英傑召喚師   作:蒼天伍号

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特に話は進まないぜ!




第二世代

今朝方、祓魔屋オウザンのスマホが何度も着信音を鳴らした。

 

協会から帰った昨夜、オウザンのデスクワークを徹夜で行なっていた俺はそのまま寝落ちしており、仕事用のスマホも置きっぱなしにしていた。

なので、ぐっすり眠る俺は耳元でけたたましく鳴り震え続けるスマホによって叩き起こされた形となった。

率直に、遺憾である。

 

……ただまあ、仕事だ。

若干、不機嫌ながらもスマホを手に取り寝ぼけ眼で画面を見た俺はさらに複雑な気持ちになる。

 

『遠野 ()()

 

以前、チヨメちゃんの能力測定のために受けた仕事の依頼主だ。なんてことはない。なんてことはない……はずなんだが。

 

「……寝起きに見る()()じゃないな」

 

それはともかく。

依然鳴り続ける着信をどうにかすべく俺は通話ボタンをタップした。

 

『ああ、ヒデオさん!? ヒデオさんですか!!!?』

 

出て早々に錯乱した様子の遠野さんが大声をあげる。

 

「ええ、ヒデオです。いったいどうしました?」

 

スマホで確認した時刻は六時を回ったところ、店に電話してくるような時間じゃないだろう。魚屋でもあるまいし。

と、少し不満を感じたのも束の間。続けて語られた内容に俺も真剣さを取り戻す。

 

『うちに、ウチに()()()が出たんです!! ナイフを持ったちっちゃい骸骨みたいなお化けに()()()()()んです!

助けてください!!』

 

 

 

――その後、詳しい住所を聞く前に“悲鳴”と共に通話は途切れ、以降何度掛け直しても応答することはなかった。

 

「うーむ」

 

困ったことになった。

悪魔退治の依頼であるならば無論、受けることは吝かではない。ましてや二度目のお客さんともなれば“リピーター”になる可能性もある有難く貴重な存在。

しかしながら俺は当たり前のように彼女の住所など知らない。

 

「知らないが……まあ、“彼ら”の身内なんだろうな」

 

以前にも述べたとおり、ただの大学生が“ここ”に連絡できたこと。彼女の名字が“遠野”であること。

そして、()()()()()()()を僅かながら感じたことを考えればまあ間違いない。

 

「……聞いてみるか」

 

半ば以上確信を持ちながら俺は、“天海市のハッカー”へと電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として、予想は正しく遠野アイは天海市のハッカー夫婦の娘であることが確定した。

連絡先を持っていることから分かる通り、俺は彼らとは知り合いなので、娘さんが助けを求める電話を掛けてきたことを伝えればすぐさま住所を教えてくれた。

その際に“お父君”から「絶対に助けてくれ」と念押しされたので、俺もすぐに準備に入る。

 

COMPは当然として、愛刀に愛銃、最近の失態への反省から回復アイテムは惜しまず持っていき、各種補助アイテムも持てるだけ持つ。

連れて行く仲魔については、現在最高戦力たるウシワカ、夕凪外でも問題なく“本気”を出せるイヌガミ、やっと休暇から帰ってきたクダとする。

 

「……というわけで。オサキとチヨメちゃんは留守番ね。チヨメちゃんはいつも通り自宅警備で、オサキは……なんかまあ、適当に自宅内で待機しててくれ」

 

リビングに仲魔を集めて今回の件を端的に伝えた後、指示を出す。

 

「適当にって……まあ、そこなくノ一が仕事をする以上はワシも真面目に留守番するつもりじゃが」

 

「うん、頼む。ウラベさんに聞いた話じゃ、涅槃台が所属する組織も最近活発らしいからな。自宅警備も()()()だけでは足りないだろう」

 

まあ、()()を任せてあるマカミは“神代回帰”を使えるからこの二名よりも圧倒的に強いわけだが。

わざわざ伝えることではない。

 

「よっし! んじゃあ同行する三人はすぐに支度済ませて玄関集合なー」

 

 

――その後、ウシワカとイヌガミはすぐさま集まったものの。クダが何やら準備に手間取ったことで三十分ほど遅れての出発と相成った。

何を呑気な、と思うかもしれないが。あの()()()()()()()()()()なので多分大丈夫だろうという予想のもとに動いている。

……万が一、何かあったときは“遠野夫妻”から身を隠すために夕凪を離れることになるだろうがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ヒデオたちを見送ってすぐ、残された二人のうちチヨメが傍に立つオサキへと素朴な疑問を投げかけていた。

 

「ところでオサキ殿、()()()殿とは、いったいどのような御仁であられるか? 拙者、どうにもお会いした記憶が……」

 

