英傑召喚師   作:蒼天伍号

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またアイちゃんの話です。
ホラー描写は私には無理でした……
なんかゆるい感じのアイちゃん奮闘記。




怪奇のある日常

今日の講義を全て終えた私は、キャンパスを出て待ち合わせ場所に走る。

 

 

首都郊外に位置する街。そこにあるそこそこ偏差値の高い、そこそこ就職に有利な大学に私たちは通っている。

高校の教師には「もっと上を狙ってもいいのでは?」と言われたが、これ以上偏差値の高いところとなると、受かるかどうか確信が持てなかった。

それに、私が進学する目的はあくまで就職の糧。何かを夢中になって学ぶとかそういうのは無いのだ。

……こういうことを言うと反感を買ったりするので、いつもは適当な理由で誤魔化すのだけど。

私は“安穏とした人生”が送りたいのだ。両親たちみたいに“世界を飛び回る”ような日々はごめんである。

 

 

 

大学の講義が終われば私はいつも“喫茶店”に向かう。

そこを待ち合わせ場所として決めている“とある活動”に参加するために。

 

大学からバスに乗りしばらく。駅近くのバス停で降りた私は視界に入った喫茶店に真っ直ぐ向かう。

そこの入り口を抜けたところで、声が掛けられる。

 

「アイ、こっちよ」

 

そう言って、席から手を振るのは幼馴染みの一人・ミヤだ。

 

「おう、来たか」

 

背もたれに手を掛けながらそう言う男はもう一人の幼馴染み・ヒトシ。

 

「お待たせ」

 

いつもと変わらない二人の様子に安堵し、自然と頬が緩む。私は小走りで彼女らの席へと向かった。

 

 

席について早々、深刻そうな顔をしたヒトシが重苦しい口調で問い掛ける。

 

「……それで、“あのあと”。何か、あったか?」

 

その一言で私にもじわりと緊張が滲み出す。

 

いつもなら。

ここにこうして集まった瞬間に、各々が持ち寄ったオカルト情報に盛り上がり今日向かう心霊スポットの相談を嬉々と始めるのだが。そうはならなかった。

当たり前だ、今日集まった目的は“先日行った心霊スポットでの恐怖体験”についての話し合いなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝方、自宅で“奇妙な存在”と遭遇した私は恐怖のあまり腰が抜け、あの恐ろしいお化けに襲い掛かられた。

しかし――

 

「……一瞬、“すごい眩しい光”が辺りに溢れたと思ったら。

 

 ……なんか、消えてた」

 

深刻そうに語った末に、このオチを投げつけられた幼馴染みたちは揃ってガクリ、と項垂れた。

 

「なんだそれ……」

 

「心配して損した気分……まあ、無事でなによりだけど」

 

「なんだかなぁ」とぼやきながら納得いかないご様子のお二人。

いや、もっと心配してよ!? 言葉で説明すると拍子抜けかもしれないけれど、実際に体験した私は本当に怖かったんだからね!?

 

「とりあえず話はわかった。俺やミヤの方は特に何もなかったから、霊障が出たのはアイだけだな」

 

「ええ、昨夜の出来事が怖すぎてなかなか眠れなかった以外に被害はなかったわ」

 

「えぇ……」

 

一晩経ってケロリとした様子の二人。しかも彼女らが言うには、変なことが起きたのは私だけだという。

解せぬ。

 

「なんで私……起きるなら、実際に被害にあった二人じゃないの?」

 

なかなかの理不尽にそこはかとなく怒りが湧いた。

 

「俺らもそう思ってたんだけどなぁ……いやほんと、なんにも無かったんだわ」

 

「ええ、何一つ、霊障は無かったわ」

 

改めて断言するお二人。

二度も言わなくていいよ……。

 

「てっきり二人も似たような目に遭ってると思って傷の舐め合いしようと思ったのに」

 

「表現が刺々しいな……まあ、それはともかく」

 

