきた。
「言わんこっちゃない!」
なんとか刀で斬撃を受け止めて叫ぶ。
「わ、ワシの所為ではないぞ!?」
オサキも慌てて幻術を放つ、が流石に二度三度と喰らうほど奴も馬鹿ではなく。空いた手に持つ小太刀で容易に斬り払われた。
ついで、呪殺属性の魔法を連発してサブロウに放つも、やはり素の能力差が大きすぎるのか大したダメージを与えられていない。
さらにはオサキの魔法を無視してこちらに小太刀を振るってくる。
当然、奴の速さに俺が付いていけるはずもなく。殆どの斬撃を身で受けながらなんとか致命傷を避けるように刀を振るうしかなかった。
ヒートライザが無ければ今頃とっくにバラバラだ。
くそ、ここにイヌガミがいればまだ態勢を立て直すことも出来たのに。
――そんなことを考えた直後だった。
「はあぁぁ!!」
腹の底から声を出したような叫びと共にチヨメちゃんが飛び込んで来る。そして腰から抜き放った刀でサブロウに斬りかかった。
「バカっ、やめろ!!」
チヨメちゃんが敵う相手じゃない、と続けようとして。俺は目の前の光景に目を見開いた。
「せぇぇい!」
「こ、小娘ッ!!」
チヨメちゃんが、コウガサブロウと切り結んでいるのだ。
それも劣勢や、軽くあしらわれているわけでもなく。寧ろ押し込むように斬撃を加えている。
「ど、どうして……」
俺の記憶では、チヨメちゃんに万が一にも勝ちの目はなく、満足に斬り結ぶことすら出来ずに敗れるほどの能力差があった。
なのにどうして。
「拙者は、もう、逃げませぬ!!」
狼狽える俺の耳に彼女の叫び声のような言葉が届く。
「主を、主君を! 我ら“人ならぬ者”を、己が身を挺して守らんとする主人を!」
そこまで見ていて、ようやくこの攻勢が
「――お館様を、今度は、拙者が! お守りするのだ!」
――その勢いが彼女の“覚悟”の強さによるものと、理解した。
「小賢しいッ!」
勢いだけで押し込むチヨメへ、痺れを切らしたサブロウが小太刀を振るおうとする。
その腕へと“不可視のナニカ”が絡み付いた。
「なっ!?」
「拙者の術は刃だけにあらず!」
大蛇の呪、不可視のアレを小出しにしてコウガサブロウの動きを封じて見せる。
「っ、我が真名を知っての狼藉か小娘!」
――とはいえコウガサブロウは“龍神”。しかも諏訪の地にて長く崇められてきた古き神、眷属に祟神たる蛇神すらも従わせた日本有数の地方神。即ちは土着の神、国津神だ。
“人の霊”ごときが容易に立ち向かえる相手ではないのは確か。
まして自身の司る蛇を用いた呪いともなれば、こうして引き千切ることも可能であった。
「なんの!」
――チヨメとてそんなことは分かっていた。
甲賀望月の末裔に過ぎない自分の呪が、祖にして神たるサブロウに効くはずもないと。
だが、こうして無数の呪を放てばさしものサブロウとて捌き切れなくなる。
要は数の暴力。
加えて今は、コウガサブロウの斬撃によって
ならば、それら全てを“触媒”とし不可視の大蛇を招くのも不可能ではない。
なにより――
――
つまり、兼家の名を持つサブロウではなく。もっと大きな三郎伝説の具現、そして別の地域にあたる“諏訪の大龍神”としての要素が最も大きく出ている個体だ。
蛇の“元”が違うのであれば、こうして僅かな間でも拘束することは可能なのだ。
「ぁああぁぁぁぁ!!」
このまま押し切る、そう決めたチヨメは自らの全力でコウガサブロウへと猛攻撃を続ける。
苦無、刀、呪、全てを惜しみなく使い。自らの身体に表出する“鱗”すら無視してひたすらに攻め立てる。
その最中、チヨメは己の胸の内で自らの想いを再確認していた。
――そうだ。拙者は忍びなれば、主君のために己が身を粉にして尽くすだけだ。そこに怖いとか勝てないとか、余計な考えはいらない。
ただ忠義のため。そして、