対しオサキは複雑な心境を顔に出しながら答える。

 

「彼奴の仲魔の一体、まあお前風に言えば同僚じゃよ。安心せい。“奴”とはワシも“旧知”の仲じゃ、決して悪い奴ではない」

 

「はぁ……」

 

お館様の仲魔であるならば、当然疑念を抱くこともないのだが。やはり()()()()()()()()()()()という事実が彼女に不思議な感覚を与えていた。

 

同時に、オサキは。

マカミが主と交わした“密約”を想起して、少し心に影を落とす。

()()()()()に、主の“叶うはずもない妄執”に付き合い続けるマカミに申し訳なさを感じているのだ。

 

なにせ、彼女とマカミは、同じく“魔性に堕ちようとした”ところを夕凪神に救われ。彼女の神使として共に仕えた、謂わば前の職場からの同僚であるのだから。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

仲魔を連れ立って電車に乗ること一時間半。

首都郊外の中でも比較的有名な地域にて下車、長時間の移動に腰を痛めながらも大きく伸びをすることで誤魔化す。

 

駅出入口を出て思うのは、“都会”という一語のみ。

高い建造物が乱立する様はまさしく都会という他にない。

これが郊外だと? じゃあ夕凪はなんだ!?

はい、もちろん田舎ですね。

 

 

 

「……ここが、黒髪美少女の夜行さんが出るという街か」

 

目的地へと歩きつつ、ネットで聞きかじった情報を呟いてみる。とはいえ年号二つ跨いだ昔話だが。

 

「男ノ“ヤコウ”ナラ、コノ前倒シタナ」

 

半霊体化したイヌガミがすかさず無粋な返しをする。

 

「アレは男というかなんというか……性別不詳?」

 

獣とも人とも呼べない薄気味悪い姿なのでそもそも性別とか判別できなかった。

 

「……しかし、黒髪美少女お姫様なヤコウとなると話は違う。なんとかしてスカウトしたいものだが」

 

「イヤ、ソレ“怪談話”ナノダロウ? 確カ、落城スル城カラ逃ゲタ姫ガ、首ヲ撥ネラレタ馬ト共ニ消エタトカナントカ……望ミ薄ナ経歴ダト思ウノダガ」

 

厳密には、『落城寸前の城に詰めた武士たちがなんとか姫だけでも逃がそうと名馬を与えて放ったものの。馬は敵兵によって首を撥ねられ、出血したまま姫を乗せて消え去った。

――それから百年以上過ぎて、昭和の世になったこの街に、真夜中に彷徨う首無し馬と()()()()()の姿が……』といったような内容である。

 

「ソンナニ、“黒髪美少女”デアルコトガ、重要ナノカ……?」

 

「重要に決まってるだろう。黒髪美少女といえば古き良き大和撫子……しかもモノホンの姫さまなんだから“ガチ大和撫子”だぞ?

……ガチだぞ!?」

 

「我ニ言ワレテモ、ヨク分カランガ……」

 

おっと、我ながら熱くなってしまった。ドン引きするイヌガミを尻目に反省する。仮にも女性の依頼主のもとへ向かうのだからクールに行こう、クールに。

 

「ふむ……よく分かりませんが、黒髪の女子(おなご)であればすでに間に合っているのでは?」

 

俺たちの会話を静観していたウシワカが不思議そうに尋ねてきた。

 

「ああ、チヨメちゃんね。確かに黒髪美少女だけどさ……流石に人妻を少女扱いするのは失礼だろう」

 

「え……? ああ、まあ。“美”少女といえばそうですが……」

 

半分納得、半分不満げな様子のウシワカが歯切れ悪く同意した。

 

「……ウソウソ!! ウシワカも十分過ぎるほどに美少女だから!」

 

「あ、別にそういう反応が欲しいわけじゃないです」

 

渾身の笑みで告げる俺に、ウシワカは極めて冷静な声音で答えた。

ええ……それじゃあいったい、どんな反応を望んでたんだこの狂戦士美少女。

やはり天才の思考回路は複雑怪奇……。

 

 

 

 

 

その後もくだらない話をしつつ数十分。

駅から離れてすっかり“郊外”らしくなってきた風景の中に、メモっておいた住所に該当する家屋を見つけた。

 

「んー……あのマンションかな?」

 

築一桁くらいのピッカピカの新築三階建てマンション。

学生の身分で贅沢な……とか思ったりはしていない。

してないったらしてない。

 

 

『オイ、アノ建物カラ“複数”ノ悪魔ノ気配ガスル』

 

