英傑召喚師   作:蒼天伍号

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吸血鬼・一

アシヌス氏からの入念なヒアリングの結果、今回の件は『クロ』であると判明した。

 

となれば善は急げ、俺は早々に話を切り上げて対象の討伐に向かおうと考えた。

ただーー

 

「……なるほど、依頼のほど、確かに承りました」

 

「ありがたい。こちらとしても『同志』が無闇に襲われるのは心の痛む話ですから」

 

日本人離れした骨格と体格、短くも立派な顎髭と角刈りにされた茶髪。なによりその身に纏う司祭平服(キャソック)からして、アシヌス氏が『世界的に有名な宗教の司祭』であるのは明らかであった。

そうなると、デビルサマナーの俺としては当然、『メシア教』との関連を疑ってしまうわけで。

付随して、今回の依頼が『メシア教』に関係するのかも気になってしまう。

……俺は、できるなら“もう”奴らとは関わり合いになりたくないのだが。

 

「情報は十分にいただきました。早速、対象の討伐に向かいたいと思いますので、これで」

 

「ええ、頼みました。ああ、ここのお会計は私が持ちますのでーー」

 

「いえいえ、きちんと代金は置いていきます。どうかごゆっくりと、司祭殿」

 

どうせアイスコーヒーとオレンジジュースしか飲んでいない。ぴったりの小銭をテーブルに置いた俺はウシワカを伴って早々に店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

耐えきれずに店を飛び出してしまったが、一応、対象の情報は十分にいただいているのでこれ以上会う必要もない。討伐後の報酬も指定の口座に振り込んでもらうだけだし。

 

司祭殿にああ言った手前、早速だが討伐の準備に入ろうかと気の進まないながらも街を歩く。その道中、ウシワカが真剣な顔で声をかけてきた。

 

「主殿」

 

「ん、どうした?」

 

「先ほどの男……並ならぬ気迫を感じました」

 

マジか。そんなのはまったく気付かなかったわ。

そもそも、『奴ら』の顔などあまり見たくもないし。

 

「なら、まあ、十中八九、『メシア教』なのだろうな」

 

『戦闘能力のある司祭』となると奴ら以外にない。普通の司祭は戦闘能力とかないからね、当たり前だけど。

 

「めしあ?」

 

知らない単語に首を傾げたウシワカへ、簡単に奴らのことを説明する。

 

メシア教とは、某一大宗教の一派にあたる組織である。

詳しい組織構造は俺も知らないが、構成員が大なり小なり戦闘能力を有しているのが特徴で、ほぼ全員が『狂信者』なのも特徴といえる。

とはいえ、一般人の間ではその存在は知られておらず仮に辿り着いたとしても無闇に情報を拡散しようとすれば漏れなく奴らに“消される”。

何を隠そう、彼らという組織は『秘密機関』も同様なのだ。

厳密にはその仕事内容たる『悪魔退治』が一般社会に秘密なのが原因であるが。

 

また、奴らの背後には『御使い』の存在がある。

御使いとは、そのままモノホンの天使さまのことである。

それも『御前天使』に数えられるような大物だ。

以上のことから、奴らに対して下手に手出しをすべきではないというのがサマナーたちの間で暗黙の了解と化している。

 

 

「……とまあ、変に敵対しなければ特に害もなく、破魔系アイテムも売ってくれるしビジネスパートナーにもなりうるがな」

 

もっとも、『市場』と比べてかなり割高料金だが。

 

「ふむ……主殿が仰るなら。しかし、あの男は“人ならぬ気配”を放っておりました。御用心を」

 

天使か? いや、天使にしては人間らしかったように見えたが。もしそうなら、吸血鬼くらい自分で討伐すればいいのにと思わなくもない。

そもそもの話、『身近な人が行方不明』とか『夜道を歩く青白い肌の人』とかボカした表現でこちらを誘い出した手口自体気に入らないが。

 

まあ、どうせこの依頼限りの関係だ、気にすることもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

対象の吸血鬼、ヴァンパイアは喫茶店のある街の居住区に邸宅を構えているらしい。

 

そうなると、自ずと見えてくるのは今回の依頼の『原因』。

 

聞くに、そのヴァンパイアは古くからこの街に住み着いていたらしいが俺はそんなの初耳だ。とすれば、そいつはこれまで目立った事件も起こさずに上手くやっていたのだと思う。

なら、今回のような被害が出たのは十中八九、“メシアン側からの攻撃によるもの”。

 

「つまり、奴らの尻拭いか。気に入らないな」

 

「……気乗りしないのであれば、今からでも依頼を取り消しては?」

 

