――突然現れた金髪の男を見て、サブロウは一気に沸点を超えた。
「貴様……貴様はッ!!」
――常に嘲笑を浮かべた気味の悪い男。コイツこそが
――詭弁弄弁を用いて他者を“唆す”悪辣な
――
「決して……赦しはせぬ!!」
――気付けば、彼の身体は男へと駆け出していた。
「うおぉぉぉ!!」
グレゴリーを名乗る得体の知れない男に俺が警戒を強めている中、突然、サブロウが雄叫びを上げて奴へと突撃した。
「ちょ、待てっ!?」
未知の敵に対して突撃するなど無謀。しかし、サブロウはまるで
そして、俺が止める暇もないうちに――
「はい、終わり」
――
重要参考人たるサブロウが一瞬にうちに敵の手に落ちたことも問題だが、こいつの動きを
単純な速さではない。これはテレポートの類だ。
なにより
「こういう相手、苦手なんだよなぁ……」
ボヤきながらも警戒は緩めない。
やがて、男はサブロウをそのままにこちらへと振り向き口を開く。
「
「随分凶暴な犬じゃないか、首輪でも付けたらどうだ?」
軽口を飛ばしつつ、こっそりと奴へ解析魔術を仕掛ける。
「既に
まあ、いずれにせよ
心底見下したような“笑み”でグレゴリーは吐き捨てた。
そこから感じ取れるのは“嫌悪”、そしてそれを遥かに上回るほど濃密な“悪意”だ。
「……っと、私も
ふと、思い出したように述べた奴は、懐から徐に
「それ、は……?」
グレゴリーが手に持つのは一枚の
濁ったような色で染まった
――それを一眼、見るだけで
明らかに“まともな品ではない”。
ついでに、奴に掛けたはずの解析魔術はグレゴリーではなくその“ガラス片”の情報のみを提示する。
「魔術……礼装!?」
解析結果には確かに『魔術礼装』という結果が表示された。
しかし、どこをどう見ても
……まあ、俺が手動で行使できる解析魔術は“精度が低過ぎる”ためにあまり信用できる結果でないのは事実だが。
少なくとも
奇妙にして“得体の知れない”ガラス片に恐怖する俺を他所に、グレゴリーは再びふわり、と宙に浮かび上がった。
「全く、わざわざ
その言葉は俺たちに向けられたものではない。
サブロウでもない、奴が遠目に向ける視線、その先で群がる“兵士たち”に向けたであろうセリフ。
「なるほど。お前が親玉か」
鉤十字たちを“呼んだ”と宣ったこの男こそ、今起きている戦いの元凶なのだろう。少なくとも、
加えて、サブロウを犬と呼び、アイツが怒りのままに突撃した事を考えれば
「親玉? ハハッ、それは少々勘違いが過ぎる。
私はあくまで“仲介人”、依頼主の要望に従って適切な人員を派遣するブローカーに過ぎませんよ」
「それよりも」と、グレゴリーはゆっくりとサブロウの方へと向き直り、手のひらを向ける。
「いつまで寝ているのです? 貴方には“役目”があるはずでしょう? 御国を護るという大事な“役目”が。
実に立派な志です、尊敬の念を抱きますよ。
……まあ、私は、その崇高な理念とやらを精々便利に利用させてもらうだけなんですが」
サブロウの心を踏みにじるような言葉を吐きながら、奴が突き出した掌に“膨大な邪気”が収縮されていく。
「さあ、これで
『
その“音”は単なる“言葉”では無かった。
その声は“悪魔の誘惑そのもの”であった。
聞く者全ての“心を乱す”、非常に強力な“精神汚染”の類。
その声を聞いただけで
否、
否、
否。
「くっ……!?」
――ほんの僅か、精神が
思考が塗り潰される一寸前で、俺は正気を取り戻した。
その事実を認識して、俺は冷や汗をかいた。
単に“一言”、その言葉を聞いただけで。
ただ、それだけで
率直に、意味がわからない。自分でも
仲魔や、その他全てのことを忘れていた。
――
「っ!」
だめだ。考えてはいけない、と改めて強い自制心を心がける。
思い返してはいけない、理解してはならない。
ひたすらに強く念じていればすぐにでも心は落ち着きを取り戻す。
これはおそらく、俺に何故か備わっている
厳密には
前に語った“強力な魅了耐性”と並んで、落ちぶれた俺を今日まで生存させてきた力だ。
何故、俺にこんな力があるのかは不明だが。使えるならばそれに越したことはない。
――恐ろしいのは、
精神干渉であれば神の権能さえ弾いてきた俺自慢の耐性を、ただの一言でぶち抜いたというのは
「いや、それよりも――」
あの瞬間、あの一言が発せられた瞬間だけは。
先ほどまで“空白”であった場所に、確かに“奴”の存在を認識できた。
その“邪気”は、今は既に消え失せている。
その代わりに――
「うっ、ぐ、あぁぁ!!」
――倒れ伏していたサブロウの身体から
ピクリともしなかった彼が、突然、苦悶の声を上げてのたうち回る。
その様を眺めてグレゴリーは満足そうに頷いた。
「素晴らしき“怨念”だ、伊達に祟神どもを従えていない……ふふ、その
これもまた
涙をのんで諦めましょう」
奴は、また少し高い位置へと浮かび上がる。
そして、三度、こちらへ振り向き優雅に一礼した。
「機会があれば、またお会いすることもありましょう。
……“反転”したコウガサブロウを前に、生き残れればの話ですが」
サブロウは未だに悶え苦しんで、暴れている。
……いや、少しずつではあるが
「……って、おい待て!!」
サブロウに気を取られた隙に、グレゴリーは遥か上空へと飛び上がっていた。
「それでは、ご機嫌よう。
「っ!!!!」
なんで、それを……!!
