英傑召喚師   作:蒼天伍号

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途中で千文字くらい消えて発狂した。



大蛇の巫女

「悪い、オサキ。ちょっと行ってくる」

 

チヨメちゃんがサブロウに猛攻を加えながら共に移動して行ってからしばらく。

ようやく、()()()()()()()()()()からの反動も落ち着いて動けるようになった俺は一言告げて立ち上がった。

 

「はぁ……分かっとる、もう止めはせんよ」

 

オサキはやれやれと溜め息を吐きながら応えた。

 

「まあ、なんかあれば基地の人を頼ってくれ。緊急用のMAGくらいは用意してくれるはずだ。その時はウシワカにも即時撤退を伝えてくれ。

そのあとは――」

 

万が一を想定した指示を出している最中、唐突に彼女はドロップキックをお見舞いしてきた。

ヒートライザを解いた俺に対して情け容赦ない一撃は腰がピキッと音を立てるほどの威力。

手加減……。

 

「ぐおぉ……お前、いきなり何すんだ……!」

 

四つん這いで痛む腰を摩りながら睨む。

僅かに視界が歪むのは涙目だからである。

 

「そんな話するな。万が一など無い、ワシが許さん」

 

「お、おう」

 

ただならぬ気迫で告げる彼女に、自然と返事をしてしまうが。万が一を想定するのは必要事項だと思う……。

サマナーとして常人を超えた能力を持つ俺とて人間である、死ぬ時は死ぬし、霊力低下した今なら尚更だ。

――だが、そんな理屈めいた考えは次の言葉で吹き飛んだ。

 

「絶対生きて帰って来い」

 

強い意思を感じる声と瞳で告げるオサキ。しかしその眼が僅かに潤んでおり、そこでようやく彼女が本気で心配してくれていることに気が付いた。

まったく、ツンデレさんめ。

 

だからなるべく穏やかな声を意識して笑顔で彼女の頭を撫でた。

 

「な、なにするんじゃ!」

 

「いやそんな可愛いことされたら不可抗力だろ、これ」

 

「かわっ!?」

 

耳まで真っ赤にして照れる彼女は率直に言って眼福だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三郎っ!」

 

声と共に我が身から這い出るのは大蛇の呪。

黒い肢体を持つ不可視の呪い、魔力によって精製される特殊な呪いだ。

 

現れた数匹の大蛇はコウガサブロウへと絡み付き、全身を締め上げるようにしてうねる。

そうして動きを止めた彼へと、大口を開けた大蛇が迫り――

 

 

――サブロウの放つ魔法によって、全て木っ端微塵に砕かれた。

 

「くっ!」

 

やはり、強い。

蛇を司る神という点を差し引いても、力技で大蛇の呪を引っ剥がすなど尋常ではない。かの呪は伊吹大明神の神威そのものであるというのに。

 

「う、オォォォ!!」

 

だが、負けるわけにはいかない。

お館様は二度も拙者を庇われた、捨て置くべき忍びたる拙者を。敵前にて無防備を晒す拙者を。

恥ずべき、愚かな失態を犯した拙者を何度でも庇ってくださる。

それに甘んじるのは拙者の求める忠義ではないだろう。

 

――かつて、“私”には愛した人がいた。悍しい呪に侵される私を真摯に愛してくれる二度とは出会えぬ立派な殿方だ。

短く儚い日々であったが、その日々はなによりかけがえの無い宝となりのちの人生を最期まで支えてくれた。

――否、かつて、ではない。今も愛している。照れ隠しなのか、慣れない異国の言葉で愛を叫び耳まで真っ赤にしていた彼の深い愛に私は心を打たれ、全てを捧げると誓った。

 

――その誓いは早々に果たされないモノとなったが。

それでも、亡き彼に捧げるためにお館様に忠義を尽くしてその果てに生涯を終えた。

そのことに後悔はない。

 

――でも。

 

彼が居ない、支えてくれる人が居ない日々は確実に私の精神を蝕み、大蛇の恐怖は以前より鮮明に感じられた。

それはやっぱり怖いし寂しい日々だった。

 

だからこそ。

 

人ならぬ“悪魔”として二度めの生は受けた私は、お館様という新たな“柱”を得た。

忍びとして、呪を受ける忌まわしい女として歴史に刻まれた私を大事にして、あまつさえ“家族”であるとまで言い切る器の御仁。

 

――私は、拙者は今度こそ忠義の限り彼に尽くすと決めた。

 

