英傑召喚師   作:蒼天伍号

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皆さま、ご機嫌麗しゅう……

約ひと月ぶりとなりますが。
こちらを献上いたします……どうかお納めください。




黒大蛇

初めに認識したのは“胎動”。

 

倒れ伏していたサブロウの肉体が、黒々と変色していくに伴い次第に音量を増していくソレは、彼の身体から“ナニカ”が生まれる前兆に思えた。

 

「チヨメちゃん、退がって!!」

 

慌てて声をかけ、彼女がすぐに後退したのを確認してから。自分もサブロウから大きく距離を取った。

 

抜剣状態にある関係か、これから何か“良くない事が起きる”という確信にも似た予感があった。

 

 

 

――次に、サブロウの身体が黒々とした“球体”へと膨張した。

 

真っ黒になったサブロウの肉体が膨れ上がるようにして変体した球体は、変わらず胎動を響かせながら更に膨張する。

 

 

 

――やがて、爆ぜるようにして内部から“長大な影”が飛び出した。

 

辺りに黒い“泥”のようなものを撒き散らしながら現れた影は、天を衝くばかりに空へと昇り。ゆっくりと、こちらへ頭を向けた。

見下ろすその巨大な頭部を視認して初めて、その影の正体を理解する。

 

 

「大蛇……!!」

 

紅い瞳を爛々と輝かせながら黒き大蛇は舌先を出し入れする。

とぐろを巻いた状態でさえ屹立した大蛇は、大國の座す建物を上回る高さを持つ。

必然、その全長は途方もなく。幅だけでも俺の身長を超えていた。

まさしく大蛇と呼ぶに相応しい巨躯。

 

ソレを目にして、流石に俺も僅かながら呆気にとられた。

だがすぐに我に返り剣を構えた。

 

「構成情報解析…………ああ、やっぱり。

コイツは()だ」

 

ヒノカグツチの標準機能、相手が神か否かを判断する機能で黒い大蛇を解析したところ。見事に“神”、龍神であるとの結果が出た。

であるならば、まだヒノカグツチを使うことができる。

 

「サブロウが変体したってことは、コイツは諏訪大明神か? ……いや、そんなのはどうでもいいか」

 

コイツが“禍々しい邪気”を放つ以上は放っておくことはできまい。この様子では意思疎通も難しいだろう。

倒すしかない。

 

……だが、俺でも分かるくらいに()()()()()()()()()()()

前のサブロウ相手でも苦戦していた俺が、果たして勝てるだろうか?

 

「いや……勝てるかじゃない。勝つんだ」

 

今、基地内にはサブロウのほかにもあの兵隊たちや聖槍騎士団とやらがいる。基地の連中は奴らへの対処で手一杯だろう。リンも騎士団を狙いに行った以上はこちらへ加勢する余裕があるとも思えない。

仲魔たちも白い機械騎士の相手がある。

 

ここは、俺が踏ん張るしかない。

 

「……ああ、やってやる。いつまでも弱気のままでいるつもりはないからな」

 

幸い、サブロウとの戦闘による“昂り”は未だ冷めていない。

何より、コイツを倒せれば、俺はまた()()()()()()を取り戻せそうな気がする。

そう考えれば、相手にとって不足はない。

 

「来いよ、俺が相手だ」

 

剣を向けて告げる。挑発ではない、“自らを鼓舞する”ために強い言葉を使う。

 

その敵意に反応したのか、沈黙を保っていた大蛇は大口を開けて猛々しく吠え盛った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

――黒い大蛇の出現に伴い、基地内は混乱状態にあった。

 

()()()()()()()()()()退()により俄かに戦勝ムードに包まれ始めていた基地内に、突如として屹立した黒い影。

基地を一望するほどの巨躯を目視した隊員たちは驚愕し恐怖した。

その巨大さだけではない、大蛇から放たれる濃密な“邪気”に当てられたが故の反応だ。

 

聖槍騎士団が撤退した影響でCOMPの機能が回復していた彼らは急ぎ仲魔の召喚を。司令部に詰める後方支援組は大蛇の解析を急いだ。

 

 

 

慌ただしく動く部下たち。無論、大國も大蛇の出現を認識していた。

 

 

「黒い大蛇だと……?」

 

窓越しに大蛇を見て呟く。その声は相変わらず厳かであったがわずかに驚きの色が含まれていた。

 

()め、厄介な置き土産を……」

 

次いで、僅かな怒気を込めて呟いた言葉はこの場にいない者に向けられていた。

 

「如何なさいますか?」

 

冷静に問い掛ける細川に、大國も冷静に返す。

 