と、ヒトシがミヤに目配せすると。

ごそごそとバックを漁ったミヤが何かを手渡してきた。

パッと出されたソレを反射的に受け取る。

 

「……数珠と、御札?」

 

「そう、私とヒトシで吟味して……学生でも買えるお手頃価格で購入した逸品よ」

 

えぇ……それかなり胡散臭いというか不安なんだけど。

 

「すまんな、俺らで買えるのはコレが限界だった」

 

「総額八万よ。……出費が大きすぎてしばらくの間はもやしを食べて暮らすわ」

 

「は、八万……」

 

それは大金だ。学生の身分では大き過ぎる買い物、割り勘だとしても、だ。

そんな大金を使ってまで私の身を案じてくれた彼女らに感謝の念を感じる。

 

「ありがとう。肌身離さず、大事にするね」

 

「お、おう……しかし、数珠と御札持ち歩いてる大学生とか、改めて考えるとかなり奇特だな」

 

「大丈夫、ちゃんとバッグの奥にしまっとくから」

 

正直、周囲の目とかどうでもいい。あんな得体の知れない輩に今後も遭遇することに比べたらお釣りが来る。

 

「……って、これからも霊障が起きるとは限らないけどね」

 

そうなのだ、確かに私は今朝方、洗面所でお化けに遭遇したが。逆に言えばそれだけだ。

それからは自宅でも大学でも特に何もなかった。

だから、大丈夫。これからもきっと――

 

「でも、二度あることは三度あるというし……病院の一件を最初としたらすでに二回……」

 

「こういうのは後日談がお約束だしなぁ……」

 

なんとか平静を取り戻そうとしていた私に容赦なく現実を叩きつけてくるお二人。

 

「せっかくポジティブに考えてたのに、二人ともひどくない!?」

 

「どうどう、公共の場で騒ぐものではないわ」

 

「ああ、落ち着けよアイ」

 

くそぅ、自分たちが何も無いからって好き勝手言っちゃってぇ……。

 

 

――その後も、特にこれといった進展もなく。中身のない話を延々と続けて今日はお開きとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……結局、散々怖がらせて帰っちゃったし」

 

帰り道、とぼとぼと歩きながら愚痴る。

一応、お祓いが有効そうな寺社を真剣に探してくれたり。効果ありそうなお守りを探したりしてくれたけど。

特にこれといった解決策をなかった。

 

「でも、この数珠と御札が有れば」

 

気持ち、安心できるかな、といったところ。

まあ、彼女らが好意でくれたものだ。そこには感謝している。

 

「とりあえず家でもう一度調べて――」

 

自宅のPCで解決策を探ろう、と思い至った時。

視界の端に何かを見つけた。

 

大半はいつもと変わらぬ街並み、静かな住宅街の道だ。

しかし、道の端にある電柱の影。

そこから、薄らとだが“ナニカ”が見えた。

 

まるでこちらを覗くような――

 

「っ!」

 

そこまで考えて反射的に視線を逸らす。

無意識に注目してしまったが、“こういうの”は大抵がお化けに遭遇する流れだ。

そして、“そういうの”はこちらから手を出さなければ何もしてこないはず。

 

「……」

 

何事もなかったかのように無視してテクテクと前を通り過ぎる。

その際にチラリと横目で確認したところ……

 

「……っ」

 

かなりうすーい全裸の人型、の影みたいなのが体育座りをしていた。

アレは私でもわかる、きっと幽霊だ。

 

病院の時のような狂気的ビジュアルでないのは幸いだが、それでも明らかに人外の見た目で負のオーラマシマシな存在を見てしまうと、やはり気が引ける。

いやいや、ここで平静を保っていれば――

 

 

「きぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「ぎゃああああああ!!!?」

 

突然の奇声、ちょうど幽霊の前を通り過ぎようとしたあたりで発せられたものだ。

怖すぎて思わず乙女にあるまじき声を出してしまう。

 