 

「だから……負けるわけにはいかないのよ!」

 

「っ!」

 

刀を振るう、呪を放つ。その繰り返し。

だが隙など与えない。

 

「いつまでも呪に、貴方に怯えてばかりいられない!」

 

――今は少し感謝している。

初めて相見えた時は「どうして」と嘆き、なぜよりによってコウガサブロウが来るのかと自らの不運を呪ったが。

こうして、“乗り換える機会”として意識できた今は違う。

 

「アナタを倒して……拙者は、私は今度こそ――!」

 

――しかし、気合いだけで倒せるほど彼は、コウガサブロウは甘くなかった。

 

 

 

 

「聞くに耐えぬ囀りだ」

 

「っ! え……?」

 

気が付いた時には、彼の右膝が腹部へとめり込んでいた。

ぐにゃりと腹に埋没し膝を覆うほどに。

 

「御国ヲ穢ス“逆賊”メ!!」

 

続けて放たれた蹴りを受けて私の体はあっさりと宙を飛び。

次の瞬間には地面へと叩きつけられていた。

 

「かっ、はっ!?」

 

押し出された空気が声にもならない声を出し、次いで腹の底から湧き上がる嘔吐感に襲われた。

 

「ごぼっ!?」

 

口から飛び出る鮮血は果たしてどこから逆流したものか。

人であれば即死、悪魔であるが故に多少の損傷は無視できる自分をして、抗えない痛みに全身が震え、立ち上がる力さえ奪う。

 

「たかが、いち、げき、で……」

 

それも得物によるものではない、魔法なる術でもない。

たかが蹴り、一発でこの体たらく。

いくら自分が悪魔としては耐久性に劣る“性能”であろうと、理不尽なほどの破壊力だった。

 

 

「――“匂い”に惑わされ、これまで手加減してきたが」

 

そんな私の側に降り立ち、サブロウはゆっくりと歩み寄る。手に持つ小太刀を回しながら。

 

「貴様の独白を聞いてようやく気がついた。

()()()()()()()()()()()、彼女の血を継いだ存在ではない」

 

彼女? いったい誰のことを――

 

「春日姫の血縁にあらじ貴様は、ただの国賊、故にここで容赦なく斬り捨てる」

 

まるで“自分に言い聞かせる”ような言葉。気付けば彼は地に倒れる私のすぐ側まできており。

 

「……ココデ、貴様、ヲ」

 

――しかし、振り上げた小太刀は震えるばかりで一向にやってこない。何かに迷っているような、葛藤するような苦悶の声を上げるばかりで彼は動かず。

 

「――もしや。もしや小娘、貴様はy――」

 

一転して穏やかな声音で語りかけてきたところで――

 

 

 

 

「どけやオラァァ!!」

 

――お館様が飛び込んできた。

 

 

「ぬわっ!?」

 

すっかり油断していた様子のサブロウは、お館様が振るう()()によって容易く薙ぎ払われた。

 

「無事か、チヨメちゃん?」

 

炎剣を肩に担ぎながらお館様が優しく声をかけてくださる。

そのようなお声をかけられては呑気に仰向けになっていられるはずもなく。力を振り絞ってなんとか立ち上がる。

 

「大事なく」

 

「ならよかった」

 

片膝をついて返答すれば、朗らかな笑みを向けてくださる。ああ、そのように優しくされては拙者は――

 

「ですが、コウガサブロウを討ち果たすこと敵わず……拙者の非力、誠に申し訳なく」

 

「大丈夫、大丈夫。ここからは俺が引き継ぐよ、チヨメちゃんは退がってな」

 

なんてことはないように、お館様は剣を下ろしてサブロウの方へと足を向ける。

 

「っ!? お、お待ちを! 恐れながら、拙者はもとよりお館様とて敵うような相手では!!」

 

不敬であるとは思いながらも、死地に向かう主君を見送るわけにも行かず。追い縋るように駆け寄り止める。前回の戦いでもお館様は手酷い傷を負われ終始圧倒されたと聞いていたから。

更には……誠に不敬ながら、お館様の霊力は拙者よりも低く。

 

そんな自分の頭へと、いつものように“彼”はポン、と手を乗せた。

 

――瞬間、()()()()()()()()()()()()()

 

「え……」

 

突然“不可思議な現象”に襲われた私は呆然としながら続く彼の言葉を耳に響かせる。

 

「俺、神サン相手なら負けないから」

 