タバコを咥えた俺にウシワカが進言する。

 

「先ほどから、なんだかイライラしておられるようですし。そのような状態で戦場に出ては御身を危険に晒すだけです」

 

ぐ、痛いとこ突いてくるじゃないか。というか相変わらず直線的な物言いをしてくれる。

だが、図星も図星なので一度深呼吸して精神を落ち着かせる。

我ながら子どもじみた駄々をこねてしまったと内心反省。

 

「悪い。もう大丈夫だ」

 

「……」

 

不審そうな視線を向けるウシワカだが、少ししてすっと目を伏せた。

 

「主殿が仰るならば」

 

「ふぅん、やけに素直じゃないか」

 

「言っても言うこと聞いてくれないじゃないですか」

 

まあな。というか、普段から割と自由奔放なお前には言われたくない。

 

 

 

大通りから路地を通って、迷路のような構造になった道を右折左折していくと。現代建築の新築が立ち並ぶ落ち着いた景観の中に、明らかに異様な姿を晒している洋館を見つけた。

 

近くに寄っていくと悪魔特有の『気配』のようなナニカが感じ取れる。

 

「ここのようだな」

 

アシヌス氏から貰った写真とも一致する外観。ここが件のヴァンパイアが潜伏する館らしい。

 

周囲に『探知の術』を掛けてみたが、特に『魔術()』の類は仕掛けられていないようだった。

 

なので遠慮なく不法侵入させてもらうことにする。

 

 

とはいえ正面から攻めるのは愚策も愚策なので、裏手に回り洋館に備えられた窓から死角となる位置より侵入する。

 

「私が先行しましょう」

 

そう言って高い塀をひとっ飛びで乗り越えたウシワカ。俺も負けじとジャンプで塀を乗り越えようとする、が。

 

「どわっ!?」

 

塀の端に足を引っ掛けてバランスを崩す、その勢いのまま地面に落下ーー

 

「おっと」

 

ーーしようとしたところをウシワカが抱きとめてくれた。

細身な少女にしっかりと抱き留められる成人男性の図は、我ながら羞恥を感じずにはいられなかった。

急いで自分の足で地面に立ち咳払いをする。

 

「……ありがとう、どうやら相当に鈍っていたらしい。以前ならこのようなことも無かったのだがな」

 

「構いませんとも、何かあればこのウシワカがご助力致しますゆえ」

 

くっ、その生暖かい視線を止めろ。

屈辱を感じながらも、努めて冷静に態勢を整えコソコソと手近にある窓の側まで移動。見たところ掛かられた鍵はごく一般的なもの、別段魔術の類も感知できなかった。

なので『魔術で解錠』する。

 

窓ガラスの表面に札を貼り、指先に灯した『魔力の火』によって呪文を書き込む。円状に書き込まれた呪文の中央へと人差し指と中指を当てて呟く。

 

「急急如律令」

 

その瞬間、札が淡く輝きカチャリと音がなった後に燃え尽きて消えた。

両開きの窓を開けて中を軽く確認。誰もいないことを確認して住居侵入する。

 

「器用ですね」

 

遅れて、やはりひとっ飛びで侵入してきたウシワカが楽しそうに声をかけてきた。

 

「小手先の手品みたいなものだ。……なんかやけに楽しそうだな」

 

「ふふふ、なんとなく、昔、悪戯していた時のことを思い出しまして。こういう『勤め』ならば今後も喜んで同行いたしますとも。

……ああ、いえ! 今は全力で自制しているので勤めはきちんと果たしますが!」

 

そうは言うものの、ニヤニヤしながら軽い足取りで部屋をスキップするウシワカを見て、少し気が抜けてしまった。

だが、久々の『本格的な討伐依頼』なので俺自身、緊張していたところがある。だから、このくらい気楽にやったほうがヘマをしないで済むのかもしれないと思った。

 

 

洋館内はやはりというか異界化していた。

 

ところで、異界化というのをもう少し詳しく説明しておくと。俺たち人間が普段生活している現実世界を表と捉えた場合に、裏に当たる世界が異界というもの。物質よりも『精神』に重きが置かれた世界、俗に言う『霊的世界』に近い。

本来ならば表の存在が裏と直接関わることはないものの、裏表である以上は何らかの影響を互いに及ぼし合っているのが現状である。この世ならざる存在である悪魔どもは当然裏の存在である。

それをひっくり返す、もとい裏側へと空間ごと引き摺り込んでしまうような悪魔、というのはそれ相応に強力な悪魔という理屈だ。

 

「……とはいえ、今更な話だが」

 

