英傑召喚師   作:蒼天伍号

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妖スロちゃんカッコ可愛い。
もうね……チョー可愛い(語彙
私はね、二股眉に目がないんですよ。ドロシー・カタロニアとか。

妖スロちゃん、結婚しよう。




討滅戦

「お館様っ!!」

 

叫ぶ。

遠方にて黒大蛇と激闘を続ける我が主を。

その背はやはり“頼もしく”、サブロウと戦っていた時と同じく非常に高い霊力を感じる。

 

だが。

だからとて。

 

「拙者を置いて、行かれるな……!」

 

あの黒大蛇が飛び出す直前、お館様が叫ばれた言の葉に反射的に従ってしまい、後方へと退がってすぐ。

飛び出た黒大蛇との戦いを始めてしまった。

 

途中、基地の“兵”たちが援護に入るも、すぐにお館様が前線に立ち剣を振るうに戻る。

 

 

それら一連の動きは、どう見ても、明らかに、もしかして――

 

「――もしかしなくても、拙者たちを遠ざけている?」

 

拙者やウシワカ殿、オサキ殿はもとより。

あの兵たちをも庇うようにして、()()()で戦うおつもりだ。

現に、兵たちには飛び道具による援護しか許さず。彼らに大蛇の目が行きそうになれば己が身を以て注意を引き付ける。

そうして兵たちの絶えず大蛇に放たれ、“妖術”を操る兵たちの援護も加わる。

やがては、あの“絡繰”たちも援護に参加して戦いは激しさを増していく。

 

 

……だが、それでもまだ黒大蛇は倒れない。寧ろ刺激されて活きいきとしているように見えた。

 

それよりなにより。

 

「お一人で……倒すつもりにござるか」

 

お館様は()()だ。

援護はあっても、()()戦う者は……戦える者はおらず。お一人で身体を張っておられる。

 

なぜ、そうまでして――

 

 

 

()()()()()()()()()()ようなお館様の行動が理解できず、さりとて、今の拙者がお館様の助けになれることもなし。

「早く、お館様のもとへ」その想いとは裏腹に、足手纏いにしかならない現状が歯痒く。

己の未熟に悔しさを滲ませていたところ――

 

 

「おい、今、アイツはどうなっておる!?」

 

オサキ殿の声が耳をついた。

すぐに振り向けば、小さな足を忙しなく動かして必死にこちらに駆け寄るオサキ殿の姿。

傍にはウシワカ殿の姿も。

 

「オサキ殿! お館様は今、サブロウが変じた大蛇と交戦中にござる! ただしお一人にて!」

 

なるべく簡潔に、すぐにお館様の窮状を伝える。

己では力になれぬが、オサキ殿、ウシワカ殿であれば。

 

「むむぅ……あの真っ黒な蛇、涅槃台よりも強いぞ」

 

拙者の言葉を受けてすぐ大蛇を見据えたオサキ殿は、苦々しい顔で顎を撫でた。

ねはんだい、とやらが何かは存ぜぬが――

 

「そうなのです! 前のサブロウでさえ拙者では太刀打ちできずにいたというのに、あの黒大蛇へと変じてよりは更に力を増している模様にて。

 

ですので! 何卒、お館様の援護を!」

 

必死に頼む。己にはそうすることしかできないから。

――せめて、戦う以外のことで精一杯お役に立ちたい。

 

こうべを垂れて、額を地に擦り付けんとした拙者を手で制して、オサキ殿はゆっくり口を開いた。

 

「まあ待て。

……お主はどうするつもりじゃ?」

 

「え?」

 

想定していなかった問い掛けに、一瞬言葉に詰まる。

己の不出来に羞恥を感じながらも素直に心のうちを述べた。

 

「拙者は……ここに残りまする。最早、あのような超常の戦いについて行けるほど、拙者は強くありませぬ故。面目次第もござらん……」

 

「なに……?」

 

しかしオサキ殿は不機嫌そうな表情で声を一段、低くした。

反射的にびくり、と身を震わせてしまうが己の本心を偽るつもりはないので続けて言葉を吐く。

 