そう言って、彼は駆け出した。行ってしまった。

()()()()()()()()()()()

 

――だが、自然と()()()()()()()。彼なら勝ってしまう、必ず帰ってくるという不思議な安心感があった。

 

「お館様……」

 

故に、その背を見送ってしまう。

現界して初めて見る、“頼り甲斐のある大きな背中を”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そらっ!」

 

剣を振るう。我が半身、生まれてからの相棒たる“ヒノカグツチ”を。

既に捕捉(ターゲッティング)は完了しており、対処行動の演算も完了している。

奴の手札は先の戦いで知っているし、二回目の戦闘ともなれば俺とて慣れた戦いを展開できた。

 

なにより、“気合い”が違う。

 

自分でも不思議なものだが、“守る”と決めた段階で。或いは“オサキからの激励”も加えて身体の底から力が湧き上がってくる。

憂いも迷いもなく、死への恐怖すら気にならないほどに“ハイテンション”になった俺は、「今なら誰にでも勝てる」といった心持ちで戦いに臨んでいた。

無論、危機感は捨てていない。寧ろ、普段が臆病過ぎるせいかハイテンションな今はちょうどいい塩梅で最高のコンディションになっていると言えた。

 

「くっ、この!」

 

対するサブロウは、急激に戦闘能力を上げた俺に困惑した様子で対処もおざなりになっていた。

まるで不意打ちに成功したかのような戦況だ。

 

「重畳、重畳!」

 

それは紛れもない好機だ。

しかし焦らず演算に集中して相手の虚を突き、相手の攻撃を捌くことに終始する。

神速の小太刀、高威力のザンダイン。どちらもヒノカグツチを抜いた俺には対処は容易く。小太刀を捌いて、ザンダインを難なく回避。お返しとばかりに斬撃を見舞えば、神格特効による威力補正でサブロウは堪らず狼狽える。

更に二撃三撃、加えていけば戦いは俺の独壇場と化した。

 

「なぜだ、なぜこれほどの力を!?」

 

「愛だよ、愛」

 

嘘ではない。家族愛が限界突破した俺は地力を越えた力を発揮すると自分でも知っている。

現に、溢れんばかりの愛を叫びたくてうずうずしているほどだ。

 

たぶんに、これはチヨメちゃんがさっき見せた“忠義”に対する想いの丈や、オサキからもらった“勇気”に触発されたものだ。

我ながらチョロいとは思うが、“好き”なんだから仕方ない。

 

「なぜそこで愛!?」

 

愛を馬鹿にすんなよ!

 

「愛は、最強で、無敵なんだよ!!!!」

 

狼狽えるサブロウへ袈裟懸け、横薙ぎ、振り下ろしと三連撃を加えて地に叩き落とす。

 

「かはっ!」

 

クレーターを生み出し土煙を吹き上げる中でバウンドするサブロウ。そこ目掛けて俺は渾身の威力で突きの姿勢のまま突撃した。

 

「どりゃぁぁぁ!!!!」

 

剣身から噴き出る炎は勢いを増して、身体を包み込むほどの量。さながら火球のようになった状態でサブロウひいては地面へと衝突する。

 

瞬間、巻き上がった炎が柱を生み、衝撃によって吹き荒ぶ風が火の粉を撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「お館様……」

 

――私は目の前の光景を疑った。

諏訪の龍神、甲賀三郎伝説の具現たる彼を相手に、食い下がるどころか圧倒している我が主君。

つい先程までは私よりも低い力しか持たなかったはずなのに。今は炎が刀身より湧き上がる不思議な剣を持ってサブロウを攻め立てている。

率直に信じられない光景だ。

 

だが、お館様から感じ取れる“力”はまるで別人と見紛うほどに高まっておりサブロウすら食い潰さんとする勢いで今も上昇している。

茜色の軌跡だけを残す素早い身のこなしは忍びたる私はもとより、同僚にして日本有数の英雄たるウシワカマル殿にも匹敵、所によっては凌駕するほどの速さを発揮している。

 

「なによりあの炎を見ていると……不思議と、安らぐ」

 

私自身、だけではなく。生前より常に側に蠢いていた“大蛇の呪”が、まるで子犬が如く怯え震えて近づこうともしないのだ。

お館様に頭を触られてからずっと、である。

 

「浄化の炎……」

 

心さえ洗わんとする“綺麗な光”、それでいて伊吹大明神の呪いすら怯ませる業火。

そんなものを振るう我が主君はきっと只者ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝てない。

 