例によって拡張された空間内に広がる長大な廊下を進みながらこの前の廃寺のゾンビを思い返す。

普通はゾンビ如きが異界化などできるはずもないが、素体がサマナーであったが故に起きたイレギュラーだと俺は見ている。

……ただ、それでもゾンビが異界化を成したことや一度だけ放った強力な呪殺魔法には違和感を覚える。

 

もしかしたら、あの廃寺で“何かの儀式”を行って、その結果、ゾンビとなり異界化を起こした、とか。

 

「考えすぎか」

 

とはいえ、やはりあの廃寺は早々に綺麗にしておくべきだと思い帰ったら一度、協会に打診することを決めた。

 

 

 

「静かですね」

 

しばらく、廊下を進み、時に右折、階段を登ったりしたものの。一向に悪魔の現れる様子はなかった。

こちらは楽でいいが、些か気になる。

 

「……あるいは、元魔術師か?」

 

対象のヴァンパイアは、昭和中期にこの街に住み着いたらしい。ちょうど戦後間もない時期だ。

それ以後の詳しい情報は、残念ながらアシヌス氏から受け取ることが出来なかった。

もしくは隠しているのかもしれないが。

 

「これだからメシアンは信用できん」

 

「……主殿、本当にその“メシア教”とやらが嫌いなのですね」

 

ちょっと呆れ気味なウシワカが言う。

 

「……好き嫌いは個々人による。俺の場合は奴らというだけの話さ」

 

「失礼、主殿に対してあまりに不躾な質問でした」

 

こちらを見て、一転真剣な顔になり粛々と頭を下げたウシワカ。

……もしかして顔に出ていただろうか。

 

気にするな、と告げて俺も館の探索に集中することにした。

 

 

 

しばらく歩いて、ふと気がついたことがあった。

 

見覚えのある調度品、廊下、階段。そして壁の“傷”。

全て、確かに通り過ぎたモノ。

つまり、“ループ”しているという事実だ。

 

加えて、ループの可能性を考慮すると自ずと気付くのは廊下に飾られた調度品の正体。

 

「吸血鬼が聖母像を飾るはずもないな」

 

腰の高さにある棚に置かれた小さな聖母像。白亜の肌には傷一つなく、よく見ると『不自然なくらい綺麗』なことが分かる。

 

徐に像へと二本指を突き立てた俺は、例によって魔力の火を用いスラスラと呪文を刻む。

西洋魔術と神道系魔術を混ぜたような呪文の羅列に指を押し当てたまま、急急如律令と呟く。

 

すると、一瞬の輝きの後に白い聖母の姿は掻き消え、代わりに“禍々しい黒色を纏ったバフォメットの像”が現れた。

つまり、簡易な偽装魔術によってカモフラージュされていたのである。

これを剥がしてみると、像の内側から絶えず魔力が放たれているのが認識できた。

 

「オリジナル……自作の品か」

 

ただのループ発生機能しか持たない品だが、これを自作したとなるとやはり件のヴァンパイアは“元魔術師”である可能性が高い。

生粋のヴァンパイアは自ら作ることもなく、金にあかせて『製品版』を購入しているからだ。

 

 

ともあれ、これ以上時間を浪費するつもりはないので愛刀の一太刀によって即座に像を破壊。

 

その瞬間、ぐにゃりと空間が歪み、やがて元に戻る。

一見して先ほどと変わらないが、像を破壊する前に感じていた“嫌な魔力”は綺麗さっぱり消えていた。

 

「これでループ空間は解除できた。ここからは地下に向かう」

 

「地下ですか?」

 

はて、と首を傾げるウシワカ。

 

「敵はおそらく元魔術師、となればその本拠たる『工房』は地下に作るのが常だ」

 

ヴァンパイアでなくとも、魔術師を“討伐”する際にはもはや常識と言ってもいい事柄。しかし、日本生まれとはいえ、西洋魔術が盛んではない時代を生きたウシワカには馴染みのない概念だったらしい。

 

「ふむ、異国の妖術師は地下に篭るものなのですね」

 

「ああ、九割方その傾向にある。だから建物の上を目指しても意味がない」

 

しかし、ここまで屋敷を見て回って上への階段は幾つか見つけたが、階下への階段は一つも見当たらなかった。

 

「まあ、魔術師の工房とは“秘匿されるもの”らしいからそう易々と見つけられた試しがないがな」

 

これまでも魔術師ないし元魔術師の拠点への潜入を必要とする依頼は多々こなしてきた。

なので、こういう場合の対処法。つまり、“隠し通路を設置する傾向にある場所”というのはなんとなく分かる。

 