「アレが情報にあったサブロウならば、隊員たちではまず()()()()だろう。T19でも()()()()()()勝てまい」

 

現在基地に詰めている隊員は全て“予備”だ。

本隊含めた主力部隊が遠征を行なっているために、最低限の防衛力として配備されているに過ぎない者たちだ。

T19は未だ開発途上であり先の戦闘でも騎士団一人討ち取れていない。まだまだ改善の余地がある。

その他諸々を鑑みて、大國はすぐに次善策を講じる。

 

「……故に、“討伐隊”へ援軍要請を出す」

 

討伐隊。

かつて()()()()()と呼ばれた者たちは、前大臣が起こした事件によって壊滅的打撃を受け同時に後ろ盾を失った。

そこに目をつけた大國はすぐさま彼らを保護、援助の見返りとして条件付きで傘下に置くことに成功していた。

 

悪魔討伐隊が結成された2010年代は、急激に増加した悪魔被害に対応すべく各国が対悪魔技術を発展させた時期だ。

過去に“南極事変”を経験していた国連の動きは早く、各国単位での対応も素早かった。

日本もその例に漏れず、米国より譲り受けた“新デモニカスーツ”の配備と。デモニカに搭載された機能・技術の解析や応用が瞬く間に進んでいた。

 

それら最新の対悪魔技術を結集して創設されたのが悪魔討伐隊。

対悪魔に特化した政府の……いや、防衛大臣直下の私兵団。

デモニカがかつての“黒いドーム”で手に入れた“未知の召喚プログラム”と、葛葉を代表するデビルサマナーたちが用いてきた召喚プログラムを融合させ生まれた新たな召喚プログラム。

リンこと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が開発したプログラムが登場するまでは最新型として前線を張っていたプログラムだ。

 

これにより召喚師としての運用が可能になった討伐隊員たちは、対悪魔戦において比類なき戦果を挙げ、当時の政府高官からの信頼も厚かった。

 

……だが、その栄光も前大臣の暴走によって呆気なく終わったわけだが。

 

 

ともかく。

現在の悪魔討伐隊は大國大臣旗下の対悪魔部隊として援助を受ける立場にあり、無茶振り以外であれば従う存在だった。

だからこそ大國はすぐさま彼らを呼ぶことを選んだ。

()()()()()()()()()()()()()代わりとして討伐隊は非常に貴重な存在であり今回のサブロウに対してもちょうど良い戦力と見立てていた。

 

「討伐隊は今は横浜に出向中です。到着には今しばらく掛かると思われますが」

 

「構わん。どうせ“保険”だ。本命は我が隊員と――」

 

言葉の途中でちらり、と窓の外へ視線を移す。

 

「“あのデビルサマナー”だ」

 

その目には、先行してサブロウと交戦する“奧山秀雄”が映る。

 

「英傑などという珍妙な悪魔を従える男……なんでも奥山の魔剣だとか。同時に、()()が棄てた()()()とも」

 

奥山の失敗作。その情報は旧知の者から()()()()()()()()()()()()

かつては()()()()()()()()()()()()()ことも。

奥山を脱し、“人類最強”に引き取られたことも。

フリーのサマナーとして数々の功績を上げたことも。

そして――

 

 

――恋人を失って大きく力を落としたことも。

 

無論、詳しいことは知らないし知る気もない。しかし結果だけならば容易に入手できるのが大國のいる立場だ。

 

「さて、どこまで出来るものかな。願わくば、()()()使()を討ち取った時の力を発揮して欲しいものだが」

 

――最悪、()()()()()()()()()()()()

後詰めには悪魔討伐隊がいるし、本格的に()()()()()が迫れば自分たちが出張る。

二重、三重で対処を講じた策に隙はなく、大國も絶対の自信を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「ヒノカグツチ!」

 

真名を叫ぶことで、言霊を乗せることで魔剣の斬れ味は多少はマシになる。

巨大で長大な身体をくねらせて体当たりを仕掛けてくる大蛇を躱し、その身体に飛び乗って一気に頭部へ駆け上がる。

そして一閃。

 

「グギィィィ!!!!」

 

神性特効の乗った斬撃を受け、痛みから大蛇は頭部を振り回す。

 

が。

 

 

「っ、ウソだろ!?」

 

一瞬で落ち着きを取り戻してすぐさま“黒い吐息”をこちらへ見舞ってきた。

慌てて奴の身体を蹴飛ばして避けた後、対象を失った吐息がぶつかった地面の一部が煙を上げて溶け消えた。

酸ではない、溶けた地面に残る“残穢”を感じ取ってすぐに理解する。

 