……いや、ちょっと言い訳させて欲しい。

 

 

意気揚々とヒノカグツチを抜いて、チヨメちゃんにカッコつけて斬りかかったはいいが。

コウガサブロウ、こいつ、思ったより数段強い。

何がって、その俊敏性能。こいつは風か何かなのか、と疑うばかりの速さと回避率なのだ。

次に、めちゃめちゃ硬い。骨鎧みたいな外皮がえぐいほどの硬度を持っており全力で斬りつけても浅い傷しか与えられないのだ。

この硬さに先述の速さ、そして魔法を加えると驚くほどの強さになって、結果として一向に攻め切れないでいる。

 

さっきの炎を纏った刺突も必勝を機した全力だったのだが。

普通に避けられた。余波すらあの堅い装甲で難なく受け止められた。

 

「っと、あぶねぇ!」

 

そんなこんな考えてる間にも不意打ちでザンダインが飛んできて、慌てて身をよじって躱す。

 

「甘い!」

 

――だが、続けてノータイムで放たれた電撃上級魔法(ジオダイン)は避け切れずに僅かに喰らってしまった。

 

「ぐ、がぁ!!」

 

半身に痺れるような感覚。

しかし、深手には至らない。

 

なので慌てて移動速度を上げて対処する。

 

「我が神通力、風だけにあらず」

 

わざわざ言わなくていいよ! こんちくしょう!

ムカつくが、ヒノカグツチからの演算結果には「続けてジオダインが来る」という情報があり悔しいながらも回避に専念する。

 

そうして魔法への対処に躍起になった隙を上手いこと突いて、サブロウの小太刀が脇腹を掠める。

 

「くっ!」

 

こちらもお返しの斬撃を放つが、もう片方の小太刀で難なく受け止められる。

そんな攻防がかれこれ数十分は続いていた。

 

 

俺のヒノカグツチは、神に対して絶大な力を発揮するが無限に使えるわけじゃない。

普段は、なんでも燃やして燃料にできる“炉心”も、全力戦闘とあっては無限供給などできるはずもなく。タイムリミットは長くない。

要するに、ガス欠が近いということだ。

今は空元気でなんとか持たせているが、それも永遠には続かない。なんとかしてこの膠着状態を打開しなければならないが。

 

「っ!!」

 

――小太刀の一撃、そこから続けて繰り出される回転斬りをなんとか防ぎ切る。

 

……このように、ちょっとでも演算以外のことに思考を回せば容易く劣勢に追い込まれるほどに戦力は拮抗していた。

元来、ヒノカグツチを抜いて拮抗などあり得ない話だが、一部のそれこそ神話の主神レベルの悪魔となれば演算が追いつかない力を見せてくることもある。

あとは、単純に俺の地力だろうか。

 

こんな状態では戦況の打開どころではなく、そもそも演算で手一杯な俺にそんな余裕は無い。

 

さて、どうするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お館様……?」

 

ふと、私は違和感を覚えた。

 

目の前では相変わらず“神同士の戦い”と見紛うばかりの激しい戦闘が続けてられており、万が一にも自分が入る隙などない。

たとえ入れたとして、一瞬のうちに斬り刻まれてしまうだろう超常の戦い。

 

しかし、その戦いの中でお館様の動きに焦りが見え始めていた。

 

相変わらず凄まじいお力を発揮しておられるのは間違いない。

だが……

 

「……拮抗している」

 

そう、両者の戦いは膠着状態に入っていた。

どちら共に決め手にかける戦い、加えてお館様の焦りを見るに。()()()()()()()()()()()なのは明白だった。

 

「これほどの……これほどの力を以ってしてまだ足りないと!」

 

強大過ぎる敵に、心が折れそうになる。

大蛇の呪さえ怯ませた炎剣を振るうお館様が、尚勝てない相手。

 

なによりも。

主君に前線を守らせている己の不甲斐なさ。己の無力さ。

とても耐え切れるものでは無かった。

 

「拙者は……拙者は……!!」

 

何度誓いを立て、何度破れば気が済むのか。

 

豚ノ介との戦いでは、覚悟を決めたにも関わらず結局はお館様に救われ壬生の末裔に助けられた。

続くコウガサブロウとの初戦では、あろうことか敵前にて戦意を失い主君たるお館様に深手を負わせた。

その負い目を、オサキ殿に諭され、お館様にも気を遣わせ。

今度こそはと臨んだ再戦にて再び怯えてしまった。

 

「……そして、勢い勇んで襲撃を仕掛け。物の見事に返り討ちにされた」

 

――不甲斐無い、不甲斐無い!!