「マグ……マグゥゥゥゥゥ!!」

 

「へぁ!? お、追いかけてくるぅ!?」

 

幽霊はガタガタプルプルと全身を小刻みに振るわせながら、私の方へと手をついた四つん這いで迫ってきた。

ゆっくりと、しかし段々と速度を上げて。

 

「こ、来ないでぇぇぇ!!」

 

無論、私はその場から全速力で逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ここ、まで、来れば……はぁ」

 

十数分走り続けて、もはや幽霊の姿が見えないのを確認した私は電柱に手をつきながら息を切らした。

 

「……こ、怖い怖い怖い! 何アレ? 何アレェ!?」

 

息を整えたところで、先程の恐怖がぶり返した。

私を追ってきた幽霊のあの目。身体は半透明なのに、獲物を求めて獣のように崩れるその表情だけはくっきりと見えた。

剥き出しの歯に、滴り落ちる涎――

 

「っ!」

 

ぶるり、と全身に怖気が走った私はこれ以上そのことを考えないようにして速足で帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

翌日。起床後の自宅に異常もなく、通学でも何事も無く、無事に講義を終えて帰路についていた。

 

「今日はミヤたちいなかった……」

 

講義中に思い出したが、今日は彼女らは講義が無い日だった。

せっかく、昨日のことを話そうと思ったのに――

 

「いや」

 

そこまで考えて、自分の考えに疑問を持つ。

話して……どうなると言うのだろうか?

先日の話し合いで改めて分かったことだが、彼女たちに“そっち系”の知識はまったくない。あの活動を始めてから、ネットに溢れる真偽不明の噂程度なら多少は覚えがあるのだろうが。“ホンモノ”と言える知識は多分ない。元来、彼女たちは私と違って“陽の当たる世界の住人”だ。

 

だから話しても意味はないだろう。それどころか、話したことで()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……良くない、よね」

 

小学校からこれまで、孤立しがちな私をずっと気にかけてくれた彼女たちには多大な恩がある。それに、先の一件でもなんだかんだと心配もしてくれた。

これ以上は、望み過ぎ、ということだろう。

 

「数珠と御札は、効果無かったみたいだけど……」

 

呟いて少し笑う。

無論、“恐怖から逃れるための陽気なジョーク”だ。

こうでもしてないと、恐怖で押し潰されそうになるから。

 

なにせ――

 

 

「……」

 

視界の先、数m先の電柱に昨日と同じような“半透明の人型”が鎮座しているのだから。

しかし、良く見れば昨日の個体と少し違うことに気づく。

 

昨日の幽霊は青白い半透明だったが、今回のは少し赤みが差しているように見える。

 

「なんて、分析してみても怖いのは変わらないけど」

 

なんとか震えを抑えようと、冷静な分析をしてみたがあまり効果はなかった。

 

「……よし」

 

しばらく深呼吸をして、落ち着いた私は意を決して歩みを再開する。

 

「……」

 

――が、幽霊の横顔を見た瞬間に恐怖が一気に最高値に達した。

なので、半狂乱しながら走り出してしまった。

 

「ひえぇぇぇ!!!!」

 

「っ、マグゥ!!」

 

だが、声を出した瞬間に幽霊もこちらに気付いて手を伸ばしてきた。

 

「うわわっ!?」

 

間一髪、足首を掴みかけたヤツの手から逃れる。異常な速さで伸ばされた手に気付いて反射的に足を上げて正解だった。

 

「マグ、マグゥゥゥゥゥ!」

 

そして案の定、追いかけてくる幽霊。

 

「いやぁぁぁぁぁ来ないでぇぇぇぇ!!」

 

私はまたもや全力疾走で幽霊から逃げる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

また翌日。

今度は日中の通学でも襲われた。

 