家族愛や恋愛とも違う、“主従の親愛”を己の納得する形で理解した彼女は燃え上がる忠義の念だけを胸に己が力全てを以って敵へと立ち向かう。
自らの祖に“類する”という古き龍神。
そして今は護国の兵器と化したコウガサブロウへと。
――ヒデオたちとコウガサブロウが激しい戦いを繰り広げる一方で。基地内へと侵入した“鉤十字”たちの一部隊が、大國が座す司令部内部への侵入に成功していた。
大型建造物の地下。大國がいる最上階とは真逆の方向にも建物は続いており。
その壁面や配置された器具など見る限りは“何かの研究施設”として機能しているのは明らかだった。
“同盟相手”が齎らした情報によって地下への隠し通路を知っていた彼らはまんまと隊員たちを欺いて、このエリアへ入り込んだ。
そして、彼らの
「……まったく、目標のある“部屋”までこうも距離があるとはな」
先の通路をライトで照らしながら愚痴を零す兵士の一人。
「そう言うな。幸い、道筋は判明しているんだ。いつも通り、冷静かつ迅速に対処すれば問題はない」
それを嗜めるように隊長が声をかける。
とはいえ。
隊長もこの長い道のりに辟易としているのは事実だった。
地下に降りてより四半刻、悪魔としての身体能力と訓練で培われた統制の取れた動きで大人数とは思えないほどの移動速度を誇る彼らが、未だに目標に辿り着いていないというのは初めてだ。
それもこれも広大なエリアと複雑な構造による。
「まるで迷宮だ」
そう溢した兵士に隊長も内心頷く。
あまりにも広大、ともすれば
地上にあれだけの施設を建てておいて地下にまでこうも規模を拡大するとは敵ながら賞賛に値する。
いや、或いは
そこまで考えた隊長の耳に、
突然の発砲音、しかも音からして機銃掃射にも等しい量。
皆、咄嗟に身を伏せたことで当たることは無かったが。
これは明らかな敵襲である。
そうして慌てて音の根源へとライトを向けた隊長の目に、
「……」
物言わぬ機械、さりとてその形状は“戦車”にも似て――
「っ、
形状と機体に取り付けられた“機銃”を見て隊長はすぐに指示を出した。応じて兵士たちが各々の得物を構え、対するマシンたちも動き出した。
四足歩行に機銃を二基備えた機体『T13D』。
ヒデオが見かけたポスターに描かれていた多脚戦車の小型種、スケールダウンされた屋内用の警備ロボである。
それらに紛れてガシャガシャと
二十世紀末に設計された『T93G』を基に、現代の技術で改良・量産されたこちらも対悪魔兵器である。
それらが通路の先より夥しい数で迫ってくる。
兵士たちには■■■■■■の眷属になったことによる“高い再生能力”があるものの。それは不完全な不死性であり再生が追いつかないレベルの損傷を負えば容易く死滅するだけだ。
故に多少の負傷は無視して一行は撤退を決めた。
強行突破などバカバカしいほどの物量を前にしては無駄な犠牲を出すよりも戦略的撤退を選ぶ方が合理的、事実その判断は大多数の人の賛同を得られる英断だった。
――しかし。
「っ、奴ら!
自律兵器たちもまた
旧時代の兵器を基にしたとはいえ、二十年以上の間に培われた最新技術によって改良を受けたこれらは最新兵器と称して相違なかった。
故に、重力魔法を用いたホバー移動は彼らの走る速度を容易く上回りその背に追い縋った。
「ば、馬鹿な!!」
驚愕を顔に出しながらも銃を構え応戦する兵士たち。
だが悲しいかな、多勢に無勢、彼らの抵抗は雀の涙にも等しく一分と経たないうちに包囲され、もみくちゃにされながら一行はすり潰されていった。
【あとがき】
今更ですが、各悪魔たちの経歴とかには巧妙に(?)独自解釈というかオリジナル設定混ぜてますのでご注意を。甲賀三郎とか。
調べたけどごちゃごちゃしてる奴は「こんな感じかな?」ってかなりふわふわした認識で改変ないしオリジナル設定追加してます。
元ネタが三行くらいで終わるうっすい奴もモリモリしてます。