不意に、霊体化したクダから念話が届いた。そのことにも驚くが、なによりも“事前に探知してくれた”ことに驚いた。

俺直属の使い魔として多機能な彼女だが、いつもはめんどくさがってやってくれないのだ。なので基本は俺がCOMPでサーチしている。

 

「……って、複数いるのか?」

 

改めて彼女のくれた情報を理解して、少し焦る。

遠野さんが言っていた“ナイフを持った小さい骸骨のようなお化け”、という表現をそのまま信じるならば相手は十中八九“ジャックリパー”だろう。彼らは時としてジャックフロストやジャックランタンと行動を共にして、毒気を抜かれている場合がある。それでなくとも、単体であるならば取るに足らない雑魚の一種。

そして何より“彼らの娘”だ。ジャックリパー如きにやられるとも思えなかった。

 

 

が。

複数の反応があるというのはいただけない。

たとえ餓鬼だろうと、多対一の状況になった瞬間から一気に死の危険が高まる。兵法の基本たる“数”は偉大、悪魔との戦いでも複数戦闘はシャレにならんのだ。

 

「仕方ない、急ぐぞ」

 

懐に隠した愛銃を握り締めながら一気にマンションへと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

「なんぞ、コレ……」

 

気を引き締めて遠野さんの自宅に突入した俺は、目の前の光景に絶句した。

 

「あ、ええと……こんにちは?」

 

視界には、“ジャックリパー”数匹と戯れる遠野さんの姿。

半数ほどが完全な寛ぎモードで床に座り、半数ほどが遠野さんの傍にちょこんと座り。一匹が彼女の膝の上にいる。

 

結界張って、鍵までこじ開けていざ来てみれば……これである。

 

「遠野さん」

 

「は、はい……」

 

「事情、説明してくださいます?」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

遠野さんの話はこうだ。

 

朝起きたら、ジャックリパーたちが部屋におり、これに驚いた彼女は恐怖のあまり洗面所に引き籠る。

そこで俺に電話が来た。

 

そして俺がのんびり現場に向かっている間に、ジャックリパーたちの冷静な説得を聞き入れた彼女が彼らと話し合い。彼らが部屋にいた理由を聞いた彼女はとりあえず彼らを“保護”することにした。

 

「……で、その事情とやらは?」

 

「ええと……」

 

 

曰く、ジャックリパーたちは()()()()()()()()()()()()()()から逃げており。たまたま、豊富で“穏やかな”MAGを持つ彼女を見つけてひとまず転がり込んだのだとか。

そこでジッと身を潜めていたところ、ようやっと“件のサマナーたち”の気配が消え去ったために活動を開始、その時ちょうど遠野さんが起床してしまい上記の経緯に繋がる、というわけだ。

 

「あと……私に覚えはないんですが、()()()()()()()()()()()()とも言われました」

 

「? そうなのか?」

 

特に遠野さんからそんな力は感知できないために、傍のジャックリパーへと声をかける。

 

「……」

 

しかし、返答はなかった。

 

「おいこら、返事しろ」

 

「……こいつ、サマナーだから話したくない」

 

脅しつけたところ、ボソリとそんなことを遠野さんに告げる。

こ、こいつ……!

 

「お、落ち着いて……! 話なら、私が聞きますから」

 

思わず銃器に手を伸ばしかけたところ、遠野さんが止めに入った。

……ううむ、俺としたことが浅慮に過ぎた。

どうも夜更かしの上に叩き起こされたせいで虫の居所が悪い。

 

「ふぅ……まあ、現状は分かりました。しかし、彼らが追われているとなると、このままというわけにもいきませんね」

 

「はい……そのことも含めて、ご相談したく」

 

まあそうなるな。追われている、とか。サマナーが、とか。いきなり言われても一般人にはちんぷんかんぷんだろう。

……彼女の両親は確かにあのサマナー夫妻だが、先の一件や今回のことを鑑みるに。どうやら娘に悪魔知識を与えていないようだ。

まあ普通の親ならこんな血生臭い世界のことは教えたくないし関わらせたくもないだろうからな。

 

「ん? なら、俺よりもご両親に連絡された方が――」

 

「……やはり、両親は。“こういうの”を知っていたんですね」

 

おっと、口が滑った……さっき考えていたことなのに。

だが、廃病院の件でそれらしいことは聞いていたらしく特に驚いた様子はない。

……ないが、少し思うところがあるような表情。

 

だが、俺は他人の家庭事情に深入りするようた野暮はしない。

冷静に、今の状況への対処法を考えるのみだ。

 

 

 

 

 

 