アレは()()だ。

犬神が権現形態で使用する“口からビーム”と同種の御業。死と滅びの呪詛を極限まで濃縮し、放たれる悍ましき“呪殺属性”の攻撃だ。

 

あんなの喰らえばひとたまりも無い、というか今の俺では一瞬で溶ける。

 

注意せねば、と警戒を強めた途端。

 

「くっ!」

 

黒大蛇の巨躯から夥しい数の“黒い光線”が放たれた。

死ぬ気で躱して、避けきれないものをヒノカグツチで斬り払うことでなんとかやり過ごす。

 

しかし。

 

 

「あ、あぎゃあっ!」

 

「ぐげぇっ!」

 

運悪く何本かの光線が近場にいた隊員たちにぶつかり、そのまま()()()()()()()()()()()()()

徐々に、ではない、一瞬で跡形もなく溶かしてしまった。

 

つまり、あの無数の光線一本一本が先の吐息と同等の性質を持つ“呪殺系スキル”ということ。

 

おまけに――

 

 

「シャァァァ!!」

 

鳴き声を上げながら鱗より“黒い霧”を放ち始める。

今度は人にこそ当たらなかったものの、近くの建物が触れた先から腐食して崩れていく。

その光景に、もはや説明も必要ないほど霧の性質を確信するも。いつの間にか使用可能になっていたCOMPを用いて一応解析を試みる。

 

広域呪殺魔法(マハムド)級の霧か……厄介だな」

 

やはり呪殺系スキル。しかも、奴の巨躯から放たれる所為でかなり広範囲が既に霧で汚染されている。

これではヒノカグツチの斬撃を見舞うことが出来ない。

 

「一応、“遠距離攻撃”が無いわけではないが……」

 

今のサブロウに効く威力があるかと言われると答えに窮する。おまけに消費も激しいので連発は不可能だ。

ならば魔法か銃しか無いわけだが。

 

魔法は当然、コスパが悪すぎるので無理。銃においても、俺が持ってきている低威力の属性弾では効きそうにない。

 

さて、どうしたものか。

 

 

 

 

――俺が対処法を失い手を拱いている間、基地の隊員たちが続々と集まりそれぞれに攻撃を始めた。

 

一瞬、敵わないから逃げろ、と叫びそうになったが。彼らの携える武器、行使する魔法を目にして閉口した。

 

 

「撃ち方、はじめぇぇぇ!!」

 

隊長らしき人物の声に従って、数人の隊員たちが担いだロケットランチャーの引き金を引いた。

放たれた弾頭は一直線に大蛇へと向かい――

 

 

「っ、なに!?」

 

黒い霧に触れたところで爆発してしまった。

その光景に隊長と思しき男が驚きを声に出す。

 

だが、それで終わりではなかった。

 

 

続けて、別部隊がCOMPを操作しながら魔法陣を展開する。

そこから現れるのは彼らの仲魔、悪魔たちだ。

どれも下級ではあるが、中には強力な霊力を発する個体も混じっている。

 

それら全ての悪魔、そして魔法を使えるサマナーたちが一斉に魔法を放った。

 

 

「グギィィィィィ!!!?」

 

アギ、ブフ、ザン、ジオ。主要四属性の魔法に加えてコウハなどの破魔系。ごく僅かながらサイ、グライやフレイという希少属性による魔法も見受けられる魔法の群れが大蛇へと向かい、炸裂する。

あらゆる属性が混ぜこぜになった攻撃は、天変地異とも見紛う凄まじい威力と衝撃を生じさせた。

 

大蛇から離れた位置にいる俺でも踏ん張っていなければ吹き飛ばされそうな爆風が吹き荒れている。

 

 

 

やがて。

炸裂が終わり、もくもくと立ち上っていた白煙も晴れる。

 

そこには健在の黒大蛇が悠然ととぐろを巻いて、隊員たちを見下ろしていた。

身体には傷一つ見当たらない。

 

 

「そんな……」

 

魔法を放った隊員の一人がそう呟いて、がくりと膝をついた。

見ればほかの隊員たちも皆一様に、絶望感の滲み出る表情で立ち尽くしている。

 

 

これは完全に火力不足だ。

 

魔法攻撃というのは、単純な魔力量によって威力が軽減されてしまう。

もともと霊格やら何やらで防御力が加算される“摂理”にある中で、上述の通り己よりも高い魔力を持つ相手には更に威力が減衰してしまうのだ。

つまり、サブロウ……もとい黒大蛇の保有魔力量が尋常ではなく多いがために、隊員やその仲魔たちの魔力では歯が立たないということ。

 