「せ、拙者は。拙者では、足手纏いになるでござる……それに。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――」

 

そう呟いた直後、否、瞬間。

 

――鋭い平手打ちが拙者の頬を打ち据えた。

 

「え……?」

 

突然の出来事に、なにをされたのかしばらく理解できずに惚けた声を出してしまう。

 

「たわけ! そんなはずがあるか!」

 

オサキ殿は目を吊り上げて大声で正面から否定なされた。

唐突に平手打ちをして、理由も告げずに声を荒げる彼女に、流石の()もつい頭に血が昇る。

 

「な、なにを根拠にそのようなことを……!! 拙者が弱いのは貴女とて理解しておられるはずだ! お館様は私に退がれと命じられたのだ!

現に、お館様は()()()()()()()()()()()()()! 

それは貴女方とて同じでしょう!?」

 

「……」

 

オサキ殿は“怖い顔”のままに何も仰らない。

ほら、やっぱり図星なのだ。

 

「私が弱いから……弱いから()()()()()()()()()のです。それは自分が一番わかっているから……だから……」

 

退がれ、と命じたきり、彼は何も命令してくれない。反対に大蛇を遠ざけようとなさっている。

それはきっと、“守ろう”という意思のもとにある行動なのだろうが。そのような行動をとらせてしまっているのは“己の弱さ”だ。

 

そう理解するからこそ悔しくて涙が出てくる。

忍びとしての己ではない。盛時様の伴侶でもない。

生前にはなかった()()たる主の側で共に強大な妖変化と死闘を繰り広げる今の役目が、こんなにも過酷で苛烈とは思わなかった。

こんなにも、力不足とは思わなかったのだ。

 

「……たわけっ!!」

 

「へぶっ!?」

 

涙ながらに心情を吐露した自分に、オサキ殿は憮然とした態度で二度目の平手打ちを放った。

一撃目よりも威力があったがために、地面に倒れ込む。

 

「に、二度もぶった……!?」

 

言少なに平手打ちのみを放つオサキ殿に、思わず抗議する。

 

「なんじゃ! 親父にもぶたれたことがない、とでも宣う気か!」

 

「???(何を言ってるのかさっぱりわからない、という顔)」

 

「……しかし。最初に会った時は存外図太い女子かと思うておったが。

あれじゃな、お主――

 

 

――結構、めんどくさい女じゃな!」

 

「めんど……!?」

 

いきなりの平手打ちからこの罵倒……オサキ殿は私が嫌いなのだろうか。

そして……これは、あれではなかろうか?

“ぱわはら”とかいうやつで、現代では忌み嫌われる行いなのではなかろうか??

 

「面倒くさい男と面倒くさい女を二人っきりにすると、こんなに面倒くさいことになるんじゃな……ワシ、一つ大事なことを学んだ気がするぞ」

 

「さっきから何を訳の分からないことを……!」

 

平手打ちの衝撃から立ち直った私は、すぐに抗議の声を上げた。しかしオサキ殿は一転して神妙な顔になって、諭すような口調で語り始めた。

 

「さっき、アイツに『あてにされていない』などと言っておったが。それを直接、アイツに言われたのか?」

 

「それは……」

 

聞いては、いない。しかし状況から見て、これまでの私の不甲斐なさを鑑みれば答えは明らかで――

 

 

「言われてないのなら違うと思うぞ。いや、絶対にお主は()()()しておる」

 

「勘違い?」

 

「アイツはな、()()()()()()()()んじゃよ。仲魔とか知り合いに頼むよりも前に結論まで突っ走ってしまう悪癖があるんじゃ。

……おっと、この点は今のお主と似ているな」

 

「うっ」

 

あからさまな図星を突かれて、流石の私も少し冷静になり自覚する。少々、悲観的な思考に傾いていたと。

 

「じゃから、力不足とかそういうのたぶん、()()()()()()()と思うぞ? ……いや、そもそもワシらの存在を失念しておるやもしれぬが」

 

ちょっと怖いことを呟いてから「ともかく!」と強引に話を戻して、オサキ殿は続ける。

 