――その後、遠野さんを仲介してジャックリパーの詳しい事情を聞いてみると。どうやら彼らは“サマナーと悪魔のコンビ”によって襲われたとわかった。

また、襲撃者は彼らを殺すのではなく“喰らって”いることもわかった。

 

つまり、ジャックリパーのみをターゲットにして捕食を繰り返しているということ。

 

喰らう……という行為からして嫌な予感がした俺は、サマナーの詳しい容姿を尋ねた。

すると――

 

 

「袈裟に大きな笠……錫杖を持った藍色の髪の男、ね」

 

案の定、覚えのありすぎる容姿が語られた。

間違いない、彼らを襲ったのは“涅槃台”である。

 

どうやらこれまで度々入ってきていた目撃情報は確かだったらしい。

 

「生きていたか……」

 

いや、確かにあいつは廃寺で跡形もなく消しとばした。この場合は()()()と表現するのが正しいか。

 

いずれにせよ、奴が相手となれば気は抜けない。

 

「……だが、喰ってたのは()()()()なんだな?」

 

「……」

 

「そう、みたいです」

 

ボソボソと遠野さんに耳打ちしたジャックリパーに続けて彼女の口から肯定の言葉が出る。

……いやめんどくさいなこれ。普通に事情説明くらいしてくれてもいいだろうに。

或いは、サマナーに追いかけられたトラウマみたいなのでも出来たのだろうか。悪魔のくせに。

まあいい。

 

続けて、仲魔の方の容姿を聞いて、俺は眉を顰めた。

 

「露出度の高い服を着た男の子? おまけに……その、局部の主張が激しい服装だったのか?」

 

……らしい。

厳密には、ビキニと見紛う極小パンチに“もっこり”が確認できたらしいが……。

 

率直に、変態だと思った。

 

「いやはや、珍妙な服装をした奴がいるもん、だ……」

 

自分で言いつつ、変態チックな衣装をお持ちの仲魔が二名ほどウチにもいたことに気がついてなんとも言えない気持ちになる。

 

……どうなのだろう。もしかしたら英傑の間では痴態に等しい際どいファッションが常識なのかもしれない。

或いは正装?

 

なんて、馬鹿げた考察は置いておいて。

 

「ひとまず、ジャックリパーたちはこちらで引き取りましょう。貴女も学生生活があり、このままでは貴女にも危害が及びかねません」

 

それが妥当な判断だろう。とはいえ、“悪魔”を保護となると協会は頼れないし……とりあえずは自宅に置いとくしかないか。

或いは“囮”にして奴を引き摺り出すという手もあるが――

 

……いや、確かレイランは今“国外”だ。俺だけで涅槃台を相手にするのは少々荷が重い。

ここは大人しくしておくべきか。

 

「うーん、引き取り先……見つかるかなぁ」

 

ずっと置くわけにはいかないから結局、引き取り先も考えねばならない。

 

と。

 

悩む俺の腕をツンツンしてくるジャックリパー。

 

「どした?」

 

「俺たち、お前のとこには行かないからな」

 

ようやくまともに口を聞いてくれたと安堵すると同時に、聞き捨てならない台詞を吐いた。

 

「はぁ? 何言ってんだ、ここにいたら遠野さんの迷惑になるんだぞ?」

 

「嫌だ! 俺は離れない!」

「そうだそうだ! 俺たちは“ママ”のもとにいるだ!」

「ママー!」

 

「ま、ママ!?」

 

口々にママと叫び騒ぎ出すジャックリパーたち。対する遠野さんは困惑した様子でおろおろしている。

……見た目ちっこい骸骨、声は野太い連中にいきなりママとか言われればそりゃあそうなる。

 

「お前らのママじゃねぇよ、ほら、いいから行くぞ」

 

「いーやーだー! 離せむっつり親父!」

 

「誰がむっつりだ!! はっ倒すぞ!!!?」

 

嫌がるジャックリパーの一匹を無理やり手を引いて立ち退かせようとする。

 

「あ、待ってください!」

 

そこへ、何故か遠野さんが止めに入った。

 

「なんです?」

 

「え、と……その子たち、私がどうにかしますから……」

 

同情に駆られた目で彼女はそう言った。

俺は自らの頭を一撫で、彼女の方へ向き直る。

 

「遠野さん、こいつらは悪魔です。悪魔は人間とは違う、奴らは自らが現世に在り続けるために人を喰らってMAGを補充するんです。大前提として悪魔は“人の敵”なんです」

 

「うぅ……」

 

「もちろん、彼らにも友好的な個体は存在します。ですが、それはごく一部、加えて基本的に悪魔は人間よりも強大な力を持っている。そんな相手に同情から入るのはとても危険です。

きちんと等価交換のもとで契約を結ばなければ――」

 

「でも……ヒデオさんも悪魔と仲良くしてらっしゃいますよね?」

 

こんこんと説教を始めたところで、遠野さんは仲魔たちを指差してそう言った。

 

「?」

 

気付いたクダが小首を傾げている。

 

「……ま、まあ、あいつらは長い付き合いですし。信頼関係も築けてるから――」

 

「なら、私も築きます、信頼関係!」

 

「あのね、現状でも貴女はとても危険な――」

 

「これから! 築いていきますから!