俺自身、身に覚えがある“地力の差”というやつだ。

 

 

攻撃を立て続けに受けた黒大蛇は、当然のように隊員たちをその紅い双眸で見据えており、次なる標的に選んでいるのは明らかだった。

 

「クソ……まあ、目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いしな!」

 

圧倒的な戦力差にすっかり戦意を失っている隊員たちは無防備、対して黒大蛇は意気揚々に大口を開けて呪詛に相当するエネルギーを充填している。

そんな光景を見せられてはジッとしているわけにもいかず。俺は悪態を吐きながら銃を乱射し奴の注意を引き付ける。

 

隊員たちの猛攻撃によって黒霧は晴れており、今ならば奴の胴体に直接攻撃を加えることが可能だ。

加えて、接近戦も行える。

 

厄介なのは、再び黒霧を出されることだが。その点については、先の時点で既に予備動作は記憶したし、それをヒノカグツチの“演算”に回せばより確実に躱すことが可能だろう。

……問題は、ヒノカグツチを稼働し続けるための俺のエネルギーが枯渇しかけていること。

 

とはいえ、贅沢は言ってられない。

 

「俺が抑える! 遠方から援護してくれ!!」

 

短く、簡潔に指示を出す。

そしてほかの思考全てを黒大蛇との戦闘へと回した。

 

隊員たちを庇うように前へ出て、大口を開けて佇む黒大蛇の土手っ腹へと渾身の突きを放った。

 

「っ、グギャァァァ!!」

 

グニャリ、と長大な蛇体がしなるほどの威力を受けて、さしもの大蛇も攻撃動作を中断して苦しげに呻く。

口に溜まっていたエネルギーはボフン! と音を立てて霧散し、代わりに怒りに満ちた双眸を素早く俺へ移す。

相変わらず動きが速すぎる。

素体がサブロウであるが故だろうか?

 

「ああ、チクショウ! 俺だって死にたくねぇんだがなぁ!!」

 

半ばヤケクソ気味に叫び、それでいて奴との戦闘に全神経を集中させて途絶えさせない。

噛み付き、毒霧、体当たり。巨体からは予想できないほどの素早い動作で猛攻を加えてくる黒大蛇をなんとか躱しながら、こちらもヒノカグツチを振るい続ける。

 

……いやしかし、なにが悲しくて他人のためにこうも命を掛けて戦っているのだろうか。

心の底では「隊員(奴ら)を囮にしろ」という想いがジワジワと湧き上がっている。

 

前までの俺なら喜んでそうしている。

しかし、今は違う。

 

ウシワカとの出会いをきっかけに。廃寺での戦いを支えに。

チヨメちゃんの覚悟を勇気に。

チヨメちゃんの戦いぶりを見て、俺は――

 

「ああ……もう少しなんだ。もう少しで――」

 

――思い出そうとしている。

 

かつての記憶。未だ()()が健在であった頃の、全盛期とも言える輝かしい日々の記憶、その頃たしかに胸に抱いていた()()()()想い。

 

ハトホル、ブリギット、ハヌマーン、タケミカヅチ。

そして、()()()()

今はもういない彼女たちとの絆、彼女たちと一緒に戦う中で固められた決意。デビルサマナーとなった俺が、()()()()()()という根本、原理。

 

()()()アイと名付けた彼女が与えてくれた“愛”を基に、彼女が持っていた“博愛”を骨子として俺が肉付けした“信念”。

 

“誰かが愛しい”と思うからこそ生まれる“守りたい”という想いを。

俺たち()()()()()()、ほかの全ての“愛に生きる者たち”へと向けた壮大にして純粋な想い。

 

聞けば誰もが笑うだろう、幼稚だと。夢想だと。絵空事、或いは偽善と罵る者も。

そんなのは俺だって……()()()だって分かっていた。

 

でも、だからって。

 

()()()()()()()()()()()()

諦める理由にはならないのだから。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

――と。記憶では、頭では分かっているのだ。

 

だが、()()()()()()()()()()

 

思い出せない、気付けない、理解できない、納得できない、想起できない。

あの頃、あの時。彼女と共に誓った俺たちの願いを――

 

 

 

――どうしても思い出せなかった。

 

 





【あとがき】
気付けばウシワカ編より長引いた二章……流石に長過ぎると思った今日この頃。
巻きで行きます(二回目

でも、大事なところは外せないのでもう数話お付き合いくだされば幸いです。


あと、全然関係ないけど『ひぐらし卒』始まりましたね。毎週楽しみです(本当に全く本編に関係ない
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