加えて、いくら異界化しているとはいえ“異界化の主”の元へと続く道は必ず存在する。それは“物質的、霊的問わず”。

そうしないと今度は主本人が異界から抜け出せないから。

 

つまり、たとえ“モグラの掘ったトンネル”みたいな通路であろうと絶対に道は存在している。

 

 

ひとまずは“物質的隠し通路”を探そうと思い、再び屋敷内を探索。

通路、書斎などめぼしい場所をピックアップして調査する。

 

その結果、書斎に並べられた本棚の一部分から“特異な魔力の流れ”が出ているのに気がついた。

一見して普通の本棚と本。加えて物理的にもその奥にスペースが存在する様子はない。

おそらくは、先のバフォメット像同様に何らかの魔術でカモフラージュしていると思われた。

 

「ビンゴ、やっぱり隠し通路といえば本棚だよな」

 

言いつつ、見つけた怪しい場所に“解析の魔術”をかける。

魔術師としては三流の腕しか持たない俺だが、“大まかな構造と原理”を見つけることができれば後は“力尽くでこじ開ける”。

 

数分の解析の結果、掛けられた魔術の『起点』を見つけた俺は、そこ目掛けて再び愛刀を振るう。

 

 

パキン、という奇妙な音が聞こえた後、目の前の本棚はゆらゆらとまるで蜃気楼のように揺らめき。すぅ、と消えてしまった。

消えた跡には、地下へと続く階段。内部は薄闇に包まれ壁に配置された蝋燭の火で辛うじて視界を確保できる有様であった。

 

「お見事です、主殿!」

 

「俺ではなく、この刀が優秀なだけだ」

 

俺の愛刀、『錬刀・赤口葛葉』。

かつて、『葛葉』の継承者の一人が使っていたという対魔性能を備えた業物……のレプリカである。

複製品ではあるものの、オリジナルが備えた『強力な祓魔性能』はほぼ完璧に再現されており、俺が受領する依頼くらいならばこれで事足りる。

 

「その刀、相当な業物と見受けられます。ともすれば、我が薄緑に比肩するものかと」

 

武士としての感性からか目敏く俺の刀を賞賛するウシワカだが、さすがに薄緑と比較してしまうと質はだいぶ落ちると思う。

オリジナルは見たことがないので知らないが、レプリカを鍛えた“イッポンダタラ”の言を信じるなら九割方性能は再現できているらしいというし、ここは素直に賞賛を受け取るべきか。

 

 

 

 

 

 

 

隠し通路内は薄暗くはあるが、それなりの広さを持った余裕ある空間が続いていた。

入り口であった螺旋階段をしばらく下り、現れたのは石壁からなる広々とした空間。

目の前には大きな石扉が悠然と佇んでいる。

 

すかさずCOMPを操作して、周囲の索敵を行うがこれといって反応はない。

次に扉の向こうへと索敵を行う。

 

「……面倒だな」

 

「どうかしましたか?」

 

「対象の反応は見つけたんだが、その周囲に複数の『人間の反応』がある。おそらくは誘拐されてきた人間だろうが……」

 

反応が“普通ではない”。端的に言えば“悪魔反応と人間の反応を交互に出している”。

十中八九、吸血され尚且つ『眷属化が進んでいる』。

 

ここでいう眷属とは、当然、ヴァンパイアの眷属という意味だ。

多くのフィクションで示されるように、ヴァンパイアというのは吸血によって人間を自分の眷属、つまり従順な下僕にすることができる。

力の弱いヴァンパイアならば、吸血対象が軒並み『なり損ない』に変貌してしまうが、一定以上の力あるヴァンパイアになると“理性を保った眷属を任意で作り出すことができる”。

 

COMPに表示されている『討伐対象』の反応からして、おそらく後者。

 

「つまり、中の人間は敵の下僕になっている可能性が高い」

 

そうなると面倒この上ない。討伐対象との戦闘を邪魔される恐れがあるからだ。

加えて、今の揺らいでいる状態では“どっち”か分からない。

もしくは、戦闘中に眷属として覚醒してしまう可能性がある。

 

「纏めて屠ればいいのでは?」

 

さらっと恐ろしいことを、真顔で言い放つウシワカ。

いや、まあ、そうなんだけどさ。

 

「それは……さすがに後味悪いだろ」

 

「これは“戦い”です。私情に流されるべきではないかと」

 

黒髪ポニテスポーツ系美少女なウシワカだが、これでも武士だ。さらには『天才』と称えられたあの義経。

慣れた様子でこちらを諭してくる。

 

「分かってる。俺だって、受けた依頼ならば“人間でも殺す”。でも今回、人間の殺害は依頼されていない」

 