「お主がここまで共に連れられて来たのならば、少なくとも“力不足を理由に遠ざけた”ということはないじゃろ。

マジで力不足ならば、はっきりとそのように告げる奴じゃよあやつは」

 

確かに。

病院でサブロウとの再戦を進言した時は割と情け容赦なく酷評された。お館様は結構ズケズケ言うタイプだった。

 

「……なにより。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……っ」

 

「別に、怖いのなら無理に戦えとは言わんが……理由を彼奴に求めるのは感心せぬからな」

 

そう言って、彼女は少し“嘲るような微笑”を見せた。

 

「っ、ご冗談を! 拙者はお館様の忍び、お館様の危機であればこの命を捧げてもお救いする所存にて!」

 

命を失うのは……お館様を失うことよりは怖くない。

だが、なにより怖いのは“置いていかれること”だ。

足手纏い、と思われるのも辛い。

 

そこまで考えて、ふと。

なぜ自分がこうも卑屈になっていたのかを理解した。

 

「ああ……置いていかれたくないのだな、わたしは」

 

生死に限らず、()()()()()()()ことそのものに私は無意識のうちに恐怖を抱いていたらしい。

大蛇の呪に怯える生涯の中で唯一、幸せの中にあったあの御方との日々が終わった時のように。

得られた幸福を失くすことを恐れている。

 

――だが。

 

失くさないように“全力で抗うべきだ”。

いや、私自身が抗い()()と思う。

 

生前には様々なしがらみから、遂に守ることが出来なかった大切な人。しかし今は違う。

 

立場が違う、主が違う。なにより――同じ立場で共に戦う者たちがいる。

 

「……拙者も、共に参るでござる。オサキ殿と同じく、拙者もお館様の“仲魔”でござるゆえ」

 

お館様は愛する人ではない……しかし、忌まわしき呪を持つ私と真摯に向き合ってくれる御方だ。

得難き主君、忠義を尽くしたいと思える主だ。

 

なにより、“身命を賭して尽くしたい”と思える相手だからこそ私は戦うのだ。

 

 

 

覚悟を新たにした拙者を見て、オサキ殿は満足そうな笑みで頷き、黒大蛇へと目を向ける。

 

「よし、ならば早速蛇退治へと向かうか! 先ずはワシが幻術と呪術で奴の目を塞ぐ。お主らはそのあとで攻勢を掛けてくれ。

……まったく、こういうのはアイツの仕事だろうに」

 

「承知!」

 

「うむ、ウシワカもそれで良いか?

 

…………………ウシワカ?」

 

しばらく待って、返事がないことを訝しむようにオサキ殿は小首を傾げ先程までウシワカ殿が立って()()場所に向き直る。

そして、その場に誰もいないことにようやく気付いた。

 

「あの……申し上げ難いのでござるが。ウシワカ殿はだいぶ前にお館様のもとへ駆け出してしまったでござる」

 

「はぁ!? いつ!?」

 

「お館様がお一人で戦っておられるとお伝えしてすぐに……」

 

拙者は見ていた。

戦況を告げた途端に一目散に黒大蛇の方へと飛び去ってしまったのを。お声をかける暇もない、まさしく天狗の軽業と呼ぶに相応しい速さにどうしようもなかった。

 

そして、何やら真剣に語り始めたオサキ殿の話に水を刺す訳にもいかずついぞお伝えすることが出来なかったのだ。

 

「あんの狂犬め……! ええい、仕方ない!