――不甲斐無い心に、満足に主君さえ守れぬ非力に腹わたが煮え繰り返る!

 

ああ、なぜこうも弱いのか?

――理由は明白。それは自らの生前が()()()()()()()()()()

 

大蛇の呪が怖い、大切な人を失うのが怖い。

そんな泣き言を理由に、無意識のうちに自分は感情を殺して心に蓋をして、さしたる思いもなく最期を迎えてしまった。

 

――歴史に記されし『英雄』ならば、幾度となく挫折を経験しても「それでも」と強い信念を抱えて駆け抜けるべき人生を、拙者は。

あろうことか()()()()()()()()()()

 

だからだろう。先天的な呪に侵され怯え、それでも、()()()()()()()()()()と自らの力として呪を振るう。

そんな弱々しい“英傑”が召喚されてしまったのは。

どこまでいっても“自らの不徳”。

 

――そして、そんな結果を「仕方ないじゃない」と諦めようとする自らの弱い心。

 

なにを取っても弱い。

力も心も。

 

「そんな拙者が……お館様を、守ろうなどとッ!」

 

――その両の眼を開けて、見るがいい、あの背中を。

つい先刻まで「弱い」と評していた主君の雄々しいまでの力強い背中を。

自らの主君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

“想いを力に変える”立派な()()だった。

 

それすら見抜けず、何が忠義か。何が忍びか。

――不甲斐無い、不甲斐無いッ!

 

己の内で何度も詫びる、自らの主君の在り方を正しく見れていなかった不甲斐なさを。己の不徳を。

 

 

 

「……()()()()

 

それでも――

 

 

 

 

 

 

 

――それでも、まだ拙者は()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――なら立ち上がりなさい』

 

――瞬間、誰かの声が耳に届いた……否。

()()()()響いた。

 

「え……?」

 

穏やかで静かな“女性の声”だ。

無論、聞き覚えなど無い。

 

『――立ち上がって、()()なさい』

 

「いの、る?」

 

いったい、何を言っているのか?

 

『自らの()()を忘れたわけでは無いでしょう?』

 

「!!」

 

拙者の、私の本分……それは即ち――

 

 

『祈って。貴女はずっと、()()()()()()()()()()?』

 

「っ!!」

 

――そうだ。そうだった。

 

私は、()()()()()()()()()んだった。

 

 

分かれば、何てことはない。

コウガサブロウに受けた傷など如何程でもない、自然と足が動いて立ち上がる。

 

「そうだ……今の、拙者に……できる、ことは!」

 

――想いをカタチに。

 

召喚からこれまで久しく忘れていた()()を思い出せば。人ならぬ悪魔たる己が身は“最初からそうだった”と言わんばかりに自らを覆う“衣装”を変化させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――黒い袴、身体中に巻きつく黒い帯は軒並み“赤”へと変色し“九曜紋”が描かれた頭飾りも赤く染まる。

露出していた腕部には薄く透けた衣が被さり、短刀のみであった武装に新しく赤い柄の“儀仗刀”が加わる。

 

まるで心機一転したかのように反転した衣装へと変身した彼女は、右眼に掛かっていた赤い帯をゆっくりとずらして“蛇目”を露出させる。

 

「ああ……お館様の姿が、はっきり見えまする」

 

――自らの忌むべき“呪の証”を堂々と外気に晒して、しかし彼女は柔らかい微笑みを浮かべた。

 

 

――もちろん、ただの気分で着替えたわけではない。彼女は、彼女の成すべき事を思い出したからこそ、この“巫女衣装”を持ち出した。

 

――衣装を見れば、彼女がこれから“成す事”は明白。

 

 

即ち――

 

 

 

「甲賀三郎……御御霊(おんみたま)(しず)(たてまつ)る!」

 

 

 

 

――『大蛇の巫女』としての責務を果たすべく、望月千代女は龍神へと立ち向かう。

 

 





【あとがき】
fgoの和風シナリオが時代劇っぽくなる理由がやっと理解できた。
書いてると自然にこうなるのよ!!!!

仕事人、暴れん坊、大岡越前。ここら辺見てると確実にこういう文章が出てくるからね、マジで!!
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