「ですが相手が人間である保証はない」

 

減らず口を……。だが、彼女の言い分も分からなくはない、というか彼女の方が正しい。それは頭でも理解している。

 

しかしーー

 

「……もし、この人間たちが“美少女ないし美女”であった場合を考えるとだな」

 

何の気なしに発した反論、しかし次の瞬間にはウシワカから“冷たい視線”を送られることになった。

 

底冷えするような冷たい目、それら二つともが俺をジッと見つめる。

 

「な、なんだその目は!?」

 

「……いえ、少々、残念だな、と思っただけです」

 

「何が!?」

 

「頭です」

 

 

その後、数分ほどしょうもない口論を繰り返したところで、ふと我に返った。

 

 

「……なんでこんなしょーもないことで時間を浪費してるんだ俺」

 

「その言葉、主殿にお返しします」

 

頑として考えを譲らないウシワカは、憮然とした態度で告げてきた。

基本的には従順な彼女であるが、時折頑固で融通の利かない一面を見せることがあり、今回も何やら彼女の譲れない部分に触れてしまったらしい。

たぶんに“戦術家”としての部分だろうが。

 

とはいえ、こうして反抗してくれることに“安心”する自分がいる。

なにせ、日常面からなにかと世話を掛けているのだ。偶に文句や説教はあれどそれらを拒否することはない。

だから、反抗するということは彼女にも確かに“確固たる意思”があるのだと。ただ命令に従うだけの存在ではない、と証明してくれるのは素直に安堵を抱かせる出来事であった。

 

「それに、これは御身を思えばこその諫言。迷いは命取りとなりますゆえ」

 

「あーあーわかった、わかったよ」

 

「ご理解いただけたようで……ウシワカは嬉しいです」

 

「ならこうしよう。

部屋に入って、もし中の人間が男ならウシワカの言葉に従う。だがもし女の子なら……俺の命令に従ってもらう」

 

「こ、この期に及んで!?

見損ないましたよ、主殿!!」

 

「見損なってもらって結構、さあ行くぞ」

 

有無を言わせずしてズカズカと石扉まで向かう俺。

 

「見損なっても、私は主殿に付いていきますから!」

 

そう言って足早に隣まで追いついてくるウシワカ。

……その言葉がちょっと嬉しかったのは秘密である。

 

 

 

 

 

石扉を解析……魔術の類は無し。

次いで扉周囲を探知……同じく無し。

 

意を決して扉を押し開く。

 

ギギギ、と年代モノの音を立てながらゆっくりと開かれた扉の向こうには、やはり石壁で作られた広い空間。ただし中には魔術用の道具と思しき物体が雑多に置かれ、その一角には牢屋のような部屋が見受けられた。

 

その中にいたのはーー

 

 

 

「……ふっ、今回は俺の命令に従ってもらうぞ」

 

「くっ……こうなれば最早何も言いますまい。私はこれまで通り主殿の安全を優先して動きますので」

 

やけくそ気味に言い放つウシワカを尻目に、俺は部屋の奥にて揺れ動く人影に目を向けた。

 

「おお……狂信者どもめ! 我が研鑽、我が叡智を簒奪するに飽き足らず。我が財産すら奪おうというか!

おお……おおっ! 許さぬ、おお……神よ!」

 

貴族風の衣装に身を包んだ美男子。しかし、その白髪と青白い肌、なによりも口の端から覗く鋭い犬歯からしてこいつが対象のヴァンパイアであるのは明らかであった。

 

どうやら、すでに戦闘を行った後のようで身体の至るところに深い傷を作って尚且つヴァンパイア由来の“自己修復”がなされている真っ最中であった。有り体にグロい。

たぶん、相手はメシアンなのだろうが。

 

対象との距離は数十メートル、こと戦闘においてはさしたる意味を持たない、つまりは接近状態である。

 

俺はホルスターから拳銃を抜き構えながらウシワカに指示を出す。

 

「見たところ、人質たちは“まだ”人間、牢屋内にいるなら邪魔される心配もない。

対して討伐対象は手負いだ、ここで一気に決めるぞ」

 

「承知」

 

返答と共に、弾丸の如き速さで敵に突っ込むウシワカ。まだ“行け”の指示も出していないのだが大体いつもの通りなので気にしないし予測の範疇である。

 

「偽神の傀儡どもめ……その身の一片まで喰らい尽くしてくれる!」

 

傷のせいか、激昂状態にあるヴァンパイアは俺たちをメシアンと勘違いしながらも、鮮血滴る肉体を奮って襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 




工房ギミックはすでにメシアンに突破されてます。
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