ならば急ぎワシらも向かうぞ!」

 

「はい!」

 

少々調子を崩された出だしだが、戦意は衰えていない。

 

プンスカ怒りながら駆け出したオサキ殿の小さな背中を、微笑ましく眺めながら拙者もお館様の援護に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「ギギャァーーー!!!!」

 

聞くに耐えない悍しい鳴き声を上げて黒大蛇が身体をくねらせた。直後に来る攻撃は既に“予測”している。

 

巨大な体、その尾をしならせて高速でこちらに振るう。

サブロウ由来の速さは、不意打ちであれば俺などすぐさま打ち据えられて粉々になっている。

しかし予想してあれば避けるのも容易い。

地面を蹴って確実に攻撃を躱す。

 

その隙に無防備な体のどこかをヒノカグツチで斬りつけて、直後に飛んでくる次の攻撃を躱す。

その繰り返し。

 

しかし、当たり前だが相手もパターン攻撃に徹することはなく、毒霧や呪殺属性の光線、巨躯を用いた物理攻撃を巧み織り混ぜて戦術的に攻めてくる。都度、演算をフル稼働しなければここまで持ち堪えることも難しいほどには強かった。

その合間には、隊員たちの援護、途中から参加した自律兵器たちの援護が加わる。

特に自律兵器たちは“死への恐れがない”ために、積極的に接近戦を仕掛けている。

そのおかげもあって俺は辛うじて生き延びている。

……だが、特攻にも等しい接近戦のたびに自律兵器たちは圧殺されまくっているので、戦闘後に賠償請求されないか少し心配だ。

 

 

「……しかし、埒があかないな」

 

生死の綱渡り状態で言うのもアレだが、このまま戦っても勝てるビジョンがまったく浮かんでこないのは事実だった。

疲弊し、エネルギー残量も僅かな俺のヒノカグツチでは大したダメージは期待できない。かと言って基地の人員ではそもそもダメージを与えられていない。

 

「リンがいてくれれば……」

 

なぜかこの場に現れない“頼もしい味方”を思い浮かべて、すぐに振り払う。

居ない事実は変わらないし、あまり他者をアテにするべきではない。

 

「考えろ……俺が勝つための方法を」

 

いくら覚悟決めたって、気持ちを昂らせたって圧倒的な力の前には意味を成さない。

それは生き延びる方法ではあっても勝つ方法ではないからだ。

 

「知恵を振り絞って、考え――」

 

「はあっ!」

 

無い知恵を絞ろうとしたところで、突如として無数の剣閃が視界を埋め尽くした。

 

刻まれた無数の斬傷から“血液”を噴き出しながら黒大蛇が苦悶に震え吠える。それを背景として、見慣れた痴女……もとい、仲魔が空から落下して来た。

 

「遅くなりました!」

 

振り向きにこやかな笑みで告げるのはウシワカ。

その体にはあちこちに斬傷が見受けられ、出血している箇所もあった。

ウシワカが来たということは、騎士団は撤退したということだろうか? まさか、基地の戦力で殲滅できるとも思えないので撃退したと見るのが妥当だろう。だからこそ隊員たちや自律兵器が援護に来てくれた。

先ずは生還を喜ぶべきだろうが、今はそんなことをしている余裕はない。

 

 

しかし、アインスとの戦闘は殊の外消耗を強いたようで、ウシワカの動きにはいつものようなキレが無いように見える。

 

「来てくれて感謝する」

 

「何を当たり前のことを……私は主殿の仲魔――」

 

話の途中で、黒大蛇が放った毒霧が吹き掛けられるが、彼女お得意の天狗の軽業にて危なげなく躱した。

 

「っと、さすがに話を続ける余裕は無さそうですね」

 

そうだな。

しかし、消耗の激しい彼女を前線に立たせるのは――

 

「では、参ります!!」

 

「え、ちょっ!?」

 

彼女を退がらせるべきか否か、悩んだ一瞬の隙に彼女は勝手に黒大蛇へと突撃してしまった。

相変わらずの猪突猛進に思わず頭痛が出る。

 

「……まあ、退がらせてどうにかなるわけもなし」

 

頭痛によって幾らか冷静になった頭で考えればすぐに答えは出た。

ここで退がらせても、勝てる可能性はゼロ。諸共に黒大蛇に殺される。ならば使()()べきだろう、と。

 

「……なかなか、思うようにいかないな」

 

()()()()()()だったあの頃の“気持ち”は、結局のところ喉まで出かかってそれっきりだった。

 

「結局は……失くしたままか」

 