それに! この子たち、本当に困ってるみたいなんです。それで私なんかに頼ってきてくれて……だから、私がなんとかしますので!」

 

予想外にも強硬姿勢で来る。

浅はかな判断、安い同情、無知ゆえの楽観……苦言を呈そうと思えば幾らでもできる。

だが。

 

「……」

 

強気でありながら“とても優しい思い”で彼女が言葉を紡いでいるのは理解できた。

圧倒的な“善意”、とても眩しくて直視できない光だ。

……なんか、前にもこんな女性に出会った気がするな。

 

「……はぁ、仕方ない。分かりましたよ、とりあえずここに置いとくのは了承します」

 

「っ、ほんとですか!?」

 

「ただし。ジャックリパーたちの引き取り先が見つかるまでは私も同行します」

 

「え」

 

俺の言葉に嫌そうな声を上げる遠野さん。

 

「いや、別に俺が貴女の大学まで付き添うわけじゃないですよ。うちの仲魔の一人を護衛につけて、その間にこちらで引き取り先を探す形です。もちろん、私も近場で待機してますから安心してください」

 

「あ、そ、そうですよね……すみません」

 

謝られると悲しくなるからやめてくれ。

 

さて、んじゃあ誰を付けるか。

 

「まあ、見た目的にはウシワカが――」

 

「待テ。ソレナラ私ガ請負ウ」

 

ウシワカを呼ぼうとして、クダに遮られた。

……なんで?

 

「私ガ、ヤルト言ッタンダ」

 

硬直する俺に、クダさんは改めてそう告げた。

 

「いやいや、意味は分かったけど。普通に考えて、無理じゃね? その見た目だぜ?」

 

幽霊みたいにひょろ長い青狐だ。

おまけに霊体化していては“攻撃態勢に移れない”。それでは護衛の意味が無いだろう。

 

「フフフ、ソコモ抜カリ無イ」

 

俺の呆れた言葉に、しかしクダは不敵な笑みで返してきた。

そして唐突に目を閉じて、力み始める。

 

いったい何が始まるんです?

 

「ムムムム……変化!」

 

昭和チックな掛け声と共に、ポフン、とコミカルな爆発。

モクモクと立ち込める煙は、純魔術由来なので火災報知器は鳴らない。

 

まさかクダがこんな奇行に走ろうとは……と呆れ百%で考えていた俺の視界に()()()()()()()()が映り込んだ。

 

「あ、あれは……!?」

 

 

ゆっくりと晴れた煙の中から現れたのは、一人の()()

青く艶やかな長髪を持ち、切れ長の目には金色の瞳が輝く。おまけに頭部からは可愛らしい青耳がぴょこりと飛び出している。

そんな、中学生くらいの身長の少女が、そこにいた。

 

「フフフ……私とていつまでも未熟ではないのだ。これぞ“おっきー”師匠と共に鍛え上げた“人化の術”!

驚け、主よ。そして、喜びに打ち震えるがいい。この姿は貴様の好みを凝縮した究・極・体! なのだからな!」

 

腰に手を当てて、幼くもクールな声を上げる少女。

口調からして……いや、普通に考えて、この少女はクダ。

あのクダが、青髪美少女に……

 

「なん……だと?」

 

衝撃と動揺、そして“喜び”に俺は打ち震えた。

 

「その様子を見るに……やはり私の分析は間違っていなかったようだな。この髪、切れ長の目、そしてこの矮躯。どうだろう? ツンデレ口調にした方が萌えるか?」

 

「はい! ぜひ!!!!」

 

思わず叫んでからハッと気付く。

この場には俺とクダ以外の者がいたことに。

 

周りを見れば、当たり前のように皆から白眼視されている。

 

 

 

 

――この後、その場を取り繕うのと平静を保つのに多大な時間を要し。その果てにクダが「主の士気を考えてこの姿を選んだ」と余計なことを言ったせいで結局皆から白い目で見られることになった。

 




【あとがき】
クダさんは怠けがちな主のテンションをあげようと変化の術をマスターしています。
とても優しい仲魔ですね。

ちなみに本人は耳が隠せていないことに気付いていません。
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