これまで日中は遭遇したことがなかったために完全に油断していた私は、木の上から落下しながら叫ぶ青白い個体に襲われた。

危うくのし掛かられるところを、自分でも驚くくらいの反射神経で横に転がることで回避。

全速力でその場から逃走した。

 

 

……故に、講義の最中、移動の最中も絶えず警戒を続けていたために講義の内容など一ミリも頭に入っていなかった。

学生生活の本分が……。

 

 

 

そして――

 

 

 

「……」

 

帰り道でも当たり前のように座り込む赤い幽霊に遭遇した。

怖いのは変わらないものの、さすがの私も少し冷静に考えることができるようになっていた。

 

「……」

 

再び深呼吸で気持ちを落ち着かせた私は、今度はゆっくりと幽霊の前に歩く。

すると――

 

「……っ」

 

目の前にでたあたりでピクリ、と幽霊が反応を示した。

この瞬間に全力ダッシュ。

 

「マグゥゥゥゥゥ!!!!」

 

そしてやっぱり追いかけてきた幽霊からひたすらに走って逃げる。

 

……これは私の推測だが。

ヤツらは()()()()()()()()()()()追いかけてくる。

「マグゥゥゥゥゥ!」という叫びからソレはおそらく“マグ”という名称なのだろう。今朝の青白い個体もそう叫んでいた。

 

そして、ヤツらは私が大声を出したり急に動くと気づく。これは昨日の襲撃で学んだことだ。

だから、最初はゆっくりと歩いて。ヤツらが気付いた辺りで走り出すのが正解だろう。

ちなみに、別ルートを探ったりもしてみたが、まるで私を帰らせまいとするかのように全ルートに幽霊が配置されていたので無意味だ。

つまり、必ず一回は奴らと遭遇しなければならない。

 

……というか、ここ数日。走り過ぎて筋肉痛がひどいのだが。

 

 

 

 

 

 

 

――それからは。

外に出るたびに幽霊から逃げ惑う日々を送った。

未だ大学や自宅には(先の蛾みたいなヤツ以外)侵入していないようだが。街中では必ず遭遇している。

と言っても、数が少ないのか大抵は決まった場所、決まった数にしか出会わず。最近では巧みに回避するルートを発見できたりもしている。

 

……それでも。

 

「なんか……増えてる気がする」

 

一見分からないが、冷静に記憶を整理してみると。じわじわと、僅かながら日を追うごとに増えてる気がした。

それも、段々と私の自宅の周辺に集まっているような……。

 

「うぅ……なんで私なのよぉ」

 

考えるとすぐに嫌な気持ちが溢れてくる。

今は洗面台で歯を磨いているところだったので、くしゃりと崩れた泣き顔が嫌でも目に入る。

目に入るからこそ努めて前向きになろうと努力できた。

 

「……卑屈になる前に、原因を探るしかない」

 

そうだ、増えてるということはつまり。将来的には通学すら危うくなり、果てには自宅への侵入もあり得る。

ならば本格的に対策を練らねばならないだろう。

がんばれ私。

 

 

 

少し冷静になって考えてみる。

まず初めに、私はこれまで一度も“霊的なものに出会わなかった”。

廃病院が一番初めの遭遇例である。

 

「でもあの時は直接の被害は無かったし……」

 

あの時、襲われたのは幼馴染みだけだ。

私は一度も“アレ”に触れることもなく事態は治まった。

 

「なら――」

 

きっかけは、やはりあの蛾みたいなお化けだろう。

……一度、霊障に遭ったことでその後も霊障に悩まされるというのはオカルトでは基本だ。

その霊障の度合いも様々だが、私なりにこれまでの知識を整理すれば“直接被害”がキーになっていると判断できた。

 

「……霊に襲われるとか、触れられるとか?」

 

……いや、違う。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ならば、病院に行った時点で“見える条件”を果たしたと見て間違いないだろう。

 

次に、ヤツらに()()()()()()を考えてみる。

 

「これもやっぱり……」

 

幽霊たちが頻繁に口にする「マグゥゥゥゥゥ!」という単語から推測するに“マグ”なるナニカを求めているのが理解できる。

ただ、そのマグとやらがまったく分からない。

 

「マグ、なんて名前のもの、私持ってないし……」

 

マグって、なに?