ボヤきつつ、悩みつつも“演算”は止めず。それによって導き出された答えに従って黒大蛇の攻撃を避ける。

隊員たちも相変わらず援護してくれているが、ノーダメージの攻撃では気を逸らすことしか出来ておらず、段々と黒大蛇も無視するようになってきた。

 

唯一、自律兵器の特攻だけはかなり鬱陶しそうにしているもののやはりダメージは薄い。

 

 

一方、ウシワカの助勢はかなり戦況を好転させた。

天狗の軽業にて黒大蛇の攻撃を悉く躱し、返しの刃もまた高速であるならば。いくらサブロウ由来の速さを持つ黒大蛇とはいえ、巨躯のハンデを受けることとなり成す術なく体を斬り刻まれている。

だが――

 

「……再生してる」

 

こうして第三者目線で見てようやく確信したが。

この黒大蛇、傷を負った端から再生している。

肉が盛り上がるようにして傷を閉じている。

 

よって、どれだけ傷を負っても“持久戦”ではコレに勝てないのは明らかだった。

 

「やはり有効打は俺のヒノカグツチか」

 

それも生半可な攻撃ではなく、“大技”を使う必要がある。再生すら許さない高火力が必要だ。

 

「だがそれには大きな隙が……」

 

そこまで考えたところで、あの光線が飛んできて慌てて横に躱す。

 

「おちおち考える暇もない……!」

 

 

「サブロウ!!」

 

突然、可愛らしい声が響き、目の前の大蛇の身体に不可視のナニカが巻きついた。

一つではない、幾本もの縄状の魔力が絡みついて、巨躯の動きを止めようとする。

黒大蛇は苦悶の声を上げながら、拘束から逃れようと必死にもがいている。

 

「チヨメちゃん!」

 

最早聞き慣れた声に、間髪入れず振り返る。

 

「遅くなりまして申し訳ござらぬ……しかし、サブロウ相手であれば拙者の力は適任にて。

どうか、拙者も供に加えてくだされ!」

 

決死の覚悟を込めた顔で彼女は言う。

……先手は打たれてしまった。俺はすぐにでもここから離れるよう伝えるつもりだったから。

彼女の“巫術”がサブロウには特に効くのは分かっている。しかしそれを加味しても今の黒大蛇は強大過ぎる。

あまり、仲魔を危ない目には合わせたくないのだが……。

 

 

そう伝えようと再び口を開きかけたところで。

腰に凄まじい衝撃が走った。

その瞬間、すぐに思い至る。こうも何度も食らっていれば即座に理解できる。

 

オサキのドロップキックだ。

その推察を裏付けるように、直後、よく知った声と口調で彼女は言う。

 

「相変わらずうじうじしておるのぅ! このたわけ!」

 

何処となく、いつもよりノリノリな口調だ。

だが、今は痛みでそれどころではない。

 

「おいこら……挨拶代わりにドロップキック叩き込んでくるのはいい加減やめないか」

 

「何を今更……それにお主はこうでもしないと“火が点かん”じゃろ?

お主以外にはやらんから安心せい」

 

全然安心できない。

まあ、それはともかく。

 

「お前は退がってろよ? チヨメちゃんには巫術があるから、まあ、百歩譲っていいとしても。お前には荷が重い」

 

言いつつ、僅かに苛ついてきた。

なぜ誰も彼も言うことを聞かないのか?

俺はこんなにも彼女たちを“守りたい”と願い、必死に抗っていると言うのに。

 

そんな俺の心境を一蹴するようにオサキは鼻で笑う。

 

「おいおい、戦術眼すら衰えたか?