グレゴリーは“掻き消えるように”姿を消した。
『
黒い機械兵士、聖槍騎士団の一人が機銃を連射する。
その先には、同じ聖槍騎士団二人と交戦するアシュタレト。
「緩いっ!」
魔槍
果てには、斬り合う二体を蹴り飛ばしながら、発砲した個体へと斬りかかった。
『素晴らしい力だ。是非とも我が軍に欲しい』
「冗談にしても笑えないわ」
対してアシュタレトも憮然とした態度で拒否する。
……ついでに、機械兵士のカッコイイ声が
「その声で、お前が喋るな」といったところ。
――ちなみに、この機械兵士とアシュタレトには“敵同士”以外には一切関係がない。要するに、単なるデジャヴだ。
アシュタレトの変わらない態度に“強い意思”を感じ、それを“愉快”と捉えた機械兵士は鍔迫り合いの最中に自らの名を告げる。
「聖槍騎士団所属、
「真性の悪党に名乗る名はありません……と言いたいところですが。
なので、名乗りましょう」
刀を押し込みながら、威圧感を伴った声で告げる。
「我が名はアシュタレト。
名乗りと同時、二刀を振るってツヴァイを弾き飛ばしたアシュタレトは、突撃してくる二体の機械兵士。
直後、宙に浮いた赤青の二刀は次いで振り下ろされた両手に従って敵の元へ飛翔する。
それを目視するや、機械兵士たちはそれぞれの
――アシュタレトと化したリンをして
――鉤十字たちと隊員が死に物狂いで争う戦場に、駆動音を響かせる絡繰が姿を見せた。
四脚によって支えられた太い胴体を持つT13D。逆関節で歩行する人型に近いフォルムを持つT15G。
そして、空を群れなして飛行する
この機体の名称は『F/F15D』。
グライ系魔法理論を特にふんだんに活用した飛行型自律兵器であり、重力を無視した自在な飛行を可能としている。
以上三種、基地内に点在する建物からワラワラと虫が這い出るが如く大量に放出されていた。
その姿に隊員たちは歓喜し、逆に鉤十字たちは警戒した。
かの機械群が自律兵器であることはひと目見れば分かる。自らの組織にも
慎重に、先ずは兵器の性質を見極めようとした矢先――
全ての自律兵器から銃弾が放たれた。
弾幕と呼ぶのも憚られるような銃弾の波、いや、『壁』と表現した方が正しいソレは一方向に対して押し潰すかのような面制圧を敢行した。
「う、うあっ!?」
「ぎゃっ!?」
「ぬわー!」
有効な“防御手段”を持たない下級兵はもとより、部隊長クラスの兵士ですら一斉掃射の前にはなす術が無かった。
無論のこと、押し寄せる弾たちはただの銃弾ではない。
対悪魔用に加工された特殊弾、それを自動火器によって吐き出す。物理でなく“霊的”な概念を纏った弾丸を“湯水が如く”放出する。
悪魔にとっては致命的過ぎる、有効な戦術であった。
当然、それを成す“財”があって初めて成立するものではあるが。
――また、その“費用”を少しでも軽減する策として『F/F15D』があった。
他の自律兵器が物質を吐き出すのに対して、この飛行兵器は胴体に搭載された機銃から
大國が有する
攻撃的な概念となった霊波を銃弾の形にして高速射出するのが、この非実体特殊弾の正体である。
更には機銃本体に、上述の術式を丸ごと詰め込み、トリガーに応じて瞬時に攻性霊波を構築、銃身に刻まれた“加速術式”によって銃弾のように射出するという動作を瞬時に成立させている。
また、これに使用する霊波そのものは機体のコアの役割を担っている
――この霊波光弾、当然ながら
よって、他二種の自律兵器同様に対悪魔広域弾幕を構成する一翼を担っていられるのだ。
前線に解き放たれた自律兵器群によって鉤十字たちが蹂躙されているのと同じ頃、聖槍騎士団のもとにも自律兵器が現れていた。
それも、
【あとがき】
F/F15Dの見た目はEDFのガンシップをイメージしてます。