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

それからしばらくマグとやらに考えたがまったく見当も付かず。それならばとネットで探してみたのだが。

マグカップくらいしか出てこなかった……。

 

「だめだ……もう寝よ」

 

深夜二時を過ぎて半分を超えたあたりで眠気が限界を超えた。

睡魔の赴くままに、ゆらりとベッドに向かい、パタリと身を横たえた。

 

その瞬間に自分でも驚くくらいの速さで眠りに堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――遠野アイが眠りにおちてしばらくの後。眠る彼女の枕元に淡い光と共に“青い人型の発光体”が現れた。

 

『はぁ……図太いんだか繊細なんだか。さすがあの二人の子どもね』

 

発光体はやれやれ、と首を振り、そして腰に手を当てた。

 

『まあ……()()()()()()()以上は全力で“守る”けど』

 

発光体は徐に振り向く。

アイの自宅の端、窓の外へと視線を向ける。

 

そこには――

 

「マグマグマグゥ!」

 

アイが持つ“豊富なMAG”を求めて涎を垂らす低級霊(ゴースト)が群れを成して窓にへばりついている。

 

『懲りずに毎日毎日……いい加減学んだらどうなの?』

 

発光体はうんざりした口調のまま、()()()()()()()()()()

 

 

 

「ググゥ!? マグ……?」

 

突然、外に現れた発光体へとゴーストたちは注目する。そして、その身を形作る“豊潤なMAG”に気付いた。

 

『はいはい、たしかに私はMAGの塊よ。

……でも、大人しく喰われてやる気はないから』

 

肩を竦めてから、ゆっくりと掌をゴーストたちに向けた発光体は。

 

『ビリビリ痺れちゃいなさい』

 

広範囲上級電撃魔法(マハジオダイン)を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「……怠い」

 

寝起き早々に、私は妙な気怠さに呻いた。

身体の不調というよりは()()()()()()に近い。

寝起きのせいもあるだろうが、頭もうまく働かない。

 

とりあえず枕元のスマホに目を向けて“六時”という時刻を確認したら余計に怠くなった。

まだ起きる時間でもない、かといって二度寝できる時間でもないからだ。

 

「水飲も……」

 

とりあえず、寝起きの喉を潤すべく冷蔵庫に入ったミネラルウォーターを取りに行く。

初夏の朝はいつも以上に暑く、喉の渇きも日を追って増している。

 

ヨタヨタ、とおぼつかない足取りで冷蔵庫に向かった私はふと、部屋の隅に違和感を感じた。

 

「んん……?」

 

カーテンから漏れる日光に照らされた部屋は比較的明るいものの、ベッドの影は暗い。

そこに、黒い、ナニカを見つけた

 

「G……?」

 

真っ先に思いつくのは、初夏に増える例の黒い怨敵。

人類の宿敵たる虫だ。

 

寝起きゆえか、はたまた連日の心霊現象のせいか、特に恐怖もなくのそのそと新聞紙を手に取り、丸める。

 

「うーん……」

 

やはり夜更かしはするものではない。新聞紙を構えたところでひどい眠気が襲いかかってきた。

しかし、寝ぼけていても部屋にGを放置する危険性は理解していた。

 

なのでゆっくりと、黒いナニカへと歩み寄る。

 

「この〜……」

 

そして振り下ろす。間抜けた声とは裏腹に、剣道部員の一撃が如く素早い振り下ろしで正確に影へと新聞紙をぶち当てる。

こうすればぺちゃんこに――

 

「イテッ!?」

 

「いて……?」

 

――だが、その一撃は硬い感触で押し返され、ぺちゃりという音のかわりに野太い“声”が返ってきた。

 