ワシが得意とするのは呪術、黒大蛇の主な攻撃手段も呪術じゃ。

加えてワシは“呪いのコントロール”に長けておる。

お主らに降りかかる呪いも“受け流して”みせようぞ」

 

「む……」

 

確かに。オサキは長年の“呪いへの抵抗”から“呪いのコントロール”についてはかなりの腕前を持つ。

その彼女が“受け流せる”というなら、まあ、事実なのだろう。

更に、ここは()()()()()()。ならば“夕凪の呪詛”による浸食も弱い。呪術コントロールに気を回しても問題ないだろう。

 

「術に集中すれば、あの黒大蛇すら騙す幻術の行使も不可能ではない……どうじゃ? これでもまだ安心できぬか?」

 

得意顔で述べてから最後、困ったような顔で優しく問い掛けてきた。

……その顔と、声は反則だろう。

アレは俺に“何かを強請る”時のものだ。

 

彼女にそういう態度をされると、俺は弱かった。

 

「……仕方ない。分かったよ、お前には俺らのサポートを頼む。呪いのコントロール? だったか? それについて詳しく教えてくれ」

 

「そう難しい話ではない。お主らに襲い掛かった呪いを逸らす結界を施すだけじゃ。ただ、それを維持するためにワシは動けなくなるが……」

 

「ならばウシワカを護衛に付けよう。アイツならお前を必ず守ってくれるはずだ」

 

決して守りに長けているわけではない。だが、俺が“頼む”といえば彼女は必ず命にかえてもオサキを守るだろう。

 

そう、彼女に伝えると。オサキは少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに表情を綻ばせた。

 

「その意気じゃ。その“気持ち”を忘れなければお主はきっと、“思い出す”ことができるじゃろう」

 

「っ!」

 

驚いた。まさかオサキに、俺の心が見透かされているとは。

……だが、伊達に数年を共に過ごしていたわけではない。

オサキとはまだ数年の付き合いだが、“彼女を失って以後”、オサキはずっと俺を支えようとしてくれた。

当時は心が荒んでいたこともあり拒絶することも多々あったが……その献身を、今の俺なら理解できる。

 

……今更、それに報いるというのも都合がいい話だが。

 

「ああ、頼んだぞ」

 

せめて、これからは。きちんと、彼女に信頼を向けていきたいと思った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

念話にて仲魔たちに作戦を伝えると、即座に彼女たちはその通りに動いてくれた。

 

まず、現在はチヨメちゃんが巫術によって黒大蛇の動きを押しとどめてくれている。

その間に俺はヒノカグツチへとエネルギーを充填させ、最大火力で因生火神・神避を叩き込む。

……だが、さすがにチヨメちゃんの巫術であっても完全に大蛇の動きを止めることはできない。巨躯の動きは止められるものの、その口、その身から放たれる呪殺属性の魔法までは止めきれない。

 

そこで、オサキによる呪い逸らしが必要となる。

無差別に放たれる呪殺魔法を全力を以て捌き切る。

彼女だからこそできる、まさに神業だ。

……だが、余人の保護に集中する彼女自身は無防備となる。

そこに対する壁として、ウシワカがいた。

 

彼女が有する“薄緑”は、その逸話から対魔性能に高い補正がかかっている。なので、呪殺ビームや呪殺ブレスを薄緑の斬撃にて祓ってもらいオサキの護衛に徹してもらう。

 

即興ながら完璧な布陣だった。

余力は残されていないが、これは乾坤一擲の策。

失敗は考えずただ自らの全力だけを尽くす。

 

 

そうしてしばらく、順調にことが進んでいた時のこと。

 

 

突然、黒大蛇が動いた。

 

 

 

「っ、こ、これは!!」

 

最初に見た時のように、黒大蛇から“鼓動”が響き始める。併せて黒大蛇の全身がドクンドクンと蠢き始める。

応じてチヨメちゃんの拘束がブチブチと音を立てて外れていく。

 

「これ、以上は……お館様!!」

 

「っ!」

 

必死に術を維持しようと脂汗を流すチヨメちゃんが視線を向けてきた。だが、生憎と俺の方はまだ“溜め”が終わっていない。

演算結果にも“まだ滅ぼすだけのエネルギーが足りていない”と出ている。

あと、もう少し。時が必要だ。

 

 

もう少し持ち堪えてくれ、と言おうとした時。

拘束を引き千切りながら黒大蛇が“変体”した。

 

 

前よりもさらに太く、大きく、長く。

そして分裂するように巨躯から“首”が分かたれる。

その数、実に“八本”。元の首を含めれば“九本”の頭ができたことになる。

まさに“九頭竜”。

 

その威容はただしく“神話の怪物”と呼ぶに相応しい。

放たれる霊力も当然のように膨れ上がっている。

 

「くそ……いったい、どうすれば」

 

まだ、ヒノカグツチのエネルギーは溜まっていない。加えて、一回り以上力が増した黒大蛇を滅ぼすには更にエネルギーを溜めねばならない。

 

そしてなにより“拘束が外れてしまった”。

呪殺攻撃だけでもギリギリだったのに、あの巨躯による猛攻も加わる。それも八本に増えた首から攻撃が飛んでくるのだ。

今の布陣では危険すぎた。

 

俺は慌てて黒大蛇を抑えに動く。

しかしそれよりは先にウシワカが駆け抜けた。

 

そのまま黒大蛇に真正面から向かい薄緑を振るう。

対して黒大蛇も九本となった首から魔法攻撃、物理攻撃含めた猛反撃を開始する。

ウシワカは持ち前の俊敏性から雨霰のごとき猛攻を掻い潜り、時には首を足場にして全ての攻撃を躱しながら斬撃を放ち続けた。

 

「だが……」

 

それも初撃だけだ。

黒大蛇の素早さ、手数の多さを前にすぐに劣勢となり身体に傷を増やす。

幾ばくもしないうちにウシワカは死ぬ。

 

そう確信した俺は再び駆け出そうとする。

そんな俺を制する声が聞こえた。

 

「まだです! ここは拙者に、お任せを!!」

 

返事をする間もなく、チヨメちゃんは“舞い”を始めた。

サブロウ相手に使った時のような鎮魂の舞い。しかし前よりも力強い舞いだ。込められた霊力も、思わず閉口するほど高い。

 

「……姫、我が祖。今一度、力をお貸しくだされ」

 

何事か彼女が呟いて直後、彼女の霊力がさらに膨れ上がり黒大蛇の巨躯を無数の“不可視の縄”が締め上げた。

完全に動きを封じるほどの拘束を受けてようやく黒大蛇の攻撃が止まる。

 

「これなら……!」

 

その隙に俺はエネルギーの充填を進めた。

 

「ヒノカグツチ……神屠りし火の仔よ、“地”を創りし創世の主を滅ぼす滅神の火よ。

天の逆鉾振るいし天神なれど、地を創りしはすなわち“地の系譜”。地に生まれしはすなわち“かの母神の系譜”。ならば、天地須く“同一”なり。

 

ヒノカグツチよ、火の仔なりし滅びの焔よ。今ひとたび、終世の力を貸し与え給え」

 

 

目を閉じ、言霊を紡ぐ。

“奥山”にいた頃に教わった“ヒノカグツチへの祝詞”。その中でも重要なフレーズのみを思いつく限り口にする。

今回の相手は土着神、すなわち“地の神”だ。

“天”上の創世神を滅ぼしたヒノカグツチとしては、多少の威力減衰は考慮しなければならない。

神であれば総じて絶大な威力を叩き出すヒノカグツチだが、強大な神を相手取る場合はその“多少の威力減衰”が致命的な仕損じに繋がりかねない。

 

なので、打てる手は全て打つ。

 

 

 

――やがて、エネルギーが満タンまで溜まり、俺は剣を構える。

狙うは黒大蛇、その大元たる“最初の首”。

中央に鎮座する首から巨躯を両断するように斬撃を叩き込む。

意を決して駆け出そうとして――

 

 

 

――中央の首だけが突如、こちらに伸びてきた。

 

見れば、八本の首で拘束を支えて出来たわずかな隙間より中央の首だけを解放したのだ。

なんという力技、いや、それだけ強大な力を有しているということか。

いったい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という疑問は浮かぶが、今はそれどころではない。

 

首が目指すのは俺だ。避けねば死ぬ。しかし、エネルギー充填に全てを使っていた俺は咄嗟の回避が追いつかなかった。その時。

 

「なんのっ!」

 

俺の目の前、ウシワカが降り立ち迫りくる大蛇の頭部をはじき返した。

 