「ふむぅ……?」

 

新聞紙を見てから、改めて黒いナニカの方へ目を向ける。

よくよく見てみればソレはGではなかった。

 

 

つばのある黒い帽子を被り、子どもような矮躯で体育座りをしているナニカ。

しかしてその容貌は()()()()()()であった。

 

「お……っ!」

 

無意識に叫びそうになった口元を押さえてなんとか堪える。

眠気など一瞬で消しとんだ。

 

私が叩いたソレは、()()()()()()()だったからだ。

 

骸骨は帽子の上から頭をさすり、ゆっくりと立ち上がる。そして私の方へ振り向いた。

 

「あ……?」

 

「っ!!!!」

 

ばっちりと、その両眼が合ってしまった。

暗い眼窩の中に妖しく光る白い眼と。

 

「ふ、ふおぉぉ!?」

 

私は駆けた、それはもう過去最高速度で駆けた。

目指すはもちろん玄関。そこから外へと逃げようと――

 

「あ?」

 

しかし、玄関にはなぜか“もう一体”の骸骨が。

……いや、それだけではない。

辺りを見渡せば部屋のあちこちにあの骸骨が溢れている。

 

「あ、あぁ……」

 

「なんだ嬢ちゃん、起きたのか。なら――」

 

「お化けぇぇぇ!!」

 

私は無意識のうちに骸骨を殴り飛ばしていた。

 

「ぶべぇ!?」

 

加減も考えずに全力で殴ったために、とても硬い感触を拳に受けて激しい痛みを感じた。

 

「痛っ……くぅ!」

 

痛いが、今はそれどころではない。

私は部屋のあちこちに目を向けてなんとかヤツらのいない場所を探す。

 

「お、おい。落ち着けよ嬢ちゃん――」

 

「来ないでっ!」

 

じりじりと近づいてくる骸骨を蹴飛ばして、唯一見つけられた安全地帯たる洗面所に飛び込む。そして素早く扉を閉めた。

無論、鍵もきっちり閉める。

 

「はぁ、はぁ!!」

 

ヤバイヤバイヤバイ……!

どうしよう、ついに家にまで入ってきた。

なんで、どうして。そんな思いだけが頭をぐるぐると巡る。

これまでは平気だったのに!

 

「おーい、とりあえず話を聞けよー!」

 

「ひぃ!」

 

扉越しに骸骨が声をかけてきた。

恐ろしい、人外の声で。

 

「ああ、どうしようどうしよう!?」

 

何か、何かこの状況を変える手立ては……!

 

「っ、そ、そうだ!」

 

こういう時、いや、“こういう手合い”にうってつけの人がいたことを思い出した。

 

「祓魔屋オウザン……」

 

あの廃病院の件でお世話になった“怪しい霊媒師”だ。

逃げる際にスマホだけは確保していた私は、すぐに発信履歴からオウザンへの連絡先を選ぶ。

……先の一件では面倒な手順を踏んだが、その手順の最後でオウザンへの直接の連絡先をてにいれていたために今度はスムーズだ。

 

「お願い……出て!」

 

発信音に耳を澄ませて祈る。

 

そして数分経ったところで、プツっと繋がった音がした。

 

「ああ、ヒデオさん!? ヒデオさんですか!!!?」

 

『ええ、ヒデオです。いったいどうしました?』

 

「うちに、ウチにお化けが出たんです!! ナイフを持ったちっちゃい骸骨みたいなお化けに襲われてるんです!!

助けてください!!」

 

 





【あとがき】
怖がってる割に意外とメンタル強いアイちゃん。
さっさとデビルサマナーなり両親なりに相談しろ、というね。

ただ、アイちゃんは両親に複雑な感情を抱いているので素直に助けを求められないのです。
ちなみに両親は普通に遺跡調査してるわけじゃないです。娘放ったらかしで趣味に走ったわけではないことを断っておきます…
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