「ウシワカっ!」

 

「行ってください! 早く!」

 

彼女に急かされ、俺もすぐに駆け出す。

狙いは変更して、首ではなく胴体。

首が生えている根本から胴体を狙う。

 

溜めたエネルギーを溢さぬように、しかし迅速に。一直線に対象へと駆ける。

そんな俺へと、弾かれた首が再び俺へと迫った。

 

「行かせるか!」

 

そこへ、再びウシワカも立ち塞がる。

だが、今度は体当たりではなく、あの呪殺属性の吐息を吹き掛けてきた。

 

「なっ!?」

 

広範囲に吹き荒れる呪いの嵐、たとえ対魔性能を有した薄緑であろうと一息で切り抜けること叶わぬ重い一撃だ。

 

ウシワカを足止めした首はすぐに俺へと向き直りさらに加速。俺の背後から噛み付いてきた。

 

「う、おぉっ!?」

 

必死に身を捩って躱す。危なかった、少し遅れていれば丸かじりされていたところだ。

 

攻撃を躱された首は、追撃を加えることなく、その勢いのままに胴体の方へとニョロニョロと移動して。

こちらに大口を開けた状態でエネルギーを溜め始めた。

 

「っ……止まるかよ!」

 

おそらく、次に飛んでくるのは“呪殺属性のビーム”。それも溜めを入れた威力のもの。

加えて、演算結果から導き出される情報には“こちらの斬撃よりも前に飛んでくる”と出ている。

 

だが、それを理由に立ち止まれない。

 

今は絶好のチャンスなのだ、ここを逃せば勝ち目はない。さらに俺のヒノカグツチは“これ以上振るえない”。もともとタイムリミットが迫っていたところに、特大のエネルギー充填を行ったのだ。

つまり、次はない。

 

だからこそ駆ける。

 

案の定、中央の首は開けた口から極太のビーム、呪殺属性の光線を……放とうとして。突然、充填された呪いを()()させた。

 

「っ、オサキ!」

 

咄嗟に彼女の方を見れば、身体のあちこちから“出血”しながらもこちらに笑みを向ける姿が。

おそらく、膨大なエネルギーを自らの“コントロール”にて無理やり霧散させた反動によるダメージだ。

 

「早く、行けっ!」

 

彼女の言葉を受け、すぐに大蛇に向き直る。

そして、奴の頭部目掛けて飛び上がった……のと同時に、再び大口を開けてこちらに急接近する首。

こちらを“丸呑み”にしようとしている。

 

「しゃらくせぇっ!」

 

俺は構わず剣を振り下ろす。

すると、俺を呑み込もうとする寸前で大蛇は怯んだように口を閉じた。

 

これを好機と斬撃を叩き込む。

 

「うおぉぉぉ!!」

 

頭部を切り開き、そこから剣身の裏から炎を吹き上げた勢いでさらに下へと剣を進める。

 

「――らぁっ!!」

 

やがて、地面にまで剣を食い込ませて黒大蛇の身体を切り開いた。斬撃はその衝撃だけで尻尾の先まで真っ二つとし。

 

巨大な黒大蛇の身体は文字通り両断された。

 

 




【あとがき】
後編やばい文量でしたね……三日掛かりましたよ。
でも、殆どのキャラを濃密に描写してくれてとても楽しかったです。氏族長全員好きになりましたよ(例の腹黒も含めて

そして、妖精國の妖精はやっぱクソやなって。



あ、あと例の“大穴の神”は昔から好きなので出てきてくれて嬉しかったです。
メガテンだと頭骨に乗ったチャラ男みたいな見た目ですけど、狩猟神で冥府神で豊穣神で動物の神様って……何より名前からしてカッコいいですよね。なんですかケルヌンノスって、ラスボスかよ。
資料が少ない神様なのも厨二心を刺激される。

同郷のクロム・クルアハも同様。厨二病の俺は名前見た瞬間に“燃え死”しましたね。Wiki読んだら魂が昇天した。




それはさておき。
二章は畳みに入ったのであと数話で終わります。
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